今日もラムザは来ない。ディリータは、この三日間というもの、夕食後一度も部屋に入ってきてくれないラムザに、やはり少し寂しい想いをしていた。いつもは八時か九時位になると、ぶかぶかパジャマのラムザが大きな枕を抱えて、それはそれは可愛い笑顔で「いっしょに寝よ?」と言いに来るのだが。
まさか俺のほかに好きな奴でも出来たんじゃ……。
ディリータの脳裡に嫌な予感が過ぎる。しかし、学校帰りにはここ三日間も変わらずキスをしているし、 手を繋いで帰ってきている。風呂だっていっしょに入った。それに、ラムザを好きになる条件と言うのは意外と多い、まずこの甘えん坊な性格、半数以上の女性が拒絶するだろう。その点、安心といえば安心なのだが。
いつものように、「えっちしよ?」と甘えてきてはくれないのだ。
ピンク色の乳首を撫ぜられるとすぐに声が濡れてきて媚びたような目でディリータを見あげる。更に舌先で胸の先を突くと、耐え切れなくなった戦慄く唇は下半身への愛撫を乞い、おあずけをされると、自分の指で快感を追い始める。震える蕾に人差し指を押し入れ、見られながらも、貪欲に到達を求め踊り狂う姿は、ディリータの胸を激しく締め付けるのだ。
……その、姿が見たい。
などと、普段は考えもしないような溜め息を吐いている事に、苦笑しながらもしかし下半身は疼いて。別に三日間くらい我慢出来ないことはない、 その気になれば一週間くらいは。けれど、すぐ側に恋人がいるのに出来ないというのは、非常に苦痛で。実際、それはラムザだって同じはずなのに。 きっと、自分から「しよう」と言えば、嬉しそうに頷いてくれるであろうことは容易に想像出来るが、どうもそれはしかねる。普段「えっちだなぁ、ラムザは」などと言っている方がやりたがっている……ラムザに「ディリータのえっち!」と笑われるに決まっている(それでもやらせてはくれるだろうが)。
自慰に走るのも何だか虚しい、どうせ頭で思い描くのはラムザの裸や、声だったりするのだから、だったら恥を忍んで素直に言いに行く方がいい。だがそれは。
「……どうしよう」
行くべきか、行かざるべきか、それが問題だ。結果的にはいくことに変わりなくとも。ラムザは、ほぼ間違いなく溜まっているはずだ。いや、仮に溜まっていなくともやりたがるのがラムザだ。しようと言えばやはり多少、からかわれるかもしれないが、それでも快諾してくれるであろうことは、ほぼ間違いない。 そうすれば、ラムザの裸はディリータのすぐ目の前。ディリータの為だけに舞い踊る。柔らかな唇にキスをして、甘い舌を絡め、もうそこから先は自由。
「いや、しかし」
上げかけた腰を、またぱたんと落す。もう少し待ってみればきっと、ラムザは甘えに来る、ハズ。推測に過ぎないが、我慢強さなど微塵もないラムザ、三日も溜め込んでいれば、いい加減、勉強や読書(絵本)など手につくはずも。
そうして、また完全に勃起した自分を抱えて、待ちの体勢に。しかし、焦れた熱が自分の腰の回りをうろうろと泳ぎ回っているのが分かる。ラムザの顔を思い浮かべただけで、感じてしまう。
「……でも」
立ち上がりかける。やはり、こういうストレスは溜めない方が良いのではないか。
「…けど……」
にっこり笑って「もう、ディリータはえっちだなぁ」と言われそうなのはちょっと。
……それからも、立ったり座ったり。ある意味立ちっぱなしではあるが、とにかく情けない理由で起立着席を繰り返すこと七回、凡そ十分を要した後。
「……ラムザ」
ディリータは低く唸り、立ち上がった。今度は再び座ることはなかった。
ノックして部屋に入る。ラムザはにっこり笑って「どうしたの?」と尋ねてくる。淫魔の笑顔、なのに、見た目上は限りなく純粋だから、純情な――少なくとも本人はそのつもりの――ディリータは言葉に詰まる。
「その………いや、別に、特に用って訳じゃ……」
「そう? ……でも、暇なんだね。じゃあ勉強教えてよ」
ラムザは机上に広げたノートを指差して、言った。珍しいこともあるもので、この勉強嫌いのお坊ちゃんは、よりによって一番苦手な算術の学習に勤しんでいる真っ最中らしかった。 ディリータは下半身を誤魔化す為に ポケットに手を突っ込んで、へぇ、と感心する……振りをした(実際そんな余裕はないのだ)。
「珍しいな」
言われて、少し照れくさそうに。
「うん。あんまり、君や父上に心配かけたくないしね。……それに、父上最近、何だか元気が無いみたいなんだ、調子良くないって言ってた。だから、テストで良い点取って、元気付けてあげようと思って」
……いい子だ。ディリータは思わずじーんとしてしまう、そして下半身も痛みを抱えてじーんとしている。咳払いを一つ。
「それで。どこが解からないんだ?」
出来る限りパッパと終わらせて、作戦を実行しよう。作戦と言っても、ラムザにキスして「しよう」とヒトコト言うだけだが。
「ここの、関数の問題が解かんないんだ」
椅子を並べて、問題を覗く。
「ああ……。コレは、α=2でβ=5のときの最大値を求めれば良いわけで」
疼く下半身。ノートを覗き込むラムザの、微かに香る髪の匂い、愛らしい横顔。
「なるほど。じゃあ、これは? α=3のときの……」
機械的に解ける種類の、算術という教科でよかったと思う。もし国語とかだったら、集中しないと駄目、この状態じゃまるで解けまい。
「あ、あとこの問題も」
一問解くとまた一問、ラムザは次から次へと問題を提示する。やる気満々、勉強をする目が輝いている。こんなことって、初めてだ、ディリータは苛立ちながらも驚いていた。勉強大嫌いな子が、誰かのためにこんなに頑張れるなんて。しかも、質問まで飛ばしてくる。
「え、だって、この関数は最大値8なんでしょ?」
「だから、それはこっちの値が2の時で」
でも、こうやって殊勝な所は、少なくとも今は要らない。今は悪い子な部分が欲しい。というのはとんでもない願いだと、わかってはいるけれど、でもやはり、欲しい。
「……なぁ、ラムザ?」
大きく深呼吸をして、ディリータは訊ねた。
「……少し、休まないか?」
「何で? まだ半分もやってないんだよ」
目眩を感じた。はあぁ、と大きく溜め息を吐く。
逆にこちらが勉強嫌いになりそうだ、ディリータは少し本気でそう思った。 下半身の勢いが止む気配はない。ピッタリ隣り合わせで、優しい匂いを嗅がされて、そしておあずけ。いつもラムザがおあずけされてる時って、こんな気分なんだろうな。
ディリータは、意を決して言った。自分から誘うのなど、いつ以来だろうか。毎回ラムザが甘えてきて、その結果で、という感じの自分たちだから、ものすごく珍しい事なのである。
「ラムザとしたい」
「……?」
ディリータは少し顔を赤らめて、ぼそりと言った。その「ぼそり」を聞き取れず、ラムザがきょとんとした顔で振り返った。
「なに?」
中身がどんなに黒かったとしても、表情は純潔。それがラムザ・ベオルブ十四歳。で、その顔でちょっと首を傾げさせて綺麗な顔で純粋な顔で聞き返されると、自分の汚さが浮き彫りになってしまう。 けれど、下半身に急かされるように、ディリータは、今一度。
別にここで実力行使に出ても構わないはずだが、以前にそれをやって泣き出されたことがあるから、やりかねるのだ。
「セックス、したい……」
やり始めればたちまちディリータのしたいように出来るのだが、そこへ辿り着く段階が恥ずかしい。顔を赤らめて少し目を逸らして言うのは明らかに純情少年。
「そ、そのっ、お前がここのところ、しようって言ってこなかったから、その、だから」
赤くなって言い訳する。ほら見ろやっぱりやめておけばよかったんだ、内心で囁かれて後悔する。ラムザはじーっとディリータの顔を見詰めていたが、やがてプッと吹き出した。
「わ、笑うなよっ、普段はお前の方がやらしいんだからな!」
「笑うよっ、だって、ディリータ、なんか可愛いんだもんっ」
笑って、涙を拭いて、ラムザは真っ赤なディリータの下半身に触れた。ジーンズの中に張り詰めたそれの自己主張、かなりキツそうな雰囲気。
「ほんとだぁ、おちんちんかちかちになってるね」
「だ、だって……」
「そうだよね、三日もしてないんだもの」
ラムザはそのズボンのボタンを外し、ジッパーを下ろし、欲求の矛先に触れた。それだけで、ディリータのそれはひくっと震えた。
「なんか、ディリータじゃないみたい。こんなに僕のこと、求めて。いっつも逆なのにね」
くすっと笑って言われ、何だか陵辱されているような気分になってしまう。
「ディリータ、いきたいの?」
「だ、だから、そう言って」
「わかった、いかせてあげる。えっちなんだから、ディリータは」
予想通りの科白。 ラムザはにっこり笑ってディリータにキスし、重ねたまま握り込んだそこを動かし始めた。キスをしながら、辛そうに顔を顰めたディリータに、ラムザも下半身に疼きを感じた。……この三日間、慣れない勉強のせいで疲れが溜まって、セックスの事は――驚くべきことに――頭から抜け落ちていたのだ。
考えてみればディリータと繋がるようになってからというもの、三日も間をおいたことは無かった。
「ラムザ、俺」
「わかってる。お口でしてあげる……、ん、……ディリータのおちんちん、おいしそうだよ」
椅子から下りて、ディリータの足の間に身体を入れ、舌先で遊ぶように先端の裏側を舐める。紅く腫れ上がったそこは一刻の猶予もままならぬ様子で、それを知ってラムザはわざと焦らした。思い付いたように袋を口に含んだり、溢れてきた露を拭ってみたり、ディリータの表情が、普段からは考えられない程に艶を含んでいるのを、面白そうに見ている。あんなに男らしくてカッコいいのに、今は僕なんかに踊らされてるんだ、そう思うと、気分がいい。
「俺、もう我慢、出来ない……
請うディリータの声は、彼自身赤面してしまうほどに掠れ、濡れていた。眉間に皺を寄せ、紅い頬、正直、ドキリとラムザの胸は高鳴った。
「お口がいい? ……それとも、僕の中でいきたい?」
訊ねたラムザに、苦しげに応えた。
「お前の中……」
やはりどう考えてもそちらの方が気持ち良い。
はじめて見るような表情――実際にはいつもセックスのときにしている表情、ラムザに見る余裕が無いだけのこと――を見せてくれたお礼に、ラムザは裸になり、自分で舐めた指を股の下に入れ、入り口を広げる。そして跨り、ゆっくりと腰を落していく。
「は……」
ディリータに支えられ、根本まで埋め込まれ、深く息を付く。既に限界近くまで張り詰めていたディリータが震えているのがダイレクトに伝わる。ディリータはもう無我夢中でラムザの太股を支え、上下に揺すった。
「んっ、あっ、あぁっ」
「……んっ」
何往復もしないうちに、絶頂を迎えたディリータから白濁が放たれ、ラムザの胎内を満たした。
ラムザもその刺激に大きく身体を痙攣させた。「…ラムザ……ごめん…その」
バツの悪そうな声が後ろから。余計な謝罪をキスで留めて、にっこり笑う。
「そのかわり、僕のこともいかせて?」
「ああ……、お前も、溜まってるんだろ?」
ふたりでいく瞬間、キスをした。解けてから、また抱き合って、まだ体の中に残る快感を二人で味わう。 思い付きでキスをして、髪を撫でてもらって、頬に頬を摺り寄せて、まるで子供みたいに甘える。
「ディリータがあんなに早いなんて知らなかった」
くすっと笑って言われ、ディリータは顔が少し紅くなる。
「……しょうがないだろう、溜まってたんだから。普段はお前の方が早いんだぞ」
「まあ、そうだよね。僕はディリータみたいに強くない。……でも、今日のディリータ、何だか本当、すごく可愛かった。だけど、おちんちんかたくてあつくって、気持ちよかったよ」
いつも可愛い可愛いと言っている相手にそう言われるというのは嬉しいような ……少しいやかなり、複雑な気分。
「ディリータも、お尻に入れてみる?」
「な」
唐突な提案に言葉を失う。
「すごい気持ちいいんだよ、今度一度、してみようよ」
言い出したラムザはそれはそれは無邪気な笑顔で。いつも入れられていて慣れてしまったからか、 もうそれは何てことのない事のように、気軽に。
「……一応、考えておくよ」
もちろん、全く乗り気ではない。もしも本当に気持ち良かったとしても、ラムザは多分、ディリータに入れた途端、震えて到達してしまうだろうから、セックスにはなりそうもない。 いや、でもそんなラムザも、可愛いかも知れない。
「どっちでもいいや、大好き、ディリータ」
ぎゅーっと抱き付かれる。その、優しい、甘いような香り、三日ぶりに嗅いで、ようやく、本当の意味で解放された気になる。
「今度のテストねぇ」
「うん?」
「僕、絶対ディリータに追い付いてみせるよ、いっぱい勉強して、 オール80くらい取れるように頑張るからね」
ディリータはクスッと笑った。
「何さ」
「いや。別に、平均点取れてればいいぞ、俺は。お前が怒られない程度の点なら、な」
釈然としない顔でディリータの目を見るラムザににっこり笑って。
「俺だって、あまり溜め込みたくないからな。勉強より、俺の相手を」
ラムザは微笑んで、ちゅうっと音を立てて、頬に唇を当てた。
しかし……これでもし、次の試験で赤点などということがあったら、俺はどうなってしまうんだろう。