ディリータは戦いの真っ最中だった。襲い来る熱波と、徐々に体力を奪い行く気だるさと対峙し、剣を振り石を投げている。幾度となく敵からの攻撃を受け、既に意識は朦朧、目は霞み、口の中は乾ききり味方の戦力を鼓舞する歌も歌えない。
「うう……」
惨澹たる状況にディリータは思わず呻き声をあげた。
……ここで負けるわけにはいかない、ここで負けたら、俺は……俺は……!
しかし身体は既に鉄のように重たい、全身が縛られたように痛い。安定した呼吸すらままならない。死ぬのか。
ディリータの脳裡に、その単語がおぞましいまでのリアリティを伴って出現した、死ぬのか、と。
イヤだ、俺はまだ死にたくない!
「っ……イヤ……だ」
絞り出すような声を上げれば、その事実から逃げ出せると思っているかのように。
「嫌だッ」
俺は生きて帰るのだ、生きて帰って、また、ラムザの隣で……。
「ディリータ」
「……ッ、イヤ、だ……ッ」
ディリータの上に乗っかって、その辛そうな顔を覗き込むラムザ。
ディリータは夢の中の魔物たちと死闘の最中で、霞んだ目を開けつつも、意識は実世界にはない。
「ディリータってば」
「っ……ぅっ」
「起きてよ、ディ、リ、ィ、タ!」
頭をぶんぶんと揺らしてやると、ようやくぱかっと目が開いた。彼は今、悪夢の戦いから生還を遂げたのだ。
「ら、むざ……?」
「ディリータ、どうしたの? こわい夢見てたの?」
可哀相なディリータ、とラムザは両手でその頬を包んで、唇を唇に押し当てた。
湖から帰ってきて、熱を出したのはラムザではなくディリータだったのだ。ずっと続いていた頭痛はお坊ちゃんの我が侭のせいだと思っていたら実は、風邪によるものだったのだ。
体温計では計れないほどの高熱を出し、三日三晩寝込む羽目になった。
「先生のおクスリがきいたのかな」
額に額をコツンと当ててみると、もう自分とたいして変わらない。仄かにディリータの方が温かい程度。これならもう安心だ。
「……どう、した? ……」
ラムザの口付けを安らかな顔で受けて、右の頬に触れた手に手を重ね、掠れた声でディリータは訊ねた。
「アイスクリーム、持ってきたんだ。喉乾いてるだろうと思って」
言って、サイドボードの上の銀のカップに乗せた白いクリームを指に絡める。
「……ありがとう」
ディリータの口腔に指を差し入れて、舌の絡み付く感覚を楽しみながら喉を潤してやる。
細かいことを気にする余裕もない様子で、ディリータはとろんとした目でラムザが甲斐甲斐しく、指にアイスを絡め自分に与えているのを見ていた。
「ごちそうさま……。ありがとう、美味しかったよ」
唇の端を拭かれ、首筋の匂いを嗅がれる。
「汗臭いだろ?」
「ん、少し。僕は好きだけどこの匂い、でも……着替えた方がいいよね」
「だろうな」
たっぷり汗をかいたから、熱も下がったのだ。汗でパジャマが身体に張りついて、いささか不快だった。その不快さが悪夢を誘発したのかもしれない。
ラムザが身体から下りて、半身を起こすのを手伝ってくれた。
指が痺れて上手く動かないので、パジャマを脱がせてもらう。
冬の朝など、これの逆をしている立場だからディリータは嬉しくなって、少し泣きそうになった。
身体だけじゃなく、心も大分弱っている。
「タオル持ってきてあるから、拭いてあげるね」
ひんやりとした清潔なタオルで身体を拭われる。下も脱がされて、余すところ無く綺麗にされてゆく心地よさに、ディリータは目を閉じた。気持ちいい。
「……でも、よくなってよかった」
ラムザは独り言のように言った。タオルをサイドボードに置くと、またディリータの身体に布団を被せた。ディリータの手を握る。
この三日三晩というもの、ディリータが魘されていたのと同じく、ラムザも眠れぬ夜を過ごした。侍女の言い付けに背いて夜遅く、ディリータの寝室に忍び込んで、熱い熱い手を握っていた夜もあった。だから、ラムザの顔もかなり疲れていた。ディリータはそれに気付かなかったけれど。
「寂しかったんだよ、僕」
「……ラムザ……?」
ディリータの手にキスをして、指に舌を這わせる。こんなコトをして良い身体じゃないだろうけれど、だけど、僕は寂しかった。だから、ラムザは、ディリータの指を舐めた。
「止せ。……風邪がうつる」
ディリータは手を引こうとしたが、ラムザは許さなかった。
片手でズボンを脱いで、濡らした指を自分の下半身に導いた。
「うつして、いいよ。……風邪はね、ディリータ、ひとにうつすと早く治るんだ。だから、僕に風邪、うつして」
「……ダメだ、止せ……」
半身を起こして拒否しようとしたが、それは敵わなかった。上も脱いだラムザが、布団の中に入ってきたのだ。
「ディリータ、熱いね」
まだ体内に鈍い熱を残した体を、ひんやりした手が這う。いつもは散々弄られている場所を、今日は逆の立場で、ディリータの乳首に触れた。
「っん……」
ディリータは思わず喉を反らした。ラムザは構わず布団の中に潜り、その乳首を舐め、吸い、時に軽く噛んでディリータを昂ぶらせていく。三日間抱かれることのなかった体は熱く熱く、そして、三日間抱くことのなかった体も熱く。ラムザが手を伸ばすと、既にディリータの下半身でそれはハゲシイ自己主張をしていた。熱い体よりもさらに熱くいきり立っていた。
「寂しかったんだ、ずっと、ひとりで」
ラムザは布団の中、微かに汗の匂いのするそれを、口に含んだ。ぴくん、とディリータの体に震えが走るのを感じると、もう無我夢中でディリータのを刺激する。
先端を唇で吸い、裏の筋を舌先で舐めあげ、口中いっぱいに頬張り。
「っふ……あッ、やめ……ろ、ラムザ……っ」
ディリータは抗えないまま、激しく身を震わせて達した。しかし、ラムザは未だ満足しないとでもいう風に、精液を放ったディリータのを飽かずに味わう。
余韻でひくひくと震えるのをいとおしげに舐めた。
「あっ……ああ……」
声は自分の意志とは全く無関係に。
下手をしたらこのままラムザに犯されてしまうのではないかとの危惧を抱かせるのには十分だった。ディリータは渾身の力をこめて半身を起こし、布団を剥いで、ラムザを睨み付けた。
……そこまでで既に息が切れている、もともと息が上がっていたのだが、それ以上に。死にそうなほど。
ディリータは、今、僕より弱いんだ……ラムザはそれをしっかり理解していたから、慌てることなく、まだ硬いディリータを確認すると、ディリータを横たえて、口付けをした。たった今ディリータが放ったものの味がする舌をディリータに差し入れて、飲ませた。
「あったかいミルクは、心を落ち着けるんだって」
口を離し指で拭い、ラムザは微笑んで言った。
「寂しかった、ディリータ」
ディリータの胸の上に跨って、硬く上を向く自身をディリータに見せる。こんなに欲しがっているんだ、君のことを、と。
「ひとりでしても、つまらないから……。あったかくないんだ、僕の指、……ディリータの、あったかいのが、欲しいの」
「……ラムザ」
「ねぇ、……して、よ、ディリータ」
ディリータに尻を向けてまたディリータのをしゃぶる。ディリータは、もちろんこのダルイ体調の与える不愉快さが先に立ってはいたのだが、それでもラムザを体から下ろす力もなかったし、それ以上にラムザが自分のことを望んでいてくれる事が、隠せないほど嬉しかったから。
ラムザの口の中で、またディリータのは熱を集めていく。
「ぁあん……っ」
ディリータは観念して、ラムザの双丘を割り開いて、指で軽く入口を撫でた。ラムザはそれだけでひくっと入口を震わせた。枕の力を借りて身を起こし、ラムザの秘穴を優しく舐めてやる。……優しく、しか出来ないのだ、気力体力ともになくて。
「んんっ、あぅ……ん……」
寂しかった。
この温もりは、安心感は、ディリータしか作り出せない。ぴちゃ、と濡れた音、ねっとりした舌の感覚に、つい目の前にあるディリータに愛撫を施すのもおざなりになる。やがて、ディリータの指がゆっくりと中に入って来ると、もうただ喘ぐだけ、それだけの役立たずになってしまう。
「あん……っ、ディ、……ぁう」
「……暖かいか?」
「んっ……あった、かい……よぅ……」
自分の指だけでは、どうしても満足出来なかった。その名を呼んでも、答えは帰ってこなかった。一人の夜を過ごして、余りにも、余りにも、恐くて寂しくて辛かった。
「っ、ディリ……タ、っ、僕っ、の中、ほしい……」
ラムザの前はぴくぴくと震え、透明な蜜を溢れさせていた。ラムザは身を起こし、ディリータに手を添えて、中に埋め込んでいく。熱さに身震いして、ラムザは甘い嬌声をあげた。
「……こんなにして……やっぱ、やらしいな……ラムザは」
「やぁ……っ」
自分の胸の、心臓のあたりにラムザが滴らした蜜が。
ディリータが手を伸ばし、それを指の先で小さく覗く亀頭全体に伸ばすように撫でると、ラムザはまだ余裕のあるディリータを残して、一人射精した。
ディリータの腹の上に精を飛ばしたが、それはさほど濃くはなかった。自分の腹の上のそれを指で掬い取り、舐める。「ホットミルクは心を落ち着ける」のだそうだ、が、この場合は逆だ。寧ろ余計に興奮してしまう。
「んっ……だっ、て、……さみしかった……」
「本当に、やらしいな、ラムザは。ガマン出来なかったんだ?」
「ん……んんっ」
言いながら、今し方精を零したばかりのラムザに手を伸ばし、濡れた砲身を撫でる、ぴくぴくと、ディリータを締め上げながら震え、濡れた声を上げた。
「ラムザ……俺、動けないから、自分で動いてよ」
「え……?」
「中に欲しいんだろう? ……だったら、自分で。俺のこと、いかせてよ」
「うん……」
ディリータはラムザの根本に愛撫を施し、動くよう促す。ラムザはゆっくりと、両膝で体を支え、ディリータのを秘穴で扱いた。
全身は気だるいが、ラムザはイトシイ。愛しさのほうが当然、勝つに決まっていた。
「ぁあっ、ああぁ」
「ラムザ……感じてる?」
解りきったコトを聞いた。
「ぁあんっ、かん、じてるっ、ディリータっ、……ぁあっ、んぁぅ」
ディリータのがラムザの体内で勢いを増すものだから、ラムザは秘穴に、さらに快感を与えられ、性器はまたも爆発寸前。ディリータも、目の前、自分のが深々とラムザの、究極的に秘められた場所に突き刺さっている淫猥な光景があり、さらにそのイヤラシイ事によって感じているラムザが見えるから、いっそう勢いづく。
「っ……あああ……っ」
踊り狂っては涙を零す愛しいラムザを、力いっぱい抱きしめてやりたくなって、ディリータは何とか上体を起こし、片手でラムザを抱いた。ラムザも、ほんの短い間でも一人の夜が耐え切れなかった寂しさを払拭するように、ディリータに抱き付いた。どちらからともなくキスをして、舌を絡めあって、少しの呼吸も惜しんで。
「……寂し、かった……、アイシテル……愛してる、ディリ……っ」
ディリータの右手の指が暴走する熱に絡みついたので、言葉に詰まった。
「俺も……寂しかった、よ……ラムザ」
ラムザの胎内は生暖かく、同時に熱があるのではと思わせるほど熱かった。言って見れば快感の坩堝だ。不規則に自分を締め付けて来る愛しい感触に、ディリータはラムザをいかせずにはいられなかった。
「ぁあっ……まだ、……あぁっ」
「……大丈夫……俺も、もう、いくから」
「っ、ディリ……っ、はぁっ、ダメっ、もっと……っ」
もっともっと、強い快感を貪欲にラムザは求めて来る。
しかし、もう病身にはこれが限界。ディリータはラムザの唇に深くキスをして黙らせると、ラムザを扱き、いかせた。
一気に中が狭くなって、流される形でディリータもラムザに精液を注ぎ込んだ。ラムザははぁはぁと荒い息で、耐えることなくいかせて来たディリータを責めることもなく、もたれかかった。
と、すぐに身を放す。自分の放った精液で腹のあたりがぬるりとしたからだ。
「……ラムザ、……また俺のこと、綺麗にしてよ」
「うん……」
ラムザはゆっくりとディリータのを抜くと、タオルで拭った。
「口で」
「え……? やだよ……」
「いいだろ? いつも俺がお前の体キレイにするときは、口でしてるんだから」
と言っても、あれはラムザの放った精液であり、自分で放ったものではない。
「……ばか」
そう言いつつ、ラムザはディリータの腹と胸に散った自分の精液をペロペロと舐めて、綺麗にしてゆく。全て舐め終えたラムザの唇には、彼自身の白い蜜がついていて、いったばかりである上、もうする気のないディリータの心に甘い疼きが走った。
「飲んだ?」
「ん……」
ディリータはラムザの髪を撫でて、ご褒美のキスをした。
「ラムザ、絶対風邪うつってるな」
「うん……だって、そのためにしたんだもん」
「ありがとう。お蔭でよくなった気がするよ」
ディリータはもう一度、キス。
「もう、風邪なんてひかないでね」
誰のせいでひいたのか。ラムザはディリータに、今度はちゃんと抱き付くと、ぶり返さないように布団
を被った。
こうして、お互い裸でありながら何をする訳でもなくくっついていると、互いの体の温もりがダイレクトに伝わって、段々と温まっていくようで。
その感覚が気持ち良くて、ディリータも、ラムザも、ゆっくりと目を閉じた。
「ごめんな……」
目を伏せたまま、ディリータはラムザの耳元に。
「寂しい思いをさせて。もう、風邪なんてひかない。ラムザに寂しい思いなんて、させないよ」
「ん……でぃりーた、……大好き」
「愛してる」
やがて、ラムザは眠りに落ちる。
二時間後、往診に来た医師からラムザを隠すのは一苦労だった。
隠し通すことは出来たが、何故裸なのか問われた時、上手な言い訳は思い付かないディリータだった。
なお、翌日ディリータの体温は平常時とほぼ変わらぬ数値に戻り、ラムザも風邪をうつされることはなかった。
「だって、馬鹿だから風邪ひかないんだもん」
とは、ラムザの弁。