おかえり、おにーさん

 誰かと一緒にいた、その後の時間。

 ……というのは、決して寂しいばかりのものでもない。例えばその日のぼくは、前の夜に諭良が見せてくれた淫らな姿を思い出して、仕事中ついニヤニヤしてしまって、同僚に気味悪がられたりなどしていた。敬語を使わなくなった諭良は本当に可愛くて、ああ、また勃起しそうだな……、なんて時に上司に呼び出されたりなどして。なんにせよ、幸せな時間を過ごすことが出来た。もちろん、諭良と一緒に過ごした時間よりずっと長く感じられてしまったのは仕方がないにしても。

 それにしても、時間。これは本当に昔から思うようにいかないもので、……ぼくの大切な子供たちだってきっと同じように感じているはず。楽しい時間はあっという間、憂鬱な時間ほど、長くダラダラ感じられるものだ。

 諭良との時間の記憶のおかげで、仕事の一日をかなり早い感覚で乗り切ったのに、

「やあ、君、たまには一緒に晩飯でもどうかね」

 なんてステレオタイプの誘い方を上司にされて、……ぼくはあまりお酒が好きじゃない、上司のことなど言わずもがな。しかし誘いを断れず、結局一杯お付き合いしたのだけど、たかだか二時間がものすごーく、長く感じられてしまった。

 やれやれと、駅から家への道を辿って、到着した我がアパート。……上司の愚痴を聴かされて少し腐った心をどうしよう、……そうだ、夕べ諭良が置いて行ってくれたフラッシュメモリの中を愉しむのがいい、そうしたら……。

 そんなことを考えて機嫌を直したぼくの鼻には、諭良のオシッコの臭いさえ漂うようだ。いや、諭良だけじゃない、昴星のオシッコの臭いも……。

「ん」

 アパートの外階段を登り、鍵を取り出しかけたところで、ぼくは立ち止まる。

本当に鼻先に、昴星のオシッコの、……特有の臭いを感じたような気がしたのだ。

いや、確かに昴星のオシッコの臭いって独特の「強さ」みたいなものがある。いつでも思い出そうと思えば思い出せるぐらいに、印象深い臭いである。……だから気のせいだろう……。

「んー……?」

 しかし、……くんくん、鼻に神経を集中させてみる。……昴星の、オシッコの、臭い……、やっぱりする。

 どうして……? と思ったところで、ぼくは自分の足を掛けた階段が妙に湿っぽく濡れていることに気付く。

 背中を丸めて、恐る恐る嗅いで、

「ん!」

 それがぼくの鼻に届いた昴星の臭いの元だということに気付く。

 間違いない、この、階段を濡らす水の正体は昴星のオシッコだ。……しかし、どうして?

 そう考えたところで、

「……お、おにーさん……?」

 足元から声がした。

「昴星……? 昴星? なんで……、どこ?」

 ガサガサと音がして、ジャンパーを来た昴星が隣家との境目の塀の影、暗がりの中から、困惑し切った顔で姿を現した。

「えー……? どうしたの……?」

 ぼくも困惑する。……だって、訪ねて来るときにはいつも必ず事前の連絡があるのだ。こんな風に仕事や付き合いで遅くなってしまうことが、ぼくみたいな人間でも社会人、一応ちょくちょくあってしまうので。

「っと、……その、……おにーさん、帰って来んの、もっと早いと思って……。今日、学校でさ、諭良が……、パンツ見せて来て、……すっげーきたねーの、見て……、だから、おれも、って……」

 昴星は途切れ途切れに答えてくれるが、いまひとつ要領を得ない。

「えーと……、いつ頃から待ってたの?」

「……二時間ぐらい前」

「二時間!」

 思わず、大きな声が出てしまった。……ジャンパー着てたって相当寒かっただろう。

 つまり、こういうことらしい。昴星はぼくの帰りを待っていた。多分、ぼくに嬉しいサプライズをプレゼントしてくれようと思っていたに違いない。

 けれどぼくは昴星が来ることを知らないで、上司に付き合って飲んでいた。待てど暮らせど帰ってこないぼくを、しかし諦めきれずに昴星はずっとここにいた、多分、いまぼくがいるこの辺りに。時折通りに出て、ぼくが帰ってこないか伺いながら。

 そして……、

「オシッコ、漏らしちゃったの?」

 こくん、辛そうに昴星は頷く。

 しょっちゅうオモラシをして「見せて」くれる昴星である。しかし(夜間のオネショは別として)基本的に「ちゃんとガマンできる」と思っている昴星である。だってもう六年生だし。

 だから、昴星はへこんでいる。はっきり見て取れるレベルに。

「……水たまり乾いてないね? 三十分ぐらい前?」

 いちじかん、と小さい声で昴星は答える。ジャンパーの裾に隠れて見えづらい、けどハーフパンツの内もも部分はぐっしょりだろう。

 一回家帰ったらよかったのに、と思いかけたが、昴星はぼくを待っててくれたのだ。それに、

「家、帰ろうと思ったけど、この辺、学校のやつ住んでるし、……誰かに見られたら、やだし……」

 そういう理由もあって、昴星はオモラシズボンをどうすることも出来ずに途方にくれていたのだろう、おそらくは、心細く、みじめな気持ちになりながら。

 それに、そもそもここへ向かう段階で昴星はオシッコをガマンしてたんじゃないのか、という気がする。どうしてそんなことをするかと言えば、それもやっぱり、ぼくへの「プレゼント」を用意するため。

 つまり昴星は、ぼくを好きでいるがゆえにオモラシをしてしまったということ。

 更に言えば、……昴星はぼくを責める言葉を口にしないでいてくれるけど、オモラシはぼくの責任である。

「とりあえず、中入ろうか……、寒いよね?」

 うん、と小さい声で頷く昴星からは、普段の元気さが失われていて、なんとも痛々しく不憫である。寒々しい部屋のエアコンをすぐに入れて、お風呂にお湯を張り始める。もちろん、昴星にはよくうがいをさせて、風邪なんでひかせること、絶対にないように。それからぼくは手桶に水を組んで、昴星の失敗で濡れた階段をすすぎ流した。

「おにーさん、……ごめんなさい」

 ジャンパーを脱いだ昴星からは乾き始めたオシッコの臭い。しょんぼりと謝る。ぼくは微笑んでそのサラサラの髪を撫ぜて、

「ぼくにオモラシパンツくれようと思ったんだよね?」

 言う。

「え……?」

「ぼくにさ、プレゼントしてくれようと思って用意してたんだよね? ……昴星は優しい子、本当にいい子。大好きだよ」

 昴星がズボンはいたままオモラシするのって、あんまりない。いつもパンツだけになってからだ。それはとてもシンプルな理由で、シミのついたブリーフはぼくへの贈り物になるけれど、ズボンはさすがにくれてしまうわけにはいかないから。

 だから、湿っぽいハーフパンツをはいた昴星の姿って普段はあまり見ることはない。……なんとも愛らしい姿だ。

「靴下も濡れちゃったね。……いっぱいガマンしてたんだね、すごい黄色くなってる。……これも、あと靴も洗わなきゃね」

 グレーのハーフパンツにはさすがに色が浮き出てはいない。けど、ずり下ろすと中に穿いていた水色で縁取られた白いブリーフは、中心から大きく黄色いシミが広がっている。

「すごく、可愛いよ。……いい臭い、まだ冷たいね」

 鼻を当てて、思いっきり嗅ぐ。頭がクラクラするような、昴星特有の、……昴星しか持ち得ない、強い臭いのオシッコ。冷たさと屈辱感に縮こまって、かえって少し硬くなってるように感じられるおちんちんの感触もいとおしい……。

「おにーさん……」

「おちんちん、見てもいい?」

 昴星の返事を待たずに窓からそれを引っ張り出した。まだ、下を向いていて元気がない。でも、いかにもオモラシしちゃったおちんちんって感じで、恥ずかしそうはフォルムがいい。ポケットからスマホを取り出して、一枚、二枚、それから少し引いて、六年生にして本当にガマン出来なくて漏らしちゃった子の姿を、しっかりと記録する。

「おにーさん……、なんでそんなうれしそうなんだよー……」

 恨めしげに昴星は言う。ぼくは冷たい皮の先に鼻を当てて、湿った尿臭をまた深々と吸い込んで、「嬉しいよ? ……決まってるじゃないか、昴星のオモラシパンツもおちんちんも、ぼくにとっては宝物だからね」答える。ついでにブリーフから恥ずかしそうに顔を出すおちんちんにキスをする。

 夕べ、諭良がそこのこと、自分では「ちんちん」って呼んでたって言ってたことを思い出す。……昴星は「ちんこ」だ。

 でもこうして見ると、昴星のは「おちんちん」って言いたくなる気がしてくる。ぷるっと丸くて、そういう呼び方の方がしっくりくるな……、と。

「お尻の方も冷たくなってるね」

「あ……」

 サイドから手を回し、じめじめした布に包まれた弾力感のある臀部を揉みしだく。

「オモラシパンツの中のお尻……、柔らかくってすごい触り心地いい。……昴星はいろんなとこぷにぷにしてて、本当に可愛いよ」

「ど、どうせ太ってるよ」

「ううん、……太ってるんじゃなくって。……昴星はタマタマもぷにぷにだよね」

 夕べ諭良が教えてくれた。昴星、このところタマタマで感じるようになって来たって。

 まだオモラシパンツの中にある膨らみを、愛をこめて指先でくすぐる。

「……ん……っ」

 やっぱり、気持ちいいんだろう。……オモラシパンツの中だから、余計に。

「柔らかいね……、おちんちんは硬くなってきちゃったけど」

「そ、そんな……っ、いろんなとこ、おにーさんが触るから……!」

「そうだね。昴星がぼくの指先でさ、一つひとつちゃんと反応してくれてるのわかって、すごい嬉しい」

 小振りなおちんちんはすっかり上を向いてしまった。「美味しいんだろうね、オシッコでいっぱいのパンツの中にあった、昴星のおちんちん」……笑って囁いて、そのままぱくんと吸い付く。

「あ……っ、おにーさんっ……」

 予想していたとおり、いや予想以上に、そこは美味しい。しょっぱくって、臭くって、舌触りはコロコロと硬くって、でも先端、諭良ほどは余ってない皮はやっぱり「ぷにぷに」で。

「オシッコも、精液も、ガマンなんかしなくていいんだよ? ……まあ、うんちはガマンしてもらったほうがいいけど」

「う、うんこはちゃんと……っ、ひゃ」

 そうだね、うんち漏らしたところはまだ二回しか見たことない。

「う、あは……っ、ちんこ……っ」

 ぴくぴく震えながら、昴星は声を絞り出す。気持ちいい? 目で訊くと、「んっもちぃ……! おにーさんっ、の、口っ、ちんこ気持ちい……!」高い声を濡らして応える。

 誇りの傷ついた分、そこに意味を持たせてぼくが愛する。そうすることでぼくの舌先、昴星の悦びが生まれて、慰めることが出来たならいい……。

「あっあっ出るっおにーさん出るっ、せーしっせーし出るっ……!」

 へこんでおちこんで縮こまっていたおちんちんがぎゅぎゅっと弾む。それは男の子の元気の証だ。ぼくの上顎を叩くような勢いで射ちだされた精液は、……今日最初の昴星のもの、言うなれば昴星の一番搾りってことになる。

 考えてみると、……散々ガマンした末に漏らされたオシッコも、「搾り汁」ってことになるかもしれない。臭いも味も濃いわけだし。

「あう……せーし出た……、せーし……」

 大切に味わってから飲み込んで、「美味しかったよ。……濃いの、いっぱい出ちゃったね。気持ちよかった?」

 ん、と恥ずかしそうに頷いて、「だって……、溜まってた……」唇を尖らせる。

「そうなの?」

 また、「ん」と。

「だってさ、……諭良が、自慢すんだもん……」

 諭良の想定していた通りだ。……夕べあったことを話せば、昴星は嫉妬して、「もっと可愛くなる」……。

「諭良、話してた?」

「ん。……すっげー嬉しそうにさ、……オモラシで真っ黄色になったくせーパンツの見せて、『お兄さんにこんなになるまでしてもらっちゃった』って……。才斗引いてたぞ」

 別に才斗にまで報告することはなかろうに。いや、それぐらい嬉しく思ってくれていたならまあ、いいけども。

「あいつ、外でうんこしたってほんと……?」

 うん、ぼくは素直に頷いた。「うちの窓から見えるよ。橋の近くの排水溝で、立ったままうんちしてたね。あと裸にコートだけ着て、……つまりおちんちん出したままで外歩いたり……。何だか、すごく頑張ってもらっちゃったんだ。……でも、いいんだよ?」

 ぼくは昴星の髪を撫ぜて、ことによっては流斗よりもあどけなく見える頬っぺたにキスをする。

「諭良は諭良、昴星は昴星なんだから。こうやって遊びに来てくれただけで嬉しいし、今夜はいっぱい昴星のこと可愛がってあげなくちゃって思うからね」

 昴星の中で意志が揺れているのがわかる。

 何度かやってきたとはいえ、……やはり、あまり露出は得意ではない昴星である。

 それでも、「諭良はそんだけのことしたんだ……」って、少年の中で響く少年自身の声がある。

 諭良がそんだけ頑張ったのに、おれは……、って。

「お、おにーさんは、……おれのこと、外で見ると興奮すんの……?」

「うん? ……んー、まあ、家の中でも十分興奮するよ。でも、確かにそうだね、外で恥ずかしそうにおちんちん出してる昴星はやっぱりすごい、可愛いと思ってる。そういう意味では興奮するって言っていいかもしれない」

 射精したばかりなのに、昴星のおちんちんは濡れたまままた縮こまりつつあった。

「お、おれだって、出来るよ、外で……」

 昴星は虚勢を張る。おちんちんは完全に小さくなってしまった。

「前だって出来たじゃん、二日連続で、……昼間だって出来たし、だから……、おにーさんがおれが外でちんこ出したりうんこしたりしてんの見て、興奮すんなら、おれもやる!」

 さて、どうしようか。

 昴星は、やっぱり本当は怖いのだ。……誰かにみられちゃったらどうしようって思って、緊張するのだ。もちろん、同時に「誰かに見られたら……」って気持ちは別の意味を持つ、昴星自身、マゾヒストであるからして。

「おれ、おにーさん興奮してんの好きだ。おれでおにーさんがちんこ勃起さしてんの、わかると、すげー嬉しいし……、だから……」

「わかった」

 ぼくは結局、昴星のおでこにキスをして言った。「じゃあ、出掛けようか。諭良みたいに恥ずかしい思いがしたいんだね?」

 昴星のおちんちんは、もう、流斗に笑われるぐらいに小さくなっている。ここまで小さいのもなかなか見られないぞ、と一枚撮影してから、ブリーフを脱がせる。靴下は、そのままでいいだろう。

「ぼくも、昴星の可愛いところ見たいよ。外で昴星とセックスしたら、きっとものすごく興奮するだろうからね」

 昴星の来てきたジャンパー、丈は諭良のものや、諭良に貸したものより短い。

 だから、着せてもタマタマやお尻の割れ目は覗けてしまう。だけどもう夜遅い。城址公園までの道のりで、誰かとすれ違うかどうか……、その可能性は高くはないけれど、一種の賭けである。

 しかし昴星がここまで勇気を出して言うのだから。

「こ、こっ、このカッコで行くの?」

 昴星はあっさり怖気付いた。

「うん。……諭良よりすごい格好だよ。人に見られないようにしないとね?」

 昴星は泣きそうな顔になる。「あ、それともパンツだけ穿いてく? おちんちん見られるのとオモラシの証拠見られるのと、どっちがいいかな」

 

 

 

 

 結局昴星は、オモラシよりおちんちんのほうが恥ずかしくないと判断したようだ。膝を震わせ、べそをかきそうになりながらぼくの十メートルほど前方を、怯えながら歩いていく。急ぎ足になりたいのだろうけど、そうするとただでさえ短い裾がめくれてお尻が丸出しになってしまう。だから裾をおさえながら、歩幅も狭くして。

 ぼくは家を出る時が一番緊張した。自転車に乗ったおっさんがアパートの前を横切ったのだ。幸い、気づかれはしなかったようだけど。

 昴星には、二つの「ミッション」を与えておいた。その二つをクリア出来たら、ご褒美をあげると約束して。

 一つはどこかで一度、ジャンパーのボタンを外してぼくに振り返ること。可愛らしく縮こまっているのか、……それとも興奮で勃ち上がっているだろうか、なんにせよ、昴星の好きなタイミングで構わない。これまで城址公園など林の中で裸になってくれたことはあるけれど、アスファルトの道でおちんちんを露出するのはこれが初めてのはずだ。

 そしてもうひとつは、どこかの道端で、うんちをすること。……昨日のような雨降りではない、雨に流されてなかったことには出来ないだろうから、したものはちゃんと自分で片付けること。そのためのティッシュとビニール袋は、ちゃんと昴星のジャンパーのポケットに入れておいた。

 ……当然のことではあるけど、ぼくはこの二つの「ミッション」を昴星がこなせなかったとしても構わないつもりでいた。だって、ね、昴星は特別なことなんてしなくたって可愛いんだ。極論を言ってしまえば、昴星のおちんちんを目にすれば、その背景が外だろうが中だろうがぼくの身体は反応する。だから昴星が危険を犯す必要なんでまるでないわけだ。

 でも、このお散歩で昴星がより興奮してくれるのは事実だろう。

 そう考えたなら、この時間にはやっぱり価値がある。

 ……川を渡ったところで、向こうから車がやってきた。昴星は身を縮こませる。ぼくは道の反対側からその様子を観察し、一旦電信柱の影に隠れて昴星が再び歩き始めるのを待つ。ぽつ、ぽつ、密やかな音を立てて、昴星は心細い足取りでまた、歩みを進める。

 間も無く、城址公園の入り口が見えてくる。

 昴星の頭の中では、……どこでぼくの課した「ミッション」をこなすか……、そのことでいっぱいだろう。幸い、ここからは街灯も減る。……一番昴星にとって好ましいのは(昨晩、段々と気の大きくなってきた諭良が露出をしていた)公園の裏口の方で、あっちは自販機がある程度で真っ暗。しかし、あの道れ出るには遠回りだしこの時間でも車通りの多い国道を経由しなければならない。だから昴星は多少明るくとも最短距離を進もうとしているようだった。

 前にも後ろにも人はいない。

 昴星はそれをしっかりと確認したところで、ぼくに振り返った。常夜灯の間、僅かに暗いところ。

 昴星は、ジャンパーのジッパーを下ろす。内側に着たシャツの裾を、震えながらめくり上げた。

 遠目でも、昴星のおちんちんが緊張に縮こまっていることもわかるし、泣きそうな顔のほっぺたを真っ赤に染めているのもわかる。

 しかし、昴星はぼくに向けて晒したおちんちんを、……ごく控え目に、ぷるん、ぷるん、振って見せた。

 ぼくが確認したと頷くと、大急ぎでシャツを下ろし、ジッパーを上げる。それからまた、 周囲を気にしながら歩き始める。

 さあ、次は……、どこでする?

 公園までは、もうあと少し。公園の入り口を横切る道は、往復一車線の道路。時間的には車の通りもあまりないだろうけれど、あそこは意外と明るい。昴星の歩くスピードが緩んだ。左右を見回して、やがてぴたりと立ち止まる。

 諭良は、側溝を跨いでしていた。しかし側溝のある道端には、灯りも届きやすいし、何よりもしも接する家から誰かが出て来たら……、と不安をいだくのかもしれない。これまでにはもっと暗いところもあったけれど、とにかく目的地まで辿り着かないことには終われないとわかっているからか、もう戻ろうとは思えないだろう。

 昴星は意を決したように道の真ん中で足を開く。

 そして、立ったまま身体の中のものを押し出そうと震え始めた。

 いまの昴星の、尋常ではない思考回路的には妥当な判断ということにはなるのかもしれない。けれど、道の真ん中で立ったままの排便を選んだのは、すごい。……排便の勢いに乗じて同時に噴き出すオシッコでジャンパーやシャツを濡らさないように、昴星は裾をめくり上げた。下半身は完全に露出してしまっている。

 暗がりで、昴星のお尻から産み出されるものは完全に保護色。ただ、微かな音は聴こえる。一つか二つ、落ちたところで昴星は排便を終えた。……意外と早く済んだな、という印象だ。昴星にとっては、お腹の中にあまり溜まっていなかったのは幸運なことだろう。

「昴星」

 小さな声でぼくは呼ぶ。「いいよ、お疲れ様。帰ろうか」

 昴星は救われたような顔で振り返り、こくこくと頷く。ぼくはポケットからティッシュとビニール袋を取り出し「自分で片付けられるよね?」昴星に手渡し、屈んで自分の粗相を片付け始めた昴星に向けてカメラを向ける。

「こっち向いて。……そう」

 道の真ん中で排便をしてしまった片付けをする昴星の姿を一枚。これは、かなりマニアックで、だからこそ興奮をそそられる写真だ。

「よく頑張ったね」

 昴星は震えながら頷く。ビニール袋、硬く口を結わえて、「お家に帰ったら、……ご褒美あげる」昴星の髪にキスをした。

 

 

 

 

 昴星みたいな子に、何がご褒美になるだろう……? 例えば諭良なら、いっぱい意地悪をしてあげること、そして最後にちゃんと愛をこめたキスと射精へ繋がる愛撫をあげること、……その上で愛を込めて抱きしめてあげたなら完璧だろう。しかるに、昴星はそれで満足してくれるだろうか?

 とはいえ、「ご褒美」のみならず「おしおき」が必要になってしまった昴星である。

「どうする?」

 三脚に据え付けたカメラの隣に立って、ぼくは訊く。下半身は外にいたときと同様にフルチン、上をきっちり着込んでいる分、余計に異色な格好になっている昴星は恥ずかしさに身を震わせている。

 正直、ぼくは昴星のしたことをそんなに気にしている訳でもない。ただ、部屋の灯りのしたで撮影する方がよりはっきり映すことができていいとも思うのでこうしているのだ。

 ……さっきの、道の中央での排便、……やけに量が少なくて、あっさり終わったなということは引っかかっていた。帰り道の昴星の足運びが落ち着かないな、とも思っていた。

 要するにこうなることを、ぼくはある程度予測してはいた。

 つまり、玄関に着くなりトイレに駆け込もうとした昴星が、うんちを漏らしてしまうことまで。……まあ、よく我慢したとは言えるけど。

「ごめんなさい……」

 さっきのは半分でしかなかったのだと教えるように、足元には二つ、震えながら昴星が生み出した長くて太いうんちが横たわっている。……リノリウムの床の上だからよかった。これが畳の上だったら大変だ。

 昴星のおちんちんはこれまでで見てきた中でも一番と言えるほど、小さく縮こまってしまっている。オシッコはどうあれ、うんちのガマンには一応の自身があっただろう。それを、失敗してしまった。のみならず今日は故意ではないオモラシを、既に一回してしまったあとだ。昴星にだってプライドぐらいある。おちんちんがいくら小さくっても、一応は六年生の男の子であるからして。

「……おれ、……自分でっ、片付ける……」

「うん、そうして欲しいな」

 ティッシュペーパーでずっしりとした自分のうんちを持ち上げて、ビニール袋に移し替えていく昴星の姿を、「微笑ましい」なんて思ってしまうのはもちろんおかしな感覚だと思う。

 しかし屈辱に塗れて自分の粗相の後始末をする昴星の姿は何と言っても可愛い。普段の強気でぐいぐい押してくる昴星が可愛いのは言うに及ばずだけど、こんなしおらしい昴星だってやっぱり、すごくいい。要はぼくは、昴星だったら何だって可愛く思えるんだろう。まぁ実際、昴星のした臭いうんちが平気なのだから、ぼく自身がそういう、昴星に対応した人間であるということは否めない。

 だから、昴星に意地悪なことをしつつ、さっきからジーンズが窮屈で仕方が無い。格好悪いけれど、昴星がそれに気付くことはないだろう。

「片付けた、よ……」

「そしたら、トイレの中に洗剤があるから、それでよーく拭いて」

 才斗が言っていたことを思い出す。

 昴星は家のことなんもやらない、と。だから自分の家でもないのに才斗は鮒原家の掃除をすることがあるのだと。そうしないと昴星のご両親が「こんなんじゃ家を開けられない」と困るから。恋人らしい気遣いであり責任感である。

 だから昴星は、こんな風に自分の家の床を拭き掃除したこともないだろう。新鮮な体験かもしれない。もっとも、それをさせているぼくの考えは才斗のように優しく立派なものでは決してないのだけど……。

 うんちの臭いが、洗剤で掻き消される。

「拭いた……」

 おちんちんは相変わらず縮んだままだ。興奮すればめいっぱい上を向くその場所、つまりは感情が一番如実に現れる場所ということだ。傷を負った昴星の心がそのまま、その場所のサイズに現れている。

 ぼくはカメラを止め、昴星の手からビニール袋を受け取る。袋を二重にして、がっちり結び、臭いのもれないようにしてから生ゴミ入れに投じた。心細そうにぼくを伺っている昴星は、きっとぼくが怒っていると思っているのだ。

 そんな時間は、本当なら一秒だってないに越したことはない。

「おにーさ……」

 抱きしめると、驚いたように身を震わせる。

「……お尻、まだ拭いてないね」

「あ、あの……」

 昴星は恐る恐る顔を上げて、ぼくの顔を伺う。ぼくは微笑みでそれを受け止めた。

「……怒って、る……? 怒って、ない……?」

 サラサラの髪を撫ぜる。興奮しているときにはいつもほんのり暖かいその場所が、まだ冷たい。ごめんねと心の中で謝って、

「怒ってないよ。だって昴星はちゃんと自分で後始末できたんだもの。だから安心して」

 意地悪な「おにーさん」でごめんね。今度はおでこにキスをする、と、昴星はぎゅうっとぼくに抱きついた。

「お、おれっ、すっごい、すっごいこわかった……っ、おにーさん、怒らして、……嫌われたかと思った……!」

 嫌いな子のおちんちんを見たいなんて思うものが。ぼくは優しく優しく昴星の背中を撫ぜて、「ぼくが昴星のこと嫌いになんてなるもんか……。昴星がぼくのこと好きでいてくれる限りは、……いや、いてくれなくなってもずっと、ぼくは昴星よりも昴星のことが好きだよ」心から素直な言葉を、昴星のために恥ずかしげもなく紡ぐのだ。

 昴星はこくこく頷いてしっかりぼくに抱き着き、少し泣いた。けど泣いたことに気付かないでおくことが、ぼくらには相応しい気がする。晴れやかな心でいたほうが、昴星が「おかえり」という言葉で迎えてくれた夜の、これからの時間を楽しく過ごせるに決まっているのだから。

「恥ずかしそうにうんち片付けてる昴星、可愛かった」

「……んもー……、ヘンタイだよなー、ほんっとに……」

 昴星のお尻を洗ってあげながら、ぼくは昴星に叱られる。「あんなん、見て嬉しいのこの世でおにーさんだけだぞ」

 うん、まぁ否定はしない、というか出来ない。でも、

「じゃあ、この世でぼくだけは、昴星がうんち漏らすとこ見て嬉しいって思う。昴星はそれ、嬉しくはない?」

 ぼくが訊くと「わかんねー」と言って笑う。普通の神経ではないからこそ、ぼくらはこうして二人で、幸せな時間を過ごすことができる。それは昴星もわかりすぎるぐらい、わかっている。

「じゃー、おにーさんずっとちんこ硬くしてたの?」

 ちら、と振り返って、「いままで」

「うん。外でさ、恥ずかしそうにしてる昴星見ながらもう、どうにかなっちゃいそうだった。昴星のこと、どうしちゃおうかなって」

「ふーん……、ヘンタイだと大変だなー」

 昴星は蛇口を止めた。もう、お尻は綺麗になって、ピンク色の肛門、舐めたって平気なぐらい。そしてそういう部分を目にしていれば、やっぱり勃起は収まらないわけで。

 せっかく太いのをたっぷり出して、昴星はお腹の中がすっきりしているだろうから、お風呂から出たら……、ということは当然考えてしまうわけだ。でも、

「待ってて」

 昴星は言って、タオルで足を拭いて部屋へ出て行った、と思ったら、

「うわーすっげーくせー……」

と顔をしかめながら、右手にオモラシブリーフを摘まんで戻って来た。生乾きだが、既に真っ黄色である。そして左手にはカメラを携えて、それはぼくに手渡される。

「おにーさんも、今から身体洗うんだよな?」

「え? うん、それはもちろん……」

「じゃー、ちょっとぐらい汚れても平気だよな?」

 昴星が何を意図して言っているのか、ぼくはすぐには理解できなかった。「こっち、座って」と言われるままに腰掛けからおりて「あぐらかいて」と言うのに従って、そうする。まだわからない。ただ昴星は「うーん……」と黄色いブリーフを広げて、

「いいや!」

 踏ん切るように、それに足を通すなり一気に引き上げて、パチン、とゴムのいい音を立てた。ただ景気のいいのは音だけで、

「うひー……、つめてー……」

 と、ぞわり、震える。

「穿いたまんまだとあんま気になんねーのになー……、あと穿きっぱなしのときよりくせー」

「えーと……?」

「おにーさん、撮んの。おにーさんおれのこうゆーの撮ってるとき、すっげー興奮すんじゃん」

 まあ、ええ、はい。

「おにーさん意地悪したから、まだちんこ入れんのナシ! でもおれもうんこ漏らしちゃったからおあいこで、おにーさんが嬉しいことしてやる。でもおにーさんはおれがいいよって言うまでちんこシコシコしちゃダメだからな」

 それ、あんまりおあいこになってない気がするな……。

 でも、ぼくは「わかった……」と頷いて、カメラを構える。

「でも、あぐらかかせたのはどうして?」

「おれがおにーさんの勃起ちんこ見たいから! アンド、おにーさんに嗅ぎやすいじゃん? あと抱っこもしやすいしさ」

「ああ……、そういうこと」

 昴星は撮ってるときのぼくがガチガチにしてるの知ってたんだ……。ちょっと気恥ずかしい気もするけど、でも気付かれていなかったはずもない。

 ぼくが向けたカメラに、昴星は嬉しそうに笑い、ピースサインを送る。鏡の前の台にお尻を乗せて、品なく大股を広げて黄色く湿ったブリーフにあって、とりわけ多量のオシッコを吸い込んでいるはずの縫い目を見せびらかす。

 むっちりとした体型でいながら細く引き締まった印象の太ももは、全くセクシーと言ってしまっていいほど。昴星はニヤニヤ笑いながら鏡に手をついてお尻を突き出し、

「どう? そっからでも臭いする?」

 と振り返って訊いてくる。

「うん、すっごい……、する」

「才斗がさ、オモラシした後のパンツな、乾くちょっと前が一番臭いって言ってたよ。でも才斗もおにーさんもこういう臭いが一番好きなんだろ?」

 ひひ、と笑って白と黄色のツートンカラーを挑発的に振って見せた。それから振り返って、ぼくの足の間を見下ろして、

「すっげー勃起してる……」

 ちょっと、呆れられた。しかし改めて向き直り、腰に手を当てて、その黄ばみを突き出す。強い臭いをまとった膨らみを存分にぼくに見せ付けて、それから思い立ったように窓からおちんちんを取り出す。

 オモラシブリーフを穿いているからか、ほんのりと勃起し始めている。

 が、少し真面目な顔になって、

「おにーさんさ、おれのオシッコとかちんことか、臭いのなかったら、それでも好き?」

 そう聴く時、昴星の勃起はすんなり収まった。

 意外な問いに、ほんの少し面食らったけれど、

「うん」

 頷くことにためらいなんてない。

「そりゃ、……昴星は昴星だもの。昴星は昴星ってだけで可愛いし、大好きだよ。……それにね、あの、昴星と同じ臭いの子が仮にいたとしても、ぼくはその子のオシッコ嗅いでも興奮しないとおもうよ。ただ『臭いなあ』って思うだけで……、昴星のオシッコだって思うからこそ、ドキドキするんだ」

「なんかそれ嬉しくねーな……」

 昴星は複雑な表情を浮かべる。しかし納得したように、「まあいいや! おにーさんヘンタイだし、ヘンタイだからおれも嬉しいしな」と笑って、

「見たい?」

 腰に手を当てて、ぼくに訊いた。何を、と問わなくとも、「何を」してくれるかはわかっている、すぐに「見たいです」と答えた。ぼくのことを、ちゃんと理解してくれる、可愛い可愛いぼくの恋人。

「じゃー、いいよー。ひひっ」

 プルプル、プルプルプルプル、いつもより小刻みにかつ積極的に震わせて見せてくれる。

「んっ、とに、もう、ちんこ、超ビク、ビクしてんの、ヘンタイっ」

 しかしそんなところをぼくに見せて、ぼくが反応するのを嬉しいと思う君だって、……だんだん揺れ方が変わってきて、おちんちんが勃起しちゃうような君だって、ヘンタイな男の子だ。そういう子だからぼくは大好きなんだ。

「才斗がさー、あいつ、どうかなって」

 腰を止めて、昴星は言う。やっぱり振りながらは難しかろう。

「どうって……?」

「ん。あいつもさ、そうなのかなって。ちんこぷらぷらしてんの見たら興奮すんのかなーって試したらさー」

 何やってんだそんな小さいもん見せびらかして……。

 と才斗は冷淡に言ったんだそうである。

「まあ……、確かにそれがわりと……、普通な感覚なのかもしれない、ね」

「ようするにー、おにーさんすっげーヘンタイってことだよな」

 もう、それは何度言われたところで堪えない。事実として、ぼくはヘンタイなのだ、どこに出したって恥ずかしいヘンタイなのだ。

「こんなさ、ヘンタイのおにーさんにこうやってちんこ見せてやんの、おれらぐらいだよなー。だからおにーさんはおれらに感謝してさ、おれらのこと楽しませなきゃなんないんだぞ?」

 それも、重々承知しておりますとも。

「えっと……、じゃあ、どうしたらいい……?」

 昴星が、おちんちんをしまう。真っ黄色いパンツの中で、愛らしい突起。しかしそのものが見えなくっても、その膨らみの存在だけでぼくの興奮は煽られる。

「おにーさん、一人ですんの。おれでさ、興奮して、ちんこシコシコしてんの見せんの。……おれも手伝うからさ」

 昴星はぼくの頭に両手を乗せ、ぼくの両腿の間に立つ。そして股間をぐいっと顔に押し付けてきた。布は、冷たい、けれど奥からはあったかいおちんちんの体温が伝わってくる。

 もちろん、苦しさを催させるぐらいの尿臭も。

「おにーさん、シコシコしろよ」

 顔に、特に鼻に股間を擦り付けながら昴星は命じる。

 返事をするかわりに、……というか、そんな余裕もない、ぼくは右手で自分の股間を掴み、激しく扱き始めた。

 頭の中まで、脳みそまで昴星のオシッコの臭いに染まるような気がした、要するにこれは……、幸せだ。ぼくが「ヘンタイ」だからこそ感じられる、幸福に違いない。

「んひひっ、おにーさん、嗅ぎすぎ……っ、ちんこ超スースーする……」

 昴星は意地悪いような声を降らせながらも、ぼくの髪を撫ぜている。

「おにーさん、ちんこきもちい? ……おれのオシッコの、超くせーの、うれし?」

 んう、という返答を昴星はきちんと受け止めてくれた。

「ひひ……、そっか。じゃー、これもあげる……」

 きゅ、と力が入った、と思った次の瞬間には、もう濡れ始めていた。新しい熱、新しいオシッコ、……まだ濃い。目が覚めるほどしょっぱくって、臭い。

「おれのオシッコ……、いっぱい感じろよな、臭いも、味も、全部さ……」

 股下から降る雨はぼくの激しく動く右手も濡らした。昴星のオシッコを浴びて、ぼくのペニスは間違いなく悦んでいる。

 そのままの勢いでぼくが射精にまで至るのを、昴星はオモラシという行為とともに楽しんでいた。

「ひひ……、息も、オシッコもあったけー。……おー、超濃いのいっぱい出たねー」

 昴星の内腿にもかかってしまった。昴星は嬉しそうにそれを指で拭い、「んん……、すっげ……」舐めて、とろりと微笑んで震える。

「横になって」

 の要望に応えたら、ブリーフを穿いたままぼくの顔を跨ぐ、但し、おちんちんはまた引っ張り出された。

「あー、あのさ、今日な、諭良、『シッコ』つってた」

「……ん?」

「だからー、オシッコじゃなくて『シッコ』って」

「ああ……、うん、昨日から。諭良は元々自分のオシッコのことそう言ってたし、おちんちんも本当は『ちんちん』って呼んでたらしいよ」

「ふーん、……おれはずっとオシッコアンドちんこだけどなー。……でもおにーさんは『シッコ』って言ったほうが興奮すんの?」

 それは、どうだろう。……時と場合にっていうか。

「まあ……、この間みたいに諭良の真似してさ、普段『ちんこ』って言ってるのに流斗と一緒になって『ちんぽ』『おちんぽ』って言ってたのは可愛いと思ったけど」

「……ふーん、……そんなこと言ってたっけ。ぶっちゃけさ、ちんことかお尻とか気持ちよくなってるとき何言ってるかとか、あんまおれ覚えてねーんだよな……。おにーさんは覚えてる?」

 言われてみると、まあ……。多分、あんまり何も言ってないだろうとは、思うけど。

「でも、おにーさんは『ちんぽ』って言ってるおれがいいの?」

「うーん……、どうだろうね。普段の昴星も可愛いと思うし、前に、ほら、オムツして赤ちゃんみたいになっちゃってるとき『ちんちん』って言ってたのも可愛かったし、どれも同じくらい興奮するよ」

「ふーん……」

 昴星はぼくの顔に湿ったブリーフの股下とタマタマの裏を覗かせながらしばし考え、

「おにーさん、『ちんちん』とか『シッコ』って言ってる諭良も可愛いと思った?」

 また質問。

「それは、まあね。普段のお利口さんな諭良のこと知ってるから」

 ぼくの回答を受けて、また少しの間、熟考。

 そして、

「んーわかった、じゃあ、……おにーさん、しゃぶっていいよ、おれの、……ちんぽ」

 膝をついて、オモラシブリーフの窓から覗く「ちんぽ」を鼻先に近付ける。

「いいの……?」

「うん。この後、部屋行ってセックスしよ。でもさ、いまだと、おれオモラシしておにーさんのオナニー見てすげー興奮してるし、入れられてすぐいっちゃうのつまんねーし、だからさ」

 腰を細かく振って、ぼくを誘惑する、……いや、そんなオシャレなもんじゃないな、おねだりだ。

「ちんぽ……、して……」

 かしこまりました。

「ぅン……、ん」

 股間の欲求をぼくに任せて、昴星は喘ぎ始めた。お腹をぼくの胸に委ね、胸はぼくのお腹に。そして口の届かないところのぼくのペニスを手のひらで愛撫しながら、……本当はしゃぶりたいんだろう。

「ひゃっ……、お、にーさ、……それ、しんどくない……?」

 上半身を起こして昴星の顔をペニスに近付けさせる。……むしろ昴星の方がしんどいんじゃないかってちょっと心配になる。けれど昴星はすぐ、ぼくのペニスに頬ずりをして、「……んー、やっぱむずいや……。ちんぽあとでまた舐めてくれる?」

 昴星はぼくの顔から降りた。

「いいけど、いいの?」

「うん。そんかわしさ、おにーさん、さっきシコシコすんのしてくれたから、おれもおにーさんに見せるよ……」

 昴星はブリーフを脱ぎ、再びぼくの顔を跨ぐ。但し今度はぼくが昴星のおちんちんに届かなくなる。そのまま昴星は、ぼくのペニスにキスをして「おれのー……、お尻の穴、いっぱい見てて……」言う。

「んふ……、ん、おにーさんのちんぽ、またすっげー硬くなってんの……、おひりのあな見て……、ひひ……、ちんぽ大好き……」

 れろれろと亀頭を舌が這い回る。貪欲さをそのまま表現するようないやらしいやり方に、

「ん、んっ、ちんぽ、ちんぽきもちぃ? おれもぉ……ちんぽっ、きもちぃっ、ちんぽっ……」

 声が加わる。その単語を繰り返すようになったのは、意図的なものではないだろう。募る快感によって、精液が零れるより先に頭の中をいっぱいに満たす言葉が声が、当人の責任能力を超えて溢れ出してしまうというだけ。

 夕べの諭良にしてもそうなのだけど、言葉一つの違いだけでそんなに何もかもが変わってしまうものではない。昴星なら昴星で、仮にこの子が流斗の言葉遣いを真似て、愛くるしい甘えん坊を演じてみたところで、やっぱり昴星が昴星でなくなるわけではない。

 要は、……いつもとおんなじぐらい、昴星は可愛いということだ。

「んぷぉ!」

 昴星の腰を抱えて、お尻をぺろりと舐めてから、「ねえ、……昴星?」語り掛ける。

「んな、なに……?」

「昴星のオナニー、手伝ってあげていい?」

「お、オナニー、手伝う……?」

「うん、……一旦降りて」

「う、うん……」

 昴星を身体から下ろす、と寂しいので、身を起こすなりあぐらの中に後ろ向きに座らせた。

 後ろから、右手で昴星のおちんちんを捉えた。捉えた、というか、摘まんだ。

「あ……」

「昴星の可愛いおちんちん……、こんな角度で見下ろすことあんまりないから新鮮な気がする……」

 自分のものをこするときと同じ角度ではあるけれど、気持ちは全く違う。左手でしっかり抱きしめて、……ちょっと柔らかいお腹とかおっぱいとかを手のひらで揉みしだき味わってから、おっぱいの先をちょっと摘まむ。

「んひゃ……っ……」

「後ろからだと、おっぱいも揉みやすい。……顔見られないのはちょっと残念だけどね」

 昴星は想定していなかった角度からの愛撫に戸惑ったような声を上げる。

「お、おにーさん……、これで、すんの……? おにーさんが、すんの……?」

「自分でしたい? ……まあ、ぼくはどっちでもいいよ? 昴星のオナニー見るのも楽しいし……」

 三脚のカメラはまっすぐに昴星の裸身を捉えていた。もとよりぼくのカメラ、つまりぼくの「第二の目」とも呼べるそれが捕捉すべきは、可愛い可愛い昴星のおちんちんである。当たり前のショタコンにとっては日常目にすることさえかなわない部分を、存分に見るための。

 でも、今となっては昴星の、別におちんちんに限ったことなく全身を余さず記録するためのもの。昴星の反応の一つひとつを。

「お、にーさん、が、したいんならあ……っ」

 指先、先っぽの余り皮を摘まんでこすり合わせる。それだけで、分泌されたガマン汁がにちゃにちゃと鳴る。えっちな音を響き渡らせてしまいながら、昴星はひくんひくんと身体を震わせ、

「んぉ、っぱいっ……つ、っまんじゃやだぁ……! もんじゃダメぇ……!」

 女の子みたいにその場所で反応する。ぷくりと膨らんで尖った乳首のピンク色、愛らしさをきちんとカメラに撮らせながら、「ちゃんと、カメラ見て」ぼくの囁きには、多分律儀に従っている昴星である。

「自分でするのと、どっちが気持ちいい? ……やっぱり自分でした方がいいのかな」

 右手の指先をタマタマに移し、昴星から溢れたおつゆでヌルヌルと撫ぜる。シワを刻ませたそこはもう、立派に昴星の性感帯で、

「っもちぃっ、おにーさんのっしてくれんのきもちぃっ」

 足をパタパタさせて悦ぶ。

「そう……、よかった。気持ち良くなってるって、ちゃんと『ぼく』に『見せて』ね?」

 再び、おちんちん、今度は根っこを摘まむ。根っこと言っても短く丸っこく小さな昴星のおちんちんであるから、そこが一番のピークポイントということになる。

 自分のものとはまるで勝手が違う、

「う、あ、あっあっちんぽっちんぽちんぽっ」

 けれど、

「んっひっンっぽぉお、あ、あ、あっあっいくいくっいくっいくっ! っくぅう!」

 問題なかった。というか、自分を射精させるよりもずっと簡単だった。おっぱいにお腹に精液を散らして心地よさを満喫した昴星のほっぺたにキスをして、

「全部撮れたね。昴星の射精」

 いい子いい子、と髪を撫ぜる。

「ひ、ひひ……」

 昴星は身体を弛緩させ、カメラに改めて目をやったようだ。「おれのぉ……、ちんぽいくとこ……」

 カメラに向けて、ゆるゆると手を振りピースサインを送って、それから自分の太腿を抱えて言う、「おにーさんのっ、ちんぽもぉ、おれのここできもちよくすんのっ」恐らくは自分の肛門を晒して……カメラに向けて。まあ、映ってるかどうかわかんないし、カメラには「ちんぽ」生えてないよ。でもいまの昴星にとっては関係ない。

「お尻に欲しい?」

「うんっ、おにーさんのちんぽっ」

 一度身体から降ろし、カメラを三脚から外す。布団の上、ゴムを装着してごろんと仰向けになる。

「じゃあ、いいよ。……セックスしよう」

 昴星にローションのボトルを指差す。嬉しそうに手に取り、ぼくのペニスにまとわせるのみならず、足を大きく広げた「うんこ座り」で自分の肛門にも塗りつけるところを見せつけて、

「ひひっ……、おにーさんとセックス」

 待ちきれないと言うように、そのままぼくのものに手を当て、

「おにーさんのちんぽ……、すっげーあつい……、入れていい? もう、欲しい……」

 肛門を擦り付けて強請る。もちろん昴星の「ちんぽ」は休まる間も無くずっと上を向いたままだ。

「いつでもどうぞ」

 ぼくが認めるとすぐに、昴星は自分のお尻の穴にぼくのペニスを突き立てた。

「お……おっ……ほぉ……!」

 そう、ぼくは何もしてないで寝てるだけなんだけど、「突き立てる」という形容がしっくり来てしまう。昴星の肛門を穿ち、ずぶぶと一気に潜り込む。まだちょっと慣らし足りなかったんじゃないのと思うくらいの圧迫があって、でもそれを窮屈に思わせる暇もなくて、

「おあぁ……、あぁ……」

 なぜなら、昴星の括約筋が蕩けるように緩んだから。

「あー……はぁあ……」

 上向きのおちんちんからだらしない声そのままのような勢いでオシッコが噴き上がっていた。

「あひ……、オシッコ、出ちゃった……、おにーさんにオシッコしてる……」

 まんまるのタマタマがぼくの下腹部に密着する。昴星は陶然とした表情で可愛い噴水を見せてくれながら、クスクスと笑ってカメラを見る。

「おにーさん、おれのオシッコめっちゃ見てるー……」

「……見せてくれてるんでしょ?」

「んひ、……おにーさん、おれのオシッコすんの、見んの、好き?」

「大好きだよ。オシッコも昴星のおちんぽも大好き」

「ひひ……、よかった、おれのちんぽもうれひいから、オシッコ、止まんない……、ちんぽもっと見てっ、おれのちんぽっ」

 放尿しながら昴星は腰を振り始める。乱れる軌道、跳ねるオシッコ、カメラにかからないようにしつつも昴星の淫らな様を見逃すわけには行かないと、ぼくは必死にカメラを回す。

「んっ、ん、お、にぃさっ、おにーさっ、ちんぽきもちぃっちんぽっちんぽっ、おにーさんのちんぽぉ……っ大好き! ちんぽ大好きっ、おにーさん大好きっ! おにーさんのちんぽ大好きぃっ」

 淫らさそのものと化してぼくの上でバウンドする昴星に、

「大好きだよ。昴星の全部が大好き」

 ぼくも応える。ようやく放尿も収まって、昴星が腰を振るたびに上下に細かくバウンドする「おちんぽ」の何と愛らしいこと。

「はやくっ、はやくっおにーさんっ、せーしせーしっ、おれせーし出ちゃうからぁっ」

 急かされるまでもない。

「あ、いくっもおっでちゃっ、出ちゃっ、せーしっちんぽおっちんぽいくちんぽいくちんぽいくっいくっいくっ……いくうぅう!」

 昴星が高い声で喚き上げ、射精する。伴って肛門がぎゅうっと引き絞られる。ぼくは昴星を下から一気に突き上げるようなつもりで、自分の欲を炸裂させた。

「お、お、っ、おっ、おほぉ……!」

 ぼくの脈動をそのまま全身の震えに変えて、昴星が髪を振り乱して射精の一段上にあるかに思えるような喜悦の反応を示した。びりびりとおちんちんが震え、びゅっ、とまた少しのオシッコが零される。……まるで女の子の潮吹きみたいに。

「おー……、お、……にーさ……、ひひ……おにーさん、の、ちんぽ、ほんと……、すっげえ……、ちんぽ……バカみてー、に、いっぱい……」

 昴星はひくひく笑いながら身体から力を失い、ぼくに身を重ねる。キスを二度、優しく繰り返したところで、……すーすーと寝息を立て始めてしまった。

 疲れたのだろう。

「ありがとうね、昴星」

 可愛いところをたくさん見せてくれた「恋人」のおでこにもう一度キスをして、身体を入れ替えてゆっくりと抜く。ぱっくり空いた肛門の周りを清潔なタオルで拭い、自分の身体を大雑把に拭いたところで、……さてどうしよう。ぼくは考える。

 眠いから寝たのだ。だから起こして続きをというわけにはいかない。明日の朝はどうするのかな、学校に行くまえに家に寄らなきゃいけないだろうから、普段よりちょっと早起きしなきゃいけないんだろう。でも、悪くない。昴星のための朝ご飯を作る、……とても素敵な仕事ではないか。

 一つ問題があるとすれば、……すうすう寝ている昴星のおちんちんのこと。

 きっと今夜もオネショをしちゃうんだろうなあ……。その後片付けも考えたなら、更にもうちょっと早く起きなければならないかもしれない。

 でも、まあいいだろう。

 押入れからジュニア用のオムツを引っ張り出して、昴星の股間をきっちり覆ってから、甘く臭う恋人に寄り添って、ぼくも横たわった。


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