穏かな風が湖面を撫でて揺らす。今日も良く晴れた。湖を取り囲む山々の頭の方には、既に色づいた葉も見受けられる。あと一週間もすれば見頃だろう。
暦の上でも、そして、皮膚に当たる空気の感じでも解る、秋だ。
「ざば〜ん」
秋の、ハズである。しかし。
「ちょ……っ、待てよっ、準備運動くらいしないと……」
「へいきだよ〜」
「っていうか……水着!」
キラキラと水飛沫を上げて、水辺に飛び込んだラムザを、足を縺れさせるほど慌てて水着に着替えてディリータは追う。
「うわ……冷た……」
一歩水に足を踏み入れた途端、そこが痺れる。数メートル先、準備運動も何もしないで飛び回っているラムザが信じられない。
しかも、全裸。
「なんだよ〜、ディリータだらしないなぁ」
いや、俺がだらしないとかどうとかいう問題ではなくて。
「……ラムザ、水着くらい穿かないか?」
「えー? だって面倒くさいんだもん。それに、この方が楽しいよ、なんか」
名門ベオルブ家の息子が、全裸で水辺に遊ぶなど。
どこかの誰かに見られたら只では済まない、下手をしたら、ディリータは断頭台行きだ。
「なぁ……やっぱりやめないか?こう寒くて風邪をひいたりしたら……」
「せっかく来たんだし、いいじゃない、寒くても。大丈夫だよ、僕、風邪ひかないから」
何の根拠もない。 ラムザはディリータの手を引っ張って、もっと深いところへと誘う。
ディリータは慌ててその後についていくが、寒くて寒くて仕方がない。
……なぜ秋も半ばになろうとしているこの時期に、わざわざチョコボで湖まで駆ける羽目になったのか。
答えは簡単、ラムザの我侭である。
「すっごく景色がきれいなところがあるんだ!山に囲まれた湖で、鳥が居て、このくらいの季節には紅葉もしてて」
けれど、湖で泳ぐなんて聴いていなかった。
どうでもいいが、太股のあたりまでは何とか入れるが、そこから上、急所を水が通過する瞬間というのはやはりいつも勇気が要る。そこはやっぱり、一番神経が過敏なところだし、ぞくっとしてしまう。ラムザはなんで裸で平気なんだろう。ラムザはもう、平泳ぎですいすいと先に行ってしまう。
……ままよ、凍え死んでももう知らない。
ディリータは覚悟を決めて、一回頭のてっぺんまで潜り、身体を水に慣らしてからクロールでラムザを追った。
「ほらっ……もう、足、つかないよ」
立ち泳ぎ、嬉しそうに楽しそうに、ラムザは言う。
「そう、だな……気を付けろよ、準備体操してないんだから、足とか、攣らないように」
「うわっ」
ディリータが警告を発した矢先、ラムザは短く声を上げて、水の中に沈んだ。
「ラムザ!」
驚いて、ディリータが潜って追いかけようとした途端、また浮き上がって、ディリータにしがみ付く。
「こうならないように、ね?」
「っ、馬鹿、しがみ付くなよっ」
慌ててバランスを取る。ラムザは構わず、ディリータの身体に引っ付く。水が冷たくて冷えはじめた体でも、ラムザはディリータから温もりを奪い取る。
ディリータはとにかく、足の付く場所へ、たくさん水を飲みながら――つまり、溺れかけながら。そうしてようやく落ち着いた場所に付くと、今度はラムザが足元をすくって転ばせて来る。
その度に何とか起き上がるが、何度か呼吸が追いつかなくなって死にそうになった。
「も、っ、もう、止せっ……ぶわっ……」
また、沈む。 ラムザはじゃれあいを心底楽しそうに、濡れて滑る素肌の感覚を味わっている。ディリータは本当にいい迷惑だ。しかし、その迷惑のために生きているディリータではある。
「だいじょぶ?」
ゲホゲホと噎せているディリータの背中を摩って、落ち着いたら今度は息の根を止めるようなキス。
「……ったく! あんまり調子に乗るなよ、危ないだろうが!」
ラムザが危ない、という以上に、心配で心配で仕方がない。もう、踝くらいまでしか水に浸からない浅瀬まで避難。ここならまず溺れる心配はない。擦り傷切り傷刺し傷くらいならおまじないで治してやれるけれど、溺れられたらどうしようもない。
三日くらいした後に、全裸のラムザが湖面に……恐ろしい。
「ごめんね。もう、しないよ」
約束して、引っ付く。
まだ全然柔らかい、というか冷たいから縮こまっているラムザのがディリータの太股の当りに当たった。全く……十四歳にもなってこんな子供っぽいなんて。
――と、そう思うディリータも十四。
でも、見下ろすラムザのは十六の男にしても、何か間違っている程、幼く、可愛らしく、自分のと比べると。十四で毛が生えてないなんて、ラムザくらいのものだろう。
そのくせ、セックスについてはやたら発達している矛盾だらけの身体。
「ね、ディリータ」
「ここではやらないからな」
「いいよ、別に。……でもさ」
ディリータの頬に手を添えて、また短い口付け。
「僕、したい。ディリータはしなくていいから、でも、僕のだけ、いかせて」
「…………」
我侭だけど、その方が有り難い。
「俺はしないからな」
「僕がしてほしいの」
仕方がない。
立ってなくても、性欲というのは精神の中に渦巻いているもの。ラムザは、ディリータに手のひらで触れられその性欲を発露させようと、柔らかいそこをくにくに弄られると、微かに身を震わせて、次第次第にそこを大きく、固くさせていく。
「……なぁ、誰かに見られたらどうするんだ?」
「平気」
だから、何を根拠に。
「……俺、見られたくないよ、ラムザにこんなことしてるところ」
ディリータは、渋りながら身を屈めてラムザの乳首を吸った。
「んっ……でも……」
息が上がっていく。
「どうしてもしたいのか?」
完全に立ち上がったそこを包んで、その決意のほどを確認。
もちろん、嫌がるはずもなく。
「したい……」
頭痛がする。が、ディリータも自分であきれるほど狡猾。
「……じゃあ、俺は関係無い。ラムザ、自分でしなよ。人に見られてもいいなら」
むっ、とラムザはその言葉にディリータを見た。
「俺、いやだよ。こんなところでするの」
ディリータが一歩身を引くと、ラムザは。 開き直った。
「ああそう! いいもんっ、じゃあ僕、ひとりでやるもん!」
「げ」
「ディリータはしたくないんだろ、解かったよ。僕は一人でやる」
予想通りだが、ディリータは予想もしていなかった展開に、焦る。ラムザは自分で自分の砲身を握ると、浅い水の中に座り込んで、自分のを扱きはじめた。
「んっ……あぁ……っ……んっ」
水が冷たいから、心持ち表情が辛そうだ。だけど、頬は紅潮し、開いた方の手で色づいた乳首を抓み、親指と人差し指でつぶすように弄る。
「ああん、んぅ……」
乳首への感覚を散々味わったら、右手を動かしたまま、左手を下半身へ持って行き、指を自分の秘穴へと。
ふるふると震えて、それでも自分の中に自分の指を押し入れていくに連れ、甘い声を上げる。
白い肌を流れる水滴が、ディリータの眼にひどく艶めかしく映った。
「……っ、待て、っ、ラムザ待てよっ、悪かった、俺が悪かったッ」
左手の指を奥へ奥へと入れて、自分の一番好きなところを突き、眼の焦点すら怪しくなって来つつあるラムザに駆け寄って、扱いていた右手を止めた。
「な、んで……? ……ディリ、イタ、したくないって、ゆう、から」
「ごめん……するから、な? だから……やめよう、もう……」
これ以上こんな場所でこんな無防備なコトをされていたら、絶対天罰が下る。もっと前の段階で天罰が当たっている可能性も無きにしあらず。恍惚とした表情でディリータを見上げるラムザの指を抜いて、寝かせる。
「……本当に、寒くないんだな?」
「ん……少し寒い……けど、ディリータ、暖めてくえうんでしょ?」
「……舌が足りてないぞ」
結局はこういう運命なのだ。自分はそれほど敬謙な信者ではないから、きっと勝負の運も向いていないのだろう。理性はもとより希薄な存在感でしかなく、ラムザの裸体はそれとはまったく無縁のもの――神様なんかよりもずっとずっと神秘的かつ、恐ろしい。
ディリータははぁ、と小さく溜め息を吐くと、実はもうキツくてキツくて仕方なかった水着を脱ぎ捨て、
自分もラムザとお揃い、素っ裸になってラムザに覆い被さった。
「あぁん……」
ディリータの指で改めて犯され、ラムザは鳴いた。ひくっと身体を震わせ、ディリータに軽く扱かれると、もうガマンしきれずに脈打って精液を吐き出した。
「……全く……本当に、やらしいんだから」
もう解りきっていることを言うディリータは、ラムザから飛び出た精液が水に流されていくのを苦笑して眺めた。苦笑する余裕がもう、生まれているのだ。
ラムザはそれを恥じるでもなく、未だ内部に入ったままのディリータの指を身体いっぱいで感じ、髪を水に泳がせながら言う。
「やらし、いもん……。やらしい、から、も、いっかい、して……?」
もとより、ディリータはそのつもり。やる気満点だ。差し込む指を二本に増やして更にラムザを昂ぶらせる。いったばかりのラムザはまた新たな快感に喘いだ。
「どこがいい?」
「も……っと、おく……っぅ、ん……っ」
「……このへん?」
「んん……そこ……っ、いいッ……ゆび、じゃなくて……」
ディリータが下半身に屹立するものを入口に押し当てると、ラムザは待ちかねたように蕾をひく付かせ、歓迎する。
そのまま深々と奥まで、望んでいた場所を望んでいたもので刺激すると、一際甘く高い声を上げる。
ディリータはラムザの背中を抱き上げ、水の滴る鎖骨や肩を舐め、紅い痕跡をつけた。小さな耳朶を舌で弾いて、更に先を差し入れると、くすぐったそうに、そして気持ち良さそうにラムザは身を捩る。下半身の昂ぶりも、またどんどん高まってゆく。
「でぃり……、うしろからが、いい……」
切なそうな表情で甘える声に突き動かされて、言われた通りにしてやろうと思ったが、今日は――今日もまた、振り回されたのだから、少し意地悪をしてやろうと思い付く。
「嫌だ。……ラムザ今日は悪い子だったから、後ろからなんてしてあげないよ」
「え? ……んあぁっ、やっ……」
立ち上がって張り詰めた先端を指で抓んで、いじめる。ラムザはたまらずディリータにしがみ付くが、ディリータは構わず指でラムザのピンク色に染まった性器に悪戯を仕掛ける。硬くなった砲身をぎゅっとキツく握ったり、袋の中の珠を弄んだりし、立場上有利に立つ。
「っ、んぁあ……おね、がい……はんッ……んっ、ディリータ……っ、あぁ……後ろっ、からあ」
娼婦じみた科白を吐くのは、この国有数の――。
言わせているのは他ならぬ俺、言うように仕向けたのも俺なら、教えたのも、俺。
「ねぇ……おねがい……」
涙と涎に濡れた顔を舌でキレイして、あまり苛め続けているのも可哀相になってきたし、それよりなによりずっとラムザに差しっぱなしの自分は相当に解放を望んでいるのを解かっていたから。
「はぁ……ああぁ」
一旦抜いて、ラムザに膝をつかせ、再び双丘を割り開き差し入れる。お望み通り後ろからの熱さに歓喜して、もう離さないと言わんばかりにラムザの内部はぐっと狭くなった。
「どう」
「いい……いいよぉ……」
その声で耳の奥が震える。ラムザは胎内を狭くしながら、ディリータの手を掴み、自分のを触らせる。
先程よりもさらに熱く、硬く、破裂しそうなほどになっているそこを手のひらで包み、ディリータは自分の腰の動きにあわせてゆっくりと、そして段々早めながら動かしはじめた。
ラムザはその快感に、蕾を不規則に収縮させる。
「ああっ、あんっ、あぁんっ」
だらしなく間断無く声が漏れる。ディリータがいく前にいってしまったが、またディリータの手で動かされているうちに、萎えることなく壊れそうなほどの快感がラムザの全身を駆け巡る。声は更に大
きく、高く。ディリータは、ラムザが先にいってしまったので仕方なく腰を振りながらも、なるべくいかないように、一緒にいけるように耐える。
「っ……ラムザ、……まだ、か?」
「んぁあああ、あぁあんっ、んっ、ま、だぁ……だめっ、まだ、だしたら、だめっ」
「ッ……」
しかし同時に行かないと、このお坊ちゃまはひどくご機嫌斜めになるのだ。愛が足りないの何のと言って。
「んっ、んぁっ、あぁああ……やぁあっ」
もとより、声が外に漏れようが何しようがラムザは一切関せず、だったからもう山彦が返って来るのではないかと思えるほどの嬌声を上げる。ディリータも、いまひとときはラムザの声とか人の目とか、そういう面倒くさいものは無視してラムザを扱き上げる。
「んっ、でぃ、り……っ、もぉ……いっ」
ラムザの髪が、濡れて彼の白い背中に張りついている。
なだらかな、脇から腰にかけてのラインがディリータを追いつめた。
このお坊ちゃんの望みは、どうやら何でも手に入るらしい。
同時に、という願いもどうやら。
「っ……いく……ッ」
ディリータが顔を顰めたちょうどその時、ラムザの若い茎はディリータの手の中でビクンと震えて、薄い精液を湖面めがけて放った。
ディリータに抱き上げられたラムザはくったりと身体を弛緩させ、自分の力で立とうとしない。決して立てないのではなく、立とうとしない、のだ。
「ん〜……」
「……重たい……」
何とか抱えて、シートを敷いた木陰へとラムザを横たえる。びしょびしょの身体を拭ってやり、乾かす。さすがに、その顔からは疲労の色が見て取れた。
「半魚人が生まれるかも知れないな、この湖」
ラムザが精液を放ったから。
「満足したか?」
「ん〜……ん」
首を振る。……どこまでも。 ディリータは溜め息を吐いて、ラムザをよく乾かす。
子供じゃあるまいし、真っ裸で泳ぐなんて。
「だって、すっごく気持ちいいんだよ。あのね、おちんちんがね」
「言わなくていい、大体解るから」
口では満足していないというけれど、恐らくもう立たないであろう性器もちゃんと拭いてやる。ラムザはくすぐったいと笑った。
「なんか、お前といると気分が変になりそうだ。……すごい犯罪をしてるみたいな。異端者になった気分だよ」
完全に萎えきったラムザを見て、胃痛がそのまま出てきたような溜め息を吐いた。少なくとも、ここだけはこんな子供。五文字で、「おちんちん」と言うのが一番相応しいような
「……絶対風邪ひくぞ、ラムザ」
自分も頭を乾かして、言う。ラムザはいつまで経っても裸で寝転がり、ぼんやりと頭上の、太陽を透かす常緑樹の葉を眺めている。
「馬鹿は風邪ひかないんだもん」
「まだ言うか」
引き起こして、バンザイをさせて、シャツを着させる。一枚じゃ寒いから、と上着も。
「ほら、下も」
腕で身体を支え、両足を上げる。
……本当に、赤ん坊か。
「ディリータの前でだけだから、いいんだもん」
けれど、こういうのは絶対いつかボロが出るものだ。
と。
ガサガサッ、と林の奥から物音、まず何よりもラムザの下半身を隠し、
シートの脇に置いてあった剣を抜いて、構える。
ラムザはディリータの支えを失ってまた仰向けになった。自分を隠そうとする努力は一切しない。
「……なんだ……イタチか」
どこかの洗濯女かと思った。剣をしまうディリータの袖を、ラムザがくいっと引っ張った。
「ね、ディリータ」
「……うん?」
ラムザはにやりと笑うと、起きて立ち上がり、ディリータの唇に萎えきった自分を押し当てた。
「ん……な、んだよ」
ディリータが困惑した顔で言うと、ラムザはディリータに口を開けるよう促し、少しだけ立ちつつある己の性器を咥えさせる。
「んっ」
「……見られてる方が、なんか、楽しいかも……」
イタチがじっとこっちを見ている。
「ぁん……」
ディリータは、同意することになってしまうと解りつつも、ラムザのを再び硬化させるため、それに舌を絡めていた。
…………どうして。
困ったことだ。
翌朝、ラムザは絶対風邪をひくだろう。 理由は何て説明しよう、「湖で泳いだから」……というより、「湖でセックスしたから」だろう。
……頭が痛くなってきた。