おかえりなさい、お兄ちゃん

 鞆鞘遥はシュッとした少年だった。

 あまり表情を色とりどりに揃える方ではなく、きっと家族旅行で写真を撮るとき、カメラを構えたお父さんに「もっとちゃんと笑いなさい」なんて言われちゃうような。要はそれって恥ずかしがり屋ってことなんだろう。

 ちょっと冷たい印象のある顔だ。ふんわりとほっぺたの柔らかそうな流斗よりもほっそりしていて、口は小さめ。目は流斗同様の二重だが、少し黒目が小さく、四年生という甘ったるさはない。ハチミツミルクのような流斗とは対照的で、凛々しい。長いまつげは「可愛い」よりは「かっこいい」か「きれい」と言ったほうがいいようなタイプ。だからそう、昴星や流斗より、才斗や諭良に近い。

 身長は、流斗よりも高い、二歳年上の昴星ぐらいはある。昴星が小さいといえばそれまでだけど。

「はじめまして、ええと、ルカくん」

 遥、だから「ルカくん」と流斗が呼んでいる。それに倣って言ったのだけど、彼はじろりと怖い目でぼくを見る。それから、

「牧坂」

 隣でいつもの通りのんびりと和やかな微笑みを浮かべている、彼の同級生を睨む。

「この人が、本当に君の『先生』なのか」

 それはごく冷たく、無愛想な声で。

 対照的に流斗の声は、

「そうだよー」

 やわらかく、あたたかい。

「ぼくの先生。でもって、ぼくの一番大好きな人」

 牧坂流斗の言葉に、鞆鞘遥は表情を険しくした。

 ……出来る限り平常心を装ってはいるのだ。けれど、ぼくは、白状しよう……、緊張している。

 だって、流斗の友達の「ルカくん」に、ぼくは流斗の「一番大好きな人」として紹介されている。……現在地は、流斗の部屋である。そう、ぼくは土曜日の午後に、流斗の家に、今夜ご不在のご両親の代わりに泊まることを依頼されているのである。さっきこの家を訪れたぼくを、「おかえりなさい、お兄ちゃん」って流斗は迎え入れてくれた。

 本来ならば「どんなことしよう」って心躍らせるところだけれど、……流斗は言ったんだ。「お兄ちゃん、おちんちんもう一本増えたらうれしい?」って。

 どういうこと? 訊いたら、「ルカくんもお兄ちゃんとぼくとしてるみたいなこと出来たら、きっとうれしいって思うと思うんだ」……。

 そりゃ、もちろん、……もちろんね、ぼくはショタコンだから、人間失格と謗られたって男の子のおちんちんが好きだ、その事実は変えられない。

 しかし一方で、この嗜好に伴うリスクもよくわかっている。幸運な偶然が重なったことによって、昴星にはじまり流斗に諭良、更に女の子である由利香とまで「恋人」になってしまった訳だけど、これが常に薄氷を踏むような幸福であることを忘れてはいけない。

 それは、流斗だってわかっているはずなのに……。

 しかし流斗は、ルカがやって来る前に緊張しきりのぼくを安心させるように微笑んで、

「だいじょぶだよ。ルカくんもきっとお兄ちゃんのこと好きになる。お兄ちゃんは、ぼくのとなりでにこにこしてればいいんだもん」

 と言った。

 ……にこにこしていられるかは別として、とにかくこんな風にぼくはルカと相対している。

「あのね、お兄ちゃん」

 ソファの隣から、流斗はぼくを見上げて言う。「ぼくとルカくん、学校とか、お外とかで昴兄ちゃんたちとするみたいなことしてるよ」

「牧坂!」

 反射的に、厳しく咎めるようにルカが言う。

「誰にもナイショでね、男の子どうしでおちんちんのさわりっこして、気持ちよくなってるの」

 はあ、とぼくは間の抜けた返答をするばかりだ。余計なことを言うべきではない、とぼくは本能的に理解する。ぼくの読みが正しかったことを証明するように、

「ぼくね、お兄ちゃんのこと大好きだから、お兄ちゃんともいっしょにおちんちん気持ちよくなるの、したいなって思っちゃったんだ。お兄ちゃんのこと好きな人は、えっと、昴兄ちゃんも諭良兄ちゃんもゆりねえちゃんもお兄ちゃんのこと好きだけど、きっとみんなそう思ってるよ、お兄ちゃんとおちんちん気持ちいいのしたいって。……ゆりねえちゃんは女の子だからおちんちんないけど」

 ……なるほど……、やっとぼくは、流斗の目論見を察することができた。

 流斗は同級生で親友であり、「おちんちんのさわりっこ」をする、まあ恋人と言ってもいいような間柄である「ルカくん」に、ぼくの秘密をいきなり全部さらけ出してしまおうとは思っていないのだ。逆に二人の秘密をぼくに曝露し抱えさせることで、ルカの立場を弱くして行く……。

「えーと」

 慎重に、言葉を選ぶ。「ひとつずつ、確認させてもらっていいかな」遠回りな形ではあるけれど、その作業をしておかないと……。

「うん、いいよー」

 流斗はルカの返答を待たずに頷く。「なんでもこたえるよ」ルカは腰を上げかけたが、顔をしかめてまた座り直す。

「えー、……まず、二人は……、男の子どうしでその、……エッチなこと、してるの?」

 うん、と流斗は素直に頷いて、「ぼくたちだけじゃないよー」って、付け加えた。続く言葉を予測しながら「……それは?」と答えを促す。

「昴兄ちゃんと才兄ちゃんと諭良兄ちゃんも、三人でおちんちんのさわりっことかしゃぶりっこしてるんだよ。でもって、ゆりねえちゃんとも。あのね、女の子はおちんちんないけど、ぼくたちのおちんちんを、女の子のおまたのとこにある、『おまんこ』ににゅーって入れて気持ちよくなるの」

 うん……、それは事実である。ぼくもよく知る事実であるのだが、流斗のように天使めいた子に改めて言葉として説明されると、ちょっと頭がクラクラする。

「流斗は、そういうことを……、昴星たちから教わったの?」

「そうだよ。前にね、昴兄ちゃんとこ遊びに行ったとき、『いいことおしえてやる』って言って、教えてもらったの。……こないだ、昴兄ちゃんといっしょにお兄ちゃんに温泉連れてってもらったでしょ? ゆりねえちゃんとはじめて会ったとき」

「ああ……、うん、去年の秋にね」

「あのときもぼく、お兄ちゃんにナイショで昴兄ちゃんとおちんちんいじりっこしたし、お風呂でゆりねえちゃんともいっぱい遊んだんだよ。そのときね、昴兄ちゃんもゆりねえちゃんも、お兄ちゃんともこういうことしたいって言ってた」

 本当はその場にぼくもいた、というか当事者として参加していたのだけど、それを器用に流斗は置き換えてルカに聴かせる。

「そうなん、だ……」

 ルカは昴星たちのことを知っているようだ。そして流斗の知識が昴星由来のものであるということも、あわせて。

「それで……、話を戻そうか。流斗は、えーと、ルカくんとそういうこと、してるんだ?」

「うん」

 と素直に頷いて認めてしまう流斗に、ルカは表情こそ変えないよう努めているようだが顔色は青ざめたり赤くなったりせわしない。こんなことを、いくら流斗の「家庭教師の先生」だからって曝露されて、少年の心がどれほどかき乱されるかを想像すると少々気の毒ではある。

「あのね、ルカくんはしゃがんでうんちするの苦手なんだって。だから……」

「ま、牧坂! ちょっと!」

「最初のときは、ぼくが入ってた座ってするおトイレに入れてあげて、いっしょにうんちしたんだ。でもって、おちんちんしゃぶってあげたの」

「ちょっと、待って。……あの、二人はもう、その、……射精ができる、の?」

「できるよ! ぼくもルカくんもおちんちんからびゅーってせーし出せるよ、だからぼくたちのおちんちんは大人のおちんちんだから、こういうふうに気持ちよくなっていいんだよ」

 ルカは小さくなって震えている。こういう子を好きになってしまうというのは、きっとずいぶん大変なことだろう。……ぼくにとっては「大変に素晴らしいこと」なんだけど。

 何かの本で読んだ。

「……えー……」

 考え込む時に右上を見るか左上を見るかで、人は「真実を思い出そうとしているのか/嘘を捏造しようとしているのか」わかってしまうんだそうだ、……どっちがどっちだったかは、忘れたけど。そういう学説を、このいかにも頭の切れそうなルカが知らないとも限らないので、ぼくは腕を組んで目を伏せて、眼球だけを動かした。

「それは、流斗のお母さんたち、知らないんだよね? あと、学校の先生とかも、きっと……」

 もちろん、流斗はそれを認める。

 あの優しく寛大なご両親がもしこのことをご存知だったなら、ぼくがそもそも今こんなところにいられるはずがない。

「だって、ナイショだもん。……あのね、ほんとは男の子どうしでおちんちんのさわりっことかしゃぶりっこしたらいけないんだよ。バレンタインのチョコも、女の子が男の子にあげるものだし」

 季節柄の例を挙げる流斗は上手に上目遣いをする。「まともな大人」の「先生」に正直に告白しつつも、それを否定されたらどうしよう、叱られたらどうしよう……、そういう思いが見事に表現されていると言えよう。

 その演技は誰に見せるものかといえば、……もちろんルカである。ぼくが「ああ流斗の上目遣いめちゃめちゃ可愛いなあ」って胸を高鳴らせるためではない、決して。

 だからここからは、ぼくも演技をしなければならない。正直、ぼくにそういう才能が備わっているとは思い難い。けれどここで仕損じるわけにはいかない。それは、ルカのおちんちんをどうこうということではなく、

「……流斗、そっちに座って」

 ほくを「一番大好き」って言ってくれる流斗をはじめとする、愛しい子たちと別れたくないからという気持ちの方がずっと大きい。

 流斗は縮こまったルカの隣に、神妙な顔して座る。

 言葉を整理する。ルカの耳にすんなり、説得力とともに収まるように。

「二人は、どんなことをしてるの? ……さっき、『さわりっこ』とか『しゃぶりっこ』って言ってたよね? それっていうのはつまり……」

「ふぇらちお、って言うんでしょ? 女の人がおちんちんペロペロ舐めて気持ちよくするの。いっしょにそれしたり、あとね、ゆりねえちゃんのおまんこにおちんちん入れたときにね、ゆりねえちゃん気持ちよさそうだったし、ぼくも気持ちよかったから、そういうのもしてるよ。ぼくのお尻にルカくんのおちんちん入れて、いっしょに気持ちよくなるの」

「……それは、……つまり、セックスをしてる、ってこと?」

「なのかな?」

「……お尻の中におちんちんを……、そんなことして、ええとまず、流斗は痛くない? お尻の穴、怪我とかしてない? それから、……ルカくんはおちんちんを生で、……つまりその、何もつけずに直接……?」

 ううん、と流斗は首を振る。ルカはさっきから言葉を失い、ひくひくと震えている。

「昴兄ちゃんがね、おちんちんは直接お尻に入れちゃうといけないし、女の子のおまんこに入れてせーし出しちゃうと赤ちゃんが出来ちゃうからダメって。だから、こうゆううすっぺたい、えーと」

「コンドーム?」

「うん、それ。それつけてしてるよ。あとぼくのお尻はぜんぜんへいき。最初のときはちょびっとだけ痛かったけど、おちんちん入る前にね、うんちするの」

「うんち……」

「昴兄ちゃんも諭良兄ちゃんもそうだって言ってた。太いうんちするとね、そのあとおちんちん入るのも楽で、気持ちいいんだって」

 ぼくと流斗は事前に打ち合わせをしていたわけでもないのに、まるで台本でもあるかのように上手に意思疎通を計っていた。流斗はぼくのために、……ぼくは、流斗と過ごす日々のために。

「じゃあ、まあ……、対策は一応してるんだね」

「うん。……ぼくたちのしてることっておかしい?」

「うーん……、ルカくん」

「は」

 いまは、ほとんど顔色がない。

「君は、流斗とそういうことをするの、楽しいんだよね? でもきっと、……君は自分たちのしてることが誰かに知られるのは困る。合ってるかな」

 ぼくは、……理想的な人にならなくてはいけない。

 理解あり、この子たちの秘密を共有するに足る、そういう人間にならなくてはいけない。そういう人間だということを、じっくりとルカにわかってもらわなければいけない。

 だから、ぼくは微笑む。

「いいんじゃないかな」

 ひょっとしたらルカにはぼくのそういう反応は想定の外にあったのかもしれない。

「え……」

「だって、きちんと準備もして、対策もしてて……、したいんだもんね? だったら、ぼくには止められない……、いや、本当は止めなきゃいけないんだろうけど、でもね、流斗が昴星からそういうことを教わっちゃったのはもう実際に起こっちゃったことだし、昴星だってそれは、悪気あってのことじゃないだろうし。だから、みんなにバレないように気を付けながら、して行けばいいんだと思うよ。ただ……」

「ただ?」と、これは流斗の言葉。

「……ぼくは、このことを知らないってことでいいね? ぼくは大人だからさ、二人がそういうことをしてるって知ってるのに何も言わなかったってなったら、ぼくが怒られることになっちゃうからさ。その代わりぼくも二人のことや昴星たちのことは、誰にも言わないで秘密にするって約束するから」

 ルカは信じられないような顔でぼくを見ていた。徐々にその顔に血色が戻ってくる。流斗が、

「ね? だいじょぶだったでしょ? お兄ちゃんはすごく優しいもん」

 きっとルカの目にはぼくの目同様、たまらなく愛らしく映るであろう笑顔を向ける。

「ね、お兄ちゃん」

 テーブルを回り込んで、流斗はぼくの膝の前にちょこんと座る。「お兄ちゃんは、ぼくたちがしてるみたいなことはしたくない?」

 慌てたように「牧坂っ、そんなの……、普通の人はしたいはずないっ」声を発する。

「流斗たちがしてるみたいなこと……、っていうのはつまり……」

「セックス。ぼく、お兄ちゃんのこと大好き。初めて会ったときからずーっと好き。昴兄ちゃんも諭良兄ちゃんも、ルカくんもね、大好きな人とするのがセックスなんだって教えてくれたよ?」

「……でも、流斗。流斗はルカくんのこと、大好きなんじゃないの?」

「大好きだよ。ルカくんも大好き。でも、お兄ちゃんのことだってずっとずっと好きだったもん。初めてね、お兄ちゃんと会ったとき、……ぼくがオシッコもらしちゃって困ってるとき、やさしくしてくれて、……あのときルカくんと今してるみたいなことしてたらよかったってずっと思ってるんだ。ぼくのおちんちんさわってもらったらよかった、お兄ちゃんのおちんちんさわってあげたら、お兄ちゃんうれしいかもって、そういうこと知ってたら、勇気出してしてたのにって……」

 そう言う流斗が、実際にどれだけぼくのことを(ぼくなんかのことを)愛してくれているのかは知っているつもりだ。本当に、ぼくにはもったいないくらいに可愛い子である。ぼくだってこの子に恋をしているわけで。

 だから、「演技」とわかっていても抱きしめてしまいたくなってしまう。困ったものだ。

 一つの深呼吸を、溜め息に変えて。

「ルカくんは、流斗のことが好きだよね?」

 ルカは、応えない、応えられない。おそらく笑顔で写真に映るのが苦手な子だから、それをきちんと言葉にするのだって強い抵抗があるに違いない。

「ルカくんが流斗のこと好きって知ってて、流斗をルカくんから取っちゃうようなことは正直、しづらいよ。それにね、ぼくみたいな大人が流斗みたいな子とそういうことしちゃいけないんだ。誰かに知られたらお巡りさんに捕まっちゃうんだよ?」

 現在、その鍵を握っているのは紛れもなくルカだ。ルカが認めないままそういうことをしてしまえば、関係は瓦解する、ぼくの人生もおしまい。

 流斗だってそれはよく理解している。

「お兄ちゃんいなくなっちゃったら、かなしいな……」

「もちろん、ぼくだってそれは避けたい。流斗みたいな可愛い生徒と別れるのは辛いからね」

 流斗は器用にさみしそうな表情になる。一瞬それが演技であることを忘れさせるような、はかない顔だ。

「ね、ルカくん……、ぼくはルカくんのことが好き。でも、お兄ちゃんのことも好き。ルカくんはいつか好きな女の子できるかもしれないけど、ぼくはずっとずっとお兄ちゃんが好きだと思う。……ぼく、お兄ちゃんのお嫁さんになって、ずーっとずーっといっしょにいたい」

 胸がちくりと痛む。流斗の中にどういったロードマップが出来ているのか、ぼくの想像を遥かに超えている。ルカはじっと考え込んで、……しかし、辛そうには見えない。

「……牧坂は、先生と、……そういうことが、したいのか。ぼくと普段してるみたいな、ああいう……、ことを」

 思っていたより静かな声でルカは流斗に訊き、流斗はそれに頷く。

 ルカが顔を上げた。

「……先生は、牧坂のこと、ちゃんとお嫁さんに出来るんですか?」

 え、ちょっと待って。

 じいっとぼくを、睨むような強さで見つめて、ルカは答えを待っている。

「さっき、牧坂は言いました。……昴星くんたち、……ぼくも一回会ったことあります。あの人たちが先生に告白してきて、その先どうなるかわからないですけど、でも、先生は牧坂のことちゃんと幸せに出来ますか」

「ぼく、昴兄ちゃんと諭良兄ちゃんがお兄ちゃんのこと好きで、あの二人とお兄ちゃんが『恋人』になってもへいきだよ、お兄ちゃんがいちばん幸せなのがぼくはうれしいし、昴兄ちゃんたちもきっとそうだよ」

 流斗が口にするのは、いつ聴いてもぼくにとっては拝みたくなるくらいありがたい言葉。ぼくの充実した日々は、流斗たちのそういう考え方なしには決して成り立たない。

 しかし、

「それは、……ぼくは、確かに牧坂とああいうこと、するのは、好きです。でも、ぼくは牧坂とは、中学も別々になると思うし、ずっとやって行けるわけじゃ、ないです。でも、……やっぱり、こいつのこと、好きです。だから……」

 ルカまでそんなことを言う。

 ……どういうことだ、どういうつもりだ。流斗の考えは深すぎて読めない。ここで頷いちゃっていいのか。流斗はぼくの「お嫁さん」だよって、飲み込んじゃっていいのか。

 じっと、流斗はぼくを見つめている。

「……ぼくと、……結婚したいの? 流斗は……」

 ぼくだって流斗と結婚出来ないことぐらいわかっているし、「けっこん、は出来ないよね……、男の子どうしだもん」流斗だって。

「でもね」

 流斗はあまり表情を動かさずにことばをつなぐ。

「お兄ちゃんに、『およめさん』って思ってもらえるだけでぼく、うれしい。お兄ちゃんはいろんな人に好きになってもらえる人だよ。でもって、いろんな人のこと、好きになっていいんだと思う。でもね、ぼくのこと、ときどきでいいから、『およめさん』って思ってほしい……。そしたらぼく、もっとお勉強がんばるし、お兄ちゃんのためにぼくのできること何でもするし、……ぜったい誰にも言わないって、約束するから」

 ぼくは、ゆっくりと深呼吸をする。冷静に考えるんだ。……ルカのおちんちん見たいとかそういうことは一旦脇に置いて……。

「……ぼくだって、流斗のこと大好きだよ」

 微笑んで、ゆっくり言った。「流斗がぼくのことをそんな風に思ってくれてるの、すごく嬉しく思う。……『お嫁さん』って思っていいの? ぼくなんかの『お嫁さん』に、なってくれるの?」

 流斗とルカが顔を見合わせる。それから流斗はぱあっと微笑んで、テーブルの上を跨いでぼくの膝に飛び込んできた。

「お兄ちゃん、大好き」

 って、聴き慣れていてもやはりたまらなく嬉しい響きの言葉を、ぼくへと挿し入れる。

 そう、ぼくたちは結婚出来ない。それに、「そういうこと」をするとまだ決まったわけじゃない。だから、ここまでだったら大丈夫なはず……。

 そっと、ルカを見る。

 ルカは、何の表情も浮かべてはいなかった。それがまた、ぼくを不安にさせる。だからすぐに、

「流斗は、……学校の間だけでもルカくんの『お嫁さん』にならなくていいの?」

 と訊いた。

 流斗はルカに振り返る。膝の上で向きを変えて、

「ルカくん」

 両手を、彼に向けて開く。

「ルカくんも、流斗のこと好きなんでしょう? だったら、……流斗がさっきぼくに言ってくれたことの繰り返しになっちゃうけど、ぼくは流斗のことを好きな人も同じように幸せになって欲しいと思う。その、……二人がそういうことをするのが二人にとって幸せならさ、ぼくは誰にも言わないから、お互い秘密のままでさ、ルカくんも流斗のことを『お嫁さん』って思っていいんじゃないのかな」

「ルカくんも、ぼくの『おむこさん』?」

「そういうことになるね。……すごいね、流斗はこんなに小さい男の子なのに、『お婿さん』が二人もいるんだ」

「お兄ちゃんだって、いまにぼくだけじゃなくって、昴兄ちゃんと諭良兄ちゃんとゆりねえちゃん、およめさんいっぱいになるんだよ」

「そう……、それはまだわからないけど、もしそうなら幸せなことだね」

 ルカは、まだ躊躇っていた。でもやがて立ち上がり、恥ずかしそうに流斗の腕の中に頭を収める。

 うん、ひとまずはこれでいいはずだぞ。うん。

 しかしこのままでは終わらせなかった。

「ね、お兄ちゃん、みんなでお風呂入ろうよ」

「……お風呂」

 ぴく、とまたぼくを震わせるようなことを言う。普段ならばそれは、幸せな行為の合図となる言葉だ。拒む理由なんてなくて、何なら抱っこしてお風呂まで連れて行ってあげてもいいぐらい。

「ね、ルカくんもいっしょに入ろ。三人でちょっときゅうくつかもしれないけど、……そうだ、お兄ちゃんとね、昴兄ちゃんと三人で温泉行ったときは、お部屋のお風呂に三人で入ったんだよ。背中の流しっこしたの。あれまたやりたいな」

 考えを巡らせるまでもなく、流斗はぼくにルカのおちんちんを拝ませてくれようとしているに違いない。

 しかし、まだ清純なこの状況にあって、……それは危険だ。主にぼくの下半身が。

「ぼ、ぼくはいいよ……、牧坂と先生だけ入ってくればいいだろ」

 ルカくんは顔を上げて言う。ふふ、と流斗は笑う。

「ルカくん、恥ずかしいんだ?」

「そ、そんなのっ……」

「ぼくぜんぜんへいきだよ。お兄ちゃんとお風呂のときもすっぽんぽんだったし。あ、そうだ、お兄ちゃんのおちんちんってすっごいおっきくて、かっこいいんだよ! ルカくんお兄ちゃんのおちんちん見たくないの?」

「それはっ……、だいたい、見られて平気なほうがおかしいんだ、牧坂みたいにあんな……、学校でしょっちゅう、その……っ、ちんちん出すの、どうかしてる!」

 ああ、そうだよな……。流斗のおちんちんは彼らの小学校にあって、見たことない子が少ないほどなのだろう。

「だって、おちんちんは男の子ならみんな一人に一本ずつ付いてるんだよ? 大人も子供もみんな、おちんちんからオシッコして生きてるんだよ? ルカくんもぼくもお兄ちゃんもみんな、お口でごはん食べるしにおいはお鼻でかぐし、オシッコするとこだけ恥ずかしいの、ぎゃくに変だと思うな」

 流斗の言うことにも一理ある。う、とルカは言葉に詰まって、反論を試みるが上手く言葉に変えることができない。そういえばこの二人、学校ではいつも試験の点数で一位と二位を分け合っていると流斗が教えてくれたことがある。完全に感覚派に見えて実は極めて理論的な流斗であり、その頭の回転の速さ、というか鋭さは、恋人でありつつも一応「家庭教師」としての役割をなしている以上は、ぼくもよく知っている。

「ね、三人いっしょに入ろ」

 頭がいいだけでなく、可愛い。しかも甘えんぼだ。「牧坂」と呼び捨てにしてるルカにしても、その可愛さにどうしても敵わないからこういう関係が出来上がるに至ったのだろう、というぼくの想像は、恐らく正しいはずだ。

 ひょい、と流斗がぼくの膝から降りた。

「ルカくん行こ、お風呂のしたく。ぼくのパンツ貸してあげる」

「ちょ、ちょっと……! おまえのパンツって……」

 そのまま、ルカくんを引っ張って二階の自室に上がっていく。「お兄ちゃんはお風呂行っててー」と声が降りてきた。ぼくとしては大いに問題のあること、と自覚しつつも、ルカ同様に流斗という美少年天使の前では無力である。……いいか、あくまでいっしょにお風呂に入るだけだぞ、と自分に言い聞かせつつ、人の家の風呂のスイッチを押した。

 

 

 

 

 もちろん、すぐにはお湯は溜まらない。まだ明るくて、浴室には電灯もいらない。我が安アパートの部屋のバスルームよりずっと広く、とはいえ諭良のマンションにあるものほどは広くもなく、要するに大人の男一人と子供二人が一緒に入るのに問題はないようだった。

 バスタオル二枚と、自分とルカのための替えの下着を抱えて流斗は降りてきた。ルカはそれはもう、嫌そうな顔をしている。

 流斗は「じゃーん」と手にしたパンツを広げて見せる。

「流斗、それは……」

 冷静を装いつつ、ナチュラルに驚いて見せたつもりだったけど、はたして上手く行ったかどうかはあまり自信がない。

「えへへ、びっくりした? 女の子のパンツっ」

 流斗が女の子のパンツを隠し持っていることは、別段驚くべきことじゃない。才斗と、あるいは諭良と、女装して「女の子」のふりをした昴星が服屋に行って買ってくるものの一部が、こうして流斗の手に渡っているのだろうということもわかる。

 わかるのだが、……それを、いま持ってくるか。

「それは、……ええと、……どうしたの?」

「あのね、ぼく、ナイショにしてたけど、女の子になるの好きなの。ルカくんとおちんちんいっしょに気持ちよくなるとき、たまにこうゆうパンツはいて女の子になるんだよ。でね、……お兄ちゃんと一緒にお勉強するときもね、ときどきこういうパンツはいてたんだ。……お兄ちゃんとえっちなことが出来るってなったとき、でもお兄ちゃんは男の子より女の子のほうがいいかなって思って、パンツだけでも女の子になりたいなって」

「はあ……、そうなんだ」

「でも、いつもはふつうの男の子のパンツだよ。こうゆうの」

 するん、と流斗は半ズボンを下ろした。見慣れた、そしていとおしい、ブリーフ。今日は白に、ゴム部分や縫い目は水色。一度ぼくも見たことがあるものだ。

 が、

「お、おまえまたそんなパンツ穿いてっ……!」

 ルカは怒る。どんなパンツかと言えば、

「言っただろ、ちゃんと、清潔なパンツ穿かないと、ちんちん病気になるって!」

 ということであり、要するに流斗のブリーフの股間にはわかりやすく黄ばみが付いているのだった。さすがにルカは良識が備わっているらしく、昴星たちのように無邪気にそれを観察したり評論したりはしないのである。

「どうしたの……? それ」

 と訊く。どうしたもこうしたもない。そのシミの広がり方だけで、どうしてそういうことになっているのかぼくはわかってしまうので。

 オモラシ、にしては股下方向への広がりがない。しかし流斗は原則的に「ガマン」はちゃんと出来る子である。

「んっと……、今朝ね、起きたとき、オシッコもれそうになって、パンツ脱ぐとき、ちょっと出ちゃった」

 だからこれだって、故意に作ったシミであったろう。そもそも「今朝」の出来事であったかどうかも定かじゃない。

 ぼくにとっては好ましいとさえ思って容認してしまうこと、でもルカはそれを我が事のように恥じている様子だ。それもまた、「恋人」としてあるべき、……いや、ぼくなんかよりずっとまともで、正解である。

「流斗は、温泉行ったときもオネショしてたからね……」

 大人としての苦笑を浮かべて、流斗の柔らかな髪を撫ぜた。「でも、まだ四年生だし、ちょっとぐらいはしょうがないよ。……ルカくんは、オネショはもうしない?」

「しません」

 きっぱり、決然、ルカは言った。まあ、本当にしないのだろう。というか四年生でオネショしちゃう子の方が少数派だろうね。

「でも、ルカくんもオモラシはするよ」

 横から流斗が茶々を入れ、

「そ、そ、それはっ、それはっ……、違うっ、違うんです、ぼくはしたくてしてるんじゃなくってっ」

 ルカは真っ赤になって、涙目に訴える。頭はいいはずなのに、流斗によってコロコロと転がされてしまう。こうして見ると乏しいかに思われたその表情も、やはり子供らしく細かくよく変わる。少年特有の愛らしさというものは、ちゃんと持っているのだ。

「ぼくがね、ルカくんにオモラシするとこ見せてーってゆって、ぼくといっしょにオモラシしたこと何度もあるよ」

「おもらし……」

「だだだからっ、ガマンできなくなってするんじゃなくって、そ、その、つまり、ワザとですっワザと、牧坂が、見たいなんて言うからっ」

 実は「故意に」という、そっちの方がずっと問題があるのだけど、そこまでは考えが至らないままルカは言い募る。微笑ましく思いながら、ぼくは自分の膝に手を当てて背中を丸め、ルカの髪に、初めて触れた。癖がない髪はしっとりしていて、昴星や諭良や流斗とはまた違った触り心地。両耳の耳たぶまでかかって、しかし襟足はそんなに長くない。

「でも、君のパンツは流斗のほど黄色くはないんでしょ?」

「そ……、そうです、だって、ぼくは、今朝だって……、ちゃんと、トイレ、間に合ってるし……」

「ほんとにー?」

 ぼくがルカの髪を撫ぜてる隙に、彼の後ろに回った流斗がルカのセーターをめくり上げ、ズボンに手を掛ける。一丁前にちゃんとベルトを締めていて、流斗は器用にそれを外した。

「あっ……」

 と僅かに声を上げたが、それは大した甲斐もなく、するん、とルカの黒い長ズボンは下まで落ちた。足は、流斗と同じくらいに細い。身長は流斗よりも高いが、痩せている。指数的にはルカの方が細い。

 その足の付け根を覆うのは、やはりブリーフ。こちらも白だが、縫い目は黒で精悍な印象だ。

「……本当だね、ルカのパンツは、おちんちんのところ黄色くなってない」

 いいものを見た、と無邪気に喜んでしまう。しかし理性の戦いだ、これは。

「内側は、ルカくんだって黄色いよ。だって男の子だもん」

 流斗はぼくを挑発するようにルカのブリーフのウエストゴムに手を掛ける。僅かにずらされ、……あと一センチでおちんちんが見える……、というところで、

「も、もうっ、やめろよっ」

 ルカが身を捩り、流斗を払いのけた。

「ちぇ。ルカくんだってパンツの前黄色いときあるんだよ? ほんとだよ?」

「おまえほどじゃない!」

 仲良しの二人を、あくまで微笑ましく見ている大人としてぼくは二人の髪を撫ぜる。浴室に目をやれば浴槽の半ばほどまで、お湯が溜まっていた。幸い、まだ勃起はしていない。

「ちょっと早いけど、お風呂入ろう」

 ぼくは冷静さを保ったまま、セーターをシャツを脱ぎ、ジーンズを脱ぎ、裸になった。

「ね? お兄ちゃんのおちんちんおっきいでしょ?」

 フルチンの流斗はルカに言い、ルカはそこに目をやってしまった自分を恥じたように慌てて逸らす。ぼくは先に浴室に入り、頭からシャワーを浴びた。……さあ、これから、どうする……。

 二人はすぐに入ってきた。流斗は前を全く隠さず、きっとルカは前をきっちり隠して、……と思っていたのだけど。

「……えーと、それは、……そのまま入るの?」

 流斗は、せっかく裸になっていたのにさっき「じゃーん」ってぼくに見せた女児下着を穿いているのだ。

「だって、お兄ちゃんがうれしいかなって。女の子といっしょにお風呂だよ?」

 女の子にしては、おっぱいがない、股間は隠しようのない存在感を伝えてくる。ひょっとして、と思って振り返ると、

「こんなの、おかしい……、こんなの普通じゃない……!」

 涙目で同じ格好のルカがいる。

 ぼくはただ、それを面白がるだけのそぶりで「せっかく洗濯したばっかりの綺麗なパンツなのに、濡らしちゃうのはもったいないんじゃない?」なんて言いながら、ボディタオルにソープを泡立てる。そして、

「でも、……まあ、二人とも男の子に見えなくなっちゃったね。流斗は可愛い顔してるし、ルカは綺麗だ。女の子と一緒にお風呂に入るなんて初めての経験だよ」

 なんて言う。はたしてまっとうな大人の言うことであるかどうかは、正直なところ怪しいものだ。

「お兄ちゃん、背中洗ってあげる」

 流斗が言って、ぼくの手から泡だらけタオルを受け取る。彼らから見ればそうたくましくもないぼくのものでも広く映るはずの背中に、こしゅこしゅとタオルが這い始めた。

「後で流斗も洗ってあげよう」

「うんっ、お兄ちゃんに洗ってもらうの、ぼく大好き。……あのね、ぼく、はじめてお兄ちゃんに会ったとき……」

「ああ、公園でオモラシしてたとき?」

 まだ、本当の名前を明かす前のとき。

「うん、あのときね、お兄ちゃん、おちんちんとかお尻とか拭いてくれたでしょ? あれ、すごくうれしかったんだ。ぼくのオシッコきたないのに、お兄ちゃんいやがらないでやさしくしてくれて……、オモラシしたパンツもズボンも洗ってくれて、だからお兄ちゃんのこと大好きになったんだよ」

「……普通は、四年生にもなってオシッコ漏らしたりなんかしない」

 ぶっつりと、ルカは唇を尖らせて出したような声で言う。「しかも、それを初めて会った人に助けてもらうなんて……」

「まあ……、ぼくもびっくりはしたけど」

 湯気のせいで、鏡は白く曇っている。ぼくの表情はルカには見えない。とはいえまだ、見られても大丈夫な水準に収まっている。……いまのところは。

「でも、ぼくがオモラシしたからお兄ちゃんと知り合えたし、いまは『およめさん』だよ。ぼくのオモラシ見たことあるひとは、ぼくの『おむこさん』なの」

「そんなこと言ったら学校中がおまえの『およめさん』になっちゃうじゃないか!」

 はじめてルカが流斗を論破した、……論破ってほどのレベルの話じゃないけども。

「あ、そっか……、じゃあえっとね、こうやって二人きりのとき……、いまは三人だけど、『みんなにはナイショ』でして見せてあげるのが、ぼくのね、『おむこさん』へのプロポーズ。だってぼくのいちばん恥ずかしいとこ見せてあげるんだもん、そんなの、『おむこさん』にしかしないことだよね?」

 流斗の切り返しに、「それは……」ルカはまた行き詰る。

「と、とにかくっ、オシッコはちゃんとトイレでするんだ! そんな、もうすぐ五年生になるのに月に一回も二回もオモラシするなんて、普通じゃない!」

「そんなしょっちゅうしてるの……」

 知ってるけど。

 ルカの言う「普通じゃない」は、「アブノーマル」って意味ももちろんあるだろう。けどそれ以上にありそうなのは、「手に負えないほど並外れてる」っていうことなんじゃないだろうか。

「そういう流斗が、ルカは好きなんだ?」

 訊けば、あっけなく言葉とはぐれる。当初の印象からは逆だけど、この子意外とお人好しなんじゃないか。まあ、いかに弱み(うんちがどうこうとか言ってたな)を握られていたって、流斗のような子の恋人的立場に身を置くためには、……ぼくを含めて、多少抜けたところがないとダメなんだろう。精神的に潔癖症でいては疲れるばかりだ。

「ルカに『好き』って思ってもらえるの、うれしいな。オモラシしちゃうぼくでもルカくんは『好き』なんだ?」

「そ、それは……」

「そういう部分も含めて、流斗の可愛いところなのかもしれないね」

 ぼくの言葉にクスッと笑って、「ルカくんこうたい。こんどルカくんがお兄ちゃんの背中洗うばんだよ」と背後でタオルを差し出す。自分はどうするのかと思っていたら、湯気て曇った鏡の前、シャンプーやボディソープの置かれるべき台に、「よいしょ」と座る。

 足は、ぱかっと開いて。

「えへへ。お兄ちゃん、女の子のパンツもっと見てー」

 ……直視したい、が、いまはしがたい。流斗の女児パンツ姿を見れば身体が反応してしまうのは流斗だってわかっているだろうに……、ルカの手前、なかなかにシビアな挑発であると言えよう。

 そのルカは、ぼくの背中を洗ってくれている。

 流斗が次にどうする予定でいるのか、ぼくには全く読めない。……どうやってルカを行為に巻き込むのかどうか。そう考えを巡らせていると、また「よいしょ」と流斗はそこから降りる。

 手桶に浴槽にたまり切ったお湯を汲み、「ルカくん、かけるよー」ぼくの背中の泡を洗い流して、

「あのね、お風呂、温泉にしようよ」

 と言う。

「温泉?」

「こなのやつ。いい匂いして気持ちいいよ、お湯まっしろになるの。ちょっと待ってて」

 女児パンツのまま、流斗は浴室から出て棚をゴソゴソやっている。「あれー? ここじゃないのかなぁ」なんて声がする。

「……ルカは、えーと」

 振り返ったところ、下着を濡らさないようにしゃがんで、……いわゆる「うんこ座り」でいた。

「……はい?」

「その、……流斗といつもそういう格好で、えー……」

「ぼくはしません!」

 きっぱり、否定。顔は真っ赤である。

「あいつがいつも、勝手にしてるだけで……」

 そうだよね、ぼくらが嬉しいようにって気を配って何でもしてくれるのが流斗という子である。

 流斗はガサゴソ音を立てている。つまり、もう少しぼくとルカを二人きりにしようということなのだろう。

「あのね、ルカ。……さっきの、君と流斗のこととか、ぼくと流斗のこととか、……あと、昴星たちとも会ったことあるんだよね? あの子たちとぼくとのこととか……」

「……はい」

 声のヴォリュームを落とした。

「実際、これからどうなるかわからない。けど、正直なところね、……ぼくはさっき言ったように、流斗のことはすごく可愛いって思ってる。『お嫁さん』になりたいって言われて、すごく嬉しかったよ。ただ、ルカはたぶん、流斗よりもわかってるんだろうけど……」

 いや、実際には流斗の方がよくわかっている。ぼくとの関係の危うさ。かと言って流斗は、……ぼくの優しい「お嫁さん」は、息を潜めてじっとしているようなことはしないのだ。どうやってぼくを喜ばせようか、あの子がいつもそればかり考えてくれていることは、実際に一緒に過ごす時間にぼくが幸せであることからも証明される。いつの日か流斗が大人になって、一緒にいることが誰にとっても当たり前って思ってもらえる日まで、一瞬たりともぼくを退屈させまいとしてくれるのが、流斗という男の子なのだ。

「わかってます。……ぼくと牧坂だって、おかしいし、……普通じゃないって思います。だから、先生と牧坂のことだって、誰かに言ったりしたら……。でも」

 ルカは言う。「ぼくは、誰にも言う気はありません。その……、今日、先生に会わせるって、牧坂が言って、……ぼくは牧坂を先生に取られるものだと思ってました。あいつはずっと、先生のことが大好きだって言ってました。でも先生は、……ぼくのこと、ぼくらのことを、認めてくれたし……」

 ずっと俯いていた。女児パンツを穿かされてぼくの前にいることの抵抗は、少しぐらいは薄まっただろうか。

「だから、ぼくも先生と牧坂のことを、認めます。絶対誰にも言わないで、ちゃんと、秘密にします。……それが、ぼくに出来る先生のお礼……」

「さむーい!」

 がちゃ、と浴室のドアが空いて、流斗が飛び込んできた。

「あ、ああ……、温泉のもと、見つかったの?」

「うん、これ。あとね、お部屋行ってこれとってきたよ」

 両手に持っているもの、温泉のもとと、……ローションと、コンドーム。振り返ったまま固まったルカの表情がどんな風か、ぼくには容易に想像出来るのだった。流斗は温泉のもとの封を切り、浴槽の中へ振り撒く。あっという間にお湯は白く濁った。

「なっ……、なっ……、何持ってきてるんだ!」

「ぬるぬると、おちんちんにかぶせるやつ」

「『何』か訊いたんじゃなくて!」

 どっちも、ぼくなり、才斗と昴星なりがこの子にプレゼントしたものである。

「お兄ちゃん、お風呂入って。さむいでしょ?」

 言われるままに、浴槽の中にぼくは収まる。縁に肘をついて、

「流斗はすごいの、持ってるんだね……」

 一応、驚いたふりして見せる。「コンドームはいいとして、ローションまで……。お父さんお母さんに見つからない?」

「うん、へいきだよー。あのね、それよりねお兄ちゃん、寒かったからオシッコしたくなっちゃったから、これからオシッコしてもいーい?」

 それがどういう意味かは、わからないふりをすればいい。

 ただ、ルカは、流斗の発言の意図を理解する。

「ああ、いいよ。……この間の温泉でもしてたね? でも、そろそろお風呂でするのは卒業しなきゃダメだよ?」

「えー、でもルカくんだってお風呂でオシッコするよ? 昴兄ちゃんたちだってしてるもん」

 そう言い終えるなり、流斗は純白の下着に覆われた自分の下半身に目をやる。「いまぼく女の子だからしゃがんでしようかなー」と言うなり足を開いてしゃがみ込む。そして、

「牧坂っ……」

 ルカが止める間もなく、オシッコをし始めた。……もちろん、その下着を穿いたまま。

「あは、オシッコあったかい……」

 しゅー、とくぐもった音とともに、その膨らみから濃い金色の尿が溢れ出て、足元のタイルへと伝い落ちる。優しい嘘で上手に塗りつぶされた中で、流斗の尿意だけは本当だったのだとぼくに伝えるように。

「流斗……、えーと……」

 ぼくは言葉を探す。これは別に演技ではなくて、本当に、何と言えばいいのかを探しているのだ。「オシッコのときには、パンツ脱がなきゃ……」

「だってー、オモラシするの気持ちいいんだもん。それに、……オモラシってすっごいえっちだもん……、オシッコがね、あったかくって、パンツがおちんちんにぴったりして、……すっごくどきどきして、ぼく大好きなの」

 流斗はぼくに見せびらかすように「よい、しょ、っと」足を広げたまま後ろに両手を付いて、中途半端なブリッジのポーズ、まだ放尿を続ける自分の股間の位置を少し高くした。

「ね、お兄ちゃん見て……、おちんちん、おっきくなってきちゃったの」

 それは流斗の体勢のしんどさを加味しても、非常にハイレベルでかつセクシーなポーズである。流斗の言葉の通り、純白で清楚な下着を黄色く汚しながら、流斗のおちんちんはくっきりと硬さを帯び、サイズも大きくなっている。

「こ、こんなの、先生が見て嬉しいはずないだろう!」

 叱るようにルカは言ったが、「そうかなぁ?」流斗は元の通りしゃがみ直して、「えへへ……、全部出ちゃった。お兄ちゃんはうれしくない? ぼくのいちばんえっちなとこ見ても、何とも思わない?」ぼくの言葉を導く。

「ええと……、ええ……」

 正直に言えば、これまで堪えていたけれど、今ので完全にぼくは勃起した。

 当たり前だろうそんなの。こんな可愛い子の、アクロバティックなオモラシ見せられたら。

 率直にそれを認めてはいけないとはわかる。しかし、認めないわけにはいかない。

「すごく、……なんていうか、エッチだと思ったよ。その……、流斗はまだ小さい子供だと思ってたけど、おちんちんがそんな風になっちゃうんだなあって……」

「なるよー。ぼくね、ルカくんも昴兄ちゃんたちもゆってたけど、ぼく、すごくえっちなんだって! でね、昴兄ちゃん言ってたんだ、大好きな人に自分のいちばん恥ずかしくてえっちなとこ見せてあげたら、きっと好きになってもらえるんだって。……だからね、ぼく、お兄ちゃんに好きになってほしい。お兄ちゃんのためになんでもするし、お勉強ももっと頑張るから」

「お嫁さん」の言葉だ。ぼくは一度白濁湯の中で顔を洗って、

「うん……、まあ、その……、そんな色んなことしてくれなくっても、好きだよ」

 言った。

「ほんと?」

「うん。……何て言えばいいかな、いまの流斗の、見てさ、正直びっくりしたけど、ちょっと、ドキドキしたしね……。大人の男として、流斗みたいな子のオモラシ見てドキドキするのもどうかとは思うんだけど……」

 ふふ、と流斗は嬉しそうに微笑む。それから黄色く染まった女児パンツを脱いで、浴槽の蓋にひょいと乗せると、

「お兄ちゃん大好きっ」

 浴槽に飛び込んできた。当然、ぼくの膝の上に。

「か、身体洗ってから入れよ!」

 ルカは怒って、流斗の作った水たまりを手桶に汲んだお湯で流す。そのルカに振り返って、

「ルカくんも、お兄ちゃんにオモラシするとこ見せようよー」

 と請う。

「なっ……」

「あのね、いつもルカくんといっしょにオモラシしてね、そのあとオシッコのおちんちんしゃぶりっこするんだー。ルカくんはぼくみたいにオモラシでおちんちんかたくなったりしないけど、ルカくんのオモラシもかわいくってえっちだよ?」

「そうなの?」

「か、か、可愛くなんかっ」

 ルカはまた真っ赤だ。

「ね、ルカくんのオモラシはやくー」

 流斗は後ろ手にぼくの勃起を優しく撫でながら言う。

「オモラシしたら、いっしょにお風呂であったまろ? ぼくルカくんのオモラシお兄ちゃんに見せてあげたい。見せてもらえたらお兄ちゃんもきっとうれしいよ。それに、……ルカくんはお兄ちゃんに相談したいことがあるんだよね?」

 相談したいこと?

「そ、それは……」

「ルカくんがオモラシしたら、きっとお兄ちゃん相談にのってくれると思うなあ」

 クスクスと、意地悪な笑みを浮かべて流斗は言う。

 流斗のことがぼく同様「大好き」なルカが、それでもなお抗えるとは思えない。

「……えーと、どんな相談なのかわからないけど、まあ、ぼくで役に立てることなら……。その、オモラシは別に無理しなくたっていいんだよ?」

「えーお兄ちゃんはルカくんがオモラシするの見たくないの?」

 そんなもん……、見たいに決まってるでしょう! そんなもん!

 でも、「見たい」って、ぼくが言ったなら……?

「せ……、ん、せい、は……」

 ルカは顔真っ赤、で、目も潤ませている。眼鏡を外すと知性と大人っぽさの記号が一つ抜け落ちて、確かに流斗より背は高いものの、やはり同い年だと一目で判る幼い相貌になるのだった。痩せているし、手足も細い。流斗よりはもちろんしっかりした体つきではあるけれども。

「ぼくの、……オモラシ、なんて、見たい……、ですか……?」

 震えた声で、ウエストに小さな赤いリボンがついたピンク色の女児パンツの前をぎゅっと抑えてルカは訊く。オシッコしたいのは本当らしい。

「ええと……」

 ぼくは必死に考えて、

「その……、仮に、男の子相手であったとしてもね、ええと、……流斗やルカみたいに可愛い子だったら、そういうシーンを見てさ、悪い気にはならないのが、普通なんじゃないのかな、とは、思うよ?」

 答えを紡ぎ出した。ぼくの胸中を見透かしてか、流斗が小さく笑った。

 ルカが、「う……」と小さく身を震わせて、抑えていた手を離す。

 おお、と思わず声を出しそうになってしまった。ルカのおちんちん、……まだ勃起してはいないはずだ、それなのに、……大きい!

 流斗のものより、ふたまわりぐらいは大きく見える。それこそ、二つ年上の昴星よりも間違いなく大きいし、諭良よりも膨らみにはボリューム感がある。この世代の男の子としては、抜群のサイズであると言っていいだろう。

「あ……、あ……っ、見ないで……っ、先生、見ないでぇ……!」

 両手でルカが顔を覆う。小さめな女児下着の中でとりわけ目立つ大きなおちんちんが限界を迎えたようだった。ポツリと浮かびあがり、表面を舐めるように伝う。その感触に、ルカの糸は切れたのだろう。

「あ、あ、ああっ、あああっ……」

 飛沫を散らしながら、一気に黄金水が解き放たれた。ガクガクも震えながら内腿を濡らし、あっという間にピンク色の下着は色を変える。限界に達した尿意に負けて、湯気を舞わせながらの屈辱的な失禁。ルカのスマートな下半身は、あっという間に彼のオシッコにまみれた。

「……ルカは、おちんちんすごく大きいんだね」

「はっ?」

 臭いや見た目の魅力をじっくり楽しむことはしないで、ぼくは言った。

「いや……、流斗よりもずいぶん大きいんだなって思って……」

「うん、ルカくんはおちんちんおっきくてカッコいいんだよー、ルカくん学校だとプールの授業のときもおちんちん隠しちゃうから知らなかったけど」

「そ、そ、そんなのっ、こんなのっ、別に普通ですっ……」

 オモラシの恥ずかしさから彼自身の目を逸らし、おちんちんのサイズに話頭を転じたことでまたルカは別種の恥ずかしさに煽られることとなった。しかし、「も、もうっ、脱ぐ、脱ぎますっ、……ぼくも寒いから、入っていいですか!」こっちにお尻を向けて、手桶に汲んだお湯で下半身を濯ぐ。それから両手できっちりガードして、浴槽の縁を跨ぎ、顎まで浸かった。残念ながらおちんちんそのものを見ることは出来なかったけど、オモラシを披露した少年にとってはもう、そんなに難しいことではないだろう。

「ありがとうね、頑張ってくれたんだね」

「わ」

 まだ乾いていて、でもほんのりしっとりした髪にもあっさり触れることが出来た。「ぼくで相談に乗れることなら、何でも言ってくれていいよ。その、……流斗と同じくらい、見ててどきどきしたよ」

「そん、なの……」

 また、ルカは真っ赤になった。それは失禁の恥ずかしさというより、大人ぶっていたい自尊心が傷つくからではないだろうか。でも、昴星もそうだ、これぐらいの子たちの中には多分、男の子だからといって遠慮しつつも、やっぱり甘やかされるのが嬉しいと思う気持ちがある。

 それを、

「ね、お兄ちゃん、ちゅーしていーい?」

 ごく素直に認め、表現する術を、ぼくの膝の上の流斗は持っている。

「ちゅー、って言うと……」

「キス。……お兄ちゃんは男の子とキスするのいや?」

 ぼくの膝の上、向かい合わせに座る。流斗のあったかい右手がぼくの頬に当たる。ぼくはただ、戸惑った顔をしているだけで良かった。

「好き、お兄ちゃん……」

 流斗の唇がぼくに重なる。

 いつもよりも更に、もっと、かなり、積極的に攻めてくるキスだ。舌はぼくの唇を舐め、頬まで這い回り、ぼくよりずっと小さな唇でぼくの呼吸を奪う。

「りゅ……」

「ふは、……っにぃ、ちゃ……っ、ん、……んふっ……」

 この子がぼくの「ファーストキス」の相手であった。この子にとってもぼくが実質初めてだったはずだ。一応ぼくは大人だから、経験は浅くともこの子をキスでうっとりさせることはできる。けど、流斗のキスでこんな風に、頭の芯が痺れてくる……。そんな長くもない舌はぼくの前歯の裏にまで至り、舌に絡みつく。その唾液は、甘くさえ感じられる……。

「んふ……、やっぱり、お兄ちゃんは大人だね……」

「りゅ」

 流斗の手が、湯の中でぼくのペニスを掴んだ。隠れているからそこがどうなっているか、ルカにはわからない。けれど、流斗がぼくのに触れている、という事実はわかるだろう。

「ルカくんね、ぼくがこうやってちゅーしたとき、パンツの中にせーし出ちゃったことあるんだよ」

「ばっ……」

「でもお兄ちゃんはおちんちん硬くなっただけ。……でも、うれしいな。お兄ちゃんのおちんちん、ぼくが硬くしてあげたんだ……」

 ルカくん、と流斗が湯の中で彼の手を掴んだ。

「すごいよ、お兄ちゃんのおちんちん。ルカくんのもおっきいけど、ルカくんのよりもっともっとおっきくて、ぴくぴくしてる」

 そのまま、大した力も使わずに、……ぼくのペニスへとその手を導く。

 びく、と震えたのは、ぼくも、ルカも一緒だ。

「す……、すごい……」

 あっけに取られたように、ルカがぼくのものを指で、やがて手のひらで確かめるように撫で回し始めた。「すごい……、こんな……、こんなに……」

「えへへ、ぼくがおっきくしたの、うれしいなあ。お兄ちゃん、おちんちんこんなにしちゃったら、もっと気持ちよくなりたいよね? 大人の男の人は、ぼくたちよりももっといっぱいせーし出るんでしょ?」

 ぼくの膝から降りて、流斗が立ち上がる。

 勃起した愛らしいペニスは、ぼくの目の前にあった。

「ぼくも、おちんちんずっとぴくぴくしてる……。お兄ちゃんといっしょに気持ちよくなれたらうれしいな……。ルカくんもいっしょに、ね?」

 恋に落ちているルカの身体は、流斗の思うように動くよう出来ているらしい。それは言うなれば、流斗という非常識なほど蠱惑的な少年の「調教」によるものだと言えるかもしれない。

「まだお兄ちゃんもおちんちん洗ってないよ。ぼくとルカくんでお兄ちゃんのおちんちん洗ってあげよ?」

 立ち上がらされたルカのおちんちんに、目は奪われた。……まだ、完全に勃起しているとは言い難い。そんな状況で有りながら、「立派」と言っていい。形はちゃんと(何が「ちゃんと」かはわからないけど)包茎であるし、色もいかにも幼い白さだし、もちろん毛も生えていない。けど、何というか将来が楽しみな、そういう素質を感じさせるようなものである。少年たちの中では一番大きい才斗も、きっと四年生の頃からこれぐらいあったんだろう。

「ふふ、ルカくんもおちんちんおっきくなってきてる。でもやっぱりお兄ちゃんのが一番おっきいよね。お兄ちゃんも立って」

 さっき、細い腕でルカを動かしたように、……ぼくのことも流斗は苦もなく動かしてしまえるのだった。ざばあ、と波を立てて、……少年二人に自分の勃起を見せ付ける格好となる。

「う、わ……」

「わー」

 見慣れていても流斗は「見たい」って言ってくれるからそのリアクションでいいとして、問題はルカの方だ。……ドン引きしたっておかしくない、彼にとっては(もちろん、ぼくにとっても)愛らしい流斗のおちんちんとは全く異なる印象を与えるはずで、ことここに至ってやっぱり悪い方へと転がる懸念は大きい。

 しかし、ルカは何も言わなかった。

「お兄ちゃん、ここ座って」

 腰掛けにお湯を流しながら、流斗は言う。白い浴室床暖房搭載の諭良の家は別格としても、この家のお風呂もなかなか広く、また綺麗だ。タイルにすのこがいかにも寒々しいウチの浴室とは全く違う。それでなくとも、身体が冷えることなんでなさそうだけど。

「え、えーと……」

「だからー、ぼくとルカくんでおちんちんしてあげるの。ぼくはお兄ちゃんのおよめさんだから、そういうこともしなきゃいけないのー」

 確かに「新婚さん」ならそういうお風呂の入り方もあるかもしれない……、とにかくぼくは流斗に従って腰掛けに座った。

 ルカの両目はぼくの勃起したペニスから全く離れない。

「そしたらルカくん、こっち」

「う、うん……」

 ぼくの前に、ルカを招く。足の間、ぼくのペニスを挟んで向かい合った格好で、ぼくからは大小二本のおちんちんのサイドビューがよく見える。タマタマのサイズもルカの方が大きい。ルカの勃起は先ほどより更に進行して、もう直角を超えている。

「ね、ルカくん。いっつもの、くっつけっこ。……お兄ちゃんのおちんちんといっしょにしよ?」

 流斗が誘い、ぼくのペニスと比べればただひたすらに「愛らしい」印象しかないおちんちんをそっと差し出す。亀頭に、ふにゅりと柔らかい皮が触れる。

「えへへ……、大きさぜんぜんちがう……、お兄ちゃんのおちんちんすっごくかっこいいね……」

「か、かっこいいって言うのかな……」

「うんっ、ぼくのとルカくんのは大きさはちがうけど、おんなじ形だよ? でもお兄ちゃんは大人の形だもん、毛も生えてて、すごくかっこいいよ。……あのね、ぼくとルカくんでいつもいっしょにしてるの、お手本見せてあげる」

 流斗が腰を引き「ルカくんのおちんちんこっち」と白いソーセージ型のおちんちんを掴む。「あっ」と小さい声が漏れた。ルカのがソーセージなら、まあ、必然的に流斗のは「ポークビッツ」ってことになるだろうか。

「こうやってね、……くっつけるの、ぼくとルカくんの、おちんちん」

 ふにゅる、とまた流斗の皮がひしゃげる。ルカのそれが、たったそれだけの接触でぐんと硬く震えたのが見えた。

「ルカくん、ちゅー」

 流斗がルカの髪に手を回す、それだけで、ルカはスイッチが入ったように流斗の唇を貪り始めた。二人の舌が絡み合い、同時におちんちん同士もキスをする。少年の潜在的な貪欲さを隠せないように、おちんちんとおちんちんがこすり合わされる。

「ん……、ね? これ、すごくえっちなの。お兄ちゃんもいっしょにしよ?」

 流斗は微笑み、ぼくの右足を跨いで座った。「ルカくんはそっち」

 ルカは、勃起を隠すことも忘れて赤い顔、でもまだ少しの遠慮は残っている。

「……いいよ、おいで」

 ぼくが招くと、こくんと頷いて、……そういう仕草はどんなに大人ぶったって年相応に幼く愛らしいものだった。

「こうやって」流斗は自分の手でおちんちんを再びぼくにくっつけた。「おちんちんとおちんちん、ちゅーしながら、きもちよくなるの……」早くも、その手を動かし始める。「えへへ……、お兄ちゃんと、ずっとね、お兄ちゃんとこういうことしたかった……、お兄ちゃんでおちんちんきもちよくなりたかった……」

 ルカは、どうする?

「せ、んせ……」

 ルカは、左利きなのだ。ルカが自分のを扱き始めたのを見て、ぼくは初めてそれを知る。左の太ももに、ルカのお尻がの穴がきうきうと蠢くのを感じながら、ぼくは初対面の少年について、だんだんと詳しくなって行く……。

「ん、ん、ね、お兄ちゃんっ、お兄ちゃん、ぼくたち、えっち? えっちなの、うれし? ぼくね、ぼくっ、ぼくお兄ちゃん大好きっ、だからぁ、えっちな、とこっ、いっぱい、いっぱい見て欲しいのっ」

 それは、いつも通り素直なこの子の言葉だ。うん、これからもぼくは見たい、そして、それで君が喜んでくれるならば、ぼくだって幸せだ。

 そう思って、流斗の方に意識が吸い寄せられたぼくの左の頬に、唇が当てられた。

 左足に跨っているのは、ルカだ。

「せ、んせぇ、先生っ……」

 遠慮がちに喘ぎながら動かす左手の指に、その太めのおちんちんから溢れ出した腺液が白く泡立っていた。ぼくの性器と繋がって糸を引いている。どうやらルカはガマン汁の分泌量が多いらしい。

「キス……、する?」

 ぼくが訊くと、ぎゅっと目をつぶってこくこくと頷く。腰に手を回して唇を重ねた、……ぼくがしたのは、それだけ。

「んっんんーっ!」

 ルカの肛門がぎゅっと、引き絞られた。同時にそのおちんちんが脈打ち、ぼくのペニスへと大量の精液をぶちまける。生暖かさに包まれたぼくのペニスを、唇を離したルカは見下ろして、

「ごめん、なさい……っ」

 両目からぽろぽろ涙をこぼし始めた。

「せんせ、の……っ、ぼくので、よ、汚しちゃ、った、……ごめんなさいっ……」

「ルカ……」

 ちらり、流斗を見る。流斗はこくんと頷き返した。

 ぼくはルカを抱き寄せて、「泣かなくていいよ、……ルカ、気持ちよくなったんだね」涙の伝った頬に唇を当てる。その涙はぼくの舌に甘くたっていい。

「大丈夫だから。男の子なんだから、おちんちん気持ちよくなったら射精するの、当たり前のことだよ。そんなに気にしなくって大丈夫」

 すっかり子供っぽくなってしまったルカを、誠心誠意ぼくは慰める。

「ルカくんね、いつもおちんちんぼくより早くきもちよくなっちゃうの、気にしてるんだ」

 流斗は教えてくれる。なるほど、……さっき「キスで射精」という話を教えてもらったっけ。この子のおちんちんは大きさこそ立派だけど、早漏なのだ。

「ルカくん、お兄ちゃんは大人だからガマンできるんだよ。ぼくだってもう出ちゃいそうだったもん」

 流斗も慰めの言葉を口にして、ぼくの腿に跨ったまま、「ぼくも、お兄ちゃんでせーし出したい。お兄ちゃんのおちんちん、ぼくもせーし出していい?」右手を動かし始める。

「うん。いいよ、……流斗も気持ち良くなって」

 左手にルカのことを抱きながら、右手では流斗も抱き締める。

「ふ、あっ、おちんちんっ、おちんちん……っいくっ、いくっ、せぇし……っ、あはぁあっ」

 声を解き放つとともに、流斗もぼくのペニスへと、ルカに比べて量は少ないものの濃い精液をとぷんと纏わせた。蜂蜜のかけられた性器、しかし物が物だけに、まあ、甘そうには見えないね。

 ルカが鼻を啜り、「ごめんなさい……」と頭を下げる。

「いいよ、そんな気にしないで。それよりぼくはルカも流斗も、……何て言うか、ぼくなんかのどこがいいのかわからないけど、二人ともぼくで気持ちよくなってくれたのがわかって、何だかすごく嬉しいし、……ちょっと、恥ずかしいね。それに……」

 まだ、二人を抱きしめている。

「ぼくのも、勃起したまま収まらない。二人がさ、男の子なのに、すごく可愛いからかな。こんなの、……まずいよね、大人として」

 んーん、と流斗が首を振った。

「ほかの人がなんて言うかよりも、じぶんがどう考えるかが大事って、担任の先生が言ってたよ。ね、ルカくん」

 ルカがぴくっと震えて、小さく、こくん、頷いた。

「ぼくはお兄ちゃんの『およめさん』だよ? お兄ちゃんの前でえっちなことして、お兄ちゃんのおちんちんがふにゃふにゃのままだったらやだ。だれがなんて言っても、ぼくはお兄ちゃんのこと好きだし、お兄ちゃんがぼく見て、……んーん、ぼくとルカくん見ておちんちんかたくしてるの、うれしいよ」

 名を呼ばれて、「違う、先生は……、牧坂を見て……」慌ててルカは否定する。

「ルカくんはうれしくないの?」

 流斗はきょとんとした顔で訊き返す。「お兄ちゃんのおちんちん、ルカくんのせーしがかかってもっと元気いっぱいになってたよ? それにルカくんだってお兄ちゃんにえっちになってほしいって思ったんじゃないの?」

 ぼくは、また言葉とはぐれる。

 ルカも、何も言えない。

「ぼくはね、昴兄ちゃんたちがお兄ちゃんとえっちなことしたい気持ちわかるし、してほしいなって思う。ぼくの大好きなお兄ちゃんが、ぼくにいろんなこと教えてくれた昴兄ちゃんたちのこと幸せにするの、昴兄ちゃんたちへのお礼になると思うんだ。それにね? ぼくはルカくんのことも好きだから、ルカくんとお兄ちゃんがなかよしになって、おちんちんで気持ちよくなったらすごくうれしいよ。お兄ちゃんのおちんちんもルカくんのおちんちんも、ぼく大好きだから」

 流斗は、すらすらと言葉を並べる。屈託のない笑顔で。

「……ルカ」

 ぼくは、そっと訊く。隠すことを忘れたルカのおちんちんは、萎えている。それでも大きい。

「その、……ぼくは、どっちでも構わないよ? ルカが、もしぼくとそういうことをしたいって思うならさ、みんなには内緒にするから、ぼくはルカとそういうことをしてもいいって思うんだ。その、……流斗が言ったとおり、ルカもぼくには、すごく魅力的だと思う。男の子だけど、可愛いって思うよ?」

 ルカは、すぐには言葉を返さなかった。頭のいい子、という自覚があるだろうし、実際(流斗から試験の点数を教えてもらった限りは)それを自覚し、誇ってもいいくらいの子ではある。だからこそ、何と返せばいいのかをじっくり考え込んでしまうのだろう。

「……でも、こんなの……、普通じゃないです……、同じ男に、……勃起したり、……大人の男の人とこんなことしたり、するのは、……普通じゃないことです……、非常識です……」

「うーん……、まあ、それはそうだと思う」

 くしゅくしゅ、その髪を撫ぜる。オモラシを見せ、射精までしちゃった後に口にする言葉としてはあまりにも論拠薄弱、この子自身、金科玉条のように「常識的であること」を思っているようだけど、そもそも流斗と二人でエッチな遊びをしちゃってる時点でもう、ちっとも「普通じゃない」ことには意識が至るはずだ。

「じゃあ……、ルカはぼくとはしないでおこうか。流斗と二人きりなら、……もちろん、ぼくの知らないところでね? それなら、ルカの秘密を知ってる人は誰もいない、さっきのオモラシもいまの射精も、……可愛かったから上手く行くかわからないけど、ぼくは忘れるように努力する」

「えーもったいなーい」

 流斗が声を上げた。「ルカくんせっかくお兄ちゃんとおちんちんあそび出来るのにー」

 ルカは小さくなって俯いて、……黙りこくる。

「ルカくんだって、先生のおっきいおちんちん見てみたかったんだよ? ぼくのおちんちん好きなんだもん、先生のおちんちんだって好きになるに決まってるのに……」

 流斗が煽る。ルカは小さくなったまま、しばらく震えていたけれど、

「ぼ、……ぼくも……」

 絞り出されたのは、泣き声だ。

 そして、

「ぼくもっ……、ぼくも、せんせぇとっ、まきさかとっ、いっしょがいいですっ、いっしょにいっぱい、ちんちん遊びっ、したいですっ」

 素直過ぎる言葉と、……えーと、あと、オシッコ。

 この少年自身、禁じていたのであろう「非常識なこと」を、「したい」と認めてしまったことで緊張の糸が切れてしまったのだろう。ぼくのペニスに絡んだ二人分の精液を洗い流すように、涙の嗚咽と合わせるかのごとく不規則に、強まったり弱まったりしながら、ぶしゅっ、じょば、と音を立ててルカは失禁していた。

「素直なのが一番だと思うよ。……流斗も可愛い、ルカも可愛い。二人を比べることは、ぼくには出来ないけど、差はないと思う。事実として、二人のことを可愛いと思うからこそぼくは勃起する、……いまもね。だから、二人を可愛がってあげたい。二人を可愛がってあげることが、二人から『そういうことしたい』って思ってもらったぼくの義務なんだろうね」

 いい? と流斗に訊く。流斗はにっこり笑ってうんと頷く。

「ルカくん、またオモラシしちゃったね」

 くすっと笑って、ぼくの腿から降りる。膝を揃えてぼくの足の間に座り、「ルカくんもこっち。いっしょにお兄ちゃんのおちんちんおそうじしなきゃ。まだせーしついてるし、お兄ちゃんまだせーし出してないよ?」

 もうルカは抗わなかった。くすんくすんと泣きながらも頷いて、ぼくの足の間に降りたところで、「お兄ちゃん、ちょっとお尻つめたいかもだけど、床に座って。ぼくとルカくんでおちんちんきれいにしてあげる。でもって、……えっと、まだけっこんは出来ないから、『恋人』二人でいっしょにおちんちん気持ちよくしてあげたいな」

「こい……、びと……」

 ルカが、流斗の口にした言葉を繰り返す。

「うん、恋人。ルカくんとぼくも恋人だし、ぼくとお兄ちゃんも、ルカくんとお兄ちゃんも恋人! みんなにはナイショでね? 恋人同士はえっちなことしなきゃ。でもって、ぼくらみんな男の子だから、おちんちんでえっちするんだよ?」

 独善的と言ってもいいぐらいの言葉なのに、流斗の口から零れたなら、それはいつだって、みんなに優しい。

 勃起の収まるはずもないぼくの、ルカのオシッコを浴びた性器を、ぱくんと流斗がその口に収めた。

「んふ……」

 口の中では舌が動く。いつもの通り、器用に、……そして、ぼくへの愛情を感じさせ、信じさせる動きだ。

「あは、お兄ちゃんのおちんちん、すっごくおいしい! ルカくんのオモラシしたあとのおちんちんとおんなじくらいおいしいよ、ルカくんもはやくっ」

 流斗に促されて、ルカも恥ずかしそうに膝をつき手を付き、流斗が支えるぼくのペニスに顔を近づけた。

「先生……、ちんちん、汚しちゃって……、ごめんなさい……」

 そう、もう一度謝ってから、ルカもぼくの性器の先端を口に含む。

「ルカも……、流斗も……」

 上手ではない。……いやもちろん、流斗のおちんちんはこれぐらいでも十分いけるだろうけど。ただ、真面目な子が背徳感に苛まれながらするフェラチオというものには必要以上に心が震えて当然だろう。

「すごい……」

 だから結果として、ぼくは感じる。ルカの口の中へ、脈を伝える。

「ふふ、お兄ちゃんきもちいいんだって」

 流斗がルカに伝える。ルカは恥ずかしそうに、少し苦しそうに、眉間にシワを寄せて、それでも口いっぱいに頬張ったぼくへの愛撫をやめようとはしない。

「ね、ルカくん、ぼくもしたい。はんぶんこしよ?」

 流斗の求めに、ルカはごく素直に応じた。ただ口を外したとき、彼の口から「ちんちん……」小さく呟きが漏れたのは、ぼくの耳にも届いた。「すっごい……」

「ね、おいしいよね、お兄ちゃんのおちんちん……。ぼくたちがもっとがんばればきっとこいぃせーしいっぱい出してくれるでしょ……? えへへ」

 流斗の、舌を這わせながらの上目遣いにグッと堪える。

「先生の……、精子……」

 しかし、そこにルカの顔が加わるのだ。さっきまであんなに真面目で「常識的」でいようとしていた子なのに、今ではもう、「せぇひ……、ふぇんへぇの、ひゃへい……」魅入られたように流斗と二人、時折舌を絡ませながらぼくのペニスから出るものを求める浅ましさを改めようともしない。

 たぶん、これていい。素直であることは誰にも咎められるものじゃない。

「んふ……、おにいひゃ、らひて、ね? ぼくとりゅかくんれ、おひんひんひっふぁ、ひもひよふなっふぇ……」

 昴星と流斗、昴星と諭良、そして流斗と諭良、時には三人でしてくれることさえある。愛しい少年のダブルフェラにはちょっと他のものに代え難い魅力がいつだってある。そしてぼくは、この果報者は、「流斗とルカ」という新しいコンビネーションさえも今日、知ることとなったのだ。

「ふ……、二人とも……っ、もう……」

 流斗はカリ首の裏をちろちろ舐め、ルカは自分には晒せないからか珍しく思えるのだろう亀頭を舐め回し、……そのまま放ったならば、

「うあっ」

 ぼくの精液は主に、ルカの顔を汚すこととなる。

 目や鼻に入らなくって良かった……。

「すっごぉい……、すっごいビクビクしてたねぇ……、昴兄ちゃんだったら『ちょうビクビクしてた』ってゆってるよ?」

 流斗は嬉しそうに言う。反面、ルカは顔射を受けて呆然としているのだった。

「お兄ちゃんの、ぼくとルカくんで出たさいしょのせーし……」

 その顔を、流斗はぺろぺろと舐めて行く。大半を舐めてもまだ飲み込まず、……そのままルカにキスをした。ルカの身体がびりっと震える、しかしこくん、と飲み込む音は、確かに二つ聴こえた。

「大人のせーし……、ふふ、ぼくたち二人ともお兄ちゃんの『恋人』になっちゃったね……」

 幼い恋人同士のキスはまたしばらく続いた。ぼくは満ち足りた気持ちで二人のキスを眺める。それから、最低限のマナーとして、

「わ」

 二人を、抱き締める。

「せ、先生……」

「お兄ちゃん?」

 だって二人とも勃起してるんだ。流斗は当然としても、ルカまでも、ぼくの精液を飲んで勃起しているんだ。

 そして二人の身体は、お風呂から出て何分も経っているというのに、ほんのりと温かい。

「よかった……、風邪ひいちゃったら困るからさ、二人があったかくてよかったよ」

「お兄ちゃんは、さむい?」

「まさか。……ええと、二人が温めてくれたからすごくあったかかった……、っていうか、……ありがとう、ごめんね……」

 ふふ、と流斗が笑う。「お兄ちゃん、ぼくたちのお口で気持ちよくなっちゃったね。もう、ちゃんと『恋人』でいてくれなきゃダメだよ? 昴兄ちゃんたちとも『恋人』になってもいいけど、それでもちゃんとぼくたちとも遊んでくれなきゃやだよ?」

 これはかつて昴星が思ったことなのかもしれないな……、と思う。それを流斗が想像して、言うのだ。

「うん。約束するよ。ぼくたちは秘密の恋人だ」

「秘密の、……恋人……」

 ルカが、腕の中でそっとぼくをうかがう。「ぼく……、も、いっしょで……、いい、んですか……? 牧坂は……?」

「うん」

 ルカの頬に口付ける。「こんな風にね、二人ともぎゅーってしてるの、幸せだよ。だから、……本当はいけないんだけど、いいんだ。二人がおんなじようにこうして、ぼくにぎゅーってされるの嫌じゃなかったら」

「うれしいよ」

 今度は流斗がぼくの頬に口付けた。「だって、お兄ちゃんのこと好きなぼくはまちがってなかったって、ルカくんもお兄ちゃんのこと好きならわかるもん」

 ここでぼくが考えなければいけないのは、少し先のことよりもまず今のことだろう。すなわち、二人の身体を冷やさないようにしながら、ひとまず二人の持て余した性欲をどう処理するか。興奮していて寒さを感じはしないのだろうけど、それでも肌はしだいに冷たくなって行ってしまうものだから。

「……流斗、ルカ、……あのさ、今度は……、ぼくが二人のことを気持ちよくしてあげてもいいかな」

 それが済んだら、お風呂に入って温まる。その後のことは、それから考えればいい。

「お兄ちゃんがしてくれるの?」

 流斗は驚いたふりをする。ああいかん、そうだ、「したい」っていう積極的な欲を出すのはあまりよくないな。だってまだ「普通のお兄ちゃん」でいなきゃいけない段階だ。

「……礼儀、っていうか。その、二人が頑張ってくれたから、ご褒美あげなきゃって思うし、……それにほら、そんなおちんちんじゃお風呂入ってもゆっくり出来ないんじゃない?」

 流斗とルカは顔を見合わせる。ルカはまた純情そうに頬を赤らめてうつむいてしまったが、

「お兄ちゃんしてくれるなら、ぼくうれしいな」

 流斗はひょこっと立ち上がる。くっきり上向きのおちんちんが、相変わらず愛らしい。「ほら、ルカくんもいっしょにしてもらお?」

 ルカも、結局は立ち上がる。もちろん、恥ずかしそうに。しかし大きなおちんちんは期待に震えているのだ。

「じゃあ……、触るよ?」

 右手にルカ、左手に流斗、つまみごこちの全く異なる、しかし少年の性器。流斗のものもルカのものも先端は濡れているが、ルカの方がやはり腺液の分泌量が多いようだ。

「えへへ、お兄ちゃんにおちんちんさわってもらっちゃった」

「……こんなの、本当はいけないんだよ? 流斗やルカみたいな可愛いおちんちん、大人に触らせたりしたら……」

「でも、お兄ちゃんぼくたちの『恋人』だもん。恋人はおちんちんさわっていいんだよ」

 ルカは真っ赤になって言葉もない。ぼくがちょっと指を動かすただそれだけで、敏感に震え、声を堪えている。

 ちょっとイタズラをしたい気持ちにさせられるような、愛らしい表情である。

「ルカのおちんちんは」

 指を当てて、ちょっとだけ下に向けて、離す。ぴたん、とその下腹部に当たっていい音を立てた。

「あう」

「本当に立派だね。……クラスで一番大きいんじゃない?」

「そ、んなの……」

 ルカは口ごもり、

「そうだよ」

 代わりに流斗が答える。「ぼくのこれまで見たことあるおちんちんの中でね、えっと、一番おっきいのはお兄ちゃんだけど、あと才兄ちゃんもおっきくって、でもルカくんはその次におっきいよ。逆にね、昴兄ちゃんのおちんちんはすっごいちっちゃいの。ぼくよりお兄ちゃんなのにぼくのよりちっちゃいんだよ。お兄ちゃんもお風呂で見たことあるでしょ?」

「ああ……、まあね、そんな観察したわけじゃないけど」

 個性、という言葉を考えさせられる。この場所をこんな風に見ることが出来るようになってからそう長い時間は経っていないけれども、昴星の丸っこい「小タマネギ」に始まり、流斗のいかにも幼く愛らしい紡錘形のおちんちん、もううっすら発毛がある才斗の男らしいおちんちんに、諭良の極端に皮が余ったおちんちん、……それらに加えて、温泉街の瑞希と陽介の二人もまたそれぞれ違ったし、このルカのおちんちんもまた、特徴的なものと言えるだろう。

「色んな形があるもんだなぁ……」

 なんて、我ながらバカみたいにぼくは呟いた。

「お兄ちゃんはぼくたちぐらいのころ、どんなおちんちんしてたの?」

 そう問われて、

「……どんなだったかなぁ……」

 ……実はあんまり覚えていないというのが実情だ。皮は、もう被せるのも難しい。毛だって剃るわけには行かないでしょう。だから自分のに往時の面影を見出すのは、非常に難しい。

「でも、ルカみたいに立派じゃなかったよ。それにぼくは二人の歳のころには、まだ射精だって知らなかったし……。二人はおちんちんの皮は剥けるの?」

「ちょびっとだけ。才兄ちゃんがね、お風呂のときは皮むいて中も洗わないとおちんちんが臭くなっちゃうって教えてくれたから、あんまり得意じゃないけどちゃんときれいにしてるよ」

 なるほど、才斗は知ってて敢えて昴星が洗わないことを看過してるんだ。それでいて「臭い」って言うんだからもう、それは趣味の領域だ。

「ルカは?」

「か、皮は……」

「剥いてみてもいい?」

 答えを待たず、そっと、試してみる。痛がらせないように、

「あう……」

 とろとろに濡れた亀頭には、白い滓がある。一度お湯に浸かったぐらいではどうにもならない臭いがフワッと浮かび上がる。しかしこの子の臭いは、比較的マイルドである。汚れているわりに、流斗に近い。

「ルカも、皮の中を洗った方がいいだろうね。もちろん、最初はさ、慣れるまで大変だろうとは思うけど、……ぼくもそうだった記憶あるしね。でも少しずつでも綺麗にして行こう? 可愛い恋人がしゃぶってくれる場所なんだから。ね?」

 この場所を除けば、全体としては清潔感のある外見をした子だ。だから却って、おちんちんばかり汚れていることは強い恥ずかしさを喚起されるのかもしれない。ルカはまた顔を覆ってこくこくと頷いた。

「お兄ちゃんも、ルカくんの恋人だよ?」

 流斗が言った。「だから、ルカくんのおちんちんしゃぶるの、ぼくだけじゃなくてお兄ちゃんもだよ」

 それは、ルカの陰茎を前にして、何の欲も催さないではいられないぼくへの配慮である、優しさである。

「だ、だ、ダメですよっ、ぼくの、ちゃんと洗ってないですっ、だから、汚いっ」

「ぼくね、ルカくんのオシッコ味のおちんちん好きだよ」

「オシッコ味の……?」

 そりゃ美味しいに決まってる。

「牧坂!」

「さっきみたいにね、いっしょにオモラシしたあとに、おちんちんしゃぶりっこするの。お兄ちゃんオシッコの味知らないの? しょっぱくっておいしいんだよ。才兄ちゃんと昴兄ちゃんがね、オシッコは出たばっかりならきれいだから飲んでもへいきって教えてくれたよ」

「で、出たばっかりじゃないしっ、今はっ」

 ぼくはルカを見上げて、

「ぼくは、ルカにお礼をしなきゃいけない。……ルカがぼくにしてくれたののお礼にさ、ルカのこと、射精させてあげなきゃいけないんだ。だからさ、……確かにちょっと汚れてるのかもしれないけど、ぼくは平気だよ?」

「ぼくのおちんちんもしゃぶってくれる?」

「流斗がして欲しいなら。……何なら、二人のおちんちん一緒にしゃぶってあげてもいいぐらいだよ」

 混乱するルカに対して、流斗はどこまでも無邪気だ。

「昴兄ちゃんがね、才兄ちゃんと諭良兄ちゃんのおちんちん、ひとりで二本いっしょにぺろぺろしたことあるんだって。オシッコとせーしいっぱい飲んで、すごくおいしかったってゆってた」

「そうなんだ……。じゃあきっと流斗とルカのおちんちんも、ぼくにとっては美味しく感じられるんだろうね」

 流斗が皮を剥いて腰を突き出し、「ちゅ」とおちんちんでルカにキスをした。

「あはっ、ルカくんのおちんちんぬるぬる……、ぼくのもぬるぬるになっちゃう」

 目で、流斗がOKのサインを送る。ぼくも目顔で頷いて、接した二本の亀頭を、同時に舐めた。

「あんっ……」

 と声を跳ねさせたのはルカで、

「ふあ……」

 うっとりと声を震わせるのは流斗だ。「お兄ちゃんに、おちんちん、キスしてもらっちゃった……、おちんちん、おいし?」

「……うん、そうだね。ええと……、さっきの精液の味なのかな、あと、ガマン汁のとろっとしてしょっぴい味と、……ルカのは、オシッコの臭いがするけど、まずくないよ。ルカのおちんちん、すごく濡れてるね」

 ルカはまた言葉とはぐれた。涙目で、汚れたペニスを舐めたぼくを見下ろして、切ないような悲しいような、それでいてたまらなく嬉しいような、複雑に入り組んだ表情を浮かべている。

「ルカくん、もう出ちゃう?」

 流斗が、ちょっと意地悪く言って、その唇にキスをする、ぺろりと舐める。その舌は、言葉を導き出す魔力を帯びたものだ。「ちゃんと言わなきゃ、お兄ちゃんわかんないよ?」

 愛らしく、優れた天使は悪魔の顔さえ上手に浮かべて見せるようだった。

「せ、んせっ……」

「はい」

「せんせぇ……」

「ん?」

「……ちん……、ちんちんっ、ちんちん、射精っ、したいですっ、ぼくのちんちんっ、もっと……、もっと舐めてくださいっ」

 正直すぎる告白の後で、また顔を覆ってしまった。

「じゃあ、ルカくんのおちんちんしてあげて、お兄ちゃん」

 流斗の言葉が言い終えられるのを待ってから、ルカの性器を口に含む。舐めごたえ、というか、口の中での存在感は才斗に匹敵する。すぐに広がるガマン汁のとろみとしょっぱさ、をゆっくり味わう暇もほとんどなく、ほんの少し舌を絡めて動かしただけで、

「あっはぁああンっ」

 とびきり色っぽい声を上げて、ルカはぼくの口の中へ精液を放った。

 ほんのり甘く、透き通ったしょっぱさ、それでいてずいぶんと青臭い。流斗よりも大人っぽく感じられる味の、精液だった。口から抜いて観察すれば、ビクビクと痙攣しながら鈴口からはまたトロトロと溢れてくる。それが白く太い茎を伝い、ふっくらしたタマタマまで流れたところでもう一度丹念に拭うように舐めてから、飲み込んだ。

「どう? お兄ちゃん、ルカくんのせーしおいしかった?」

 流斗が訊く。

 ぼくの口から鼻へ、その匂いがふわりと抜けた。喉は少し刺激を感じるけれど、これは誰のであってもそう。

「……うん、悪くないね。思ってたよりもずいぶん飲みやすかった……。流斗たちはいつもお互いのをこうやって飲み合ってるの?」

 ん、と流斗は頷く。「ぼくね、においと味の両方がすごいんだって。昴兄ちゃんと才兄ちゃんの二人から、二人のいいところをもらったんだよ」

「二人の、いいところ?」才斗の聡明さと昴星の勇気、才斗の男らしさと昴星の愛らしさ、……確かに流斗は二人の「弟」みたいなところ(実際は、才斗とは従兄弟だし昴星とは血のつながりさえない)あるけれど。

「才兄ちゃんはね、昴兄ちゃんのにおいが好きなの。でね、昴兄ちゃんは才兄ちゃんの味が好きなんだ。でね、ぼくは才兄ちゃんと昴兄ちゃんの、味もにおいもどっちも大好き」

「その……、ええと、味とにおいっていうのは、要するに」知ってるけど「おちんちんの……、ってこと、だよね?」

「うん! だからね、ぼく、お兄ちゃんのおちんちんとせーしの味とにおい、すごくうれしかったし、ルカくんのおちんちんがおいしかったらお兄ちゃんぼくとおそろいだよ」

 ルカはやっと我に返って、「美味しいもんか……、こんな、汚いの……」唇を尖らせて言うけれど、……残念ながら、

「美味しかったよ? その、思ってたのよりもずっと、って意味だけどさ」

 ぼくは微笑んで言う予定でいたのだ。

「勃起、少し落ち着いたね。……実際、ちっともまずくなかったし、不潔な感じもしなかった。何て言えばいいのかな、口の中で……、うん、口の中でさ、ルカのおちんちんが、ルカが言うより正直に『気持ちいい』って言ってくれてるんだって思ったし、実際射精してくれたから本当だってわかった。だから嬉しかったし、出てきたのも美味しいと思ったよ」

「ルカくんもうれしかったんだよ、お兄ちゃんのこと、もう大好きだから」

 流斗の言葉に、ルカは一気に顔を真っ赤にして、「そ、そ、そんなのっ……、ちんちんっ、ちんちんですよ? なのに、そんなっ、美味しいとかっ……、普通じゃないっ」

 言い募る。けれど、……流斗によって入った言葉のスイッチは、

「でも、ルカくんもお兄ちゃんのせーしおいしかったんでしょ? だからせーし飲んでおちんちんおっきくなっちゃったんだよ」

 流斗によって切られる。「そ、そ、そ、それはっ……、それは……」

「ルカ」

ぼくはルカの両手を握る。

「誠心誠意頑張る。ずーっと一緒にいることは出来ないかもしれない。でも、……ぼくのことを『先生』って読んでくれたね? 君の『先生』って思ってもらえるように、ぼくは出来ること何でもするよ。君が楽しいように、幸せであるように」

 ルカはもうぱくぱくと口を開けたてするだけだった。そのほっそりしたお腹に唇を当てて、……これでいいのかな、流斗に確認する。ん、と流斗は嬉しそうに微笑んで頷いた。

「ね、お兄ちゃんぼくもぼくもっ、ルカくんばっかりするのずるいよ」

 流斗が求めた。そうだ、さっきひと舐めしただけで放置してしまった。昴星や諭良だったらルカをオカズに抜いちゃうぐらいするだろう。その点この子は誰よりも幼くありながら、一番ガマン強い。

「ああ……、うん、ごめんね、お待たせ」

 流斗の、ルカよりはふんわりした曲線のお腹にもキスをして、「じゃあ、口ですればいいのかな……?」訊く。

「うん、……でも、ひとつしたいことあるの」

「したいこと……?」

「ん、……えっとね、ぼく、またオシッコしたい……」

 えへへ、と少し恥ずかしそうに流斗は笑う。尿意の告白程度で恥ずかしがるような子ではない、もちろんこれは、いい意味で。

 隣でルカが、はぁ、と呆れたようにため息を吐くが、さっき泣きながら人のペニスめがけて失禁したような子がしていい態度ではないね。

「ああ……、そう? じゃあ、どうしようか。先にしちゃう? それとももうちょっとガマンして、射精してからにする?」

「先にしちゃうと、お兄ちゃんのお口の中にもオシッコの味しちゃうよ? それでもいいの?」

「別に……、構わないよ。だって、ルカの精液飲んだし、これから流斗のだって飲むんだから、少しぐらいオシッコが混ざったって……」

「えへへ……、ありがと。お兄ちゃんやっぱり大好き」

 膝をついて、ぎゅっと抱き着く。そのままルカをフェラしたぼくにキス。「あのね、おちんちんおっきくなったままオシッコすると、ふんすいみたくびゅーって出るんだよ」

「ああ、うん、わかるよ」

「前にね、ルカくんといっしょにおちんちんおっきくして、二人でどっちがとおくまで飛ばせるかきょうそうしたよ。でも、ルカくんの方がとおくまで飛んだし、量いっぱいだった。やっぱりルカくんのおちんちんの方がおっきいからかなぁ……?」

 それはどうだろう。流斗のオシッコだっていつも元気いっぱいで、たっぷり飛ばしている印象だ。

「ね、お兄ちゃん、抱っこして」

「抱っこ?」

「うん、オシッコするときの抱っこ」

 ってことは、つまり、……流斗は早くもお尻を向けている。

「……こういうこと? 流斗軽いね」

 本当に、羽毛のように軽い。まだ内側からの熱を持て余しているのを感じるけれど、この軽さを覚えるたび、ぼくは「この子を幸せにしなきゃ」って思いを強く抱く。

 ルカは呆れた顔で見ていた。けれど、呆れてるばっかりじゃない。大開脚して、ふだんルカが、そしてぼくが入っている場所まで晒す流斗の姿が魅力的に見えないはずがない。

「えへへ、赤ちゃんみたい。じゃあ、オシッコするよ?」

 言うが早いか、流斗は片手でおちんちんの方向を調整して太ももに力を伝えてきた。

 高らかに、虹のような放物線が描き上がる。

「あはっ、すごぉい、オシッコっ」

 それは鏡にかかる。薄い金色のオシッコを、鏡に映った自分の淫らな姿にぶちまけて、流斗は歓声を上げた。

「……どうかしてる、本当に変態だ……」

 ぶつぶつとルカは言っているけれど、足の間でそのおちんちんがまた少しずつ勃起し始めている以上、一方的な非難を出来る立場ではないだろう。

「楽しい?」

 ぼくが問えば、

「うんっ、すごい、たのしいよー、ぼくオシッコで遊ぶの大好きっ」

 君がそう言うならば、ルカだって絶対的に「嫌い」と言うことができなくなる。君の好きなものを、君と同じ目の高さから同じ気持ちで見たい感じたいと願ってやまない恋の病気。

「オシッコで遊ぶのは、まあ構わないと思うけど、終わったらちゃんとおちんちんよく洗ってさ、きれいにしておかなきゃダメだよ? ……まあ、流斗いい子だから判ってるとは思うけどね」

「うん、お風呂のときはちゃんときれいにするよ。……お兄ちゃんはぼくのおちんちんオシッコくさいとイヤ?」

「イヤに決まってるだろ」

 ぼそ、とルカが言う。正直に言えばオシッコ臭かったりチンカス付いちゃったりしてるようなおちんちんだって大好物である。しかしルカに引かれかねないからそういうことは秘しておくべきだろう。ぼくが言葉を考えているうちに、流斗の放物線は緩く収まった。ふんわりとオシッコの臭いがまた漂う。

「まあ……、どうだろうね。普通の男の子のおちんちんからそういう臭いがするのと、流斗みたいな可愛い子からそういう臭いがするのとじゃ全然違うよ、……そうだよね?」

「は」

 自分に質問が向くとは思っていなかったらしい。ルカはあからさまに動揺する。

「そそ、そんなのはっ、だっ、だれのオシッコであろうとっ、お、お、オシッコは、オシッコでっ」

「でも、ルカにとっては流斗のオシッコだけは特別なんじゃない? ……それはぼくにとってもそうだ。さっきルカがぼくの膝でオシッコしたときも、その前のオモラシのときも、ルカのを口でしたときもね、君のおちんちんから出たものだって思うからかな、ちっとも『臭い』なんて思わなかったよ。色が金色だなぁとか、湯気が立ってるなぁって、そう思って見てた。……ぼくはおかしいかい?」

 ルカは頷けない。そうすることでルカ自身に向くぼくの思いをはねつけることになると、賢いルカはわかっている。

「ルカくんね、ぼくのおちんちん気持ちよくなるとこ見るの好きなんだって」

 流斗はぼくが改めて膝の上に下ろすと、振り返るように首を擡げて教えてくれる。

「さっきみたいにね、ぼくオモラシしてるとき、いっつもおちんちんおっきくなっちゃうの見て、うれしいって言ってくれるよ。オモラシだけじゃなくて、ぼくが気持ちよくなってるの、ぼくとおんなじにうれしいんだって」

 それは(内容にはいささかならぬ問題が伴いはするけれど)ごく純情で年相応な、優しい少年であるルカを端的に表している。

「じゃあ、ルカもぼくと同じだ。ぼくもさっき流斗がオモラシしてるところを見て、……やってることは確かにオモラシだけどさ、それは置いても、気持ち良くなってるのはいいことだと思ったよ。いまのオシッコの仕方にしても可愛かったし、流斗が楽しかったならぼくとしてももちろん嬉しいよ。……これが『恋人』ってことなのかな、合ってるかわからないけどね」

 多分、間違っているんだ。

 だけど、他の誰でもない、「流斗の恋人」でいるためには、そういう考え方が正解になる、……なってしまう、と言うべきか。

「ルカはいまも流斗が気持ちよくなるところが見たいのかな」

 ルカは答えない。代わりに流斗は、「ね、ぼく、お兄ちゃんとこれからいっぱいいっぱいこういうことできる? お兄ちゃん、してくれる?」と訊く。

「それは、まあ……、流斗がちゃんと勉強するならね」

「じゃあ」

 流斗はぼくの膝の上で足を開いた。ルカの目からは「気持ちよくなっている」流斗のおちんちんが遮るものなく見えるはずだ。

「お兄ちゃん、やっぱりお口じゃなくて、手でしてくれる? ルカくんにぼくのおちんちんが気持ちよくなるとこ、見せてあげたい。……ぼくね、ぼくの気持ちよくとこ見て、ルカくんが気持ちよくなってくれたらうれしい。ぼくとルカくんも『恋人』だから、そういうことしてもいいんだよね?」

 ルカのおちんちんも勃起している。大好きな流斗が気持ちよくなるところ、……ぼくだって何度見ても見飽きないのだ。子供であれば、きっとなおさら。

「そうだね。秘密の『恋人』同士だから、それは許されることだと思う」

 ぼくは左手に流斗のおっぱいを、右手に細っこいおちんちんを捉えた。「流斗のおちんちん、すごく硬いね。もう射精したいんだ?」

「えへへ……、だってドキドキしてるもん。大好きなお兄ちゃんにおちんちんさわってもらえて、おちんちんが恥ずかしくなってるとこ、ルカくんに見てもらえて……、幸せだと、おちんちんいっつもこんなふうに硬くなって、ピクピクしちゃうんだよ」

 サービス精神の塊みたいな流斗にならって、ぼくもルカくんにサービス精神を発揮する。流斗のおっぱいをきゅっと摘まんで、「ひゃんっ」と流斗を鳴かせて、

「へえ……、可愛い色してるからもしかしてって思ったけど、流斗は男の子なのにおっぱい感じちゃうんだ?」

 その痴態をルカに見せる。

「んふ……、ぼくだけじゃないよ、昴兄ちゃんが教えてくれたんだもん。昴兄ちゃんはもっとおっぱい好きだよ……」

 ぼくの熟知している情報にも、「そうなの……」逐一答えて、応じていく。

「ん、昴兄ちゃんはおっぱいぼくよりやらかいから、お兄ちゃんもさわるのきっとうれしいと思うな……。ルカくん、ルカくんぼくのことちゃんと見て。ぼくのおちんちんも、おっぱいも、ぜんぶちゃんと見てくんなきゃダメ。でもって、ルカくんのおちんちんもいっしょにきもちよくなって」

 ルカは、紅い顔で、……それでも素顔に流斗のリクエストに応える。だいたいこんな可愛いものが目の前にあって、いくらまだ幼いと言ってもつまらない(と敢えて言おう)プライドのために「見ない」なんて、損である以上にバカバカしい。

 しかし、これは大好きな「恋人」を寝取られるような状況だろうか。実際、そういう解釈も可能ではあるわけだ。……それはルカの年齢を考えると(事実、ぼくが流斗を寝とっているのだとしても)かわいそうな話である。

 ルカとも、仲良くいたい。そうあって欲しいと、流斗が願っていることもぼくは知っている。だから、

「ルカ」

 ぼくは声をかけた。「オナニー、もうちょっとガマン出来るなら、ぼくと一緒に流斗のこと気持ち良くしてあげないかい?」

 ぼくがそんな風に誘うこと、ルカの予想にはなかったらしい。「え……っ?」右手は既に、立派ながらも早漏なペニスにかかっているのだ。

「流斗も、そっちのほうが気持ち良くなれるんじゃないかな。ほら、流斗はぼくの恋人にさ、なってくれたわけだけど、そもそもそれ以前にはルカの恋人だったんだ。流斗はまだ四年生なのに、二人に愛されてるんだ。それを身体で感じるのって、きっとすごい幸せなことだと思うんだ」

 流斗が少し、ぼくに目をやる。しかしすぐに納得したように、

「ん。お兄ちゃんも、さっきぼくとルカくんとでおちんちんしたとき、気持ちよくって幸せだったの?」

「そりゃあ……、ね。ぼくにはこれまで一人だって『恋人』いなかったんだ。それなのに、こんな急に二人も『恋人』が出来た……、流斗みたいな可愛い子」ルカについてはその表現はやめよう、とっさにぼくは「ルカみたいに、かっこいい子。幸せじゃないはずないよね」と言い換えた。

 ルカは、少し訝るような顔になる。

「ぼくが……、かっこいい……?」

「そう思うよ? おちんちんも立派だし」

 じいっと、ルカはぼくを見つめる。

「……先生は、ぼくらみたいな男子が好きなんですか?」

 あ、と思った。けれどルカが今更のように、勃起したそのおちんちんを隠し、再びぼくに目を向けたときにはもう答えは用意出来ていた。

「そんなの、『普通じゃない』って思う。いけないことだ、すごく。でもぼくは、……流斗に告白されて、正直やっぱり嬉しかったし、その気持ちに応えなくちゃって思った。だから『普通じゃない』としてもさ、君たち二人を可愛いって、好きって思う気持ちが『普通じゃない』なら、ぼくは『普通』でなくてもいいかなって思うんだ」

 ルカが、ぼくの中身を覗こうとじっと見つめる。

 けれど、やがて何かを決心したように、流斗の前に膝で立つ。ルカは自ら、流斗の唇に唇を当てた。

「んふ……、ルカくん……」

 美少年って言葉を選ぶのにに一切の文句も要らない二人のキスを、ここからでは見ることが出来ない。ルカはぼくごと流斗を抱きしめるというか、抱きつくとも言えるような体勢で貪るように唇を重ね、……そんな体勢では辛いに決まってることぐらい聡明な子ならわかるだろうに、不器用に腰を動かし、おちんちんを流斗のおちんちんに重ねて擦り付け始めた。

「牧坂……っ、まきさかぁ……っ」

「んふぁあ……、ルカくん、おちんちんトロトロしてるっ……」

 二人の甘いおちんちんが重なり、二人の甘ったるい声が重なる。それが、どんどん極まって行く。ぼくは両の手で流斗のおっぱいをいじり、その小さな耳にキスをする。「大好き」とか「愛してる」とか、そういう言葉だけ聴いていて欲しいと願うその耳に。

「あ、あっ……、まきさ、まきさかっ、いく……っ、もう、もういくっ……」

「ん、んむっ、ルカくんいってっ、おちんちんのっ、せーしっいっぱいおちんちんちょうだいっ、いっ、ひゃぁあんっ」

 二人がその鼓動までも重ね合うことができて、蜜のようなその悦びに浸ることが出来てよかった。ぼくはルカに応えるために、両手をルカの背中に回し、呼吸のたび膨らむ背中を撫ぜた。少年二人の身体の隙間からは、柔らかい精液の臭いが優しく香ってくる。

「ん……はぁ……、きもちよかったぁ……」

 流斗が微笑む。ルカは恥ずかしさが蘇ったように慌てて身を離した。

「すごぉい、ルカくんが半分くれたのとぼくのとまじって、ぼくいっぱいせーし出しちゃったみたい」

 確かに流斗の身体には普段の倍かそれ以上の精液がたっぷりかけられている。胸の下からおちんちんにかけてとろとろと垂れて行くのは、ものすごく卑猥な光景である。

「ね、お兄ちゃんもせーし出る?」

 まあ、それはもちろん。

「お兄ちゃんもぼくにせーしかけられる? ルカくんのだけじゃなくて、お兄ちゃんのせーしもこうやってかけてもらえたらうれしいなって思っちゃった……」

 大人の男のオナニー(よりにもよって男の子の痴態を見ての)をルカに見せたいのだろうかと思ったが、「ルカくん、お兄ちゃんに『相談』に乗ってもらおうよ」と流斗はマイペースに言う。

「い、いま?」

「うん、いま。ルカくんの恥ずかしくってないしょのこと、お兄ちゃんになら話せるでしょ? それにルカくんの恥ずかしいところ見たら、きっとお兄ちゃんもどきどきすると思うよ」

「で、でも……」

「ぼくもお兄ちゃんのせーしでとろとろになりたいし、お兄ちゃんきもちよくなるののお手伝いできたらルカくんもうれしくない?」

 ……どうやら、ルカは「嬉しい」と思ってくれるようなのだ。ぼくにとっても、嬉しいことに。

「ほら、ルカくん、いつもの練習しよ?」

 ルカは、まだ少しのためらいを見せた。しかし、その美しい顔を赤く染めて、床に横たわった流斗の顔を跨いだと思ったら、そのまま膝を震わせながら、腰を下ろして屈み込む。

 おちんちんの立派さとは裏腹な、華奢な後ろ姿である。腰が流斗よりもくびれていて、小降りのお尻とあいまって胸がちくりと痛んだ。

「うん……、じょうずになったねえ。あのねお兄ちゃん、ルカくんちょっと前までこうやってしゃがむのも恥ずかしがってたんだよ?」

 ……そういえばさっき、和式のトイレで出来ないって言ってたっけ……。

「ひょっとして……、『相談』っていうのはつまり、あれかな、……ルカが上手に和式の便器で、その……、うんちが出来るようにっていう……?」

 もしそうだとして、……万が一にもそうであるという現実がこの世に存在したとして、どうしてこんな風に流斗の顔をまたぐ必要があるのかは、全く世界経済の動向と同じくらい、ぼくには想像もつかないのであるけれど。

「ルカくん、お兄ちゃんにちゃんと説明しなきゃ」

「ひ」

 流斗がルカのおちんちんを摘まんだ。「えへへ、おちんちんふにゃふにゃになってる」という言葉からも、ルカにとってその体勢が、……例えば流斗自身や諭良とは違って、性欲とは結びつかない恥ずかしいものであるということだろう。……いや、そんなの流斗たちがどうかしているのであって、ルカの反応こそ当然なのだけれど。

「……ぼ、ぼくは……、むかし……、公園の、トイレで、……その……、……しようと、思って、……二年生の、ときに……」

 聡明なはずの少年の説明は極端に滑らかさを失った。微かに震えて、舌の動きもぎこちなくなった。

「……そしたら、……その、知らないおじさん、に、……トイレ、覗かれてて」

「えっ」

 思わず、声を上げてしまった。

「し、知らないおじさんにって……」

 まさか、とは思う。

 しかし、ルカは愛らしい少年だ。流斗ほどではないにせよ、そのツンとした相貌は今日ここまでの短い時間では到底見尽くせた感もなく、むしろもっとじっくりと、丹念に眺めていたいし、そうすればいくつだって魅力的な点を見付けることだって出来るようなもの。

 要は、ショタコンのおっさんに目を付けられたとしても何ら不思議はない、ということ。

「……そ、それで……?」

「……すごく、恥ずかしくて……、その、怖くってっ……、それ以来……、和式のトイレで、……するの、誰かに覗かれてたらって、思って、怖くって……、出来なくって……」

 何という、悲しい体験をしてしまったんだろう、この子は。

 何度も繰り返す、何度でも繰り返す、繰り返す必要がなくなるまでぼくは繰り返すけれど、……ぼくだってショタコンの男だ、ルカぐらいの歳の子から見れば「おじさん」ということにもなって来るだろう。人間的には何の価値もなく、むしろ存在しない方が世のため人のためにもなるような害虫のごとき……、生命体である。

 とはいえ、ぼくは自分がそういう生き物だという自覚を一瞬だって見失ったことはない。だからこそ、昴星に出会うまでは一度だって男の子に手出しをしては来なかったし、いっそ一定以上の距離に近づくことを自分に禁じてきたと言ってもいい。少年のことを愛する以上は、その思いだけは清純なものであり、少年を穢すことがあってはならないという信念を強く持つからだ。

 しかるに、世の中にはそうではない「ショタコン」も少なからず存在する。結果として、このルカのように悲しい思いをしてしまう子供が生まれてしまう。そういう加害者はそれこそ、子供を虐待する親や教師や、いじめっ子と同列に扱われるべきものだ。

 ……ショタコンであり、現在流斗をはじめとする少年たちと裸で接することが出来る立場にあるぼくがそんなことをいくら思ったところで、説得力皆無だということはまあ、わかっているけれど。

「だからね」

 ルカの言葉を引き取って流斗が言う。「ぼくとえっちするときは、いっつもルカくんにこうやって、うんちのときのポーズとってもらうの。ぼくがいっぱい見てあげたら、そのうちだいじょぶになるかもしれないでしょ? ……ルカくんが安心してうんちできないの、かわいそうだと思うし、……ね、お兄ちゃんはどうしたらいいと思う? どうしたらルカくん、しゃがんでうんちするの上手にできるようになるかなあ」

 流斗がそう言うのは、単にルカとぼくとを結び付ける理由になるからというものではないだろう。ぼくは流斗が極端に大きな気と肝と、同時に無限かと思えるくらいの優しさと気遣いで出来ていると知っている。流斗は「大好きなルカくん」が悩まないことを、ルカと同じように望むのである。

「そう……、そうだなぁ……」

 ぼくは真剣に考えた。真剣過ぎて、ルカのお尻と流斗のおちんちんを見ても、自分の性器の強張りが収まって来てしまうほどに。

「……ルカは、それ以来一度も和式のトイレでうんちしたことはないの?」

 ルカの後頭部が頷いた。

「流斗といっしょのときは、そうやってポーズ取るだけ?」

「何度か、いっしょにしよって言ったことあるけど、……でもやっぱり恥ずかしくってできないって。ルカくん、おちんちんよりお尻の穴のほうが見られるの恥ずかしいみたい」

「だ、だって……! そんな、あんな、汚いもの出てくるところ見られるのなんで、誰だって嫌です!」

 ルカが泣き声を上げた。それは至極真っ当な考え方である。が、流斗の同意を得られるものではないだろう。

 ぼくはまた少し考えて、

「……汚い、かな?」

 と訊いてみた。ルカが答える前に、「ねえ、流斗はルカのうんち、汚いって思う?」

「んーん」

 流斗の顔はルカのお尻に遮られて見えない。けれど首を振ったのだということはわかる。

「そうだよね。……確かにうんちは綺麗なものじゃないし、臭いものだけどさ。でも、……誰だってするものだ。それこそ、ぼくだって」

「ぼくもー」

「うん。だから、そういうところを覗きたがる奴がいたとして、それはただの『変態』だと思う。ルカが気にするようなことはないし、それでお腹痛いのガマンしなきゃならないのはかえって損じゃないのかな」

 ルカは、答えない。ぼく自身、ルカが排便するところは見てみたいなんて思う「変態」だけれど、

「むしろ、いっそ『見たけりゃ見れば』ぐらいの気持ちでいたらいいんじゃないかなってぼくは思う。見たがるようなやつのことなんか気にしないで、ルカがすっきりすることだけ考えていればさ。それに、……流斗はきっと、変態だからじゃなくて、ルカのうんちするところ見るの、きっと好きだよね?」

 ルカがおちんちんの下にある流斗の顔を反射的に見下ろす。

「うん!」

 流斗は元気よく返事をした。「好きだよー、だってルカくんのお尻かわいいし、ルカくんのお尻からうんち出てくるところ見るとどきどきしておちんちんかたくなるもん」

 今に「お兄ちゃんの見せて」なんて言い出されたら困るな……、とは思う。とはいえそういうシチュエーションがもし訪れたとして、この愛しい子の願うことは片っ端から叶えていかなければならないことは先刻承知、躊躇いと無縁ではいられないだろうけれど、ぼくはきっとしてしまうことだろう。

「流斗は、ルカがうんちすることを望んでる。……それにね、ぼくも、……これはぼくが『変態』だからなのかもしれない、けどね、正直言って、ルカのお尻が、……ルカぐらいの男の子のお尻がどんな風なのか、見てみたい気がしてきた。こんな風に思う自分がいることを、どうしたら否定できるのかなってさっきから考えてたんだけど、やっぱり無理みたいだ。二人のおちんちんも可愛いって思うし、……おちんちんと、もう一つの、男の子の秘密の場所を見てみたいなって思うようになっちゃってさ」

 きっと、ルカもまた流斗の肛門に対しては欲を持っている。コンドームをそのおちんちんにはめてセックスをしているという以上は、自分のペニスを挿入する場所に対しては欲があって当然なのだから。

「せ……、先生も、ぼくの、そんなとこ、見たいなんて……」

「『恋人』のそういう場所が見たくない男はなかなかいないと思うよ」

 そう言ったぼくに振り返ったルカの癖のない髪を撫ぜた。昴星よりもちょっと硬い毛だけど、サラサラだ。そしてルカは、もう流斗と同じくらいに「可愛い」って言っていい子である。

「ね、ルカくん、お兄ちゃんにお尻見せてあげなよ。それでお兄ちゃんがおちんちん硬くなったら、ルカくんのお尻は汚くないし、お兄ちゃんが幸せになる場所ってことだよ。えっちなおじさんにはいっぱい臭いうんちでいじわるして、そのぶんお兄ちゃんにかわいがってもらえばいいと思うな」

 うんちのポーズのまま、ルカは動けない。ぼくがこれ以上催促をすることはない。

 数秒の沈黙が挟まれた。ルカの中で、いまだ強いためらいが交錯しているに違いなかった。

 やがて、……身体をギシギシと軋ませるようにしながら、ルカが膝を床に着く。細いその腕を鏡の前の物置台に乗せ、恥ずかしさを堪えるように突っ伏した。

 流斗ほどではないけれど控えめなサイズのお尻の中央で、羞恥心を堪えるようにほのピンク色の肛門がわなないていた。

 まだ、流斗に挿入された回数も少ないのだろう。こんな穴から一体どれだけのものが出せるというのか……、想像すら出来ない、本当にごく小さな窪みと、綺麗に整った短いシワのライン。当人が気にするほど汚れてはいないし、まだ「性器」としての役割をなしていない、……いやそもそもここは性器じゃないんだけど。

「どう……? お兄ちゃん、ルカくんのお尻」

 恥ずかしさに震えているばかりのルカの代わりに、流斗がぼくに訊いた。

 どうって? そんなの、

「すごく、可愛いよ」

 ただ素直に答えればいいだけのこと。

「ルカは……、この穴からうんちするんだよね? そんなのちょっと、信じられないくらい可愛くって、綺麗だよ」

「そんな……」

 ルカが呻く。流斗はクスッと笑って、

「お兄ちゃん、ぼくのお尻も見ていいよー」

 足を広げて見せる。……見慣れている? とんでもない。不思議なもので、ぼくの「恋人」のそこはいつ見たってぼくの興味の対象である。

「うん、……ああ、流斗も可愛いね。二人ともお尻の穴、すごく可愛い。男の子のお尻の穴、……うんち出てくるところなのにこんなに可愛かったんだね」

「えへへ。ルカくん、『かわいい』って」

「……うう……」

 流斗はぼくを誘惑するように指で谷間を開いて、ヒクヒクさせて見せる。一方でルカはどうにも堪えようのない恥ずかしさを逃がす術もなく、無意識のようにきゅうっとすぼませているけれど、それがかえってまた愛らしいのだ。

「ね、お兄ちゃん、ぼくたちのうんちのとこ見ておちんちんかたくなった? ぼくたちのお尻でおちんちんきもちよくなれそう?」

 答えるまでもなく、……もうギンギンだ。

「……ルカ、顔を上げて。鏡、こすってさ、ぼくの方を見てごらん」

「……か、かがみ……?」

 ルカは震えながら顔を上げて、……湯気で曇った鏡をこする。鏡ごしにぼくと目が合って、一瞬恥ずかしさに背けるけれど、

「ほら」

 ぼくは、自分の勃起を彼に見せた。

「えー、なぁに……?」

 流斗は知っているくせに言うのだ。「ね、ルカくん、お兄ちゃんどうなってるのー? おしえてよ」

 恋人の可愛い意地悪に、ルカはぞくりと身を震わせた。唇が震えているのが、鏡ごしに、ぼくにも見えるのだった。

「……せ……、先生、の……、……先生の、ちん、ちん……、……勃起、……してる……」

「えー、ほんとー?」

「……ルカと流斗のお尻見てたら、すごく興奮したよ。恥ずかしいぐらいにね。でも、二人が恥ずかしいと思うところ見せてくれてるんだから、ぼくも隠すわけにはいかないよね」

 口から出まかせに本気の言葉を言って、「じゃあ、お兄ちゃん、やくそくだよ? ぼくにせーしいっぱい出してっ」呼応するように流斗が強請った。

「うん、わかってる。でも、……えーと、そうだな。……せっかく可愛い二人が一緒なんだから、二人にも気持ちよくなってもらいたいな。ぼくら三人で『恋人』なら、それが一番幸せな形だと思うからさ」

「んーと」

 流斗は自分のおちんちんに手を掛ける。それから、

「ひぁっ」

 もう片方の手で、ルカのおちんちんにも触れたようだ。

「あは、ルカくんおちんちんちっちゃくなってるー、ちっちゃくてもぼくのよりおっきいね」

「ま、まきさかっ、ダメっ……」

「ね、お兄ちゃん、おちんちんギュってなるとお尻もギュってなるんだよ」

 そうだね、括約筋ってそういう風に出来ているものだ。

「だから、ぼくとルカくんのお尻がぎゅーってなってるの見ながらおちんちんきもちよくなってね……?」

 二人にしてもらったダブルフェラ、幸せだった。もちろん流斗に挿入するのも幸せだ。それに比べれば、やっぱりオナニーって数段落ちると考えるのが自然だろう。

 いやしかし、しかし、……男の子二人のピンクのつぼみを同時観賞しながらオナニー出来るショタコンなんてこの世にいるものか……!

「ん、んぁ……、牧坂っ……」

「えへへ……、ルカくんも、もういっかいせーしちょうだい? お兄ちゃんに、いっしょに、きもちよくなるとこ見てもらお……」

 既に少年たちの一回目の精液は渇き始めてもいるのだ。だからそこに補給する意味で、……ぼくなんかの精液よりも二人分が加わることのは素晴らしい。

「ルカの、……感じてる顔、綺麗だね。……『感じてる』って、ルカ、わかる?」

 ふるふる首を振って、わからないと主張する。そうすることがそのまま、わかっていることを証明してしまうことになるのに。

「ん、っ、これっすごいね……、すごい、すごいえっち……っ、ルカくんのおちんちんこんな近くで見ながらおちんちんしてるの、お兄ちゃんに見てもらってるのぉ……っ」

 悦びの声が震えて濡れる。流斗の限界も近い。それでいながら流斗は早漏のルカのために刺激を調整しているに違いなかった。そしてそのルカは、もうお尻の穴も丸いタマタマもぼくに晒して、腰に無意識かつ淫らなダンスをさせている。

「……んもぉっ、もぉ、出るっ……!」

 やはり流斗よりも先にルカが限界に達した。

「んっ、ふ、おにぃちゃ、お兄ちゃんもっ、はやくはやくっ、ぼくも出ちゃうっ、出ちゃうっ」

 自覚的なもの以上にえっちな声をとろとろ垂らして流斗もねだる。ぼくももう、この素晴らしい景色を前にのんびりとはしていられない、……するつもりもない。

「んっやぁあっ、あっ……あっ……あ、……あんっ」

 ぷるんとタマタマを弾ませて射精した流斗の艶声がが最後に一つ跳ねたのは、その小さなおちんちんめがけてぼくが自分の欲を放ったからだ。

「ふあぁ……、お、にぃちゃの、せーしぃ……」

 にちゃ、にちゃ、自分のおちんちんを汚した精液を手のひらに絡めて、それをそのまま、ルカのおちんちんへとあてがう。「うあ……」

「えへへ……」

 流斗が、いったいどんな淫らで美しい顔をしているのか。何度も見ているのにまた、見たくなる。「お兄ちゃんのせーしのついた、ルカくんのおちんちん……」

「う、あっ、ま、っまきさっ、んぉ、っんっ、ひ、ひぁっ! あぁああ……!」

 ただでさえ敏感な射精直後、しかも早漏のおちんちん。ルカがその口に零す尿を、流斗はおいしそうに飲み下していく。ルカが丸出しのお尻の穴をきゅっきゅと引き締めたり緩めたりするところを、ぼくにじっくり愉しませながら。

「お、オシッコなんてっ、飲むなよぉっ……」

 ルカくんはまた半べそだ。クールでいたいのだろうに、流斗の前ではこんなに乱れてしまう。これこそ恋をする少年の愛らしさであろう。ぼくは後ろからルカを支えて、そっと、抱きしめてみた。

「せ、先生……?」

「ルカ、お尻見られるの少しは慣れられたかな」

「えっ……」

「君が上手に和式でうんち出来るようになるために、少しでも役に立てたならいいと思うんだけど」

 ルカは、戸惑っていた。それでも、……微かに震えながら、こくん、と頷いた。

「これまでで、いちばん恥ずかし、かった、ですけど……、でも、……その、……これより、恥ずかしいのって、ないと、思います」

 そりゃあまあ、そうだろうね……。

「……だから、……だから、その、これから、和式でするとき……、もし誰かが、覗いてたとしても、でも、今のよりは、きっと恥ずかしく、ないから……、きっと……、出来ると、思います……、まだ、わからないけど……」

 自信がそう容易に備わるものでもないだろうからそれは仕方ないとしても、ルカの答えはぼくを大いに安心させた。ぼくのしたことと言えば、そのお尻の穴のひくつきを眺めながらのオナニー一回でしかない、……つまり、いっそやらない方がいいようなことをやってしまったに過ぎないのだけれど、常々思うとおりぼくの行動が何であれ少年たちを幸福にするものであってくれてよかった、と改めて思うのだ。

「ルカくん、もうお兄ちゃんにぜんぶ見せちゃったもんね、おちんちんもオモラシも、せーし出すところも、うんちの穴も。いっぱい恥ずかしいことして、でもいっぱい気持ちよくなったから、恥ずかしいのなんて平気になるよ、ぼくみたいに」

 ……流斗みたいになりたいとはルカも思ってはいないらしく、自分の精液まみれの身体を見下ろして「すごーい、べたべたしてるけど、うれしいな……」と微笑む流斗にルカは何とも言えない視線を送っている。

「……その、……ありがとう、ございます」

 ルカがぼくに後ろから抱かれたまま、もじもじと言った。そんな、お礼を言われるようなことは本当に全くこれっぽっちも一切ひとかけらとしてしていないから、こちらとしては恐縮するばかりである。

「いや……、ええ、どういたしまして」

 ルカは、うつむいている。その顔を、立ち上がった流斗が覗き込んで、「ルカくん」小さく囁いて、キスをする。それはルカにとっては不意のことだったらしく、「ん!」と小さく声が漏れた。

「ぼくはお兄ちゃんが大好き。でも、ルカくんのことも好きだよ。でもってルカくんがぼくのこと好きでいてくれるの知ってるし、……お兄ちゃんのこと好きになっちゃったのも知ってるよ」

「んなっ……」

「えへへ」と流斗は笑う。「お兄ちゃんもルカくんのこと好き?」

「あ……、ああ、それは、うん、もちろん」

「じゃあ、ルカくんのこともぼくのこともお兄ちゃんの『恋人』にしてくれる?」

「えー……」

 初めから、ここまでのシナリオを描き切ってこの状況まで導いたのだろうと、ぼくは想像する。流斗って、そういうことが出来る子だ。びっくりするくらい賢くて、どこまで行っても無邪気で、そして、……ぼくのことをぼくなんかのことを「好き」って本気で思ってくれている……。

 ぼくはやっぱり流斗を幸せにしてあげなきゃいけないんだ。

「……うん、……ぼくは、流斗もルカも好きだよ。だから、ぼくなんかでよかったら、もちろんみんなには内緒でだけど、いっぱい可愛がってあげるよ」

 腕の中のルカの身体が熱い。それが年相応に無垢な恋心が新しい火種を得た証拠かも知れない。

「じゃあ、これからはときどき、ぼくだけじゃなくってルカくんにもお勉強教えてあげて。でもって、三人いっしょになったら、……またこういうえっちなこと、いっぱいしよ?」

 ね? と流斗の微笑みは天使そのもの。ルカが釣り込まれるように頷き、もう一度その口付けを受ける。それから流斗はルカの後頭部でぼくの唇に、それはもう深いキスをくれた。

 

 

 

 

 かくして、ぼくは流斗の「大好きな」恋人であるところの鞆鞘遥と淡い関係を結ぶこととなった。帰る彼と、玄関でメールアドレスを交換するとき、「いつでも好きなときに送ってくれていいよ」とぼくが言ったら、今日会ったばかりのときにしていた真面目な表情で頷いて、「……お仕事の、お邪魔にならないように、します」と彼は言った。

 ルカとの関係が、流斗とのそれのように発展性のあるものになるのかどうかは判らない。冷静になったときにルカが、「やっぱりあんなの嫌だ!」って思ってしまう可能性だって否めない訳だ。とはいえルカが流斗の「恋人」でいたいと願うことはこれから先も変わらないだろう、……流斗とぼくがそういう関係であることが決して変化しないように。

 ルカを見送ってから、玄関で流斗がぼくに抱きついた。大いに嬉しそうにぼくを見上げて背伸びをしてキスをねだる。

「えへへ」

 天使は、いたずらっぽく微笑むのだ。

「お兄ちゃんがいっぱいうれしくなるの、うれしいなぁ」

 そう言うことで、流斗はぼくが一番恐るべき罪悪感からも、ぼくがその存在に気付くより先に守り切る。そうしてくれる理由が判るからぼくは流斗を抱き上げて、この腕に出来る最大限の優しさで抱き締める。流斗がぼくの髪に頬擦りをした。

「お兄ちゃんはね、ぼくのこと、……ううん、ぼくだけじゃなくって、昴兄ちゃんや諭良兄ちゃんやゆりねえちゃんのこともいっぱい幸せにしてくれるから、もっともっと幸せにならなきゃダメなんだよ。そうなったらいいなって思って、そういうためにがんばるのが、お兄ちゃんに『恋人』って言ってもらうぼくたちがしなきゃいけないことなんだ」

 少年の甘い体臭、……もはやそれは性臭と言い換えてもいいかもしれない。流斗の部屋まで運んで行って、膝に乗せてキスをするときにぼくが考えるのは、

「ぼくだって、流斗のことをもっともっと幸せにしなきゃいけない。それがね、天使みたいに可愛い流斗の『恋人』でいるための、ぼくのしなきゃいけないことだって思ってる」

 ということだ。


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