Nausea.

 領域を荒げて狂おしい程に加速し、増殖する憎悪は虚空を虐げ、全ての女を堕胎さす、キープ・ロッキン、俺らViva la PARTENAIRE LOVERS、最高のパートナーシップ。

 おぞましい量の苛立ちに呼ばれて増えるプロスタグランジン、どこまでも心は狭くなって「俺には今の俺のこの価値観と其れを是認する存在だけ在ればいいのだ」と。俺の価値は、俺の美しく映る角度も、俺と、俺の恋人だけが、知ってればいい、俺の声だって俺の膚の味だって同じように。此れはシンプルに遠吠えだ、しかし俺はまだ、まだ、どれほど時間が経ったとしたって負けていない、負けることは無い、多数決で俺ら二人で反対して、勝った勝ったと喜んで居る。俺ら自身がこの姿勢に問題を感じていないのだから、きっと永遠にこのままで。ゆりかご。

 同時に俺は何処にでも居る一人の馬鹿な男だ。性格が悪いだけの。

 

 

 

 

 交尾のイメージ、其れは俺にとって最高の「理由」になる、コーヒーカップを割る理由、椅子をひっくり返す理由、今傍に居る失いたくない人のことを深刻なレベルで傷つける理由に。スイッチはどんなことをきっかけにしたって入る、恐らく暴れる瞬間を待っている、怒る理由を探している、普段は穏やかにありたいと出来るだけ遠ざけているものを、ふと求める不条理の瞬間は確かに在るのだ。もちろん俺は男性器が美味しくて直腸で精液を飲むのが大好きな、恋人一人しか居なくても多分淫乱ビッチ、「君が好きだよ」と一言くれる人が居るからこそそんな自分でいいのだが、ふと見上げたときに、自分を見下ろす「美しい顔した」自分が「哀れんだような目で」同性愛者の俺を「見る」、その視線に気づいた瞬間に、俺の両肺にはぐつぐつと血が滲んで、酷く鉄臭い息を嗅いだらもう、俺は憎悪が喉元まで溢れてしまって、すごく、これは、モンスター、迷惑なモンスター。

「僕の愛する人に、僕の愛する綺麗な人に、不快な思いをさせたね」

 そしてあんたもモンスター、悲鳴を巻き取りながら笑って、「万死に値する」、そう俺を悲しませたこと、俺の傷を抉り出したこと、其れが罪、君の手を汚させはしないと言う、だから彼が下すのが罰、穏やかな笑顔で、だけど、心底からの憎悪によって打ち下ろす鉄槌致死武器地獄行き。

 ああ、ああ、ああ、と俺は雨に打たれて天を仰ぐ、どうして、……どうして今も止まない。しかし遠く、勇者は陽光の下で女を抱く、「美しい横顔で」、「逞しい裸で」、だ。「ああ……」、俺は両手で顔を覆う、雨は指の隙間から這い入りこんで俺の目を溺れさせた。過ぎた扉の向こうに引き返して時計の針を逆にぐるぐるぐるぐる回して胎児の域で、俺は俺を殺してやりたい気にさえなるのだ。呪われて在るこの身体、女を抱いたこの身体、穢れてしまったこの身体、抱かれても抱かれても抱かれても抱かれても抱かれても抱かれても抱かれても尚消えない。俺の奥の奥の奥、喉元まで満たされても尚。

 軽い眩暈に俺はしゃがみこみ、ずぶぬれの全身を未だ叩き続ける雨に、口を開ける、呪詛はまだ、幾らでも発することが出来そうだった。

 

 

 

 

 今日の俺は少しナーヴァス、悪意を持って明日を待つ。理不尽に狂うまるでサーカス、七色の影を背負って朝を待つ、

 喉を焼く延髄の反射が、不愉快だ。


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