氷の魔神シヴァは美しい女性の姿を借りて降臨する。魔神の吹雪は大気を凍てつかせ、標的の血液すらも瞬時に凍らせ、絶命させる。彼女の指が乱舞したとき、空気中の水分が凍り付き宝石の破片のように煌くから、「ダイヤモンドダスト」と呼ばれるようになった。
凍死体は美しいと言われる。神経が麻痺するため痛みも感じず、眠るように死んでいくため、死に顔も安らかであるからだ。
炎もまた美を創り出す。陶芸の美など、炎の力なくしては有り得ぬものだ。
しかし、氷の美もまた格別なものがある。霧氷や樹氷の創り出す美は一種異様で、別界の物の如くである。氷の創り出す美には色が無い。しかし白、透明という、究極な色、光の果てが、越えようも無い美を演出しているのだ。
「寒いねえ」
「帰ろう」
「寒いなあ、けど空気がすごく綺麗、澄んでる感じするね」
「帰ろう」
「息も真っ白、ふわあってなるね」
「帰ろう」
昼間に降り積もった雪も夕刻には止み、上空には月の灯かりが覗ける。足元に広がる白い反射性の絨毯のお陰で、午後十時を回っているということを忘れる明るさである。
ラムザは夜になればなるほどテンションが上がってゆく。それは他でもなく、夜とは彼の中の「夜」の蠢く刻であり、昼日中でも交わるのに不都合はないが、いよいよ本領発揮という時間帯にあたるからだ。酷寒の中、渋るディリータを引っ張り家の人間の目を盗んで出て来た理由は、お察しの通り一つしかない。
「だらしないなあ。駄目だよそんなんじゃ。強い騎士にはなれないよ」
「帰ろうよう……」
「駄目。だいじょぶだよ、動いてればすぐ温かくなるよ」
「去年同じ事やって凍死しかけたのを忘れたのか」
「覚えてるよちゃんと。あのときみたいなムチャはしないよ、大丈夫。服着たまんまでも出来るでしょ? それとも、やっぱり全部脱いだ方がいい?」
「そりゃ、ってそうじゃない。どうせまた風邪ひくんだ、やりたいならベッドの上ででも出来るだろう」
「でもさ、やっぱり開放感があるじゃない? 誰かに見られるかも知れないドキドキもイイと思う。ディリータだって思うでしょ?」
「思、うよ、そりゃ、ああ、確かにな」
ラムザは外での行為となると、一段と燃え上がる。露出狂の素質があるのだろう、いや、その才能は既に開花しているかもしれない。自分の裸体、というよりは、格好良い恋人と自分の絡み合う姿を、絶対に美しいものと信じているからだ。その思想自体をとやかく言おうとは思っていないディリータである。確かにラムザという、甘く美しい恋人がいると言う事は、仮に相手が同性であっても誇らしい事なのであって、理解してくれる人にならば自慢したいという気持ちもある。
しかし、やはりベオルブ家における彼の立場というものを最優先に考えた場合、あまり曝け出してばかりもいられないのが実際の所だ。毎度のように、自分より背の小さいラムザに振り回される自分の恋心を、少し引き締めなければ成るまいと思ってはいるのだが。
「大好きだよ、ディリータ。ほんとうに大好き」
背伸びをしての接吻や、いっぱいに伸ばされた腕が背中にかける力感、髪や口から届く密やかな香り、そういったそれぞれが、また弛緩させてゆく。すぐに反応して、小さな背中を優しい力で抱きしめ返した。ラムザはさらに強く、ディリータを抱きしめる。あったかいね、吐息でそう喋る、ふわりと白く広がった言葉は、甘い紅茶の香りがした。
これを幸福と呼ばずして。
内に秘めた興奮のせいか、ラムザの体温がはっきりと温かく感じられる。安堵感と眠気を同時に誘われる。いけない、こんな処で寝たら死ぬ。死なないまでも、ラムザに嫌われてしまうかもしれない。しかし、ほんわかと温かい体に、あくびをしそうになる。いいや、してしまおう、そしてお前の身体が俺に温かいんだと言おうそうすればきっと解かって。
体温が離れた。
「どうした?」
「ディリータ、一緒にこっち」
ああ、いよいよ始めるのだな。もちろん、抱き合った時からどころか、誘われた時から、いや、彼に最初に「好き」と言われた問いから、観念していたディリータだったが。
街の外れの木造倉庫の裏へ回る。ここからは先日も愛し合った雪の原がすぐそこにあるのだ。
「ちょっと待ってて、これ持ってて」
ラムザは白いコートを脱いで、それから手袋もディリータに預けた。それからズボンのチャックを下ろして、大人しく垂れ下がるものを取り出した。
「って、おい」
「見てもいいよ」
「こんなところで」
「だって、寒いからしたくなっちゃったんだもん、おもらしするわけにいかないし。平気だよ、君以外誰も見てないし」
「でも、って、ああ」
言うのも聞かず、小さなペニスの先から噴き出した尿が、濛々とした湯気を上げて雪を溶かしていく。ディリータは、今更目を逸らすような立場でも無いがやはり一応、背を向けた。ラムザはちらりとディリータを見やり、内心で少しつまらなく思うのだった。
水音が止んで、ディリータは振り返る。射精したときのようにぶるりと震えて、ラムザが肩越しに振り返った。その目の純真なこと。
「早く仕舞えよ、霜焼けになるぞ」
「赤くなっちゃう?」
「それだけじゃない、痒くなる」
「んー、じゃあ」
くるり、と身体ごと向き直る。
「ディリータ、舐めて温かくしてよ」
「せめてその滴を払ってから言ってくれないか」
「僕の嫌?」
「俺が嫌と言うんではなくて、その、エチケットとしてだな」
「気にしないでいいよ」
「少しは気にしろ」
「ね、霜焼けになっちゃったら困るから、ディリータ」
ディリータは眉間を抑えた。こんなポーズを取っても伝わらないし、寧ろそれが自分たちの自然ではある。
ラムザのだから、こうすることが出来るのだ、そう出来ることはとても、幸せなことなのだ。ディリータは雪の足元に膝を突いて、まだ脆弱な印象しか与えない包皮の上から、口に含んだ。
まるで赤ん坊の指を舐めているような柔らかく滑らかな舌触り、少し遅れて、口の中に微かな塩の味が零れて広がった。きっと今の、ラムザのおしっこだ、そう思ったら、ラムザの身体がふるりと震えた。そうしてそれを境に、口腔の中でラムザの陽物がすくすくと育ちはじめた。ディリータは一旦口を離して、ラムザの唇に押し当てた、まだ舌には塩の味が残っていたが。
一度口が離れてから、ラムザはちっとも懲りた様子もなく、
「最初から、飲んでもらえばよかったかな、ディリータに」
「飲ませてどうするんだ」
「僕、ディリータの飲めるよ? 愛してるから」
「そう」
俺も同じ、全く同じ。だけど、素直にそうだと言う勇気を持ち合わせていないのだ。君の全てを、愛している。たったそれだけのことだ。
「ディリータ、さむいよ、続き」
ラムザは黙考するディリータに請いつつ、既に右手で唾液でまだらに濡れた淫らな茎をにちゃにちゃと動かしていた。白いセーターに白いスラックス、グレーのマフラー、冬の服に身を包みながらも、隠れていない一部分が妖艶に光って見える。ディリータも不意に、自らの茎をひくりと動かした。
抱き寄せて、湿った性器を手で包み込む。ラムザが小さく悲鳴を上げた。
「んや、ちくちくするよぉ」
恋人の首に腕を絡ませて、非難めいた声をあげながらも腰を揺らめかせる。
「直接がいい」
「そう? もっと気持ちいいのが欲しいんだ?」
「うん、指でも、口でも、直接してくれたら、もういきそう」
ディリータは手袋を外して、ラムザの身体を反転させ、後ろから左手で抱きしめ、右手の指で悪戯っぽくペニスを弄る。乾いた指はいつのまにか熱くなっている。尿道口から溢れた蜜を指先に絡み付けて小さな水音を立ててみたり、包皮の上から輪郭をエロティックに映し出す亀頭の膨らみの辺りを親指と人差し指で挿んでくりくりと動かしてみたり。ひねくりまわし指遊びをする。飽きる事はない。同時進行でひんやりと冷たく赤い耳に熱い息を吐き掛け、唇と舌で温める。
「ディリ、しごいて」
「いきそうなのか?」
「うん、いきそう、だからぁ、ごしごしして」
ちらりと見ると、月明かりによってラムザの濡れた先端の周囲だけがぬらぬらといやらしい光り方をしている。それにどうしようもなく欲情する自分がいた。
「ラムザ、ラムザも触って」
「え?」
ラムザの右手を後ろに回させ、気付かれぬよう前のチャックから取り出していた自分の物に触れさせる。
ラムザは一瞬驚いたようだったが、すぐに卑猥な手の動きで触わり出す。後ろ手だから器用に扱く事は出来ないが、繊細な指先が見た目に反した淫乱ぶりを発揮して、袋を揉み茎を摩り亀頭を撫でる。ディリータは息が上がるのを意識しながら、ラムザの耳を甘く噛み、
「んっ、ぅん、んん、っ、出るっ」
指三本でペニスを扱き、射精させた。
「あ、あ、あっあっ」
サイズは小さいが、生殖機能を一応は備えている身体は快感に貪欲だ。白い息をはぁはぁ流しながらの射精は長く続いた。勢い良く飛び出した精液はぴちゃぴちゃと音を立てて飛び散った。
「気持ち良かった?」
こくん、こくんこくん、と三回肯き、余韻に喉を仰け反らせ、ディリータに後頭部を任せる。広がった金髪の匂いを嗅ぎながら、
「俺の続きは?」
思い出したように、ラムザは向き直って、自分のコートの上に膝を突く。そうしてディリータの顔を、ディリータのペニスを、うっとりと見つめて手を這わせてから、それを深く口に含む。左手では宝珠を収めた嚢を、中身を混ぜるように手の中で転がし、右手は自分のシャツの中に入れて、今日のところはまだ貰えていない場所、乳首を摘む。
ちゅぷん、と音を立てて口を外して、ラムザは心底幸せで堪らないといった顔をする。
「おっきくって、美味しい。すごい、元気なんだね、かちんこちん」
「だって。ラムザが良くしてくれるから」
ラムザはにっこりと微笑み、再び口の中にディリータを収めた。到達させる事を目的に、顔を前後に動かす。月の光を吸い込んで妖気を放つ金糸が、その度ラムザの肩を花弁のように舞う。吸い付きながら頭を引き、もっとも敏感な亀頭のくびれた部分を断続的に舌が刺激する。呼吸が早まる。ラムザも鼻で苦しそうに息をする。いつの間にやら右手は下半身へと移っていて、勃起した自身を扱き出しいる。
「ラムザ、出すから、飲んで」
言葉尻が震えて掠れた。ラムザの口の中に、ディリータは存分に精を吐き出す。ラムザをどうのこうの言えないほどの量を放出した解放感。ラムザは恋人の精液を、一滴も無駄にしたくないとでも言うように、達したばかりで過敏になっているディリータのペニスを執拗に口で扱き、吸った。ラムザの口から抜き出されたディリータの自身は、精液を出した痕跡など無く、ただラムザの涎でしとど濡れていた。
呼吸を落ち着けて、ラムザを見下ろす。恋人の媚態に、苦笑した。ラムザはディリータの下半身に目をやりつつ、二度目の到達に向けて自慰に耽っていた。
「駄目だ」
「やぁん」
右手を掴んで止めると、切なげな声を上げる。すかさず左手で続けようとするのも制し、抗う力がなくなってから離す。ポケットからハンカチを出して、
「舌出して」
口を少し拭いてやる。後でキスをする時、やはり多少は気にしてしまうだろうから。
「ディリータ、僕またいきたい、いいでしょ?」
「いくのは構わないけど、一人でやるのは無し。何のために俺いるんだかわからなくなる。なあ? せっかく二人でいるんだから、一緒にしよう。お前もその方がいいだろ?」
ラムザは素直に肯いた。
「じゃあ、下脱いで」
さっきまで、裸になってセックスをする事に難色を示していたのはどこの誰だったか。圧倒的な幸せというものは、しばしばこうして理性を失わせるのだ。これは疑いなく事実だろうから、ディリータはそれに大いに甘える事にしたのである。
ひんやりと冷たい尻を剥き出しにして倉庫の壁に手を付かせる。ディリータは雪が冷たく染むのも気にせず、膝を突き、引き締まった白い尻に顔を近づけた。少し、匂いを嗅いでみる。ここだけは、冬でも夏と同じ匂いがすることを確かめ、また嗅がれたことにラムザが小さく泣き声を上げる。
「いい匂いだよ、ラムザ」
「意地悪」
「むくれるなよ。なあ、可愛いお尻」
「ゆびいれて」
「まだ駄目だよ、濡らしてからじゃないと」
体温と同じ温度の舌の先が肛門の皺に触れた。目の前で括約筋が淫靡に蠢き、硬く閉じたり、浅く緩めたりする様子が、暗闇の中でも、舌にくる感触で解かる。くるりと円を描いて、それから環状筋肉の中央を苛むように細かく舐め、やがて尻を振り振りと躍らせるようになったのを見てから、ようやく要望に応え、指を入れる。
まだ開かれない扉を、ゆっくりと抉じ開けてゆく。指が僅かに奥に入るたび、ラムザは鼻にかかった甘い声を上げる。痛くないのか、不安にもなるディリータだったが、彼の耳に届く声は少なくとも快感に染まっていた。
「おちんちん、動かしていいでしょ、ディリータ」
二本目の指が入る頃には、ラムザはそんな音を上げはじめた。壁に縋るように左手だけで身体を繋ぎ止め、右手ではいつでも淫らな幼茎を扱く準備が出来ている。本当に本当にしたいのなら、俺の許可など待たずに勝手にしてしまえばいいのに。だが、これも優しさであり思いやりであり。こう考えてしまう自分は過大評価に過ぎるかなと、ふと考えた。
「俺のは要らないのか」
「欲しい。ディリのおちんちんも欲しい」
「じゃあ、もう少し我慢しろよ」
「んんん、無理だよぅ、も、何もしないでも、出ちゃいそうなのぉ」
「お尻そんなに動かすからだ。少しジッとして落ち着いて待ってれば我慢できるだろ」
言いながら、ディリータは黒っぽい笑いを浮かべてラムザの尻の中を二本指で行きつ戻りつする。
「駄目、駄目、そこ、そこ駄目、んっ、やだ、出ちゃう、んっ、ディリ、おちんちん、ふぁっ」
呆気なく、ラムザは二度目の吐精。ディリータは指を入れたまま、脱ぎ捨てたコートの上に恋人を寝かせる。恨めし気な頬にキスをしてから、過敏になっているところから溢れ出す余韻の精に口をつけた。同時に、後ろではクチュクチュわざと音を立てて掻き混ぜる。ラムザの右手が、雪をつかんで握り潰した。
「やだやだ、やめてぇ、んっ、やだよぉ、おかしくなっちゃう」
「我慢しろって言ったのに、一人で先にいっちゃうからだ」
「は、ひぃっ、ご、めんなさ……っ、ひいん、ごめんなさいっ」
「なあ? 寂しいだろう、一人は。入れて欲しいんだろ?」
ラムザががくがくと肯く。
「ん、ん、ディリのおちんちん入れて欲しいの」
「だろう? だったら、ちゃんと約束は守らなきゃ駄目だ」
ひくひくと痙攣する身体をいとおしげに撫でて、椿の花のように紅色にそまったの乳首に吸い付く。ミルクが出てくるわけではなくとも、甘い気がする。
ふと、ラムザの皮膚から湯気が出ているような気がした。考えてみれば無理はない。外は積雪、雲が無いから気温は否応なしに下がって、今はもう氷点下の世界。 なのに、ああ、確かにラムザの言った通り、動いているし興奮しているから、ちっとも寒くない。
「バック?」
「ん、抱っこして」
「その方が良さそうだな、寝かせたら背中冷たくなりそうだし」
月の光を雪が吸収して、反射するそのせいで、ラムザの艶めかしい肌が月と雪を混ぜた乳白色に、うすぼんやり光っている。その産毛の一本一本までを観察するディリータの膝の上に、ラムザがしどけなく足を広げて腰を下ろす。手で恋人の性器を後孔へと導き、指を添えて沈めてゆく。
「は、ぁうぅ」
高く掠れた声が、そのままディリータの官能に障る。
亀頭を陰茎を、ぎゅっと握り締められたような言い得ぬ快感を下半身に受けて、ディリータは知らず、腰を一つ震わせた。
「あっ、たかい」
「ん?」
「おちんちん、あったかいよ」
「お前の中も、すごく温かい」
ちゅ、と音を立てて可愛らしさを演出したキスをする。頬を少し赤らめて、ラムザはディリータの耳元に唇を寄せて、
「うごいて」
冷たく心地よい風が吹いて、向こうの雪野原が白く濁った。
「愛してるよ、ラムザ」
「愛してる」
そうして、二人は唇を重ね合って、接合部分を摩擦しはじめた。
身体、特に末端は凍り付きそうだ。
しかし、二箇所。繋がり合っている性器と肛門、そして絡み合う舌と舌は、違う。温かい、熱い、熱い。この雪を溶かしてしまうほどに。ディリータの口から、舌を伝って唾液がラムザの口の中へと流れ込む、ラムザの口から、交じり合った粘液が溢れて零れ落ちる、同じように彼が零した涙とともになって、身体を伝って雪へと染み込む、雪が少しずつ、少しずつ、熔けていく。
「いっ、いくっ、でぃり、いっちゃうよっ、僕もう出ちゃうっ」
「待って、ラムザ、置いてかないで、もう、俺もっ」
「早くぅっ、い、一緒がいい、出して、ディリ、中っ、んっ、ひゃ、あっ、あっ、あっ」
「ラムザッ」
ラムザが、ディリータの射精に反応して、三度目の精を飛び散らせた。互いの顔にまでかかる程、勢い良く噴射された液体も気にせず、二人はしばらく絡み合う、飽きずに唇を吸い合っては、舌で舌を撫ぜ合う。
ラムザがそっと腰を浮かせる、どろり、どろりと精液に加え内容物が溢れ出してくる。快感と不快感の入り交じった言いようの無い感覚に、思わず新しい涙を浮かべてディリータを見あげた。ディリータは何も言わずにその身体に覆い被さって、長い指をラムザの中へと差し入れる。
「ディリ、んっ、きたない」
「俺のでも汚いって思うか?」
「思わない」
「だろう? 同じさ。外だから、全部出しても構わないよ」
直腸の中から異物感が無くなり、ラムザはディリータの耳元でこの上なく色っぽい溜め息を、無意識のうちに吐き出す、含羞と開放感の入り混じった甘いもの。これでは、いけない。ディリータはラムザを抱き起こし、下半身をちり紙で丁寧に拭ってやった。そうして、互いの胸に飛び散ったラムザの精液は指で掬い取って、半分はラムザに舐めさせて辱めることを忘れない。
「さ、服着よう。もう満足だろ?」
「うん、ありがとうディリータ、愛してる」
「俺もだよ、愛してる」
二人は、今宵もうあと何度もしない予定の接吻を交わした。
ディリータは、ラムザが脱いで抛っぽり出したままだった靴を揃えて、少年の前に置いた。ラムザはとりあえずシャツに袖を通す。風呂から出る時なども、まず上から着出す癖がある。どっちを隠すとか、そういう事は考えていないのである。
ディリータも、いつのまにか無意識に脱ぎ散らかしていた服をかき集める。雪だるまとは言わないまでも、粉っぽい雪がセーターにはびっしりついてしまっている。早く部屋に帰って着替えよう。そうして温かくして寝て、風邪をひかないように。
と、そんなのどかな明日のことを考えた、その瞬間だった。すぐ背後に何者かの気配が生じたのを感じて、反射的にディリータは裏の拳を振りかざした。
ラムザがそのディリータの動きに「きょとん」として、すぐに「ぽかん」とした顔になった。
気配が、父や兄、見知った人間のそれとは違う。未知の者のものだ。下手な山賊だったりしたら。
「何者だッ」
上着の懐に仕舞ったダガーを抜き出しながら、勢い良く振り返る。
「って、え?」
振り返ったディリータも、ラムザと同じように「ぽかん」となった。 そこに立っていたのは、一人の若い男、十代後半から二十代そこそこといったあたりだろうか。身の丈はディリータより頭一つ大きく、銀色の髪に真っ白な肌。やや痩せてはいるが、引き締まった身体をしている。
だが、そういった外見から、その男が出来るのか出来ないのか、そういう事までは考えなかった。
「な、何だ?」
男は、ディリータたちも言えた義理ではないが、この極寒の中、一糸纏わぬ姿でそこに立っていたのである。
「変態さんだぁ」
淫乱のラムザがぼーっとして言う。ディリータも、まず頭に浮んだのは「露出狂」というごく身近な三文字であった。
しかし、男の顔は真剣そのもので、何か、憤慨しているかのようにラムザとディリータを交互に睨み付けている。真っ白い顔は死体のようで、その風貌でそんな風に睨むのだから凄味も出ようものだが、ゲイの二人は「男が裸である」という時点で戦闘突入への危機感を今一つ持てないでいた。
「貴様ら」
男の声は、明らかに「怒り」という感情を含んだものであるのに、どこか平板で冷静なものとして、二人の耳に届いた。
「いい加減にしないと凍らせるぞ」
ラムザが首を傾げた。
「黒魔道士? ってか、何で裸?」
「我が名はリュカ=グランバニア、この美しい処女雪を汚す貴様らに、罰を」
リュカと名乗ったその裸体の男が右手を翻し、その手のひらの上に拳大の氷の礫をいくつも生み出したから、それまでぼうっとしていたラムザもさすがに立ち上がった。ディリータはもちろんの事だ。ラムザを背に庇い、飛んでくる礫をダガーで弾き落とす。
「俺たちが何をしたって言うんだ!」
「とぼけるな。あれほどまでに雪を汚しておいて」
氷の男は続けて両手を掲げ、頭上に岩ほどもある氷塊を生み出す。ディリータは反射的にラムザを抱いて飛び退き、やりすごす。
「どういう事だ、訳が分からない」
「貴様らは、生まれたての雪に排泄し、小汚い液を吐き捨て、あまつさえ処女雪を欲情に汚した。しかも貴様ら、一度ならず二度までも。昨年の一度だけならば大目に見ようとも思ったが、二度となればもう許すわけにはいかぬ」
「……言葉づかい難しい・・…」
「要するに、ラムザがおしっこしたりとか精液出したりとかいろいろ出しちゃったりとか、したから怒ってるんだよアイツ」
「ゴチャゴチャと煩いぞ、その身を以って償うがいい」
また、細かな氷の礫が飛来する。
寒くなってきた。埒が明かない、ディリータはポケットの中からいざという時のために忍ばせている「火遁」を足元に叩き付けた。氷男がその熱に怯んだ一瞬の隙に、素早くその懐に潜り込み、鳩尾に鋭い一撃を食らわせる。
「ぐ」
脇腹を抑えて、氷男が膝を突く。優勢を見逃さず、ディリータは男の首にダガーの銀の刃を突きつけた。
「おのれッ」
「あの」
ラムザが、苦悶の表情を浮かべて跪く男の前にぺたんと座った。
「ごめんなさい。そのトイレでもないのに、いろいろ出しちゃって」
性的なことに関しては珍しく、素直な「反省」の意をその顔に浮かべている。
「あなたがそんなに雪を大事にしているなんて知らなかったんです。本当にごめんなさい」
「……っ」
ディリータがダガーの刃を離した。
「リュカさん? あの、よかったら僕のコート、使ってください、寒いでしょ、そんなカッコじゃ」
リュカがキッとラムザを睨み付けた。ディリータは反射的に、また刃を突きつける。
「そんな物は要らぬ。死んでしまう」
「し?」
「私は冬の精、雪の精、氷の魔神シヴァの僕。熱を浴びれば……」
ラムザはディリータを見た、ディリータもラムザを見た。二人は同時にリュカを見た。
「冬の精」
「雪の精?」
ラムザがぱっと表情を明るくした。
「あなたは精霊」
「本物を見るのは初めてだ」
ディリータはすぐにダガーを懐に戻した。思い出したように慌てて、二人並んで精霊リュカの前に首を垂れた。
「本当に悪い事をしました、礼を失したことを心から謝ります」
物には全て「精霊」が宿っているといわれる。地水火風を司る精、星の運を司る精、人の命を司る精。召喚獣、幻獣と呼ばれるいきものたちは、精霊が実体を借りてこの世界に登場する姿なのである。机にも椅子にも精がいるし、風呂の精もいる。食堂にも精霊が住まうし、戦場で戦士たちの命を左右するのは剣や鎧に宿った精霊たちなのだ。
精霊たちは自然の化身であり、人間よりも遥かに高度な叡智を持っている。だからこそ、強大な自然や天命を左右する程の力を得ているのである。彼らには例外なく畏怖の念を持つのが普通である。
「もうよい」
リュカは神妙に頭を垂れる二人の少年の心根を読み取って、そう言った。
「雪は、只降る物ではない。多くの運命によって降り、そして春の到来と共に消え行く命だ。それを無碍に汚すような事はしてくれるな。子供らよ、君たちには君たちの場所があるはずだ、帰るべき家があるはずだ。仲が良いのは美しき事だが、解かるだろう」
二人は顔を見合わせた。
「許してくれるんですか?」
「……仕方が無い、やりあっても勝てそうに無い。わざと雪を汚そうとしていた訳ではないのだろう。さあ、もう帰りなさい。私の側にいては余計に体が冷えてしまう、風邪をひいてしまうぞ」
寛大な言葉でリュカは言って、立ち上がった。ディリータが突いた鳩尾には、傷一つ付いていない。
ラムザたちも立ち上がる。改めて間近で見ると、「精霊だ」という要素が加わったからか、その無表情な顔は神々しいほどに美しく思える。銀色、白、なんて美しいんだろうと、ディリータは息を呑む想いだ。論俺にはラムザのあたたかみのある身体の方が合っているけれど、単純な「美」として見たなら。ちらりとラムザを見ると、同じような物思いに耽っているのか、リュカの顔を見上げる、時々下半身をちらちらと見やりながら。あまり深くは考えていないようである。
そう思っていたら、ラムザは不意に立ち上がり、その状態でも頭二つは大きいリュカをまっすぐ見て、唐突に尋ねた。
「いつからですか」
「何がだ」
「いつから僕らのセックス見てたんですか」
「ら、ラムザ」
「……」
「ほら見ろ困ってらっしゃるだろ、そんな事聞いて、よしなさい」
いつも突拍子もないときに突拍子もない事を真剣にやりだすラムザの悪癖。野外露出などそれの最たるものであろうが、昔の「偽造聖書朗読事件」などもそう。ディリータが考えうるラムザの欠点が顔を出した。
「別に困ってはいないが。いつから、とは」
リュカは生真面目な表情で聞き返す。
「そのままです。どのあたりから、見てたんですか」
「私は雪の精だ、そうして、この辺り一帯の雪そのものでもある。雪が私の目であり耳であり、手足だ。君たちがここにやってくる前から、私はここにいた」
「と言う事は、ひょっとして」
「見ていた。まさかとは思ったが、本当に始めるとは思わなかったが、もしまた私の身体を汚すような事があれば懲らしめてやらなくては、と」
ディリータは目眩を起こして、二三歩よろめいた。
……とうとう見られた……!
ディリータの状況になど目もくれず、ラムザは更に問いを重ねる。
「どうでした?」
「何が」
「僕たち、どうでした? どんな風でした?」
「ラムザもういいだろよそうよ本当にな早く帰らないと風邪ひくしラムザってば」
ディリータは気を入れ直してそうラムザの服を引っ張るが、ラムザはまるで動じない。熱を出してしまったかのようにディリータの顔は真っ赤に。
リュカは表情一つ変えない。
「さっきも言っただろう。幸せそうだった、仲良き事は美しき哉、と。一つの美ではあると思った」
ラムザは表情を輝かせて、ディリータを見た。
「ね、ディリータ、僕たち、綺麗だったってっ。……大丈夫?」
「……うん」
「嬉しいなあ。リュカ、ありがとうございます。嬉しいです」
「どういたしまして。さあ、もう帰りなさい、夜が深まってきた、これからの時間は私も力を強めなければならない、春になって融けるまでは忙しいのだ」
ラムザは肯いて、それからぺこりと頭を下げた。
「これからは、なるべくお家の中でやるようにします」
「そうしなさい。その方が身体のためでもある」
リュカは以上までの科白を、表情一つ変えず言い切った。そうして、ようやくほんの少しだが柔らかく微笑んで、
「子供たち、雪原で遊ぶのは歓迎する。いつでも待っているよ、温かくしておいで」
次に二人が瞬きする間に、幻のように消えてしまった。
「ほんとにいたんだね、精霊って」
ラムザが白い息を流しながら、独り言のように呟いた。ディリータはいたたまれない恥ずかしさに呆然としていたが、不意に声を荒げた。
「だから俺は外でやるのは反対だったんだ!」
そんなディリータに、ラムザは柔らかく笑う。
「ねえ、まさか精霊が見てるとは思ってなかったよね、お互い」
「こんな、お前、だって、恥ずかしい」
また真っ赤に赤面する。あんな恥ずかしい場面を。
「ま、元気だして行こうよ。相手が人間じゃなかったんだからよしとしなきゃ」
「よくない」
ディリータはラムザに引っ張られるようにして、悄然と帰路に就くのだった。もう二度と外ではやるまい、どんなことを言われたって。そう決意して、眠りにつく。そうして、やはりすっかり風邪をひいて、外でだろうが中でだろうが何も出来ない状況になってしまったのであった。
「風邪伝染るから、あっち行ってろって」
「んー、行かない。すっごい居心地良いんだ、あったかいお布団」
「あんまり嗅ぐなよ、身体洗ってないから臭いだろう」
「いい匂いだよ?」
ラムザはディリータの発汗作用を促進させるべく、その身体に身体を重ね、首筋に顔を埋める。
「僕ね、病気になるの結構好きかも」
「お前はひいてないだろう」
一頻り咳き込んでから、
「いつも風邪をひくのは俺だ」
と恨めし気に言う。
「ディリータの方が普段は丈夫なのにねえ。風邪の精霊に好かれてるんじゃない?」
「嬉しくない。大体病気になるのが好きってなんだよ」
「うん。僕、寝るの好きだから。風邪とかひいたら、ずーっと寝てても文句言われないし」
「でも風邪ひいたら辛いぞ」
「その時はディリータに看病してもらうから」
キスをする。伝染るからと拒む暇も無かった。言ったところでお決りの「馬鹿だから」で済まされるところだろう。
「とりあえず今は、僕が君のことを守る。たっぷり汗かいて、早く治ってね」
「了解した。って、おい」
「ん?」
「わかってるだろ、洗ってないから、駄目だよ」
「気にしないよ。僕の、気にしないでしょ?」
「そうじゃなくて、んっ」
汗に濡れた乳首を、舌が通り過ぎる。不意の震えに、ラムザがにこりと布団の中から顔を出して、笑う。
「ディリータもおっぱい気持ちいいんだね」
そうして気を良くしたか、そこを重点的に吸う。
風邪のときのディリータ相手ならば、優位に立てる。もっとも、常に優位に立つラムザではあったが。 呼吸が乱れるディリータの心臓の音に優しい愛情が生まれるのを感じながら、パジャマの前に触れる。風邪をひいているのにここだけは元気だねと、また笑う。中に手を入れて、薄っすら汗で濡れたそれを、ゆっくりと扱くとともに、唇は乳首に吸い付く。
風邪をひくたびに、こんな風にラムザの「治療」を施される。「触診」と言った方がいいだろうか。いずれにせよ、いつもよりお手軽なディリータ、しゃんとしない意識のせいで、ラムザに翻弄されるのである。不幸な事とも思わないし、これのお陰で治る風邪もあるとは、信じているのだがやはり、汚いという自覚
のある身体の匂いを嗅がれるのに良い気分はしない。
相手に施すときは平気なのに自分がされると嫌なのである。
愛情もそうなのだ。何も、相手に危害を加える事でなくとも通用するのだなと思う。思うが今は頭があまり回らず、ラムザが布団の中で身体の向きを始めた事を自覚するに止まる。どうやらこちらに尻を向けようとしているらしい。
「いつのまに脱いだ」
「ん? さっき。お布団入ってすぐ」
布団の中、ちょうど自分の股間の辺りから返答があった。
布団から露出したラムザの下半身は素っ裸だった。いや、正確には靴下だけは履いているのだが、それが却ってエロティックに見える。
ペニスが口腔に包まれた。自分の体温が常時より高いからか、生ぬるく感じた。
ディリータも、熱い頭を持ち上げて、ラムザの双子の丘に口を寄せた。
「これ、看病っていうのかなあ?」
塞がれたような、舌が絡み付く音が聞こえてくる。
確かに熱は一箇所に集めるのが効率的である気がする、熱さの固まりを吐き出せばそれだけ熱も下がるような気がする。
ラムザの尻の穴って、ほんとに尻の穴なのかな。ディリータはそんな浮かされた考えをしてから、舌を這わせる。勿論汚れていないし俺のように毛も生えちゃいない。何だか排泄器官のようには見えないのである。そういえば普段から、入浴の際には他のところよりも丁寧にこの近辺を洗っているようだし、どうも俺の見ていないところでも風呂に入ったりトイレに行ったりしているような気がする。
そう思えば、どんなときでも美しく見えないはずが、ない。
陰嚢まで唾液が伝うほどに濡らしてから、指を刺し入れる。今日は中を洗ってから来たのだろうか、綺麗だ。別に何かあったところで、気にしたりしない自分ではあるが。
「んん」
きつい内部は、そう言えば体温。生暖かくて心地よい。尻はひんやりと冷たく、額に載せたら気分が良くなりそうだ。舌で袋を突つきながら、目の前で内部の肉をかき分けて奥まで辿り着く。そうして太さに慣らせてから、往復させる。唾液が中でじゅぷじゅぷと音を立てる。その頃にはラムザは、丁寧な口淫をすることが困難になっていて、咥えるだけ、それすらも出来なくなってくると、左手をペニスにかけるだけで、ディリータの腰骨の当たりに額を置いて悶えるだけになってしまう。
「んん、んんん」
二本の指が抜かれて、入り口から少し入り込んでくる舌のくすぐったいような気持ち良さがもどかしい。腰を躍らせてもっと深いところへと請う。ディリータはいい気分で声に出さず笑い、舌での愛撫を止めない。
とうとうラムザは布団を剥がして起き上がり、膝立ちにも似た体勢、ディリータの胸に手を起き、その顔へと腰を落とした。
「奥まで入れてよぅ」
眼前にラムザの体重のかかった尻があっても、ディリータは右手一本でその尻を支えるだけ。舌をぬるりと抜いて、
「入れてごらん」
と。
「俺のにしないんだから、それくらい自分でやりなさい」
「そんなのヤダよぉ、ディリータの指だから気持ちいぃの」
「嘘つけ。知ってるんだぞ、俺のいないときに自分の指で弄って、オナニーしてるんだろ?」
「んんん」
ラムザは自分の股間の下から聞こえるディリータの、どこか嬉しげな声に赤面した。
しかし否定などしないのがラムザの流儀だ。
「ん、してた、だって、僕、いつでもディリータと、してたいんだもん」
太股を強く吸って、跡を創る。
「それは嬉しいな。じゃあ、出来るだろ?」
「前にも見せたことあるのに」
「また見たいんだ」
結局、ラムザは大して拒否することもなく、自分の股下に指を持ってきて、刺し入れた。既に十分広げられた後の内部は、ラムザの細い指を拒絶する事はなかった。
「あん」
「それじゃあ、ラムザ、俺のの続きして。自分だけ先にいったら寂しいよ」
「ん」
片手で体を支えて、再びディリータのを口にする。目の前に繰り広げられるラムザのはしたない姿に魅せられ、ディリータのものは硬度を高めていた。その事がラムザをより盛らせる。手の補助こそできないが、再び丁寧に口と頭を動かして奉仕する。
「そう、ん、上手だよ、ラムザ」
布団を剥がされて寒いなどとは、まるで考えない。それよりも自慰に耽るラムザが、何度もペニスを震わせる様子の方が気になるのだ。
「俺、もういきそうだから」
ラムザは鼻に掛かった声で「ん」と応じる。ディリータの指がラムザのを扱き出すと、ラムザの指はそれと同じリズムで動き、中を激しく往復する。その光景の秀逸さに、ラムザの舌の淫猥なテクニックに、ディリータは間もなく精を愛しい口に注ぎ、ラムザもディリータの腹部に精液を蒔いた。ラムザの指が震えながら肛門から引き抜かれ、両手でシーツに手を突く。物を抜いた口ではぁはぁと息をしながら、時折ディリータのペニスの脇にキスをした。一つ一つが愛しく思えて、ディリータは先程まで指で埋まっていた場所をもう一度味わった。
「やぁ」
「ん? 気持ち良かったよ。ラムザもそうだろう?」
「うん」
「自分の指だとどこが気持ちいいか解かるんだろう」
「ん」
「俺にされるより、自分でしてた方が気持ち良いんじゃないのか?」
「そんなことないよっ」
股下、ディリータの顔を見る。何だか変な光景だとディリータは思う。
「ディリータにしてもらったほうがずっと気持ちいいもん」
「そうか。じゃあ、言ってくれよ、気持ちいい場所、教えてくれ」
「ん」
「ただその前に、俺の身体綺麗にしてくれるか? 半分だけ飲んで、残りは俺に飲ませて」
ラムザは素直に身体の向きを戻して、ディリータの腹に零したものを舌で拭った。基本的には禁欲的な人間であるという自覚があり、実際のところその自覚しかないディリータが好きなのがこの時のラムザの顔だ。基本的には羞恥心と言うものがなく、人前で裸になったり、先程のように尻を顔面に晒したりしても平気の平左でありながら、自分の精液を舐めさせられるときばかりは、眉間に皺を寄せ、顔を純粋な羞恥の色に染める。恐らくは射精直後に僅かに顔を出す、理性的な部分に障っているのだろうとディリータは推測する。ともあれ、この純粋さがディリータには嬉しいのだ。
口の中が二種類の精液で中和される。唇を一度、二度重ね合い、精液が粘り糸を引く。口の中に全て委ねられようとする精液をラムザの口の中へと返却し、唇を離す。自分の精液で唇を濡らし、それから恥ずかしそうに飲み込む様子は、自分は理性的だという自覚があり、実際には自覚しかないディリータの心を激しく揺さ振る。
「それで?」
「ふえ?」
「どこが気持ちいいんだ? お前は」
「ディリータ、もう風邪ひいてないみたい」
ラムザが少し笑って言う。
「そうだな。気分も良いし、だるさが少し抜けたかな。お前の看病のお陰だ」
「でも、風邪って治りかけが怖いんだよ?」
「じゃあ、最後までお前に治療してもらうよ」
自分でも馬鹿な事を言うようになったと思う。ラムザに惑わされてあてられたのだと思う。実際には最初から言ってることに少しも代りはなくても。
「んぁ」
ベッドの上、座ったまま抱き合って、ディリータはキスをしながらラムザの尻の穴に指をそろそろと刺し入れた。
「どこがいい?」
ゆっくりと奥へと進み、じっとラムザの言葉を待っていると、ラムザの身体が確かにはっきりとぴくんと動いた箇所があった。ラムザは「いい」とは言わなかったが、
「ここだろ?」
ラムザは涙を浮かべて、何も言わずにこくんと肯いた。
「ここが気持ちいいのか」
「そこ、そこを」
ラムザは浅く息をしながら、ディリータにしがみつく。
「ディリのが、通るの、たまんないくらい、きもちぃ……んっの」
「なるほどな。欲しいのか?」
言う必要も無いと言わんばかりにラムザが二度肯いた。
指を抜いて、寝そべって「どうぞ」と。
「病人は寝かせててもらうよ」
ラムザはまた肯いて、仰臥したディリータに跨って、性器を手で肛門に導く。ディリータの目からは、そのラムザの手の様子のみならず、菊門がそれを飲み込んでゆく様子もかすかにだが、捕らえる事が出来る。そうして気が向けばそんな時のラムザの表情も楽しむ事も可能だ。ディリータが割に頻繁にこの体位を択ぶ理由は、ラムザの媚態を存分に楽しめるという一点に尽きる。
奥までディリータを飲み込んで、ラムザのペニスは小刻みに震える。垂れ下がった滑らかな袋はディリータの下腹部でへたりこんでいて、手を伸ばして摘むと途端にまた、一つ震えるのだ。
「さあ、動いて。俺動けないけど、一緒に」
身体を汗が伝ってゆく。本当に風邪が治ってしまいそうなのだから凄い事だ。
「愛してるよ」
あまり脈絡の無い言葉だって口に出てきてしまうものだ。
こくん、とラムザは切ないような目でディリータを見下ろしながら頷いて、それから腰を躍らせはじめる。
「んっ、んっ」
目には、ラムザの媚態が具に入ってくる。恥ずかしさよりも単純な気持ち良さに乱れる表情、舞い踊る金髪、甘そうな乳首はつんと勃起しているし、艶めかしいラインの腰、往復のリズムに震える幼い棒と揺れる陰嚢、その下には自分の肉竿を扱く肛門も見える。往復のスピードは決して速くはないが、それでも着実に追い上げられるのはこうした光景を目の当たりにさせられるからであろう。
「んっふぁ、ん、ふう、んっ、んっあっ、ん、んん」
やがて自分の物に手を絡めて、見せつけるように扱きはじめる。事実、その目はディリータの目を見ている。先程もこうして到達したラムザは、露出に快感を覚える心の仕組みを持っている。それに気付いてディリータがラムザのペニスをちらりと見て、
「何だ、もういきたくなっちゃったのか?」
などと責めるような科白を言うと、一瞬だがその目を確かに煌かせる。
「んっ、んっっ、だって、っ、んっ、気持ちいい、っんっ、」
自覚症状こそないだろうが、ディリータの事を思う侭に掌握し、セックスに関しては果てしなくディリータを貪るラムザである。サディスティックとも取れる形でディリータに抱かれるのが常だが、その内部にはこんな風に、恥ずかしいところを晒しては感じるというマゾヒストの一面も持っている。だからこそ露出に恋人を駆り出すのではなかろうか。
「ひぅ、んっ、いき、んっ、いきそう、っ、ディリ、いきそうだよぅ、んっ、ああっ」
「早いんだな。自分で好きなところ一杯してるからか? 淫乱な子だな、今更だけど」
「んっ、ひゃぁ、ひくぅっひ、いくよぉ、っ、ディリ、んっ、見て、ぁあっ、ひゃぅうっ」
甲高い声で善がって、一人勝手に射精してしまう。恐らくは「淫乱」という科白が鍵になっていたのだろうとディリータは思った。同時に激しく締め付けられて快感の波の訪れを感じたが、ラムザはくったりと腰を停めてしまった後だった。
「何だよ、俺もう少しなのに」
「んはぅ、は、んっ、ごめんなさい」
「この間だってそう言ったのに。すぐに自分だけいっちゃうんだなラムザは。俺の事嫌いなんだろう」
意地悪を言ってやると、ラムザはすぐにふるふると首を横に振る。
「んん、そんなことないよう、ディリータのが気持ちいいから、したくなっちゃうの」
「でも、一緒にいこうって俺言ったのに」
「ごめんなさい」
しゅんとなって俯く。弱気なディリータはそれ以上苛めて楽しむ事は出来ず、その代りにくっと腰を上げた。
「ひゃんっ」
「な、まだ終わらない。続きをしよう。俺の事も気持ちよくして」
ディリータはそう言って半身を起こし、またも腹を濡らした樹蜜を指で掬い取り、ラムザの唇に塗り付けてからキスをした。
「ラムザが自分で動いてるところ、すごく綺麗でいやらしくて、俺、すごく感じるんだ。もっと観たい」
勿論、ラムザはすぐに肯く。ディリータが仰向けになると、過敏反応をしてしまう自分の身体にもめげず、再びディリータの腰の上でバウンドを始めた。
今度はどう考えても自分の方が先に出してしまうだろう、ディリータはそう考えて、ラムザのものに手を伸ばして、緩やかな速度で扱き出す。
「ダメだよぅっ、いっちゃうから、また、っん、んん、僕、いっ、っちゃうから、ら、めぇっ」
「大丈夫だよ、俺も、もういくから。一緒がいいだろ?」
「もう、っ、もう駄目なのぉっ」
今したばかりなのにも関わらず、ディリータのペニスを感じ、その指に絡み付かれるだけで、ラムザは壊れそうになってしまう。ただ、早漏というのは多くの男にとって屈辱的なことであるのだが、ラムザの中にはそれだけに止まらず、ディリータで簡単に壊れる自分は悪くない、という思いもあった。
「う……、……ラムザ、出すよッ」
「ひゃあ、あっ、あっ、ああっ、あぁっ」
喉を仰け反らせて、三度目の射精の味とディリータの鼓動を、ラムザは心行くまで味わう。上がった呼吸がおさまらない、呆然として、頭の中がリセットされたかのようだ。ディリータに抱きしめられて我に帰り、その身体にもう抱き付き返す。
「気持ちよかったよ、ラムザ」
耳に唇が触れそうなほど近くで、ディリータもまだ整わない呼吸でそう告げる。ラムザはそれだけで震えてしまうのだ。
「ん」
「こんなすぐいっちゃうなんて、やっぱりえっちな子だな。でも、大好きだよ、すごく可愛い、素敵だよ」
嬉しくてぽろぽろと零れだした涙も拭わず、ラムザはディリータに抱き付いて、離れることが出来なくなった。ディリータの手のひらが髪を撫でるのが、堪らなく心地よい。けだるい。
だるい、そうだ。
「ディリータ、身体は」
「ああ。そうか」
忘れていた。
「まさか完治はしてないだろうけど、でも、何だかすごく、今はすっきりしたよ。ラムザのお陰だな」
「ん」
「泣くなよ。ひょっとして、嫌だったのか?」
「僕が、誘ったのに、ヤなわけ、ないよ。違う。嬉しいから」
「そうなのか?」
「ディリータと、ディリータとえっちするの、すごく嬉しい。ディリータは、僕がどんなでも受け止めてくれるから」
胸が一杯になって、また涙が溢れる。
セックスをした後、時々だが、ラムザはこんなふうに泣いてしまうことがあった。ディリータの事が愛しくて愛しくて溜まらなくて溢れてくる涙。こういう涙を流せることがどんなにか幸せか、ラムザには解かっている。そして、ディリータにもこの涙は、胸を優しく濡らす存在なのだ。
「愛してるよ。な、じゃあ、一緒に寝よう? ほら、抜くよ」
「うんんんっ、あぁ」
とろりと零れて来た精液を拭われる間に、涙を止めてラムザは起き上がった。
「ありがとう、ディリータ」
「何が?」
「僕がえっちな子で淫乱で、恥ずかしくて、はしたなくて、君の顔のすぐ前でお尻弄るような僕でも、好きでいてくれてありがとう」
ディリータは言われた意味を計り兼ねてしばらくぼうっとしていたが、飲み込んでから少し笑ってしまった。それからラムザの事を抱きしめて、
「俺もそうなんじゃないか?」
「ディリータも?」
「俺もえっちで変態で、なんじゃないかな。いいじゃないか、お前の事を愛していて、幸せにしたい、俺もただそれだけの、結果だ」
ラムザの手が力感を無くしたディリータの物を撫ぜて揉む。
「僕、ディリータのおちんちん大好き」
「俺もラムザのそこは大好きだよ」
「……言ってくれないの?」
「えー……?」
「おちんちんって。僕のおちんちん好きって言って」
「……ラムザの、……ラムザのおちんちん好きだよ」
「触ってくれないの?」
「またしたくなっちゃうだろ」
「んー? えへへ」
ラムザはディリータの手を、自分の股間に導いた。
「もうしたくなっちゃってるよ?」
「うわあ」
「淫乱だから」
「なるほどな、何て愛しいんだろう」
こういう時は、確かに自分がマゾヒストなのだなとディリータは思う。
しかし、いざはじめてしまえば、自分はマゾヒストながらにして、サディスト。ラムザの要求に全て応えているようで、しかし実際にはラムザを思うように操っているのだ。そうして、どれ一つとして不幸の無い形、恐らくはハート型が完成しているのだろう。
「もういっかい」
ラムザはディリータの耳元で悪戯っぽく囁く。
「僕のお尻に入れたくない?」
ディリータは苦笑して、もちろんですと応えた。
結局もう二度ほど、この章のごとき、身体を介した会話が行われた。ベッドがぐっしょりになるほど汗をかき、ラムザの思惑通りにディリータは翌日、ベッドから起き出す事が可能になっていた。
ただ、ラムザの身体にはやはり、伝染しなかったという事である。
それにしてもラムザとセックスをすると風邪をひく、そんなジンクスが出来そうな雰囲気さえ感じられる。自分が死ぬとしたら、やはり死因は風邪をこじらせて、だろうな。そんな事を考えていると、妙な笑みが浮かんできてしまう。風邪明け最初の風呂で身体の隅々まで洗ってもらい、二人してベッドに腰掛ける。
こうして、温かい身体を持て余し気味にしながら雑談する、何気ないコミニュケーション、身体を触れ合わせなくとも、それはそれで温かい。ラムザは自他ともに認める淫乱ではあるけれど、それでも十四歳の少年であるから、一応は、ごく普通の少年の部分も持ち合わせている。持ち合わせている知識では遥か上を行くディリータの話の抽斗から現れるいろいろの話題に、好奇心をそそられ表情を輝かせる。そうしていつも、恋慕の色を濃くした顔で、
「ディリータはいろんなこと知ってるんだねえ」
と感心しきった口調で言い、
「お前も本を読めば、これくらいすぐに身につくよ」
と言われるのである。
しかし共有して持つ知識であっても、語り手がディリータであるというだけで、それは二倍も三倍も賢いように見えるのだと、ラムザは思っている。どうせ同じになってもディリータの方が素敵なら、そんな努力はしなくて良いような気さえする。
窓外には四日ぶりの雪が舞っている。
「それにしても精霊か」
「全てものに精霊が宿っている、ってほんとだったんだね」
「考えてみると『精霊伝説』的なモノは結構あるよな。年老いた靴屋が眠っている間に靴の妖精がいい靴を仕立てるとかさ。考えてみると大体の幽霊妖怪の類は精霊が正体なんじゃないか?」
「幽霊妖怪、座敷童とか木霊とか人魂とか?」
「そうそう。座敷童は家屋の精霊、木霊は木の精霊で、人魂は人魂は何だろう、墓石の精霊かな」
「じゃあ、それこそ雪女は」
「そうだな、あのリュカみたいな、雪の精霊の中でたまたま美しい女の姿をした奴を見た奴が恐れて触れ回ったんだろう」
全てのものに、司る精霊が宿っている。そう考えるとエンピツ一本も無駄にはしがたい。
「本当はな、俺たちはこれまで、『精霊』というものたちの存在をほとんど信じて来なかったけれど、ちょっと前まではそんな事無かったんだろうな。考えてみると慣習とかにはそういった存在を重んじるものが多い。無意識のうちにやっちゃうけれど、ほら、小さい頃の夏の初めには必ず、泳ぐ前に神酒を献じただろ、水に。あれだって、献上する相手は水の精霊なんだよな。見えないものを大切にするという思想、実際にはいないのかもしれないけれど、いないということに甘えないで尊重する考え方って、古臭いけれど今でも大切にするべきだよな」
ラムザはうんうんと肯いた。ディリータの言った事の七割も理解できたという自覚はないが、多分恋人はいいことを言ったのだ。
「リュカ、今日も頑張って雪を降らせてるのかなあ」
ラムザは立ち上がり、真っ白く曇った窓をてのひらで拭って外を透かし見た。ようやく昼間に熔けはじめた雪の上へ、またしんしんと振り付ける白い雪。明朝はまた銀世界が広がっているだろう。
「綺麗だったよねえ、リュカ」
「ああ、まあな」
それに同意はするが、自分の痴態の一部始終を見られた相手である。ディリータは何となく、窓から目を逸らした。
「妬いてるの?」
ラムザはにっこり笑って振り向く。 いつの間にやらローブの帯を解いている、しかし、珍しくすぐには見せないで、大切な部分は布で隠している。
「別に。俺はお前よりも綺麗な人間なんていないと思っているからな」
「彼は人間じゃない、精霊だよ」
「同じようなものだろ」
恋人が不貞腐れたように笑うベッドへ、慰めるために戻る。そっぽを向いた頬に、唇を濡らしてから口付け、そのまま猫のように舐める。もう、前は肌蹴ている。
ディリータは顔を向こうに向けたまま、抱き寄せる。
「俺の事好きか?」
「もちろん」
「あの雪男よりも?」
「当たり前だよ。やだ、ほんとに妬いたの?」
「……」
「僕が好きになるのはディリータ一人だけ。後にも先にも、他にはいないよ」
「うん」
「大好きだよ」
「愛してる」
うん、愛してる、という言葉の変わりに、キスをして、ベッドにディリータを押し倒す。まだ乾かない蜂蜜の色と香りの髪が流れ落ちて、ディリータの頬を耳をくすぐった。
三十六度の体温が伝わる。
ラムザはディリータの唇に赤い舌を執拗に這わせて、ようやくうっすらと開かれたところに忍び込ませる。薄荷の香味は、同じものが自分の口の中にもあるはずが、また爽やかに感じられる。
性行為と、爽やかなミントの香りというのは、なかなかにミスマッチであるように思えるが、同じ身体で重なり合って入れて入れられて、これほどミスマッチな行為の前では、萎縮するかのようである。
ラムザの手が恋人のローブの裾から入り込み、一物を探り当てた。
「ひゃ!」
その瞬間、ディリータが女のように甲高い声を上げた。
「どうしたの?」
「ラムザお前、手、冷たい」
「あ、そっか、ごめんね」
冷たい手の一撃で縮こまってしまったところに、ラムザは温かい息を吐き掛けてから、融かすように舐める、口にする。ディリータの表情が和らいだ。
「リュカってさ」
口淫から手淫へと移り、一度ローブの袖で拭った口でディリータの首に跡を付けながらラムザはまた、雪男の話題に戻る。ディリータは複雑な気分ながら、まるで自分でしているかのような、しかし僅かにぎこちなく、その違和感が余計に快感を呼ぶラムザの手に惑う。
「あの人、勃起してなかったねぇ」
「なに言い出すんだまたお前は」
「んー? いや、性欲ないのかなあって」
くすっと笑って、袋を揉む、また屈み込んで、完全に勃起状態のものを口に含む。
「普通の人間は、男には欲情しないのが、普通だからな」
「んー? でもあの人僕たちのこと綺麗だって言ってたよ」
「社交辞令、みたいなものだろ。……なあ、もうこの話やめに、しないか?」
「……、でも、そんなつまんない事言う人かなあ。本気で綺麗って言ってくれたんだと思う、思いたい」
言葉を返すたびに顔を上げ、それ以外の時にはディリータのにしゃぶりついて深々と咥え込む。まるで口淫することが何でもないかのようなその態度は、ディリータとの行為が生活の一部となり、自分の習慣になり得たという幸福に満ちたものだ。ディリータとしては、何とも居心地の悪い会話の状態ではある。ラムザの顔を見れば、同時にみっともないほどに勢いづいた自分の性器とも対面しなければならないのだ。もちろん、自分のものに頬を寄せてもまるで平気なラムザは愛しくもあるのだが、口から出てくるのがあの雪男では。
「何かね、今考えてみるとちょっと悔しいかも」
「何が」
「うん。いや、リュカが勃ってなかったこと。君の綺麗な裸を見て、どうして何にも思わなかったんだろうって。ああなんかまた悔しくなってきちゃった」
「変なこと考えるもんだなあ」
「変かな。いや、変でもいいんだけど、本気でそう思う。あの人勃起させたいなあって」
「……。それは、あの男とセックスしたいって意味じゃないだろうな」
「まさか。言ったでしょ、僕は」
ラムザがしゃぶり付いて、顔を上下にテンポよく動かす。まだ少し冷たい指も袋に絡み付く。ディリータは間もなく射精、ただ、快感と愛情にあくまで惑溺してのものではなかった。
「俺だけで満足できないのか?」
精液を嚥下したラムザに、やや咎めるような味が言葉に混じるのに気づきながら、ディリータは言った。
「なんで?」
「だって、お前は」
「僕のこと信じてくれないの?」
「信じてるけど。お前はあれか、あの雪男と」
「そうは言ってないだろ」
「じゃあ、別にいいだろアイツが欲情しようがしまいが。関係ないだろう。今は」
ディリータの口調に、ラムザは少し怯んだ。表情の一瞬の変化に、ディリータははっとして、すぐに頭を下げた。
「ごめん」
「いや、ごめんね、ディリータ。僕が愛してるのはディリータだけなのに、変な事言ったりして」
「いや、いいんだ。俺がお前の事好きだからって、俺だけ見させようなんて考えたらいけないしな」
「そんなの。見させようなんてしなくても、僕は最初からディリータしか見てないよ、ほんとだよ」
ラムザはディリータに縋り付いた、ディリータがラムザを抱きしめた。
「僕、淫乱で露出狂だからさ」
「自分で言うのか」
「解ってるもん、僕みたいなのをきっと淫乱って言うんだ」
ラムザは曇りなく、ディリータは苦く、笑った。
「だからね、何ていうの、見られて嬉しかったっていうか。しかも、綺麗って言ってもらえてさ、リュカに。ああ嬉しいなって。だけどその割にあの人、全然勃起とかしてなかったじゃない? それが気になったの。どうせなら僕たちで気持ちよくなってくれたりしたら嬉しいのになあって」
ディリータはがくりと額をラムザの肩に乗せた。ラムザは邪気無くその髪を撫でる。もうだいぶ乾いて来た。
「結局何か。見せたいのかお前は。見られたいのか」
顔を上げてラムザの肩を抱いて、正面に見据えてディリータはずばり聴いた。
「うん」
ラムザは微かに躊躇いを見せはしたが、結局肯いた。
「すごい、ドキドキすると思うんだ。ディリータ大丈夫?」
「あー……、まだ生きてるよ。うー……」
「駄目かな」
ラムザは上目遣いでそっと尋ねて、
「駄目だよね」
と、打ち消しの笑みを浮かべた。
「大丈夫。僕、ディリータがいればそれだけで。ディリータに見られるだけでドキドキしちゃうし」
ディリータは眉間を押さえて俯いた。
俯いたまま、ちらりとラムザの下半身を伺う。
あらぬ興奮で、そこは血行の非常に良い状態になっている。先程、ディリータが一瞬の憤りを見せた時には、萎えていたのだが。
「ラムザ」
ディリータは手を外して、微笑んだ。そして抱き寄せて、キスをして、その場所に指を絡めた。
「お前の幸せのためなら俺は、どんなことだって出来るさ」
「ディリータ?」
「したい事があるなら、何でも俺に言っていいんだ。俺はお前を幸せにするために生きている。もうとっくの昔に、お前に命を捧げている」
「ん、にゃっ」
柔らかな刺激を与えつつ、耳朶を舐めながら囁く。
「愛してるよラムザ。な、見られたいんだろ? あの男に。見せてやろう、お前が見られて興奮して、ちょっと触っただけで濡らすような子だってことを」
先程自分がされたように、頬に口付け、そのまま舐める。
ディリータは諦めたように笑う。その表情はしかし、悪くないと本人思っている。自分はラムザの願いをかなえるために生まれてきた。ラムザの願いはこの身に代えてでも叶えてみせると誓った。守るだけではない、幸せにすること、それがディリータの恋人観だった。
ラムザは、ディリータを怒らせてしまったかと不安になりながらも、ディリータの広げた腕の中に改めて収まる。ディリータは慈しむキスを何度もラムザにあげて。しばらくラムザをぼうっとさせることを楽しんだ後に、腕を引っ張って立ち上がらせる。
「見せてやろう。ただし、迷惑をかけないようなやり方で」
ベッドから降り、部屋の明かりをすべて消す。カーテンを開く。
月のない夜でも、底の白い夜は驚くほど明るい。輝くような美を湛える中庭で、噴水も小川も凍りついている。そうして、一つ深呼吸をしてから、窓を開け放った。
途端、剃刀のような清冽な空気が吹き込んでくる。ラムザがびくっと首を竦め、咄嗟にバスローブを肩にかけた。
「思ったより……、思ったよりだけど、寒くないな。ひどく寒くは、ない」
ディリータは強がりを言って、ラムザを手招きした。ラムザは困惑した表情を浮かべながらも、ディリータに寄り添った。
「ラムザは? 寒くない?」
こくりと頷いて、ディリータの顔を見る。
ディリータはどこか、誇らしげな微笑を浮かべている。ラムザを見て、言った。
「ラムザは風邪ひかないんだったよな?」
「え? ……うん」
「その言葉を信じてるよ」
大きな窓の前に、ラムザを立たせる。ラムザはバスローブ一枚の自分の姿が、遮るもののない夜空に熔ける。ディリータは、後からラムザを抱きしめて、耳を下で擽りながら言ってやる。
「見てるよ。雪のあるところ、雪の精霊がいる。リュカはきっと、俺たちを見てる」
ちらちら雪が舞って、ラムザの身体に触れてしずくとなる。ラムザは誰も居ない夜に裸を曝し、胸を高鳴らせていた。清浄な処女雪が、欲情に穢れ焦がれた自分の身体に熔けて消える様が、非常に罪深いように思えると同時に、自分のいやらしさを溢れるほどに弾けさせているという自覚も芽生える。くすっとディリータが笑う。夜光の淡く彩るバスローブの前の、少し膨らんだところを指摘されたのだと気付く。ラムザは顔を赤らめる純情と、更にすくすくと育てる欲情を、ひとつときに刺激される。
「……見せてあげなよラムザ。お前のいやらしいところを」
ラムザは、躊躇する。
「構わないよ。したいことしていいんだ。お前の願いを叶えることこそが、俺の一番の幸せなんだから、さ、ラムザ、俺を幸せにしてくれ」
首を屈めて、冷えてしまいそうな細い肩に音を立ててキスをする。
スイッチだった。ラムザは赤らんだ頬を、白く流れる息が擽るのを意識しながら、バスローブの紐を解いた。しゅるっ、という音で、ラムザの砲身が濡れているのが粘っこく煌く。
「可愛いな、ラムザ。モノクロに見える、だけど、紅いね」
かすかな音を立てて自分の陰茎をこすり始める。自分を抱きしめるディリータの腕に暖かい手を重ねる。膝が震えるのを、ディリータは支えて、支えながら唇を耳元に持っていく。
「んん……」
悩ましげな声を立てる、弦は間違いなく反り立つペニス。かすかな濡れ音を伴奏にして、ラムザが甘い声で雪を熔かす。後から、一番近いところで、ディリータはそれを見る、ここよりほんの僅かでも離れたくはない。リュカが見ているとして、しかしそれでも、リュカよりも近くでラムザを見ていたい。恋人の媚態を見せるまでは、まあいいだろう、それを望んでいるのだから。しかし、触らせはしない。だが、そう思えばラムザの身体に触れた瞬間熔けてなくなる処女雪を鬱陶しくも思う。自分の心が特別狭いとも思わないが。
いや、自分は十分に、十分すぎるほどに、寛大だろう。
「あっ……、んっ、んん、んっ」
「いきそう?」
「んっ、もぉ、……出そう……」
「リュカが見てるよ、お前のことを」
「ふっ、ゃ、あ……」
「嫌なのか? そこ、そんな硬くして。見られてるって思うと気持ちいいって言ったの、ラムザだろう?」
ラムザの爪が腕に立つ。ディリータはぞくぞくしながらラムザの、冬に抗うようなペニスから、白雪と同じ色の蜜が、窓へ飛び散った。びちゃびちゃ音を立てて、ガラスに付着して、鈍く垂れ下がる。
「あ……」
ラムザは潤んだ目を瞬かせた。
「……子供たちよ……」
当のリュカが、眉間を抑え、窓外に浮遊していた。
ディリータは悪魔的に微笑んで、
「いかがでしたか。私の恋人は、冬への捧げものです」
「……」
しばらく俯いて、やがて銀髪をぐしゃぐしゃと掻き毟って、
「私に何の恨みがあるというのだ! 全く、そのようなもの、私に見せてどうしろと……どうしたいと言うのだ!」
瞬間、我を失ったように鋭い声を出す、が、ありありと動揺のわかる声の色、陶然としたままのラムザはもちろんのことだが、ディリータも、余裕の笑みを表情に貼り付けていた。
「特には何も。ただ、雪を汚した我らの罪を贖うために、雪の精霊リュカ、あなたに、我らの出来るただ一つの奉仕をしたまでのこと……、いえ、無論、この程度ではございません。我らは毎年、あなたの作り出す美を愛で、白く純潔なる雪に身を埋める悦びを享受しております、無論、この程度で終わることは」
ラムザから目を逸らしてディリータの言葉を聞くリュカに対して、傲慢な欲求が募るディリータは、自分の恋人がここまで自分を惑わせるのだと思っている。ラムザが惑わせ、生み出すベクトルは、何もすべてがラムザに向かうものではない。無論、最終的にはラムザ以外の誰にも帰結しなくとも、さまざまな迸りを見せるものだ。まるで飛ばすつもりのないところへ精液が飛び散って、シーツに染みを作るように。
ディリータはラムザを抱き上げた。
「きゃ」
「リュカ。そちらへ行ってもよろしいですか?」
リュカは、明らかにたじろいだ。
「……そのような格好で……、凍死したいのか」
ディリータは余裕の微笑を浮かべたままで、リュカの顔をじっと見つめる。
窓外、雪の勢いが弱まった。
「何と罪深い子供らよ」
リュカは顔を顰めて言い捨てる。
「ごらんのとおりです」
ディリータは動じない。
萎れて、掲げられたリュカの手から、柔らかい光がふわりと湧いて、ディリータたちの膚に寄り添った。ふっと、冷たさが遠ざかって、見えない触れない膜が自分の肌の一枚上に生じたような感触だ。ラムザはきょとんと目を丸くした。
「……知らんぞ。ついて来たければついて来るがいい」
リュカは音もなく、すいっと高みへ浮かび上がる。ディリータは少し右足に力を入れて踏み出すと、その身は中に浮いた。ああ、これはレビテトだ、そしてこのぬくもりは、シェルの衣に違いあるまい。高度な魔法を、呪文の詠唱なしで二つも使ってみせたリュカは、やはり雪の精霊なのだと、ディリータは恐ろしいような気持ちになる。しかし、震えることも、顔色を変えることもなく、ラムザを抱いたまま、リュカを追った。
リュカは暗闇に白い身体を浮かべて、弱い雪を降らせながら城の敷地を出、真っ白な雪原まで二人を導いた。そこは一年前の冬に、ディリータたちが行為をし、凍傷寸前にまで陥った現場だった。
ディリータとラムザの目は、リュカを見ていると、色盲になったようだった。足下は白、背景は黒、そこに、灰色のリュカがいるだけで、お互いの顔を間近で見て始めて、ほの赤い頬や唇に気付くことが出来るのだ。
「子供らよ……、何がしたいのだ。君らの愛し合うことは結構、私は何の否定もしないし、邪魔をする気は一切無い。ただ、私の降らせた雪を無駄に汚すことだけは止めてもらいたいと頼んだだけだ。それさえ守ってもらえれば、他には何も……」
無色の顔に、つららに滴るしずくのような汗がひとつ流れた。ディリータの胸に抱かれたラムザは、恋人と、リュカとを交互に見つめ、恋人の意図を測りかねた。
「私たちの愛し合う様が、あなたへ、雪へ、そして、冬への、何よりもの捧げ物となると、私は信じています。私の美しい恋人を、私の強く思う気持ちを、この冬に捧げ、永遠なる処女雪に、我らの愛の永劫尽きぬことを誓いたく思うのです。あなたは私たちのことを美しいと仰った。その言葉に偽りがなければ、我らの愛し合う姿の美しいことを、ここに存在する愛の清らかなることを、お解り頂けるはず」
リュカは、下唇を少し噛んで、何も言えない。ディリータは勝利を確信し、ラムザのことを雪の上に降ろした。さくり、裸足の下で雪がささやかな音を立てたが、ラムザの表情はきょとんとしたまま。冷たさは感じないのだ。
「そして、私はあなたにこの美しい夜に、私の恋人の味を少しでも教えて差し上げたい。私が冬に、そして春に夏に秋に、酔い痴れる悦びの欠片でも、我らに悦びを下さるあなたに捧げることが出来たら……」
ディリータはそう言う間も、リュカをじっと見つめていた。リュカは、強張った表情を浮かべる。僅かな脅えと、しかし肉体年齢相応の、「何か」が、銀の仮面の裏にあり、その縁から覗けるようだった。
「私はそのようなことを望んではいない」
「ですが、あなたは私たちのことを美しいと仰った」
「それは……」
「あなたも美しいものはお好きでしょう」
リュカは言葉に詰まった。ディリータはラムザに言った。
「甘美なる私のラムザ。お前のその舌で、リュカを満足させて差し上げるのだ」
優しい笑みの裏にある悪戯心にラムザは気付けないから、ディリータがなんだか判らないくらい強そうで、難しい言葉を言っている、ただしその意味だけは理解して、こっくりと神妙に頷いた。
リュカは、半歩、後退する。
しかし、ラムザはさくさくとリュカに近づいて、頭一つ以上長身の精霊を見上げた。
雪の止んだ、音一つない中で、リュカは自分の鼓動が溢れ出はしないかと危惧する。
「あの……、ええと……」
ラムザは素の表情で、今は大人しい体、リュカを見上げて言う。
「……雪を汚して、ほんとに、すみませんでした」
素直にぺこりと頭を下げるのは、これが二度目だ。
「で、あの、ディリータは、僕がその、リュカが僕らの、えっちしてるとこ見ても、何も感じてないのを見て僕が、ちょっと寂しいなあ、悔しいなあって思ったから、ああ言ってるだけで、ええと、……うー」
困ったようにディリータを振り返る。ディリータは、ふっと溜め息を吐き出して、うん、と頷く。ラムザも頷いて、もう一度、強張るリュカを見上げる。
「……あの、僕たちの、えっちするところ、見てくださいませんか? 僕ら、……あの、えっちするとき、もしも誰かに見られたらどうしようって思うようなところで、することが多くて」
「……よく知っている」
リュカは憮然とした表情で言う。
「あ……、そうだったんですか。って、そうですよね、冬に僕らが外ですれば……。でも、あの、それだけじゃなくて、僕、……見られると、なんだかドキドキしてすごく、感じちゃうんです」
あらぬことを平気な顔で口走る恋人の恋人なのだと自覚することは、ディリータにぴりりと苦い喜びか、それとも蕩けるほど甘い毒か。それでも真剣に考えたとき、やっぱりラムザと共に生きたい、生きて行きたいと思う以上、それが幸福であることも、言えば言うほど陳腐になろう。
「僕、こういう自分のことを、恥ずかしく思ったりはしません。僕なんかのことを、しかも、裸になって恥ずかしいような僕なんかのことを、大好きでいてくれて、ぎゅってしてくれるディリータがすごく嬉しいから。僕はだから、僕のことを見られるより、僕と共にいてくれるディリータの見られることが、すごくドキドキして、興奮するんです。だから……、勝手なことなんでしょうけど、僕はこの間、リュカが僕らのえっちしてるところを見てくれたって聞いた時、すごく嬉しかった。すごく、幸せだったんです。変な言い方だし、上手く伝わらないかも知れないですけど、僕は、あの、リュカに、すごく感謝しているんです。
だから、僕はあなたに恩返しをしたい」
リュカが何も言えないのを、ラムザは当然肯定と飲み込んだ。跪いて、リュカの細い足の根本、隠されもしない性の証に手をかけた。リュカが我に返ったようにびくりと震えるが、次の瞬間、ラムザはリュカの柔らかな陰茎を、口に含んでいた。
「っ、ちょっ……待っ……」
意識が吹っ飛ぶほどの快感を与えられて、リュカは声をあげた。ディリータは、深い溜め息を吐く。ラムザの尻が、物欲しげに揺れ始めるまでさほどの時間もかからなかった。
「っ……」
リュカはラムザを振りほどくことが出来なかった。若く青い欲望は、人間同様、精霊の中にも存在するから、甘い快楽は同じように甘く感じられるのだ。
「私は……、こんなことに興味は……」
言い訳がましい、そらぞらしい、自分でもそう思うのは、自分の陰茎が、ラムザの口の中で肥大し、硬直していくのをわかっているから。ラムザは一旦、熱い吐息と共にリュカを口から抜くと、蕩けそうな表情の中に隠しようもない喜びと、感謝の気持ちの入り混じった、嬉しそうな微笑みを浮かべて、リュカの顔を見、そしてリュカの冷たく硬い茎に、キスをした。リュカは言葉からはぐれ、ラムザのする奉仕を、ただ黙って受けるようになった。
ディリータは苦い思いをしながら、ラムザの尻を持ち上げた。
「ん……」
ラムザは、いつしてくれるのか待っていたのだろう、ディリータが手をかけても、何も驚いた様子は見せなかった。本当に淫乱。自分以外の性器を舐めている恋人の淡い色の菊門が、いやらしく蠢いて誘っている。ディリータはぺろりと舐めて、指を入れた。
「ん……ん……」
本当に気持ちよさそうな声を鼻から抜かしながら、ラムザは尻をひくんひくんと動かした。リュカは、ディリータがラムザの肛門へ指を差し入れていく様を見ながら、何故だか尚一層、快感が募りはじめるのを感じる。それはリュカ自身に同性愛嗜好がなくとも、反対側の季節ほどの開放的なパフォーマンスに感じるからだ。そして、もちろん淫乱ゆえに絶妙としか言い様もない、ラムザの舌の蠢きによる。ラムザは大きなリュカの性器の裏側の筋を、ちろちろと舌で往復する。ディリータはそんなラムザの後頭を新鮮なものとして見ながら、ラムザの後孔を慣らす。上の口ならば構わなかった。しかし、こちらの口だけは、やはり自分が独り占めするのだ。こうして近くで見るリュカの陰茎が、年齢的なものもあろうが、自分のより一回り大きいのを見て、ラムザがそれを欲しがらないとも限らない、ならば、今のうちに塞いでしまったほうが早い。指を二本に増やすと、ラムザの声の漏れるヴォリュームが高くなった。
ラムザはリュカを再び咥え込む。咥え込んで、口で扱く。じゅぷじゅぷと音を立てて、口一杯、深々と頬張った男根の、亀頭の裏を唇で舌で口全体で奉仕する。こうして男性器をしゃぶっているだけで、ラムザのくらい欲求は首をもたげる。ディリータの弄る尻の中がむずむずして溜まらない。早くディリータのものが欲しい。不思議とラムザは、リュカのものが欲しいとは思わなかった。
ラムザの尻の中を十分に広げて、ディリータは熱く滾った自分のものを取り出す。ラムザの後の口は、誘うようにきゅ、きゅと短いリズムで動く。中の具合のとても好い事はもう知りすぎるくらい知っていることだが、こうして見ると、やはり本当に良さそうで、いつだって入れていたいものだと改めて思う。ディリータは、少年の欲求に負けて、亀頭をラムザの菊門に押し付けた。ラムザは肛門の入り口へと与えられたディリータの熱さに、リュカの尿道口から滲み出た汁を舌に絡み付けながら、
「んん!」
と声を上げた。溜まらずリュカのものを再び口から外す。ディリータに身体を支えられていないと、崩れてしまいそうになる。ディリータはラムザの内部へ腰を押し進め、奥をゆっくりと突き上げる。ラムザは、義理堅くそれでもリュカの性器に口を当てる。
「……何という子供らだ」
リュカは上がった息を隠せない。
「……その体勢では辛かろう……」
息の落ち着かぬまま、溜め息を吐いて、雪の上に身体を落した。ラムザを支えたディリータも、膝を突く。ラムザはリュカの股間に、顔を埋めるようにして、口での接触を再開した。しかし、楽な体勢になったとは言え、胎内でラムザを壊すディリータの肉塊が脈動している。リュカへの口淫は、しゃぶるよりも舐めることに重点が置かれるようになる。リュカのつるりとした紅い亀頭へ、ぺろぺろぴちゃぴちゃ、アイスキャンディを舐めるように、舌を回す。リュカは、ほぼ無意識に、ラムザの頭に手を置いた。
「……はあ……」
リュカは、困ったように息を吐いた。
そうして、切なそうに眉間に皺を寄せる。ラムザが顔を上げた。
「リュカ……、出して、ください。僕の……口に、リュカのを……」
「君には……、君を、いま、こうして抱いている恋人がいるのだろう、なのに何故、私など……」
「僕も、僕の恋人も、あなたに見られて、感じていただきたいと思うからです」
そう言って、それ以上は無かった。ディリータはリュカへ奉仕するラムザへの配慮として、腰を止めた。ラムザはその隙に、リュカの茎をまた頬張ると、絡めた右指で根本を扱きながら、苦しげに頭を上下させた。
「……」
リュカの顔が、苦しげになった。
そして、短い息と共に、ラムザの口の中へ、冬の精が発射された。ラムザは動かすスピードを緩めながら、零さないようにして口から抜き取り、口の中へと出された蜜を飲み込む。しかる後、まだ滲むように出てくる精液をも、残らず舐め取る。僅かに纏ったものすらも、惜しむように、茎へ舌を這わせた。
「う……っ、……」
初めてリュカが、悩ましげな声を上げた。ラムザはちりちりと火のついたように、焦がれながらリュカの性器を飽くことなく舐めつづけた。
「ラムザ……、リュカのおつゆ、どうだ?」
「……ん、……いっぱい……、でも、すこし、つめたくって、……」
「そうか、よかったね、お前で出してくださったんだよ」
「ん……、ひゃ!」
ディリータの指が、ラムザのをくりっと弄った。途端、ラムザの腰が跳ねた。
リュカは、淫乱そのもののラムザに射精まで追い込まれた罪悪感と、あまりに大きな快感とに、いまだ自分を取り戻せずにいた。脅えたような目で、次の快感へ身を翻すラムザを見る。
「愛してるよ、ラムザ。俺はお前のためなら、何でも」
手のひらでラムザのことをいかせながら、ディリータは言う。ラムザはぶるっと震えて、肩越しに、涙に濡れた顔を見せて、切なげに「顔見ながらがいい」と。
「朝飯前だ。お前の幸福をかなえるためにいるんだから」
気障たらしくディリータはそう言って、ラムザと身体を組替え、膝の上に載せる、その時に、バスローブの袖でラムザの唇を拭った。
リュカが、ゆっくりと立ち上がる。疲れきったように二人を見下ろす。ディリータは微笑んで、言った。
「ご堪能いただけましたか」
「……うん」
リュカは、溜め息交じりにそう返答し、
「魔法の衣の効果は、三十分もすれば切れる。風邪をひかぬうちに戻ることだ」
がっくりと、なんだか元気なく肩を落して、リュカはふわりと浮き上がる。
「さらばだ子供らよ。……まあ、何だ、そういう愛のあることは解かった、そういう喜びのあることも解かった。そして、お前たちのお前たちなりの、感謝の気持ちも私は受け取ったつもりだし、お前たちの欲求を満たすことが出来たつもりもある。だから、これ以上私にものを求められても困る。ただ私は雪の精霊、この季節に、雪を降らせることが私の職掌である。つまり、あー……、あまり、子供のうちからそういう危うい遊びをしないほうがいいということだけは、忠告しておこう、では……」
去りかけたリュカを、ラムザの声が止めた。
「あの……」
繋がったままだから、白い息が乱れて流れる、声も震える。
「……僕で、気持ちよく、なってくださいましたか?」
リュカは、何か口篭もる。そして、かっとしたように、
「堪能したと言ったではないか」
と鋭い口調で言い放った。
「ま、またいつか……、お会い、出来ます、よね?」
「……」
リュカはラムザを、ディリータを順に、格好ばかりは鋭く睨みつけ、
「……、精霊は本来このように人間の前に姿を表すような存在ではない! しかし、その……なんだ」
途中までは威勢良く言った。
「……君たちには、姿を見られるどころか……、ええい、もういい、私は仕事があるのだ、こんなことをしているヒマはない。相手は仕事の無いときにしてやる」
いつの間にやら、雪が止んでいた。上空からは半月が覗いている。リュカは怒ったように背を向けて、夜空に溶け込み見えなくなった。
ディリータはまた風邪をひいた。予想通りといえば予想通りで、この季節にラムザと外でセックスをすれば風邪をひくというのはお約束である。こうしょっちゅう風邪をひくものだから、ベオルブ家に使える従者たちのうちに、まだ年の浅いものは、ディリータがラムザのナイトでありながら病弱なのではないかと疑うものすらいる。無論、メイド長のマリアなどは、ふんとにもうっ、と腰に手を当てて、ラムザに氷嚢を持たせる。
「あったかぁい」
「……さむい……」
ラムザはもちろん裸になって、ディリータはいやいや裸にさせられて、二つの裸はくっついて離れない。昼間ずっと寝ているディリータにあわせて、昼間ずっと寝ていたラムザは、眠れないディリータの側で、眠らない。もう日付が変わった。外は雪の止んだ暗闇、風の音がする。今宵は風の精霊の出番に違いなかった。
ラムザはもう二時間もディリータと膚を重ねていたが、ディリータの熱は一向に下がらない。ディリータが風邪をひくのはいつものことだし、結局のところ丈夫なマゾヒストであるから、決して深く心配することはしないし、心配すればするほどディリータが困るので、しないよう努力もしているのだが、やはり苦しげに咳をしたり震えたりする様子を、あまり長く見たいとは思わない。見ないためには、当然この季節に屋外でセックスをすることを控えるのが一番だが、それが今の自分に出来るとも思えないラムザだった。
「……んー……」
ラムザは少し考えて、ディリータの布団から降りた。ディリータは腫れぼったいような目でラムザの尻を追う。ラムザはディリータに振り返り、「だいじょぶだよ」とにっこり微笑んで、カーテンを開き、窓を開けた。たちまち剃刀のような鋭い氷風が吹き込んでくる。
「な、な、なにがだいじょぶなんだよう」
弱々しい声を出したディリータに振り向かず、ラムザは両手を窓外へ出した。
「雪の精霊リュカ、我らの元へ姿を現したまえ」
面倒臭そうに光が生じるのを、ディリータは見ていた。
「……精霊を何だと思っているのだ、君は」
リュカは苦々しそうな表情でラムザを見た。
「大体……、何故裸なのだ、こんな寒い夜に! 風邪をひいたらどうするつもりなのだお前は!」
「はあ、あの、風邪、ひいちゃったんです、ディリータが……」
「何……?」
リュカの目が、部屋の中で薄く目を開けるディリータの苦しげな顔に辿り着いた。リュカはそれを見て、ふっと笑った。
「自業自得というやつだな……、所詮は子供」
「あのう、ディリータの風邪、治してあげてくれませんか?」
リュカの顔が、再び強張る。
「精霊を風邪薬や氷嚢と同じに扱おうと言うのか」
「いえ、あの、そうじゃなくって……、いや、ダメならいいです、ほんと、すいませんでした」
「……駄目とは言っていない……。雪遊びが結果で子供が風邪をひいたなら、その原因の一端は私にもある。ましてや、君たちが風邪をひいたのは……」
言いかけて、先日の、自分を含め乱れた様子を思い返し、何も言葉が続かなくなる。苛立ったように手を掲げ、息を吸い込む。ベッドに横になっているディリータは、自分の身体の中から震えるような寒さがなくなったように感じた。
「……大人しく寝さえすれば、明日の朝には治っているだろう」
「ほんとですか?」
「あの子の体内から冷気を抜き取った。あとは身体に備わった治癒能力が働く」
「あ、ありがとうございますっ」
ラムザはぺこりぺこりと頭を下げた。
「ただ……、君も服を着て眠りなさい。でないと、間違いなく伝染……」
「うつりません」
ラムザはきっぱりと言い切った。
「僕、馬鹿だから風邪ひかないんです。こう見えても丈夫なんですよ」
「……」
「だから、安心してください。ほんとにありがとうございます。リュカ、このご恩は忘れません」
リュカはしばらく憮然とした顔をしていたが、やがて、あきれたように微笑んだ。
「どうも、この冬の間だけでも、まだあと何度も、君らと顔を合わせることになりそうだな。来年以降も」
「楽しみです。僕、雪が大好きなんです」
「子供たちは皆そう言ってくれる。ありがたいことだ」
リュカは微笑んでそう言って、ふわりと身を離す。
「では、さらばだ。もう寝なさい」
ラムザは窓とカーテンを閉め、ディリータの布団に戻ってきた。
「うわ」
「ん?」
「ラムザお前、すごい冷たいよ」
「あ、ごめん」
「ほんとにそれでよく風邪ひかないよ……」
ディリータの声に張りが戻ってきたのがとても嬉しい。ラムザは少しの間を置いて、ディリータに絡みついた。
「ディリータ、大好きー」
「俺もお前のこと大好きだよ」
ちゅ、ちゅ、甘えるように可愛らしいキスを二度して、ラムザはディリータの肌のぬくもりで心を温める。ディリータは、ラムザの身体を抱きしめて、身体の上に載せて、もう一度キスをもらい、風邪が良くなればまたラムザを一杯に感じられると、夢想しながら目を閉じた。
雪が降るのを見るたびに、ラムザとディリータは顔を見合わせ、「リュカが降らせているのだ」と思う。ディリータは申し訳ない事をしたという気持ち、ラムザはほんとにありがとうという気持ち。共に、若さだけを言い訳には出来ないような冬の一小出来事によって、その目で確かに見た、「精霊」という神秘に、イキイキとした感動を覚えていたから。世界各地に残る精霊伝説に、記されることは絶対にありえぬこの事件は、しかし、二人の胸に確かに記憶されている。
いや、記憶されるというよりは、常に新しく、二人のノートに書き加えられていくと言った方がいいかもしれない。
さすがにセックスに巻き込むのは申し訳ないからよそうとディリータが諭す、というより懇願したから、ラムザは雪の日の屋外でセックスをすることが少なくなった。その代わり、雪の降る夜にラムザは必ずと言っていいほど、カーテンを開け窓を開け、雪の中庭に向かって裸体を曝す。きっと見てる、リュカが見てる、そう思いながらすると、汗をかくほどの熱さが生み出される。と言って、やはり中庭や雪原に出て、する前に「すいません、でもします」、リュカに頭を下げて謝ってから、することもある。そうして、約束どおりディリータは風邪をひくのだ。しかし、二人がしている最中、雪は止んでいる。リュカが雪を止ませてくれているのだ、近くにいるのだ、そう信じることにしているラムザだった。
「こう、何度も何度も見せられるというのも……、何とも……」
リュカは姿を夜に溶け込ませたまま、一人胸の裡で呟くのだった。しかし、確かに仲良きことは美しき哉、そこに存在する愛の形は、同性愛者ではない、と言うよりは、人間ほど性欲の盛んではない精霊のリュカにとっても、好ましく、存在自体は認めること吝かではない種類のものなので、結局のところ、ラムザの欲求に答えるように、中庭の闇に身を溶かすのが常になってしまった。そして春に一度は終わるけれど、二人の関係の続く限り、冬にはこの、微妙な仕事を担ぐことになるのだろうと思うと、リュカは、気が重いような、軽いような、訳の判らない気分になっていくのだった。