お外でいっしょにあそぼう

 

 結論から言えば、牧坂流斗の母親であるという女性の取った行動は、人の「母親」のそれとしては全く常識の範囲内であり、また当然のことであるということが――もちろん、子供の親になったことはなく、これからも多分ないであろう――ぼくにも理解できるものだった。更に言えば、ぼくの社会的立場を危うくするものではないのだということも、また。

 前日、昴星とたっぷりと遊んだ翌日の日曜日、ぼくは午前中にはもう、牧坂家の応接間に通されて、流斗のご両親と向かい合って正座していた。正直に言おう。ぼくはもう、お腹がシクシク痛んでしょうがなかった。前夜はほとんど眠れなかったし、うつらうつらしたと思ったらまた怖い夢を見る、その繰り返しで、顔色もすぐれなかったに違いない。だって、ぼくは、流斗とどんなことをしたのか、全てこのご両親にばれてしまった後だと思っていたから。

「ご迷惑をお掛けいたしまして、まことに申し訳ございませんでした」

 しかし、流斗のご両親はぼくを前に神妙な顔でそう頭を下げたのだ。

「は……、あの、ご迷惑、と……、おっしゃるのは」

 ぼくは乾いて乾いて仕方のない口の中で、舌をどうにか制御して訊いた。両親二人並んで座り、お母さんの隣で流斗はどこか企みのある笑みを浮かべてちょこんと正座している。

「この子ったら、何にも言わないもので……」

 顔を上げた母親は肩を小さくして、恥じ入るようにぼくを見た。「四年生にもなって、……急に赤ん坊みたいになってしまって。元々はこんなにだらしのない子ではなかったんですけど、貴方様にまでご迷惑をおかけするようなことをして……」

 彼女が何を言っているのか、把握するまでに時間が掛かった。流斗のお父さんは険しい顔で、「全く、どうしたものかと思って居るのです」と重々しく言う。

「こういうことを申し上げるのは、何だか言い訳のようで私たちも好まないのだけど、……私も家内も、子供の頃にそういう体質だったということはなくてですね、この子も、身体こそ小さいが、そういう辺りの管理はしっかり出来る子供だったのですがね。……それがここ一年ほど急に……」

 夫の言葉を、母が申し訳なさそうに引き取る。「学校から、……朝穿いたのとは違うズボンで帰ってくることが、しばしば起こるようになってしまったのです」

 ようやく、ぼくは理解した。

「いえ」

 と、慌てて声を上げる。「迷惑だなんて、とんでもありません!」

 先週、初めて流斗と出会ったときのことを、ご両親は言っているのだとぼくはようやく理解した。

 流斗はオモラシをした格好で、ぼくの前に現れた。あれは既に確認したとおり、「もっとすごいことしたい」という流斗の願いを、昴星がぼくを使って叶えたのである。ぼくは良識的な大人として流斗の作った汚れ物を処理し、……そして誘惑に負けて、流斗にいたずらをした。

 流斗は先週の出来事の前半部分と最後の数行だけを、ご両親に話したのだろう。即ち……、「このあいだ、オモラシしちゃったとき、優しいお兄ちゃんが助けてくれて、才兄ちゃんのおうちまで送ってくれたんだよ」と。

 それを聴いたご両親は慌てふためいてぼくに連絡を寄越した。そして……、

「これは、全く以って、つまらないものではございますが」

 と上等なテーブルの上に、明らかに「高価」ということが判る洋菓子を置き、ぼくの方へと押しやる。そういう品物としては包装の華美さもまた重要なファクターとなりうるのだろう。

「いえ、あの、……そんな、お礼をされるようなことをした訳ではありません」

 大慌てでぼくはそれを押し返す。

「私はただ……、大人として当然のことをしたまでですから……」

 自分の口先がこんな風に器用に動くものだということを、ぼくはこれまで知らなかった。流斗はにこにこと微笑みながら、ぼくと父親がお菓子の押し合いを繰り返す様子を見ていた。結局、ぼくはそれに屈して、ぼく一人には過分な量のケーキを受け取る羽目になってしまった。

「流斗、あんたもちゃんとお兄さんにお礼を言いなさい」

 母親に厳しく窘められて、流斗はまるであのときから一度もぼくに会っていないように、居ず舞いを正して、

「お兄ちゃん、ありがとうございました」

 と頭を下げる。

「全くもう……、本当に情けない」

 溜め息混じりにお父さんは言う。流斗ぐらいの歳の子供が居る親として、お母さんは、まあ、これぐらいかと想像が付く範囲だが、お父さんはもう白髪まじりで、夫婦間には少し歳の隔たりがあるように見えた。大体において、子と歳の離れた親というものは甘い態度に出てしまいがちだ。お母さんは厳しそうな目を流斗に向けているが、お父さんは叱られた老犬のように困りきっているばかりに見えた。

「どうして、そんなにだらしなくなってしまったのか……」

 さっきからご両親ともども、直接的に「オモラシ」という言葉を使わないところから察するに、自分の息子のそういう体質を心底から恥じているらしかった。まあ、実際そうだろうと想像は付く。自分たち大事に護り育ててきて、しかもこれだけ愛らしい息子が、四年生にもなって外で、恥ずかしく濡れたズボンでうろうろしているという事態は事によっては息子自身が覚えるよりも恥ずかしいことなのだろう。

 ……その「息子」はちっとも恥ずかしがっていない様子だが。

「だって」

 流斗は唇を尖らせる。

「オシッコガマンするの、つらいんだもん」

「辛くても、もう四年生なんだから我慢しなくちゃダメだ。そもそも我慢しなくてもいいように、こまめにトイレに行けばいい。きちんと出来ないから、このお兄さんにまでご迷惑をおかけすることになったんだろう」

 父は精一杯の厳しさを振り絞って言うが、息子は平然としている。

「あの……」

 ぼくは自分に出されたお茶を、やっと口にすることが出来た。

「あまり、叱らないであげてください。ぼくはちっとも迷惑だなんて思っていませんし、……それに」

 差し出がましいということは承知しているが、お父さんとお母さんがどんなに厳しくしたところで、流斗がオモラシ遊びをやめるとは思えない。これは昴星と才斗の悪影響の結果であり、その結果を「悪」の影響と呼ばせたくないとも思うから、やっぱりぼくは言うべきだと思ったのだ。

「お恥ずかしい話なのですが、……流斗くんは四年生なんですよね? ぼくは、……その、小学校五年生まで、そういうことがありまして」

 額を掻きながら、ぼくは真実を告白した。

「先週、あの公園で、流斗くんを助けてあげたく思ったのは、ずっと昔にぼく自身が同じく公園でそういうことになってしまって、泣いているところを近所のおまわりさんに助けて頂いた経験があったからなのです。ぼくも流斗くんぐらいの頃は、そういうことで悩んでいまして、……両親には叱られてばかりでした」

 ご両親は、じっとぼくの言葉に耳を傾けている。お茶でもう一度口の中を潤して、ぼくは緊張しながら言葉を継いだ。

「ですが、中学に上がる頃にはお陰様で、そういうこともなくなりまして。特に病院で治療を受けたわけでもありません。ただ、身体が大人になったのだと思っています。ですから流斗くんもきっと、もうちょっとして、身体が大人になったらそういう悩みもなくなると思うんです。……そうだよね?」

 流斗「くん」は、「うん」と頷いた。

「その、……そういうことになってしまうことを、本人も恥ずかしく思っているはずですし、どうか、あまり叱らないであげてください。そういうことは、……ぼくが微力ながらお手伝いをさせていただいたとおり、周りの大人がカバーしてあげればいいのだと、ぼくは思います」

 ご両親は、まるでぼくの言葉を心底からの真実だと信じているようだった。いや、実際にぼくの言葉は根っから正直なところなのだけれど、そんな風に完全に信頼されてしまうと、やっぱり胸が痛む。

「お兄ちゃんはね、才兄ちゃんと昴兄ちゃんともおともだちなんだよ」

 流斗は場の空気というものを全く無視して発言した。わざと無視したのだろうということは、ぼくには判った。

「先週会ったときは知らなかったんだけど、昴兄ちゃんに言ったらそうなんだって判ったんだ」

「友達、と言いましても」ぼくは慌ててフォローを入れる。「その、近所に住んでいまして、ちょっとしたきっかけで知り合いになりまして。ぼくも土日は暇なものですから、彼らの気が向いたときに、一緒に過ごすことがあるというだけのことです」

 そのフォローは必要不可欠なものだったと思う。だって、こんな大人の男が少年と「おともだち」なんて、……そうそうあるもんじゃない、大人の側に不埒な目的がなければ。

 実際ぼくは、そういう目的があったから、昴星や流斗と「おともだち」になれたわけなのだけど。

「きのうね」

 流斗はにこにこ微笑みながら言う。「才兄ちゃんたちのおうちの近くにいた、悪い中学生の男の子をお兄ちゃんがいい子にしたんだよ」

 敢えて言葉を不足させているのだということが判る。言葉の終わりに、ぼくの目をちらりと見たから。

「いい子にしたというのは?」

 お父さんが当然の疑問を口にする。ぼくは一度口の中で言葉を咀嚼してから、

「このところ、あの街に、流斗くんぐらいの子に声を掛けて回っている少年が居るということでして、……話が前後しますが、先週ぼくが流斗くんのお世話をしましたのも、その少年の噂を、ぼくも耳にしていたからです。何か」流斗「くん」の手前、ぼくは言葉を選んだ。「妙なことを考えている子であっては、流斗くんが嫌な思いをしてしまうかもしれないとも思いまして。……それで、昨日、偶然にもその少年を目撃いたしまして。少年自身、自分が不審者と思われていたとは思っていなかったそうなのですが、一応、不審がられるような行動は慎むようにと、注意をしたのです」

 ほう……、とお父さんは感心したように溜め息を吐いて、それから、

「いやはや、……本当に頭が下がります」

 白髪頭をぼくに向けて伏せた。

 勘違いしてはいけないのは、……誰よりもぼくが、きちんと理解しておかなければいけないのは、ぼくの、結果としてプラスに転がった行動すべて、昴星と流斗の機転によるのだということ。ぼくはと言えば、どちらかと言えば無力で、そのくせ欲を持って、ぼんやりと行動していたに過ぎない。けれども結果としては、先森遍の不良行動にピリオドを打ち、昴星とあの子を和解させ、あの街から「不審者」を「排除」するという望ましいものに繋がった。

「才兄ちゃんと昴兄ちゃんとお兄ちゃんがおともだちなら、ぼくもお兄ちゃんのおともだちだよ。ね?」

 流斗「くん」は可愛らしく言う。「ぼく、お兄ちゃんと遊びに行きたいな」

 これ、とお父さんが流斗を叱る。「お兄さんだってお忙しいんだ。お前みたいな子供の相手ばかりはしていられない」

「いえ、あの……」

 ぼくは首を振る。いまのぼくの日常に於いて、仕事以外に時間を取られることと言えば、僅かばかりの家事を除けば、……少年たちと「遊ぶ」こと。そんな甘美な時間を、手放そうとは思わない。

 だからぼくは、ぎこちなく、だけど、微笑む。

「ぼくは、子供が好きなので……」

 正直な気持ちであり、嘘の言葉である。「ですので、ぼくは、構いませんよ。ぼくのような者でよければ、いつでも流斗くんのお相手をさせていただきます」

 流斗「くん」はもう遊びに行くつもりでひょんと立ち上がっている。お父さんもお母さんも顔を見合わせて、

「ほんとうに、申し訳ありません」

 と声を揃えてぼくに頭を下げた。ぼくがひやりとしたのは、流斗が二人が頭を下げた隙に、ぼくのほっぺたにキスをしたこと。

 

 

 

 

 ショタっ子とデート、ということになるのだろうか。

 しかもご両親公認で。

 ぼくは流斗と手を繋いで、流斗が「行きたい」と言った大型スーパーへの道を辿っていた。

 ……ああ、こんな甘美な時間が人生に訪れることを、ぼくはこれまで想像したことが在っただろうかいやない。

 昴星と出会って、流斗と出会って。ぼくはこれまで妄想で描くにしたって「あんまりにもリアリティないからダメ!」って自分で歯止めを掛けていたような、イマジネーションを超える現実を前にして、自分の胸の中に蜂蜜がどんどん満ちていくのを感じる。

 確かにぼくの生きる日々はこれまでとガラリと変わった。平々凡々、無毒無害、それだけに平穏で且つ刺激の少ない日常は昴星と流斗という二人の少年によって極彩色で塗り潰されて、心落ち着く暇などまるでなくなってしまった。実際、夕べはほとんど眠れなかった。昨日だって、才斗と鉢合わせた瞬間に「あ、終わった」って思った。けれど「以前/以後」のどちらが良いかと問われれば、言うまでもなく……。

 日曜日の大型センター、というか、ショッピングセンターは親子連れで大賑わいだ。当たり前の親子連れと比べれば、やはりぼくは――二十代後半であるからして――極端に若くて、その割に流斗はもう大きくて、衆目を浴びるのは仕方がない。ひょっとしたら不審者としてさえ映るかもしれない。けれどご両親公認で流斗のお守りをしているのだという自意識があるからか、ぼくはさして挙動不審ではない、多分、「いとこのお兄ちゃん」ぐらいに見られているものと思われる。自分でこういう立場になってみて判るのは、怪しいやつの怪しがられるべき部分というのは端的にその表情に顕れるということで、ぼくは全くもって落ち着き払って穏やかな笑顔で流斗とお喋りをしながら歩いているけれど、見回してみれば、……あちらこちら、おかしいぞ、というのが居るのが判る。

 だってさ、日曜日のショッピングセンターのゲームコーナーに、きょろきょろしているおっさんがいるのはおかしいだろう。彼の視線の先にはゲームに夢中になって前のめりになっている女の子のスカートの裾に向けられている、肩から鞄が足元にずり落ちていても全く気にしていない。

 気持ちは判る、判るが、あなた怪しいからやめなさいよそういうことは。実際の所ぼくと彼との差は対象が男児か女児かというぐらいしかないように思えた。

 流斗はぼくの手を引っ張って、クレーンゲームの前に止まった。

「ね、お兄ちゃん、あのぬいぐるみとれる?」

 流斗が指差したのは、最近人気のくまのマスコット、「あんまりおっきいのだとおうちに置くとこないから、中ぐらいの」

「欲しいの?」

「うん、でもぼく、自分じゃとれないから……」

 普段、あんな物凄い遊びをしている少年ではあるけれど、心根はやっぱりまだ、愛らしくて幼い子供なのだなあと思う。

 財布の中にはご両親から「お昼ご飯代」として渡された結構なお金がある。けれど、ぼくは小銭入れから百円玉を掴み出した。投入口に入れる前に、数秒、ぬいぐるみの配置を確認してから、「多分、取ってあげられると思う」と流斗に告げる。

 ゲームセンターに入ることなんてそうそうない。あのおっさんみたいに子供のお尻目当てに行くことも、ぼくのターゲットは男の子であるから、ない。そう考えるとロリコンの方がショタコンよりも日常で欲求対象を目にする機会が多いだけ恵まれているのかな。でもこっちはお風呂屋さんで男の子のおちんちん幾らでも見られるしな。一概にどっちがいいとは言えないだろう。

 そんなことを思いながらクレーンを動かしているうちに、あっさりと黄色いくまのぬいぐるみは流斗の腕の中に収まった。

「えへへ、ありがとうお兄ちゃん、大好き!」

 流斗はくまのぬいぐるみと一緒にぼくを抱き締めた。ひやりとしたけれど、まあ、子供のすることだ。周りも何とも思って居ないだろうと確認するために見回すと、妙な視線の在ることに気が付いた。

 六年生ぐらいかと思われる男の子のグループが、奥のカードゲームコーナーからちらちらとぼくたちの方を見ている、……いや、彼らが見ているのは「ぼくたち」じゃなくて、はっきりと流斗だ。

「流斗、あの子たち知り合い?」

 ぼくが示した先の男の子たちは流斗が振り向くと、さっと顔を背けた。流斗は少し思い出す時間をかけて、「……ああ、うん、知り合いじゃないけど、知ってるよ」と応えた。ちょっと声を潜めて、

「前に、ここでオモラシしたときに、おトイレでちょっとだけお話したの」

 と付け加える。

「トイレで? あの子たちがぼくみたいにお世話したってこと?」

「ううん」

 流斗は首を振って、

「お兄ちゃんみたいに優しくじゃなくて、ぼくにいたずらしようとしたんだよ」

 とんでもないことを、あっさりと口にする。

「いたず……」

「おトイレのね、うんちするとこで、ぼくのおちんちん携帯電話で写真に撮ったりしたんだよ」

「そっ……」

「でもって、その写真消して欲しかったらお金持って来いって言われた」

 それは、……言葉に詰まったぼくに、流斗は微笑む。

「だいじょぶだよ、だってあげたくってもお金持ってなかったし、それに撮られたってへっちゃら、ぎゃくに嬉しいぐらいだもん」

 ぼくは針の刺さったような胸の痛みを堪える。……そりゃ君にとったら、それは確かに嬉しいことなのかもしれない、けれど……。

 真っ当な神経を持つ子なら、昨日の先森遍のように思い悩み苦しむのが普通である。あの少年たちがやったのは、明らかに「恐喝」であり「脅迫」なのだ。

 ひとまず流斗の手を引いてその場を離れ、人気の無い階段の踊り場まで連れて行った。

「……あの子たちは、流斗のおちんちんの写真を持ってるってこと?」

 視線を合わせて訊いたぼくに、うん、と流斗は何でもないことのように頷く。「あの子たちが消してなければ、まだ携帯電話の中に入ってるんだよ、きっと」

「あの子たちに、ひどいことされなかった? いや、おちんちん見られるのは十分ひどいことだけど、痛い思いとかしなかったかい?」

 んー、と流斗はほんのちょっとだけ眉間に皺を寄せて、「痛いのは、なかったけど、……あのね、ぼくがお外でオモラシしたいのって、みんなに見られて、恥ずかしい思いしたいからなんだ。あの子たちがしてきたみたいに、バカにされるのは、ちょっとヤだった」

 オモラシした少年を見て、みんな直接的に口にするかしないの違いはあれど、考えていることに大差はないんじゃないか……、とはぼくは言わなかった。流斗はあくまで見られることに悦びを見出すのであって、人格を損ねられるような発言には人並みに傷付くのだ。それって、ずいぶんわがままだという気もするけれど。

「そっか……、それは嫌だったね」

 こく、と流斗は頷く。ぼくの手は自然と流斗の髪を撫ぜていた。そういうことが当たり前に出来る立場にぼくは居るし、して上げなければいけないのだと思う。

 それにしても、どうにか出来ないだろうか。流斗の将来のためにも、そしてご両親のためにも、あの少年たちが持っている流斗の写真、……もう流出した後かもしれないが、元栓は締めておくべきである。

 ぼくは考えを巡らせる。ぼくがしゃしゃり出て行って「君たちの持っている写真を消しなさい」と言ったところで、それはもう、完全に不審者じみている。……こういうときの子供は強いぞ、とぼくは思う。社会を無意識の後ろ盾にどんなことだってして見せるのだから。

 しかし、捨て置くわけにも行かないだろう。ぼくがぼくとして許されているのは多分、昴星と流斗を心から大事に思っているから。

 案じた一計。

「流斗、ここから一番近いトイレってどこかな?」

「おトイレ? お兄ちゃんオシッコしたいの?」

「ううん、そうじゃなくって……」

 ぼくは流斗に耳打ちをする。流斗は首を傾げて、「そんなの、しなくていいよ? だって、ぼく平気だもん」と言うが、……残念ながらぼくも、流斗のご両親もちっとも平気じゃないのだ。

 

 

 

 

 流斗を一人、ゲームコーナーの奥にあるトイレに行かせると、思ったとおりあの少年たち三人は顔を見交わしてその後を追った。ぼくは彼らに気付かれぬよう、さっきぼくが見たときからずっと少女のスカートの中味に興味津々のおっさんの傍へ回りこみ、彼の手元を確認する。相変わらず鞄は彼の足元に落ちていて、おっさんはその鞄を時折、スニーカーの足先で動かしている。

「ちょっと」

 声を低くして話しかけた途端、おっさんの肩がビクンと震えた。「あんたも好きですね」

 男の顔は一瞬怯えたように青褪める。しかし、敵意のない笑みを浮かべつつ鞄を指差すと、どこか卑屈な笑みを浮かべる。「あんたもか」と訊かれて、ぼくは否定も肯定もせず――だって、確かに同類だけれど流斗の『保護者』としてそんなこと認めるわけには行かないでしょう――指で「こっちへ」と招く。男は納得したように頷いて、階段の踊り場まで付いてきた。

「ぼくは通りすがりの保護者です。ご安心を、誰にも言いやしませんからね。いつもこの辺りで『撮影』してるんですか」

 ぼくが訊くと、おっさんは渋々ながら頷いた。「親は買い物で滅多に此処には来ねえし、狙い目なんだよ」と恐ろしいことを平然と言う。

「まだ誰にも手出しはしてない。そうですね?」

「ああ」

 流斗とあの三人の男の子たちは既にトイレに入っている。ぼくは早口で、「ちょっとぼくに協力してくれませんか。……盗撮です。でも、社会的にはとても役に立てる部類の」と男に言った。

「あ?」

「協力していただけるなら、その鞄の中の隠しカメラにどんな物が収録されているかは不問ってことにしますよ。ぼくとあなたのナイショ」

 ぼくの微笑みを、男はしばらく胡散臭げに見ていたが、やがて「わかったよ。何撮りゃいいんだ」と訊きかえして来た。ぼくは急ぎ足で階段を降りながら、「奥のトイレ、……男子トイレの方です。そこの個室の埋まってるほうを盗撮してください。下からでも上からでもいい、もちろん気付かれないように。重要なのは何が映っているかというより『音』……、もっと言えば『声』です」

「男子トイレ? あんた」

「勘違いしないで下さい」

 ぼくはピシリと言い返すためだけに振り返った。「ぼくはあなたとは違うんです」

 そう、ぼくはショタコンだ、けれど、いつでも昴星と流斗の味方でいるショタコンだ。

 ぼくは男がトイレに入っていくのを見届けてから、小さなチョコ菓子が獲物のクレーンゲームでほんの少し遊んだ。五分ほどして、まず少年三人が出てきた。遅れて、少ししょんぼりとした流斗が出てきた。

「お兄ちゃん……」

 ぼくを見つけて駆け寄る。ぼくは、人目もあることだから抱きしめこそしなかったけど、「よく頑張ったね」とたくさん、少年の髪を撫ぜて労う。

「どうしよう、お金取られちゃったよ……」

「心配しないで。すぐに取り返す」

 慰めるために、チョコレートを一粒その唇に放り込んだところで、あの男が少し緊張したような顔で出てきた。ぼくは二人を連れて階段の踊り場へ行く。少年三人が上機嫌で話す声が、階段の階下から聴こえて来た。

「ご苦労様です。これ、お礼」

 男はチョコレートを差し出されて憮然とするが、「なあ、あんた……」と奥歯にものの詰まったような言い方をする。流斗は流斗で、「お兄ちゃんの知り合い?」とぼくの腰に引っ付いておっさんを見上げる。おっさんの纏う「不審者」オーラに本能的な部分で気付いているのか、目にはやや警戒の色がある。一方でおっさんも、男児には興味がないと言わんばかりに流斗を見もしない。

「じゃあ、カメラ、ちょっと借りますよ」

「……おう、ちゃんと返せよ」

 流斗に、「このおじさんと、いい子にして待っててね」と言い置く。言い方は何だけど、おっさんのカメラと流斗の存在は等価である。おっさんとしても流斗に手を出すわけには行かないし、ぼくもこのカメラを適当に扱うわけには行かないのである。

 階下からは既にあの三人組の声は聴こえなくなっている。ぼくはカメラを片手に大急ぎで階段を降り、広い一階で周囲を見回す。……子供たちがスーパーの食品売り場をうろつくものかと思い直して、表に出た。線路沿いの道を、三人がじゃれあいながら歩いていく後姿を見つけるのに、幸いそう時間は掛からなかった。

 歩調を緩めながら、カメラの内容を確認する。パンツ、パンツ、パンチラ、……全くもう、あのおっさん、ロリコンめ。

 その動画の後に、……出てきた。トイレの個室、足元の隙間からシビアに見上げる角度で。イヤホンを付けて聴いてみる。……子供たちの声、きちんと撮れている。「金持ってきたんだろ? ほら、早く出せよ」ぼくの前方を歩く三人組はいずれも才斗並みの体格である。四年生としても小さな部類に入る流斗からすれば、……あの気丈な子はそうそう言いはしないだろうけれど、きっと怖かったに違いない。

 流斗にはぼくのポケットマネーから五千円札を一枚渡しておいた。六年生の子供にとっては大金だが、ぼくにとっても立派に大金の一葉さんだ。

 返してもらわなくてはいけない。

 そして、流斗の写真も取り返さなくては。

 少年たちは手にした五千円で美味しいご飯でも食べに行くつもりかも知れないが、そうは問屋が下ろさない。駅に近付いて、人通りがあまり多くなる前に、

「ねえ、君たち、ちょっといい?」

 ぼくは三人の背中に声を掛けた。

「ああ?」

「なに?」

 遠くからでも判っていたけれど、ちっとも可愛くない顔である。ショタコンのぼくであっても全くそそらない。ひょっとしたらぼくって、自分でショタコンだって思いこんでいただけで、実際には昴星と流斗にしか反応しない身体なのかもしれない。……いや、どうだろ。いまは昴星と流斗という美少年二人が傍に居るからそう思うだけで、もっと少年に餓えている頃だったら、このレベルの三人でも裸になってくれさえすれば萌えていたかもしれない。

「見てもらいたい物があるんだけど」と前置きして、何だか露出狂みたいだ。ぼくはあのおっさんのカメラを掲げて見せた。「ちょっと時間もらっていい?」正義の行為をしている。そういう気持ちがあるから、ぼくの笑顔には強張りなんてなかった。

 少年の一人は、早くもぼくがさっきゲームコーナーで流斗と一緒に居た大人だということに気付いたように、「なあ」と連れのシャツを引っ張っている。ぼくは構わずディスプレイを残りの二人に向けて、撮れたての動画を再生した。

「おお、五千円も持ってる、年下の癖に金持ちだなおまえ」

「もっと持ってんじゃねえのか? 小銭も残さず出せよ」

「断ったらおまえのちんこ撮った写真、ばら撒くぞ」

 目の前の少年三人の声、……なんてひどいこと、ぼくの頬は引きつりそうになる。そういう代物は、あのおっさんにしてもそうだろうと思うし、ぼくももちろんそうだけど、個人的に楽しむためにこそ使われるべきだ。

「ぼくは、あの子の従兄なんだけど」

 微笑んだままでも、嘘は上手につける。「あの子から盗ったお金、返してもらえるかな」

 ぼくの顔も少しぐらいは引き攣っていたと思う。けれど三人の少年ほどじゃない。一人は青褪めているし、残りの二人も今にも震え出しそうだ。逃がさないよと言う代わりに、一人の肩に手を置いた。

「返してくれるなら、……それからそう、あの子の恥ずかしい所を、君たちは写真に撮ったんだよね、携帯で。それをいま此処で消してくれるなら、警察に届けたりはしないでおいてあげよう。……知ってるよね? 君たちがしたみたいに、男の子の恥ずかしいところを写真に撮ったりするのは、とってもいけないことなんだって」

 ぼくが手を置いた少年が、虚勢を張るように睨み付けながら、ズボンのポケットからくしゃりと握り潰された五千円札をぼくに向けて押し付ける。「携帯電話も預からせてもらおうか」とぼくが執念深く言えば、一人ずつ、それぞれのポケットから携帯電話を引っ張り出す。

 流斗のおちんちんを撮ったデータは、彼らのデータフォルダの中でも異彩を放っていた。マゾヒストで露出狂の流斗なのに、濡れたおちんちんは可哀相なくらいに縮こまっている。ぼくは一人ひとりの携帯電話を丹念に調べて全て削除した。

「こういう写真を、ほかの誰かに送ったりしていないね?」

 携帯電話を返して確認するが、三人とも憮然と頷く。嘘を付いているようには見えないが、

「もし送っていたら、それだけで犯罪だよ。本当に誰にも送ってない?」

 改めて訊く。一人の視線がはっきり判るほど落ち着きを失ったが、残りの二人は頷いた。

「送っちゃったの?」

 ぼくは目を反らした少年に向けて訊く。

 一応――言うまでもないことだろうけど――ぼくは流斗に初めてあったときのように、彼らと視線の高さを合わせるようなことはしていない。あくまで、この高身長を頼りに見下ろしている。ぼくはさほど体格の良い方ではないけれど、一定以上の迫力を与えることは出来ているはずだ。

「まだ間に合う。すぐに消してもらうんだね。そうしないと君が犯罪者になる……、言っている意味が判るね?」

 少年は目を逸らしたままだが、ぼくの言葉がじんわりと彼の心に冷たく染み込んでいくのは手に取るように判った。

「二度とあんなことはしちゃダメだよ。あの子にもしまた君たちが悪い事をしようとしたら、すぐにぼくは、君たちのしたことを、君たちの通っている学校に言うからね。……わかった?」

 三人は決してぼくに視線を合わせようとはしないが、ぼくが手を離すと逃げるように走って遠ざかって行った。三人のうち一人が送ってしまったという流斗のおちんちんだが、幸いにして流斗の顔までは映っていなかった、あくまで、その部分のアップだけだ。だから、具体的に流斗の誇りが損なわれることには繋がらないだろう。ぼくは三人の少年を見送ってから、小走りにあの踊り場へと駆け戻った。

 

 

 

 

 おっさんに「あんたもあんまり派手にやらないようにね」と言い置いてカメラを返して、一仕事終えたような気になる。ずっとくまのぬいぐるみを抱き締めていた流斗はおっさんが居なくなるなり、ぎゅっとぼくの腰に抱き付いて、「お兄ちゃん、すごいね……」と感動したように言ってくれる。

「そう、かな。当たり前のことしただけだと思うし、……それにね」

 ぼくは流斗の髪をくしゅくしゅと撫ぜて、こんどは心底から柔らかく穏やかな微笑を、自然と頬に浮かべている。「流斗みたいな可愛い子に嫌な思いさせたくない。ぼくは流斗に『お兄ちゃん』って呼んでもらえてるからさ、流斗のことは本当の弟みたいに大事にしてあげなきゃならないって思うんだ」

 くまのぬいぐるみを大事そうに抱いた流斗はにっこり笑って頷く。太陽から雲が全て省かれた、眩しいほどの笑顔。

「お昼ごはん食べに行こうか」

 ぼくと流斗は再び手を繋いで歩き出す。ぼくにとって流斗という美少年とこうして手を繋いで歩けるという事実が本当に誇らしく思えるなら同じように、流斗がぼくの隣に居てくれる間は、この子にとっても心の伸びやかにくつろぐような時間であって欲しいと思う。

 昼食はショッピングセンターの片隅のレストランに入った。ご両親からお金を預かってはいたけれど、この分は自分の財布から出すべきだろう。ご両親には到底本当のことなんて言えないけれど、流斗と「デート」させて貰っていてしかもひとさまのお金でご飯を食べることなんてぼくにはちょっと、出来かねる。屋上でちょっとだけ食休み、並んでベンチに座った流斗はほんの少しの時間、うたたねをした。昨日に比べて暑さはひと段落着いた感じで、秋の到来を感じさせる。流斗だって外でのオモラシ遊びの回数はきっと減らすことだろう。だって、出したてのオシッコは温かくて気持ちいいのかも知れないけど、すぐに冷たくなって、風邪をひいてしまう。

「ね、お兄ちゃん」

 目を冷ました流斗はあくびをして、「ぼくね、夕べ、おかあさんがお兄ちゃんにお礼するって言ったときから、今日もお兄ちゃんに会えるってずっと楽しみにしてたんだよ」とぼくに凭れたまま、そんな可愛いことを言う。

「昴兄ちゃんには才兄ちゃんがいっつも側にいて、たくさんオモラシして、えっちなことして、遊べるけど、ぼく、いっつも一人だから、お兄ちゃんと遊べるのすごくうれしいな」

 ぼくの半袖から伸び出る、もちろん流斗よりもずっと太い腕にほんのりと温かい両の掌を当てる。小さな少年がぼくを求めてくれているという事実が、さっき食べたビーフカツレツよりもお腹を優しく満たすのを感じる。

「昨日みたいなこと、したいの?」

 そう訊くときのぼくが、「昨日みたいなこと」を求めているのは事実だけど、流斗はそれよりも自分が求めてしまうことを少し遠慮するように、恥じるように、「ダメ?」と見上げる。

 ダメなわけがないじゃないか。二日連続で会えて嬉しいのはぼくだってそうだ。ぼくのことを、……ショタコンのぼくなんかのことを、「好き」って言ってくれる子の求めるままに動かないわけには行かないだろう!

「……でも、オモラシしちゃダメってお母さんとお父さんに言われたばっかりだよね? ぼくもそのためのお手伝いをするってお母さんたちと約束しちゃったからね」

 流斗が本当に残念そうな顔をする。次の言葉を支度していたとしても、やっぱり慌ててしまうのが我ながら弱いと思う。「でも、此処がどこだか思い出したよ」

「……ここ? スーパー?」

「うん。……此処なら、流斗のパンツも売ってるよね? 流斗がオモラシしても誰にも見られない場所があるなら……」

 流斗はひょいと立ち上がり、「こっちだよ!」とぼくの手を引いて立ち上がらせる。そして背伸びをして、「ずっとオシッコガマンしてるの。お兄ちゃんがさせてくれなかったらどうしようって思ってたんだ」とぼくにそっと囁いた。

 オシッコを我慢している流斗に手を引かれるまま、ショッピングセンターの衣料品コーナーに足を踏み入れた。大人になってからはまず来たことはないが、ちょうど流斗ぐらいの歳の頃には、ぼくも母親に連れられて来たことがあったように記憶している。最近はもちろん、自分のお金で、自分で選んだ服を買っているけれど。

「いまはいてるのと同じの、これの緑色のだよ」

 流斗は迷いなく男児下着コーナーの棚を指差した。水色の縦縞、緑色の横縞、そして、これにはちょっとびっくりしたけど、生地が薄いピンク色でゴム部分は赤という、何というか、女の子のパンツにしてもおかしくないようなもの。英語で、「おしゃれな少年にこそ似合う」という意味の文章がウエストゴムに書かれている。三枚セットで九百八十円。

「こないだはもっと安かったんだけどなあ……」

 流斗は首を傾げるのを見て、なるほどと思う。流斗のお母さんはきっと、ラインナップの色調なんて特に気にもせず買ってきたんだろう。実際問題、息子にブリーフを穿かせる親って多分、あんまり息子の気持ちを考えていないように思う。ぼくがブリーフを卒業したのは中学に上がったのとほぼ同時だったけれど、そのときぼくの母親が言ったのは「そんなもん、誰が見るでもなし、変なこと気にするんじゃないよ、色気づいちゃって馬鹿みたい」という心の欠片もないようなことで、……そうではない、みんな、見てないようでちゃんと見てるんだ、クラスメートは。

 ピンク色の可愛らしいパンツを穿いている流斗を――しかも、美少年、そのうえしょっちゅう学校でもオモラシをするし、おちんちんを見せるような――目にする同級生の気持ちを汲んだなら、ピンク色のブリーフというのはちょっと問題があるように、ぼくは思った。

 とにかく、同じものが其処にあるのだとしたら、ぼくはそれを買うばかりだ。レジに持っていく前に、三足且つ三色でお買い得という靴下と、浴用のタオルも籠に入れる。どうして? と流斗は訊いたが、「だって今日、流斗スニーカーでしょ」と応える。内腿を伝った尿は当然、靴下にまで侵蝕するのだ。ビーチサンダルなら足を拭けばいいけれど。

「誰にも見付からないナイショの場所、駅から、バスでちょっと行かなきゃいけないんだけど、……お兄ちゃん、だいじょぶ?」

「ぼくは全然構わないけど、……流斗、オシッコ我慢出来るの?」

 うん、と流斗は自信満々、確信さえ伴って頷く。お母さんたちは大切な一人息子の膀胱が心配でたまらないという様子だったけれど、昴星や先森遍のようにオネショ癖が治らない訳ではない。この子の場合は「趣味」でしているのであって、自分の尿道管理能力が低いわけではないのだ。バスターミナルから目的地に向けてのバスはすぐに出た。十分、十五分と走るうちに、ぼくの住む街からはずいぶん東京寄りにあるこの街も徐々に家並みが疎らになって、左手に広い公園が見えたかと思うと、上り坂に差し掛かる。この辺りは都心に出るのに三十分と掛からない場所だけど、性質上はぼくらの街と大差なくて、複雑に張り出した丘陵がすぐ側にある。バスの客はどんどん降りて行った。

「つぎは、大王トンネル南口、大王トンネル南口」

 バスが駅前を出てから三十分は経過しただろうか。ひょっとしてもう県境を越えてしまったかもと思った頃、「とまりますのボタン」を流斗が押した。さっきガソリンスタンドとコンビニのある交差点を過ぎてから、人の住んでいそうな建物はなくて、二車線道路は上り坂、両手に雑木林が迫っている。大王トンネルというのが隣県との県境だろうということはぼくにも判った。

「こんなところまで一人で来るの?」

 最後部の席に並んで座る流斗に訊くと、うんと頷く。「ぼくだって、そんなあっちこっちでおちんちん丸出しにしてるわけじゃないもん。絶対に人が来ないとこで、一人ですっぽんぽんになって遊ぶのも楽しいんだよ」TPOを弁えない行為の話を、TPOを弁えたボリュームで流斗はぼくにする。前降りのバスが走り去るのを見送ると、流斗は「こっち」とぼくの手を引いて両側雑木林の道の、車道と明確に分けられていない坂道を登っていく。こんな所まで一人で来ていると知ったら、きっとお母さんたちもっと心配してしまうだろう。その上そこでやっていることが、……すっぽんぽんになっての一人遊びだとすれば。

 全く。見た目は本当に可愛らしい、無垢で無害な少年だというのに。ぬいぐるみを大事そうに抱き締めているところなど、あまりにも幼い。けれどこの子の頭の中にあるのは、

「どんな風にオモラシするのがいいかなあ……。お兄ちゃん、またするところ撮ってくれるでしょ?」

 そんなことばかりなのである。それで居て、流斗は学校の勉強では優秀な成績を修めているとこの間昴星から教わっている。底が知れないとはこのことだ。

 流斗は林の中に、迷いなくずんずんと入っていく。やや急な傾斜、草を踏み分けて振り返ると、さっきまで歩いていた道を走る車からはもうこちらは見えないだろう。けれど流斗はもう少し上まで上ったところでやっと足を止めた。少し、息が上がっている。しっとりと汗をかいている。

「ね、ここなら誰にも見られないよ」

 流斗はにっこり微笑んで、少し自慢げだ。右を見ても左を見ても林。さっきぼろぼろに錆び付いて今にも倒れそうな「山火事注意」の看板があった。「山」ってほどでもないなと思うけど、この辺りはまだ住宅の津波が届かない場所であるという訳だ。

「流斗、こんなところまでいつも一人で来てるの?」

 バス代は駅から、大人三六〇円、子供一八〇円、つまり、結構高い。

 人通りはほとんどないし、地元の人にしたって林の中に足を踏み入れるとは思えない。

「……これからは、ここへ来るときは、ぼくや昴星たちと一緒のときだけにしない?」

 どうして? と流斗は不思議そうに首を傾げる。ぼくは視線を合わせて、丁寧に説明した。こんなところで流斗の身に何かが在ったら、誰も助けには来られない。

「んー……、でも、そしたらお外でおちんちん出してみたくなったときにはどうすればいいの?」

 普通の、真っ当な、神経と思考回路をしている男の子なら、そんなことはまず気にしなくてもいいわけだが、残念ながら流斗は聡明でありつつも極めて特殊なものを備えているのである。

「そう……、うん、ぼくらの街に遊びに来たときになら、まあ……。ぼくも、お母さんたちがいいって言うなら、お休みの日にはこうやって出来るだけこっちに来て、流斗と一緒に居られるようにするからさ」

 じっと流斗はぼくを見詰めていたが、「うん。わかった」と頷いた。多分、判ってないだろうな、という気がする。けれど、ここで信用してあげないわけには行かないだろう。ぼくも頷いて、でも「約束だよ」と小指を結ぶことはしないで置いた。

「そしたら、お兄ちゃん、ぼくもうオシッコもれちゃいそうだよ。早く撮って?」

 流斗は片手にくまを抱いたまま、せかせかと半ズボンを下ろし、靴を脱いだ。水色横縞の可愛らしいブリーフが、いよいよぼくの目の前に現れた。同世代の子たちの中でも小さめと思われるものを支える膨らみは、いつ見ても本当にいとおしいものだ。ブリーフの縞模様によって流斗のそれが作り出す曲線はよりリアルに感じられる。昴星のようにみっともない染みが出来ているのも可愛いが、綺麗なのが本来の在り様だと言える。

 半ズボンを傍らに置いた流斗のそこに、携帯電話の――新しいカメラは置いてきた。当たり前だろう、だって、今朝はこんなことになるとは思ってなかったんだから――カメラを回しつつ、指を伸ばして触ってみた。

「もう、あとでたくさんさわってくれるんでしょ?」

「流斗は触って欲しいの?」

「うん、いっぱいさわってほしい。でもいまはダメ。もうオシッコ出ちゃうもん」

 杉ではないことだけは確かだ、植物には詳しくないぼくにはそれしか判らない、森の中の木をバックに、軽く足を広げた流斗がくまのぬいぐるみを抱いて立っている。時折秋のにおいの風が吹いて、葉擦れの音を立てた。

「あ……、出る……、お兄ちゃん、出るよ……」

 細い身体に微かな震えが走った。流斗は両手でぬいぐるみを、ちょっと苦しがるくらいにぎゅっと抱き締めてぼくに晒したブリーフの、丁度陰嚢を保持する部分から染みが広がって行く。左内腿に伝って遅れて、二枚重ねの窓の部分も侵蝕が始まった。お気に入りの、緑縞のパンツを自分自身のオシッコでどんどん濡れ汚していく少年は開いた口から震えた息を吐き出す。捲り上げたシャツと一緒にぬいぐるみを抱き締める左手には何とも形容し難いような、余った力が溜まっているように見える。そして右手は、じわじわと上部に向けても侵攻していく染みから水際で逃げるように辿っている。失禁している流斗という少年の、一番恥ずかしい部分がその指によって示されているようでもある。

 青い葉の匂いよりも強い、少年の排泄水の匂いがぼくの鼻に届きつつあった。

 自分の痴態を披露することに流斗が拘泥するようになって、これまで過ぎて重なった時間は昴星から教わった限りでは、「先輩」にあたる昴星よりもずっと短いはずだ。けれどこの少年が昴星をあっという間に追い抜き、突き放し、遥か先へと進んでしまえたのは、……流斗が一人だったからだろうとぼくは思う。昴星には、才斗がいる。恋人の存在が昴星にとっては、最大のブレーキとなりえるのに対して、まだそういう存在がなく、まだ歳幼いが故に、流斗は立ち止まることも振り返ることもせずにこんなところまで来てしまったのだろう。

「お兄ちゃん、撮ってる……?」

 流斗は気持ちよさそうな顔で訊く。その声と、股下から雨だれとなって足元に垂れる雫の音が重なる。

「うん、撮ってるよ。……すごいね、流斗。お外でオモラシしちゃうんだ?」

 えへへ、とはにかんだように笑う。これは勇気とは呼ばないし、ぼくの言葉も多分、賞賛として在ってはいけないのだけど、いまだけは、流斗を喜ばせるために口にしていいように思った。

「おちんちん、おっきくなってきちゃった……」

 言葉の通り、流斗のブリーフの縞模様はその奥に隠された少年自身のシンボルが形を変えつつあることを示していた。湾曲する縞はシビアなシケインで、そこはもちろん、多分、もう少しばかりの我慢汁が混入していたっておかしくないような流斗の尿が伝い溢れ出して来る。その場所が魅力的に思えるのは、ぼくも、流斗も同じことで、無謀なスピードで突っ込んで行ってスリップしてスピンして炎上したって構わないような気になる。

「ん、……ふぅ……」

 太腿とお腹がふるっと震えた。流斗ははぁっと溜め息を吐いて、「すっきりしたぁ……、いっぱいガマンしてたから、いっぱい出たねぇ」自分の作った染みと水溜りを見て、嬉しそうに微笑む。相変わらずぬいぐるみを胸に抱いたままで、年相応の純真さと、不相応に発達した性への興味の両方を、カメラに見せる。

 可愛い。

 という単語は、ぼくにとってはもう、性欲と直結している。まだ流斗はブリーフを脱いでもいないのに、ぼくのジーンズの中はきつくて仕方がなくなっている。

 けれど、それを知ってか知らずか、流斗は「もうちょっとこのままでいていい?」と首を傾げて訊いた。

「このまま?」

「うん。オモラシパンツはいたままでいたいな。でもってお兄ちゃん、ぼくのこともっといっぱい撮って」

 昨日の昴星も、同じことを求めた。二人の少年の求めることになら、何だって応えてあげることに決めているから、ぼくは頷いた。流斗はシャツを脱いで、パンツ一丁になると、ぬいぐるみをお腹に胸に当ててポーズを取る。ムービー撮影をカメラに切り替えて、屋外での失禁撮影会である。流斗はぼくがシャッターを切るたび、足を揃えて閉じたり、木の幹に背中を預けて屈んだり、膨らみを強調するように指で囲って見せたり、……この子は多分、自分が可愛い部類に入る見た目をしているということを、きちんと判っているんだな。昴星もしょっちゅう「流は可愛い」と言うし、同じことを、色んな人から言われて来たに違いない。

 事実だから、問題ないのだけど。

 流斗は木に両手をついて、ぼくに向けてお尻を突き出して見せた。緩やかに波打つ緑縞模様、股下からお尻の三分の一ほどにかけては、もちろんじっとりと湿っていて、特有の匂いが漂っている。股下の縫い目の辺りなど、一番濃厚に汚れている部分だろう。細く、幼い割に長い足、そのふくらはぎからはソックスに包まれているが、ぼくはここに至ってようやく、パンツとソックスと、おそろいの柄なのだということに気付いた。流斗の靴下はブリーフ同様、白と緑の縞模様なのだ。とはいえ、流斗のお母さんがそこまで気にして買うとは思えない――だって、三枚で特売のパンツを買って来て息子に穿かせる人であるからして――から偶然だろう。ぼくのさっき買った靴下、三色・三足いくらというものにも、同じ物が入っている。

 お揃いのブリーフとソックスは、同じように濡れているのだ。そんな事実もまた、ぼくの胸を打つ。興奮がピークに達しつつあった。

「流斗、……ちょっと、そのままで居て」

「ん? うん。お兄ちゃん、ぼくのお尻好きなの?」

 お尻に限ったことじゃない、全部好きだし、可愛いよ。そういう言葉が言葉にならないうちに、ぼくはジーンズの中でいまにも暴れ出しそうなものを取り出して、流斗の引き締まった小さなお尻の窪みに自分のペニスの先端を押し付けていた。

「ひゃん……」

 流斗はぴくんと身を反応させたが拒むことはしなかった。ブリーフが思っていたよりも冷たく感じられたのは、単純にぼくの方がうっとうしいぐらいに熱くなっているからだろう。

「もう……、お兄ちゃんもおちんちんガマンできなくなっちゃったの……?」

 ぐりぐり、お尻を動かして、流斗は振り返り、嬉しそうな声で訊く。そういうの、「えっちな声」なんだと思う。きっと誰かに教わったわけではないだろう。昴星が立てているのを聴いているうちに、自然とこの少年が身に付けてしまった、特別な声帯の使い方。

「あは、お兄ちゃんのおちんちん、すっごいあったかい……」

 自分の陰茎が少年のブリーフにめり込むように包まれているのは背徳感があって、それゆえに興奮をそそられる光景だった。流斗は面白がって幾度かお尻を動かしていた。もしもそれが、もう少し続いていたなら、……昨日、初めて昴星と結ばれたばかりだというのに、ぼくは流斗に「入れたい」なんて言っていたかもしれない。

 理性が欠片でも残っていたから、ぼくはそれを口にはしないで、腰を引いた。だって、……昴星の身体でもずいぶん無理があったように思われるのだ、彼より二つも年下で、しかもサイズもずっと小さい流斗に侵入したりしたら、ぼくが何より自分自身に禁じている結果を招きかねない。

 ぼくは流斗の喜ぶ顔しか見たくないのだ。

「えっちなお兄ちゃん」

 流斗はずっと胸に抱いていたぬいぐるみを自分のシャツの上に鎮座させると、白い膝を土の上に立てて、両手でぼくのペニスを包み込んで、

「お兄ちゃんもオモラシしたいの?」

 いたずらをするように、両手で優しく甘く動かす。「ぼくの、お口に」

 ぼくは声も出せず、撮影することも忘れて、こくんと頷く。

 流斗は赤く腫れたぼくの亀頭に、ちゅっと音を立ててキスをして、「おいしそう、お兄ちゃんのおちんちん、いい匂いだよー」

 微笑とともに言った。けれどすぐに、「あ、でもぼくのオシッコも付いてるんだっけ……」と思い出したように言う。

 しかし、流斗は結局構わずぼくのペニスを口に含んだ。

「んへへ……、ひょっはい」

 亀頭を舌に乗せたまま、笑う。ぼくの先端から溢れた蜜の味なのか、それとも流斗のオシッコの味なのか、はっきりしないけれど嬉しいならいいし、嬉しそうにぼくの亀頭を舌の面で撫ぜるところを見せてくれるのは、もっと嬉しい。

「やっぱり、お兄ちゃんのおちんちんおいしいな……」

 お掃除フェラとでも言えばいいのか、流斗は舌先を器用に使いこなして複雑に入り組んだ亀頭の裏側を丁寧に辿る。焦らすような動きが、何というか、プロフェッショナル。少し強めに茎に浮き出る尿道のふくらみを下から舐め上げて、先端に浮かんだ露をまたちゅうと吸う。それからぱくんと先っぽだけを口に含んで、右手で茎を扱き、左手で袋を撫ぜる、……心づくしの丁寧さが、よく伝わってくる優しいフェラチオだ。

「お兄ちゃん、おちんちんしゃぶってるとこ撮らないの?」

 流斗に言われて、ようやく思い出して携帯電話を構える。流斗は嬉しそうにまたぼくのを、びっくりするぐらい深く咥え込んでカメラを見上げる。シャッター音のたびに角度を変えるのは先程と同じで、可愛らしく赤い舌と繋がる腺液も、ぼくに収めさせた。

「お兄ちゃんのおちんちん、大好き」

 決して綺麗には見えない男根にほんのり赤みを帯びた頬を寄せて、流斗は言った。「いっぱいいっぱいおいしいの出してね? ぼくで気持ちよくなってね? お兄ちゃん、ぼくのことたくさんうれしくしてくれるから、ちょっとでもお礼したいよ」

 流斗の髪を撫ぜるぼくの手は震える。幸せに弾けそうなぐらい、腫れたみたいに熱くなっている。

「……出していい?」

 掠れた声で訊けば、目を輝かせて頷いて、再び深々とぼくを咥え込む。きっと窮屈なはずの口の中で、それでも流斗は舌を動かし、頭を動かす。シャッターを、何度か切ったけれど、どうせ手ブレがひどい。諦めて、ぼくは流斗の髪に手を置いて、少年の柔らかくて生温かい頬肉と舌の感触だけを存分に味わった。

 弾んで口の中に「オモラシ」をしたぼくを見上げる目が、幸せそうに微笑む。

 しばらくの間、流斗はじっとぼくのものを口の中に収めたままでいた。まだ名残のように、ゆるゆるとくすぐったく舌が動く。それから僅かに吸引の音を立てて、口を外した。

「おいしかったあ……。すっごく濃くて、いっぱい出たねえ」

 労うように褒めるように、ぼくの亀頭を人差し指で撫ぜて微笑む。ぼくはしばし頭を真っ白にしているばかりだ。もう慣れてもいいとは思うけれど、……やっぱり、生身の少年相手の射精というのは、すごい。背徳も快楽も、超弩級。

 それでも、お礼を言おう。そう思って口を開いたぼくより先に、

「ありがとね? お兄ちゃん」

 立ち上がって、ぼくに抱きついて流斗が言う。「いっつも、わがままきいてくれて、ぼくのこと大事にしてくれて、いっぱいおいしいおちんちんしゃぶらせてくれて……、何度お礼言ったって追いつかないけど、ほんとにありがとう」

 ぼくは慌てる。大いに慌てる。だって、……ぼくはただ、自分の悦びが大きすぎて、それが申し訳なく思えるから、ちょっとでも流斗の役に立ちたくて。

 言葉にする前に、ぼくは一度流斗を抱き締めて、……それから、自分のするべきことを思い出した。全く、自己中心的であってはいけない。流斗はオモラシしたパンツを穿いたまま、ぼくの射精を優先してくれたけれど、このぼくよりずっと年下の少年は射精を求めているのだ。

「流斗、おちんちん出して」

「うん、……おちんちん見てくれるの?」

「見るだけじゃなくって、……流斗も気持ちよくなりたいでしょ?」

 流斗は頷いて、ブリーフの窓から勃起した幼茎を取り出した。ぼくが顔を近づけると、思い出したように「ちょっと待って」と止めて何をするのかと思えば、

「ほら、こうするとね、パンツ穿いたままでもおちんちんが全部丸見えになっちゃうんだよ」

 タマタマも、細い茎と一緒に窓の外に出す。

「本当だね。パンツ穿いてるのに、大事なところ全部見せちゃうんだ?」

 ぼくは笑って訊いてみる。えへへと流斗はそれを突き出して、「全部じゃないよー、お尻の穴はパンツの中だもん。でもね、こうすると、オモラシパンツとおちんちんのぜんぶ、両方とも見えちゃうでしょ? だから前に一人でここ来たとき、こうやって出して一人で遊んでたんだよ。どんどんおちんちんかたくなって、すぐきもちよくなっちゃった」

 そんな危ないことをしていたのか。

「自分で写真に撮ったのもあるけど、……ねえ、お兄ちゃんこのかっこ撮ってよ」

 流斗がポーズを取る。リクエストの通りに、ぼくと、流斗のズボンのポケットに入っていた携帯電話を構えた。

 濡れて汚れたブリーフから少年のシンボルが陰嚢ごと露出している様というのは、確かに魅力的であると言っていい。斜めに元気よく立ち上がるおちんちんも、くるんと丸いタマタマも、大人の機能を備えている証明だけど、穿いているのは赤ちゃんみたいにオモラシして汚してしまったブリーフ、という二律背反がそう思わせるのかもしれない。「このままオシッコするとこも撮って」と依頼されたから、ぼくは流斗がブリーフから差し出す細い茎から高らかに虹を描くところも撮影しながら、

「……流斗は、一人のとき、どんな風に遊ぶの?」

 と訊いてみた。流斗のオシッコは先程よりも色が薄まっている。レストランで、何度も水をおかわりしていたのは、この時間のために決まっていた。

「んーとね、お外でするときには、このカッコでいまみたいに、オシッコしたりとか、そのまんまおちんちんしこしこしてたりとかー……」

 オシッコが出切ったのか、虹の勢いが弱まった。

「あとね、おトイレ入って、ちっちゃい子みたいにパンツごと下ろしてオシッコしたりとかー、あともちろんオモラシもするよ」

「そうなんだ……」

「さっきの子たちみたいに嫌なこと言われるのはヤだけど、見られるの好きなんだー。ほかにもいろいろするよ、おちんちんとか、うんちするとこの写真じぶんで撮ったりとか、オシッコ飲んだりとか」

「……飲んだり?」

「うん、お水いっぱい飲んでも、そのうちオシッコでなくなっちゃうでしょ? だから、オシッコ飲んでリサイクルするの」

 リサイクルという言葉の意味が曖昧になる。ぼくは「そう……、すごいね」とぎこちなく言うのがやっとだった。まあ、流斗のオシッコは昴星のそれに比べてずっと飲みやすい。少年自身の口にとっても、まろやかに注ぎ込まれるのだろう、多分。

「ね、お兄ちゃん」

 ぴんと反り立ったものが、ぴくぴくと可愛らしく震えている。すぐにしゃぶりつきたいのを一度だけ堪えて、丸い玉袋を舌先でくすぐってみた。皺の舌触りに潮味がまろやかに伝わってきたけれど、

「んん、いじわる、お兄ちゃんのお口にオモラシしたいのに……」

 まるで本当にオシッコが我慢しているみたいに腰を揺すって強請られては、ぼくもこれ以上我慢出来ない。細い包茎を、一口に咥え込んだ。

「んはぁ……」

 ジューシー、という表現をしていいのか判らないけど、でも、そうだ。吸い付いたぼくの口の中へ、オシッコと、我慢汁、両方が流斗のおちんちんの皮の隙間からじゅわっと染み出してくる。もちろん砲身にも、先程虹を描いた際に伝ったものの味がしっかりと付いている。鼻に抜ける甘酸っぱいような馨りとともに、全く「甘美」と言うほかない代物だ。

「ね……、お兄ちゃん、ほんとにオモラシ、してもいい?」

 流斗は切なげに目を潤ませて訊く。一度口を外して、「オシッコ、まだ出るの?」と確かめれば、こくんと頷く。

「……いいよ、ぼくも流斗のオシッコの味、大好きだから」

 そう答えて口に含めば、確かに流斗の身体の奥まったところで力が篭もるのを感じる。

「あっ……」

 ぴくん、と流斗の身体が鋭く震えた。遅れて、そう多い量ではないがぼくの口の中へ新鮮な流斗のジュースが搾り出される。美味しいものを齎してくれた幼茎を包む皮を指で剥いて、いかにも傷付きやすそうな粘膜質の亀頭を舌先で味わっていると、もう、ほとんど瞬間的な出来事として、

「あぅ、出ちゃう、おにぃちゃっ、せーし出ちゃうっ……」

 潤んだ尿道口から、ぴる、と幼い精液が甘酸っぱい震えと共にぼくの口へと射出された。清澄なオシッコとも、とろとろの腺液とも違う、ゼラチン質で爽やかな香りの液はほとんど流斗のパンツの中みたいな味と匂いに満たされていたぼくの舌に、アクセントを刻む。舌触りにしても、同じ場所から出てきたものとは思えないほどだ。

「あう……」

 流斗は赤い顔で目に涙を溜めて、ぼくを見下ろしている。そんなに気持ちよくなってくれたのなら、ぼくとしても嬉しいし、余韻に浸っている流斗は本当に可愛い。口の中に出されたものを飲み込んでから身体を起こし、濡れた唇にキスをした。「美味しかったよ、流斗のおちんちん……、本当に、すっごい可愛かった」

 射精直後にはこんな少年でも背徳感を抱くのだろうか。流斗は珍しくもじもじと落ち着きなく腰を動かして、なにごとか、言いかけてはやめる。「ん?」とぼくが顔を覗き込んで助け舟を出すと、

「……パンツ、ぬぎたい」

 オモラシパンツで何十分でも平気でいるはずの少年が、ぼくにそう強請った。

「脱ぎたい?」

「ん……、お兄ちゃん、脱がせて」

 泣きそうな顔でそう言われるから、仕方がない、……おちんちんが見せてもらえるスタイルでいてくれる以上、ぼくとしてはずっとこのままでもいいのだけれど、よく考えたらお尻だって見たい。だからぼくは一旦流斗の、小さく萎れたおちんちんを窓の中に戻してから、まだずいぶんと湿っぽい縞ブリーフのウエストゴムに指を入れて、膝まで下ろす。

 その時点で、ようやくぼくは流斗がなぜブリーフを脱がせて欲しかったのかということを理解する。

「……いま、オシッコしてくれたとき?」

 訊くと、こくん、と心細そうに頷く。

 流斗のブリーフの股下には、親指ほどの大きさの、茶色い塊が落ちていた。恐らく先程、まださほど尿意も強まっていないのに無理に放尿しようとして、顔を出してしまったものがあって、……それが射精の際に千切れて、下着の中に零れてしまったのだろう。表から押さえてみれば、それはあっけなくころりと落ちる。あとには茶色い跡がこびり付いてはいるが、不潔な染みが大きく広がってしまったわけではない。

 流斗の足からブリーフを抜きながら、

「流斗のこのパンツ、もらっていい?」

 と、ぼくは笑顔で訊いた。

「え……?」

「だって、流斗にもらったパンツで、こっちが汚れてるのは初めてだ。……普段はうんちオモラシしちゃったりしないんだもんね?」

 こく、と流斗は頷く。「昴星たちの前でも、こんなことないんだよね?」重ねて問うたら、もう一度、流斗は頷く。

「だったら、欲しいな。ぼくと流斗の、大事な思い出だから」

 たっぷりのオシッコを吸って、その上、お尻のところに茶色い汚れのこびり付いた汚れた下着。確かに不潔極まりないものだし、持ち主の流斗としても恥ずかしいばかりのものかもしれない。

「……その、パンツじゃ、おうち、はいて帰れないし……」

 そりゃそうだよね、お母さんたちにまたオモラシしたことバレちゃうもの。「だから……、そんなので、よかったら、お兄ちゃんにあげる……」

 ありがとうの気持ちを篭めて、ぼくは流斗の縮こまったおちんちんにキスをした。ぼくの唇が触れただけで、ぷるんと揺れる其処からはたっぷりとしたオシッコの、もう乾き始めた匂いが強く漂っている。そのままもう一度咥え込んでしまいそうになったけれど、

「うんち、まだ出る?」

 見上げて訊いたら、流斗は恥ずかしそうに頷く。ぼくはポケットからまた携帯を取り出して求めた。「お尻こっちに向けて、いっぱい出すところ、撮らせてよ」

 我ながら変態的だと思う申し出を、しかし流斗は拒まない。「お兄ちゃん、ティッシュ持ってる……?」ぼくが頷くと、木に両手で縋って、お尻をこちらに突き出す。先程小さなひとかたまりを零してしまった肛門は少し汚れていて、いまもむぐむぐと蕾を蠢かせている。

「あ……」

 綺麗に整った肛門の皺が、環状の筋肉の存在を見せ付けるように内側から膨らむ。皺の中央が裂けて、そこから太く、やや硬そうで、色も濃いものが顔を出す。

 ぼくはカメラを回しながら、片手に三枚重ねて広げたティッシュペーパーを乗せて、流斗に気付かれないように掌を近付ける。

「出る……っ、うんち、出るぅ……」

 ぬちぬちと音を立てながら、可愛い顔からは想像しがたいほど、太い便が流斗の肛門から生み出されていく。それは足元に落下する前に、ぼくの掌の上に乗った。長さは十センチほど、太さは、……流斗自身の勃起したおちんちんよりも太い。……いや、観察する必要はないように思われた。ともかく美少年の齎す物体であることには間違いない。

 ずっしりと重たく硬いそれの持つ温もりが、三枚重ねにしたティッシュを透かしてぼくの掌にまで伝わってくる。

「すごい、立派なうんちだね」

 初めて会ったとき、まだ「りょうた」を名乗っていたこの少年はこういうものを生み出せる自分の身体を誇らしく思っていた。だから、ぼくは賞賛の言葉を口にする。

「んん、まだ出るよぉ、もっと、いっぱい出るもん……」

 一つ目のかたまりをちょんぎった流斗の肛門からは、勢いづいたように二つ目がまた頭を覗かせる。

 こうして少年の排便シーンを見ることが、すっかりぼくの日常になってしまった。初めて昴星に見せられたときには、正直ちょっと、驚いたと言うか、引いてしまったことを認めざるを得ない。けれどいまとなっては目の前でまた、悪臭を放つ塊をひり出そうとする流斗を見てぼくは興奮しているし、流斗の其れをティッシュごしとはいえ掌に載せることだって出来る。人間って、進化し順応する生き物だ。

「はぁあ……、うんち出てる、すっごい、いっぱい出てるよぉ……」

 流斗にしたってそれは同じだ、この子は昴星たちと知り合って、「失禁」という異常性癖に順応し、其処から独自の進化を遂げて今に至る。足の間から覗こうとしなくたって流斗が縮こまっていたおちんちんをまたお腹へと反らしていることははっきりと判っていた。

「流斗、こっち向いて」

「……ん? あ」

 ぼくの掌に盛られたものを見て、目を丸くする。それから困ったように、「お兄ちゃん、きたないよぉ……」と言いながら、ぼくの掌に更に重量を加えていく。

「流斗が恥ずかしがるところ、見たかったからね。……すごい重いよ、自分で持ってみる?」

 流斗は尻尾を垂らしたまま、不器用に振り返る。ぼくは流斗の手を汚さないように、慎重にそれを両の掌に載せてやった。足を広げてしゃがみこんで、自分の出したものをぽかぁんと眺めている間も、流斗のお尻の下には断続的に便が落ちていた。たくさん食べていたから、たくさん出せるのだろうし、これはぼくに見せてくれるためにお腹の中で溜めていたものなのだろう。

「流斗は、ほんとにすごいね。可愛い顔して、身体もちっちゃいのに、こんなにたくさんうんちしちゃうんだもん」

 実際、その物体の様子は「男らしい」と言ってしまっていいように思う。まだ流斗は靴下を穿いたままで、その靴下は愛らしいパステルグリーンとホワイトの縞模様、そして綺麗な顔をした男の子が、こんなに汚くて臭い塊をたっぷりと生産してしまうという事実は、何とも言えないアンバランスさが興奮を催させる。

「すっごぉい……、こんな明るいとこで、こんな近くでうんち見たの初めて……」

 流斗は顔を寄せてまじまじと観察する。二時間ほど前に食べたものは美少年の身体によって跡形もなく粉砕され、健康的な便へと変貌を遂げているのだった。

「つやつやしてる……、でも、やっぱりすっごいくさいや」

「そりゃそうだよ、仕方ないさ」

「えへへ。うんちのにおいだけなら、ぼくも昴兄ちゃんとおんなじだね」

 はにかんだように、ぼくのカメラに微笑んで見せて、土の上に置いた塊の上に跨りなおすと、其処にもう少し、重量を追加して立ち上がった。「全部出た?」と訊くと、すっきりとした表情でうなずく。もう、涙の気配はない。

「ね、お兄ちゃん、お願い」

 立ち上がった流斗は、再びぼくにお尻を向けた。小さなお尻の肉を両手で割り開いて、茶色い残滓の付いたお尻の穴をぼくに見せ付ける。

「お兄ちゃんのね、オシッコで、ぼくのここ、洗って欲しいな……」

 ぼくが言葉を失うのを、流斗は先読みしていた。「あのね、ほんとは、お兄ちゃんのオシッコでぼく、びちょびちょにしてほしいの。だけどここ、お風呂じゃないし、あんまり濡らしちゃったら帰れなくなっちゃうでしょ? だから……、お尻だけでも、お兄ちゃんのオシッコ、欲しいなって……」

 流斗の、日焼け跡のないお尻。いまのいままで、足の間に落ちている大量の排便をぼくに見せてくれたお尻。

「あん」

 指で触れると、……何と瑞々しい感触だろうか。昴星のお尻の、むっちりと肉感的な手触りとは全く違う。

 昨日、ぼくは昴星のお尻の中に入ってしまった。そのことは、流斗にも話せない。きっと言えばこの子だって、同じことをしたいと言い出すに決まっていた。

 その代わりに出来ることならば、ぼくはなんだってしなければいけない。

「うまく出来るかどうか、判らないけど……」

 ジーンズから取り出したぼくのペニスは、当然ながら勃起している。けれど、多少の尿意を感じていることは事実だ。自分よりもずっと小さな流斗のお尻を目掛けて、苦しい角度、勃起で尿道が細まっていることもある。けれど、

「あはぁ……、お兄ちゃんのオシッコぉ……」

 ぼくは流斗のためならば何だって出来る、それこそ、自分をウォシュレットのように使う事だって平気だ。

 ぼくのペニスの先端から迸った飛沫は、まっすぐに流斗の肛門を直撃し、そこでまた飛沫を上げた。流斗はそれが気持ちいいのか、お尻をゆらゆらと動かしながら、ぱっくりと開いたお尻の穴に当たるぼくの体温に悦んでいるみたいだった。

 最後の最後まで、ぼくのオシッコをお尻に浴び続けた流斗は、びしょ濡れのお尻を自分の掌で撫ぜていた。ぼくは少年のお尻を自分の体液で汚したのだという罪悪感を堪えながらも、濡れててらてらと光る流斗の臀部を見て、異様な快感を感じていることを否定できない。

「すっごい、あったかかった……、お兄ちゃん、ありがと……」

 流斗のお尻の穴はずっとヒクヒクしている。あれほどたくさんのものを生み出した其処は、ぼくのオシッコですっかり濯がれて、でも一層汚くなってしまった。流斗はそこを盛んに指でくすぐりながら、

「ね、お兄ちゃんにオシッコかけてもらったら、ぼく、またせーし出したくなっちゃった……」

 振り返り、木に背を預けてずるずるとしゃがみ、切なげに求めた。

「ぼく、おちんちん気持ちよくなってもいい……?」

 おちんちんも、すくみ上がったタマタマの裏側までも濡れている。けれど先端の皮を濡らすのは、さっきの射精で出し切られなかった我慢汁だということはよく判る。

「いいよ。……でもその代わり、流斗のえっちなところ、いっぱい撮らせてね?」

 それが少年にとって望むところだということを理解した上で、ぼくは訊いたのだ。流斗はにっこり笑って頷くと立ち上がってぼくの構えたカメラに向けて自分のおちんちんを指で弾いてみせる。

「お兄ちゃん、ぼくのおちんちん撮って、あとで見るの?」

 背景が外である。昨日の川原にしてもそうだったけれど、何というか、背徳感が半端なく襲い掛かってきて、それだけに興奮を催させられる。「うん、何度も見ると思う」

 流斗の全身を収めてから、流斗の細い勃起にカメラを寄せる。嬉しそうにそこをピクンと震わせて、「いっぱい見て、気持ちよくなってね?」と言いながら、摘んで、皮を剥いて見せる。か細い口にもう透明な露が浮かんでいることにぼくは気付くし、流斗も気付いたらしい。爪を短く整えた人差し指の先を当てて、其処に糸を引いてみせる。

「えへへ……、えっちなオシッコ、もう出てきちゃった。お兄ちゃんに見てもらえるの嬉しくて出てきちゃうんだよ」

 指先でそのぬるつきを亀頭に塗り広げるだけで、流斗のおちんちんは切なげにぴくぴく震える。少年の手はすぐにガマンを忘れて、皮を被せなおすと摘んでくにゅくにゅと扱き始めた。

「あはぁ……、いっつもより、きもちぃ……!」

「……いつもより?」

「ん、あのね、いっつも、ひとりでお外でおちんちんいじるより、お兄ちゃんに見てもらえてるほうが、何倍も気持ちいいの……」

 流斗のオナニーはとても愛らしい。右手の人差し指と親指で皮の上からでもはっきり判るカリのふくらみを摘んで小刻みに動かしながら、左手の指は竦み上がったようなタマタマを撫ぜている。「タマタマ気持ちいい?」と訊けば、

「ん、タマタマ、きもちぃ……」

 と蕩けた声で答える。

 ぼくはカメラを引いて、再び流斗の全身を収めた。靴下だけ履いて、お外で、こんな風にオナニーをする少年……、「淫ら」という言葉の範疇にはもう留めて置けないような何かがある。無邪気で自由奔放で、ちょっと危なっかしい、しかし、それだけにいとおしい。

「あ、はぁンっ、も、出ちゃう……ンっ」

 刻まれる脈動、流斗が最後に剥いた皮の隙間から、元気よく飛び散る白い蜜。それは流斗の身体が先程生み出した茶色い塊に飛び散る。暢気に見えて、いつでも何でも計算ずくで、自分がどう見られるかという案件を承知の上でやりこなす流斗でも、いまこの瞬間ばかりは 自分がどのような表情を浮かべているかに無頓着であるはずで、……ぼくは射精した流斗のおちんちんよりも、少年の少年らしい穢れない表情を撮影していた。少しの間ぼくのレンズの向きに気付かないで居た流斗がやっと顔を上げて、にこりと笑う、……それまでの、十数秒。

「気持ちよかった?」

 うん、と流斗は頷いて、まだ硬い自分の茎をぷるんと弾いて見せる。

「すっごくドキドキしたよ。……あのね、昴兄ちゃんたちが教えてくれたんだけど、ぼくと同い年ぐらいの男の子はまだぼくみたいにおちんちんで気持ちよくなるやり方知らないんだよね?」

「ああ……、うん、そうだね。少なくともぼくは中学に上がるまでは知らなかった」

「お兄ちゃんは、誰かから教わったの?」

 そうだよ、と言えばそれは答えになるし、違うよと言ってもまた正解になる。実はそれって、男にとっては結構難解な問題だ。誰もが好んでする「オナニー」という行為は、もちろん他からの情報なくしては始められないのだけれど、じゃあ誰に教わったのかと言われても明確な答えは用意しがたい。

 ぼくは昨日先森遍の下半身を拭いたときと同じように、ミネラルウォーターを含ませたタオルで流斗の下半身を拭き清めつつ、

「……中学生ぐらいになると、何となくね、えっちな話とかを、回りの男子たちとするようになって。えっちな本を貸してもらって、読んでみたりとか」

 初めて女性の乳房を(エロ本で)見たときには、今では立派なショタコンであるぼくだって大いにドキドキして、もちろん勃起したものだ。多少の順不同はあれど、概ね身体の大きな者から順に精通を経験していく、……ぼくの場合は夢精だった。けれど、自分で快楽をコントロールする術を、それぐらいの少年たちは徒手空拳ながら体当たりで、試験勉強よりもずっと熱心に学び、会得していく。

「才兄ちゃんには、みんなにはまだおちんちんで気持ちよくなるやり方教えちゃダメって言われてるよ」

 そりゃそうだろう、才斗はさすがに聡明な子供だ。

「本当は、流斗にもまだちょっと早いことだからね。……知ってると思うけど、本当はぼくみたいな大人とえっちなことをしちゃいけない訳だし」

「うん、それに、オモラシで気持ちよくなるのって、ほんとはいけないんだよね?」

 流斗は少し恥ずかしそうに言う。「でも、ドキドキするの好きだな。それに、ぼくのおちんちんとかオモラシとかうんちするとことか見て、おんなじようにドキドキしてくれる人がいるって思うと、やっぱりしてあげたくなっちゃうんだ」

 それは、評価してはいけない類の「優しさ」だ。けれど、才斗と昴星に矯正できなかったのだ、ぼくが今更出来るとも思えない。だからぼくがするべきは、この子のこういう性癖が原因で、この子が将来苦しむことがないように気を配ることしかない。

 すっかり元の大きさに戻ったおちんちんを摘んで、「お兄ちゃん、ちっちゃいのも撮って」とせがむ。あっさり応じて幼茎を何枚も撮影してしまうぼくに、右のようなことがはたして可能なのかどうか、全く覚束ない。

「ね、お兄ちゃん、新しいパンツはいてもいい?」

 それは、もちろん。流斗は袋からピンク色のものを取り出して、足を通す。「女の子の色だね」とぼくが言うと、お尻を向けて「女の子のお尻だよ」と愛らしく揺らして見せてから、またこちらを振り返ってぼくにしっかり抱きついた。

「あのね、……昴兄ちゃん、女の子のカッコ似合うの、ぼく、ちょっと羨ましいんだ……」

 流斗の言葉に、全面的な同意を篭めて頷く。確かにあの子は、長い髪と幼い体型が手伝ってか、妙に女装が似合ってしまう。性格的にはとても男らしいし、言葉遣いや身のこなしも好ましい雑さを持っているのだけど、女子水着やブルマを身に着けると途端に少女めいた愛らしさを持ってしまうのだ。

 一方で流斗は、……やはり、才斗と同じ血を引くからだろうか。年より幼くたまらない愛らしさと美しさを持っているものの、基本的にはちゃんと、男の子に見える。

 流斗に昴星の、昴星に流斗の性格が備わっていた方が自然かもしれない。とは言え、そんなことは言っても詮ない。

「流斗は、女の子になりたいの?」

 ぼくの問いに、流斗は少し躊躇う。「……んっと、……ぼくね、ぼくにおちんちん生えててよかったなって思うよ。お兄ちゃん、ぼくのおちんちん好きって言ってくれるし、ぼくが男の子だからおちんちんかわいがってくれるのも、わかるから」

 波のある、天使みたいな髪の毛をぼくは撫ぜながら、「流斗がもし女の子だったりしても、ぼくは流斗のこと可愛くて仕方なかったと思うよ」と言い聞かせる。流斗は大きな目をきらきらさせて、「ほんと?」とぼくを見上げる。

 うん、とぼくは頷く。自信を持って。

「確かに昴星は女の子の格好がよく似合うと思う。だけど、流斗もおんなじぐらい可愛いよ」

 この子がもしそれを望むなら、ぼくは流斗のために可愛い女の子の服を買い揃えたっていいとさえ思う。

 というか、「この間の、女の子の水着を着た流斗も、本当にすごく可愛かったし、いま女の子色のパンツ穿いてる流斗見てるだけでドキドキしてるし」

 流斗はぎゅうとぼくに抱き付いてから、背伸びをした。自然な動きで、ぼくはそれに応じられる、キスをした。

「……ぼく、お兄ちゃんの前でときどき女の子になってもいい?」

 流斗の言う「女の子」がどんな子なのかは判らなかったけど、「もちろん」とぼくは頷く。昨日、昴星の身体を女の子にするようなやり方で愛してしまった以上、流斗にそれをしないという法もないわけだ。

「あのね、ぼく、サクラちゃんとミズホちゃん、……えっと、ぼくと昴兄ちゃんに女の子の服くれた女の子たちに、女の子の、おま○こ、見せてもらうことあるんだ」

「……へえ」

 流斗の口から女性器の俗称が出てきたことに、少々面食らう。それを「見たことある」って、凄いことじゃないか。ぼくだって、生でまだ見たことはないのに、「いっつもぼくのおちんちん見せてるから、ときどき。いっしょにお風呂入ったこともあるし、ちょびっとだけ触らせてもらったり、あと、オシッコいっしょにしたり……。サクラちゃんたちはオモラシするの恥ずかしくていやって言うんだけど」

 まあ、オモラシしてって言われて「いいよ」って言っちゃうような女の子なんてそうそう居ないだろうね。

「だからね、女の子のパンツの中がどんな風になってるか、知ってるんだ。ぼくのパンツの中には、おちんちんとタマタマがあって、女の子みたいじゃないかもしれないけど……」

 流斗はまた背中を向けて、女の子色のブリーフを下げてお尻を見せる。両手でお尻を広げて、さっき大きな塊を生み出した、ピンク色の蕾をぼくに見せる。「うんちの穴だけは、女の子とお揃いだから……、もしお兄ちゃんがいやじゃなかったら、ぼくの、うんちの穴、いっぱい可愛がって欲しいなって……」

 嫌なわけがないじゃないか。

 当然の事ながら、昴星以上に小さな流斗の身体の中に挿入することは考えない。ただ、「可愛がってあげる」方法は、寧ろぼくの暴力的なペニスを突き立てる以外にだっていくらでもある。

「いいよ」

 引き締まった小さな双子の丘、左右に一度ずつキスをして、ぼくは、「流斗の可愛い『おま○こ』……、ぼくでよければ、いっぱい可愛がってあげる」言う。

 流斗は嬉しそうに振り返って、またキスをねだった。

「あのね、昨日の、……お兄ちゃんにのっかって、お尻ぺろぺろしてもらうの、してほしいな。ぼくもお兄ちゃんのおちんちん、たくさんぺろぺろして気持ちよくしてあげるから」

 望むところだ。

 けれどその前に、……流斗を「女の子」として扱うのだとしたら、しなければいけないことがある。流斗の髪を撫ぜて、膝を付いて、その華奢な肩に唇を当ててから、

「女の子なら、ここ、可愛がってあげなきゃね」

 昴星のようにぷにぷに柔らかいわけではない、けれど、色は本当に綺麗なピンク色で、ツンと粒の尖ったおっぱいは間違いなく、愛さなくてはならない場所だった。

 指先に、そっと摘む。

「にゃ……」

「でも、流斗はまだちっちゃいから、おっぱいはあんまり気持ちよくならないかな?」

 昴星は、もう此処も立派に性感帯としての役割を果たしていたようだけど。

「んん……、なんか、くしゅぐったい……」

「そっか、じゃあ、ここはこれからゆっくりお勉強していこう。今日は他のところで気持ちよくなればいいね」

 それでも、音を立てて其処にキスをすれば、「あん」と女の子が宿ったみたいに可愛らしく反応した。

 ぼくは土の上に横たわり、流斗はぼくの上にあべこべに跨る。ピンク色の、まだ下ろしたての匂いのするブリーフの股間に鼻を当てて、「流斗は、すごいね。男の子と女の子、両方出来るんだ」と褒める。流斗はさっそくぼくのペニスをトランクスから取り出して、キスを幾つも落としてくれながら、「お兄ちゃんが、ぼくのこと女の子にしてくれるんだよ」と可愛いことを言う。

「流斗は、おま○こが濡れるの、知ってる?」

「うん、サクラちゃんのおま○こいっぱい触ってたら、ぬるぬるしてきたんだよ。オシッコじゃないんだって」

「流斗のおま○こも濡らす方法があるんだけど、知ってる?」

 ヒントというか答えだけど、ぼくは流斗の「男の子」のところを指先でちょんと突いて訊いた。流斗は足の間からぼくの顔を覗き込んで、「うん」と嬉しそうに、本当に愛らしい笑顔で応え、身を起こした。ぼくの視界は流斗の「女の子」に覆われて見えなくなる。

「お兄ちゃん、だいじょうぶ? くるしくない?」

「大丈夫だよ」

 というか、流斗のお尻に潰されて圧死、オシッコで溺死、どっちにしてもぼくには幸せな死に方のように思えてしまう。

「そしたら……、お兄ちゃん、ぼくのお尻なぜててくれる? おま○こはね、気持ちいいと濡れてきちゃうんだよ」

 女性器に触れたことはもちろん、見たことさえないぼくにとって流斗は「先輩」である。仰せのままに、ぼくは両手で「女の子」流斗のお尻を揉む。

「あぁん、お兄ちゃん、えっち……」

 流斗はとても嬉しそうである。馬鹿らしいと言われればそれまでだが、可愛いのでもう、そういうことは問題視しない。

「あん……んっ、ぼくの、おま○こ、濡れてきちゃうよぉ……」

 しゅうううとブリーフの中からせせらぎの音が響き始めた。もう上を向いているらしいおちんちんから、ブリーフの前で行き止まり、おちんちんの根元やタマタマをたっぷり濡らし、いよいよ股下の縫い目までじわじわ侵蝕されていく様子、……何度も少年のオモラシを見てきたぼくにとっても新鮮すぎるアングルである。ぼくは繰り返し繰り返し流斗のお尻を揉みしだき、軒先の雨だれのように口元にポタポタと落ちる雫を浴びながら、「えっちだな、流斗のおま○こ、どんどん濡れてくる」と少年の悦びそうな言葉を浴びせる。

「潮吹きみたいだ。そんなに感じてるの?」

「しお、ふき……?」

「女の子はすっごく感じると、おま○こから鯨が潮吹くみたいにおつゆがいっぱい出ちゃうんだよ。流斗は潮吹くの初めて?」

 流斗の股間がぼくの顔に迫る。ぼくの口に股間をこすりつけるように腰を振りながら、「んん、だって、だってお兄ちゃんと女の子でえっちするのはじめてだもん、いっぱいきもちよくなっちゃうよぉ」感極まったような声で喘ぐ。ぼくは夢中になって流斗の「潮」――実際、しょっぱい――を口の中に注がせ、引き締まりながらも弾力のあるお尻を揉み続けた。

「はぁあ……」

 まるで射精してしまったかのように、流斗の身体から力が喪われる。けれどぼくの顔に必要以上の体重を掛けないように気を遣っているらしい。ぼくのペニスへの愛撫を再開するから、ぼくも、「流斗のおま○こ、見てもいい?」と訊く。

「ん……、お兄ちゃんにだけ、見せてあげる」

 昨日、太いのを出すところを遍に見せたばっかりだけど、あれはあくまで「お尻の穴」だったのだ。いまからぼくが見るのは、ぼくにだけ許された流斗の「おま○こ」なのだと思えば、見慣れつつあるといってもやっぱり興奮する。いや、見慣れたって興奮するのだろう。

 ぐっしょり濡れたブリーフの股下の布をずらして流斗の「潮」にまみれたところを見る。ついさっき、あんなに――ぼくから手の届く所に落ちている――臭いものを出したばかりだと判っているのだけど、それでもぼくにとってはいとおしささえこみ上げてくるような穴。そこがぼくの愛撫を待ち侘びて、ヒクヒクと戦慄いている。

「綺麗だね、流斗のおま○こ。まだ誰も触ったことがないんだ」

 流斗は甘ったるい息をぼくのペニスに這わせながら、「ん……、ぼくのおま○こにさわっていいの、お兄ちゃんだけ」と可愛いことを言う。そういう科白を無意識的に操縦してみせる流斗が将来どういう男の子になるのだろうかということは、少し怖くもある。

「ふぁあん……」

 舌を当てただけで、きゅっと窄まる。想像していた通り、オシッコの味がする、匂いがする。そして出したものの味はほとんど感じられなかった。ただただ、可愛いばかりの小さな穴だ。

「ん、んっ、……おにいちゃ、っ、ぼくの、おま○こ、なめてるの……?」

「うん、クジラみたいに潮オモラシしちゃった流斗のおま○こ、おいしいよ、でもって、すっごく可愛い」

 わざとぴちゃぴちゃ音を立てて舐めると、流斗のお尻はゆらゆらと動き始める。どうやらこの子は快感を求め始めると、自然とお尻が動いてしまうらしい。

「……あのね……、ぼく、……こんなことゆっても、お兄ちゃん、きらいにならない?」

「ん?」

「ぼく……、女の子なのに、女の子の穴から、うんちしちゃうの……、さっきも、たくさんしちゃった……」

 酔っ払ったみたいに声を蕩かせて、流斗は恥ずかしい告白をする。

「うん、流斗は女の子なのにすごく太くて立派なうんちをここからしちゃうんだよね」

「ん……、こんな、おま○こからうんちしちゃうようなぼくでも、お兄ちゃん、可愛がってくれる……?」

 実際の女性だったら御免被る。けれど、

「可愛いよ、恥ずかしい秘密をいっぱい持ってる流斗、すっごく可愛い」

 のだ、ぼくにとっては。

 しょっぱい穴に舌を突っ込んで、ぐりぐりと舐める。流斗は口いっぱいにぼくを頬張って、快感に酔い痴れつつも一生懸命にぼくへの愛撫を続けてくれている。オシッコの匂いと可愛さの両方を纏って、ぼくみたいな最低なショタコンの元に舞い降りた天使を、どうやって幸せにしてあげようか。ぼくはそればかり考えている。

 当たり前だけど、ぼくだってもう冷静ではない。

 まだブリーフの中に在って、じっとりと熱い流斗のおちんちんを掴んで、「流斗のク○トリス、こんなになってるんだね」と声を掛ける。

「ふぁ……」

「ク○トリスって、知らない? 女の子のおちんちんみたいなものだよ。流斗は女の子だけど男の子の可愛いところも一緒に持ってるから、ク○トリスもこんなに立派になっちゃうんだね」

「ク○トリス……? ふにゃっ」

 きゅっと握ると、それだけでぼくの手の中で射精しそうな震えを催す。「女の子が一番感じちゃう場所が、ク○トリスなんだよ。……ねえ流斗、おま○ことク○トリス両方いじったらどうなっちゃうのかな?」

 流斗はもう、ぼくに愛撫を加えるだけの余裕もない。自分で演技を始めたのに、自家中毒というのか、……もう触られ慣れているはずのおちんちんが、本当に女子陰核と同様の感覚器へと変じたかのように、ビクビクと震えているばかり。

「そんなの、わかんないよぉ……っ、したことないもんっ……」

 構わない。流斗のオシッコを舐めながら、ぼくは小さく笑う。

「じゃあ、試してみようか? ……きっとすごく気持ちよくなるよ、気持ちよくなりすぎて、おかしくなっちゃったりしてね?」

 素早く自分の左手の指を舐めて、流斗の窄まりに当てた。ローションを使っていない、急に入れたりしては傷つけてしまう。だからあくまで指の先端を、そっと忍ばせるばかり。……けれど案外すんなり入る。「濡れて」いるから……、いや、さっきあれだけ立派なうんちをした分だけ、広がっているということだろう。

「あ、あ、っン、お、に、ひゃっ、おま○こっ、ぼくのっ、おま○こっ……!」

「うん、太いうんちたくさんしちゃう流斗の恥ずかしいおま○この中に、ぼくの指入っちゃったね……。気持ちいい?」

 と訊きながら、ぼくは正直、あまり自信がない。自分がその場所を弄られたことがないからだし、多分、弄られたって不快感の方がずっと強いだろうという想像は容易だ。

 けれど、魔法にかけられたような流斗はどうだろう?

「い、やぁあっ、あぁあんっ」

 声が飛沫のように弾け飛ぶ。……「女の子になる」という普段とは異なる倒錯の状況、加えて、オモラシブリーフを穿いたままの愛撫は流斗にしろ昴星にしろ一番幸せなことであるはずで、あと一秒だって射精を堪えることは出来なかったに違いない。可愛いお口のフェラチオをほとんどしてもらえないままでも、ぼくに不満のあろうはずがないだろう。

「はぁ……ああ……あぁ……!」

 流斗はぼくの下腹部に頬を当てて、快楽に浸かり切っている。身体には時折電流が走り、それがぼくにも伝わってくる。お尻の穴も、まだひくついていた。

「気持ちよかった?」

 流斗は思い出したように身体を持ち上げて、足の間からぼくをじっと見る。その頬に涙の伝った跡があってどきりとするけれど、すぐに彼はぼくの身体に正対して重なって、何度も何度も、キスを強請った。

「ごめん、ね? ぼく、お兄ちゃんのこと、気持ちよくしてあげられなかった……」

 そんなことを気にしていたのか。髪を繰り返し撫ぜることがどの程度の慰めになるかは判らないけれど、とにかく指を髪の波の中で泳がせながら、唇を返して、

「可愛いところいっぱい見せてもらえたから、大丈夫だよ。『女の子』の流斗、本当にすごく可愛かった。びしょ濡れのおま○こも美味しかったしね」

 心配そうな流斗に、笑顔で言う。泣き顔よりも笑顔を見ていたいと思うのは当然だろう。

「お兄ちゃんの、えっち」

 はにかんだように、それでも嬉しそうに、微笑む顔にぼくも嬉しくなる。ぼくたちはまるで恋人みたいにそのまま身を重ねて抱き合って、甘ったるくキスを繰り返していた。これだけでも十分幸せだけど、本当は、最後にもう一回ぐらい射精したい。あまり帰りが遅くなると、流斗のご両親からの信頼を損ねることになってしまう。

「……ねえ、お兄ちゃん」

「ん?」

 流斗が身を起こす。「最後に、ぼくの『男の子』のとこも見て」生乾きで匂い立つブリーフから、ぴんと勃起したペニスを取り出す。女の子色の下着から幼い輪郭ながら男性的なところをアピールしている様というのは妙にセクシーである。流斗はおちんちんのみならずタマタマをも引っ張り出して、可愛い顔をして、それでもちゃんと男の子で在ることを主張しているのだ。

 ぼくは放りっぱなしの携帯電話をまた手にして、ピンク色のブリーフを背景に反り立つ流斗のペニスを一枚撮ってから、「動画がいいな。ぼくの『男の子』のとこ、また撮って」という要請に従って切り替える。流斗は幾度か指でそれを弾いて見せてから、ぼくの足を開かせて座る。

「お兄ちゃん、ぼくのお顔撮っててね? お兄ちゃんのおちんちん、また気持ちよくしてあげるんだから……」

 ぼくのペニスに両手を添えて、「いただきまぁす」といたずらっぽく笑って、裏筋をれーと舐める。ぼくのそれがビクンと強張ったのを見て、「えへへ……、『男の子』だから、ぼく、おちんちんのきもちいいところちゃんとわかるんだよー」と誇らしげに言う。それを知ってるのは確かに「男の子」ならではだけど、本来なら「男の子」っておちんちんしゃぶったりしないよね……。

 けれど、流斗は特別、「男の子」のことを気持ちよくするのが幸せで、……そう、実際この子は幸せを振り撒いている。昨日は遍のことだって本当に幸せにして、争いの種をすりつぶして消してしまったのだから。

「んへへ……、おにいひゃんのおひんひん、らいしゅき……」

 愛らしく言葉を這わせながらぼくを愛撫する。ようやく射精させてもらえそうだと思ったところで、「まだ、出しちゃダメだよ? 最後はお口に出して欲しいけど、その前にもう一回だけ」と顔を上げる。何をするつもりかと思っていたら、流斗はぼくのペニスの上に「男の子」のシンボルを重ねて見せた。「ね、お兄ちゃんとぼくのおちんちん、こんなに大きさ違うの……。おちんちんにもタマタマにもお兄ちゃんのおちんちんのあつくてびくびくしてるの、伝わってきてどきどきするよ」

 実際、重ねて見ると大きさの違いというのは驚くほどラディカル。流斗のを三本合わせてぼくの、といったぐらいか。してみると、思春期を迎える前の少年の備える「美」というものがいかに儚いものかよく判る。

「でね、お兄ちゃんのどきどきしてるの感じると、ぼくの『女の子』もどきどきしちゃうんだよ」

 流斗は窮屈なブリーフへと自分を仕舞い、其処を「ク○トリス」に変える。腰を前後させ、タマタマの愛らしい膨らみでぼくのペニスを擦りながら、乾きつつあったブリーフの表面へまた新しいオシッコを伝わせ始める。いや、いまはオシッコじゃなくて「愛液」とでも表してあげるべきだろうか。

「あはっ……、また、濡れてきちゃった……」

 ブリーフからペニスを出し入れするだけで、懸け離れた二つの性の合間を、まだそれほど長くもない足で易々と跨ぎこしてしまう。足の間や腰周りまで流斗のオシッコまみれになってしまうのは、まあ、……これだけ卓越したフットワークを持つ少年とこんな風に遊べるのだから、文句を言ってはいけないだろう。

「流斗」

 携帯電話を差し出して、「流斗の『おま○こ』を、また見せてくれる? でもって、流斗はぼくのを、こんどこそ気持ちよくするところを撮ってよ。昨日みたいに」ぼくが言えば、「ん」と「女の子」流斗は素直に頷き、再び先程同様、シックスナインの体勢になる。余談ながら、こういう具合に体格差のある二人で愛し合おうと思ったならこの体勢が一番いいようだ。それに、ぼくと流斗の場合、「セックス」をすることは出来ない、ベストの射精形態はお互い口を使ってということになるから。

 それに、……ぼくは流斗や昴星のブリーフが好きだ。ブリーフの匂いも、味も好きだ。それって、昴星と才斗が生み出し、流斗が育んできた特殊性癖だけど、彼らと関わりあっているうちに自然な流れとしてぼくの中にも呼応する力が植えつけられて、こうして嗅いで味わっているうちにどんどんいとおしくなってくる。

「あは……、お兄ちゃん、おちんちんすっごいびくびくしてる……、うれしいな、ぼくのおま○こでお兄ちゃん、こんなにどきどきしてくれてるんだ……」

 流斗はぼくのペニスに語りかけつつ、愛撫を再開した。実際問題、流斗のオシッコの匂いを嗅いでいるだけでぼくは本当に興奮するようになった。それは単に「オシッコ」という液体だからではなくて、流斗のような美少年がこんなにえっちな遊びをしながらぼくのために漏らしてくれたものだと思うからで、きっと、どんな蜜よりも甘美な液体だ。

「ぼくの、おちんちんぱくんってするえっちな顔、見たいんだよね……? ぼく、いっぱいお兄ちゃんのおちんちん気持ちよくしてあげられるようにがんばるから、お兄ちゃんもいっぱいぼくのお口にせーし出してね?」

 ちろちろと亀頭を舌が這い回る気配がある。ぼくは苦しいほどに流斗の股間に溺れながら、そのもどかしいような刺激に何度もペニスを強張らせる。また、流斗の声がする。

「お兄ちゃん、すっごいおちんちんかたいの……、でもってオシッコの出るところから、しょっぱくてえっちなおつゆどんどん出てくる……。ぼく、このおつゆ大好き」

 ちゅ、と小さなキスの音。

「ん……、おいし。でも、おつゆだけじゃなくって、お兄ちゃんのおちんちんぜんぶ大好きだよぉ? タマタマも、やらかくて可愛くって、こっちにもちゅーしてあげる」

 一旦ペニスを寝かされて、そちらにも、左右一つずつ、キス、のみならず舌の面が、大胆に巡ってから、茎を舌から昇ってきて、「さっきぼくのオモラシしたのの味するけど、でもおいしいよ、お兄ちゃんのおちんちん」

 いたずらっぽく笑って、「でも一番おいしいの、やっぱりお兄ちゃんのせーし。びゅーって、ぼくのお口にいっぱい出してね?」

 しこしこと右手で扱きつつの、先端へ舌を小刻みに動かす愛撫が始まった。

「んれ、おにいひゃん、おま○こ、と、くりとりふ、ぼくのもぉ」

 腰を揺らして流斗がまた強請る。

「……一緒にいきたい?」

「んん、いっひょ……」

 女の子色にオシッコが加わって、何とも言えない色になったブリーフの股下をずらして、また流斗の「おま○こ」に舌を差し込む。もちろん「ク○トリス」も掌に包み込んだ。既に一度、このブリーフの中で射精してしまった後だ、

「ふぁあン……」

 しょっぱさの奥に微かに苦さも感じるお尻の味を堪能しながら、流斗の舌の感触を大いに味わう。いくよ、と小さく言う。

「んぅ、んっ、いっひょ、おひんひんっ、おま○こ、いッ……、ひゃッんっ」

 ぼくの悦びが流斗の悦びと、確かに繋がっていると判る、これ異常ないくらい幸せな射精。

 しばらく何もしたくなくなるぐらい気だるく、満ち足りている。それは流斗も一緒らしい。小刻みな震えを身体に這わせながら、少年はうっとりとした吐息を繰り返している。……今更ながら、此処、外なんだよな。そういうことに思いが至るが、ぼくと流斗の密やかな快楽の時間を、一体誰が邪魔すると言うのだ。

「お兄ちゃん」

 流斗が起き上がったぼくの膝の上に、すっぽんぽんになって座る。おちんちんが丸出しだから、要するにいまは「男の子」に戻ったのだ。「きもちよかった?」

「うん、すごく気持ちよかったし、幸せだったよ」

「ほんと?」

 大きな目が、ぼくの目を覗き込む。この子は睫毛が長い。それもまた、この子を美しく見栄えのいい顔にする要素である。

「お兄ちゃんがうれしいなら、ぼくもうれしいな。またこうやって、お外でいっぱいあそぼうね?」

 本当の恋人同士みたいなキスを幾つもして、それから強請られるままにぎゅっと抱き締めて、お互いに心底まで満たされたのを感じ合ってから、この幸せな時間に一旦のピリオド。

 立ち上がった流斗の身体をもう一度綺麗に拭いてあげてから、新しいブリーフを穿かせる。靴下も履き替えさせて、ズボンを穿かせたらもう、数分前まであんなすごいことをしていたことなど誰にも想像出来ない、清純な美少年がぼくの目の前に帰って来た。

 人通り車通りが切れたところで、流斗と一緒に道へ戻る。

「帰りはねえ、あっちの角のバス停の方が早いんだよ」

 流斗が指差した先、三百メートルほど向こうに交差点があって、なるほど確かにぼくらが乗ってきたバスとは違う方向へ行くバスが、左折して遠ざかって行くところだった。「ぼくらが乗ってきたのは西急線の波応駅ゆきでね、他の、団地にいくやつとかはあそこで曲がっちゃうの。でも波応ゆきのバスはあんまり本数がないから、あそこのバス停で降りてここまで歩くこともあるんだよ」

 さすがに何度もこの場所へ来ていると言うだけあって、流斗はこの辺りの交通事情に明るい。たくさんオシッコをして喉が渇いたと言ったから、ぼくは交差点にあるコンビニで流斗にジュースを買ってあげた。それを飲みながら、バス停に向かって歩いているところに、「流斗」と、背後から声が飛んできた。

「あ、チヒロねえちゃんとセイラねえちゃん」

「やっぱり流斗だ、なにしてんのー?」

 二人連れの、……六年生ぐらいだろうか、少女がふたり、気安く流斗に声を掛けてきた。流斗はぼくを見上げて、「チヒロねえちゃんとセイラちゃんだよ。ぼくのね、いとこのお兄ちゃん」ごくすらすらと、嘘をつく。

「へーえ」

 少女たちはとりたててぼくを怪しむという気配もない。だからぼくも自然に微笑んで、「いつも流斗がお世話になっています」などと、嘘をつく。

 バス停はすぐ其処だ。しかし流斗はぼくの腕を掴んで、

「ねえ、お兄ちゃん、ちょっとだけ待っててくれる?」

 とせがんだ。「お姉ちゃんたちとちょびっとだけおしゃべりしたいの」

 訝るぼくを置いて、流斗は「すぐ戻るから、待っててね!」と走って、少女たちと一緒にコンビニの方へ歩いて行く。三人は振り返りもせずに行ってしまって、……ぼくはバス停のベンチにぼんやり座り、駅へ戻るバスが行くのを一台見送った。

 それでも、流斗が息を弾ませて一人駆け戻って来るまで十五分も待たされなかった。「ごめんね、お待たせ」

「うん、大丈夫だけど……、この辺の子たちだよね? どこで友達になったの?」

 バスを待っているのはぼくたちだけだった。だから流斗は、

「あのね、えっと、この前に、あそこの小学校で校庭開放しててね、ぼく、一人でさっきお兄ちゃんとした場所でえっちなことしようと思ってたんだけど、せっかくだから人に見られながらオモラシしようかなって思って」

 ぽかん、とぼくの口は開いたと思う。「でもね、全然人いなくって、やめようかなって思ったら、あのお姉ちゃんたちが来て、だから『おトイレどこですか』ってきいて、そのまんまおトイレまで連れてってもらう途中でオシッコもらしたの」

 そのときの流斗が欲を帯びていたならば、その後の流れは概ねぼくが瞬間的に想像した通りだった。校庭の隅にあるトイレの、女子の個室で流斗はパンツを下ろして、大いに「遊んだ」のだそうだ。

 六年生ぐらいともなれば、もうすっかり男女の垣根が高まる年頃だ。逆に言えば――正常な嗜好を持っているならば――異性の裸、性器の構造などに強い興味を抱き始める頃である。

 そういう少女たちの前で、おちんちん丸出しにして見せてあげたのだと流斗は言った。

「お姉ちゃんたち、おちんちんのお勉強って言ってた。でもぼくだけ見られるの恥ずかしいからって言って、お姉ちゃんたちのパンツ見せてもらったよ」

「そう……」

「うん、そういう風にして、遊んだの」

 流斗は含みのある笑みを浮かべて、少し大人びた声で言う。

「……ね。ぼくのこと、何も知らないって思ってるんだよ。ぼく、昴兄ちゃんやお兄ちゃんと一緒に色んなことして、あのお姉ちゃんたちよりもずっと大人なのにね。ぼくの『遊び』に付き合ってくれるから、これからもときどきここに来ておちんちん見てもらおうかなって」

 ということは、さっきは。

「うん、そうだよー。あのコンビニの裏にちっちゃな公園があって、そこにおトイレあるんだけど、そこのとこでおちんちん見せてあげた。さっきいっぱい出しちゃった後だから、オシッコもうんちもせーしも出なかったけど、少しだけ触らせてあげたよ」

 改めてぼくは、流斗のご両親の心配事に心の底から共感した。この子は、本当に、すごい。自分の快楽のためならどんなことだって思いつくし、実行に移してしまう。これは確かに、誰かがきちんと責任を持って見ていてあげないと。いくら流斗が非常に頭のいい子であると言っても、とりかえしのつかないことが起こってからでは遅いのだ。

 いや、……そもそも、ぼくのようなショタコンと知り合ってしまった時点でもう手遅れなのかもしれないけれど。

「あんまり、無茶しちゃダメだよ? 友達たくさん作るのはもちろんいいことだけど、流斗の秘密を知ってる人が多くなればなるほど、その中には悪い人が混じっちゃうかもしれないんだからね?」

 さっきの、盗撮おっさんみたいな人間だって世の中にはいるんだ。ぼくの言葉に、流斗はうんと聞き分けよく頷いたけれど、本当に理解してくれているかどうかは判らない。ただ、ぼくの立場で言えるのは其処まで。

 流斗の駅を経て、家まで送り届けた。お父さんとお母さんは帰って来たばっかりで、「本当にご迷惑をお掛けしました」と散々謝られてしまったが、ぼくとしても恐縮するばかり。だって、ご迷惑どころか一杯愉しませてもらってしまったわけだから。

「お兄ちゃん、また遊ぼうね、いっぱい遊ぼうね」

 牧坂家を辞去するぼくの腰にしっかり抱き付いて、無垢なる少年の顔をして流斗は言う。両親が見ているから、もちろんその仕草の一つひとつにだって演技が含まれることをぼくは知っているけれど、それにしたってやっぱり、この子は可愛い。ぼくは陰のない笑顔で「約束だよ」と頷く。世間的にはまだ二回しか会っていない、歳の離れた「おともだち」のぼくたちだ。

 

 

 

 

 長い一日が終わった。帰りの電車の中でつくづく、ぼくは自分の置かれている状況の混沌さを思い返していた。

 きっかけは、あの日あの夜あの場所で、昴星と出会ってしまったこと。昴星が美少年であり、彼があの公園で一人遊びをする際にブリーフを落として行ってしまったという偶然、そこにたまたま通りがかったぼくがショタコンだったという偶然。……だってそうでしょう、ぼくがショタコンじゃなかったら、落ちてる白い布がブリーフだとは気付かなかっただろうし、気付いたとしても「何でこんなとこにこんなもんが落ちてるんだろうなあ」って素通りしていたはず。足を止めてつくづく観察してしまったからこそ、昴星もぼくに対して話しかけるに至ったわけだ。

 その翌朝、昴星と初めてああいうことをして。

 あんな少年がこの世に存在していることを、実際何度も肌を重ねて、昨日などとうとう「セックス」と呼べるような行為をしてしまった今に至ってもぼくはどうにも信じられない。言うなればこの時間は幸せな夢の中にあるようなもので。

 その夢の中をふわふわ歩いているうちに、流斗とも知り合った。昴星の「差し金」って言うと言葉が悪いけれど、あの子に刺激的な体験を、ぼくは我知らずさせていたわけだ。

 二人と同時に行為をしたこともあるし、先森遍という中学生とも知り合いになった。まあ、一応メルアドの交換はしたけど、遍と連絡を取り合うことはないだろう、と思う。

 ぼくはこれまでのところ、誰も傷つけずに来たと思っている。昴星や流斗ぐらいの子供相手だと、それこそキス一つするだけで問題になるということは判っている。けれど、それにしたって、ぼくは二人の少年を傷つけようと思ったこともないし、実際、傷つけずに済んでいると思う。

 そうこうしているうちに、流斗のご両親とも知り合ってしまった。

 ぼくは怪しいところなど一つもない、真っ当な若者だと思ってもらえているはずだ。ぼくはこの身体ひとつで丸ごとその信頼を裏切るような存在だ。けれど、せめて、流斗に嫌な思いをさせないことでのみ、ぼくは義理を果たせる。ひょんなとこから知り合った「お兄さん」としての責任がある。例えば今日は、あのショッピングセンターのゲームコーナーでそれを実践した。記録には残らない、記憶からも消去してくれて構わないけれど、あれがぼくなりの正義だ。

 正義、という言葉に一人躓く。少年を愛するのが「正義」なんて、一体どんな大義名分があるのだ。そんなの、認められない。

 ぼくはどういう自意識で居るべきなのだろう。電車を降り、家への道を夕陽を浴びて歩きながらそう考えたが、答えは出てこない。自分がまともじゃないということは百も承知で、しかしまともじゃない人間で居ながら、ぼくはいろいろなことをかなり合理的に考えていると思う。

 来週は昴星にも流斗にも会えない。再来週も、今のところ二人と会う予定は組まれていない。ひょっとしたらしばらく会えないかもしれないし、あるいは、もう二度と会えないかもしれない。殊勝でも何でもなくぼくが自覚しているのは、この関係が昴星と流斗の優しさによって成り立っているのだと言うことで、いつぶっつり切られたって、……それこそ、望みはしないけれど、昴星たちに飽きられたり嫌われたり、第三者に事が露顕してぼくが日の当たらない場所に行かなければ行けなくなったりするかもしれない。ぼくは冷静に、そういうときが来たって仕方がないということを理解している。だって、これだけ不当な幸せをぼくは味わってしまっているのだから。

 ともあれ、二週間はお休みだ。今朝寝坊できなかった分、家に着くなりぼくは身体にどっしりと重たい疲れが圧し掛かっているのを覚えた。布団に横になると、瞼は石のように重たく、そのまま翌朝まで寝てしまった。幸せな土曜日日曜日が終わり、目を醒ますと、また日常の月曜日、当たり前の日々が始まる。


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