いっぱい重ねて行ったってさ


 

 ぼくの住んでいる部屋は六畳と四畳半に二間に台所、それから一応別々のトイレとバス、ぼくがすぐ其処の川沿いの道を、ランドセル背負って歩いている頃から此処に建っていたこのアパートだけど、知らないうちに全面的なリフォームを施されたのだろう。ぼくと同い年とは思えないくらい、見た目も中身も古臭さを感じさせない。

 ぼくが大学卒業と同時にこの街に帰って来たのが三年前で、最初の一年は家族と一緒に実家で暮らしていたが、まだ現役の父親が仕事の都合で海外へ越すこととなった。ぼくはもう職に就いていたから、東京を離れるわけには行かず、この街にも愛着が在ったから実家から徒歩圏内のこのアパートに平行移動したのだ。小ぎれいだが、所々に男の一人暮らし、彼女なし、作る気もなし、さほど金もなし、そして恐らく権利もなし、そういった状況が垣間見えるような部屋、早起きをしたくせに、ぼくは七時前に此処に戻ってきてから、全身全霊を傾けて掃除をして、十時過ぎにはくたくたになって六畳間の中央でしばらく昏倒していた。なにせ、夕べから色々在り過ぎた。思っていたよりも疲れていたのかもしれない。

 鮒原昴星という、……あの少年。

 失禁が趣味、露出も好き、女装だって平気でこなす。ぼくが少年愛者であると知っても嫌がるどころか、却って調子付いたようにぼくの欲を叶えた。

 昴星は夢の中にまで出てきて、色々として見せるのだ。というか、今朝のあの状況こそが夢で、ぼくはそもそも早起きなんかしていなかったんじゃないか、そんな気になりかけた夢の中、「んーじゃーね、さよなら、永遠に」昴星がぼくに背を向けて遠ざかっていく、追いかけようとしても足は雲を踏むようにまるで前に進まず。

 そんな夢を打ち消したのは、呼び鈴の鳴る音だった。

「は」

 飛び起きて、携帯電話を開いて見る。午前十一時五十九分、いや、いま午後十二時丁度に変わった。

 宅配便かも知れないじゃないか、或いは大家かも。そう思いつつも、ぼくは大慌てで玄関に向かい、覗き穴を確かめもせずにドアを開けた。

「……あれ?」

 立っていたのは、愛らしい相貌の少女だ。じっと、ぼくを見上げて、薄く開けた唇、乏しい表情で見上げる額はいかにも賢そうに見える。前髪は垂らして、後ろをクリップで留め、ピンク色のTシャツにチェックのスカート。背中にはリュックを背負っている。

 断っておく。ぼくはショタコンであってロリコンではない。といって、決してゲイというわけではないけれども、少女に欲情した経験はいままでのところ一度か二度しかない。

「ええと、……どちらさま?」

 基本的に、女の子は得意じゃない。その上、自分が精神的にはこんなところで自由にしていてはいけないレヴェルの変態であるという自覚があるから、ぼくの声は緊張した。

「……くふっ……」

 少女が、そんな声を上げて噴き出す。

「なんだよ、何で気付かねーの?」

 極端に雑な言葉遣いを選んだ声で、ぼくはようやくのことで気付く。「こ……、昴星……?」

「ひひ、おにーさん喜ぶと思って、女子のカッコで来てやったのにさ」

 呆気に取られるぼくの横をするりと抜けて「おじゃましまーす」と昴星は足だけで靴を脱ぐ。

 髪を留め、少女の格好をして、夕べと、今朝と、全く雰囲気が違う。

 ……ああ、それでも確かに昴星だ、立ち居振る舞いは完全に男子のそれだ。ドアを閉め、鍵を掛け、念のためにドア・チェーンも繋いだぼくを振り返り、

「今朝、時間無くてこのカッコ出来なかったじゃん? だから着替えてきた」

 可愛い? と昴星は首を傾げて訊く。

「ほんとに……、女の子が来たのかと思った」

「なんで? 知り合いの女子とかいんの?」

「いや……、いないけど」

 興味深そうに昴星は六畳間をぐるりと見回して、「おにーさん、彼女いないんだね」と納得したように言った。

「いないよ」

「男が好きなんだな」

「違う、……その、男が好きなんじゃなくて……」

「おれみてーな、子供が好きなんだ。やっぱり変態だな」

 「オモラシが趣味」って方がずっと変態だと思ったが、ぼくは黙っていた。そういう子が好きなのだからお相子だ。

「……そういえば……、流斗、と言ったっけ? もう一人、来るって言ってたのに」

「あー、……うん、流、来らんなくなっちゃったんだ。あいつも風邪ひいたんだって。あいつさ、そんな丈夫じゃねーのにすっぽんぽんで表出たりするから、まあ自業自得だよな」

「……すっぽんぽんで表に……」

 見る? と昴星はリュックの中から携帯電話を引っ張り出して、開いてみせる。動画である。

 動画の背景がどこなのか、ぼくにはすぐに判った。これは、ぼくの出身校であり昴星とサイトが通う小学校の校庭の隅っこにある物置の裏だ。昴星とは違う、痩せた幼い身体、小さな画面では顔までは伺えないが、……遠くから子供たちの遊ぶ声が聴こえてくる。土曜日の、校庭開放の折にこっそりと撮られたものなのだと気付いて、ぼくはひやりとする。

 だって、画面の中の流斗は裸なのだ。

 そして、昴星以上に未発達な裸身の下腹部で、到底そんな機能が備わっているとは思えない「泌尿器」を、くっきりと勃起させているのだ。

「ひひ、ここまでー」

 昴星はぱちんと携帯電話を閉じる。これから流斗が何をするのか、一体、どうなってしまうのか、……怖いようないや嘘だすごく見たい。

「お」

 しかし、フィクショナルなムービーよりも現実味のある圧力が、ぼくの腰に纏わり就いた。

「流いねーのに流でちんこ硬くしてもしょうがねーだろ? おれ、ちゃんと準備してきたんだからなー」

 昴星は右手をぼくの腰に巻きつけて、左手はスカートの上から自分の股間をぎゅっと握っている。

「……その、準備っていうのは、つまり」

「決まってんじゃん、オモラシ」

 昴星は当たり前のことのように言う。「おれ、水いっぱい飲んだら飲んだだけオシッコ出来るもん。いまだってちょっと緩めたら漏れちゃいそうなくらいだし」

「そんなに……、するつもり、なの?」

 昴星は床に放ったリュックサックを指差して、「あんなか、いっぱい着替え入ってる。パンツも、水着も、おにーさんが見たいと思ってさ。あ、もちろん今朝みたくさ、ちんこ触って欲しかったら触ってやるし、おれのも触りたかったらどうぞだけど、でも、やっぱりいっぱい、オモラシしたい」

 おにーさんも見たいだろ?

 そう問われれば、やっぱり、頷くしかない。少年の失禁するシーンに遭遇する可能性が一体どれほどあるのかぼくには判らなかったが、少なくとも一日に二度も三度も見ることがあるとは到底思えない。ならば、この悪魔のような天使のような昴星という少年で一生分を見てしまったっていいじゃないか、昴星もそれで嬉しいなら、誰も困らないだろう。

 いや、

「ちょっと、ちょっと待って。ここでじゃなくて、……トイレか、お風呂場にしてくれない?」

 ぼくの要求に「ええ……」と昴星は声を上げる。一瞬、ぶるりと震えた、「も、もう出てるの?」昴星は、ぴらりとスカートを捲って股間を見せる。

 昴星は、ピンク色の、つまり少女の下着を穿いているのだった。

「止めた、けど、そんなもたないよ」

 そのピンク色の下着の前には、ぽつりと新鮮な染みが浮かんでいる。ぼくは慌てて昴星を抱き上げて、冷たい浴室の床に降ろした。その僅かな間にも昴星のオシッコは、じわじわと下着に染みを広げていくようだ。

「ひひ、間に合った」

 間に合ってない。昴星の右足の内側には既に一筋伝っている。

 昴星は鏡に向かってスカートを捲り上げて、ほっと息を吐きながら、失禁をする自分の姿に見とれているようだった。吸水力において男子のブリーフに劣る少女の下着の股間はあっという間に浸食され、ぼくの見詰めるお尻のほうまでじわじわと染みが広がってくる。寒々しい浴室の床に広がる水溜りからは湯気が立ち、独特の、……というよりは、もうはっきり「臭い」と言ってしまっていいだろう、オシッコの匂いが立ち上る。

「すっげー……、オシッコ、すっげーあったけー」

 恍惚の声を、昴星は漏らす。自分で作った水溜りの上に立ち、鏡越しに見える性器は依然放尿し続けながら、当然のようにその勃起している。何と言うか、浅ましくて愚かしくて、ぼくがこの立場からフォローを入れる必要も筋合いもないのは判っているけれど、救いもない。

 しかし昴星は楽しそうだ。心底から楽しそうだ。ぴちゃ、と足元で音を立てて振り向いたとき、まだスカートを捲ったままだった。

「才斗がね、このカッコ好きって言ってた」

「このかっこ?」

「こうやって、スカートめくってさ、オモラシしたパンツ、見せんの好きなんだって」

 なるほど。

 恐らく才斗という、昴星と完璧に合致する少年の思う所を、ぼくはきちんと把握している。少女の姿をした昴星なのに、こんな風にスカートを捲れば、その、おちんちんがちゃんとある。そしてそれを隠している下着は、少女のものである。スカートの中のパラドックスが、きっと才斗を惑わせるのだ。

「また……、オモラシして、そんなに大きくして」

「ひひ……、だってさ、気持ちィんだもん……。おにーさんだっておれのオモラシするとこ見んの、好きだろ?」

「それはそうだよ、……でも、朝だって二回射精してたのに……」

「おれ、若いもん」

 そんな小憎らしい事を昴星は言って、ひひ、と笑う。

「……そんなこと言ったら、ぼくだって……」

「じゃあ、それでいいじゃん。おれ来んの、楽しみにしてたんだろー?」

 何から何まで昴星の言うとおりだった。こんな小さな少年に言い包められている。

「なー、あのさ、あとでちゃんとおにーさんのちんこも気持ちよくしてあげるからさ」

 昴星は自分で作った水溜りの上に、四つん這いになった。肩越しに振り返って、「おれの、いちばん好きなことしてくれる?」びしょ濡れのパンツの尻をこちらに向けて言う。

「……いちばん、好きなこと?」

「うん……、いっつもね、オモラシしたあと、おれ、パンツのお尻とか、自分でさ、ビショビショなの感じながら、ちんこ弄るんだけどさ、……いっつも自分でやってるけど、今日はおにーさんに、してほしいなって……」

 汚れた下着を寧ろ誇示するように此方に向けた昴星の請う姿は、異様なほどぼくを興奮させた。まるで「其処」で欲しがっているように見える。

「わかった、いいよ」

「ほんと? ひひ……、マジで嬉しい」

 昴星は、「触って、おれの、パンツの、お尻。でもってさ、……やじゃなかったら、ちんこも触って欲しい。パンツの上からさ、おれが、オシッコ、パンツのなかでしちゃったんだって、教えるみたいに」

 昴星が、恐らく無意識なのだろうけど、お尻をふりふりと揺らしながら強請る。

 じっとりと濡れたパンツの股下に、ぼくは左手を当てる。

 そして右手は、腰から周り込んで、薄布にくっきり浮かび上がったペニスの輪郭に。

「はぁ……あン……!」

 変声期前、元々高いその声を引き攣らせ、危ういほど揺らして昴星が鳴いた。

「すっげー……、すっげえ、……自分の手じゃないと……、すっげぇ、ドキドキする……!」

「こんな、恥ずかしいのが……?」

「ん、恥ずかしい……、けどっ……」

 寧ろ、恥ずかしいのがいいのかもしれない。

 オモラシという行為を当たり前ようにしてみせるけれど、本質的には当然、恥ずかしすぎる行為のはずだ。それに昴星は今朝、「二年生のとき教室でオモラシした」と言っていたし、ときどきオネショするということも教えてくれた。それを快感に繋げることこそ昴星なりの克服の方法だったのかもしれない。

 考えてみれば、露出にしたってそうだ。誰かに裸、男子の場合はおちんちんを見られるなんて、相当に堪えるはずだ。

 「恥ずかしい=気持ちいい」という公式が昴星の中で成立しているのだとしたら、其処を突付いてやることこそ昴星の望みであると考えることも可能だ。

「本当にもう、……呆れるくらいに変態だね」

「う、あ……っ」

 ぐい、と昴星の上体を起こす。「見て、昴星」

 ゴムのウエスト、元が年下の少女のもの、つまり小さいサイズのパンツはくっきりと昴星のほんのりと膨らんだお腹に跡を付けている。その中ではパンツを濡らしたおちんちんが、ぷっくりとした皮の先を閉じて勃起している。

「鏡、見てごらん」

 昴星はおずおずと鏡を見詰める。「恥ずかしいね、女の子の格好してオモラシしちゃったんだ。オシッコでパンツびしょびしょにして、それなのにこんなにおちんちん大きくしてる。誰が見たって変態だよ」

「あ……、あう……」

 スカートを捲り上げたまま、昴星は鏡に映る自分の姿を見ながら、少女下着の中でおちんちんを震わせる。

「足元も見て。……昴星のオシッコだよ。おちんちんから出て、可愛いパンツ汚して、こんなに臭い水溜り作っちゃったんだ、……もう六年生なのに、トイレじゃない所でオシッコしちゃうなんて、悪い子」

 我ながら色んな意味で「酷い」と思える言葉は、想像以上に昴星の中で響くようだ。小さな耳に囁くたび、昴星の小さな身体にはピクピクと震えが走り、口元からはア行とハ行の混じった声とも意気ともつかぬものが途切れ途切れに零れ落ちる。

 どこか悪魔的で、口にする言葉は攻撃的、何となくサディスティックにすら感じられる。

 でも、……根拠があるわけじゃない、まだ出会って二十四時間経過していない相手のことを、ぼくがどれだけ判るかは覚束ないのだけれど、ひょっとして、と思うのは、この子は実は一級品のマゾヒストなのではなのか、ということで。

 ぼくは、一思いにパンツの食い込む尻を叩いた。ぺちん、と音が響く。それほど強くしたつもりはないのに、響いた音にぼくの方が驚いたほどだ。それでも、「しかも、人んちでね。昴星、人んちでオモラシして、おちんちん大きくしてるんだ」

「んう、う、だ、って……」

 まさかぼくが本当に怒っているとでも思っているのだろうか。まあ、どちらでもいいか、昴星がそれで気持ちよくなれるなら、さほどの問題もないように思った。ぼくは昴星に請われた通り、右手は下着の前に、左手は後ろに当てる。「お尻のほうまでびちょびちょだよ」と教えてやると、ぼくの右手の中で明らかに性器は弾んだ。小振りながらむっちりとした尻肉に食い込んだゴムを一度ぱちんと弾いて、それから、布の上からお尻の穴の窪みに指先を当てる。

「ほら、こんなところまでびしょ濡れだよ」

「ひ……!」

 昴星の肛門がぎゅうと窄まるのと同時に、またペニスが弾む。自分の失禁を思い知らされて感じているのか、それとも単に肛門を刺激された驚きだけなのか、判然としない。……ひょっとしたら、という思いで、

「何、昴星はこんなところされて気持ちいいの?」

 薄布を更に押し込む。一瞬緩んだ力に乗じて、吸い込まれるように布が少しだけ昴星の中に這入ったような感触が在った。

「や、ぁ……っ、パンツっ、パンツ、汚れちゃうよぉ……!」

「もうオシッコで汚れてるのに、今更ちょっとくらい染みつけたって変わらないよ。それともお尻が綺麗だったら良いとでも思ってる?」

 別にそんなものに執着しているつもりもないのだけれど、昴星の泣きそうな顔が何だかぼくにはとても嬉しかった。初めてこの少年に対して優位な立場に立っていることを意識して、すぐに「何を十歳以上年下の子供に大人気ないことを考えているのか」と情けなくなった。いま情けなさを味わわせてやるべきは、昴星だ。

「あんまり押し込んだら、可愛いパンツが破れちゃうね」

 ぼくは指を引く。指だけするんと抜けて、昴星の穿くパンツはその内側にめりこんでいるように見えた。ぼくはそのまま、今度は昴星の足の間へと掌を当てた。

「ひ、んっ……っ、ひっ……」

 すすり泣きのような声が、さすがに痛々しく感じられるようになってきた。そろそろ心身ともに限界なのかもしれない。

「もう、オモラシしちゃダメだよ? 昴星」

 小さな耳に囁きながら、右手で包んだペニスを擽るように撫ぜ、左手は濡れた下着の冷たさを存分に味わわせるように股下に押し当てる。

「こんな風に、女の子の格好してオモラシするなんて、変態のすることなんだから……、だからもう、自分の出したものでパンツを汚しちゃ、ダメだよ……?」

「ああう……、う、うぅ……」

 声は濡れたその唇から唾液と共に滴り落ちる。昴星にとってどうやら一番気持ちいいらしい行為に、ぼくなりの解釈と大根の演技を加えて、昴星の顔は真ッ赤、そして恐らく頭の中は真ッ白。オモラシに伴う屈辱が呼び寄せるより一層の快楽に、もう射精までほとんど間もないことはぼくの指に伝わって来ていた。

 汚しちゃダメだよ、と言ってやりながら、汚させようとしている。でも、エロ小説だとこういうこと、するでしょう?

「あ、ひゃっ、ら、めっ、せーしっ……!」

 びゅく、と布に行き詰まる粘液の感触がぼくの指に届いた。何度も何度も震えて昴星は、執拗に愛らしい少女のパンツを汚す。飽き足るということを知らないのかも知れない。下着には、鏡越しにもはっきりと精液が滲み出ていて、それは今朝何度か射精した後だというのに驚くほど濃く、薄布に濾されてもなおゼラチンの質感があった。

「……昴星?」

 昴星はスカートを捲ったままぺちゃんと音を立てて自分の作った水溜りの上に尻を落とした。

「あ……あ……!」

 ぼくを、媚びるような目で見上げる。その水溜りの冷たさが、下半身から立ち込める臭いが、益々昴星を盛らせるのかもしれない。しゅううと音がして目をやれば、冷え切っていたはずの水溜りが急激に広がりながら、再び湯気を立ち込めさせる。

「……気持ちいい? 昴星」

「あ……ん、ん、すっげぇ……、オモラシ……、オモラシすんの、すっげぇ、きもちぃ……」

「そっか、……昴星が気持ちよくなれたなら、よかった」

 この変態の少年に、今日はこれからとことん付き合うのだ。もちろん昴星を責めている間からぼくは前が窮屈で仕方がない。昴星を幸せにする余禄をぼくが手にすることには、十分な妥当性があるんじゃないかと思う。だってこんな変態少年を喜ばせるためには、才斗や流斗のように同じ感覚を共有できる存在でなければいけない。とりあえずぼくには、全面的にどっぷりこの世界に浸かるわけにはいかないにしろ、甘い、というよりはしょっぱい汁を分けてもらうくらいの権利はありそうなものだ。

「ひ、ひひひ……、オシッコ、いっぱい。でもまだ、いっぱい出るよ」

「うん、そのためにお水一杯飲んできたんだもんね? でも、一旦スカートは脱ごうよ」

 手を貸して昴星を立ち上がらせて、スカート、それからシャツも脱がせる。スカートの裾が少し濡れてしまったが、シャツは無傷、靴下が無事だとは元から思っていない。

「あ、そうだ……」

「……ん?」

 ようやく少し勃起が収まって、呼吸も整った昴星のパンツのゴムに手を当てて、「……いい?」と訊いた。

「ん?」

「その……、パンツを、脱がせてもいい?」

「あー……、うん、お尻、大丈夫かおれも見たい」

 ぐりぐり、しちゃったもんな……、ひょっとしたら付いてるかも。

「あ、平気だ」

 拍子抜けしたように昴星は太腿まで降ろした自分の下着を引っ張って覗き込んで言う。うん、確かに其処は、汚れてないと言えばもちろん嘘だ、オシッコまみれだ、だけど、違う種類の汚れが付着していることはなかった。

「おにーさん、変態だなー」

 昴星はおちんちんを見せたまま、ぼくを詰る。見せたまま、というか、見せ付けている。

「あんな風にさ、いろんなこと言うの、変態オヤジみてー」

「昴星は『変態オヤジ』にさっきみたいなこと言われたことがあるの?」

「ないけどさ」

「……ひょっとして、嫌だった?」

「んーん。なんか、すっげーエロくて、ドキドキして、気持ちよかった。またいつかやってよ」

 昴星は「今日」の「次」を易々と口にして、「いちお、パンツ脱ぐね」と脱ぎづらそうに足を抜き、それから足だけで靴下を脱いだ。

 パンツを開いて、顔の前に掲げて見せる。

「ひひ、おれのオモラシパンツ、オシッコいっぱい、アンド、せーし」

「……うん」

「興奮する?」

「……うん」

「ひひ。おにーさんさ、今朝おれがあげたパンツでオナニーしたの?」

 した、既に、二回ほどした。まだ昴星のオシッコの臭いがはっきりと感じられるような下着に埋もれて、窒息しそうなくらいに吸い込んで、ぼくはオナニーをしたのだ。人間としてどうなのかという問いは、そのパンツの黄ばみの前でははっきりと無力だった。

「いっつも思うんだけどさ、オシッコってやっぱりくせーよな」

「それは……、うん、臭いよ」

 いま、絞ればまた幾らだって滴るくらいにぐっしょり濡れた昴星のブリーフからは、それはもう凄い臭いがしている。こんなものが部屋の中央にあったら部屋中が昴星のオシッコの臭いになってしまうことだろう。そして乾いたそれからも、また質の異なる臭いがじわじわと発散されて居るのだ。あまり目に付く所に放置するわけにも行かず、ぼくは完全に乾き切っていることを確かめてからそれを引き出しの中にしまった。

「くせーのに、ちんこ硬くなんの?」

 いや、寧ろ「臭いから」硬くなるのだろう。

 どれだけ変態であれ、昴星が、それこそ女装に耐え得るくらいに愛らしい見た目をしていることは誰にも否定出来ないだろう。そんな少年の身体から、はっきり「汚い」と認識できる液体が溢れ、刺激のある臭いを発するという事実が恐らくぼくの心の琴線に触れる。

 更に付け加えるとしたら、それは確かに「臭い」のだけど、決して「嫌な匂い」ではないのだということだ。

「じゃー、おにーさんにこのパンツもあげる」

 昴星はびよんと少女下着を引っ張って、笑顔で言った。「おれのオシッコとせーしのいっぱい付いたパンツだぞ。嬉しいだろ」

「う、う、……うん。でも、その、そんなにぼくにパンツをくれちゃって、いいの? それだって、大事なものなんじゃないの?」

「んーん、パンツ、いくらでも持ってるし、女子のパンツもまだ何枚かあるから、一枚くらいあげても平気。それにさ、おにーさん気持ちよくしてくれたから、お礼したいしさ。おにーさんがおれのパンツで気持ちよくなれんの、嬉しいじゃん?」

 昴星の、「ひひひ」という癖のある笑い方が、少年の定義不可能な行動と相俟ってぼくの耳と目に悪魔的に映る。しかし、この少年の本質はどうやらそんなところにはないようだ。もっとこう、極端なくらいに無邪気、と同時に、やっぱりかなり頭の回転はいいように思える。

 下着を浴槽の蓋の上に広げて置いて、

「そういえばさ、おにーさん、撮んなくていいの?」

 昴星は思いだしたように訊いた。

「……取んなくて? なにを?」

「動画。おれのオモラシするとことか、撮ってくれていいんだぜ? おれ、撮られんの好きだし」

「撮られるの……、が、好き?」

「ん。ちょっぴり恥ずかしくってさ、でも、興奮する」

 そう言われれば、撮らないわけには行かないだろう。そもそもぼくだって撮りたい。どれほど罪深いコレクションになろうとも、それがぼくの宝物になるのは疑いようもない。

 大慌てで部屋に戻ってぼくは携帯電話を掴んだ。小便臭い浴室で、昴星は浴槽の縁に座って、ぼくがカメラを構えるとピースサインを送る。足は広げたままで座り、小さなおちんちんを隠そうともしない。

「ひひ、おにーさん、おれのちんこめっちゃ撮ってる」

 見せびらかすように片足を上げ、しわしわの袋の裏まで晒し、それから皮を引っ張ったり剥いたりして見せる。其処から漂う臭いまでは収録出来ないが、濡れたその周囲を見るだけで、ぼくはいつでもこの臭いを思い出せるような気がした。

 浴槽の縁から降りた昴星はくるりと背を向けて、「おれのー、お尻の穴。きれーだろ、パンツにうんこつけたりしないんだぜー」と、パンツのゴムの跡の付いた尻肉を自ら引き広げて肛門を晒した。少年の、……というか、誰かの肛門なんて見るのは初めてだ。思わず息を呑んでカメラを寄せると、昴星は悪戯っぽく其処をヒクヒク震わせて見せた。

 微かに照れ臭そうに振り返って、「なー、あのさー、おれのうんこするとこ、撮る?」

「はっ?」

 思わずそんな声が出た。「うんこ?」

「ダメ?」

 ひひひ、とはにかんだ笑みは可愛い。しかし、口にしたのは「うんこ」である。さっきまでぼくの身体の中にあったものなのに出てきた途端に嫌われるあれである。

「おれなー、前に、うんこしながら才斗のちんこしゃぶったことあんだぜ。そんときさ、うんこしてる尻の穴とか撮られてめっちゃどきどきしてさ、興奮したから、おにーさんにも撮って欲しいなーって」

 とんでもないことを言い出す。いや、見てる前でオモラシして勃起する時点でとんでもないのだが、輪をかけてとんでもない。

 いかなショタコンのぼくだって、其処には二の足を踏む。オシッコは、まあ液体だからいい、でもうんこは固体だ。臭いも全く違う、誰もが嗅いだことのあるあの臭いは精神的にダメージを与える感じがする。

「……昴星は、したいの? その、いま」

「ん。ここ来る前に朝ごはん食べて、それがそろそろ出る」

 昴星の肛門は、愛らしい。

 ショタコンを「イコール同性愛者」と考えれば、其処は性器でもある。さすがにこれだけ小さい身体をした相手に挿入するなんてそれはもう鬼畜の所業だ。というか、そもそもそういうことまで考えたことがぼくはない。それでもやっぱり、見ているだけで生唾が出るし、このままオナニーしちゃいたいくらいの迫力がある。

 しかし、ここからその、物体が出てくるというのは。

 いやしかし、人生が八十年だとして、残りの六十年足らずでこんなに可愛い少年がうんこするとこ見せてくれる機会なんてあるだろうか。

 いや、ない。ないない、ない、絶対ない、あるわけない。

 うんこは汚い、臭い、嫌なものだ、けど、やっぱりこれは千載一遇の機会なのは確かだ。

「わ、わかった……。していいよ」

「マジで? ひひ、ありがと」

 嬉しそうに昴星はぼくの目の前にしゃがみ込む。「ちょ、ちょっと待って! ここで?」

「ん。だって、ほら」

 排便を見せる、ということに興奮を覚えているのか、昴星のおちんちんは再び勃起している。「うんこしたらオシッコも出ちゃうし、こんなちんこじゃオシッコばら撒いちゃうよ?」

「そ、それは……」

「おにーさん、おれのオシッコするとこも撮ってくれんだろ?」

「う、うん……」

「トイレびちょびちょにしちゃうのはやばいだろ?」

「う、ん……」

「これは?」

 洗面器を引き寄せて、自分の尻の下に置く。「こんなか、しちゃダメ?」

 それを便器代わりに使われたら、ぼくは今夜から一体何でお湯を汲めばいいのだ!

 いや、……冷静に考えよう。洗面器なんて丘の上のホームセンターで安く売っているだろう。少年のうんこなんて幾ら出したって買えない。いや、ぼくは百円でも買わないけど。

「わ、かった……、うん、いいよ」

「ひひ、サンキュ。じゃー、これからうんこするねー」

 昴星はカメラ目線でまたピースサインを送る。無邪気な笑顔や仕草と、やってることの二律背反が凄い。

「そこいると、オシッコひっかかっちゃうよ」

「ああ……、うん」

 確かに昴星の「砲身」は真っ直ぐぼくに向いている。そのままされたらジーンズをオシッコまみれにされてしまうだろう。慌ててぼくは二歩下がった。もちろんさほど広くない浴室であるから、ぼくの背中は冷たいタイルの壁に当たる。浴室の床に便器代わりの洗面器を置いてしゃがみ込んだ昴星の全身が画面に映りこむ。

「うんこ出るとこ撮らなくて平気?」

「えーと……」

「それだと、オシッコしか撮れないだろ? んーと」

 この不必要な難儀さは、「うんこするとこなんて撮るな」という天啓なのかも知れない。だが昴星は、「いいこと考えた!」と恐らくはろくでもない事を考え付く。おちんちんを弾ませて立ち上がると、洗面器を浴室の中に入れる。そして浴室の縁に、大きく足を開いて跨った。前の住民が設置したのかそれとも全部屋に付いているのか判らないが、壁には手すりが在って、其れを握ればバランスは十分に取れる。

「ひひ……、これだったらさ、どっちも撮れるし、おにーさんにオシッコもかかんないぜ」

 銀のバスタブの底に置かれた洗面器から昴星のお尻までは、少なく見積もっても八十センチほどの隔たりがある。上手く真下に落としてくれないと困るぞ、と思っていたら、昴星は何の躊躇いもなくいきみ始めた。と、小さな放屁の音が響く。

 昴星は恥ずかしそうに頬を赤らめ、「聴こえた?」と訊く。ぼくは、ただ頷く。

「ん……、うんこ、出る……、おにーさん、お尻、撮って」

 請われるまま、背中の方へ周り込んで昴星の肛門にカメラを向けた。

 先程引き締まっていた窄まりが、むくりと内側から押されるように膨らみ、ゆっくりと焦げ茶色の塊がその頭部を出しかけた。と思ったら、すぐに引っ込む。二度ほどそんな行程を繰り返してから、遂にそれが姿を現した。昴星の肛門を一杯に押し広げながら、驚くほど太い便がまるで尻尾のように昴星のお尻から垂れ下がる。

「あ……、オシッコ、オシッコも出るよ」

 言われて慌てて、今度は前にカメラを向ける。言葉の通り、勃起した昴星のおちんちんからオシッコが噴き出した。その勢いといい角度といい、まるで噴水である。びちゃびちゃと音を立てて壁のタイルにひっかかる。……トイレでやられていたら、ドアまで届くほどの勢いだ。

「すっげぇ、オシッコ、すっげー、小便小僧みてー」

 小便小僧が勃起しているわけがないだろう。虹のような放物線が鎮まり、恐る恐る浴槽の底を見れば、まあ、うん、「健康的な」と言ってあげていいんだろう、そういう状態の便が、転がっている。

 何というか、いずれにしてもすごい臭いだ。

「……ひひ、ねー、おにーさん、こっちから撮ってー」

 正面に向かって、「この辺からー」と言われたとおり、浴室の内側に手を入れて、煽るようにして昴星を撮る。くるりとディスプレイだけを昴星に向けると、「わあ……、全部、撮られてら……」と恍惚の声を上げた。

「すごい……、臭いだよ、昴星の……。でもって、すごい太くて、固そう……」

「んひひ……、すげーだろ……、でも、うんこ、まだ出るよぉ……?」

 言葉の通り、一つ終わったと思ったらまた次の物が顔を出す。

「おれねー、こうゆう、立派なうんこできるように、お腹、大事にしてんだよー」

「立派な……」

 うん、まあ、確かにそう言っていいだろう。この少年には色々と問題がありすぎるが、少なくともその腸内環境に関しては非常に優秀であると言っていい。もっとも、わざわざ誉めるようなことかと問われればそれは微妙だ。そういう立派で健康的なものは、トイレの便器でするべきなのだから。

 破裂音に遅れて、洗面器にまた塊が落ちる。大きく拡張された肛門が、ひく、ひく、蠢いて居る様を、ぼくは性的とは捉えられない。ただただ、呆れるような、感心するような気持ちでいっぱい。しかしジーンズの中で自分自身が勃起している事を否定する気もない。オシッコ以上に理性の門で引ッ掛かる臭いに煽られることはないのだが、襲うに耐えるほどの美少年がぼくの目の前で排便する様を晒しているという状況が、ぼくの心の琴線に触れるのだろう。

「ほんとに……、変態だよ、昴星は」

 ぼくの言葉に、「んひひ」と彼は笑って、自分のペニスをじっと見詰める。

「おれがー、変態だからー、おにーさん、おれのちんこも観たい放題じゃん」

 それは、ど真ん中を突くほどの真実だ。

「まだ、おれのちんこ全然触んないねー? 今朝は、いっぱい触ったりしゃぶったりしてたじゃん……」

 陰茎と肛門の動きは、当然ながら繋がっている。昴星がまた肛門から覗かせた塊を、中途で切ろうと肛門をひくつかせるたびに、昴星のおちんちんがピクンピクンと壊れた秒針みたいに震える。

「オシッコとせーし、いっぱいついた、おれのちんこだよー」

 それの味を、ぼくはもう知っている。潮ッぱくて、ほんの少し苦い、それでいながら、どこかで甘ささえも今朝のぼくは見つけていた。髪に降る少年の淫らそのものといった声も、そもそも舌に感じる鼓動からして、美味なるものだ。勃起しても、見事なまでにすっぽり被って余る包茎が、伝ったオシッコでてらてら光ってぼくを誘っているようにさえ思われた。

 それでも躊躇うぼくに、昴星がトドメを刺す。

「なー……、ちんこ、しゃぶってよぉ……、おれね、こうやって……、うんこしてるとこ見られてんの、すげー興奮すんだ……。才斗の前でね、うんこしながらオナニーして、すっげー気持ちよかったから、……おれ、おにーさんにちんこ、気持ちよくして欲しい」

 もう、堪えることは出来なかった。ぼくは昴星のおちんちんにしゃぶり付く。……オシッコの、とんでもない味と匂い。

 しかし、それがいい匂いだ、気が狂うほど、美味しい。

 そう思ってしまったぼくを悦ばせるためにか、昴星の下腹部にぐっと力が篭もった。僅かだが、新しい尿がぼくの舌の上に溢れた。

「ぃンっ、いくっ、いくっ、おれ、出るっ!」

 それが最後に搾り出された尿だったことを、昴星のペニスが教える。瑞々しい鼓動と共にぼくの口の中へ、尿と比べてずっと重たい質感の精液が零された。その拍子に昴星の肛門から長く垂れ下がっていた便が洗面器に重たく落下する。ぼくはしばらく昴星のペニスの震えを味わっていたが、全てを飲み込んでそっと口を外す。昴星は今にも浴槽の縁から落ちそうな震えを身に走らせて、弛緩した肛門から残り僅かとなったらしい便を、再び落として、「ひひ……」と笑って見せた。

「……すっげー……、すっげえ、気持ちよかった……」

 昴星は身を支えながら足元を見る。「おー……、うんこも一杯出てる」

「すっきりした……?」

「うん、オシッコもうんこもせーしも全部出して、すっきりした。……おにーさん、撮らないの?」

「う、ん……、と、その、まずお尻を綺麗にしなきゃ。それから、その……、それも」

「あ、そっか。おにーさん風呂んとき使うんだもんな」

 ちょっと足痺れた、と言いながら、昴星は浴槽の中に降りると、両手で洗面器を持ち上げる。ぼくは再び昴星の撮影を始めた。

「ひひ……、すっげーくせー。おれ、いっぱいうんこしたよー」

 昴星は洗面器の中身を見せて笑う。その笑顔は本当に、無邪気と言ってしまっていいように思える。……美少年の無垢な笑顔と、その美少年の尻から生産された排泄物という組み合わせは、臭いと共にぼくに眩暈を催させる。昴星は調子に乗ったように、洗面器を左手で抱えると右手でピースサインを送って見せた。

「んで、これどうしよう。トイレに流す?」

「……うん、そうするしか、ないよね」

「りょーかい」

 洗面器を持ったままの昴星を連れて、トイレへと移動する。自分の便がたっぷり収まった洗面器を持って歩く美少年という絵図は、何だかあまりにおかしなことが多すぎて、ぼくにはただ無限に容認することぐらいしか出来ない。

 それほど広くもない洋式のトイレの脇に読みかけの漫画雑誌を見つけた昴星は、「家でこれやるとおかーさんに怒られんだよなー」と呟きながら、ロールペーパーで洗面器の中に落とした物体を便器の中へと落としていく。「あ、そうだ。おにーさん、おれのお尻拭いてよ」

 肩越しに振り返って昴星に請われる。

「え、お、……お尻、拭くの? ぼくが?」

「うん、おれ、いっつもうんこしてもそんな汚れねー方だけどさ、でも拭かないとやっぱ気持ち悪ぃし」

「ああ……、そりゃそうだろうね……」

「それに、パンツにうんこ付いてたらカッコ悪いじゃん?」

 オシッコの染みはどれほど派手につけても気にならないのであろう少年が、そんなことを気にするのはなんだか可笑しかった。ただぼくは、「少年の肛門を拭く」という仕事に心の中が沸騰するような気持ちになりながら、ペーパーを巻き取り、そっと昴星の肛門に当てた。

 ……自分の尻を拭くときとはまるで勝手が違う。

 ぼくには年上の従姉がいて、彼女には四歳になる男の子がいる。生意気ばかりでちっとも可愛くないからその少年を見たってぼくは何とも思わないのだが、ただ一点。従姉の家に誘われて行った際、その少年がトイレでうんちをして、トイレの中から「おかあさーん!」と大声で呼ぶのだ。母親である所の彼女は「はいはーい、いま行くわよー」とエプロンを外してトイレに駆けて行き、しばらく経ってから息子と一緒に戻って来た。何をしていたのかと訊けば「お尻拭いてあげてた」のだと言う。まだ一人では上手に拭けない上に、かなりの甘えん坊なのだそうで、いつもトイレで大きいほうをするたびに彼女が拭いてあげているのだということだ。それを聴いたときには、正直、少しどきどきした。

 いま、そういうことをぼくはしている訳だ。従姉の息子とは比べ物にならないくらい愛らしい昴星のお尻を、この手で拭いている……。

「んー、もっとぐいって拭いて平気だよ?」

 幾度かペーパーを替えながら、不思議な弾力のある昴星の肛門を覗き込みながら、ぼくは拭いた。確かにあまり紙が汚れない。健康的な肛門は健康的な便によって成り立つのだという知識をぼくは手に入れた。

「きれいになった?」

 昴星が振り返って、ぼくの手のロールペーパーを見る。「うん、おっけー。こっちも一応、全部落としたよ」

 便器の中にはたっぷりと昴星のそれが、紙と一緒に沈んでいる。ぼくは少しく呆れながら、「……本当に、たくさん出したね」と言葉を漏らす。昴星は便座を降ろして座り、カメラを構えたぼくに向けて誇らしげな笑顔を向けて、

「だって、気ィ使ってるもん、太いうんこしたらさ、お尻ん中も気持ちよくなれるし」

 と言った。

「……お尻の中? 気持ちよく?」

「うん、おれ、才斗とかのちんこ、お尻の穴に入れんだ。ちんこさ、口でするだけじゃなくって、ちゃんとセックス出来るんだぜ」

 飄々と言い切る昴星よりも、唖然としたぼくの顔の方がよりムービージェニックだったのではないかという気がする。

「え? あの、昴星は……、お尻、その、……お尻に、誰かのおちんちん入れて……」

「うん。だってさ、おれ才斗の恋人だから。オモラシしたり、オシッコとかせーしとか飲ましてもらうのもすげー嬉しいけどさ、才斗とほんとにセックスしたいって思ったら、男同士だったらこのやり方しかないし」

 しばし言葉を失って、「……すごいね」と、ぼくはまるで「すげー」という言葉を連発する昴星のように、やっとのことで言葉を紡いだ。昴星は「ひひ、すげーだろ」と大いに胸を張る。

「おにーさんのちんこも、おれの中入ってみたい?」

 昴星は首を傾げて聴く。

「ぼっ……、ぼくの、……を?」

「そう、おにーさんのちんこ、……んー、でも無理かなあ、おにーさん、才斗よりもちんこ全然でかいしなー、ひょっとしたらお尻の穴裂けちゃうかも」

 ごくり、と思わず呑んだ唾の音をカメラに拾われたかもしれない。つい今朝まで、全裸の少年とこうして相対することさえ夢の中での出来事だったというのに、……少年の失禁を見た、女装姿を見た、射精を見た、排便を見た。その上、……セックス?

「ってーかさ、おれは全部すっきりしたけど、おにーさん全然すっきりしてないね」

 立ち尽くすぼくの股間に、昴星が足を伸ばす。「……ひひ、やっぱり固ぇや」嬉しそうに笑った昴星は、便座の上で身体の向きを変える。ついさっき、あれほど大量のうんちをして見せたとは思えないような、……そして小さいとはいえ男性器が出入りするとは想像も出来ないような小さな穴の尻を向けて、「入れんの無理かもしれないけどさ、おれのお尻にいっぱいせーしかけていいよ」と、ふりふり、振って見せる。垂れ下がった陰嚢がふるんと震えた。

 ぼくがベルトを外し、社会の窓を開ける音を聴いて、昴星が肩越しに振り返る。

「おー、やっぱすげーでけー、大人のちんこだ……。いっぱいせーし出る?」

 ぼくが、こっくりと頷くと、「じゃーさ、最後、お尻の穴に出してよ。おにーさんのせーしがさ、おれのお尻の穴で出たんだーって判んの、すげー嬉しいと思うから」

 言われるまでも無く、ぼくはそうするつもりだった。息を殺しながら右手で、狂おしいほど腫れあがった自分の性器を、虐げるように扱く。昴星はお尻を突き出して、ぼくの男根の先端に自分の陰嚢を摺り寄せようとしているようだ。

 弾けそうな熱を帯びた亀頭に、柔らかな陰嚢はひんやりと感じられる。ぼくが右手を動かすと、其処は愛らしく揺れる。

「あは……っ、きんたま、おにーさんのちんこの、響いてくる……!」

 二つの予感がぼくの中にあった。一つは、「このままではすぐ射精してしまう」という肉体にまつわるもので、もう一つは「一度射精したくらいでは到底終われない」という、精神にまつわるものだ。どちらもはっきりとした輪郭と確かな存在感を持っていた。

 柔らかく心地良い昴星の陰嚢から腰を引き、昴星の肛門に先端を近づけた。昴星はぼくを挟むように肉付きのいい双丘を揺らめかせる。昴星の肛門が時折ひくつくのが見える、「ひひ、おにーさん、せーし出して、おれのお尻でさ、せーし、いっぱい出して」挑発するような言葉に、ぼくは白旗を上げる。ぼくは昴星の肛門に亀頭をこすりつけてさえいた。今朝からもう四度目になるというのに、ぱんぱんに張り詰めたぼくのペニスからは、飛沫を上げて精液が迸った。

「あはぁっ……、すげぇ、せーし、すっげぇ、お尻でどくどくいってる……!」

 昴星は嬉しそうに声を上げ、ぼくを振り返り、肛門に指を伸ばす。「すっげー……、めっちゃ垂れてる、きんたまのほうまでヌルヌルして、すっげーエロい……」

 ちゃんと撮ってる? 昴星は聴く。ぼくのカメラを確認すると、にちゃにちゃと音を立てて、自分の肛門を弄り、それから精液に塗れた指をぺろりと舐めて見せた。元の通りに座り直したとき、昴星のペニスはまたしても勃起している。

「おれ、まだいっぱい出るよー……? んっとね、これまで一番多いときで、才斗と、一日で七回射精したことあるんだ。けど、今日はもっと出来ちゃうかも」

 妖しい色の目をぼくに向けて、昴星は唇をぺろりと舐める。

「おにーさんも、もっともっと出来るよなー?」

 ああ、七回でも八回でも……、この身体が涸れ果てたって後悔はない。頷いたぼくの頬を、昴星は背伸びをしてぺろりと舐める。

「おれはさ、恋人いるから、おにーさんのこと一番大事にはしてあげらんないけど、ときどき、おれが暇なときにはこうやってさ、おにーさんとこ遊びに来るよ」

 ゆびきり、と小指を立てて掲げる。口を開けてその小指の秘密だって美味しそうだとぼくは思ってしまう。

「いいの、かな……」

 今更のようにぼくはそんな馬鹿なことを訊いた。昴星はにぃと笑って、

「おれとおにーさんの、秘密、いっぱい重ねて行ったってさ、いっぱい気持ちよくなっても、バレなきゃ大丈夫」

 何処に毒が混じっているか判らない、……そういう行為であり、関係であるということは諒解した上で、ぼくはその指を結ぶ。

「パンツのオシッコの黄色いのだってさ、ある程度濃くなったらそれ以上にはならねーし、ちょっともいっぱいも、そんな変わんねーよ」

 この毒は、いつかこの身体を蝕むだろう。けれどそれで命を落としたとしたって、その直前に「どうか」とぼくが願うのは、昴星に迷惑が掛かりませんように、この子が叱られることはありませんように。

 とどのつまり、極端な興奮の中に居るぼくにはそんなことぐらいしか考えられないのだった。


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