一緒にいて楽しいから一緒にいるのだ。
特別なことは必要ない。「誓う」と言わなければ一緒にいるのが不自然なように思いがちでも、よりシンプルに考えていい。恋人と共に在ることが何故ハッピーか、心身体の中から楽だからだ。醜いところの隠せないあんたも俺も人間ならば、無精髭面下げて「おはよう」でも斯様に通う心火曜の朝。ある程度まではもちろん工夫する、相手に迷惑かけないように、快く、いてくれるように努力もする。しかし「おはよう」から「おやすみ」まで、あるいは「おやすみ」から「おはよう」までの間に、心の負担のないように、苦しみなくできることは何だってする。
楽をしようとして、それが叶うとき、足が伸びて、こんなにも幸せ。嬉しいからこそ、こんな風に平坦なる毎日をどうだと胸張って描写する。
怠惰になってきたのかもしれないと危惧する。最近運動以外のシーンで心拍数が上がることは極端に少なくなってきた。朝は飯作り、午前は洗濯、昼飯を食い、午後は昼寝、帰ってくるのを待ち遠しく思いながら買い物。帰ってきたらどんな話しよう。どんな顔を見せてもらおう。
美味しいご飯を作るのは、恋人のため。「美味しいよ」って笑ってくれる、それ見て俺も嬉しくなる。美味しいご飯を作るのは、ひょっとしたらば、俺のため?今日はお酒飲む?いや今日はいいよ。
アルコールは嗜む程度でも、煙草は吸う。スーパー行って帰ってくる、その往復に一本ずつ吸う。奥さん連には白い目で見られる。どうせあんたらと絡まん気にせんと思いつつも、肩身の狭い思いは強いられる。会社の夫も同じ目に遭っているだろうことは想像に難くない。だから、うちでは存分に吸って下さい、壁紙真っ黄にして下さい。
俺から安心をあんたに、あんたから安心を俺に。与え、与えられ、奇怪な幻想溢れる社会から扉を閉めて鍵をかけることで守ってくれる。
俺が恋人が犯した罪ともいえないような罪にも、異様な几帳面さで罰をと牙剥く倫理観からも。
「今日もごちそうさまでした」
「うん」
ここは幸福生まれる場所。
誰に憚ることなく抱き締め、そこでスイッチを入れようか、次まで待とうか思案する。それより一先ず一緒にお風呂?食休み、ソファで身を重ねあって、一本の煙草をかわるがわる吸う。相互い辛い思い味わい、痛いことも分かり合う。だからこの天の下、共に屋根の下。
煙草は灰皿に押し付けて、ちゃんと消して、大の男二人が重なって乗っかって、いつもご苦労ソファ様。
「……ヴィンセント……」
美形はすぐ飽きるって言うなら、残念なことに我が伴侶は美形とは言えないのかもしれない。おかしいなあ、長い睫毛に二重瞼、血の透ける目、通った鼻筋。でもよく見ると、当たり前だけど顔は左右非対称。でもやっぱり、
「綺麗だな……」
照れ臭そうな笑顔を見せて、照れ隠しに抱いてくれた。
「ありがと」
くすぐったい。恋人の声が、耳から入って俺の胸と直腸を、ぐしゅぐしゅとくすぐって、体中に行き渡る。ああ、はあ、溜め息が熱くなっているのに気付いた。風呂の支度はした、ああ、これで、困ったな、一緒に風呂入る、服を脱ぐ、その段階でもうぎんぎん。
今更言わなくてもいい、言わなくても伝わっている、判っていても、まだ言う、何度だって、また言う。
「好きだ」
性欲と睡眠欲がいっせーのせでやってくる。いいよそのまま寝ちゃっても。でもそしたらセックス出来ない。起きてからしようよ。我慢なんか要らないよ。
本当に十五分寝て、体力充填気合充実、以後さあ盛り上がる夜にしよう。休みでよかったね、どうしよう明日土曜。
「外行こうか」
前髪を上げて、多分服の皺がそのまま跡になって刻みついた頬に指を当てた。
「外?」
「外で。……海の近くで、またしようか」
ああ、それもいいなって気になる。近隣の若者による小さな花火の名残の匂いをかぎながら、砂を掴んで握って離して、風情在るな、この季節ならではじゃない。
「でも、今夜はここがいいな」
言うと、へえ、意外そうな高い声で、「露出狂はお休み?」、あんたの裸を誰にも見せたくないだけだよと笑って、もう、キスをした。風呂の中でたくさんしよう、たくさん、たくさん。そんでもって裸のまま部屋行って、夜を水飴のように長く長く伸ばそう。
あんたが俺にどんなことしたって許してあげる、そのかわり俺がどんな無様な声を上げても、笑って「可愛い」って言ってね?もっと楽したい今後も共にずっと暮らしたい元々この家に髄まで染まってるって、そんな気にさせんだ、なぜかなれんだ、離れんな、共に在り世界平和だとかでっかい、明日天気になれ小っさい、でも何もかんも共に見る夢、叶えんだ。