お兄ちゃんがいっぱい幸せになれるように

 

 年端もいかぬ子供らを、自らの穢れた欲の毒牙に掛けんと目論む不埒者が、いつの世にも居るものだ。統計を紐解けば漸減傾向にあるものの、その存在は看過せざるべきものである。断固としてそういう悪人は取り締まらなければならない。

 と、少年性愛者であるぼくでさえ思うのだが、いまひとつ説得力に乏しいのは、ぼくが他ならぬ「毒牙」を持つ者であるからだ。鮒原昴星、牧坂流斗。現実問題としてぼくは二人の少年と、そういう行為で「遊ぶ」関係にある。誰かに知られれば途端、ぼくの人生は瓦解するだろう。

 けれど誤解しないで欲しいのは、ぼくの中には一片の害意もないのだということ。ぼくは既にぼくらしく在るだけで、二人の少年とぼくの間にあるのは双方の欲や願望を叶え合うという互恵関係を築くことが出来る、ぼくと彼らが遣り取りし合うのは幸福、ただそれだけしかないのだということを理解している。

 昴星は淵脇才斗という幼馴染であり同級生のことを愛している。それでもまだ持て余す、変態性欲(と言ってしまっていいだろう)を満たしたいと思ったとき、ぼくという男の存在は極めて好都合なのだ。もちろん逆もまたしかりで、ぼくは昴星と、昴星以上に困った欲を持つ流斗の願いを叶えることで、彼らの下半身で一定以上自由に遊ぶことが出来るのだ。

 YES、ショタコン。NO、タッチ。

 それはもう、ぼくが言ったところできれいごとに過ぎない。しかしその理想を「きれい」と判断出来るぐらいには、まだまともだと思っている。

「その男の特徴は?」

 通称「うんこ橋」の掛かる川縁を、右に昴星、左に流斗と挟まれて歩きながらぼくは訊いた。

 九月も半ばを過ぎたが、土曜の午後の陽射しは過去をしかめたくなるほど強く、こうしてゆったり歩いて居るだけで汗が滲んでくる。

「えーと、多分どっかの中学生なんじゃないかって話だよ」

 夏休みに才斗流斗と海に行ったのだそうだ。そして砂浜を女子のスクール水着で闊歩したのだそうだ。先々週、昴星はぼくに見事に「女の子」の日焼け跡の付いた裸を見せてくれた。もっとも、その日焼け跡のせいで昴星はプールの授業で仮病を使わなければならなくなったのだそうだが。

「お兄ちゃんと似た人じゃなくてよかったね」

 流斗は笑って言うが、よくよく考えてみるとそれはなかなか恐ろしい話である。ぼくは現に少年たちとそういうことをして居るのだから、容疑者扱いされれば実際に痛い腹を探られることになる。

「で、子供だけで遊んでると声掛けて来るんだって。夏休みの前ぐらいからそういうのがあって、だいたい一年生から四年生ぐらい子が、身体触られたりしてる」

 そう言う昴星も童顔で、四年生に見えると言えば見える。ぼくの考えたことを見透かしたように、「だから、おにーさんがそいつかもって思ったんだけど、おにーさんはどっから見ても中学生には見えねーし」と言葉を付け加える。

 被害に遭った子供に男女の差はないのだと言う。

 昴星のクラスメイトの妹も、城址公園で一人遊びをしているとき、「ぼくの仕事を手伝ってくれる子を探している」と声を掛けられたのだそうだ。その少女はまだ二年生だったというから、きっと怖い思いをしたに違いない。ぼくは自分のことを棚に上げて、その不埒な中学生に腹を立て、少女に胸を痛めた。

 当然、学校の教師たちもその変態中学生には頭を悩ませていると言う。朝礼での注意喚起に余念はなく、保護者も子供に防犯ベルを持たせるなどの対応に追われているのだそうだ。

「犯人はこの辺に住んでいるのかな」

 ぼくの問いに

「違うと思う」

 と、昴星より更に二つ年下であり、いかにも幼げな顔立ちながら聡明な流斗が異を唱えた。

「だって、近所に住んでるなら、きっとばれちゃうよ。だからその人は多分、よそから来て、でもこの辺はほら、いたずら出来る場所もいっぱいあるでしょ?」

 流斗の言うとおり、都心まで四十分で出ることは出来るものの、辺りの景色はのどかな、ぼくの地元である。それに少年に反応する性欲を持つぼくには流斗の言葉には納得が行った。もしどうしてもそういう欲を抑えられなくなったなら、ぼくなら絶対、この街の子供に手を出すことはしないだろう。

「でも、土地勘、っていうんだっけ、それはあるよな。子供が声掛けられんのって、いっつも川で遊んでるときとか、城址公園とか、あとあっちの、軍山神社とか、人けのないとこばっかみたいだし」

「なるほど……」

 犯人は、この土地に詳しく、しかし地元に住む少年ではないということだ。「とにかくさ、そんな奴がフラフラしてんの物騒だし、おれたちも落ち着いて遊んでらんねーから、何とかしないとさ」

 昴星はそう言った。

 そう、ぼくたちは今日、その不良中学生をとっちめてやろうと言うのだ。

 これは昴星の発案である。とはいえ、もちろん彼が純粋な正義感に基づいてそういうことを思いついたわけではない。これについては、間もなく誰の目にも明らかになるはずだ。

 いまは昴星の作戦が上手く行き、いつも学校が休みの日に現れるという不審者を見付け出すことが大事。

 ところでぼくがこんな風に昴星と流斗、親戚でもない少年二人と歩いているところは、既にこの街の人々に見られている。それでもぼくがあらぬ、というか事実の嫌疑を向けられずに済んでいるのは、ぼくがこの街に生まれ育ったことが、何となくでも他の住民たちに認識されているからだろう。田舎と呼ぶべきではないが、長くこの街に住んでいる人間が多い街では、いかな近隣との付き合いが希薄になっている現代であっても部外者の纏う空気というものに無意識のうちに敏感になるもので、ぼくは(この通り、ショタコンではあるけれど)前提として無害な人間として認識されるらしかった。

「うんこ橋」を渡って上流に向けてしばらく歩くと、先ほど昴星が名前を出した軍山神社が見えてくる。川はもちろんもっと西の山に端を発するのだが、この軍山神社の中にも小さな湧き水があって、そこから生じた流れは川にも注いでいる。ささやかだが冷たく清い流れで、おたまじゃくしがたくさん取れることで昔から有名な小川は整備地の中を流れている。流れの両脇はススキが伸び放題で、一般道から流れを見ることは不可能。

 だから、「狙いやすい」のではないか、と昴星は言った。

「こっちの川沿いだと、その辺の家から見られちゃうじゃん? いま大人たちみんなそいつに神経尖らせてるから、そんな目立つとこじゃしねーと思うんだ」

 確かに、川沿いはぼくのアパートからも見ることが出来る。流斗が、ぼくがまだその名前を知る以前の夏にすっぽんぽんで遊んでいるのもぼくは見ていた。

「ぼくもそう思ったから、昴兄ちゃんにね、ゆうべ、この辺にそういう目立たなくね、ぼくぐらいの男の子が遊んでそうなとこないか調べてもらったら、次にそのひとが来そうなのって、ここかなあって思ったの」

 賢い流斗はそう言い、

「軍山神社はもう何度かそいつが現れてるから、土曜は見回りするらしいしな」

 昴星はそう付け加える。なるほど、よく考えているものだ。ぼくは素直に感心した。

 二人の作戦とはこうである。

 二人が囮となり、犯人の少年を誘き出す。それは可能であると思われる。流斗はこの通り愛らしい容姿をしているし、四年生にしては顔立ちもとても幼い。しかも、機転が効く。演技と上手い。……その「演技」に、ぼくもすっかり騙されてしまったことがある。

 そうして、彼らが少年を城址公園の、二人曰く「秘密基地」に呼び出し、説教する。事によっては犯人以上に危険人物であるぼくが説教する。大人が現れれば少年はあっけなく投降するだろう。無論、地元の大人たちは見回りを強化しているようだし、警戒されて空振りに終わる可能性もある。しかし昴星の立案した作戦が流斗にはとても魅力的だったようで、だからこそ流斗はわざわざこの街までやって来ているのである。

 終わった後は、二人が才斗の家に泊まりに行くまでぼくの家で遊んで行くと言っていたから、ぼくとしても多少の危ない橋なら渡る気になったわけだ。この街の、ごく普通の子供たちも護れるわけだし。

 草叢を掻き分けて小川沿いに出ると、やはり丈の高いススキのせいで、大人のぼくしか一般道を見渡せない。高台にあるこの街には不似合いな高級マンションや、昴星と才斗が住む団地からも死角になる。それでも少年がこの街の地理を理解し、無辜の少年少女を執念深く付け狙うのだとすれば却ってここに目を付ける可能性は高いように思われた。

 もうすぐ夏が終わる。

 そうなれば犯人の少年は川で無防備に遊ぶ子供を見付けることは出来なくなる。そう考えれば、ピンポイント、ここしかないと考えることさえ、妥当に思われた。

「そしたら、おにーさんその辺に隠れててよ。おれら、遊んでるからさ」

 昴星に言われススキの茂みに屈み込んだぼくに、シャツを捲り上げた流斗が「撮ってて」と笑顔で言った。「撮っ……」昴星も同じ笑顔で、

「おにーさんも、こういうの見んの好きだろ?」

 と言う。それは、確かに。ぼくはこの子たちの撮影のために購入したカメラを取り出し、動画の撮影や始めた。二人の少年はぼくのカメラの前で、柔らかな裸体を晒す。昴星は家から持って来た紺色の水着に履き替えるとき、もちろん前を隠さないし、流斗に至っては何のためらいもなく全裸になってしまう。二人から五メートルほど離れた場所では彼らの履いていたブリーフがどんな具合かを確かめることは出来ない。とは言え、そこ代わりとしては余りある光景であると言えるし、後から詳細に観察することが、ぼくには出来るのだ。いまは、少年二人が無邪気に水遊びに興じるさまをじっと見守っているばかりだ。

 草叢に身を潜めて、……盗撮してるみたいだ。ぼくの身体が興奮の反応を示すのは当然と言えただろう。

「流ー、おまえ水冷たくねーの?」

 昴星が流れに一歩足を踏み入れて、ためらう。流斗は平気でバシャバシャ飛沫を上げていた。「へいきだよー」という高い声とともに。

 そんな流斗の足の間では小さく細い幼いシンボルが震えている。

 全裸の男子のことを「ふるちん」と呼ぶか「ふりちん」と呼ぶか、そんなことをぼくは考えていた。どちらをウェブで検索してももう一方が「もしかして?」と提示される。要は同じ意味なのだが、何となく、流斗や昴星の可愛らしいそのパーツが露わになっているさまは「ふりちん」の方を想起させた。

 裸を表す言葉には他にも「すっぽんぽん」がある。……ぼくの胸にさざなみを立たせるという点では、いずれも共通していた。「昴兄ちゃん、オシッコしたい」カメラに目を向けることはしないが、撮られていることを重々承知している流斗はそんなことを言い出す。

「あー? いいじゃん、そこでしちゃえば。どーせ誰も見てねーよ」

 昴星は大雑把な物言いをし、「つーか、おれもしたい」

 と付け足す。

「じゃあ、一緒にしよ」

「おー、連れションだな」

 二人して流れの真ん中に立って、下流、つまりぼくが隠れている方へおちんちんを構える。

 昴星の小さな球根のように丸っこい陰茎と、小指みたいな流斗の陰茎と。二人はぼくに見やすいように手を添えず、……つまり昴星は水着を引き下ろしただけの格好で、ほとんど同時に放物線をせせらぎに注ぎ始めた。

 強い陽射しに二人のオシッコが虹のようにきらめく。

 これまで二人のオシッコと言えば、失禁のために大量の水分を摂取した後のものであるから透明で色もほとんど付いていなかったが、今日は二人して見事なまでに黄金色をした濃い飛沫だ。透き通った緩い流れに泡を立てながら、注ぎ込んだ場所の水を薄く色付かせている。夏の終わりでありながら、とても夏らしい光景であるとぼくは思う。

 流斗はふりんとか細い茎を一振り二振りしたが、昴星はブリーフが日常的に汚れる子である、当たり前のように振らずに水着の中にしまった。まだ乾いている前の膨らみに、途端、じんわりと一円玉ほどの濡れ染みが浮かび上がった。

「じゃあ、遊ぼうぜ」

 昴星の声を合図に、二人は水の引っ掛け合いを始めた。ぼくはじっと息を堪えて、二人の水遊びの撮影を続けている。その一方で、真面目なことだって考えている。

 即ち、少年少女の敵であるその犯罪中学生に、どんなことを言ってやるべきか。

 君が何を考えて子供たちを怖がらせるのかは判らない(よく判っている)けど、そんなことをしてはいけないよ。今回だけは大目に見てあげるから、とにかくもう、この街には近付かないこと。いいね?

 それで話が片付けばいいが、……自分で言うのもなんだけど、ぼくは口が達者な方ではないと思う。その推定中学生の少年が妙な屁理屈を捏ねて来ることをも、想定に入れなくてはならないだろう。少なくとも正義はいま、その少年と同じ不埒者に括られることは避けられなくとも、ぼくの側に在るのだから。出来る限り堂々としていなければ。

 しばらくじっと考えを巡らせていたぼくの、いや、盗撮カメラの前に、水着一枚の昴星とすっぽんぽんの流斗が近付いて来る。

「こんなとこでして、誰も来ないかなあ?」

「だって、してーんだろ? ……っつーか、おれもしてーし」

 言いながら、きょろきょろ周囲を伺う。

 昴星の手に、どうやら鞄の中に入って居たらしいポケットティッシュが握られていることにぼくは気付く。……ここで射精するつもりなのか。盗撮ビデオとしては現実味がないなあ、なんてことを考えていたが、二人はぼくのすぐ傍までやって来るなり――しかし、カメラには相変わらず気付かない演技を保ったまま――ぼくに尻を突き出すように向けて、屈みこむ。

 その体勢を見れば、二人が何をしようとしているかは察するのは容易なことだった。

 ぼくはしばし呆気に取られ、慌てて目の前で並んで向けられた二人の臀部にピントを合わせた。流斗はどうやら本当にこの夏の海遊びで「ふりちん」を貫き通したらしく、小さなお尻は隅々まで綺麗に小麦色に染まっていて、一方で昴星のむっちりとしたお尻はジャストサイズの男子水着を穿いていたなら焼けない辺りまで陽射しに舐められた跡が付いている。

 震える流斗のお尻の穴まで、ぼくは見ることができた。一度二度小さな音を立てて膨らみ口を開け、やがてそこから焦茶色のものが顔を出す。

 流斗の排便するところを見るのはこれが二度目だが、子役並に愛らしい顔立ちをした少年のそういうシーンには、やはり倒錯的な魅力が満ち溢れている。どんなに可愛い顔をしていても、そこから出て来るものは同じように汚く、臭い。そういう事実に圧倒される。

 我慢していたのだろう、音を立てて、一つ、また一つと落として行く。

「えへへ、いっぱい出てる」

 と流斗は楽しげに笑う。

 その隣で落ち着き無くお尻を揺らしている昴星の排便姿を見るのは、これが初めてだ。

「外ですんのって、恥ずかしくねーの?」

「へいき。……昴兄ちゃん、露天風呂って好きでしょ?」

「うん、好きだけど」

「あれとおんなじだよ、お外でするのって、なんでも気持ちいいんだよ」

 昴星は自分の足の間を気にするように覗き込む。お尻の位置も、流斗より少し高い。ピンク色の菊蕾から、流斗より太いものがじわじわと遠慮がちに顔を覗かせは引っ込み、またじりりと顔を出し、やがて未練を振り払うように大きな塊を落とした。錆びた鉄管を産み出したばかりの場所はぱっくりと口を開けたままだ。

「はー……、ケツの穴じんじんする……」

 昴星は溜め息を吐き出した。流斗が振り返り、自分と昴星の落し物を見比べて、

「やっぱり昴兄ちゃんの方が太いねえ」

 としみじみと言った。羨ましげでさえあった。

「そりゃー、だってさ、おれのほうが大人だもん」

 昴星は自慢げに足の間を覗き込む。

 そうすると昴星のお尻の穴、そこから産み落とされたもの、いとおしくなるようなフォルムの袋の縫い目、更にオシッコの雫が煌めく余り側の先っぽ、そして昴星の可愛い顔までもいちどきに見ることが出来る。流斗もそのことに気付いたようだ。同じポーズになる。二人の前傾する角度はほぼ同じだが、よりおちんちんの先が覗けるのは流斗の方である。流斗の方が少し長いのだということで、ぼくは昴星が「おれ、ちんこちっちゃいのかなぁ……」と言っていたことを思い出す。どうやら少年自身の懸念はずばり当たっているようだ。

 二歳年下の流斗よりも小さいという事実は男児としてはなかなか重いに違いない。加えて言えば、昴星は勃起してもあまり大きくはならない。

 けれど、それがまた可愛いのだ。

「拭こうぜ」

 昴星がティッシュを差し出し、自分も一枚抜き取って丁寧にもう閉じた皺穴をぐりぐりと拭く。汚れを確かめて、もう一枚。

 その丁寧さがオシッコのときにもあれば、ブリーフがあんなに黄色くなることは避けられるだろう。流斗はまだ滓の付着したお尻をそのままにしている。

「おまえも早く拭けよ」

 昴星に催促されて、「んー……」と困ったような声を出した。

 流斗が屈んだまま、こちらに振り向いて、「ぼく、一人だと上手に拭けないから、昴兄ちゃん拭いてよ」と強請った。

「あー? おまえ、四年生にもなって一人でちゃんと拭けないのかよ」

「い、いつもは自分で拭くよ、だけど……、ときどきパンツの後ろのとこ、すじになっちゃって、恥ずかしいから……」

 昴星はくしょうしながら水着を上げて、しかし「しょーがねーなー」なんて言いながらティッシュを抜き取る。

 流斗はこちらを向いてはいるが、あくまでぼくのカメラには気付かない振りをしている。カメラのほとんど真正面に流斗の細いおちんちんがあって、ピントを合わせれば、柔らかな皺になった包皮の先がオシッコで濡れているのもよく見えた。小さな袋の真下に、彼がひり出したばかりの塊がいくつも転がっている。

「したらー、おれがきれいにしてやるよ」

 昴星の手が、流斗のお尻の穴にあてがわれた気配がある。

「ん……っ」

 と流斗の身体がピクンと震えると、おちんちんも一緒になってふるりと揺れる。

 間もなく、その場所に変化が現れた。

「こうやってな、ちゃんとぐりぐりって、丁寧に拭くんだよ」

「うん……」

 細いおちんちんの中に、芯が通る。ぴくん、ぴくん、ぎこちない震えを繰り返しながら、少しずつ角度を変え、これまで見えなかった裏側が徐々にカメラに明らかになって行く。

 大サービスだなあ、とぼくは窮屈なズボンの中の熱を持て余して思う。

 流斗が開いた足の間で、幼根はすっかり勃ち上がってしまった。あくまで、「少年が大好きなお兄ちゃんにうんちの後を拭いてもらっているうちに大きくしてしまった」という体である。自然か不自然かは、ぼくにはもう、判断できかねる。

 それにしても、少年の性器は勃起するとこんなに魅力的になるのかと、圧倒される。ぼくはこれまで、……公共浴場、プールの更衣室、トイレ、色々な場所で数多くの少年の陰茎を見てきたけれど、それはあくまで通常状態の柔らかなものばかりである。それらにしたって、心底からいとおしいと思うような代物だ。

 勃起時のペニスを初めて見せてくれたのは昴星である。きゅんと引き締まったように固くなった少年のおちんちんの触り心地は、自分のものとはまるで違うし、見た目もとても愛くるしい。何より、小さくてふるふるしている印象だけを抱いてきたぼくにとっては、それは異次元の卑猥さを感じさせる。

「ほら、きれいになったぞ。水遊びのつづきしようぜ」

 流斗は背伸びするように大きくなってしまったおちんちんを持て余している。それでと「ありがと」と立ち上がって振り返るが、今度は昴星が困ったような顔になる。

「おまえ、なんでちんこそんななってんだよ」

 流斗の小さなお尻が困っている。「わかんない、なんか、おちんちん固くなっちゃった……」

「おまえなー、そんなん誰かに見られたら恥ずかしいぞ。ちっちゃくしろ」

「ちっちゃくって、……したいけど、どうしたらいいの……?」

 昴星が溜息を吐く音が聴こえる。

「しょーがねーなー……」

 と零しながら、再びカメラの前に流斗を屈ませた。

「じゃーさ、やり方教えてやるから。ちんこちっちゃくするやり方。……ときどきそんな風にちんこでかくなることあんだろ? そういうときは、これから兄ちゃんが教えてやるのすれば、すっきりしてちゃんと元通りになるからさ」

 気軽な声で昴星は言い、自らも水着を下ろし、並んでしゃがみ込む。まだ小さな、らっきょうのようなおちんちんが揺れる。それを指でつまんで動かしているうちに、そこは見る見る大きくなった。

「わあ……」

 流斗がそれを見て、びっくりしたように声を漏らす。

「ひひ……、ちんこ、お揃いだ」

 二人の上を向いたおちんちんを見比べてみると、やはりほんの少しだけ流斗の方が大きいかもしれない。身長はもちろん昴星の方が少し高いから、由々しき差だ。とはいえ、それもそう問題になるほど小さいわけではないよと、昴星の名誉のためにぼくは申し添えておく。

 ともあれ、二本の幼茎が揃って上を向き、ピクピク震えている。そんな景色を独り占めするこんなとき、ぼくはこれまで二十数年、人間として生きてきた人生ではまるで感じたことのないような生命の喜びに打ち震えることになる。

 ぼくのような嗜好を持たない、大多数の人間にとっては勃起していようがいまいが、少年の性器など目に瑞々しく愛らしく映りこそすれ(だって、二十年ぐらい前までは当時小学生だったぼくとそう年も変わらないような男の子のおちんちんなんて、テレビに「微笑ましいもの」として映ることさえあったぐらいだ)卑猥なものとは思わないはずだ。

 しかし、ぼくにとっては女性の裸などよりずっと興奮を催させるもの。

「いいか? こうやってさ、ちんこつまんでさ、くにくにって動かしてみ」

 お兄ちゃんとして、昴星が言うのに素直に従って、

「んと、こう……?」

 流斗もそれを摘まんで、揉むように動かす。

「どうだ? 気持ちよくなんない?」

「ん……、わかんない、……なんか、おちんちんぴくぴくするよ……? お尻も、きゅってなるの……」

「あー、それはちゃんと気持ちよくなってる証拠だから」昴星は「見てみ」と自分の其処を流斗に観察させ、年下の少年の見て居る前で自分のおちんちんを強張らせて見せた。

「昴兄ちゃん、おちんちんにオシッコついてる」

「違えよ、これはオシッコじゃなくて」

「オシッコじゃなくて?」

「……えーと、何だろ」

 ちゃんとした言葉はまだ、昴星は知らないらしい。

「と、とにかく、気持ちよくなると出て来るオシッコとは違うもんなの! っていうかほら、おまえのだっておんなじの出てんじゃん」

 昴星の指摘の通り、流斗の長く余った細皮の先は濡れて居る。流斗はそうっとそれに触れて、

「ぬるぬるしてる……」

 と呟く。

「な? オシッコはぬるぬるしてねーだろ?」

「うん……」

 ひひ、と昴星はいつもの笑い声を立てる。「流のちんこもぴくぴくしてんじゃん。さっきよりもっと固くなってんじゃね?」

 流斗は身に起きている現象の理由も判らない様子で曖昧に頷いた。

「流、どうしてちんこ固くなった? 何か変なこと考えたんじゃねーの?」

 流斗は頬を染める。それは器用な演技なのか。本当にそういう快感を初めて知る少年になり切っているのか。

「へ、変なことなんて、考えてないもん……」

「本当かー? ちんこはな、変なこと考えるとそうやってすぐ固くなっちゃうんだぜ?」

 流斗のますます紅くなった頬を見て、昴星は意地悪く笑う。流斗は少しの間ためらいを見せてから、

「さっき、昴兄ちゃんに……、お尻きれいにしてもらってるとき……」

「うん」

「その……、ぼくのお尻の穴、昴兄ちゃんに見られてるんだって、そう思って……、そしたら、おちんちん、こんなふうに、上向いて固くなってた……」

 へーえ、と昴星が声を上げた。「尻の穴見られただけでそんななっちゃうのか? フルチンで遊んでたのに。海行ったときだって女子いっぱい居ても平気だったじゃんか」

「だ、だって、……おちんちんはみんなに見られること、あるじゃない? プールの着替えのときとか、お風呂のときも、……あと、その、……オモラシして、パンツ脱いだときとか」

「あー、まあなー。尻の穴まではそうそう見られることねーか」

 こく、と流斗が頷く。

「こんなの、初めてだから……」

「なるほどなー……」

 少し考え込んで、昴星はにやりと笑う。

「いまだってさ、どっかで見られてんのかも知れないぜ?」

「いまだけじゃなくて、さっきからずっと。おまえがさ、ここでしゃがんでさ、うんこでお尻の穴思いっきり広げてるとこも、全部さ」

 泣きそうな顔でおちんちんをピクピクさせるという、……なかなか難しそうだぞとぼくに思わせる身体表情を見せる流斗の耳元に、昴星はなお語りかける。

「そんな恥ずかしい思いして流はちんこそんなにしちゃうのかー。……ほら、そのぴくぴくしてるちんこさ、さっきみたくいっぱい動かしたら、もっと気持ちよくなれるぜ……?」

 昴星の言葉に魔力でも篭っているように、流斗の細い指が再びおちんちんに絡んだ。手つきまでも覚束なさを醸し出す、本当に初めてオナニーをする少年のようである。その隣で昴星も同じように自らを扱き出した。流斗の痩せた身体、昴星の肉付きのいい身体、……どちらも澄んだ汗が流れ出す。

「ん、ふぁ、あっ、ぼく、のっ、ぼくのおしりの、っ、うんち出るとこ……っ、見られちゃったっ……」

 あらぬことを口走りながら、流斗の手は益々ヒートアップする。

「出るとこ、だけじゃねーだろ、……おまえのきったねーうんこも全部さ、見られ、ちゃったんだ……」

 同じスピードで、昴星も扱く。流斗の目は自分がひり出したものへ落ち、その性器は一層盛るようだ。

「んぁっ昴兄っ、ちゃっ、おちんちんっ、なんか、変っ、またオシッコっ、オシッコ出ちゃうよぉっ」

 大きく足を開き屈んだままの格好で、流斗が声を散らした。

「お、れもっ、出すから……っ、出しちゃえ、全部っ……早くっ」

 昴星も切羽詰まった声を震わせる。きっと、年下の流斗よりも早く射精してしまうことが沽券に関わるとでも思ったのだろう。ほぼ同時だったように思う。

「んぁあン!」

「ん、んぅっ……ん!」

 二人の股間で背伸びして居た性器の先、ろくに覗けもしない亀頭から、それでも勢いだけで包皮を抉じ開けて精液が射出された。量は、決して多くないし、流斗のそれなど、いかにも薄そうだ。それでも弾性の勢いだけは一人前の男のそれで、ほとんど顔の高さにまで上がったそれは、ぴちゃっという水音を立てて足の間に落ちた。

「ひ、ひひ……、うんこにせーし、かけちゃった……」

 昴星はひくひくと笑いながら独語する。流斗は快感の津波に心をさらわれたように呆然と、自分の出したものを見ていた。

「……この、白いの……、ぼくのおちんちんから出たの……?」

 昴星はまたティッシュを抜き取って、それが最後の一枚であったことに気付いて舌を打つ。自分の皮を拭ってから、流斗のまだ固いものも優しく拭いてやる辺りは、「お兄ちゃん」と呼ばれるのに相応しい優しさだろう。

「そうだよ。『精液』っつって、まー、あれだ、大人の男にした出せないおつゆ。気持ち良かったろ?」

 こっくり、流斗は頷いて、それから慌てたように背後を振り返り、

「ぼくの、……これ、出しちゃうとこも、見られちゃったのかな……」

 今更のように不安げな表情になる。立ち上がった昴星は乾きつつある水着を穿き直して、

「まーだいじょぶだろ、ここ、周り草だしさ、人なんか来るわけねーし。ほら、また遊ぼうぜ。あんまずーっとうんこのそばいると身体がうんこ臭くなっちゃうぞ」

 おちんちんの落ち着いた流斗も、うん、と納得したように頷いて立ち上がり、小さなお尻も丸出しにしたままで、水遊びに戻って行く。

 昴星の言葉の通り、二人が置いて行ったものの臭いはぼくの周囲に漂っていて、このままだと本当にTシャツから便臭が抜けなくなってしまうかもしれない。

 ぼくが立ち上がり、カメラを止めたところで二人は振り向く。企み深く、同時に無邪気な、夏の少年の笑顔だ。

「いいの撮れた?」

 流斗が駆け寄って見上げる。ぼくは確信を籠めて頷いた。

「後でぼくの部屋で見直そうか」

「それよか、また新しいの撮りゃいいじゃん」

 昴星は言って、水着の裾から小ささを取り戻した球根を引っ張って覗かせた。「何なら、今からさ」

 ああ、本当に、夢のような時間だ、こんな可愛い少年たちがぼくに、裸を見せてくれる、淫らなところを見せてくれる!

 そうしみじみ噛み締めたところで、「……いや、そうじゃないよ」とぼくは我に返る。ジーンズの中はもちろん相変わらず窮屈であるが、なぜぼくが昴星たちと一緒にこんな所に居るのかと言えば。

 少年少女への声掛け事案を頻発させ、この街の平和を乱す少年を捕まえるためだ。

「あ、そっか」

「そうだっけ……」

 頭の中がえっちなこと一色になっていたらしい二人も思い出したように顔を見合わせる。

「そうだよ、……それをちゃんとしなきゃ、ぼくの方こそ犯罪者になっちゃうよ」

 なっちゃうよ、じゃなくて、事実としてそうなのだが。

「でも、来ねーじゃん。……ここ狙ってると思ったのになー」

 そう、残念そうに昴星が口にしたときだ。

 がさり、がさり、背後のススキの茂みから、……明らかに風によるものではない音が響いてきた。

 頑丈なススキの茎を足で踏みしめ、迷いのないスピードでこちらに近付いて来る。

 ぼくらは顔を見合わせていた。

 足音の持ち主が、例の中学生であれ誰であれ、見つかるのは得策ではないに決まっている、……目の前の流斗はすっぽんぽんであり、ぼくは二人を撮影したカメラを持っているのだ。慌ててススキの茂みに息を潜める。昴星と流斗も、共に足音の主が現れるのを待って、その表情に冴え渡る知性を漲らせた。そんな二人の表情は悪くないが、味わう余裕はない。

 足音は、ぼくの隠れる茂みの、ずっと右手の方からやって来るようだ。先程二人に先導されたときにも其方から此処へやって来た、子供たちが其処ばかり通るからススキが育たないのか、或いはススキの丈が低いから子供たちが其処を選ぶのか。

「おい、おまえたち……」

 声が響いた、声変わりまでもう少しと言う感触が耳に入る。あの「中学生」だ、ぼくは息を呑み、ついでにまだ目の前に転がる二人の落し物の臭いに危うく噎せそうになった。

 それにしてもあの子は子供に声を掛けるとき、こんな横柄な態度でいたのか。……ぼくが先日、城址公園のトイレで流斗に声を掛けたときには、身を屈めて視線を合わせたけど。「こんなとこで何やってんだ!」

 いや、そういう態度で威圧するのが彼の目的なのかも、という思いが過ぎった瞬間だった。

「あ」

「なぁんだ」

 昴星と流斗、それぞれの口から拍子抜けしたような声が漏れる。

「何だよおまえ、記録会どうしたんだよ」

 昴星が負けず横柄な口の聴き方を選んだ。

 もう、すぐに理解する。

「うるさい、……何かおかしいと思ってたんだ! ここんとこずっと土曜になるたびにどっか行くし、パンツの枚数は合わないし!」

「ばれちゃったね」

 流斗がえへへと笑う。「やっぱり才兄ちゃんは頭がいいんだねえ」

才兄ちゃん、……淵脇才斗、つまり流斗の従兄であると同時に、昴星の、恋人。

 ……これって、結構やばい状況なんじゃないのか。

「……さっき、もう一人居ただろう、あれ誰だ」

才斗の声には、くっきりと怒りが感じられた。「あれ、大人だろう……」

 ぼくは汗が全身から滲み出すのを覚える。……どうするどうするどうする……、必死になって頭回して考えをひねり出そうとしても、……ダメだ、何一つ纏まらない、ぼくは汗だくの変態盗撮者以外のなにものでもない。

「はーあ」

 昴星が、諦めたような溜め息を吐き出す。「おにーさーん、ばれちゃった」

「才兄ちゃんにはナイショにしようって言ってたのにね」

 才斗の足音が、河原の砂を踏みつけて近付いてくる。

 このときぼくは、仙人のような心持ちで居たと思う。

 人生において、明るい道を踏み外さずに居られた、最後の数秒……、しかしぼくは、逃げ出すことを思い付かなかった。自分の人生というものに、大いに満足して居たからだと思う。

 だって、そうでしょう? ぼくの人生がこれで終わりだとしたなら、その最後の数週間でぼくは念願を叶えたんだもの。昴星という、流斗という、格別な美少年二人との逢瀬のとき。ぼくの人生におけるピークだったと言っていい。この先もし無事に生きて行ったとして、昴星と流斗、二人から享受した以上の幸せにぼくが出会うことは、きっとない。

 さく、さく、砂を踏みしめる才斗の足音は、刻々と迫る終焉のとき。ぼくは近付くそのサンダルの足音を数えて居る。さく、さく、さく、ぐに。

「ギャ」

 ……ぐに?

 目の前に立つ少年はそんな声を上げて凍り付く。

 七部丈から伸びる、日焼けした両足の先にある、黒いゴムサンダル、が最後に踏みしめたのは、

「あはは! バカでー才斗おれのうんこ踏んでやんの!」

 そう、……さっき昴星がぼくの目の前で生産した、便である。

 見上げた才斗は、……うんこ踏んで表情を強張らせてはいるものの、なかなかの美形、……「イケメン」と言っていい。少女のように甘ったるい相貌の昴星に比べてずっとキリッとした顔のつくりで、鼻や口元はさすがに従兄弟同士で、流斗によく似ている。

「なっ……、何でこんなとこにうんこ落ちてるんだよ!」

 悲鳴に近い声を上げて才斗が振り返った先、昴星は「んなもん、決まってんじゃん」平然と笑う。

「おにーさんにさ、撮ってもらったんだよ、おれと、流のうんこしてるとこ。な?」

 昴星に同意を求められて、

「ね。いっぱいうんちしてすっきりしたんだよー」

 フリチン姿の流斗は微笑んで頷く。

 ススキの茂みにうずくまったまま顔を上げるぼくに引きつった顔を戻す。しかし才斗は恋人の落し物を思い切り踏み付けてしまったサンダルが気になって仕方がないらしい。ぼくはぎこちなく笑って、

「はじめまして、才斗……、くん」

 我ながら間抜けとは思うけれど、大人の礼儀として、きちんと挨拶はする。立ち上がって面と向かえば、平均よりも高い身長、スタイルがとてもいい。きっと運動神経がいいのだろう。同時に、昴星よりずっと賢そうな目をしている。

 その目で、ぼくを見上げて、「……あなた、どういう……っ」というところまで言いはしたが、どうしてもサンダルが気になるのだろう。くるりと背を向けて、力任せに石でこそげ取り、小川の流れに底を浸す。

「どういう、ことだよ!」

 言葉は恋人と従弟に向けられた。

 昴星は何でもないことのように肩を竦めて、「決まってんじゃん、おにーさんはおれの遊び友達、んで、先週からは流もいっしょ。三人で遊んでたってだけのことだよ」

「遊んで……っ、遊んでって、……知らん人と!」

「知らなくないよー、お兄ちゃんはおともだちだもん」

「流斗は黙ってろ!」

「いーじゃん」

「いいわけあるか!」

 流斗以上に発言権のないぼくは、黙って才斗と昴星のやり取りを見ているだけだ。逃げ隠れはしない、ただ、立ってるだけ。

「あんまぐちゃぐちゃ言うなよなー、おにーさんにおまえのオモラシムービー、ようつべに上げてもらっちゃうぞ」

 そんなこと、出来るわけがない。……ネットではそういう類のアイテムも探せば見つかるのかもしれないけれど、怖くて探そうと思ったこともない……。

 けれど、才斗はピクンと身を強張らせる。

 形勢の天秤が、カタンと音を立てて昴星に傾いたのがぼくには判った。

「あ、じゃあぼくのオモラシもお兄ちゃんにあげてもらおうかなー。世界中の人にぼくの恥ずかしいとこ見られちゃうなんてドキドキするよ」

 流斗も声を上げる。とんでもない、としか言いようのない発想だ。

声を失った才斗に、彼の恋人は意地の悪いニヤニヤ笑いを浮かべて言う。

「いーじゃん、おまえだってさ、流とおれが遊ぶの、文句言わねーだろ?」

 怒ったように睨む才斗の視線を、昴星は軽々と受け流す。

「もう一人増えただけだ。おにーさんは変態だけど、おれたちの嫌がることは一度もしたことないぜ? ただおれたちがして欲しいこと、お願いしてしてもらってるだけだ」

 オモラシ、見て。おれのちんこ撮って、うんこするとこも。でもって、ちんこしゃぶって気持ちよくして。おれ、射精したい。

 確かに、ぼくはあの夜偶然にも昴星と知り合った。ぼく自身がショタコンであり、昴星のブリーフに強い興味を抱いてしまったことは事実だけど、まずは昴星の欲求に対して答えることで自分の欲を満たしてきたんだ。

 流斗に対しては? ……オモラシをした男の子への対応として、あの夜のぼくはそう間違ったことはしていなかっただろう……、と思うのだ。最後には誘惑に負けてしまったけれど、撮影などは、流斗の求めに応じてのもの。そして流斗自身が、その行動の片っ端から昴星の言うなれば差し金だった。

 そういう言い訳が、次から次へとぼくの中へ浮かんできた。けれどぼくは其れを口にする代わりに、

「君が嫌なら、ぼくはもう、二人と遊ぶのはやめにするよ」

 と才斗に言った。

 才斗はずいぶん辛そうな、けれど怒りの篭った視線をぼくに向ける。ぎゅううと音が立つぐらい、強い視線だ。ぼくはもう、才斗のそんな怖い顔だけで降参する。

 だが、才斗はその目を昴星に向ける、流斗に向ける、しばらくぱくぱくと口を開け閉てした挙句、彼はがっくりと項垂れた、「はああぁああー」と、顔を覆って何とも情けなさそうな溜め息を吐き出して、しゃがみ込んでしまう。

「……お兄さん」

 苦しげに、呻くような声で彼はぼくを見上げる。その目は泣きそうだった。「あなた、どういう人なんです」

「どういう……、ええと……、あの、川沿いに住んでる、地元民です」

「……あなたがどういう事情でこいつらと知り合ったかは、説明しなくていいです、大体想像が付くから」

 昴星と流斗は相変わらずニヤニヤしている。

「あなたは、こいつらに頼まれて、さっき昴星が言ったみたいな……、ことをしてる。でも、あなたはそれを嫌がってない。……おれが言うことが違ってたらごめんなさい、でも」

 ゆらゆらとふらつきながら立ち上がった才斗がぼくを睨む目は、もう弱々しいものになっていた。「あなたは、こいつらみたいな、要するに男の、子供を、そういう、やらしい目で見る人だ」

 ぼくは、素直に頷いた。「……そうだよ。だから、昴星たちにいたずらをさせてもらって、……すごく、幸せだった」

「いたずら、してもらってたんだけどな」

「ね」

 昴星と流斗は微笑んでそう言ってくれる。「だって、探したってお兄ちゃんみたいなひと、いないよ? ぼくたちのことえっちな目で見てくれて、気持ちよくしてくれて」

「そうそう。でもって、嫌な思いはさせないでいてくれるんだもんな」

 口々にぼくを擁護してくれる昴星と流斗にちらりと目をやって、才斗は地の底から生み出されるような溜め息を吐き出して、搾り出した。「……こんなのの、どこがいいんですか」

「どこがって……」

「こんな、オモラシしてオシッコ撒き散らして露出狂でうんこするとこ見て欲しいなんていうやつらの、どこがいいんですか……」

 そう事実を並べられると、いやはや、本当に何処がいいんだろう? けれど二人のそういう無茶な性嗜好が、ショタコンとしてのぼくの弱い部分を鋭く刺すということはまた、事実である。

 ぼくはだから、素直に言った。つっかえながら。

 才斗はまた、深い溜め息を吐き出す。

「あなたは、その」とぼくの手にあるカメラを指差して、「それ、どうするつもりなんです」

「どうするって……」

「そういうの、買ってくれる人に売ったり……」

 ぶんぶんと、ぼくは首を横に振った。「あくまで、ぼくが個人的に愉しむためにしか使わないよ、……さっき昴星が言ったみたいな、動画共有サイトに上げたりするようなことも絶対にしない」

 これは、本当に本当のこと。そんなの、自分から「捕まえてください」って言っているようなものじゃないか。

 才斗はしばらく俯いてから、

「こいつらに、痛い思いをさせたりとかは?」

 と訊く。

「しないよ、……したことない。だってぼくは、昴星と流斗を、その、可愛いなって思って、ただ、本当に、可愛いなって思って……、ぼくはさっき君が言った通り、二人みたいな子が可愛くて、その、えっちなことをしてみたいなって思うような変態だけど、でも、傷つけたいと思ったことは一度もない。……君には」

 ぼくの言葉はいま、どこまでも透明だった。全てを諦め切っている、何も言い訳は出来ない、嘘など、もう意味を持たない。「君の、恋人であったり、従弟であったりする子たちに、ぼくみたいなのが手を出して、その、いたずらを、してしまったことを謝らなければいけないとは思う。……その報いは、当然受けなければいけない」

「報い?」

 才斗は唇を歪めるようにして笑う。「そんなこと、どうして出来ると思うんです……、おれが警察にあなたのことを突き出す? そんなこと、おれが出来ると思うんですか」

 才斗は吐き捨てるように、そう言い切った。ぼくの顔を流れる汗を、舌を打って睨む。その目にはしかし、さっきのような切れ味はなかった。

「いいですか、こいつらが」と一括りに恋人と従弟を指差す。「どんだけおかしなことやってるか、変態かってことは、おれが一番よく判ってるんです! その上で、こいつらがおれの見ているとこだけで、安全に、……変態だってことが誰にもばれずに遊んでればいいって思ってた。それなのにこいつらは……」

「だってさー」

 昴星はへらへらと不真面目に笑う。「そりゃ、おれ、おまえの恋人だよ、おまえのこと一番好き、一番大事に思ってる。けどさ、おまえいないときに流と遊ぶのだって楽しいし、一人でオモラシしてオナニーすんのも楽しいし、おんなじようにおにーさんにエロいの撮ってもらうのも楽しいんだよ」

「ぼくだって」流斗が同調する。「才兄ちゃんたちに会えない時間、ひとりでお外でおちんちん出したりして遊ぶのも好きだし、サクラちゃんたちとえっちなことするのも好きだよ。でもって、お兄ちゃんといっしょにどきどきするの大好き」

「こんな、こいつらを」

 才斗は痛そうに顔を顰める。この賢そうな少年の抱える痛みを、ぼくは少しずつ理解できるようだった。「おれは、……ずっと隠してきたし、これからも隠していかなきゃならない……、こいつらがこんなことしてるなんて学校にばれたらどうなると思います?」

 ぼくは頷く。……そうなれば、そういう二人のことを愛しんでいる才斗の立場だって危うくなる。そうだ、だってこの子は、ぼくよりずっと昴星の、オシッコの匂いが好き、オモラシする姿が好き、昴星を、心から愛している……。

「警察にあなたを突き出せば、それこそ、……こいつらがあなたに撮らせたのが、どういうものか、ばれてしまう……。そんなこと……、おれに耐えられるわけがないじゃないか……」

 食い縛った歯の隙間からやっと滲み出るような声には、昴星という、……もう、「魔性」と表現してしまっていいだろう、大人の男なのに男の子を愛するぼくのように、或いはぼく以上に、歪んだ性嗜好を持つ少年のことを愛してしまった才斗の抱える痛みの重さをぼくに思わせた。

 それでも、好きで好きで仕方がない、だから、……仕方がない。

 きっとこの子は苦労している。苦労して苦労して、でも己の愛を信じて生きているんだ。

 ぼくは少し、胸が苦しくなるような気持ちになった。

「もし、あなたが」

 俯いたまま、才斗は言う。「……嫌な思いをすることにならないなら、これからも、こいつらを、お願いします」

 それは少年の意には、明らかに反する言葉だったに違いない。

 ぼくは何とも言えないで、才斗の端正な顔を見ていた。

「じゃーさ」

 呑気な声を、昴星が上げた。「おまえ、一緒に居ろよ。いまおれたちが何やってたか教えてやろうか」

 才斗はむっとして、「どうせ変なの撮らせてたに決まってる」と言い返すが、昴星はひひひと笑う。

「違うもん。なー」

「ねー」

 流斗と顔を見合わせて笑う。

「……この辺に、君たちぐらいの子供に声を掛けて回っている怪しい中学生が居るって聴いたんだ」

 ぼくが二人に代わって口にした言葉に、はっとして才斗が顔を上げる。すぐに察しが付いたらしい、

「そいつを、おびきだすために……?」

「うん。……でも、二人だけだと、ほら、その中学生の子が、どんな子かも判らない、危ないかもしれないし……」

「そんなんがうろうろしてたら、流も落ち着いて露出ごっこできねーもんな。だからさ」

「ぼくたちで、その子のことやっつけてやるんだ」

 やっつけてやる、かどうかは、微妙なところだ。もうちょっと大人のやり方で対応するつもりで、ぼくは居る。そういうことを、ぼくは才斗に伝えた。

 才斗は、少し考える。「……そりゃ、確かに……、流斗はこのとおり平気で人前で裸になる、そいつにはいい『エサ』になるかも知れないけど……」

「でもって、ついでにおにーさんにエロいの撮ってもらってたってだけ」

 ぼくは、自分の手首に感じていた冷たさが徐々に薄らいでいくのを感じる。

 才斗はいま少し思案を続けていたが、やがて頷いた。

「……おれも、一緒に居ます」

 ぼくのことを、もう棘のない、かといって信じきったわけでもない目で見詰める。

「あなたは、普段の通りにしててください、……つまり、おれが居ても、普段、こいつらにしてるみたいなこと、してていいです」

 試されているのだ、頷きながら、ぼくは悟る。才斗はぼくが、自分の恋人の余暇を任せるに足る人間なのかどうかを、見抜こうとしているのだ……。

「判ったよ」ぼくは頷き、やっと、少し微笑んだ。「……ありがとう」

「誤解しないで下さい」

 才斗はぼくのカメラを指差す。「あなたが信頼できないと思ったら、どんな手を使ってもあなたからそれを奪い取ります。そのときこそ、あなたのことを警察に突き出しますから」

 うん、とぼくが頷くと、「じゃー、遊ぼうぜ、流」何事もなかったかのように、昴星は言って足元の水を蹴って流斗に飛沫をかける。

「お兄ちゃん、ぼくたちのこと、いっぱい撮ってね」

 ぼくと才斗の重たい話の間も、ずっとすっぽんぽんだった流斗は嬉しそうに微笑む。

 ぼくと才斗は、ススキの茂みの中に腰を下ろした。才斗はむっつりと昴星と流斗のことを眺めて、口を閉ざしている。ぼくは、才斗がやって来る前同様、二人の少年の遊ぶところを動画に収めている。無邪気に遊んでいる二人の姿を撮影しているだけのことだけど、でも、相変わらず流斗は全裸、そして水着一枚の昴星も、妙に肉感的でいやらしく思える。だから結局の所、えっちなものを撮っていることには違いない。

「……あなたは」

 才斗がやっと口を開いた。ぼくはカメラのディスプレイから目を離して、真っ直ぐに昴星を見詰める少年の横顔に目を向けた。

「これまでも、そんな風に男子のこと盗撮したりしてたんですか」

「してないよ。こんなの、今までは本当に、ただの一度もしたことない」

 慌てて、ぼくは否定する。

 昴星に出会うことがなければ、ぼくは男の子の裸をこんな風に自由に見ることはなかっただろう。せいぜい、銭湯に行ったときなんかに、こっそりと垣間見て瞼の裏に焼き付けておく程度。

「ふうん……」

 信じてくれたのかどうかは判らないが、才斗はそんな声を出す。

「……いまぼくらが待ってる、中学生っていうのは……」

 ぼくはディスプレイに目を戻す。昴星と流斗が、何やらひそひそ話し合っている。ちらちらこちらを見ているから、次にどんなものをぼくに撮らせようか相談しているのだろう。

「ぼくが思うに、……単にぼくみたいに、男の子にいたずらをしたいだけの子じゃないんじゃないかなって」

「……どういうことです?」

「うん……。その子は、実際に子供たちに声を掛けてるわけだよね?」

 才斗は頷く。

 当たり前のことだけど、それって、かなり勇気のいることだ。特にショタコンだったりロリコンだったりするような人間にとっては、寧ろ普通の嗜好であり思考を持つ大人よりもし難いこと。何故って、性的な衝動を抑えて生活し、且つぼくのように「正しい道」を踏み外して痛い目を見るよりはこっそりとその嗜好を飼い慣らしている方が得だと思うような人間にとって、少年/少女と実際にコミュニケーションを取るっていうのは危険と隣り合わせだから。

 ぼくがそういうことを言うと、「……なるほどな」と才斗は呟く。

「実際、ぼくはこの間、君たちの住んでいる団地まで流斗を送って行ったときにね、……ただ連れてただけなんだよ、流斗を。だけど、おまわりさんに声を掛けられた。それって、ぼくみたいな人間には背筋も凍るぐらい怖いことだ」

 才斗は納得したように頷く。そして、「おれも、そう思ってます」と付け加えた。

「逆に言えばね、……声を掛けるぐらい度胸のあるやつだったら、もうとっくに被害を受けてる子が居ておかしくないと思うんだ」

「それなのに、そいつは声を掛けて回ってるだけだ。だから、いたずら目的じゃないのかもしれない」

「うん。……その子は、『手伝って欲しい』って言って回ってるんだよね? だとしたら本当に、……それが何かは判らないけど、自分の『目的』を果たすために子供たちに協力を求めているだけなのかもしれない……」

 ぼくらの会話が其処まで至ったところで、昴星と流斗がやって来た。

「なー、おにーさんさ、ちんこ見んの好きだよなー」

 そんなことを、急に訊く。まったく、「今更」の問い掛けだ。ぼくが頷くと、才斗は軽蔑したようにぼくを見た。

「あのね、昴兄ちゃん、もっとおちんちん撮って欲しいんだって」

「ちんこ撮って欲しいっていうかー……」

 昴星は、少しだけ照れ臭そうに白状する。「オモラシしたいっていうかー……」

 ぼくの隣で、才斗が明らかに身を強張らせたのが判る。……そりゃ、そうだろうね。こんな恋人じゃ、本当にこの子、苦労が耐えないんだろう。

 どう答えたものか、ぼくが考えていると、「……すりゃいいだろ、したけりゃ。変態」ぶっつり、才斗が低い声で搾り出す。昴星はその言葉を聴いて、にぃと笑うと、

「ひひ。じゃーする。おにーさん撮って」

 才斗の気も知らず、昴星は嬉しそうに言う。いや、知っているからこそ此処まで傍若無人に振る舞えるのかも知れないが、これはあくまで二人の関係のことで、ぼくが口出しできるような問題じゃない。あからさまに不機嫌な才斗が気にならないではなかったけれど、ぼくの仕事は何かと問われれば、昴星の喜ぶように、したいように、させてあげるというだけだから……。

「ねえねえ、お兄ちゃん、ぼく、昴兄ちゃんのオモラシ撮っていい?」

 ぼくのシャツを握って、流斗がそうせがんだ。そうだ、もちろん、流斗のことも喜ばせてあげなければいけない。

 才斗がそっぽを向いて、溜め息を吐く。この子はまだ昴星と同い年だというのに、……大変だなあ、偉いなあ、大人だなあ……。

 ぼくが「落とさないでね」とカメラを手渡すと、流斗は嬉しそうにそれを構えて、

「えへへー、これから昴兄ちゃんがオモラシするんだよー」

 とはしゃいだ声で言う。

「ひひ……、さっきさー、立ちションしてうんこしたばっかなのにまたしたくなっちゃったんだよなー」

 屈託なく言っているようで、同時にほんの少しはにかんだような顔で居るのがぼくには眩しく思える。きっと才斗だってそうだろう、と思うのだけど、才斗はぷいと顔を背けたまま、昴星の笑顔を見ようともしない。流斗も昴星も、そんな従兄/恋人を気にも留めずに、

「ねえ昴兄ちゃん、これからオモラシするおちんちん見せてー」

「おう、……ひひ、こんなん。」

「昴兄ちゃんのおちんちん可愛いねえ」

「か、可愛いって言うな!」

 水着の中の撮影に余念がない。

 ……いつ見ても思うのだけど、昴星にしても流斗にしても、人に「恥ずかしいところ」を「撮影される」という行為が本当に好きだなあ、と。流斗は「露出狂だから」という理由が在り、昴星は「恥ずかしくってどきどきすんの好き」という理由が在る。それにしても、さっき、「初めて射精する年下の面倒を見るお兄ちゃん」という構図を二人は当意即妙に演じて見せた。更に顧みれば、流斗と初めて出会った先週の金曜の夜、ぼくは彼の演技にすっかり騙されてしまったわけだ。

 見た目が美しいことは言うまでもなく、……この子たち、子役になれるんじゃないのかなって、ぼくは思った。好きこそ物の上手なれって言葉もあるくらいで、二人は心から自分たちの姿を撮影されることが好きなんだなあ……。

「あ、やべ、もう出ちゃう」

 昴星が慌てておちんちんを水着の中に仕舞った。途端、ぷしゅっと炭酸水の栓を抜いたように、乾ききっていた紺色の水着の中央、小さな膨らみに、染みが生じた。

「あはは、出てきた出てきた、昴兄ちゃんのオシッコ」

 流斗は楽しそうに撮影している。ちょっとディスプレイに目をやると、さすが手ぶれ補正つき、高いものだけあって、失礼ながらあまり気を遣って撮っているとは思えない流斗でも、上々の映像を収録しているように見える。「昴兄ちゃん、きもちぃ?」

「おー……、すっげー……、熱くって、きもちぃ……」

 こういう動画、まだ昴星と知り合ってからそんなに時間を重ねたわけでもないのに、もう結構な量が溜まっている。部屋のPCに繋いで見てみたけれど、どれを、何度見たって飽きが来ない。早暁の上司公園で昴星が初めて見せてくれたオモラシも、部屋に遊びに来たとき、浴槽の中に置いた洗面器に排便する姿も、流斗があの夜、純真無垢な子を気取ってしてくれたフェラチオも、先週、二人が女の子の水着を着て絡み合ってくれた姿も……、動画を頭から再生して、すぐにぼくのペニスは硬くなったし、右手のスピードに気を遣わなければクライマックスに至る前に達してしまうような、破壊力を持っている。

 いまもこうして収録されていく昴星の痴態は、そういうコレクションとしてまた加わる。

 流斗は昴星の恍惚とした表情を、薄い尿を滴らせる水着とともに抑えていた。

「は……ぅン……っ」

 オシッコを出し切って、ぶるぶると震えた昴星のおちんちんは紺色の水着の中でもう上を向いていた。そしてぼくらのところにまで、昴星が足元に零した液体の匂いが漂ってくる。

 オモラシにしてもそうだ、おちんちんにしてもそうだ、この匂いも、味も。いつもと変わらないものなのに、どうしても見慣れないし、見飽きるということがまるでない。きっと才斗にしてもそうなのだろうし、行為の主演者であるところの昴星にしても同じに違いない。えっちなこと――ぼくと昴星たちがするのは「セックス」とは呼べないけれど――って気持ちいいだけじゃなくて楽しくって、だから何度も何度も繰り返したいって思うんだろうなと、ぼくは気付かされる。

「昴兄ちゃん、おちんちんまた出してー」

 流斗のリクエストに、「ん……、おれの、ちんこ……」昴星はさっきよりももっと恥ずかしそうに、そして、どこか陶然として、水着を太腿まで下ろして、すっかり大きくなってしまったそれをカメラに、ぼくらに、見せてくれる。

「皮剥いてー」

 こく、と頷いて、「気をつけ」の姿勢になったものの先っぽで柔らかそうに余ったものを、摘んで下ろす。じゅんと亀頭が潤っている。

 昴星の頬は紅い。ぼくではなく流斗にイニシアティヴを取られて、恋人も見ている前でこんな風に痴態を晒しているからかも知れない。そして忘れてはいけないのが、此処は、いくら他の場所からは目に付かないだろうとしても屋外だと言うこと。

「すっごい、おちんちんの皮の中、一番くさいね、いいにおい」

 カメラで接写しながら、流斗はくすくす笑ってちらり、自分の従兄に視線をやる。

 才斗は興味のない振りをしている。

 それが「振り」だと判るのは、才斗の右手が落ち着きなく自分のシャツの裾を握ったり解いたりを繰り返しているからだ。ああ……、そうか。この子にとって昴星のオシッコの匂い、おちんちんの匂い、一般的には「臭い」って言われるようなそれは、ぼくや流斗が感じるよりももっと魅力的なものなんだ。

 ぼくが居るから、ガマンしているんだ。本当は顔を寄せて、お腹一杯に嗅ぎたいに違いない。

「えへへ……、ぼく昴兄ちゃんのオシッコのにおい大好き。ほら、ぼくもおちんちんおっきくなっちゃった」

 膝をついて昴星の局部にカメラを寄せていた流斗が、ぼくを振り返る。「はい、お兄ちゃん、カメラ交代」とぼくに録画中のランプのついたカメラを手渡す。

「こ、交代……?」

「うん。ぼくも撮ってもらいたくなっちゃった。お兄ちゃん抱っこして」

 抱っこ? ……戸惑うぼくの膝に、向かい合わせに流斗は座り、しっかりと両手でぼくの首に抱きつく。それから、……驚いた、あんまりにびっくりしたから、カメラを取り落としそうになってしまった。

「えへへ」

 唇に、この子のひんやりした体温が触れた。

「りゅ、……っ」

「ちゅーしちゃった、お兄ちゃんと」

 流斗は昴星を振り返って笑う。勃起したおちんちんを出したまま、呆気に取られている。その表情は才斗もまた同じだ。ぼくは耳からぷしゅうと理性のガスが噴き出したような気がする。

「お兄ちゃん、おちんちん見るの好きでしょ? ここならぼくのおちんちん、いっぱい近くで見られるよー」

 ぼくの、ファーストキスの相手は、すっぽんぽんの男の子。

 流斗は、また音を立てて、ぼくの唇を奪う、……そのままぺろぺろとぼくの唇を舐めてきた。思わず口を開ければ、その小さな舌が口の中に入ってくる。

 恐る恐るそれに返せば、「んぅ」と嬉しそうに、もっと舌を伸ばして来た。……はたして流斗のキスが、上手なのか下手なのか、比べる対象のないぼくには判らない、判らないけれど、……興奮するなというほうが無理だ。

「ぷぁ……、大人のキス、しちゃった、お兄ちゃんと。いっつもね、才兄ちゃんと昴兄ちゃんがいっしょに大人のキスしてるの見て、うらやましいなあって思ってたんだぁ」

 流斗は心底から嬉しそうに笑い、ぼくの顔を覗き込んで、「ね、おちんちん、いっぱい撮って、いじって。ぼくのおちんちんからびゅーってせーし出させて」

 はい、と。

 ぼくは素直に頷いた。左手にカメラを持ち替えて、右手で流斗の小さいながらも一生懸命に勃起しているおちんちんを、摘んだ。少年自身が昴星にリクエストしたように皮を剥けば、ぼくと流斗の間に、じんわりと男の子の匂いが漂うように思えた。そっと亀頭に触れれば、か細い尿道口に浮かんだ露が糸を引く。タマタマを指ですくい、竿を指で摘んで、優しく扱いてあげるだけで、流斗はふるふると震えて、

「ぅうん……、お兄ちゃんの指、すっごくえっち……」

 笑う余裕もなくして、うっとりと声を漏らす。

 流斗の背中の気配に、ぼくが目をやれば、一組の恋人が其処には居た。

「んぅ、うんっ、んっ……、才斗ぉ……!」

 昴星の足元に跪いて、流斗が恋人のペニスを咥えて、愛情いっぱいのフェラチオをしている。昴星はぼくや流斗が愛撫するときよりもずっと色っぽく、恥ずかしそうで、そして何より嬉しそうな表情で感じきり、自ら腰を動かして恋人の口腔愛撫を味わっていた。なるほど、急な流斗のキスの理由に合点が行った。ぼくが流斗に集中していれば、奥床しい才斗も昴星に向かうことが出来ると言うわけだ。それは才斗のためばかりではなく、昴星のためでもある。

「おにいちゃんっ、もぉ……、せーし、ぼく、出るよぉ……!」

 聴いているだけで胸がきゅんとするような、甘酸っぱい果汁のような声を上げて、流斗はおちんちんでぼくの指を弾くように勢いよく其処から精液を噴き出した。汗ばんで甘い匂いを放つ、痩せたお腹や胸に、まだたっぷりとしたものが散らばって、……爽やかな緑のような匂いと交じり合って、えも言われぬ少年の「性」そのもの匂いがぼくの鼻に届いた。

「あは……、いっぱい出ちゃった……。おにいちゃんのゆび、すっごく気持ちよかったよぉ……」

 流斗はとろとろと肌に垂れる精液を指で掬い取る。それを、どうするのかと見ていれば、自分の口に含んで、……また、ぼくにキスをする。男の子の性の絞り汁が、その子自身の唾液とともにぼくの口の中へと流れ込んでくる。

「っんぁ、あっ……あ、あぁ……!」

 昴星の最高に可愛らしい声が聴こえて来た、才斗の口で射精できたようだ。それが昴星にとって、最も幸せな射精だろうということを、ぼくは嫉妬のかけらもなく思う。

「お兄ちゃん、ぼくとちゅーするのうれしい?」

 流斗が訊く。ぼくは、無言で頷く。ああ、嬉しいよ、……決まってるじゃないか! こんな、こんな可愛い子と、まるで、恋人みたいに接している。キスにはそれだけの威力があるようにぼくは思う。

 流斗はとびきり可愛らしい音を立てて、ぼくの唇にまたキスをした。この子だけが出来る、精液と唾液の味がするキス。

「おちんちん、出して。ぼく、お兄ちゃんのおちんちんにもいっぱいちゅーしてあげる」

 外で、……こんなところで? 誰か来たら?

 ぼくの頭がそういう真っ当なことを考えるより先に、ぼくの手はベルトを緩め、ジーンズの前を開け、晩夏の太陽みたいに煮え滾った怒張を取り出していた。昴星が流斗の足の間に潜り込むのが見えたからだ。「昴星っ……」と才斗が焦ったような声が聴こえたが、彼に恋人を止めることは出来ないらしい。

「ぼくもお兄ちゃんにおちんちんいっぱいしてもらいたいから、あおむけになって」

 服や髪が砂で汚れようと構わない。ぼくが横たわると、すぐにぼくの身体の上に、流斗が跨った。射精直後の流斗のおちんちんは萎えて、ぼくの鼻のすぐ傍で、柔らかな性の匂いを振り撒いて揺れる。

「オシッコ、していーい?」

 顔を足の間から向けて、ぼくに訊いた。「お兄ちゃんに、ぼくのオシッコ飲んで欲しいな」

「流斗の……、オシッコ……」

「うん。昴兄ちゃんみたいに味濃くないけど、でも、ぼくの出したてのオシッコ」

 ぷるぷると弾む真性包茎は、ぼくの口に差し込まれた。少し太めのストローのようなものだ、……けれど口を離したら、顔も髪もシャツの襟元もびしょ濡れになってしまう。流斗のオシッコで濡れるのなら別に汚いとも思わないけれど。

「ね、お兄ちゃん、カメラ、また貸して」

 何をするのか判らなかったけど、流斗が伸ばした手に、ぼくはカメラを渡した。

 間もなく、自分の足の間から流斗の声が聴こえて来た。

「えへへ、これからねえ、お兄ちゃんのお口にオシッコするんだよー、でもって、ぼくはお兄ちゃんのおちんちんにいっぱいちゅーするの。……お兄ちゃんのおちんちん、おっきくって、がちがち、先っぽのおつゆ、すっごいおいしそう……」

 自分の顔を撮っているのだということが判ると同時に、

「あ……、オシッコ、出る……、お兄ちゃんのお口に、ぼくのオシッコ……」

 ぼくの口に差し込まれたストローから、芳しい潮が噴き出した。ぼくは其れを、息を止めて一気に飲み込んでいく。

 驚かされるのは、オシッコを放出する流斗のおちんちんが、一秒ごとにぼくの口の中で容積を増していくことだ。

「んぅ……ン、オシッコ、するの、すっごいきもちぃ……。学校でね、オシッコ、あんまり漏らしちゃうと怒られちゃうから、ずっとずっとガマンして、おトイレで思いっきりするのも、すっごく気持ちよくって、オシッコしてる最中におちんちんおっきくなっちゃうこと、あるんだぁ……」

 流斗がカメラに、そしてぼくに――いずれにせよ、その声を聴くのはぼくだけだ――語りかける。

 オシッコの勢いはやがて収まり、止まった。

 けれど、一滴も零さず飲み干したぼくの口の中の熱は、まるで収まらないどころか一層勢いを増している。ぼくの舌に柔らかな包皮をこすり付けるように腰を振る動きが、とても淫らだった。

「お兄ちゃん、ありがと……、ぼくもお礼するね」

 いただきまぁす、と流斗はぼくのペニスに右手を添えて、先端にキスをした。小さくて、ぷにぷにと瑞々しい唇が当てられる、……それだけでぼくのペニスは浅ましく震えた。

「えへへ……、お兄ちゃんのおちんちんのおつゆ、おいしいよぉ……」

 きっとカメラ目線で言っているのだ。流斗は一度、二度とぼくの尿道口を吸って、それかられろれろと舌を細かく動かして、ぼくのおちんちん全体に唾液を纏わせていく。

「おつゆだけじゃなくってぇ……、お兄ちゃんのおちんちん、ぜんぶ、すっごくおいしい……」

 身を乗り出して、舌は裏筋を細かく擽り、陰嚢にまで達した。片方ずつ、ゆっくりと丁寧に舌を這わせ、ときにいたずらをするように唇で皮をちゅるんと吸い上げた。流斗がそういうことを、カメラ目線でやっているのだということがぼくには判った。ぼくが後から見たときに、流斗の可愛い顔を、えっちな目を、余さず見ることが出来るようにと、

 ぼくは流斗の太く硬くなったストローを咥えて吸ったままで居た。残念ながら、もう吸ってもレモンジュースのように芳しい液体は出て来ない、ただ、代わりにほんの少しの潮蜜が舌をとろかす。舌を絡めればこの子が呆気なくまた射精してしまうことは目に見えていた。だからせいぜい、与える刺激は茎への吸い上げと、それから指先で、これ以上愛らしい感触はないだろうと思わせる陰嚢への愛撫。男の子の身体って素晴らしいなあ……、ショタコンとして、触れることの到底叶わぬものへの憧れと共にずっとぼくは思って居たけれど、こうして触れてみて改めて、本当にその素晴らしさを再確認している。

「んー、んっ、んっ……んぅン……」

 声の伴う流斗のフェラチオは、情熱的であると言ってもいいほどだ。実際の所、少年の控え目で小さな口には、残念ながらそう小さいわけでもないぼくのペニスって、頬張るだけでも苦しく感じられることだろう。

 それでも、流斗はなかなか口を外さない。舌の動きも止まらない。一生懸命になって、ぼくに愛撫を施してくれている。

 この少年と会ってからまだそう長い時間は経っていないけれど、えっちなこと、どんなことであっても演技として済ましてしまうぐらいに飄々としている。……それは昴星にも似たところがあると言えばあるけれど、昴星が土壇場で恥ずかしさを隠しきれなくなってしまうのに対して、この子は何処までもマイペースでいた。

 けれど、この子がいま、本気なんじゃないか、という気が、ぼくはする。単に自分の恥ずかしいところをぼくに見せているからというだけ以上の理由で、ぼくの口の中で流斗の短芯は狂おしく、熱い。

「ぷは」

 息継ぎのために、やっと口が外れた。

「おにいちゃんのおちんちん……、おいしいよぉ……」

 蕩けたような笑みの塗された声が聴こえて来た。「お兄ちゃんが、いっぱい幸せになれるように、ぼく、がんばる……」

 ぼくは口から一度、流斗を外して、「流斗のおちんちんも、すごくおいしいよ」と言う代わりに、射精を間近に控えて皺を寄せた小さなタマタマの裏から、蟻の戸渡り向かって舌で辿った。

「あぁん……」

 すぐそこに、きゅ、きゅっ、と音もなく窄まる蕾がある。そこは余す所なく日焼けした露出癖少年の身体にあって、一番白い場所かも知れない。ぷっくりとしたお尻の肉に挟まれて、短い皺を寄せた流斗の便孔は色素の沈着もなく、薄いピンク色をしている。さっきあんな太くて臭いものを出したという名残はほとんど残っていない、……うん、ほとんど。正確には、そこからはほんの少しだけ、生み出したものの匂いが漂っているように思えた。けれど、目で見る限りでは汚れていない。

 ぼくだって、大人だから、……そういう部分が目視で綺麗に思えても、実際にはそうではない可能性には思い至る。

 それでも、……ぼくはこれだけ真剣にぼくに向き合ってくれる流斗に応えたいと思った。

「んはぁあ……!」

 流斗の細い背中が弓なりに反る。ぼくの舌先で皺門がきゅうんと引き締まった。いやだったのかな、というぼくの一瞬の危惧は、

「お、にぃ、ちゃ……」

 むに、とぼくの口にお尻を押し付けられたことで消し去る。ぼくは流斗の小さなお尻を抱き締めて、存分にその場所の味を愉しむことが許された。擽るように尾骶骨まで辿り、それから指で広げて、思い切り舌先を流斗のアヌスに突っ込んでみる。ほんの少し、……そこから出たものの味がしたような気がしたが、忘れることにする。

「あ、あ、……あっ、ぼくっ、うんちしたとこ、おにぃちゃんっ、なめてるっ……!」

 流斗だって、ぼくのオシッコするところ、舐めるじゃない。

 それどころか、ぼくのオシッコだって「おいしい」と言ってくれるような子だ。

「んぅうん……!」

 切なげな声を上げつつ、それでも快感に陶酔しきるということを流斗は自分に許さないようだった。再び、ぼくのペニスを口に含む。肛門に味わう初めての快感のせいか、その舌さばきはずいぶん拙くなった。けれどそれだけに、流斗がぼくの舌で感じてくれているという事実が、とても嬉しい。そっと右手をおちんちんに這わせれば、その先端からはとろとろのガマン汁がまた湧き出てくるようだ。ぼくの舌を噛み返すようにお尻の孔が蠢くたび、滾々と。

「にゃあ……ン……、おひり、……ひゅごい、ひもちぃよぉ……」

 可愛い可愛い可愛い泣き声を上げつつ、流斗はそれでもぼくのペニスから舌を離そうとしない。ぼくは何度も流斗の引き締まったお尻にキスをし、顔を自分の唾液に汚しながらも、小さな蕾のような流斗の「内側」へ舌を差し入れるという倒錯に溺れているうちに、自分の限界を感じた。

「出るよ」

 と短く告げれば、流斗は最後の気力を振り絞るように、また深々とぼくの怒張を口の中に収めた、舌を絡めつつ、喉の奥に達するのではないかと思うほど。そして、髪を揺らして頭を動かす。

 ぼくは呆気なく、流斗の口の中へ彼の望むものを放出した。

「んぅ……!」

 流斗の身体が震える。ぼくの舌先では一番強い力が蠢いたのを感じた。右の掌で先端を包むように愛撫していたおちんちんが、とびきり愛らしい震えを催し、ぼくの掌の中へと生温かい精液を零す。流斗がお尻とおちんちんへの愛撫はもちろん、ぼくの「味」で射精に至ったのは明らかだった。

 とても、とても嬉しい。

 流斗は「ぷはぁ……」と震えながらぼくから顔を上げ、心配そうに、

「ちゃんと撮れたかなぁ……」

 とカメラに向けて言っている。

「お兄ちゃん、ぼくの、うんちの穴、おいしくなくなかった……?」

 不安そうにぼくに顔を向けて訊く。ぼくがぎこちなく微笑むと、安心したように身を起こす。ぼくの掌を見て、

「お兄ちゃんの手にオモラシしちゃった……」

 と微笑み、その掌に零したものを、自らの口で丁寧に舐め取って行く。濡れたのは掌だけだったのに、指を一本一本、ちゅぷちゅぷと咥えてくれる、そんな顔を見ていると、ぼくはまるで収まらないような気がしてくる。けれど、思い出して目をやれば、才斗が昴星の口を用意よくポケットの中に持っていたらしいティッシュで拭っている。ひとまず、全員が射精したのだ。

「お兄ちゃん」

 流斗はぼくの身体に乗っかって、頬を摺り寄せる。「もっかい、ちゅー」

「……さっき流斗のお尻を舐めたばっかりだよ?」

「でもいいの。それにお兄ちゃん、ぼくのせーし、おいしくない?」

 嬉しいから、止められない。再び唇は重なり、……まるで本当の恋人同士みたいな、濃厚な、濃密な、蜂蜜みたいなキスを、時間を掛けてたっぷりと。

「って、そうじゃない!」

 慌てたように声を上げたのは才斗だった。「こんなことしてる場合じゃないでしょうっ、あんた何流斗といちゃいちゃしてんだ!」

 才斗に言われて、ああ、そうだ。いや、忘れていたわけじゃないんだ、けど、あんまりに流斗が魅力的だったもので。

「でも、誰も来ねーじゃん」

 オモラシした水着を穿きなおして、小川の流れに座り腰を洗って昴星は見上げた。

「もう来ねーのかも知れないぜ? 九月ももうすぐおしまいだし、子供、外で遊ばないって思い込んで此処じゃなくて別ンとこ探しに行ったりてんのかも」

 流斗はぼくの膝の上から降りようとしない。起き上がったぼくの胸に背中を委ねて、

「考えてみると」

 淫らだけど、本質はとても聡い子は思考を巡らせる。「ぼくたちが、っていうんじゃなくて、この街のみんなが、危ないって思ってるのは、その人だって感じてるかもしれないよね。それに気付いたら、……見付かったら怒られちゃうんだし、なかなかこっち来ないようになるのかも」

 確かに、其れも一理ある。

 けれど、……そうだろうか? ぼくはその中学生少年が、自分と同じ嗜好を持つ変態のショタコンだと仮定して考えてみた。

「ひょっとしたら」程度の可能性に止めておくべきことだが、ぼくは言ってみる。「その子が探してるのは、……君たちなのかもしれないね」

 才斗が表情を強張らせて、ぼくを見た。問われる前に、

「ぼくは、もう前のことだけど、流斗の名前も知らない頃に流斗が君たちとフリチンで、あっちの川辺で遊んでるのをアパートの窓から見たことがあってね。すごく、それはもう、魅力的な光景だった」

 いま、ようやく収まった小さなおちんちん、手を伸ばせば触れることが出来る今とは違ってあの頃は、遠くに眺めているだけで胸のときめくようなもの。そうか、この街にはあんな可愛い子がいたんだ……、そう思って、この、東京にありながら「田舎」の趣がある街も悪くないななんて思ったものだ・

「ぼくみたいな人間は、男の子の裸というものを常に求めているものだと思う。君たちが生まれるよりももっと前には、……それこそぼくが子供だった頃には、公園で水遊びするときも平気でパンツ一丁やそれ以上の格好になったものだけど、いまはそんなことも、そうそうない、……親御さんはぼくみたいな人間がこの世に少なからず存在してしまうことを、もう知っているから、警戒されているんだね」

 ぼくよりも、もっと上の世代になれば、ますます解放的だったことだろう。テレビでおちんちんが映ることなんて、珍しくも何ともなかった。「男の子の裸」って、きっととても安かったんだろう、当時は。

「だから、一度男の子の裸を目撃することが出来た場所、……この街、っていうのは、すごく貴重なんだと思うよ、その子にとって」

「つまりあなたは」

 才斗は溜め息を吐いて言う。「そうやってこれまで、あっちこっちで自分の目を付けた、……縄張りじゃないけど、おれたちみたいな男子を盗み見るのに都合のいい場所を持ってるってことですか」

 ぼくは慌てて首を振った。そりゃ、この近くには銭湯もある、其処に行けば、時間帯によってはおちんちん見放題。けれどもそういう場所で自制心を保てる自信はないし、昴星と出会うまでのぼくは、少年愛者としては極めて奥床しい部類に入っていた。あの夏の日の流斗の裸を見るだけで、一週間はそれで幸せになれるほどだった。

「その子が、まだこの街に狙いを付けているとしたらその場合、彼は君たちの誰かの、……多分、流斗だと思うけれど」昴星はオモラシは好きだが露出は勇気がないはずだし、才斗はそんなことしないだろう。となれば、いまだって平気ですっぽんぽんでいる、人に恥ずかしい所を見られるのが幸せでたまらないと言う、流斗である可能性が高い。

 才斗はがっくりと項垂れた。

「だから……、おれは、あんまし外でやるんじゃないって……」

 ぼくの語った予想は、昴星のことも少なからず緊張させたようだ。「おれ、外でオモラシしたこと、何度かある……。もちろんまわりに人いねーときだけど。それに、なあ、おまえと外でセックスしたこともあるよな……? おれ、女装して」

 それはとても魅力的な記憶の話だけれど、一先ずいまは脇に置こう。

「もしもまたその子がこの先、この街に現れたとすれば、その子はきっと流斗のことを知って、探してる可能性があるようにぼくは思う。……けど、判らないのは」

 流斗がぼくの言葉を引き取った。「そのひとが、『仕事を手伝ってくれる子を探している』って言ってるってことだよね?」

 うん、とぼくは頷く。その少年は「仕事」なんて単語を使った。その少年の言う「仕事」とは一体何だろうか。そして誰かに手伝わせるとして、……一体何を手伝わせるつもりなのだろう?

「あれじゃね? 流を探す『仕事』かも」

「うーん……」

 昴星の言うとおり、それも考えられると言えば考えられるのだけど。

 でも、ちょっと引っ掛かる言い回しだ。中学生、一年生か二年生か三年生か判らない、間を取って「二年生」ってことにすれば、その言い回しそのものが中二病っぽい気がするんだけど。

 ぼくは少し考えて、三人に言ってみた。

「場所を変えて、もう少し待ってみようか。その中学生がこの辺の子じゃないとすると、此処は判りにく過ぎるのかもしれない。もう少し開けた場所でおびき出すんだ。但し」昴星と才斗を見て、「流斗一人にして」

「そいつに流斗が変ないたずらされたら」

 と声を上げかけた才斗を制する。「ぼくらは、隠れていよう。流斗、一人で、えっちなことしないで遊ぶこと、出来る?」

「うん、出来るよー。えっちなことばっかりしてるわけじゃないもん」

「じゃあ……、ここだと目立たないから、もう少し目立つ所に行こうか」

 昴星がやれやれと流れから腰を上げる。流斗もぼくの膝から立ち上がった。

「でも、何処へ……?」

 才斗の問いに、少し考えて、「これまで彼が現れたのは、城址公園や軍山神社……。そうだね、そのどちらか」

「軍山神社はこないだ奴が出たばっかりだよ」

「寧ろ、そういうところの方が狙い目かも知れない。その『彼』が、流斗を見付け出すことに執念を燃やすなら、一度行ったところには必ずやって来るんじゃないのかな」

 ぼくは昴星と流斗に服を着せた。じっとぼくを見詰めている才斗に、「なんだい?」と訊いたら、「いえ」と低い声で呟く。

「相手が変態だから、あなたみたいな変態は気持ちが判るのかなって」

 残念ながら、其れは事実と言ってしまっていいような気がする。普通の嗜好の人間なら、微笑ましいと思いこそすれ立ち止まってまじまじと観察するようなことなど決して無い、男の子の裸に特別な価値を見出すような同類だから、ぼくは嫌でもその彼の気持ちが判ってしまうのだ。

 


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