正午の熱帯

 

 直視しかねるほどの強さの陽射に向けて、正午と真昼は陰茎を突き出していた。同じ物だと判っていながらどうしても興味は惹かれて、ついじろじろと無遠慮に視線を向けてしまったら、「何だよ、そんな見んなよな」と正午は屈託なく笑って、包皮の先から小便を噴き出させて見せた。

 彼の陰茎から噴き出した尿は白い砂に注がれた瞬間から、しうしうと音を立てて大地に飲まれて行くように見える。真昼は口を開けてその音に耳を傾けた。砂は微かにじわりと黒く湿ったようには見えるが、僅かな水分さえ渇望するようにあっという間に吸い取られ、そして僅かに地表の砂粒を洗う水分は、陽の光で蒸発していく。

「なあ? すげえだろ。真昼も早くしろよ」

 慌てて真昼も、砂に向けて小便を注いだ。やはり同じように、それは水溜りを作る暇さえなくあっという間に消えてしまう。

「昨日さ、やってみたらこうなって、ビックリしたから教えてやろうと思ったんだ」

 白いブリーフを上げて、正午は自慢げに言う。そして、無遠慮な視線を真昼の陰茎に向ける。真昼は身を捩ったが、日向に踏み出す勇気は無く、真ッ赤になって膀胱に溜まっていたものを早く出し切ってしまうことに集中するほか無かった。

 始まりは、地震だったのだそうだ。

 少なくとも正午と真昼は学校でも家庭でもそう習っていた。むかし、大きな地震があった、たくさんの人が死んだ。発電所が爆発して、大きな被害が出た、それはもう、随分むかしのことだ。人々は電気を失い、長らく貧しい時代を凍えて過ごすことを強いられた。学校では「冬の時代」という用語を教わった。

 冬の後には春が来る。

 その後もこの国には多くの地震や災害が襲い掛かり、そのたびあちこちで発電所の爆発が置き、激甚被害が発生した。何より人々が困惑したのは、当たり前の日常生活を送ることさえままならぬ電力不足である。夜とは即ち漆黒の暗闇であり、僅かに灯る火の揺らめきだけが人々を支えた。しかしその火によって度々火災が発生したのもその頃である。

 代替エネルギーとして白羽の矢を立てられたのが、太陽だった。太陽光発電の普及には長い時間が必要だったが、各国の協力のもと、それは実現された。無尽蔵に降り注ぐ陽光は人々に再び明るい恵みを齎すに至り、これ以後の時間を「春の時代」と呼ぶ事を、正午も真昼も良く知っている。

 正午と真昼は、まさしく春の時代の子供だった。降り注ぐ太陽を誰もが敬愛の念を持って見上げ、徐々に活気と潤いを取り戻し行く時代に生まれた子供らは、こぞって太陽に因んだ名前を授かった。二人の同級生にも、陽輔、陽一、光、温人、朝日……、そういう名前の子供らばかりだ。

 春の後には夏が来る。

 彼らがいま生きる時間が、やがて「夏の時代」と呼ばれるときが来ることを、太陽の子らである二人ももう判っていた。そして、其れが酷く間抜けな成り行きだということも判っていた。ただ大人たちはそれを恐れて、いまだ長い春の途上にあると信じたいがためにその言葉を使わない。既に梅雨だって明けてしまった後だと言うのに。

 二人は白いパンツ一枚だけを身に付けた格好で、防空壕の中に居た。

「日向、何度くらいあるのかなあ」

 真昼の言葉に、正午は脱ぎ散らかしたズボンのポケットから小型端末を取り出して、「わかんねえけど、この洞窟の中で四十二度あるな」と顔を顰める。

「じゃあ五十度くらいはあるってことか」

 じっとしていても汗が噴き出してくるが、それでも日向よりはまだましだ。本当はこの時間に外に出ては行けないと親にもきつく言われている。どんなに身体がだるくなろうと、凄まじい冷風を吹いて散らかしまわすクーラーの効いた部屋の方が安全だからと。しかしせっかくの夏休みをそんな風に潰してしまうことは不可能だ。「面白い場所見つけたんだ、あそこなら暑くないし、遊べるとこもあるし」と正午に誘われて一学期の終業式の後に行って以来、何度親に叱られても真昼は此処へ来たくなった。

「でもさあ、これ、じいちゃんが言ってたんだけど、昔はもっと過ごしやすかったんだって」

「ぼくも聴いたことある。でも、あんまり外に遊びに行ったりしなかったんだってね」

「外の方が愉しいじゃんか、なあ?」

 うん、と真昼は素直に頷いた。家の中に居たってつまらない。此処は防空壕だが、家のほうがよっぽど防空壕のようだし、そのくせ家の中では苛付いてしまって、自ら戦火をばら撒くような真似をしてしまう。それだったら、ここで正午と二人で遊んでいた方がずっと平和というものだ。

「のど渇いたね」

 手で顔を仰ぎながら、真昼は言った。正午は「こっち」と狭い壕の奥へと裸足のまま歩を進めた。中和剤の匂いが鼻を衝く。暗がりを「真昼」伸ばされた手を頼って更に歩いていくと、どこかから細い水音が聴こえてきた。間もなく、裸足の指先が湿った岩に滑りそうになる。

「大丈夫か?」

「うん……、これ……?」

 岩の壁から滲み出すように細い流れが生じていることが、真昼の眼にも確認できた。

「飲めるの? 湧き水?」

「わかんね。けど、こないだ見つけてさ、飲んだけど、腹下さなかったから大丈夫だろ」

「……この上、むかし、発電所があったんだよね?」

「怖いのか?」

 正午は小さく笑う。からかうような口調だが、決して傷など負わせまいという優しさを、真昼は感じた。

「でも、どうせさ、おれら、しょうがないじゃん、男だから」

 暗がりで、正午はほんの少し寂しげに呟く。喉が少し痛くなったような気になって、うん、と頷いたとき、渇いた喉を潤すための水ならこれで十分上等だという、やけくその勇気のようなものを真昼は覚えた。そうだ、しょうがないんだ……。

 「夏の時代」の到来の前には、戦争があった。

 その戦争は世界各地に幾発ものミサイルの爪痕を残しはしたものの、短期間で収束した。

 そのあと、濃厚な雨がやってきた。

 ある期間、太陽が雲で隠され、強い強い雨が降り続いたのだ。水害も多発した。正午は洪水で妹を喪ったし、真昼は家族全員無事だったとはいえ、家を流された。この世の全てを水没させるような、恐ろしい豪雨だった。

 雨が止み、地上を再び太陽の恵みが降りてきたかと思えば、蒸発する雨水は再び雲と変わり、幾度も幾度も地上を襲った。太陽光エネルギーへの依存度は限りなく高かったから、地上の人々があの冬の訪れに怯えるのも無理からぬことだった。

 ことに都合が悪かったのは、降り続く雨の持つ液性だった。これは間もなく判ったことである。

 先の戦争で各国が用いたミサイルを、正午や真昼は「アンモニアミサイル」と習ったが、正確には水酸化物イオンを爆発的に撒き散らすタイプの弾頭を備えた爆弾である。つまりは、強度のアルカリ。

 戦いの火の手は止んでも、土壌も海洋も多量のアルカリを蓄え、浮揚した雲は強アルカリの雨を齎した。浴びればすぐさま皮膚が鹸化するような毒の雨、「石鹸の雨」などと二人は俗称している。

 生まれてくる赤子が男ばかりというのはここ数年の世界的な傾向である。女が過剰に保護され、男は塩の焦土をうろつくという現状は必然と言えた。正午と真昼が通う学校も、教員から児童に至るまで全て男だが、これは少しも珍しいことではない。間もなくやって来る大幅な人口減時代を回避するべく、アルカリを浴びていない男の精液は掻き集められ、正午や真昼のように日常的に塩の上にある者たちは、恐らく今後もずっと、いまとほとんど変わらぬ日々を送ることとなる。

 喉を鳴らして、二人は湧き水を呑んだ。さほども冷たくは無かったが、それでも真昼の唇からは思わず「おいしい……」と呟きが漏れた。

 この防空壕から、灼熱の日向を抜けてすぐの所には小さな池がある。もちろん、一匹の魚も棲んでいないし、水を口に含めば顔を顰めたくなるくらい塩っぱいのだが、それでも泳ぐという行為には抗いようのない魅力が在った。「池で泳いだ」などと知られれば親や教師にどれだけ叱られるか判ったものではないから、水着は持って行かない。二人だけしか居ないのだから、裸で居たって別に恥ずかしくも何ともないと真昼は思っていた。

 でも、このところ少し、恥ずかしい。

 正午が同性愛者だということを、知ってしまったからだ。

 女が見渡す限り一人も居ないという状況に在って、少し考えを巡らせれば同性を愛せばいいという結論に至ることは自然と言えた。一昨日、岸辺でパンツを脱いで泳いだ後、少しぬるつく身体を乾かしていたら、正午は急に「真昼のちんちん、よく見せてよ」と言ってきた。まだそのときの真昼は警戒心も無く、少し訝っただけで「いいよ」と答えた。そうしたら、咥えられてしまった、それだけだ。

 振り返ってみるといまに至るまで、結局警戒心を抱く暇もないまま至ってしまった真昼である。正午がしてくれることはとても気持ちいいし、正午とはずっと一緒に遊んできて、いい子だということは判っている。だから、これでもいいのかな、という気もするのだ。どうせ女なんてこの世には居ないのだし。

「真昼」

 暗がりで、正午の手が頬に触れた。不意のことだったから、思わず小さく声を上げたら、「ごめん」と慌てたように正午が謝る。その謝り方が臆病で、何だか心底から自分を傷つけるのを恐れたように聴こえて、真昼は噴き出した。

「え? 何で笑うんだよ」

 真昼は答えず、「明るいとこ、行こう」と先に立って歩き始めた。壕の入口に近付くほど、はっきり膚が熱さを感じる。

 じっとしているときに膚に浮かぶ汗は鬱陶しいばかりなのに、遊んで動いて噴き出す汗は全く不快ではない。そして誰かの汗を浴びることは、普段なら気持ち悪いことであるはずなのに、興奮すると其れが妙に心地良く思えるのだと真昼は昨日学んだ。

 昼の十一時から二時の間、屋外活動の自粛が呼びかけられている。

 あの豪雨の後、まるで空は雨を降らせることに飽きてしまったかのように、からからの気候が続いている。

 真昼の父親はこう話してくれた。

「おまえやわたしが生まれるより、ずっとずっとむかしには、原子力エネルギーを用いて電力を生み出していた。その前には火、もちろん水や風も使ったし、当時から太陽の光をエネルギーとして使う考え方はあった。もちろんいまほど普及しては居なかったけれど。

 しかし、原子力エネルギーが衰退した直後は、他のエネルギーで補うことが難しかったのだ。われわれはいま、そのことを考えなければいけない時期に来ている。あのような長雨が今後またいつ襲ってくるか判らないのだから。

 太陽は所詮、外にあるものだ。空のずっとずっと向こう。だからそれだけ、頼りないと言うことも出来る。だからこそずっと身近にあるものに目を向けて、其処からエネルギーを抽出することを考えるべきなのだ」

 真昼には想像も出来なかったが、父親は「この大地から、発電のためのエネルギーを抽出すればいいのだ」と言った。それが上手く行ったなら、きっとぼくらのように、「大地」とか「土彦」とか「雅土」とか、そういう名前の男の子がいっぱい生まれるんだろうな……、真昼が考えたのはそんなことだ。

 大人たちは既に終わった春の時代を取り戻し永遠に続けていくことこそ理想と考えている、それぐらい、正午にも真昼にも判っていた。馬鹿らしいよな、正午は毒っぽく笑った。「だってさ、何で雨降んなくなっちゃったんだと思う? あの雨をさ、止ませるために、いじったんだよ」「何を?」「気圧。おれ、よく判んないけどさ、うちのおやじが言ってた。空に、水素っつってたかな、水素じゃねえな、でも何か軽い空気の爆弾を何発も撃って、気圧を上げて。そしたら雨は止んだけど、もうほとんど降ってこなくなっちまってさ」住み良い環境を保持するための大気に必要な因子を自らの手でぼろぼろに掻き壊して、この熱帯が訪れた。空には太陽、足元には地球、手に負えないほどの無限のエネルギー。

「さっき、思ったんだけどさ」

 真昼の身体に覆い被さるように乗って、額に頬に唇を当てながら、正午は言う。「真昼のちんちん、真っ白だったな。泳ぐとき、そこだけ隠れてるから」

「正午のだって真っ白だったよ」

「うん、おそろいだな。だけどちょっと違う」

 そう笑って、正午は汗で湿った自分の下着を脱ぎ捨てた。暗がりと呼ぶには明るい空間で、綺麗な日焼け跡が彼の下半身を彩っている。

「真昼も脱げよ」

 促されるまま、真昼も下着を脱ぎ捨てた。正午に再び覆い被されて、汗塗れの身体がぬるりと滑るたび、何とも形容し難い興奮が真昼の中から次々に生まれて泡となり弾けた。正午の方が少し身体は大きくて、だから重たいはずなのに、その胸苦しさが却って面白い気がする。「正午」真昼が勃起した性器を正午の性器に擦り付けて強請ったら、「じゃあ、おまえ上になれ」と同じように興奮して焦ったような声で言う。

「違うよな、やっぱり」

 真昼に顔を跨がせた正午の指が、日向と日陰の境目を指で散々辿った末に、右手で真昼の勃起した性器をなぞった。

「うん、違うね」

 正午の性器をいじりながら、真昼は言う。あの、口でするやつ、気持ちよかった。そんなことを思い出しながら、それでもまだ少し、抵抗がある。其れの先端からは汗と尿の匂いがした。

「おれは、おまえのちんちんの方が可愛くって好きだな」

 正午の舌が陰嚢を舐めて、「やっぱり、塩っぱいや」と笑ったから、躊躇いは棄てる。

 同性の性器を咥えることの異常さは、頭では理解して居るのだ。実際に正午とこういうことをする瞬間までは、自分はそうはなるまいと思っていた。いつかはお父さんのように、お嫁さんを見付けて、結ばれるべき誰かと結ばれるのだと。

 そういう物思いはきっと希望と呼ばれる。

 何処から滲み出したものかも判らないあの温い湧き水を、手で掬って呑むような人間の考えではない。

「おまえは、すんの、嫌か?」

 真昼の性器を口に運びかけて、正午が案じるように訊いて、慌てて付け加える。「嫌なら、いいぞ、……おれは、別に」

「正午は、ぼくのちんちん、臭くないの?」

「うん、別に」

「ほんとに? さっき、おしっこしたよ? 汗だっていっぱいかいたし、汚い」

 自分の言葉にどう返そうか考えを巡らせている正午の顔を股下に覗いていたら、正午は何も答えないまま一口に真昼の細い性器を咥えこんだ。柔らかい舌は言葉を紡ぐよりも上手に真昼に答えていた。

「そっか」

 真昼も同じようにした。その匂いも味も、どうせ正午の身体から出たものなのだ。

 正午の性器が舌の上で時折ぴくりと震えるのが愉快だった。正午が震わせるから、自分も真似して正午の口の中で震わせる。繰り返しているうちに、真昼の震えを先に模倣出来なくなったのは正午のほうだ。「正午?」と問うた顔に、ほとんど濁っていない、薄い精液が飛び散った。「ごめん」と息を弾ませて言った顔に、真昼は自らの手で、透き通った精液を撒き散らした。

 どうやら、ぼくらは長生きできないらしい。

 誰もはっきりとは口にしないが、真昼は周知の事実として其れを理解していた。正午に言ってみたら、彼は何故今更そんなことを言うのだと、そちらの方に驚いたように目を丸くして、「うん」とだけ答えた、昨日のことだ。正午にしろ真昼にしろ、その生殖の機能はほとんど死んでいる。これが凄まじい日光の力によるものか、石鹸の雨によるものか、それとも何か別の原因があるのかは、真昼には判らなかったが、仮に女が居たとしても子を孕ませることは不可能だろう。

 こういう肉体が長く生きることに意味はない。自然と淘汰されていくだけの存在だ。

 「昨日と同じ事しよう」と正午の身体から降り、真昼は収まらない熱に任せて右手を動かしながら正午が同じように右手を動かすのを息を弾ませながら見詰めていた。

「おまえ、昨日の、あれ、好きなの?」

「いまのも、好きだよ」

 二人とも、相手の精液が汗と混じってつうと伝う顔を晒している。正午が切ないような顔をしてキスをして来ても、真昼は少しも嫌な気はしなかった。真昼の長く伸びた髪を何度も何度も大事そうに撫ぜながら、舌を突っ込んできた。ついさっきまで自分の性器を咥えていたものだと知りながらも、それに返す。律儀さは清潔感と共に必要ないように思われたし、正午の舌は甘塩っぱくて美味しかったから。

 先に、真昼が自らの身体に透き通った精液を散らす。少し遅れて、……いい子いい子をするように髪を撫ぜてくれながら、正午も射精した。

 よく焦げた真昼の膚の上を、二人の精液が薄い粘性を帯びて流れ、真昼の臍に溜まった。

 昨日、初めて見たばかりのこの景色に、真昼は何だか執着する。

「このまんまさ、……これが」

 口を開けて、正午も真昼の臍に溜まった精液を見詰めている。

「ぼくの、お腹ん中に入ってさ、赤ん坊出来たら便利だよね。そしたらもう、何も要らなくなるじゃない、世の中。もしこのまんま、雨が降らなくってもさ」

 それは多分、楽観的に過ぎる。けれど正午はただゆっくりと微笑んで、「そうだなあ」と頷いた。

 無駄遣いのためだけに、二人にとって精液はあった、ただ快感のためだけに。

 きっと希望なんてものは要らないのだ。透き通っていて、それでも尿とは違う独特の青臭さを伴う液体を二人で遣り取りしあう、そういう行為に暗い悦びを覚えながら、生存することに執着はしない。真昼には、正午とこうして遊ぶ時間が死滅へのカウントダウンの間中ずっと続いたら幸せだろうと想像することが容易に出来た。

「少し、涼しくなったかな」

 更に二度、射精をした。二人は髪がずぶ濡れになるほど汗をかいた。正午が「のど渇いた」と言ったから、ふざけてその顔目掛けて真昼が放尿したら、怒るかと思ったのに正午はけらけら笑いながら一口二口と其れを呑んで、何か悟ったように、

「なるほどなあ……」

 と呟く。なあに、と首を傾げた真昼に、正午はにやりと笑みを浮かべる。

「おれは真昼が居れば生きていけるんだって思った。喉渇いたら、おまえのしょんべん呑めばいいんだもんな?」

「お腹が減ったらうんこ食うとか言わないでよ?」

「ああ、それはさすがにやだな、おれでも」

 笑顔を見合わせて、くったりと力を喪った互いの性器を見比べて「泳ぎに行くか」と正午が立ち上がる。

「うん、汗だくだし」

 夏休みはまだ始まったばかりだ。

「正午、パンツ穿かないの?」

「どうせ誰も来ねえよ。それに、いま穿いたらパンツまでベタベタになっちまうだろ」

 それもそうか、と真昼は足を通しかけたブリーフを蹴り放って、砂の上を熱い熱いと跳ねながら小走りで池に向かう正午の背中を追った。一歩日向に出るだけで、くらくらするような陽射が膚に刺さる。

 外に出るときは暑くても我慢して帽子を被りましょう、長袖のシャツと長ズボンを穿いて、出来るだけ膚を露出させないように。

 大人たちは口を揃えて言う。しかしそんなことをしたって、どのみち死ぬのだ、そう遠くない未来、ひょっとしたら、この夏休みが終わる日よりももっと早く。

 正午が駆け込んだ塩の池に、真昼も飛び込んだ。既に人ではない形の身体をした雄の生き物が上げる、無邪気な嬌声は何処にも響くことなく、砂埃交じりの風に溶けた。


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