Dear night













「入れよ。」




黒を基調としたシックな部屋の先にはダブルベッドがひとつ。
広々としていて、ベッドの側にあるテーブルに飲みかけのミネラルウォーターがある。
ソファーには、さっきまで着ていた上着が掛けられていた。

暖色の照明がやんわりと部屋を包んでいて、そこにたたずむ航河が私を見て笑った。


ゆっくりと両足を交互に前へ出して、航河の前で立ち止まると

私を見つめる航河の視線を意識しすぎて、何をどうすればいいのか分からなくなる。


「そこにずっと立ってるつもりなのか?」

「すっ…座るよ。」


静まり返った部屋の、私のすぐ側で聞こえる航河の声が体中に響いて
バカみたいに緊張してる私は、航河の言葉に従ってソファーに腰掛けてまた固まった。


何なんだろう、この気持ち。
まるで付き合ったばかりの時みたいに、何に対してもドキドキしてしまう。
航河の顔がまともに見れない。


「何か飲むか?」

「ううん、大丈夫…。」

「早かったな、ここに来るの。」

「うん、伊達さんに連絡入れてここで解散だったから。」


『そうか』航河がそう相槌を打って、私の前を横切って窓際へ歩き出す。
閉められた大きなカーテンに手をやると、航河は静かにそれを左右へ開け広げた。


「……、来てみろ。」


優しい声で、優しい表情で、航河が私を手招きする。
今日、初めて名前を呼ばれた…、そんな事を考えながら私はソファーから立ち上がった。





「……きれい。」


壁一面ガラス張りの、そこから見える外の世界に思わずそうこぼしていた。
闇の中に浮かぶ色とりどりの光りが、キラキラと揺れて吸い込まれてしまいそう。


「だろう?お前、こういうの好きだからな。」


こういうの好きだから…この場所を見せたくて呼んでくれた?
優しく私だけを映す瞳がとても綺麗に微笑んでいて、胸が締め付けられる。


「ありがとう、航河。」

「ああ。……なぁ。」

「ん?何?」

「取材の時、疾斗が言ってた事気にしなくていいからな。」

「えっ!?しゅっ取材……の時……?」


「差し入れ持ってこい、とか言ってただろうあのアホ。」

「あ、ああ…、そういえば言ってたね。」


夜景を眺めたまま、そう曖昧な返事を返すと背中に感じた航河の気配が、リアルになった。
立ち尽くす私を航河が強く抱きしめてきて、神経が全て航河を感じるためのものになる。


「他の奴のためにお前が何かする必要ないからな…。」

「…例えば差し入れが青魚だったとしても?」

「そうだ。……意地の悪い奴だな。」


次の瞬間航河の顔が私の首筋へと移動して、唇が当てられて体が跳ね上がった。


「…ふっ…ん…、航河だって…さっき、すごく意地悪だった…。」

「それは、お前が俺を中沢さん、なんて呼ぶからだ。」

「…だっ、だって……仕事だから。」


抱きしめられた腕に解放されたかと思うと、私の腰のラインを航河の手が撫で
何度も往復するその手に震えると、心臓の音がより高鳴る。


「…へぇ。さっきまで仕事してたっていう奴が、…随分感じやすくなってるな。」

「そんな事な…い…。」


抵抗しようと振り向くと、エメラルドの瞳が私を真っ直ぐに見つめていた。
航河の腕がまた強く私の事を締め付けてきて、クスリと笑う航河の唇が額に、頬に、唇に触れてくる。


「…緊張しすぎだ。」

「だって…、なんか…。」

「まぁ、それだけ…期待されてるって事だよな。」


恥ずかしさのあまり俯くと、いつの間にか航河の手が私のジャケットのボタンを外していた。
期待って…もしかして、私が航河をずっと欲しがっているように見えたって事?
そう思うと体中がカーッと熱くなって、どうにかなってしまいそうになる。


「航河…待って、違うっ…私そんな……。」


聞こえないふりをしてシャツのボタンまで外し始める手を押さえても、航河の動きは止められない。
そんなつもりじゃなくても、こんな事されてしまえば私の体は航河の熱を思い出して
おまけに、窓には反射されて映し出される航河と私の姿があって、羞恥を煽られる。

夜景に溶け込んだ航河の姿が、私を見つめているのが分かった。
片方の手がホックを外されたブラジャーの中へと入り込んで私を刺激する。


「やっ…ああっん…こう…が…。」


快感で崩れそうな体を、窓に手をついて何とか支えるけれど
航河はそんな事お構いなしに、もう片方の手をスカートの中へと進入させてきた。

ドクンと胸がなった瞬間ストッキングとショーツを太腿まで下げられて、躊躇うことなく指が中心をなぞった。


すでに溢れるほど濡れたそこが、航河の指が動くごとにいやらしい音を響かせて
恥ずかしさのあまり目を伏せた私の耳元で、航河がフッと息を吐いて笑った気がした。



「…やっぱり、期待してたな。」

「ちっ…ちが…う……んっ…はぁ…。」

「取材で俺の誕生日話した時、俺に抱かれたの…思い出してただろ?」


囁く航河の言葉に反論しようにも、愛撫される指がより激しくなり言葉を紡ぐ事が出来ない。

というか、本当にそうだったから。
きっとどんなに取り繕うとも、私の嘘は全てお見通しだろう。
もう、そんな事よりも、航河の指が理性を掻き乱して滅茶苦茶にする。

どうすれば感じるか、私の体を知り尽くした指が休むことなく動き回って倒れそうだ。


「…航河、んんっ…ちゃん…と……はぁん…。」

「……ちゃんと、どうして欲しい?」


耳元で囁く航河の声に、スイッチが切り替わったように滅茶苦茶になった理性は吹き飛んで
そのまま耳から首筋へと押し付けられた航河の唇を感じて、私は堪らず懇願する。


「…もう、…はぁ…立って…られ…んっ…ない…の…。」

「……どうした?」

「こう…が…の指が…はぁ…ん…。」

「俺の、…指が?」


「ひゃぁ…ダメ…あぁ…やぁ…っ…。」


意地悪く私に言葉を紡がせる航河の指が、強引なくらいの勢いで秘部へと挿し込まれた。
理性が崩れるとともに生まれた虚無感が埋め尽くされ、快感の声を抑えることが出来ない。


、ちゃんと答えろ。…じゃないと、ずっとこのままだぞ。」

「…あぁん…気持ち…はぁ…いい…の…お願い…。」


私の言葉に航河が、また息だけでフッと笑った。
恥ずかしさが込み上げて航河の指を意思とは関係なく締め上げてしまう。
そして、再び航河の甘いささやきが私の耳元で聞こえてくる。


「…いい子、だな。ソファーとベッド…どっちがいい?」

「そっ…そんなの…あぁ…ん。」

「……それとも、このままここで入れるか?」

「…やっ……ベッド…が…んんっ…いい…。」


窓についた手が力なく震えると、航河は私のジャケットをシャツをと一枚ずつ脱がし始めた。

触られた場所全てが名残惜しく痺れて
抵抗できずにいる私のスカートに航河が手をかけるとパタリと静かに床に落ちていく。


ベッドへと寝かされて、履いていた靴も脱がされると、
残されたストッキングとショーツもするりと私の体から離れた。




私の上に覆いかぶさる航河は、私を見つめたままゆっくりと近づいてきて、深い口付けに酔わされる。
舌が絡まるたびに、中心が航河を欲しがって熱く疼いた。

航河に触れたくて、私は航河のシャツのボタンに手を掛ける。
驚いて唇を離し私.を見つめる航河の事なんかお構いなしに、第一、第二ボタンと順に外していく。

恥ずかしくて、でもそれ以上に体が航河を欲して壊れてしまいそうだった。
そんな私を航河はクスリと意地悪く笑って見つめるだけで、私はボタンをひとつ外すたびに羞恥がどうでもよくなってくる。



全てのボタンを外し終えると、航河は静かにシャツを脱ぎ捨ててベルトに手を掛けた。


航河が上半身を起こして、全てを脱ぎ捨てる。
そんな刹那でさえ離れる事がもどかしくて、寂しくて航河の腕へ手を伸ばした。

直接触れる筋肉質な航河の体は熱くて、もっと深く触れ合いたいと欲望はどんどんと溢れてくる。
航河の言うとおり、もしかしたら私は取材をしている時から航河の事を欲していたのかもしれない。



「……航河…お願い、……早く。」


航河に聞こえたのか分からないくらい小さく震える声でそう呟くと
私の両足を広げて割り入って来る航河の体が、反り立つ航河自身が入り口にあてがわれた。

期待に体をくねらせ、息を吐き出すと、熱くて硬い航河が私の中へ押し込まれる。


「ひゃあ…んっ……はぁ…ん……。」


これ以上は無理というくらい、奥まで打ち付けられて全てが溶けてしまいそうになって
引き抜かれる物足りなさも、内壁を擦る航河の熱も、全てが欲しくなる欲望に変わってしまう。


霞みそうな意識の中、瞼を開けると、見えるのは快感に歪む航河の顔。
目が合うと同時に唇をも塞がれて、私の全てが航河のものになる。

繋がった部分から奏でられる水音が部屋中に響き渡る中、航河の艶やかな声が聞こえた。


「……、…っく…すごいな…。」

「こう…がぁ、…はぁ…ん…もっと…して。」

「……もっと?」


繋がる事が嬉しくて、気持ちよすぎて、なのに私の口から出てくるのは貪欲な言葉。
『じゃあ、こういうのは?』そう呟くと、航河は私の両足を肩に担ぎクスリと笑った。

航河の綺麗な笑顔と、綺麗な髪がゆらりと揺れる瞬間、先ほどとは比にならないくらい貫かれる。



「…やぁっ…航河、…はぁん…やっ…こんな……。」

「…っく…もっと…、はぁっ…して…欲しいんだろ?」


見下ろされる事も、吐き出される熱い息も、こんなに嬉しい。
激しく動かされる航河に、無意識のうちに腰を振る自分がいて羞恥さえも快感にしていた。

限界が近くて航河の名前を呼ぶと、中心が航河を締め上げる。

それでも、航河は熱い息をこぼしながら、私を掻き回して攻め立ててくる。



「こう…が…もうだめ…イッ…んんっ。」

「…いいぞ…イケよ。…俺の、中に注ぎ込んでやるっ…っく…。」

「はぁぁん…ああぁっ!」


航河の言葉と同時に体中に電気が走って、私は体を硬直させて頂点に達した。

次の瞬間ドクンドクンと私の中で航河が脈打って、熱い欲望が吐き出されたのを感じる。

担がれた両足を静かに降ろしてくれる航河は、それでも離れる事を許してはくれない。
それが、航河にどんどん溺れていく理由のひとつだなんて、きっと航河は知らない。
大きく息を吐いた航河は再び私に口付けを、幾つもの場所に落としてくれる。


意識がどんどんと遠のいて、闇に襲われる間に航河の声が聞こえた気がする。


「お前は、ずっと俺の側にいればいいんだ。」



返事をしたくても、重い口は動いてくれなくて。

私は心の中で何度も『あなたの側にいる』と誓った。




航河は、仕事で会っても二人きりで会っても

私にとって愛しい存在で

恋人という幸せな響きは隠しようもなくて



当分、航河の取材は差し控えよう。



そう思いながら、私は眠りについた。


無意識のうちに、口元に笑みを浮かべて――。






















あとがき
コッソリと補足
実は航河視点で言うと、カメラマンとちゃんが二人でいた事や疾斗に絡まれる事に
嫉妬してしまい寂しさが募って、こんな事になっちゃいました。
航河は嫉妬を押さえ込んで隠してしまいがちで、分かりにくい
のだけれど!
そこがまたキュンとしてしまうのは、やっぱり恋しちゃってるからでしょうか(´Д`;)
最後まで読んでいただきありがとうございました。

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