茘枝

暖炉の側の床にクッションを五つ、つまり部屋にあるものを総動員して並べ、その上に小さな体を丸めて乗せて、右手には珍しく活字ばかりの本を持ち、左手は季節はずれの茘枝の皮を剥くのに躍起になっている。南国から氷付けになって送られてきたそれの、赤く見るからに頑丈そうな皮はまだ固く、彼はしばらくの間それを握り、手の熱で何とか溶かしてやろうという魂胆らしかったが、五秒経たぬうちに冷たさに顔を顰め、結局は自然解凍に任せることに。眉間に皺を寄せたまま、書に目を向ける。絵本ばかりを追うはずの目が。珍しいことだとディリータは微笑み紅茶を飲み、観察を続ける。どうせ五分も経てば、そう思って、自身の本を暫し置いて、その大きな瞳が黒目が、注意深く文字を読み進めていく様子を眺めていたのだが、待てど暮らせど倦む様子は見られない。意外なことに覆された予想がうれしくて、ディリータは再び自分の書に目を戻しかけた。が、恋人の左手が虚空をさまよい床を引っかく音に、目を戻す。皿の上に、しっとりと濡れて転がる赤黒い身に細い指先が触れると、手探りでそれを摘み上げ、もう固くないことを知るや、今朝のうちに全てディリータが切り揃えた後の爪を不器用に立てて、皮を剥いてゆく。一部潰れた果肉から白色の果汁が滴り落ちる。指の股まで滴り落ちて濡れるのも気にせず、右手の本からは相変わらず意識を逸らさず、力づくで皮を引き剥いた。球形をかろうじて止める果実からぽたぽたとつゆが垂れ、セーターを濡らしているのにも気付かず、口に運ぶ。口の端が濡れてしまってから初めて袖で拭い、甘い実を舌の上で転がす、一応全て生え変わってはいる歯でぷつりと音を立てて噛む。口中に溢れた幸福な香りの果汁に、知らず表情をほころばせながら、彼は口を動かす。しかし、一瞬目を丸くすると次の瞬間には、砕かれた小さな固まりを小皿に吐き出した。彼は激しく顔を歪めて本を放り、泣きそうな目で傍らのミルクティに手を伸ばし、一気に二口、飲み下した。声とため息を混じらせた吐息を吐いてから、ようやく、クスクス笑って自分を見ていた恋人に、責めるような挑むような目付きをくれて、放って閉じられてしまった書を手に取った。ディリータは目尻に堪った愉快な涙を拭い、許しを請うように隣の床に横たわると、ズボンのポケットで拭こうとした左の指を取り、咥えた。そして赤い実を、丁寧に剥き、中の苦い種も取り除いて、恋人の唇へと押しやる。空いた手は、恋人がすでに忘れたかけた右手の本を奪い取り、しおりをして脇に追いやった後で、その魅力的な金色の髪を撫でる。果汁に濡れた唇を暫し味わった後で、想いもよらぬ愚痴を零された。そして、しかし歓迎の抱擁を、ディリータは受けた。――僕の読書の時間を奪ったな――


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