お兄さんのXXX、触っても怒られませんか?

 まさか夕べぼくと由利香が派手に遊んだから、……ではないだろうけれど、朝食を運んできたお母様は申し訳なさそうに頭を下げて、

「温泉の冷却に使う機械の調子がおかしくなってしまいまして……」

 今朝は自慢の温泉に浸かることが出来ない旨を、ぼくに伝えた。

「すぐに業者さんを呼んだんですが、この雪でございますでしょう、少し時間がかかってしまうようなんです」

 そこまで恐縮されるようなことではない。確かにこの旅館の温泉を楽しみにしていたことは事実であるけれど。

 ただまあ、そんなトラブルのおかげで、由利香と心地よい朝風呂を色々な形で楽しむことは出来なくなってしまった。のみならず、この日の午前中、ぼくは由利香と一緒に過ごすことも出来なくなってしまった。

「ボイラー室、……の中に、お風呂の熱すぎるお湯を冷ますための冷却機が入ってるんだけど」

「うん」

「でも、……そのお部屋には、このお宿のお湯を特別にいいものにするための大切なものが入ってて」

「大切なもの?」

 企業秘密、ということなのかもしれない。由利香はこくんと小さく頷いただけだ。

「……そのお部屋の鍵、鍵っていうか、金庫みたいに番号を入れて開けるようになってるの。それは、由利香がお母さんからお仕事の代を替わったときに、由利香が自分だけの内緒の番号にしてて、誰にも教えちゃいけないことになってて」

「つまり……、誰も知らない番号だから、由利香が開けてあげなきゃいけない?」

「うん……」

 由利香も、お母さんそっくりに申し訳なさそうな顔になって言う。

 とはいえ、宿の大事にぼくなんかを優先してはいけないに決まっている。由利香がもうすっかり敬語を捨ててくれたことに関しては無邪気に嬉しい気持ちを抱くけれど、しばらくの間由利香と遊べないというのは率直に、残念だ。

 ぼくの顔に、はっきりそういう表情が浮かんでいただろうか。

「……お兄ちゃん、由有理と遊ぶ?」

 そんな提案を、由利香は何のためらいもなくした。「夕べも言ったかもしれないけど、由有理はきっと、……お兄ちゃんと、出来る、よ?」

 慌ててぼくは首を横に振って、「いいいい、いいよ、大丈夫」笑顔を繕った。

「ほんとに? でも、時間かかっちゃうよ? せっかく来てくれたのに、由利香……」

「大丈夫、本当に大丈夫だから」

 由有理ちゃんは確かに可愛い女の子であるとは思う。けれど、自分の恋人の妹である子が、たとえ恋人の言う通りそれが「可能」であったとして、手を出して暇つぶししようなんて考えるほどにぼくは無節操じゃない。

 それに、あの子はまだ何も知らない。一般的には由利香の知識や会得している技術は、本来「持っているべきではない」ものである。穢れないまま育って今に至る由有理ちゃんに、わざわざそれを教えることはない。

「まあ、いいさ。夜に東京に戻れればぼくはいいし、……だから一人で時間潰しながら、お風呂が早く直るよう祈ってる」

 真面目な人間ではないことは百も承知だけど、そういうところに関しては一応ちゃんと考えているぼくでもある。由利香は残念そうに肩を落として、

「でも、ほんとにヒマだったら、……お兄ちゃんが危なくなければ……、ううん、お兄ちゃん危ないことになっても、由利香が守ってあげる。だから……」

 由利香は、身を乗り出してぼくの額に一度キスをして、……それだけで足りなかったように、唇に二度目のキスをして、それからぼくの腕に収まった。前夜、お互いあれほど乱れたのに、深く深く愛し合ったのに、一度寝たことで疲れも含めてリセットされて、それでもやっぱりこの子が可愛い。そういうことをしっかり確かめながら、ゆっくりと由利香の匂いをぼくは嗅いだ。

 

 

 

 

 とはいえ、一人ではあまりすることもない。雪深い温泉地にやって来て、その趣をゆったり楽しむことで気散じが出来るぐらいに大人なら、そもそも少年少女の天使的側面に欲情するような人間になるはずもないのだ。

 そんなわけで、朝ごはんを頂いて宿の外に出て、……一応タオルその他は持って来ているけれど、さてどうしたものかと。もともとこの温泉街を知ったのは流斗のご両親の依頼があってのことだし、以降由利香と知り合ってから何度も足を運んではいるけれど、かといって知識を蓄えてきたという訳でもない。ここへ来る理由が由利香に絞られていたからに他ならない。

「共同温泉か……」

 由利香のお母さんから頂いた、この温泉街の案内リーフレットを開いて見てまず興味を惹かれるのはそれである。旅館の温泉に安価で入れることも魅力的だが、いちばんが由利香のお風呂だということは判っているのだし、だったら安いとはいえお金をかけて他の旅館のお風呂に入るのもなって気持ちになる。それに、由利香のお宿からしたら商売敵でもあるだろうし。

 一方で、街に三カ所ほどあるらしい「共同温泉」の入湯料は「寸志」と書かれている。……まあ、三百円ぐらいでいいかなあ、というような軽い気持ちで、駅前にある小さな共同温泉に足を運んでみると、そこが意外にも快適だった。まだ土曜の午前中であるから、人も少ない。地元のおじさんたちに混じってゆったりと浸かると、由利香と遊べないことが判って以来やや落ち込んでいた気持ちも晴れていた。

「こりゃあいいな……、次どこ行こうかな」

 温泉には疲労回復効果があり、温浴効果もふつうのお風呂より高い。だからすっかり温まった身体に勇んだ足取りで、ぼくは共同温泉をハシゴすることにした。途中では、この温泉街の土産物屋どこでも見かけるお焼きやソフトクリームなんかも食べたりして、すっかり温泉旅行気分だ。二軒目も、五人も入れば満員というような小さな川沿いの浴場ではあったけれどほぼ貸し切りのような状態で、ああ、お風呂って本来こうやってくつろぐ場所だったっけなあ、なんて当たり前のことを、ぼくは思わされた。

 次は何処へ行こう、とお風呂を出たところでリーフレットを広げたところで、……「山ゆりの湯」があることに気付く。そうか、あそこも一応「共同浴場」の一つってことになるのか。

 由利香が「仕事」をしなくなったから、共同浴場としての役割をあの温泉小屋に持たせたということなのだろうか。「営業時間 平日11:00〜16:00」とある、それは由利香のいない時間帯だ……。

「わっ」

 と声がして、ぼくも「わ」と声を上げてしまった。リーフレットを読みながらとろとろ歩いていたぼくの目の前に、男の子が立ち止まったのだ。

「ご、ごめんなさいっ、よそ見してた!」

 元気のいい声で、慌てたようにがばっと頭を下げた。四年生から六年生の男の子の外見を見慣れるようになって、そういう世代の男の子たちのほんのりとした年齢差が描き出す特徴については判るようになってきている。たぶん、五年生だろう。目のぱっちりとして、睫毛の長い、綺麗な顔の男の子だった。

「いや、こちらこそごめんね」

 ぼくも謝ると、にこっと笑って、ぼくの脇をすり抜けて、温泉に入って行った。可愛い子だったなあ。あと十分長湯してたらあの子の裸を見られたかもしれないなあ……、なんてことを反射的に考えてしまうぐらいには人間の屑であるぼくである。

 ええと、何だったっけ。そうだ、「山ゆりの湯」だ。営業時間を考えてみると、……今日は土曜日だから開いていない日と言うことになる。しかし本来の営業を再開するに当たってどんな風に変わっているのかということに興味を惹かれた。

 入浴できなくてもいいじゃないか、身体もあったまったし、元気だし。ぼくはそう思って、久しぶりに「山ゆりの湯」への道をずんずんと歩き始めた。

 急な上り坂もなんのその。あそこの景色も、ぼくは好きだった。

 

 

 

 

 様変わり、と言っていいだろう。

 昴星と流斗を連れて由利香と出会ったときには、……まあ、言葉が悪いことは承知の上で言うけれど、「ボロボロ」ではあった。掃除は行き届いて清潔感はあったけれど、壁が一面ないことも含めて、解放感や景色は素晴らしい一方でちょっと寒々しい印象もあった。

 しかるに、この数カ月で大幅なリフォームがなされたらしい。改めてぼくは由利香のおうちの旅館が相当に儲かっているのだということに考えを及ばせざるをえない。相変わらず開放感のあり過ぎる半露天風呂だけど、建屋の壁も見違えるほど綺麗になっているし、内側もぴかぴかだ。

 そして掛け流しの温泉が満々と満ちた清潔な浴槽には光が差し込み、眩く湯気が揺らいでいる。

「……うん……、いいな……」

 なんてことを、一人呟く。手を浸してみると、やっぱり、うん、すごくいいお湯だ。旅館のほうの冷却機が故障しても、こっちは大丈夫であるようだ。

 入りたいな……、という気持ちが頭をもたげてくる。

 どうせ誰も見てないよな、営業時間外だし誰かが来ることもないだろう……、来るとしたら由利香の旅館の関係者の人だから、事情を説明すれば判ってくれるよ、きっと……。

 ぼくの中の悪魔が囁いたのを、ぼくは自分の耳で確かに聴いた気がして。

「はあぁ……、最高だよね、露天風呂はね、やっぱりね……」

 気付いたときにはぼくは解放感抜群の入浴を楽しんでいるのだった。

 と。

「ここって、今入っちゃってだいじょぶなんですか?」

 借景の袖からひょいと覗いた顔に、ずるんと尻が滑って溺れそうになる。

 さっきの男の子だった。興味津々、という気持ちがそのあどけない顔いっぱいに広がっている。

「や、あ、あの、ええと」

「入っちゃって、いいんですか?」

 いや、ダメだよ、ダメだろう、うん。しかし恐らくぼくがここに入浴することで、由利香のお父さんお母さんに責められることはないはずだろうとも思う。

 ぼくが何とも答えられないでいると、

「入っちゃおっと」

 少年は靴を脱ぎ、ぼくが身体を洗うときに作った水たまりをぴょんと跳ねて飛び越えて、脱衣所のほうへ行ってしまった。

 参ったな、……と思う反面、あの可愛い男の子の裸が見られる機会が降って湧いたのだと思えば、それはどちらかと言えば、いや白状しよう、すごく嬉しい。

「へへっ、おじゃましまーす!」

 すっぽんぽんになって脱衣所から出て来た少年は、残念ながら前を隠していた。けれど時間はいくらでもあるだろう。しばらくすればちらりとぐらいは見るチャンスがあるかもしれない……。ゲスな考えを抱くものだと自覚しているけれど、これはショタコンの悲しいサガであるとも言える。背後でごくざっくりと身体を洗った気配があって、すぐにざぶんと飛び込んできた。

 透き通ったお湯であるけれど、残念ながらおちんちんを拝むことは出来なかった。

「ここ、学校行ってる時間しかやってないから、いっつも入れなくって残念だったんです、でもやっと入れてうれしいなあ」

 髪は昴星よりも短く、あの子よりも色も黒い。耳が出ていて、痩せた身体は少年の活発さをよく表しているように思う。

「この辺の子なの?」

「うん。お兄さんは旅行で来たの? どこの旅館?」

 正直に答えかけて、慌てて止めた。由利香がかつてああいう仕事をしていたことを、恐らくこの子の両親は知っているだろう。そこにまた客が(由利香目当てに)通ってきているということを知られるのは、あまりよろしくないことのように思われた。

「まあ……、君は幾つ? 五年生ぐらい?」

 不自然に会話を逸らしたぼくを、不審がることもなく「うん、五年生です。砂原いつきって言います」と答える。やっぱり五年生で合ってた。

 ん、ということは、由利香と同い年ということだ。小さな街の学校だから、お互い顔見知りである可能性もあるな……。ぼくは余計な期待をすることなく、いつきとシンプルなコミュニケーションを愉しむことに決めた。

「……ぼくがここに入ってたってことは、誰にもナイショにしてもらえる? その、……ほら、ね?」

 ぼくの言わんとしていることはすんなり伝わったようだ。いつきはにひひと笑って頷く。「怒られちゃいますもんね!」

「うん。ぼくも君がここに入ったことは誰にも言わないから」

 ざぶざぶと、膝立ちでお湯を掻き分けてぼくの傍まで着て、「指切りしましょ」と手を伸ばす。華奢な身体つき、綺麗な指だ。ぼくは下半身に目を向けないよう努めつつ、いつきと小指を結んだ。

 いつきはそのままぼくの隣に落ち着いて、

「お風呂大好き……。いっつもね、土曜になると朝からあっちこっちのお風呂入って回ってるんです」

 とほんのり紅い頬で言う。肌が、由利香にも負けないぐらいに綺麗だ。それはこの温泉の効能によるところが大きいに違いない。

「そうなんだ? ……ここはいいお風呂が多くて、素敵なところだね」

「ぶっちゃけちょっと、田舎だけど」

「でも、景色はいいよね」

「景色はねー」

 コミュニケーション能力の高い子だ。物怖じしないというか。頻繁に入ると言うあちこちの温泉で、こうやって大人と会話することに慣れているのだろう。

 こっそり、誘惑に負けて視線を落としてみる。……けれどいつきは自分のおちんちんに手を当てていた。その点はやっぱり、年相応に恥ずかしいのだろう。

 見せてって言ったら見せてくれるだろうか。

 そんなことを考えた一瞬があって、……いやいや、ダメだダメだダメだと顔を洗う。

「お兄さんは東京から来たんですか?」

 裸で隣に座るのがどういう男かを知らせてはいけない。いつきはぼくを無害な男だと信じているからこそ話しかけて来てくれたんだ。

「そうだよ、仕事でね……」

「そうなんだあ……、東京行ってみたいなあ。まだ行ったことないんです。友達に、しょっちゅう東京遊びに行く子いるんだけど、さすがに連れてってとは言えないし……」

 ちょっと待ってその「しょっちゅう東京遊びに行く子」ってひょっとして由利香のことなんじゃないの……。

 緊張しながら「そうなんだ……」とぼくは無難な相槌を打って、

「君は、兄弟とかはいないの?」

 また、話を逸らした。

「うん、いないです。だから家にいてもつまんないから」

「ああ、こうやってお風呂に?」

「そう。お風呂だと、誰かいるし、お喋りするの、楽しいでしょ?」

 由利香といつきがどの程度親しいのかは、全く判然としない。さっき言った「友達」は、単にクラスメイトを差す言葉かもしれないし、だから陽介や瑞希と接点がないのも仕方ないかもしれない。いや、あの二人はあの二人で、二人だけの時間を欲するだろうから、いつきが来ることを望まない可能性もあるけれど。

「兄ちゃんか弟がいたらさ、楽しいだろうなって思います。いっしょにお風呂入って遊べるし」

 影のない笑みを浮かべていつきは言った。その笑顔は、少年のものでありながらどこか儚げである。昴星のちょっと意地悪な笑顔もいい、流斗の無垢な笑顔も、諭良のスマートな笑顔も。男の子は笑顔がいい、というのは、ソラを見てぼくが心底から思ったことだ。改めていま、それを思ってしまいそうになった。

「ねえ、お兄さんのこと、自分の兄弟って思ってもいいですか」

 じいっと、穢れのない瞳が頬に当てられている気配がある。そっと視線を向けると、少しばかり照れくさそうな表情に変わっている。初対面の相手にそんなことを言ってしまったことを恥じているのだろうと判る。

 あ、可愛いな……、と。

 そんなことを、ぼくは思ってしまった。とはいえいつきの笑顔がそれだけ可愛いということは、何の言い訳にもならない。

「ぼくは……、構わないけど……」

「ほんと?」

 にこー、と微笑んで、「へへ、嬉しいなあ」いつきは何のためらいもなくぼくに寄りかかって来た。

「お兄さんは、もう東京帰っちゃう?」

「……うん、夕方には」

「そっか……、ここには、もう来ないの?」

「ええと……」

 しょっちゅう来ている。由利香に会うために、……もっと言うならば、君のクラスメイトの、つまりぼくよりずっと年下の「恋人」に会って、セックスをするために……。

 答えあぐねたぼくに、ちょっと身を乗り出して、いつきは言った。

「じゃあさ、……あのさ、このお風呂のことともういっこ、ナイショでね、お願いがあるんです。……その、大人の人にしか訊けないけど、ふつうは、訊いたら怒られちゃうことなんだけど……、兄弟だから、いいかなって」

 もじもじといつきは言う。肌が接触していることを出来るだけ気にしないようにしながら、「何だい?」とぼくは訊く。

 いつきはもうしばらく、存分にもじもじしてから、

「……ちんこの、こと」

 ちゃぷちゃぷ鳴る水音に掻き消されそうなヴォリュームで、問題発言をした。

「……はい?」

「ん、その、だからっ、……ほら、こう、大人になると、ちんこ、硬くなったり、……大きくなったりとか、するって。でも、そういうのよくわかんないから、知りたくって……、見てみたくってっ、その、お兄さん……、お風呂のことでもう、いっしょにナイショだから、そういうことも……」

 ちんこのこと、と言ったのか、いつきは。男性器に興味があるのか。

「その……、あのね、温泉で、いっぱい、ほら、裸の人、いるから、ひょっとしたら中にはちんこ、そういう風になってる人いるかなあって思っていっつも観察してたんだけど、いなくて、でも……、お願い、お兄さん、一回だけでいいんです、お兄さんのちんこ、見せて欲しい、ですっ……」

 男湯に、同性の(大人の)性器を見るために足しげく通う少年。

 もちろん、いつきが願うように浴場で欲情しているような男なんて普通、いないだろう、普通は。いつきはこんなに可愛い子だけど、やっぱり「男の子」って時点で、それが性欲とは切り離されるはずであるからして。

 でも、ぼくはショタコンなのである。

「……ぼくは、……ああ……、ええと……」

 真面目な顔でとんでもないことを言ったいつきを、可愛い、と思う感情が、性欲に繋がる種族の生き物なのである。

「……いいよ、……その、君が、それでいいなら……」

 言ってしまった……、瞬間、ぱぁっといつきの笑顔が輝く。

「ほんとに?」

「うん、……でも、その、皆には、絶対内緒だよ? 誰にも言ったらダメだ。いつきぐらいの子にそんな、自分の触らせたりしたら……」

 うんっ、といつきは大きく頷いた。拍子に頭の上に乗った手拭いがずれる。

「絶対ナイショ! お兄さんと、この時間だけ、秘密にします!」

 もう一回、ゆびきり。小指と小指を結びあって、……覚悟を決めて、ぼくは湯船の縁に尻を乗せて、足を開いた。

「おおー……」

 いつきは目を丸くして、すぐにぼくの足の間に入った。「ちんこだぁ……、こんな近くで見るの初めてですよー」

「そんなに、近くで見るもんじゃないからねぇ……、普通は……」

「そうなのかなぁ……? でもちんこ見たい人っていっぱいいると思います」

 由有理ちゃんとか。

「まあ……、見たいと思ってても、本当は言っちゃいけないっていうか。だから、今日の、君とぼくとだけの秘密だよ?」

「はい、絶対誰にも言いません」

 まだ勃起していない。じいいと大きな目で少年に股間を覗き込まれて、

「……あの、お兄さんのちんこ……、触っても、怒らないですか……?」

 興味に負けたように、いつきが言う。

「……うん、いいよ。その……、たぶんそうしたら、君の見たいような形になるから」

「ほんとに? その……、もっと可愛い子とか、あと、大人の女の人とかじゃないと大きくならないんじゃ、ないの……?」

 あ、と思ったけれど、もういい。

「いつきだって可愛いと思うよ。いつきが触ってくれたら、すぐ大きくなると思う……」

 ペニスにその感情表現がまだ顕れなくとも、もうすでにぼくの感情は熱を帯び始めている。

「じゃ、じゃあ……、触ります……、でもあの、よくわかんないから、痛かったりしちゃったら、ごめんなさい」

 恐る恐る、という感じで両手の指先が。

 ぼくのペニスに触れた。

 左右の人差し指で、茎を挟むように。

「触っちゃった……、ちんこ……、大人の人のちんこ……」

「触られちゃったね……」

「うん……、思ったより、やらかい……、ここから硬くなるんですか……?」

「そうだよ。……いっぱい触られてたら、すぐ硬くなる」

「いっぱい……」

 自分でも、声が震えそうになってるのが判る。

「優しく握って、……でもって、往復させて……、スライドさせるみたいな感じにね」

「スライド……」

 いつきは、ぼくの言う通りにした。右手でそっとペニスを包む。温かくて柔らかい子供の手のひらの中に収められた瞬間から、からくりのスイッチたる糸が蝋燭に炙られて切れたように、ぼくのその場所は急激に血流を活性化させはじめた。

「こう……?」

 いつきはごく興味深そうな顔でぼくを見上げる。本当に、綺麗な顔をした子だと思う。ぼくの知る男の子の中で一番女の子っぽい顔をしているのは言うまでもなく昴星だけど、負けないぐらいに、あるいはそれ以上に綺麗な顔立ちをしている。

 そんな子にペニスをいじられているとなれば、当然反応は鋭いものとなる。

「あ、……あ、お兄さん、ちんこ硬くなってきた!」

「うん、いつきが上手にしてくれてるから、すごく気持ちよくなってるんだ」

「気持ちいいの? こうやって、ちんこするの気持ちいい?」

「すごく。……いつきはこうなったことない?」

 いつきは首を傾げる。……興味関心を持つわりに、自己体験として持ってはいないのか。五年生と言っていたけれど、それにしては少年自身の性の発達は遅い。昴星と同じくらいの身長の子だし、意外とそれぐらいが普通なのかもしれない。……流斗という、四年生でありながらあの通り発達しきった子を知っているから自分の尺度が正しくない可能性は否定できない。

「もっと、気持ちよくなるとどうなるか知ってる?」

 ううん、といつきは首を横に振った。

「どうにかなっちゃうんですか?」

「この、先っぽのところから白い、ねばねばした液体が出てくる……、精子って判る? 学校で習ってないかな」

 あ、とぽかんと開けて、「知ってる、知ってます! ちんこから出て来た精子、その、えーと、女子の中に入って、……赤ちゃんになるやつ……」

「その通り。だからこういうことは、……本当はね、ぼくみたいな大人の男は、大人の女の人としなきゃいけない。いつきみたいな子に触られて気持ちよくなっちゃいけないんだけど……」

 いつきは、じいっとぼくを見上げる。

「お兄さんは、でも、これ、気持ちいいの?」

「……うん」

 それは間接的に、あるいは直接的に、自分がどういう存在であるかを教える意味を持つ。自覚しながらぼくは言った。

「ん、でも、……ナイショ、なんですよね?」

 いつきは少し微笑んで見せた。

「うん、ナイショだよ。バレたらもう……」

「それは、困ります。だって……」

 いつきはじっとぼくのペニスに目を当てて、

「こんなこと、させてくれた人、そんな、嫌な目に遭ったら嫌だし」

 優しい子だ。興味と性欲の等価交換、……いや、「等価」なわけがないんだけど。

「……お兄さん、付き合ってる人いるんですか?」

「いるよ……。女の子と、男の子と……」

「おと……、え、どっちも……、子、って、子供……?」

「いつきと、同い年ぐらいの子」

 いつきは、ぼくのペニスから手を離さなかった。真っ赤になって、「そ、それも、ナイショに、しまス……」ぎこちなく言った。

 ずっと頭に乗ったままの手拭いを退かして、髪を撫ぜた。

「いつきみたいな子が好きなんだ。さっき隣に入って来てくれたときから勃起しそうなの我慢してたんだ」

「へ……、ほん、とに……?」

「ああ。手を出しちゃまずいって、だから絶対ばれないようにしようってさ、思ってたのに、勃起したところ見たいなんて言うから……」

 むぅ、と恥ずかしそうにいつきは唇を尖らせる。

「だってぇ……、見たかったんです。大人のちんこ……、こんな大きくなるって知ってても、見たことないんじゃつまんないです。だから……」

「いつきがえっちな子でよかった。君に会えてすごく嬉しいよ」

 ぼくはいつきの髪を撫ぜた。いつきは照れくさそうに笑って、またぼくのペニスに視線を戻す。

「あ……、ねえお兄さん、ちんこの先っぽからなんか出てる……、これ、オシッコ……?」

「ガマン汁っていうんだよ。男は興奮して気持ちよくなるとしょっぱくてぬるぬるしてるのが出てくる」

「へえぇ……、って、しょっぱいって、お兄さん舐めたことあるの?」

「恋人の男の子のをしょっちゅう舐めてるからね」

「あ、そっか……。……お兄さんは、男子と女子とどっちが好きなんですか? その、女子と男子と、両方と付き合ってるんですよね?」

 むずかしい問いではある。

「うーん……」

 昴星と流斗しかいないときは、ぼくは完全にショタコンなのだと思っていた。おちんちんにしか興味がない男なのだと。

 でも由利香という存在が生じてから、「女の子もやっぱり可愛いなあ」なんてことを思うようになっている。実際、由利香の裸を見ただけでもう反応するようになってしまったし、女子には女子の、男子には持ち得ない魅力というものも確かにあるわけで。

「どっちも、かな。どっちも大好きだよ」

「そうなんだ……」

「だから、いつきみたいな子だってすごく可愛いし、大好きだよ」

「ん」

 いつきは目を丸くして、それから急にもじもじして、「可愛いとか……、言われてもなぁ……」唇を尖らせる。

「可愛いって、言われない?」

「言われないです、言われたことないですよ」

 でも、可愛いと思うけどなあ。意外とこの街の子たちって、審美眼が育ってないのかも知れない。

「可愛いと思ってる、証拠にこれだけ勃起するわけだしさ」

 ぼくはいつきの頬に触れた。少し尻をずらして、いちど浸かって、……きっとまだ、誰とも重なったことのない唇に、キスをする。

 いつきが、ぴくんと震える。

「キスしたくなっちゃうぐらい可愛いってことだよ」

 ぼくが言うと、かぁあっと紅くなった。

「ひゃああ……」

「……嫌だった?」

「ぴゃ、いや、嫌じゃない、です、その……、びっくりしました……」

 初々しい反応が、とても可愛い。座り直して、

「いつきも、ぼくのここにキスをしてくれる?」

 と求めてみた。

「キス、……え、ちんこに……?」

「そうされると、すごく気持ちよくなれる。精子も出る。いつきはもっとここのこと知りたくない?」

 屹立した自分のペニスを見せながら、ぼくは着実に悪い方へ悪い方へと進んでいく。いつきはまたぼくのに両手を添えて、

「ん、知りたいです……」

 きゅっと、目を閉じて、「んっ……」唇を当てた。

「ひゃ……、すごい、ビクッてなった……」

「気持ちいいといまみたいにビクッてなるんだ」

「気持ちいいと……」

 透明な絵の具がぼくの色に染まって行く、それは「汚れて行く」という言葉の選択がいちばん正しいだろう。いつきはぼくの「気持ちいい」ことをしたいと願ってくれたらしかった。手を添えて、ぼくのペニスに、小さな音を立てて、ちゅ、ちゅ、とキスを繰り返す。ぼくは特に意識なんてしなくても「気持ちいい」のサインをいつきの唇に返すことが出来た。

「ありがとう。今度はさ、いつき、口でぼくのをしゃぶってくれないかな」

「しゃぶる……」

「しゃぶって、舌でいっぱい舐めて、頭も動かして。フェラチオって言うんだ。すっごく気持ちよくなれる……」

「ふぇらちお」

「もちろん、いつきが嫌だなって思ったら、しなくてもいいと思ってるけど」

 いつきはぼくのペニスから顔を離していても手は離さないままでいた。

「……お兄さん、その、ふぇらちお、したら気持ちよくなって、精子、出るんですか?」

 昨日散々した後だけど、「出るよ、たくさん」それは確信している。

 いつきは、ほとんどためらわなかった。

「ん、じゃあ……、してみます……、で、でもお兄さんのちんこすっごい大きいよ、入るかな……」

 子供たちのフェラチオについて、ぼくにはいつしか知ったことがあって。

 上手かどうか、というのももちろん快感の要素としては大きい。ペニスの味が大好きだと言う昴星やそういう仕事に従事してきた由利香が上手いのはまあ当然である一方、例えばソラやルカの決して器用とは言えない舌捌きにも、何とも言えない良さがあるのだ。

 こわごわと口を開けたいつきがぼくのペニスの先端を、唇で包み込む。

 亀頭に、舌が触れた。瞬間、ぴくっと肩を震わせる。

「しょっぱかった……?」

 見上げて、ん、と頷く。だけど口を外すことはない。

「そのまま、もうちょっとお口の中まで入れられる?」

「んん……」

 やっぱり、器用ではない。器用でなくたっていいんだ、こんなこと。でもいつきはちゃんとぼくの言う通り、ぼくのペニスを頬張った。

「そのまま、舌を動かして、……そう、そうだよ、気持ちいい……、判る?」

「ん……」

 目元を紅くしながら、ずっと見るだけだった「大人のちんこ」を口に含んで、いつきもきっと興奮しているだろう。けれどその、どれぐらいの大きさなのか、どんな形なのか判らないおちんちんを伺うことはまだ出来ない。

 あとで「見せて」って言ってみよう。お礼をしなきゃいけない、こんなことしてくれたんだから、ぼくに出来る限りのお礼を。

「少し、頭動かせる? 咥えたままで、お口でさっき手でしてくれたみたいに、してくれたら、……お……っ」

 従順に、いつきはぼくの言葉に従う。そんなに「射精」という現象を目にしたいのか。才斗の臭いに導かれる形で昴星が、昴星に誘われる形で流斗がそうなったのとは違う。この子は誰に教えられた訳でもなく、同性愛者なのかもしれない。口いっぱいに頬張って頭を動かすときの目元の色っぽさなど、諭良にも負けないぐらいの破壊力を持っている。不器用なりに一生懸命舌を動かして、頭を上下する健気さに、この少年の見たがる現象を披露することに、もう何の抵抗もぼくはなくなっていた。

「出るよ、いつき……」

 ぼくのささやきが、少年の小さな耳に届く。その耳も紅くなっていて、興奮状態を物語る。お礼をするよ、ちゃんとするよ、きっと君を気持ちよくしてあげるから……、そんなことを念じながら、

「っん!」

 小さな口の中へ、自分の精液を放ったぼくが感じるのは、透明な水の満ちたグラスに思いっきり不潔な汚水をぶちまけるような罪悪感の伴う幸福で。

「んんー……! ぷあっ、びっくりしたぁ……」

 反射的に飲み込んでしまったようだ。いつきは目をぱちぱちさせてぼくを見上げる。

「美味しくなかったでしょ……、口濯ごうか」

「んー、……ええと、はい。美味しいかどうかで言うと、何か、わかんなかったです……。ただ、お兄さんのちんこが口の中で破裂しそうになって、すっごいビクビクってして、どろっとしたの出てきました。いまのが、ええと、精子? っていうやつですか?」

「そうだよ。精子を出すことを射精っていうんだ。でもって……」

「すっごく気持ちよくなると、射精する……、んですよね?」

「そう。いつきがぼくのこと、すっごく気持ちよくしてくれたってことだよ」

 いつきはお湯の中に浸りながらぼくをじーっと見上げて、「にひひ」と笑った。

「すっごい気持ちよくなれたんですね、気持ちいいのって、きっと嬉しいですよね、だったらよかったです」

 お湯の中、いつきは平泳ぎをして湯の噴き出し口まで行って、てのひらでお湯をすくって口に運ぶ。それからぐしゅぐしゅしながらまた平泳ぎで縁まで行って、口を濯いだ。

「嫌じゃなかった?」

 平泳ぎで、いつきが戻ってくる。ペニスを洗って浸かり直したぼくに、少しだけ考えてから、両手で抱き着いてきた。

「ぜんぜん! っていうか、楽しかったです。ずっとちんこのこと知りたくって、見せてもらえただけじゃなくって触らせてもらったり、あと、……キスもしちゃったし」

 つるつるの、すべすべの肌、背中。

「いつきが楽しいって思ってくれたなら、何よりだよ」

「ナイショ、ですよね、こんなの、……だって、その」

「うん、いつきはまだ子供だからね」

 てへへ、と笑って、「子供」は言う。

「お兄さんは、子供だからさっきみたいなのとかこういうのとかさせてくれたんですよね。だったら子供でよかったです」

 五年生としては細いし、小さい。由利香と同じくらいだ。ぎゅっと抱きしめ返して、そのまま立ち上がってみても、体重もだいたい同じくらい。いつきは子供扱いされることをちょっと恥ずかしがったけれど、ぼくの頬にキスをした。

「あー……、でもお兄さん帰っちゃうんですよね。残念だなあ」

 会おうと思えば、また会える。砂原いつきという名前を由利香に出せば、……まあ、いつきとこういうことをしたっていう点は包み隠さず伝えなければいけないにせよ、居所を教えてもらえるはずだ。いや、そうでなくてもこの場所にさえ来れば、

「また会えるよ」

 と約束することは、そんなに難しくはないはずだ。

「ほんとに?」

「うん、ぼくはまたここへ来る。だから、ね、きっと会える」

 いつきが、心の底から嬉しそうに眩い笑顔を浮かべた。嘘にしないための努力も要らない。ぼくは自然と、ここへまた来る。

 さて。

「いつきが気持ちよくしてくれたから、こんどはぼくがいつきのこと気持ちよくしてあげなきゃいけないかなって思うんだけど」

 ぽかぽかと温かい身体を抱いたまま、ぼくは言った。

「気持ちよく、……子供でも、なれるんですか?」

「もちろんなれるよ。だってこれまでぼくは、何人も気持ちよくしてあげて来たって思ってるよ。男の子五人と女の子一人」

「男の子ばっかりだ」

「最初は男の子のほうが好きだったんだ。でも女の子とも付き合うようになって、女の子も可愛いなって」

「ふーん……、でも、そういうのって痛かったりしないんですか?」

「もちろん、痛くないようにしてあげるよ」

 いつきにはやっぱりそういう方面の興味が強くあるようだ。

「んー……、じゃあ……、でも……」

「ん?」

 いつきの目は、ぽっかり空いた壁の穴に向いた。「ここだと、ちょっと恥ずかしいっていうか……」

 いまさっきまでぼくらがしていたことと少々矛盾するけれど、確かに少年のおちんちんをおいしそうにしゃぶってるとこ見られちゃうのはまずいな。

「あっち、行きませんか? その、あそこだったら」

 いつきが言う「あっち」は脱衣所だ。確かに、吹きさらしに等しいところで少年の裸身をいじくりまわして風邪をひかせるようなことがあってはいけない。大人としてそういうところはきちんとしておかなければ。

「判った。じゃあ、あっちでしてあげるよ」

「あ、お兄さんタオル」

 さっきいつきの頭から外したまま、置きっ放しになってしまっていた。洗わなきゃ。

「じゃあ、いつきは先に向こうで身体拭いてて。ぼくもすぐ行く」

「はあい」

 聞き分けよく、いつきは裸足の音を立てて脱衣所に入って行った。好ましいお尻の形をちらりと見てから、手早くタオルを洗って硬く絞って、ぼくもそれを追う。

「あ、お兄さん早いですね」

 いつきはまだぼくのペニスへの興味を喪っていないらしく、ちらりとぼくの股間を見て微笑んだ。黄色い大きなバスタオルで、身体を拭いているところだった。拭いてあげようか、と後ろから抱き締めて、華奢な肩、首、出来る限り優しく拭き取って行く。

 下半身。

 と意識を向けたところで、

「ねえ、……お兄さん?」

 いつきがぼくを見上げた。

「ん?」

「……あのね、さっきしたみたいなのって、その、お兄さんが付き合ってる男子とか女子とかとしてること、ですよね? ええと、フェラとか、あと、キスとかも……」

「ああ……」

 まあ、そういうことになる。そういう関係をはっきり定義させる前に行為をしてしまうのは、どうもぼくの悪い癖なのかもしれない。

「そうだね……、うん」

「お兄さんは、……ええと、男子が、好き?」

「まあ、うん。男子も女子も好き」

「じゃあ……」

 いつきは、おずおずと手を伸ばして、ぼくが抱き寄せるとぎゅっとしっかり腕に力を込めた。

「……お兄さん、仲間、入れてもらっちゃダメですか? その、……付き合うっていうのか、わかんないけど、お兄さんと、ああいうの、恋人同士みたいなの、もっと、したいです……」

 いつきは少し緊張を催したような顔をしていた。ぼくが試みに頬に触れると、ひくっと震えて、反射的に目を閉じる。

「……いつきは、いいの? たぶん、学校とかで言われてると思うけど、ぼくみたいな男に近づくのはいけないことだよ?」

 目を閉じたまま、「でも」といつきは首を振った。

「お兄さん、いい人だってわかります」

「でもぼくは、……いつきがまだ想像出来ないぐらい、変態だよ? いつきみたいな子の裸を見てすごく興奮するし、いつきが恥ずかしがるようなこと、たくさんしたいって思っちゃうような……」

 いつきは目を開けて、にこ、と微笑んだ。

 可愛い。

 吸い寄せられるように唇を重ねても、いつきは少しも嫌がらなかった。いや、嫌がるどころか両腕でしっかりとぼくに抱き着いてくる。その肌の体温は、お風呂上りであることを差し引いても、ずいぶん高い。いつきが飲み込んで、その身体の中に取り込んでしまったぼくの毒が、いつきの幼い身体の中で悪い方に働いているのを感じる。

「ふふ……、恥ずかしいのに、嬉しいです。大人の男の人とこんなにキスするなんて、ほんのちょっと前まで考えたこともなかったのに……」

 まだ当分昇らなくてもいいはずの、大人の階段を昇らせてしまったのだ。しかし(大いに言い訳っぽくなるのは承知の上で言えば)この子自身、「大人の男とそういうことをしたい」という欲は抱いていたわけで、……もっとも、それでぼくの罪が軽減されるわけでもないのだけれど。

「……いつきが嬉しいなら、ぼくはそれでいいと思うよ」

 影のない微笑みを、ぼくに向けて、

「そうだ、お兄さんにいいもの見せてあげます」

 いつきは言った。可愛いお尻は見せてもらった。あとはいよいよ、そのおちんちん。それだけで十分だと思うのだけど、「ちょっと待ってくださいね」くるりと背中を向けて、自分の脱衣かご(この開放的な温泉にはコインロッカーというものは相変わらず用意されていないのだった)をあさり、半ズボンの中から白布を引っ張り出す。

「パンツ。まだ誰にも見せたことないです。お兄さんが初めて」

「おお……」

 それは、とても光栄なことだ。

「ありがとう。パンツも大好きだよ」

 口に出していつきからそれを受け取り、……いまのぼくのセリフは相当に程度の低いものであったなあ、とちょっと反省したところで、

「んっ」

 ぼくは、思わず声を発した。

「パンツ、あると……、ばれちゃうから、いっつも温泉はいるときはズボンとかシャツとかの中にぐるぐるって隠して入るんです。誰かに見られたら恥ずかしいし……、でも、お兄さんならいいやって思いました!」

 いつきは、股間を隔している。恥ずかしそうに頬を染めているのは、さっきのキスと、ぼくにパンツを見せてくれているという二つの理由であろう。

 いつきが手渡してくれた白いパンツは、ブリーフではなかった。

 ぼくは手元の白布といつきとを、交互に見て、……二往復、三往復。

「いつきは」

「はい?」

 声が掠れている。震えている。

 髪は短く、綺麗な顔をしてはいるけれど、胸はぺったんこ。さっぱりした喋り方で、ぼくは、……全く何のためらいもなく、「少年」だと信じて疑わなかった。

 のだけど。

 ぼくの手元にある下着は、「ショーツ」と呼ぶべきもの。

 男の子だと思った、なんて言うのが失礼だということはもちろんすぐに察した。

「いつき……」

 ここにおいて問題なのは。

 いつきが女の子だったとして、ぼくにとって彼改め彼女の魅力を少しも減じさせる理由にならない、ということ。以前だったらどうだったか判らないけど、いまやぼくはショタコンなだけではない、ロリコンの男でもある。要するにただのヘンタイだ。

「いつきは、……えーと、いっつも裸で男湯に入ってる……?」

「はい。パンツはさっき言ったみたいに隠して、……こうやって隠してたら、女子だってわからないですし。それに、男湯入らないとちんこって見られないし……」

「まあ……、まあ、そうだろうけども」

「それにほら、あたし胸ぜんぜんないし、髪短いから男子みたいって思われると思うし」

 世の中には、昴星みたいに女の子顔の男の子もいる。

 逆に、男の子のように見える女の子がいたって、何を不思議がる理由があるだろう?

 いつきは可愛い、それでいい。

「……いつき。さっき言ったように、ぼくはすごい変態だよ。だからこれから……、いつきのこと気持ちよくしてあげる、あげたい、でも、……すごく変なこと言っちゃうと思うんだ。いつきに嫌われるかも知れないようなこと……」

 いつきは、ぼくが言ってもけろりとしていた。

「いいっすよ。だってほら、あたしもフツーにしてたら変って言われちゃうようなこと、お兄さんに言っちゃったし、……だから、お礼にパンツ見せたんです。恥ずかしいの平気ですよーって」

 ぼくは、跪いていた。

「じゃあ、いつきの、女の子のところ見せてくれる?」

「んーと……、はい!」

 意を決したように、男湯の客たちから隠していた場所から、掌をどけた。

 女の子、だった。

 清楚な筋が、足の間にぴっと短く在る。まだ毛は生えていない。それだけに、とても生っぽくてリアルな場所だ。

「へへ……、やっぱちょっと、恥ずかし……」

「そうだよね……。誰にも見せたことないんだ?」

「うん……、男の人は、お兄さんが初めて……」

「それはよかった。……他の男に見せちゃダメだよ? その……、ぼくは絶対に乱暴しないって約束する。でも、みんながみんなそういう訳じゃない。だから、男湯入るとき誰かに女の子だってばれたら、怖い思いするかもしれないし」

 うん、といつきは素直にうなずいて、

「もう、男湯には入らないと思います」

 と言った。

「だって、もうお兄さんのちんこ触らせてもらったから。……お兄さんはこれからも見せてくれますよね?」

 そりゃあ、望まれればいくらだって。

「じゃあ、もう他の人のはいいかなって思います。さっきみたいにさせてくれる人、他にいないと思うし、お兄さんみたいに優しい人じゃなかったら」

 優しい人じゃなかったら。これはかつて流斗にも言われたし、諭良にも「優しそうだったから」って言われたことがある。……自分の顔を鏡に映してみても、まあそれほど見栄えのする方ではない、地味な顔だなあと思っているのだけど、他ならぬ天使のような子供たちにそう思って、心委ねてもらえるのならば悪いもんじゃない、きっと。

「お兄さんの、さっき言ってた、『へんなこと』って何ですか?」

 いつきは、興味津々な顔で訊いた。

「……ええと……」

「大丈夫っすよ、笑ったりしないです! 約束します。引いたりもしない、と思います」

「うーん……」

 でも、普通はどうだろう……? 流斗のようにあらかじめ昴星から「教育」を受けた子ではない、由利香のように仕事として淡々とそれをこなしてきた訳でもない。

 けれど、ぼくは結局目の前のワレメの魅力に屈した。

「……いつきの、さ、……その、オシッコをするところが、見たいな、と思う」

「しっこ」

「ああ……。ぼくは、……その、好きなんだ。オシッコが。男の子のも、女の子のも。オシッコするところを、見るのがね。普通にしてるところも好きだし、あと、オモラシ、パンツ穿いたまま……、してるところ見るのも好きなんだ」

「へー……、じゃあ……、ええと、お兄さんはその、付き合ってる子たちの、しっこするところとか、あと、漏らすところ? とか、見てる……、んですか?」

 いつきは、ビックリしている。まあ、当然だろう。けれど、「引いたり」はしていないように見えた。

「……んーと……、お兄さんは、その、……あたしの、しっこ、するとこも、見たい……、んですか?」

「……うん」

 気まずい。自分が変態であることを告白するという行為は、何度繰り返したって慣れられるもんじゃないし、一般的にそんなことを繰り返そうとする人間もいないだろう。

「あー……、じゃあ……、えーと、……いい、っすよ?」

 いつきは、そっと自分の股間に手をやって言った。

「その、……ちょっと、トイレ、行きたいなーって思ってました。だから、その……、そのついでに、お兄さんに見せるっていう感じにしちゃえば、恥ずかしいの、そんなないかなって……」

「見せて、くれるの?」

 裸の少女は、頬を染めてこくんと頷いた。

「でも、……どうしよ。ここ、トイレないです。ちょっと行ったとこに、公衆トイレはあるけど」

 いっそお風呂でしちゃえばいい、と思いかけたけど、誰かが来たら困るのはこの子以上にぼくである。

「じゃあ、そこまで行こうか。……大丈夫? オシッコガマンできる?」

「うん、平気です」

 ぼくらは大急ぎで髪を拭き、服を着た。いつきの服はやっぱり男の子っぽい、というか、本人意識してそういう服装を選んでいるに違いないものだった。パンツは女の子の可愛いものだけど、その服だけ見ればなるほど、何食わぬ顔で男湯に入ってペニスの観察をするのはそう難儀なことでもなかったろう。

 ちょっと行ったところ、には確かにトイレがあった。男女の差はなく、道端に貧相なつくりの建物、朝顔の小便器が一つと和式の個室が一つあるだけ。いつきは時折股間に手をやりながら、

「えっと……」

 ぼくを見上げる。

「うん、……じゃあ、見せてくれる?」

「はい……、わかりました」

 恥ずかしそうにうなずいて、……恥ずかしいならやめといた方がいいよな、と思いかけたぼくに、

「お兄さん、さっきちんこいっぱい触らせてくれたから、あたしもお礼しなきゃ」

 思い直したようにいつきは笑って、個室に入った。ぼくも一緒に入って、中から鍵を閉める。

 いつきは「えいっ」と躊躇いと半ズボンとショーツを、一緒に引き下ろした。それから、「すいません」とぼくの腕に捕まりながら、それを足から抜こうとする。

 無防備なワレメが丸見えだ。

「え、何で脱ぐの……?」

「んっと……、和式でするとき、あたしいつも、脱ぐんです、むかし、……むかしって言っても、去年ですけど、思いっきりズボン濡らしちゃったことあって、それからは」

 恥ずかしそうに言って、ズボンとパンツを胸に抱き、一つ深呼吸をして、

「じゃあ、しっこ、します!」

 凛々しく宣して、大きく足を開いたまま、白い和式便器を跨いだ。

 すぐに、ぷしゅうううと金色のオシッコが真っ白な秘裂から湯気を上げて噴き出した。

「おお……」

 その美しい様子に、思わず声が漏れた。

「……お兄さん、めっちゃ見てますねえ……」

 恥ずかしそうにいつきは唇を尖らせる。「女子のしっこも、見たことあるんでしょう……?」

「あるよ、何度も……。でも、いつきのを見せてもらうのは初めてだし……」

 色が濃い。けっこう我慢していたんだろう。白い陶器の中の水溜りはどんどんいつきのオシッコの色に染まって行く。美しく、鮮やかな黄金色だった。

「ガマンしてた?」

「……はい、ちょっと、漏れそうになってたかも……」

「いっぱい出てる……、すっごい可愛いと思う」

「そう、かなあ……」

 もちろんぼくは少女の長い放尿を見て、興奮していた、勃起していた。

「うー……、やっぱし恥ずかしいかも……」

「そう? いつきのオシッコ可愛いよ?」

「わかんないですー、だいたい、しっこって臭いし、汚い……」

「可愛い子のオシッコは臭くないし汚くもないと思ってる」

「だからぁ……、あたし、可愛くないと思います」

 可愛いよ、すごく可愛い。髪を撫ぜて、紅く染まった頬に触れてみると熱いかと思ったら結構冷たい。あとでもう一度お風呂に戻るのもいいかもしれない、と思う。

「いつきは可愛いよ。さっき声かけてくれたとき、すごく嬉しかったし、裸になってくれちゃったときにはドキドキしたし……、いまもそうだよ、すごく興奮してる」

 いつきの放尿がようやく終わった。しゃがんで向き合って見ていたぼくは立ち上がり、いつきの手を自分のジーンズの前部に導いた。

「わ……、え? 勃起……、お兄さん、してる……?」

「いつきのオシッコ見せてもらったから。いつきの可愛い女の子のところもね」

「あたしの……、女子のとこ……」

 いつきは、自分の股間にそっと目をやる。それから目の高さのぼくの股間を見て、それからぐいんと立ち上がって、

「もー、お兄さんってヘンタイですね、本当に、すごく、マジで」

 笑いながらぼくにぎゅうっと抱き着いた、というか、しがみ付いてきた。

「そう、だねえ……」

「こんなの、こんっなの、絶対おかしいと思います。誰かの見てる前で、男の人の前でしっことか……、ちんこ触っちゃったりとか……」

 そうなんだよねえ……、とぼくは同意することぐらいしか出来ない。

「でも……」

 いつきはずっと、ぎゅうっとぼくにしがみ付いていた。あったかい。ぼくがそう感じるようにいつきもあったかく思ってくれたらそれが幸せだ。

「いいですよ。お兄さんともっと遊びたいです。お兄さんのしたいことして、あたしも楽しいし、だから、遊びましょ。恥ずかしいの、ちょっとガマンするから、あたしお兄さんのちんこまた触りたいです」

 いい子だなあ、と思う。いや、こういう子を「いい子」だなんて思っちゃいけないんだけど、でもぼくにとってはすごくいい子だ。

「いつきは、……ええと、どういうこと、知ってるのかな」

「どういうこと?」

「うん、その……、男女の、こと」

「それは」

 いつきはぼくにしっかりくっついたまま、ちょっともじもじと恥ずかしがった。

「……その、セックス、とか、そういうの……、ってことですよね。えっと、……んー、ほんとうは、あんまり知らないです。その、……さっきの、フェラチオっていうのも、セックスの仲間っていうか親戚みたいな……?」

「うん、まあ、……含まれると言ってもいいだろうね。そうか、あんまりよくは知らないんだね」

 いつきは少し申し訳なさそうにうなずいた。由利香のような子ならばいざ知らず、この歳の女の子なんだから知らなくってもいいに決まっている。……差別的と捉えられるかもしれないけれど、東京ならばいざ知らずこの温泉街であればなおさら。

 ぼくのペニスは、ぼくにとってはどうでもいいことだし実際誰かと比べたこともないけれど、子供たちにとっては「大きい」ものであるらしい。そう考えたとき、由利香と同じくらいの背丈しかないいつきにとっていきなりこういうものをずぶりと挿れることがどれだけリスキーかということには当然考えが至る。

 もちろんのこととして、フェラチオをしてもらえるだけでも幸福過ぎると捉えるべきだ。そしてなによりまず先に、

「少しずつ、知って行けばいいよね」

 この子にお礼をしなきゃ。素敵なものを見せてくれたお礼。

「あ、お兄さん待って待ってっ……」

 いつきの足の間は濡れている。それは欲の表れではなくて、シンプルに少女がオシッコをしたばかりだから。

 自分のオシッコに触られたら、誰だってそういう声を上げる。ぼくだってそうだろう。でもぼくは触りたかった。

「もお……、きたないですよー……、そんなの……っ」

「ごめんね、でも、……好きなんだ」

 ぼくは屈んで、まだ湿っぽいオシッコの臭いを漂わせるいつきの股間に鼻を寄せた。いつきが逃げないように、お尻に手を回す。……ああ、お尻もとても瑞々しい。由利香よりもきゅっと引き締まっている印象だ。

「さっきも言ったけど、ぼくはオシッコがすごく好きだ。いちばんのヒミツだと思うからね……。いつきは、誰かにオシッコするとこ見せたことある?」

「ないですよお、そんなの……」

 いつきはぼくが尿の臭いを嗅いでいることに早くも気付いたようだ。困ったように腰をよじる。

「男の子同士なら並んでオシッコして、おちんちんの見せ合いしたりすることもある。けど女の子はそんなことしないよね? だからぼくはいま、いつきの一番ナイショのところを見せてもらったと思ってるよ」

 いつきのシャツを捲って、痩せたお腹にキスをした。肌がとてもきれいだということは、唇を当てて改めて感じる。何ていうか、透明感があって、……柔肌、という言葉が思い浮かぶ。女の子だ、とはっきり思わせる。

「ナイショの、とこー……」

「うん」

「……お兄さんの、さっきの、勃起、と、射精も、ナイショのとこ、……です、よね?」

「まあ、何人かの男の子や女の子には見せてるけどね」

 いつきが、お尻を逃がそうとする動きをやめた。

「……じゃあ……、ナイショとナイショで……、でもっ、お兄さんあたしのしっこでほんとにそんな……」

 さっきぼくのペニスに触ってそれを確認させたばかりだ。ぼくは落ち着いて微笑んで、

「ヘンタイだからね」

 とさっきより少し気楽になって告白した。「本当は、もっと思い切ったことしたいぐらいだよ。いつきのオシッコを飲みたいって思うし、全身でいつきのオシッコ浴びたっていいと思ってる」

「うへえ……」

 いつきは心底から困っていたが、それでも少し、笑うのだった。

「ヘンタイだぁ……。もう、お兄さんそんなヘンタイって知ってたら、追っかけなかったかもー」

 追っかける? 訊きかけたぼくと、明らかに「あっ」て顔をしたいつきと。

 いつきは真っ赤になって、シャツの裾をもじもじいじり始める。

「だ、だって……、さっき、お兄さん、川辺の温泉、いて、……出たとこで、ひょっとしたら、追いかけて行ったら、山ゆりのとこ、行くかなって。あそこだったら、人いないから……、ひょっとしたら、仲良くなって……」

「ぼくの、見られるかも、って?」

「う……、はい……」

 いつきは白状した。

「いつきはえっちな子なんだね」

「そ、そんなことはぁ」

「いいよ。……いつきの女の子のところたくさん見せて欲しい、いつきのオシッコの臭いもっと嗅ぎたい、舐めたい。お互い正直でいよう」

 いつきの許しも待たず、ぼくは目の前のいつきのスリットに舌を当てた。途端、

「っひゃあ!」

 って、いつきが高く声を弾ませた。

 ほんのり、しょっぱい。でもしょっぱさは強くない。由利香のオシッコはしょっぱい、それはオシッコの味については誰より敏感な舌を持つ昴星が保証するところであるけれど、ぼくにだってそれは判る。いつきのオシッコは由利香よりも丸い味がした。

「な、舐めて……、るん、……ですか? お兄さん、その、あたしのっ……」

「オシッコが特別好きな男でなくっても、女の子のここは舐めるよ。ここも、お尻の穴もね」

「お、おおお、お尻っ……?」

「女の子が気持ちいいって思ってくれるところを片っ端から舐めて行くのが、男としての責任かもしれない」

 我ながらごく勝手なことを言っている。ようは僕が舐めたいだけなのだけど、……つるっつるのすべすべの、少女のスリットにまた舌を当てる。いつきは驚愕しつつも、それが「男としての責任」とぼくの言ったことを信じることにしたのかも知れない。

「……ひゃっ……、ん……」

 まだ、味は変わらない。けれどいつきは確かに身体を微かに震わせる。

 少女にとって初めての姓の悦びを、ぼくが贈っているのだ。

「気持ちいい?」

 舌を外して、訊く。いつきは真っ赤になって、目をまん丸にして、うんともすんとも言えない。

「さっき、いつきがぼくのを舐めてくれたとき、すごく気持ちよくなれた。女の子もおんなじように気持ちよくなれるんだ」

「う、うう……、そう……、なの……、っす、……か?」

「でもって、そうやって相手が気持ちよくなってるっていうのが判ると、してる方もすごく興奮してくる。ぼくのも、さっきよりもガチガチになってる。いつきの女の子のところたくさん見せてもらってるし、オシッコ舐めさせてもらったしね」

 いつきにはまだそれが信じられないかもしれない。立ち上がって、ベルトを外して、下着からペニスを取り出す。そりゃあもう、これだけしたらもうガチガチだし、先端に滴も浮かんでいる。いつきはそれを見て、ぼくの表情を一度伺った。触っていいかと訊いている顔だったから、ぼくは頷いていつきに任せた。

 ひんやりした手のひらが、指が、

「あっ……、すっご……、あっつい……」

 ぼくのペニスに絡んだ。

「いつきがぼくのをこんなに硬くしたんだよ。いつきが触らないでも、いつきで興奮して、こんなになったんだ」

 いつきはそれがまだ信じられない様子だった。初心な少女は自分の排尿姿とかオシッコそのものでこんなに興奮する男がこの世に存在することじたい、まだはっきりと把握できてはいないのだろう。

 でも、おっかなびっくりの手つきでぼくを愛撫する。

「兄さ……、ちんこ、……きもちいい……?」

 うん、すごく気持ちいい。いつきの髪を撫ぜて、頬に指を当てて、上を向かせる。唇を重ねても嫌がられなかった。

「あ……、お兄さんのちんこ、すごい……、ぴくって、……キス……、したから……?」

「そうだよ……。恋人みたいだね、いつき、もっとキスしようか」

「ん、はい……」

 口開けて、と囁いてから、そっと舌を差し入れてみる。はっきりと肩が震えた。でもそういうキスがあるということぐらい、知識としては持っていたのだろう。おずおずと舌を返してくる。手はすぐおざなりになった。けれど、ぼくの先端から零れた腺液はもういつきの指を汚しているらしかった。

「ぼくはいつきの女の子のところ触ってて、……いつきはぼくの男のところに、触ってくれてる。解る? いま、すごくえっちなことしてるんだよ……?」

 少女の唾液は透き通った味がした。お風呂上がりだから、いつきの肌からは体臭と呼べるべき臭いは少しもしない。それがちょっと残念に思えるぐらい、ぼくはいつきに激しい興奮を催していた。いつきの指は決して巧みではないけれど、それでも一生懸命にぼくをより高めようとしてくれているのが判る。

 ぼくの指は、さきほどからいつきのアソコの中へ時折滑って潜り込んでいた。

「いつきは、自分でここ、いじったことある?」

「こ、こ……」

 濡れた唇で、ぼくの指が宛がわれた自分の股間に目をやって、ふるふると首を振る。

「そう、……いい子だね、お利口さんだね。もしこれから触るときには、手をちゃんと洗って、きれいにしてからするんだよ?」

「ん……」

 こく、と頷いて、自分の身体の中に他人の指が、要するに異物が、入り込んでいることにまだ不慣れな表情を浮かべた。けれどほんの少しでも動かせば、いつきの身体にはいつき自身もうそれを「快感」と解釈できる震えが走る。

 このまま、いかせることって可能かな……。でも、あんまりこのトイレで思い切ったことをするべきではないかも、という気もする。自分の地元ならいざ知らず、まだそう詳しくない街のこと。ぼくが認識していないだけで、このすぐ近くにも公衆浴場があったりしたら、誰も来ないとは限らないし。

 ぼくにそういう思いが過ったところで、

「お兄さん……、の、ちんこ……、さっきの、したいです」

 いつきがぼくを見上げて、震えた声で言った。

「さっきの?」

「……ん……、ふぇら、ちお……、っていうの……。お兄さんのちんこ、さっきから、すごくビクビクしてて、ちょっと、しんどそう、だから……」

 ぼくも、せっかくだからまたしてもらおうか。……そんな気持ちになる。けれどそれじゃあしてもらいっぱなしだ。

「フェラチオも嬉しいけど、……そうだな」

 ちょっとだけ考えて、「いつき、壁に手を付いて、お尻こっちに向けてくれる?」とぼくは求めた。

「お尻……?」

 少しためらいがちに、でもいつきは裸の白いお尻をぼくに向けて突き出した。足の間に便器を跨ぐ格好、だから初めて見せてもらういつきのアヌスも露わだし、縦の深い一本筋も丸見えだ。そこがほんのり湿り気を帯びているのも、とてもいい。

「いつきはまだ初めてだから、『セックス』は出来ないけど、でも、それに近いことをしたいなって思った。……いい?」

「せっ」

 びっくりしたように振り返って、「セックスって、その、……あの、大人しか出来ないんじゃ……」少し、おびえたような顔になる。

「子供でも、出来るよ。でも最初は大変だから、その真似だけしてみたいなと思ったんだ。いつきが痛かったり苦しかったりってことは、ないはずだよ」

「セックス、の……」

 いつきが、ごく、と唾を飲んだ。ぼくのペニスに目をやる。いつきの手によってそれが激しく張りつめて、解放のときを求めているのだということは、まだ幼い彼女にもはっきり認識してもらえたはずだ。

「えっと……、あたし、どうしたら、いいですか……」

「そのままのポーズでいてくれればいいよ」

 いつきの身体は端正だった。足がすらっと長くて、細くて。でも腰の位置はやっぱり大人の男としても割と背の高いほうに入るぼくとはずいぶんずれる。少々窮屈であるのはしょうがないとして、足を開いて膝を曲げて、

「あ……!」

 いつきのワレメに、自分のペニスの背中を下から押し当てる。いつきの背中がぴんと伸びた。

「セックスのときは、このままいつきの女の子のところにぼくのを入れちゃう。でも、初めてだと大変だから今日はその代わりに、ぼくといつきの一番気持ちいいところをこすりっこしよう。さっき指でしたみたいに、こんどはいつきのおまんこと、ぼくのこれで、一緒に気持ちよくなるんだ」

 セックス、と言い切ることは出来ないにせよ、ぼくらがいま限られた時間で一つになる方法はこれしかないだろう。いつきは自分のいちばん大事なところに男の陰茎を当てられて、声も出せないでいる。

「……怖い?」

 ぼくがそっと訊いてみると、

「んんん」

 いつきは首を振った。振り返ったとき、彼女は震えながら、笑顔を浮かべて見せていた。

「何か……、すっごく、嬉しいです、ちんこと……、こんなこと、してる、すっごい、大人に、なっちゃったみたい……!」

 彼女は、無邪気だった。震えはおそれの感情の表れであろうとは思うのだけど、その一方で自分がそういうことをすると、……ちょっと前までは想像さえしたことなかっただろうに、そういうことが「出来る」という事実を受け止めて、それを喜びだと感じている。

「お兄さんの、ちんこ……、熱いのが、恥ずかしいけど……、すごく、嬉しい……。あたしなんかで、こんな、男の人がちんこ、硬くしちゃうなんて……」

 いつきが、自分の股間に生えたように見えるだろうぼくの陰茎に手を当てた。「お兄さんのちんこ……」そうやってあてがわれるのは、思いのほか嬉しいことだった。

「じゃあ……、このまましちゃうよ? 一緒に気持ちよくなってくれたら、すごく嬉しい」

 言って、ぼくは腰を動かし始めた。いつきのおまんこからは、じわじわと新しい液があふれてくる。それは彼女とぼくとの間でよく滑り、彼女をより心地よくするために大いに役にたつ。

 そこが、どんどん熱くなっていく。

「あ……う、うっん、んっ……んぅ、ん、んっ、んっ」

 いつきの漏らす控えめな声は、彼女の身の中に迸る初めての快感があっという間に彼女の輪郭からはみ出して零れたものだ。ぼくはいつきの腰に手を当てて自分のペニスで擦り上げながら、もっと、もっと気持ちよくしてあげなくちゃいけないと心底から思う。そう思えば思うほど、腰のスピードは上がった。

 でも、その願いがかなえられるほどぼくの理性は強くもなかった。いつきが柔らかな手のひらでぼくの亀頭を受け止めてくれるのが、まるで本当にいつきとセックスをしているみたいな気持ちにさせられて。

「いつき、いくよ……、出るよ……!」

 いつきは、きっとおまんこでぼくの脈動を感じた。

 ぼくはいつきの手のひらに、何度も何度も精液をぶつける。いつきはそれを少しも嫌がらないで、ぜんぶ受け止めようとしているみたいだった。

「……お兄さん……、お兄さんの、射精……」

 いつきは震えた声でそうつぶやき、そっと、自分の股間を伺う。

「あは。……なんか、あたしにちんこ生えちゃったみたい……」

「……そう見える?」

「はい、……ちんこ、欲しいな、生えてたらいいのになって、ときどき、思ってました。だから、なんか嬉しいです……」

 いつきの後頭部に唇を当てて、そっと腰を引く。いつきの太腿にまで、いつき自身の液体があふれて伝っていた。いつきの手、拭いてあげなきゃと思っていたのに、いつきは自分の手のひらをじっと見つめて、それから止める間もなくぺろりと舐めた。

「ああ……」

「……ん」

 いつきはぼくを見上げて、口の中の精液をしばらく転がしてから、こくん、と飲み込んだ。

「……えへへ。さっきびっくりしてすぐ飲んじゃったから、味あんまり判らなかったから……」

「そんな美味しいもんでもないでしょ……」

「ううん、お兄さんだってあたしのしっこ飲んじゃったから、おあいこです」

 可憐な微笑みだった。男の子っぽく見えたのが嘘みたいに、それは間違いなく少女の浮かべる微笑みだ。溜まらなくなって抱きしめて、おでこにキスをする。いつきは片手だけでぼくに抱き着いて、

「ね、お兄さん、もういっかいお風呂、入りたいです。こんどはお兄さんの背中洗います。でもって、……もししたくなったら、今度、もう一回、しっこするとこ、見せてあげます」

 いつきは、少女の声でそう言った。


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