お兄ちゃんはぼくのどこが好き?

「お兄ちゃんはぼくのどこが好き?」

 夕飯後、お風呂で温まって、まだ寝るには少し早い時間の流斗の寝室。ベッドに下着だけで座ったぼくの膝の上、当たり前のように収まったパジャマ姿の男の子がそう訊く。

 全部。

 そう答えかけたぼくの唇に指を当てて、流斗はくすりと笑う。その答えでは満足しないのだ。

「ちゃんとね、一つひとつ、言ってほしいな。……ううん、言ってくれなくってもいいから、ぼくにわかるように教えて。お兄ちゃんがぼくの『恋人』って、ぼくはお兄ちゃんにすっごく好きって思ってもらえてるってわかるように」

 ちょっと気が咎めていたけど、初対面のルカの裸に興奮しすぎてしまったかも知れない。ぼくは頷いて、膝の上の少年の、……実際そりゃもう全部可愛くって大好きなのだけど、まず髪に唇を当てる。

「教える」って、これでいいのかわからないけど……。

「かみのけ?」

 流斗の髪は、ふんわりとしたカールがかかっている。これは天然パーマだ。そう強くはない、髪そのものも柔らかい。

「……天使みたいだ」

 と思うのである。

 実際「天使」というイメージを形成するものってたくさんあるだろうけど、流斗の場合このふんわりヘアがかなり重大な要素のひとつであると思う。言うまでもなく、その愛くるしい顔立ちも、それを手伝うけれど。

 前髪を退かして、額に唇を当てる。優しく描かれた細い眉、ぱっちりとした二重まぶたの大きな目、瞳は生まれつきか薄いブラウン。まだお風呂の熱を身体に篭めて、ほんのりピンク色で甘ったるいほっぺた。

 昴星は、女の子かと見紛うような中性的な美しさがある。

 諭良には、ハーフ特有の透けるような肌と凛々しさが。

 では流斗には何があるか。

 この子はちゃんと男の子に見える。

 しかし男の子として極められる限りの「可愛さ」というものが、流斗の相貌にはあるようにぼくは思うのだ。豊かな表情、長い睫毛、口付けをせずにはいられないような気にさせる唇……。

 ぼくが目尻に唇を当てると、ちょっと身を強張らせる。「……嫌だった?」

「んん、……ぼくの、目?」

「うん……。流斗の目は、すごく綺麗だと思うよ」

 嘘と演技が上手な子であることは確かだ。

 でも、流斗がぼくと二人きりで居るときに見せる、その目の表情。本当が其処にある。流斗はたぶん、ぼくに対してだけはほとんど嘘をついていないはずだ。そう信じることが出来るような目を、いまもしている。

 ぼんやりあたたかい両方のほっぺたに唇を当て、唇に唇を重ね、それから控え目な鼻にも、庇護欲をそそられるような小さな耳にも。

 本当に「全部」が大好きだから、こうやって一つひとつを愛でていくこと、ぼくにとって苦でも何でもない。

 こういうとき、ぼくは単なる「ショタコン」じゃなくって、本当に流斗という男の子が好きなだけなんだと思う。流斗がもし女の子だったとしても、ぼくは同じようにするはずだ。ぼくはもう、単に流斗のおちんちんやお尻だけが可愛いわけじゃない……。

 細い手首を取って、手の甲に。

「……お兄ちゃん、なんだか……」

 指の、一本一本に。「ん……?」

「わかんないけど……、ぼーっとしてきちゃった」

「……眠くなっちゃった?」

「んーん、でも、……ぼんやりする。なんでだろ、……でも、すごいうれしい……」

 にこー、と微笑む。その笑顔に惹かれてもう一度唇にキスをしてから布団を捲り、シーツの上に横たえて、残りの指も、手のひらも、キス。

「ぼく……、お兄ちゃん大好きだよ」

 流斗はとろりとした声で言う。

「うん、ぼくも大好きだ。流斗に『お兄ちゃん』って呼ばれると、……上手く言えないけど」

 その足へと頭を垂れる。ほんの小さな、本当に小さな、小指の爪、……というか、足のサイズからしてもう、ぼくなんかより全然小さい。

「流斗のこと、幸せにしてあげなきゃ、守ってあげなきゃ……、って。もちろん、いっつも思ってるんだけど……、それをもっと、強く思う……」

 流斗はくすぐったがることもなく、染まった頬に潤んだ瞳で足の指を一本ずつ口に含むぼくを見詰めていた。

 全部と言ったら、本当に「全部」なんだ。だからぼくは、流斗の全身、……いまの時点で長袖のパジャマから出ているところに余すことなくキスが出来たら、それから裸にして、全身を唇で這い回る気でいた。時間など惜しくはない。

 それだけ、集中していた。

 流斗の「パジャマの中」への興味というか意識というのは、普段のこういう時間よりも薄かったかも知れない。

 だから、

「あ……」

 不意を突かれた。

 ぼくの、左足の小指から始めた足への口付けが右足の中指まで至ったところで、流斗が微かに震え、くぐもった水音を立てさせ始めたことには。

「あ……あ……」

 流斗は呆然とぼくを見詰めながら、失禁しているのだった。

 オシッコの我慢は、昴星や諭良に比べて二歳年下でありながら、この子が一番得意なはずだ。オネショだってほとんどが故意のもの。このシーツにも、そういう染みは付いていなかった。

 紅いパジャマをぐっしょりと濡らしながら、まだ暖房が効ききっていない寝室に薄っすらと湯気を立てて、……大量のオモラシ。流斗はどうして自分がオシッコを漏らしてしまったのかを判っていないように、ただただぼくを見詰めていた。

 原因として考えられるものは、いくつかあるだろう。お風呂上がってからすぐこういうことをするのは予定の通り、だから流斗の水分量は多かったし、もうオシッコをガマンしていたはずだ。

 ただ、それだけではない。括約筋のしっかりしたこの子が漏らしてしまったのは、指先に受けるぼくの口付けが、この子の心と身体の深いところまで弛緩させたということ。

「……ちょっと待っててね」

 足の指を舐めた。ぼく自身は汚いなどとは思わないけれど、この子の唇にキスをすると思えばこのままではいられない。大急ぎで洗面所で口を濯いで戻ってきたとき、まだ流斗は動けないまま、ぼうっとしていた。ぼくはすぐに少年の頬に手を当て、

「愛してるよ」

 囁いて、唇を重ねた。

「……ぼく……、オモラシ……」

「うん、……可愛いよ。オモラシしちゃった流斗、すごく可愛い。天使みたいだ。……もっと続きしていい? ぼくのさ、流斗の、好きなところ、まだたくさんある。ここまで来たらもう、全部、したいよ」

 こくん、流斗は頷いた。でも、「……ズボン」と濡れたところへ目をやる。

「わかった。じゃあ……、すっぽんぽんにしてもいい? 流斗の裸、見てもいい?」

「ん……」

 まだ、流斗には戸惑いがある。考えてみると、初めてお尻だけで行ってしまったときもこの子は戸惑っていた。たぶん、……とても賢い子だから、自分の身体が自分の想定していない反応を示してしまったときの戸惑いは、普通の子以上のものとなって心を包むのだろう。

 大丈夫、怖くなんかないよ。

 もう一度、今度はおでこにキスをしてから、パジャマのボタンを外す。華奢な、細い胸板、ぼくが守らなければいけないところ。愛撫の前に、ズボンを脱がせる。

「……いっぱい出したね」

 流斗は滅多にそういう顔はしないが、恥ずかしそうに、こくん、頷いて下半身をぼくに委ねる。ブリーフは濃い黄色に染まっていて、臭いも強い。けれどブリーフを足から抜いて、

「流斗のここも、ぼくは大好きだよ。ぼくのためにたくさん幸せを出してくれる、可愛いおちんちん」

 語りかけ、顔を寄せて、先っぽにキスをする。オモラシをした後でもおちんちんが勃起していない流斗なんて、本当に珍しい。

 もっとも、平常時の大きさだった時間はわずかで、

「……ふ、あ……」

 これまで、手足や身体の末端に集中していた愛撫が、体幹に至る段になっては、手のひらで包んだ場所はすぐにコリコリと固さを帯び始めた。

「流斗のおっぱい、ぺったんこだけど、本当に綺麗だね。……乳首もほら、薄いピンク色で、ちっちゃい女の子みたいだ……。でも女の子よりも流斗は可愛いよ」

 舌先に引っ掛かる粒、それから肌の薄さを感じさせる胸板を唇で歩く。……跡を付けてみたいという欲求に駆られるが、そんなことをしてご両親にバレてはことだからぐっと堪え、そこから離れる。

 昴星よりもずっと細いお腹。食もそう太いほうではない。変声期どころか成長期というものがまだずっと遠くにあって、……この「天使」のような少年がやがてどんな「男」になって行くのかということを想像することも叶わない。

 ただ、何だか途方もないことのように思えるのだ。

 流斗が「大人」になる。その側にいられますように……、とぼくは願わずにはいられない。とても神々しい気持ちで、そう、願わずにはいられないのだ。

「さっき、ぼうっとしてたから」

 唇で流斗の肌を辿る。温かいのはもう、お風呂上がりだからではない。

「もう眠くなっちゃったのかなって思ったけど、……そんなことなさそうだね」

「ひゃ……」

「ここは昼間みたいに元気一杯であったかい」

 手のひらを押し返してくる幼い茎を摘む。皮越しのカリ首のふくらみはくりっとしていて、細く子供っぽい流斗のおちんちんのフォルムにあっていいアクセントになっているように思う。

「……お兄ちゃん、お兄ちゃん、おちんちんも好きって言って」

 流斗はきゅっとぼくのシャツを掴んで強請る。

「うん、……流斗のおちんちん好きだよ、大好きだ」

「じゃあ、おちんちんもキス。ほかのとこよりいっぱい……」

 いきたいのだろう。畏まりました、ぼくの天使。先に唇に口付けて、顔をその場に近付ける。柔らかく優しいオシッコの臭い――本当に、どうしてかこの子のオシッコはいつもいつも和むようないい臭いがするのだ――を醸す先端に一つ、茎の裏側に一つ、それから小さなタマタマの、左に右に一つずつ。

「ひう……ン……」

 目と鼻の先にある少年の性器がピクピクするさまは、何だかもう、胸がぎゅっとなるぐらいに愛らしい。すぐにしゃぶりついてしまいたいけれど、ぼくが「好き」と思うのはまだ他にもある、たくさんある。お尻だってしてあげたい気でいる。でもそこに至るまで、恐らく流斗は我慢出来まい。我慢強く賢い子であるにせよ、きっと泣いてしまう。

「流斗の……、オシッコも好きだよ。おちんちんの周り、……タマタマも、すごくいい臭い。可愛いね」

「オシッコ……、オシッコだけ……? ぼくの、ほかの……」

 流斗は焦れたように指を伸ばし、皮を捲ってみせる。艶めいた亀頭から「和む」というよりは一層欲を煽るようないやらしい臭いがツンと鼻を刺激する。

「……美味しそうだね、流斗のえっちなおつゆ。……もちろん大好きだよ? 舐めさせてくれるの?」

「んっ、おちんちんのおつゆぅ……ンッ!」

 男の子のおちんちんを舐めるの、これが何度目だろう?

「んぅうんっ、おにいちゃ、っ、おにいちゃんっ……」

 いつ舐めたって、やっぱり美味しい。そのときどきに味の濃さや種類に違いはあれど、例外なく美味しい。男の子のおちんちんって、そういうものなのだ、ぼくの舌っていうのは要するに、男の子のそこを「美味しい」と感じるためにだけある器官なのだ。

 でも、たぶんそれも「違う」のだ。

 流斗と、昴星と諭良。ぼくを「恋人」だなんて思ってくれる三人。他の少年のおちんちんに食欲を催したりはしない、……って、さっきはルカ、これまでも才斗や陽介に瑞希としゃぶりついて味わって来たけれど、もうこれぐらいでいいかなって気はする。ぼくはそんなに器用じゃない。

 とにかく自分に向けてくれる思いに対して、しっかり、責任を持って返すことが出来るように。それだけ心がけていれば及第点だ。

「うはぁ、あっ、もぉ、っせーしでるよぉ……っ、せーしっ、出ちゃう出ちゃうっ」

 やっぱり、果汁のような甘酸っぱさを微かに伴っている……、オシッコのしょっぱさの直後だから余計にそう思うのかもしれない。愛らしい味と形容するほかないような精液をぼくの口に舌に、流斗はもたらした。

「はぁ……う……」

 流斗は余韻の震えを催しながら、それでもぐったり身体を休めるということはしない。すぐに起き上がって、

「お兄ちゃん」

 ぼくに抱き着く。

「お兄ちゃん、大好き。大好き、……大好き……」

 何度も、何度もキスをくれる。舌を絡め、その思いをまるごと、ぼくに委ねてくる。

「うん……、大好きだよ。流斗のこと、愛してる」

「ん、ぼくもぉ……、愛してる、お兄ちゃん愛してる」

 深いキスと、温かい抱擁。流斗はそれから、ぼくの下着に手を乗せる。

「あのね、……お兄ちゃんが、ぼくでこんな風におちんちん硬くしてくれるの、すごく、幸せ……。お兄ちゃんが、ぼくのこと、『欲しい』って思ってくれてるの、わかって、すごくうれしいよ……」

 流斗はパジャマを脱ぎ、足に引っ掛かっていたオモラシパンツも脱いだ。それを両手で広げて、黄色い染みとその臭いをぼくに見せ付けてから、「おちんちん、出して?」とぼくに求める。

 もちろん、応じてぼくはトランクスを脱ぎ、ベッドの下に落とした。流斗はすぐにぼくのあぐらの中に顔を突っ込むと、……フェラチオをしてもらえるんだ、と期待したぼくの想像を上回ることを、してきた。

「おっ……」

 冷たさに思わず声が出た。

「お兄ちゃん……、ぼくの、オシッコ、オモラシ、好きだから」

 流斗のオモラシブリーフが、ペニスに被せられているのだった。

「だから、お兄ちゃんのおちんちん、ぼくのオシッコできもちよくしてあげる」

 天使のような少年の尿汁が染み込んだブリーフに包まれ、その上から手のひらで擦るように愛撫してくる。冷たかった下着の生地を介して、流斗の柔らかな手のひらの体温が伝わってきた。流斗はぼくの胸に、首に、そして唇にキスを繰り返しながらしばらくそうやってぼくを愛撫していたが、やがてブリーフの窓を開け、そこからぼくのペニスの先端に顔を出させる。

「わ……、すごい、ぼくのパンツなのにお兄ちゃんのおっきなおちんちん……」

 うん、自分で見下ろしてもまあ、何ていうか、すごいなって思う。どちらかと言えばマイナス方面に「すごい」景色だ。

 でも、

「ふふ……、やっぱりお兄ちゃんのおちんちん、かっこいい……」

 流斗が「プラス」に評価してくれるのならば、それはそれでいい。今更形も変えられないわけだし。

「ん。おにいひゃン……、おにいちゃん、の、おひんひん……、ぼくのぉ……、おひっこれ、あひゅい……」

 舌の先端で面で、器用な愛撫が始まった。もう、「誰が一番上手い」なんてことは考えない。みんな上手い。同じほど強い思いの分だけ、ぼくのことを幸せにしてくれる。そこに「比較」を持ち込むなんて馬鹿らしいだろう。

「流斗……」

 ふんわりした天使髪、撫ぜる。ほんのり温かい体温の、なんて愛しいこと。

「んふ……」

 流斗は見上げて微笑む。ちゅ、と音を立ててぼくの先端にキスをして、

「おつゆ……。お兄ちゃんのうれしい、おつゆ」

 ああ、……そりゃあ、もう……、嬉しくってしょうがないよ。

「お兄ちゃん、もうせーし出る?」

 ペニスを、オモラシブリーフごと両手で包んで扱く。湿っぽくも不思議とあったかく、優しい愛撫である。「うん」と頷くぼくの声は、自然と掠れた。

「一回だけじゃやだよ? お口で出したあと、ぼくのお尻もほしい……」

 うん、また掠れ声で頷いて、

「ぼくが、一回じゃ終わらない……」

 だってこんな可愛い子。

 ……夜は、まだまだ長い。

「ふふ。お兄ちゃんえっち」

 また、ぼくの先端に音を立てて、ちゅ。

「でも、お兄ちゃんがえっちでよかった。お兄ちゃんがもしもえっちじゃなかったら、ぼくのとこまで来ないもん」

「流斗の、とこまで……?」

「うん。お兄ちゃんがえっちで、たくさんせーし出せるから、昴兄ちゃんと諭良兄ちゃんとゆりねえちゃんだけじゃ足りなくって、ちゃんとぼくのとこまで来てくれるんだもん」

 ああ……、そういうことか。

 確かに、ぼくが流斗の言う「えっち」な男でなかったら、昴星と知り合っただけでおなか一杯、満足してしまっていたかもしれない。

 しかし、だからと言って流斗と(ああいう形で)出会って、流斗のことを好きにならなかったとは思わない。

 昴星は昴星、とびきり可愛い男の子。

 でも、流斗もまた特別だ。特別だ、と言った段階で、二人に差を付けようがなくなるし、そこに諭良や由利香が加わっても同じこと。

「ぼくは、ちゃんと流斗のこと愛してるよ。昴星たちがいたって、……昴星たちと流斗が一緒にいたって、流斗のことを寂しがらせたりなんかするもんか」

 早くいかせてもらいたい、とは思っている。それでも伝えるべきことをきちんと伝えるための時間を惜しんだりはするものか。

 流斗はじっとぼくのペニスと顔を見比べて、

「ぼくも、お兄ちゃんが大好き。愛してるよ」

 清純で、ぼくの知る限り最高に美しい「少年」としての笑顔を見せてくれてから、

「ん……」

 ぱくん、と、流斗自身のオシッコの味がするはずのぼくのペニスに両手を添えて口に含んだ。

 流斗の舌は、オシッコと、ぼくのガマン汁でしょっぱい場所を、まるで飴玉を舐めるように這う。いつもながら優しく上手で、……今日に限っては、いつも以上に気持ちよく感じる。

 ぼくの流斗に向かう思いを流斗が受け止め、その舌に乗せて返してくれているからかもしれない。

「ん、ん、……っン……、んふ……」

 ぼくを受け止めたまま、じっと動きを止めるのもいつもの通り。流斗はまだ口の中で舌を動かしている。

 目を開けて、……その顔をじっと見詰めていたぼくを見詰め返す。そのとき、ほんの少し照れ臭そうに、でも何倍も嬉しそうに、にこ、と微笑んでくれるのが、可愛い。どこで切り取っても流斗が可愛いことに変わりがないなら、そんな瞬間だって可愛いに決まっている。

「んく」

 ぼくの精液を飲み込んで、顔を上げる。そっと手を添えて、まだ余韻に浸っているぼくに、キスをする。

「お兄ちゃんのおちんちん、お兄ちゃんのせーし、おいしいね。ほんとうに、いっつもなめさせてもらってるのに、いつでもずーっとおいしいんだ。だから、たくさんうれしくって、お兄ちゃんのおちんちんもっともっときもちよくしてあげなきゃって思う……」

 んしょ、と流斗は左手で上体を支え右手をぼくのペニスに当てる。

「ぼくの……、昴兄ちゃんやゆりねえちゃんのみたく、やらかくないけど……」

 流斗はぼくのペニスを支え、亀頭を自分の乳首に近づけようとしているようだった。

 確かに流斗の胸は華奢でぺったんこだ。女子であり膨らみ始めた由利香のように、あるいは男子でありながらあっちこっちぷにぷにする昴星のように、柔らかさを帯びているわけではない。

 だからと言って、流斗のおっぱいに意味がないと言うつもりは毛頭ない。

「ん……、あのね、昴兄ちゃんが……、おっぱい、お兄ちゃんにしてもらうの、好きって、言ってたから……」

 一度ぼくから手を離し、指に唾液を垂らして、乳首を濡らす。指先でこね回して唾液を塗りたくるとき、これまでおっぱいでそれほど反応を示したことのなかった流斗が震える。

 おっぱいを弄られて感じる昴星を、ぼくが「可愛い」と言ったことを知っているのだ。自分も同じようにぼくに可愛がられたいと思って、……きっと、自分で開発したんだろう。

 ぼくを、喜ばせるために。

「流斗……、おっぱい、気持ちいいの?」

 流斗は少し困ったように笑う。

「ほんとは……、やっぱり、おちんちんとお尻のほうがきもちいい。でも、お兄ちゃんこういうの、好きかなって……」

 ぼくは答えを探して、言葉と逸れる。流斗はそれでも流斗の唾液で濡らしたおっぱいに亀頭をこすりつけることで、少しでもぼくが悦びに近づければいいと努めてくれる……。

「……流斗が可愛いから、また出したくなってきた」

「ほんと……?」

「うん。……射精したいよ。流斗のどこに出せばいい? 可愛い所全部にかけてあげられたらいいんだけど、一度にそんなたくさんは出ないしね」

 流斗はぱちぱちと瞬きをして、乳首にこすりつける手を止める。おっぱいって言うかな……、と思っていたら、

「……ぼく、お兄ちゃんのせーし、おちんちんにいっぱいかけてもらえたらうれしい……」

 と言う。

「おちんちんがいいの?」

「うん……、あのね、お兄ちゃんの、お口でするとお顔とお口にもらえるし、お尻のときはお尻の中にもらえるけど、おちんちんってかけてもらったことないから。お兄ちゃんいっぱいおちんちんしゃぶってくれるけど、ぼくのおちんちんで、お兄ちゃん、感じてみたい……」

 そう言われて、……愚かなことに、初めてぼくは気付く。ぼくは子の恋人とこういうことをするとき、いつだって流斗のそういう場所を使って幸せへと導かれているばかりだったということに。

 そうじゃない、それじゃダメなんだ。ぼくはこの子を使って気持ちよくなりたいんじゃない、この子を幸せにしたいんじゃないか……。

「流斗、横になって」

「ん? うん」

 細く小さな身体が仰向けになる。ぼくは身を起こし、休まる間もなく勃起し続ける自分の性器を掴む。

「ぼくはね、流斗。流斗のことすっごい可愛いって思ってる。大好きでしょうがない。だから流斗と会えないときは、……流斗も知ってるだろうけど、一人でこうやってね、自分でするんだ」

 右手を動かして、息を荒げながらぼくは流斗に告げる。流斗だって先刻承知のこと、男は、オナニーをする。大好きな相手の、えっちな姿を想像して。

「流斗は……、いつも可愛いパンツとか写真とか動画とか、ぼくにたくさんくれるね。だからぼくはすごく幸せ。でももしそういうものがなくっても、ぼくは流斗がいるだけで十分すぎるぐらい幸せなんだ……」

「お兄ちゃん……」

 流斗は口を開けて、ぼくの右手に握られたものをじぃっと見詰めてる。

「ぼくで、オナニー、してるの……?」

「うん、流斗でしてる」

 簡単に壊れそうな肩に口付けをして、言う。「いつも、してる……」

「お兄ちゃん……、ぼく一人のだと、あんまりしないのかなって、思ってた……」

 流斗は目を丸くしてそんなことを言う。

「……それは、どうして?」

「だって……、ぼく、諭良兄ちゃんや昴兄ちゃんみたく、おちんちんおもしろくないし、オシッコもふつうだし、みんなよりも、ちっちゃいし……」

 違う。

 そんなことはない。

「ぼくは流斗とほかのみんなを比べたことはないし、仮に比べたとしたって流斗が昴星や諭良よりも可愛くないなんて思ったりはしないよ、……だって実際、流斗は可愛いから……」

 こういう言い方も出来るか。

「ぼくは……、自分から声を掛けて、ああいうことした男の子って、流斗だけだよ」

「え……?」

「昴星も諭良も、……あの子たちのほうからぼくを誘ってくれた」

 昴星はパンツを拾ったぼくに向けて、そして諭良は自分で勃起したおちんちんを晒して。

 その点、流斗がぼくに与えたきっかけって、ただオモラシしちゃった後の姿でぼくの前に現れるという、それだけだ。

「もちろん流斗は、……ぼくとそうするつもりで出て来てくれたんだと思う。でも、ぼくはあのときまだそれを知らなかった。だけど……、流斗が可愛くて可愛くてしょうがなくって、もう我慢出来なくってさ、どうなってもいいって気持ちであんな風にイタズラしたんだ。それぐらい、流斗は可愛かった」

「おにい、ちゃ……」

 流斗は腕を動かすぼくを、じっと見詰める。それから、……僅かに、でも確かに、目を潤ませて、にこー、と微笑んで両手を広げた。

「お兄ちゃん……、大好き。お兄ちゃんのせーし、おちんちんにいっぱいかけて……?」

 そのつもりがなくたってその気になる。当初からその予定だったならば繰り上がる。きんきんに硬くなっていても先っぽまですっぽり皮に覆われた流斗のおちんちんに自分の亀頭が触れそうなほど寄せて激しく扱くぼくに、

「お兄ちゃんのせーしっ、せーしっ、いっぱいっ」

 煽るように流斗は言う。唄うように「おちんちんっ、いっぱいかけてっ、タマタマもおちんちんもお兄ちゃんのせーしほしいっ」ねだる。

「んっ……、っくよ、流斗……っ」

「うんっ、せーしせーしっ、お兄ちゃんのせーしっ」

 流斗がおちんちんをつまんでぼくと「キス」をさせる。柔らかく甘い皮の感触がトドメとなった。

「あはっ、せーしすごいすごいっ、おちんちんあついよぉ……」

 清らかにさえ見える幼茎に押し付けられた男の性器から迸る精液に汚されて、流斗は歓声を上げた。昼間あれだけしたのに……、流斗と一緒だといつだってこうだ。ぼくの欲は流斗にいくらだって生み出され、こうやって放たずにはいられなくなる……」

「えへへ……、うれしいな、あのね、ぼくね、お兄ちゃんのせーしおちんちんにいっぱいほしかった……、お兄ちゃんにね、おちんちんで、ぼくのおちんちん大好きって言ってもらえてるみたいになるって、思って……」

 大好きだよ、そりゃもう、決まってるさ……。

 流斗は両の手のひらで粘液塗れのおちんちんを包み込む。

「お兄ちゃんがうれしいと、ぼくもうれしいし、ぼくのおちんちんもうれしい……、んふ……、お兄ちゃんのせーし、すっごいべとべと……」

 べたつく左の指を舐めながら、右手で握ったおちんちんを動かす。

「んぅ、ん、っ、ん、おにぃちゃんでっ、お兄ちゃんで、オナニー、してるの……、お兄ちゃん好きっ、お兄ちゃん好きっ……」

 視覚的に、これほどわかりやすい形で伝えられる「好き」って他にないんじゃないか……。

「あんっ、もっ、ダメっ、せーし出ちゃう……っ、出ちゃうっ……ッンんっんっ……んッ……んぅ……んふぅ……」

 普段よりももっと呆気なく、流斗はお腹にびゅるるっと精液を零した。愛らしいおちんちんはべとべとに汚れている一方で、そのお腹は流斗の精液によって一層可愛らしくなったように見える。

「えへへ……、すっごい、えっちなきもち……、ん!」

 お腹の精液をぺろりと舐めたぼくに、くすぐったそうに身を震わせる。

「……お兄ちゃん、ぼくのせーし、好きなの?」

 好きだよ。流斗がぼくのを好きって思ってくれるのと、多分おんなじぐらいに。

「お兄ちゃんと、ぼくと、せーしの味ちがうよね。お兄ちゃんののほうが、大人っぽい味だと思う」

「そう……?」

「うん。諭良兄ちゃんとぼくと、せーし似てるでしょ?」

 似てる、というか、まあ……。昴星がいつでも濃くて量が多いし、臭い。それに比べれば、味の濃さに差はあれど、「似てる」と言うことも出来るかも知れない。

「昴兄ちゃんのは、ちがう味するけど、でもやっぱりお兄ちゃんのとちがうから、お兄ちゃんは大人なんだなあって思うよ。お兄ちゃんのせーし舐めながらしたら、おちんちんすっごくうれしかった」

 そんなことを言ってくれる子がこの世にいるという事実が、ぼくにも嬉しい。

 でもとりあえず、「……歯磨き、しに行こうか」とぼくは言わざるを得ない。何でって、可愛い可愛い流斗、こんなに可愛い流斗、の唇におちんちん、キスを出来ないのは辛いし、

「そっか、そうだよね。お兄ちゃんともっとちゅーしたい」

 流斗もそう思ってくれるのならば。

 二人で手を繋いで、洗面所に降りる。並んで歯を磨いて、口をよーくくちゅくちゅして、……そしたら流斗は背伸びをして、ぼくは背中を丸めてキスをする。すっぽんぽんの流斗と、中途半端に下着姿のぼくの姿は、誰にも見せられない。そもそもこうしているだけで大いに問題が伴うことは百も承知。

 しかし、何より秘密なのは、

「……あのね、お兄ちゃん」

 腕の中の天使が、同い年で秀才のルカよりも、年上の昴星や諭良よりも、そして事によってはぼくよりも、心の育っていること。

「ぼくね、さっき、『愛してる』って言ったでしょ? お兄ちゃんもそう言ってくれたでしょ?」

「うん、言ったね」

「あのね、……ぼくは、昴兄ちゃんも才兄ちゃんも諭良兄ちゃんもゆりねえちゃんもあとルカくんもお兄ちゃんのことも『好き』だけど、その『好き』に、『愛してる』もいっしょについてくるの、お兄ちゃんだけだよ?」

 ぼくのことを、本気で心から、そう思ってくれているのが真実だということ。

「……だから、お兄ちゃん。ぼくだけじゃなくってみんなでいっぱい幸せになって欲しいし、……でもね、いつか、ぼくが大人になったら、きっとぼくのことお嫁さんにしてね? ぼくお兄ちゃんのこと、これからもずっとずーっと幸せにしてあげたいから、いちばん近くにいさせてね?」

 言葉もなく、ぼくが抱き締める少年は、「少年」である以上に美しい。

 そもそもその魂のことを「天使」と呼ぶのだ。

 だから、冒頭の問いに対しての答えはやっぱり、……ぜんぶ、すべて、なにもかも。


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