お兄ちゃんがうれしいのがぼくもうれしい

「いいこと? これからあなたのことを、由利香は徹底的にしつけて行きます。オネショするたびにちゃんと報告すること、わかったわね?」

 由利香さまにそう言われて、嬉しそうに頷いて諭良は急ぎ足に帰って行った。それを見送って、由利香は背伸びしてキス、そして「由利香も、おいとまします」と言った。

「うん。……またいつでも遊びにおいでね。……いや」

 違う。

「今度はぼくが遊びに行くよ」

 にっこり、嬉しそうにぼくの「妹」は笑顔になる。

「……ところでさ、由利香がこっちに来た用事って、何なのかな」

 やっと、ぼくは訊けた。彼女はぼくの胸から顔を上げて、少し案ずるような表情を浮かべる。

「人を、……探しに」

「それは……」

 君の「お客さん?」と訊きかけたぼくに気付いたのだろう。由利香は首を振った。

「昔からの、友達です。……おとといのお昼、学校の終業式が終わってすぐに、いなくなってしまったんです」

 子供がいなくなった?

「それは……、誘拐されたとかそういう……」

「いえ。書き置きがあったんです」

 由利香は携帯で撮ったというその書き置きをぼくに見せた。ノートを破った髪に子供が意思を詰め込んだような強い筆圧の鉛筆字が踊っている。

「ええと……、『東京に行きます。探さないでください。二人で頑張って生きて行きます』」

 最後にしたためられた二つの署名に、ぼくは固まる。

「二人は、由利香の一つ上で、……由利香は学校ではあまり、人とお喋りはしません。友達、いないのです。でも、二人だけは由利香のこと、大事に思ってくれて、優しくて……、お兄さま?」

 署名は、陽介と、瑞希。

 ぼくはこの二人を知っている。

「ああ……、ごめん、あの、それで?」

「いつも、三人で一緒に遊んでいました。でも二人が六年生に上がった頃から、少し、距離を感じるようになって……。いつも二人は二人ぼっちで、でも、家出するぐらい悩んでいたなら、相談してくれればよかったのにって……」

 由利香と、陽介と瑞希の繋がりには全く気付かなかった。ぼくはしばし呆然としつつ、二人があの温泉で、東京に来たがっていたことを思い出す。

「……由利香、この子たちを探すって、……アテはあるの?」

「前にお客さんで、警察の仕事をしている方がいたんです。……困ったときには何でも相談してって。その方にお願いしてみようと思っています」

 警察の人間がなにやってんだよ。

「この子たちの、親御さんは?」

「もちろん、探しに来ているはずです」

 ぼくは十秒、考えた。しかしやることなど一つしかない。まだ寝巻き同然の格好で居たけれど、

「ぼくも一緒に行くよ」

 と、着替えながら宣した。

「ぼくは、……ぼくらは、その二人を知っている」

「え……?」

「ぼくらは、……君と会ったあの日、その子たちに会っている。ええと、会ったっていうのはつまり、……つまり、君のお風呂で、そういうことをした」

 由利香はぽかんと口を開ける。でも、何だか納得がいってしまったのだろう。それ以上問われることはなく、代わりに、

「じゃあ、昴星くんたちとも知り合い……、ということでしょうか」

 ぼくがすんなり頷ける問いを口にした。

 同性愛者である二人だ。

 才斗という、同性の恋人がいる昴星の環境に強い憧れを抱いたにちがいない。何よりあの街が彼らにとって好ましくない環境であるならば、……一度はぼくらにとどめられたとは言え、再び強い上京欲求を抱いたとしても不思議はない。

 ぼくは昴星の携帯を鳴らした。少年はすぐに出てくれた。

「おー、おにーさんじゃん、どうしたのー? っていうかおれもちょうどおにーさんに電話しようと思ってたとこ」

 ぼくが何も言うより先に、昴星は言った。

「いまさ、才斗と流と、あと、珍しいのが来てんだ。おにーさんも仕事休みなら、せっかくだからおいでよ」

 もったいぶった言い方だが、確信した。すぐ行くよと答えて電話を切って、

「二人の居場所、わかったよ。……行こう」

 由利香は少し緊張した顔で、しかしこくんと頷いた。

 

 

 

 

 昴星のマンションに向かう途中で、由利香は教えてくれた。

 陽介と瑞希は、由利香のことを妹みたいに可愛がってくれたこと。

 強い陽介と優しい瑞希、二人とも憧れの存在であって、大好きだったこと。

 でも、最近はずっと素っ気なくて、放って置かれて、さみしかったこと。

「由利香は、……二人のことが好きなの?」

 ぼくが問うと、由利香は困ったように俯いてしまった。

「……好きです。でも、お兄さまのことが好きな気持ちとは、ちょっと違います。わたしは……、由利香は」

 彼女は自分でもその気持ちを何と呼べばいいのかわからない、ちょっともどかしいような顔で言葉を探して、「……陽介くんたちと、お兄さまとしたようなことをしたいんじゃなくて、……でも、そばにいて欲しいって、そう思うんです。……でも、二人の邪魔はしたくないです」

「……由利香は、あの二人が……」

 こくん、と由利香は頷いてから「ちゃんと、そう言われたわけじゃないです。でも、そうなのかなって……」と答えた。

 昴星のマンションの部屋の前に着いた。

「押すよ」

 呼び鈴に指を当てて、ぼくは訊いた。由利香がしっかりと頷く。

 呼び鈴が鳴るなり、待ち構えていたようにドアが開いた。

「お兄ちゃん、と、ゆりねえちゃん!」

 流斗がぼくに飛び付くなり、由利香に気付いて目を丸くする。

「うお」

 と昴星も玄関に出て来て、先日えっちなことをした相手を見て驚く。

「何で、おまえまで……」

 じぃいっと流斗がぼくを見上げ、それから二度三度とぼくと由利香に視線を往復させて、急に悲しそうな顔になった。

「……お兄ちゃん、ゆりねえちゃんと結婚しちゃうの……?」

 咄嗟に「違う」と言ってしまうのは、由利香に対して失礼だという思いが去来したからだ。ぼくが何かを言うより先に由利香が首を振ってくれたのは、申し訳ないけど、ありがたかった。

「安心してください。お兄さまは、流斗くんと昴星くんのこと、ちゃんと大好きです。お二人からお兄さまを奪ってしまうようなことはしません」

 流斗はほっとしたように笑って「お兄ちゃん、ちゅー」と背伸びで甘える。ぼくもほっとして、甘酸っぱいジュースの味の唇に唇を重ねた。「おにいさまぁ?」と昴星は変な顔をしている。

「……んまーいいや。あのさ、おにーさん驚くなよ、いま」

「陽介と瑞希が来てるんだね?」

「うぇ」

 昴星の方が驚いた。

「何で知ってんの……?」

「ゆ……、わたしは、陽介くんたちを探しに来たんです」

 奥の扉が開いて、才斗がぼくを見て、軽く頭を下げる。それから昴星をどかして、

「君が、……由利香?」

 恋人が初めて交わった「女の子」に訊く。

「はじめまして」

 礼儀正しく由利香は頭を下げて、「才斗くん、ですね?」

「うん。……お兄さん、そんなとこで流斗とベタベタしないでください。隣近所に見られたら変な噂が立ちます。とりあえず入って」

 通された玄関には、昴星と才斗と流斗の靴の他に、少年二人分のスニーカーがあった。

「奥に、二人が居るの?」

 胸に流斗をぶら下げたままぼくが訊くと、少し草臥れたように頷く。

「おとといから、いたみたいなんです。昴星のやつ、今朝まで『風邪ひいた寝る』なんてウソついて黙ってました」

「だってさー、あの二人が言うなっていうんだもん」

「ぼくも、夕べからいたんだよ」

 流斗がやっとぼくから離れて言った。

「才兄ちゃんにはナイショだったんだけど、バレちゃった」

「隠し通せると思うなよ」

 由利香が速足でわき目も振らず廊下を進み、居間へつながるドアを開ける。

「えっ」

「うそ!」

 まだそれほど懐かしくはない、少年二人の声がぼくの耳にも届いた。

 

 

 

 

 昴星、才斗、流斗。いつもこの部屋に居る少年三人に。

 陽介と瑞希、家出少年二人。そして、彼らを追って来た由利香。

 更に、彼らからすればはるかに年上の、ぼく。

 総勢七人が、失礼な話だけどそう広いわけではない鮒原家の居間にいる。陽介と瑞希は互いにかばい合うように食卓のテーブルに隣り合わせ。向かいの片方に座った由利香は、じっと俯いて居る。昴星はテレビの前のソファの背凭れに肘をついてこっちを見ていて、才斗は食器棚に腕を組んで寄りかかって居る。

 ぼくは台所のシンクの前、そして、流斗はぼくの背中。

「えーと」

 やはり、一番年上のぼくが切り出すのが相応しいのだろう。よいしょっと、流斗をおぶりなおして、

「……月並みな言い方になっちゃうのは承知の上だけど、陽介、瑞希。おうちの人が心配してる、すぐにでも、帰ったほうがいい」

「嫌だね」

 陽介がバカにしたように鼻を鳴らす。

「おれたちはあの家には帰らない」

「……んなこと言ったってな」才斗が溜め息交じりに呟く。

「ここんちの親は、今夜は帰ってくる。ウチも昨日から揃ってる。それなのに居られると思ってるのか」

 才斗は正論を口にしている。ぼくはしかし、才斗に目配せをした。才斗は口を噤む。

「まず……」

 ぼくは、平凡な人間だ(子供たちに手を出して居ることは一旦脇におくとして)し、未熟者ではあるけれど一応大人である、そして、二人とも同じ男であり、由利香とそういう行為が出来るにしても、同性愛者だ。

 つまり、この子たちの気持ちをある程度は理解出来るはずだし、親御さんたちの気持ちも、同じく。

「……さっきさ、陽介、『あんな家』って言ったよね。あれは、どういうこと? おうちで何かあったの?」

 子供の扱い方は、正直に言っていまだよくわかってるわけじゃない。流斗は幼いけれど賢いからいいけど、彼よりもっと年下の子はもうどうしたらいいかわからない。こういう人間は、親にも教師にも向かないし、ならないほうがいい。

 けど、その分、……ぼくにしか立てないスタンスというものも、あっていい。陽介と瑞希は、声に耳を澄ませて居るぼくに少し驚いたみたいだった。

「……陽介は」

 口を開いたのは瑞希だった。

「陽介は、さきおとといの夜に、ぼくと一緒にいるところを、お父さんに見つかっちゃったんです」

 陽介も、溜め息交じりに頷いた。

「由利香も知ってるけど、ウチの親父はバカだからさ」

 由利香はその言葉に僅かに顔を上げたが、またすぐ俯いた。

 陽介の言葉を聴きながら、「バカ」ではない、子供を思う気持ちが熱しやすい、いいお父さんだとぼくは思ったが、黙っていた。少年はずいぶんきついことを言われたのだ。普通の親の気持ちとしては、やっぱり子供には普通に在って欲しいと考えるはずだし、まして同性愛者なのだとわかったなら、はっきりと怒りを表明しようとするものだろう。

 しかし、「普通」って何だろう。

「バカらしくなったんだ。あんな狭い街で、息殺して生きてるのが……。だったら、誰も知らんとこ行って……。瑞希と一緒に居られるんなら、どこでも変わんないと思った」

 皮肉なことにこの季節、よく雪の積もる彼らの街と同じく、東京にも夕べから雪が積もった。

「それが、難しいことだっていうのは、わかってるんだよね?」

 陽介は、しぶしぶながらそれを認めた。お金だってない、小学六年生が働くところだって、あるはずもない。無鉄砲に過ぎるということぐらい、もちろん。

 どうしたものか。

 由利香が口を開いた。

「陽介と瑞希は、付き合ってたんだね」

 敬語ではない。気の置けない幼馴染に向けての、彼女の透明な言葉だった。

「……悪いかよ」

 ふてくされたような声を陽介は出した。瑞希は俯いて黙ってしまった。

「……どうして、言ってくれなかったの?」

「何で、なんでもかんでもおまえに話さなきゃなんねえんだよ」

 きつい物の言い方に、由利香が言葉に詰まる。由利香としても、「なんでもかんでも」を二人の「兄」に言ったことはないのだから、確かに二人を責めることはできないわけだ。

 でも、由利香の気持ちもぼくにはわかる。わかってあげたい。

「まー、おれらも親になんか言ってねーもんなー」

 部外者の気楽さで昴星は言う。「学校でも秘密だしさ。逆におまえら何で親になんか言おうと思ったん? 親なんてさ、騙すためにあるようなもんじゃんか」

 それもまた、少々過激すぎる意見である。しかし少年たちの恋心は、隠すことで円滑に進むケースだったことは間違いない。「おまえ黙ってろ、ややこしくなる」と才斗は咎めたが。

「……陽介は、覚悟を決めてくれたんだ」

 瑞希が、昴星に顔を向けて言った。「ぼくを、……ぼくの気持ちを、守るって。そのためにはでも、ぼくらまだ子供で、ぼくらだけじゃうまくいかないこともたくさんある。だからね、親を信じて……」

「騙すための親か」

 フン、とおかしくなさそうな笑いを、陽介は捨てる。

「その親に、騙されたようなもんだ、おれら」

才斗がぼくと由利香にお茶を淹れてくれた。由利香は小さく「すいません」と頭を下げたが、手をつけない。ぼくだけ失礼して頂いて、唇を湿した。

「……帰らない方法を、君たちはずっと考えていたんだろうね? 二人だけでこの街で生きて行く方法を」

 それが、見つかったはずもない。見つかってはいけない。

「答えは、もう出ているはずだよ」

 ぼくの言葉に、少年たちは黙る。結論は最初から出ている、明白に。しかしその上で、どうすればいいか。

 少年たちがあと何年か、望まぬ土地で頑張って行くための力があればいい。

 それを、言葉という形で用意できないか。

「二人は、……今回は家出という形で出てきちゃったわけだけど、実際に東京に出てきてどう思った?」

 想定していない類の質問だったのだろう。二人はちょっと顔を見合わせて、「どう、って……」「どういう、ことですか?」困惑気味に訊き返す。

「そもそも、どうやって来たのかな。電車? 特急?」

「……駅から特急に乗ろうとすると、駅員さん顔見知りだから怪しまれると思って、……特急の次の停車駅まで鈍行で」

「なるほど、あくまでちょっと出掛けるだけの感じで来たんだね」

 あの駅から、各駅停車で二十分、三つ目の駅にも特急は停まる。

「そこから、特急に乗って……」

「そうなんだ。……どうだった?」

 瑞希は少し考えて、「思ったより、……近かった、よね?」と陽介に訊く。陽介は同意した。二人にとって夢の土地であるところの東京だけど、特急にしばらく揺られればすんなり着いてしまうのである。

「つまり、来たいと思ったらいつでも来られる場所なわけだ。……由利香は君たちより年下だけど、一人で特急に乗って来たよ」

 由利香は顔を上げるが、小さく頷いただけだった。

「それで……、こっちに着いて、昴星に電話したわけだ」

「おとといの夕方だったよ」

 昴星が言う。「駅に居る、家出して来たって言うからさ。ちょうどそんときたまたまおかーさんいたけど、仕事行く前だったからさ、出掛けるの待って、迎えに行ったんだ」

「こいつんち、親居ない日多いって言ってたから、いいかなって」

 陽介が補足する。非常識な話ではあるが、追い込まれた少年たちの選択肢としては間違ったものではなかったと言える。歓楽街をフラフラして悪い大人の餌食になるより、ずっといい。

「……そう、『東京』には、君たちの友達が居る。友達であり、君たちの思うところを理解する仲間がいるわけだ。でも」

 ぼくは由利香に目を向けた。

「君たちの街にも、君たちのことを理解してくれようとする人はちゃんといるんだよ。こうして心配して、探しに来るほど思ってくれる人が」

「でもっ……、由利香は女の子だし……」

「そうだよ、女におれらの気持ちなんてわかるかよ」

「わかるよ。……そうだよね、由利香」

 由利香は、はっきりと頷いた。

 心を決めたような、力のこもった目をしている。

「……陽介くんと、瑞希くんが、秘密にしてたこと……、おんなじように、わたしにも、秘密があるから。……お父さんとお母さんは知ってるけど、他の誰も知らないこと。二人にも、ずっと黙ってたこと」

 年上の二人に、由利香は決意に満ちた目を逸らさない。

「わたし、……お仕事してるんだよ」

「……お仕事……?」

「由利香とぼくらは、その『お仕事』で知り合った」

 由利香は頷く。

「お兄さまと、昴星くんと流斗くん。……三人は、もうお仕事の話は抜きに、本当に大事な人になったけど、……してることは同じ」

「仕事って……、何だよ」

 一度、言葉を切って、お茶を一口飲んだ。少女にとっても覚悟のいることに違いなかった。

「男の人と」

 でも、

「一緒にお風呂に入って、身体を洗ってあげたり、……ううん、……えっちなことを、するの」

 言葉をぼかすことを由利香はしなかった。はっきりと言い切って、二人を見据えている。その視線は少しも逃げなかったし、少年たちにも逃げることを許さないものだった。

「……ぼくらが、お風呂で由利香とはじめて会ったとき、ぼくらは三人でちょうど、そういうことをしてた」

 何をやってんだ……、才斗が呟く。本当におっしゃる通り、何やってんだ。

「其処へ、由利香が来て……、ぼくらは四人で、した」

「何考えてんだ!」

「そうだよっ、……ヘンタイ!」

 陽介と瑞希が口々に投げた非難の言葉を、ぼくは甘んじて受け止める、飲み込む。いいわけのしようもなく、それは変態の所業そのものだ。

「わたしの仕事のお客さんになってくれた人にそんな言い方しないで!」

 才斗がびくんと身を強張らせるほどの声を、細い身体から由利香は放った。正面からぶつけられた陽介と瑞希の驚きは察するにあまりある。

「……確かに……、嫌って思うこと、ある。逃げたしたいときも。でも、お兄さまはちゃんとわたしのことを大事に思ってくれたし、……今日二人が見つからなかったら助けてもらおうと思ってた警察のおじさんだっていい人よ。だから、お願いだから、お兄さまをそんな風に言わないで……」

 由利香の大きな瞳から、涙がポロリと零れた。少女の涙の前に、男は例外なく無力なものだ。二人があっさりと焦りを帯びてしまったのが判る。

「……由利香は」

 胃の痛くなるような沈黙の蓋を押し開けたのは、才斗だった。

「自分の秘密を言った。おまえたちの秘密も、由利香は知ってる。腹割って話せる相手が、おまえたちの街にもちゃんといるってことだろ」

 冷静な声だ。流斗と同じ血を引くだけあって、賢い。

「さっきお兄さんも言ってた通り、こっちに来たいときには来ればいいよ。ここんちでもウチでもたいして広くないけど、また、そっちがしんどくなったときにちょっと泊まらせてやるくらいなら出来る。……元々、流斗だってしょっちゅう遊びに来るぐらいだからな、オネショしたりしない分、昴星よりマシな客だ」

「おれ関係ねーだろ!」

「ただ、おまえたちはずっとさ、味方がいないみたいなこと言ってたけど、少なくともそれは違う。おまえたちを追い掛けてくる子がいるわけだ。……でもっておまえたちだって、由利香がしてる『仕事』のこと心配してんだろ。だったら、目を離さないでおいたほうがいいとおれは思うけどな」

 ぼくの言いたいことは全部才斗が言ってくれてしまった。

 陽介と瑞希は互いに向かう気持ちを持っているにせよ、元々妹のように可愛がっていた由利香のことだって、やっぱり好きなのだ。

 この子のそばで、……「仕事」が不可避なものであるにせよ、この子のことを理解し、辛さを一緒に背負ってあげるという仕事は、ぼくにだってできない。

 二人の少年にしか、できない。

「帰ろうよ。……お父さんたちには、わたしも一緒に言う。二人が本当にお互いのこと大切に思ってるって、わかってもらえるように、お願いするから……」

「なー、あのさー」

 場の雰囲気にはそぐわない呑気な声は昴星のものだ。

「由利香のあの仕事ってさ、おとーさんとおかーさんがさせてんだよな?」

 なぜ急にそんなことを訊こうとするのか。才斗が「ちょっと黙ってろおまえ。関係ないことは後だ」と咎めるが、昴星はまるでめげずに言葉を繋げる。

「どうなんだよ。言われてやってんだよな?」

 由利香は少し戸惑った様子で、「はい」と首肯した。

「陽介も瑞希も知らなかったってことは、それ、周りにはナイショなんだよな? まあ、そのさ、小学生がそういう仕事すんの、いけないわけだしさ。……それこそ、おにーさんがおれらとすんのだってバレたらやばいわけじゃん」

 それは、その通り。

「でもって、陽介も瑞希も、由利香がそういう仕事してるのは、あんまいい気持ちしねーわけだ」

「ったりまえだろ、そんなの」

 うん、と昴星は納得する。

「じゃあ、あべこべに陽介兄ちゃんたちがおどしちゃえばいいんじゃないのかな」

 ずっとぼくの背中にいて、寝てるんじゃないかと思うほど静かだった流斗が急に発言した。昴星は「そう」と頷く。

「おまえらがホモだってことを認めさせるためにさ、由利香の親を味方に付けちゃえばいいんだ。なあ、由利香の親と陽介たちの親って知り合い?」

「……はい、家はすぐ近くです」

「だったらさ、由利香の両親に、二人を庇うように差し向けりゃいいんじゃん。子供にそんなことさせてるってのバレないためにはそんぐらい出来るだろ」

「問題は、ゆりねえちゃんがお父さんたちに秘密をバラしたことで怒られるかもしれないってことだけど、それにしたって、陽介兄ちゃんたちが覗いちゃったってことにしたらいいんじゃないかな」

「そうだよな。……由利香のしてることのほうが、おまえらがホモだってことと比べてずっと問題なわけでさ」

 昴星と流斗、賢い。

 流斗の頭の回転の早さは知ってたつもり。だけど、昴星が思いのほか小回りの効く思考回路を持っていたことに、ぼくは正直なところ驚きを隠せない。

 当事者である三人も、ぽかんと口を開けて昴星とぼくの背負う流斗を見ている。

 やがて、由利香が頷いた。

「ちょっとぐらいは、怒られたって平気です」

 決然と。

「それで二人が少しでも嫌な気持ちにならなくて済むなら、……わたし、平気です」

 ね、お兄ちゃん、流斗がぼくの耳元でそっと囁く。「ゆりねえちゃんって、あんなしっかりお話するんだね?」……それはぼくも感じて居たことだ。あの温泉では、もっと淡々と喋っている印象だったけれど、……夕べから今朝にかけての「由利香さま」は別として、これこそが本当に、彼女の姿なのだろう。

「……由利香、本当に……、それでいいの? ぼくらの……、こんな、周りは嫌がるようなことのために、由利香が」

「わたしのお仕事だって、誰にも言えないもの」

 由利香は、ほんの少し、微笑む。優しい笑顔だった。あたたかみのある笑顔だった。

「もっと早く言ってくれれば、二人のこと応援できたのに。でも……、わたしも言えなかったから」

「おあいこだね」

 流斗が背中で言う。大きな問題を解決に導く手助けをしたという誇りが、その声の嬉しそうな響きで表現されている。

「いいのか……? これで……」

 才斗はまだ少し心配そうだが、「いいんだって。みんな仲良けりゃそれでさ」と昴星がのんきに言った言葉で、一応納得したようだ。

 流斗が背中から降りた。

「陽介兄ちゃんたち、何時ぐらいに帰っちゃうの?」

陽介と瑞希は顔を見合わせて、「……特急が、一時間に一本ぐらいはあるから」と呟く。

「急いで帰らなきゃいけないってわけじゃないよね?」

「まあ……」

 本当は、心配している親御さんたちのことを思えば早く変えるべきではあるんだけど。

「じゃあ、みんなでもうちょっと遊ぼうよ。ぼくおなかすいちゃった、朝、才兄ちゃんにパン作ってもらったけど、それから何も食べてないし。みんなもおなかペコペコじゃない?」

「超腹減ってる」

 昴星が手を挙げ、陽介も瑞希も遠慮がちに頷く。ぼくと由利香は諭良を交えて朝っぱらから遊んでしまったもので、まだ何も口にしていない。

 ぼくは財布の中身をイメージしつつ、「じゃあ……、何か、ピザでも取ろうか」と提案した。反対意見は出なかった。

「ピザうれしいな。ぼく、お母さんがチーズきらいだからおうちではあんまり食べられないから」

 昴星の家であるが、才斗が宅配ピザのチラシを持って来てテーブルにおいた。食欲をそそる写真の数々に、由利香のお腹が素直に鳴って、赤くなる。

「たくさん食べて、その後はみんなで遊ぼうよ」

 流斗が言った何気ない一言に、しかしぼくと才斗は反射的にチラシを覗き込む最年少の少年を見る。昴星が「みんなで、かー……」と呟き、陽介と瑞希はもちろん、気付きはしないのだった。

 

 

 

 

 昴星の家は夕方前に親御さんが帰って来る。才斗の家には現在進行形で両親在宅。

 だから消去法的にぼくの部屋ということになる。ぼくを含めて七人という数は、この二間のアパートとしてはかなりの混雑ということになる。敷きっぱなしの布団とオネショシートを片付けて部屋にあげるなり、

「なんか……、この部屋……」

 くんくんと鼻を鳴らして瑞希が訝るような顔をし、

「くさい」

 と陽介も正直に言った。

「おにーさん、ちょっと」

 全員分の温かい飲み物を大急ぎで用意したぼくを、ちょいちょいと昴星が洗面所に手招きする。「あと、流と由利香も」と、年下の二人も招いた。

「なあに?」

「あのさ、おにーさん、夕べこいつとしただろ」

 こいつ、と示された由利香は、「ごめんなさい」と頭を下げる。

「いや、いいんだけどさ、それは。それよりこのあとのことなんだけど」

「このあと?」

「流は、おにーさんとしたいんだろ?」

 うん! と流斗は素直に頷く。

「だって、お兄ちゃんゆりねえちゃんとえっちしたんでしょ? お兄ちゃんがゆりねえちゃんと結婚しちゃったら困るから、ぼく、お兄ちゃんとしたい」

「おれも、まあ、おまえとおにーさんが結婚しちゃうのはつまんねーしおれもおにーさんとしたい気あるけど、とりあえず流にゆずってやる。才斗もいるしな」

「ありがとう」

「で、だ」

 昴星はポケットに手を入れて、由利香に向き直る。

「おまえ、どうする?」

「どうする……って……?」

「おまえ、あいつらのこと好きだろ」

 由利香は、しばし言葉に詰まった。デリカシーのカケラもない言い方だけど、そういう聴き方はぼくらには出来ないだろう。逆に言えばそれが昴星の強さってことになるかも。

 洗面所は寒いはずだが、四人で詰まっているとさほどでもない。

「好き、ですけど、その……」

 男性とは見ていない。それというのも、由利香にとっては「男」って、やっぱり「お客さん」が一番先に来てしまうものだから。

 昴星は構わず言った。

「おれらとか、おにーさんとやったこと、あいつらともすりゃいーじゃん」

 何でもないことのように。

「おまえがあいつらを好きって思う気持ちをさ、身体使って形にしたならそういう風になるだろ。あいつらホモだけど大丈夫だろ」

「うん、ぼくも男のひと好きだけど、ゆりねえちゃんのおっぱい見たらおちんちんかたくなるよ」

 それは何の解決にもならない流斗の告白だけど、ついでに言わせてもらうならば「ぼくも」ということになる。

「でも……」

 由利香はまだためらいがある。ぼくらの余韻が主に匂いとして残る部屋に戻ってきて、昴星がいる、流斗もいる、この状態で、これから何をするのかということは由利香にもわかっているはず。しかし、あの二人とする行為に逡巡が残るのもまた無理からぬことだ。

 でも、ぼくは思う。……ぼくがこの場にいなかったとしても、だ。この少年少女たちはこれまでずっと、肌を重ね合うことでお互いをわかり合い、喜びを共有するというやり方で経験を積んできた。

 陽介と瑞希さえも、そうなのだ。昴星との経験があるから、二人は今回昴星を頼ったのだ。

「……わかりました」

「ん、よし」

 昴星がひょいと浴室に入り、栓を確かめて「お湯出る?」とぼくに訊いてから、蛇口を捻った。まもなく、浴室を湯気が満たす。

「おまえ、お風呂ですんの得意だろ。っつーか夕べか今朝か、おにーさんとお風呂でしたんだろ?」

 由利香は遠慮がちにこくんと頷く。

「あいつらのこと、洗ってやれよ」

 昴星の命じるような言い方にも、こくん。

「でもって、おにーさん、キス」

 洗面所に戻ってきて、昴星は「いいよな?」と流斗に訊く。「いいよー」と頷いたのを見て、昴星は背伸びをしてぼくの唇をさらって行った。

「じゃー、おれたちは出ようぜ」

 満足げな笑みを浮かべた昴星はぼくと流斗の腕を引っ張って洗面所を出る。閉じた扉の向こうから、残された由利香の衣擦れの音が聴こえてきた。

「何こそこそ話してんだよ」

 陽介がうさんくさげな目を向ける。「ひひ、ナイショ。じゃー遊ぼうぜ」

「っていうか……、由利香は?」

「あっちで待ってる、おまえらは由利香と三人で遊べよ。……おれは才斗と遊ぶから」

 才斗は全てに納得しているわけではないだろう。しかし、こういう事態になって、流斗がさっきのような提案をして、どうなるかということはもうわかっているはずだ。深いところからの溜め息を吐き出して、膝の前にペタンと座った昴星が「才斗、キスしたい」と強請るのに、仕方なさそうに応じる。

「節操なし」

 とぶっつり呟いたのが、この聡明な少年なりのせめてもの抗いだったようだ。人目のあるところで平気にキスをした二人に面食らったように、「よ、陽介、行こ」瑞希が純情に頬を赤らめて恋人の腕を引っ張る。

「お兄ちゃん、ぼくたちもしよ」

 流斗がぴったりとぼくの胸に抱きつき、愛らしく誘う。ぼくらが奥の四畳半に入ろうかというときに、

「ギャ」

「なっ、なっ、なにっ、なんっ」

 陽介と瑞希の情けない声が聴こえてきた。昴星と才斗はもちろん、四畳半に入った流斗も興味しんしんで襖から覗く。

 一緒になって、ぼくもだけど。

「ふ、服着ろよっ、おまえっ、なんてカッコしてっ」

「そうだよっ、じょ、女子がそんな格好でっ」

 慌てふためいて顔を背ける陽介と瑞希の影で見えないけれど、由利香が一糸纏わぬ姿を二人に晒しているのはわかる。

「一緒にお風呂、入ろう」

 由利香の声には少しの緊張が聴き取れた。

「おにーさんと流も行けば?」

 昴星が才斗の膝の上から言った。「そのほうがさ、あいつらもしやすいんじゃない?」

「ね、お兄ちゃん、行こ。ぼく、ゆりねえちゃんのおっぱい見たい」

 ぼくも見たい。少年たちの裸同様、見飽きるような類のものではないよ。

「おれらあっちでしようぜ」

 昴星が立ち上がり、押入れから新しいオネショシートを掴み出して才斗の腕を引っ張る。襖を閉めれば目の届かないところのほうが落ち着けるのだろう、才斗は素直にそれに従い、「まあ、わかってるでしょうけど……」と言い置いて昴星と二人、四畳半に入った。うん、よくわかっているとも。

「陽介、瑞希」

 ぼくは二人の肩に手を置いて、出来る限り優しい声で言った。

「由利香の、精一杯の優しさだよ。……由利香が表現したい、君たち二人への思いなんだ」

「でっでで、でもっ、そんな、こんなっ、だっておれたち、由利香の恋人じゃねえし!」

 陽介、耳まで真っ赤だ。

「わかってる」

 由利香は美しい肢体を全く隠すことなく、洗面所に立っている。

「でも、二人のこと、わたし、好き。わたしはこのやり方で二人をちゃんと幸せにしてあげられるから」

「ダメだよ! そんなの……、だって……」

「ゆりねえちゃん」

 流斗はひょいと周り込んで、由利香の前に立つ。「陽介兄ちゃんたち、女の子はじめてだから緊張してるんだよ。はじめにぼくとお兄ちゃんがお手本見せてあげれば、きっとできるようになるよ」

「お、おてほん……?」

 つい、目を向けてしまって、……「わう!」すぐに瑞希は目を隠す。

「それも一つの方法かもしれないね。まあ、ぼくは、いいとして……」

「ダメ。お兄ちゃんもするのー。だって、ぼく、ゆりねえちゃんがどんなふうにお兄ちゃんのことしてるか見たいもん」

 ぼくは恥ずかしいからあまり積極的に見せたいとは思わないのだけど、……でも流斗が「見たい」っていうものを隠すことは許されない。

「わかりました」

 由利香は頷いて、「……二人も、早く入って。そこ、あいてると寒い」二人の腕を引いた。ぼくは後ろ手に戸を閉めた。

「ゆりねえちゃん、脱がせて」

「はい。バンザイしてください」

「ばんざい」

 流斗の真っ白なセーターをスムーズに脱がせて、中のシャツも含めて丁寧にたたんで洗濯機の上、自分の一揃いの上に置く。

「ほら、二人とも、……ちゃんと見て。君たちの秘密を由利香は一緒に背負って行く……、君たちの思いごと。だから、二人も由利香の秘密から目を背けちゃダメだ」

「早く早くっ、ズボンもパンツもー」

 ひざまずいた由利香はぼくに、こくんと頷く。そして優しい声で「流斗くんは甘えんぼさんですね」と語り掛けながら、少年の半ズボンを下ろす。

 中から現れたものに、二人の肩がビクンと震えたから、二人とも目を開けたのだとわかる。実際、由利香の覚悟に比べれば、二人が決めなきゃいけないものなんて大したことない。

「もう……、どうしてこんなに黄色くしているんですか?」

「えへへ。だって夕べ昴兄ちゃんたちとえっちしようと思ってたんだもん。そのためにしたくしてたのに、陽介兄ちゃんたちいたから出来なかったんだよー?」

 なるほど、幼い少年なりに溜まっているわけだ。

「ね、ゆりねえちゃん、ぼくのパンツかわいい?」

「はい、可愛いです。でも、ちょっとオシッコの匂いがしますね」

「だってオシッコだもん。脱がせて、おちんちんも見て」

「はい」

 由利香は年下の少年をまるで貴人のように恭しく扱う。ブリーフのゴムに指を入れて、年相応に小さなおちんちんを見て、「こっちも、可愛いですね。流斗くんはいろいろなところが可愛いです」と、愛情さえこもっているような声で言う。

「ゆりねえちゃんもかわいいよ。おっぱい、すごくきれい。ね、ゆりねえちゃん、ぼくオシッコしたいな」

 流斗は昨日からぼくと由利香が散々見た腰の動きをそれと知らずにして見せた。諭良のようには余っていない皮の先が、それでも愛らしくぷるぷると弾む。

「パンツ脱ぐまでガマンしたんだよ。えらい?」

「はい、偉いです。ごほうびをあげなくてはいけませんね?」

「うん、オシッコさせて」

 由利香の手を引いて浴室のタイルの上に乗り、こちらに振り返って流斗は腰を突き出す。

 由利香は流斗の隣に膝をつき、幼茎に指を添えた。

「えへへ……、出るよー、お兄ちゃんも見ててね? 陽介兄ちゃんも瑞希兄ちゃんもちゃんと見てなきゃダメだよー?」

 流斗は由利香の指に摘ままれたおちんちんの先から、鮮やかな金色のオシッコを気持ちよさそうに解き放った。まだお湯の溜まらない浴室に、ビチャビチャと音を跳ねさせ湯気を漂わせての放尿は、強い勢いを保ったまま長く続く。

「たくさん出ますね。……ガマンしてたんですか?」

「うん! でもオモラシしなかったよ、えらいでしょ?」

「はい、すごく偉いです。流斗くんはいい子」

 常軌を逸していると捉えられることに、二人はためらいがない。流斗にとっても由利香にとっても、普段違う相手としている当たり前のことなのだ。

 陽介と瑞希は、ほとんど身動きも取れない。声も出せない。

 やがて勢いの収まった放尿、最後、ちゅるっと噴き出したのを見計らって、由利香は細茎をぷるぷる振って残尿を払う。そんな由利香に、流斗はまたおねだりをした。

「ね、ゆりねえちゃん、オシッコすっきりしたら別なのも出したくなっちゃった」

 由利香は流斗の、雫を払ったとはいえまだ濡れた皮の先に指を当てて、たしなめるように言う。

「そっちも、ガマンできませんか?」

「うん。そっちも出させて」

「わかりました」

 ちゅっ、と音を立てて由利香が流斗のおちんちんにキスをして、ぱくんと口に含んで短いフェラチオをするとき、二人の身体は明らかに強張った。……自分のよく知る妹的存在が、あんな風に汚れた男の性器を平気に口にするなど、想像したこともなかっただろう。

「んへへ……、ゆりねえちゃんのおくち、きもちいい……」

 由利香は流斗の小さなおちんちん相手でも、ぼくに施すように丁寧な愛撫を心がけているみたいだった。ぼくらに見えやすいよう、時折口を外し、流斗のタマタマや皮の隙間に舌を這わせて。流斗のおちんちんはもちろんすぐ勃起した。

「元気いっぱいですね、流斗くんのおちんちん、ぴくぴくして、すごく可愛らしいですよ」

「えへへ……、だって気持ちいいし、うれしいもん」

「嬉しい?」

「うんっ、ゆりねえちゃんとまたこうやって遊べるの、うれしいし、ゆうべはゆりねえちゃんがこうやって、ぼくのいないときにお兄ちゃんのこと幸せにしてくれたのわかるから、すっごくうれしい」

 流斗がぼくに向けた微笑みには嘘のかけらもなかった。……ぼくも嬉しい、そして、本当に幸せ。

「ねえ、ゆりねえちゃん、もう出していい……?」

 多分、ぼくや昴星よりもずっと上手な由利香の口に、流斗が思いのほか早く音を上げた。由利香にも流斗の嬉しさが伝播したように、ほんのり染まった目元を綻ばせる。

「はい。わたしのお口の中で、気持ちよくなってください」

少年を高みへと連れて行く、甘いフェラチオが加速した。ぼくのよりずっと小さいから、きっとやりやすいはずだ。

「あっ……、ゆりねえちゃん、ぼく出るっ……、出るっ」

 流斗の腰が由利香に吸い上げられるように痙攣した。由利香はぼくにするときと同じようにしばらく動かず、そろそろと口から少年を抜いた。幼い味の精液を味わうようにしばし口の中に留めてから、ゆっくりと飲み込み、最後に流斗のおちんちんの先へ、またちゅっと音を立ててキスをして、「ごちそうさまでした」と流斗を見上げて言う。流斗は大いに満足したように、「うん!」と笑顔で頷いた。

「どうして……? どうして由利香は、そんなことが出来るの……?」

 瑞希が喘ぐように訊く。由利香は困ったように微笑んで、少し考えてから言った。「わたしの出来ること、そんなに多くないと思うから……。流斗くんが可愛いことは本当だし、流斗くんに気持ちよくなってもらいたいって思うから」

「二人はまだ、由利香の気持ちに応えられない?」

 ぼくの問いに答えはない。しかし、心はただ硬くなっているだけではないと思う。

「今度、お兄ちゃんの番だよ。ぼく気持ちよくなったから。ゆりねえちゃんもお兄ちゃんのおっきいおちんちん早く見たいよね?」

由利香はこくんと頷いて、三人の視線を集めていることを意識してか少し恥ずかしそうに、

「由利香に……、お兄さまのこと、させてください」

 と愛らしく誘った。

「いいの? 二人とも。ぼくは由利香に任せるよ?」

 返事はない。

「……そう、じゃあ、先に失礼させてもらうよ」

 ぼくは服を脱ぎ、裸になる。

「わぁ、お兄ちゃんのおちんちん、すっごいかたくなってておいしそう」

 洗面所に下りた流斗がぼくのおちんちんを見て、率直過ぎる感想を漏らす。

「でも、いまはゆりねえちゃんの番だからぼくガマンする」

 由利香はお湯をタイルに流して温めてから、「座ってください」とぼくに言う。ぼくがタイルの上に座ると手のひらにボディソープを泡立て、白い泡を自分の身体に纏わせてから、ぼくの胡座の中に座って、両腕で抱きつく。

「お兄さま、流斗くんの可愛いところ見て、こんなに大きくしていたんですか……?」

 ぬるぬるの下腹部を擦り付けるようにしてぼくのペニスを刺激しながら由利香は問う。

「……だけじゃないよ。由利香の気持ちよさそうなフェラチオ見てたっていうのもある」

「もし本当なら、すごく嬉しいです」

 嘘なわけがない。由利香はそこまで理解していて言うのだ。自らぼくに唇を重ねて、傍目からでもわかるであろう深い深いキスをする。

由利香はそのままぼくに、滑らかな肌の感触を存分に味わわせてくれる。小さなおっぱいを擦り付けて、時折かすかに息を震わせながら。

「……お兄さま、……由利香の、……あそこ、触ってください……」

 妹の声で、由利香は求める。

「あそこって?」

「由利香の……、はずかしいところ、です」

「ちゃんと言ってくれなきゃわからないな。そうだよね? 流斗」

「うん、ちゃんと言わなきゃ、陽介兄ちゃんたちもわかんないよー」

 由利香は幼馴染二人の視線を改めて意識したように真っ赤になって、「お兄さまも、流斗くんも、いじわるです……」と抗議する。

でも少女はぼくが泡を濯ぎ、後ろから抱きしめて少年二人に正対させたところで、自ら膝を曲げ、足を開いた。

「由利香の……、おまんこ、いじってください、……おまんこだけじゃなくって、おっぱいも、お尻もっ……、ぜんぶ!」

 少年たちに自分の恥部を全て晒してしまったことで、はっきりと由利香は勢い付く。でも、ぼくはまだ、由利香の大事なところには触らないことに決めていた。

「してあげてもいいけど、……気持ちよくなりすぎて漏らしちゃうんじゃないの? 夕べも今朝もオモラシしてたよね?」

 指は、太腿で止める。本当は、もう濡れてしまっているかもしれない場所に指を当てて確かめてみたい。硬さを残すおっぱいも、揉んでみたい。けれど、

「二人にも、流斗とぼくにも、由利香のはしたないところ見せて欲しいなって思うんだけど」

「由利香の、はしたないところ……」

「うん。由利香はさ、今朝オシッコをどこでしたんだっけ?」

 ぼくが少女を身体から下ろし、揺れた冷たいタイルの上に仰向けになる。由利香は導かれるように、和式スタイルでぼくの顔へと屈み込みながら、

「今朝……、今朝、由利香は、お兄さまの、お顔の上で、オシッコを、しました……」

「うん、そうだったよね。可愛いおまんこ広げてオシッコするとこ見せてくれた。……陽介たちはまだ女の子がどうやってオシッコをするか知らないだろうからさ、見せてあげるといい」

 由利香の目が、二人に向く。はっ、はっ、と浅い呼吸を溢れさせながら、二人を見ながら、つるりとしたその場所を両の指で広げて見せる。

「あっ、陽介兄ちゃんおちんちんおっきくなってる!」

 流斗が陽介のズボンの前を捉えたのだろう。「ば、バカっ、はなせよっ」と声を上げるが、幼馴染のそんな反応が由利香のスイッチになったのだろう。

 ぼくの口目掛けて、びゅーっとオシッコが飛び出した。

「わあ、すごいすごい、ゆりねえちゃんのオシッコも金色だね! あったかくておいしそう!」

 実際、あったかくて美味しいよ。

「ふしぎだなぁ。オシッコってだれでもすることなのに、だれのオシッコ見てもおんなじようにドキドキする……」と、そこまで言ったところで流斗は「ん? 違うかな」と思い直す。

「知らないおじさんのオシッコ見ても何とも思わないや。やっぱり好きな人のだとドキドキするのかなぁ。……陽介兄ちゃんも瑞希兄ちゃんもゆりねえちゃんのこと好きだからおちんちんかたくなるんだね、きっと」

「ひゃんッ」

 声を跳ねさせたのは瑞希の方だ。恋人の陽介でなくても、耳にすれば心ときめくような甘酸っぱくて愛らしい声。

「あー、やっぱり瑞希兄ちゃんもかたくなってる」

 瑞希が履いていたジーンズの上から流斗が執拗に揉んでいるのだろう。由利香のオシッコが終わって、尿だけではない滑らかな液体ごと其処を舌で拭い取ってから、彼女の足の下から抜け出して振り向けば、やはり流斗は膝をついて瑞希の腰をしっかり抱き締めながら、二つ歳上の少年のズボンの前を手のひらに捉えているところだった。

「えへへ、瑞希兄ちゃんのおちんちんかたーい、……でもって、ちょっとあったかい」

 密やかに、流斗は微笑む。瑞希は両手で顔を塞いで弱々しく首を振るばかりだ。

 放尿後、しばし呆然としていた由利香が流斗の言葉に顔を上げ、導かれるように洗面所に下りた。流斗はにっこり笑って瑞希から腕を解く。ジーンズの前ボタンを外す手に「もう、もうやだ……っ」と泣き声を漏らす瑞希は、自分にひざまずくのが「妹」であることに気付いていない。

「由利香……っ、おまえ……!」

 恋人の言葉に、瑞希は恐る恐る手のひらの隙間から覗いて、「だっ、ダメっ、由利香っ、ダメ!」……抵抗は流斗に抑え込まれた。

「陽介、……いい?」

 由利香は瑞希の恋人であると同時に自分の兄である少年に向けて訊く。

「んなん……っ」

「由利香は、君たちのことを祝福したいんだよ」

顔を洗い、床を流し、引き寄せた腰掛けに座ってぼくは言った。

「由利香なりの、由利香に出来る、……由利香にしか出来ないやり方でね、二人のこれから先に素敵な未来がありますようにって祈ってるんだ」

 ぼくの言葉をすべすべの背中とお尻で受け取って、二人の「妹」ははっきりと頷いて、瑞希のジーンズのジッパーを下ろす。

「お願い……、見ないで……、由利香、見ないでぇ……」

また顔を覆って泣くような声、懇願する瑞希の、恋人の好みに合致する白ブリーフには出来たての濃色のシミが浮かび上がっていた。事態が少年の許容を超えてしまって、無意識のうちに少量をパンツの中に零してしまっていたのだろう。

「ね、ゆりねえちゃん、瑞希兄ちゃんのパンツ、どんなにおい?」

由利香は、濡れたブリーフの膨らみにぴたりと鼻を当てて「いい匂いです」と優しく、強い意志のこもった声で答えた。

「わたしは、この匂い、好きです。……まだ一度も嗅いだことのなかった、瑞希のおちんちんの、匂い……」

「あ……、あっ……」

 由利香の手によって湿っぽい空間から解放された生白いおちんちん、ごく平均的なサイズであり、問題点もこれと言ってない(つまりその、昴星のように短く小さいというわけでもなければ、諭良のように先端にやたら皮が余っているというわけでもないということだ)もの、勃起したことで、先端には感じやすそうな亀頭が覗き、尿道口は出したばかりのもので濡れている。

 少女の目に晒されて、おちんちんが震えるのは羞恥による。当たり前の神経が、瑞希には備わっているということだし、そもそも女子の裸や放尿を見てこうなるのだから、同性愛者であると同時に瑞希はきちんと男の子な部分も併せ持っているということだ。何ら不思議なことではない。

「瑞希の、おちんちん、見るの、久しぶりだね」

「え……?」

 ぴくんと瑞希が震える。

「ゆりねえちゃん、瑞希兄ちゃんのおちんちん見たことあるの?」

「はい……、むかし、まだわたしが幼稚園の年長組で、瑞希と陽介が小学校の一年生になった夏休みに、三人で瑞希のおうちのお庭で水遊びをして……」

「すっぽんぽんで?」

「いえ、遊ぶときは水着を着ていました。でも、着替えるとき、陽介が瑞希の腰のタオルを取って……、ちょっとだけ見えちゃいました」

 まだその頃は、由利香、いまの「仕事」はしていなかったものと思う。

 彼女は懐かしむような声で、

「あの頃が、一番楽しかったかもしれません」

 と、あのときの由利香も瑞希も知らない反応を示すおちんちんの前で呟く。

「……これから、もっと楽しいんじゃない?」

 無責任な立場から、でもぼくは願いを込めて口にする。

「三人が三人でいられれば、楽しいことはいっぱいあると思うよ」

「うん、そうだよ!」

 流斗が力いっぱい同意してくれた。

「だってぼく、いまが一番楽しいし、これからもっともっと楽しいことたくさんあるって思ってるもん。お兄ちゃんといっぱいいっぱい楽しいことして、幸せになるんだもん」

ね、とぼくに言う。ああやっぱり、流斗は本当に、可愛い!

「……そう、ですね、そうですよね」

 由利香も、納得したように頷いた。

 幼馴染を見上げて、「瑞希と陽介が、これから先、幸せになれるように、わたし、お手伝いしたい。二人が笑ってくれたらわたしも、きっとすごく、幸せだから」

 包み込むような優しさとともに、彼女は言って、瑞希のおちんちんに唇を当てた。

「んぅ……っ」

 まだ陽介の口しか知らない少年の、オシッコに濡れたおちんちん、由利香は、すっぽりと収めた口の中で、あの持ち前の器用な舌の動きを披露しているに違いない。口を外して見上げた顔、兄思いのしとやかな妹の其れを、彼女は陽介にも向ける。

「陽介も、出して」

「お、おれ、はっ……」

「陽介兄ちゃんも出さなきゃダメだよー、『恋人』の瑞希兄ちゃんが出してるんだよ?」

 ぐっ、と言葉に詰まって、「お願い……、陽介」可愛い妹に求められて、結局陽介は折れた。

「陽介兄ちゃんもパンツ濡れてるね。それに、昴兄ちゃんのパンツみたく黄色いや」

「あ、あいつなんかと一緒にすんなよ! おれたちのはっ……」

 着の身着のまま飛び出して来て、換えのパンツがなかった、つまり一昨日からずうっと穿き続けているということだ。

「お兄ちゃん、かえのパンツ持ってるよね?」

「うん、……お風呂入ったら二人とも新しいのに穿き替えるといいよ」

 ぼくの算段を見透かすように流斗が小さく笑う。

 由利香は、今度は陽介の下着を下ろす。やはり瑞希の物よりもサイズは大きい。そして、ほんのり捲れて覗く亀頭から皮のふちまで、ガマン汁が溢れていた。

「陽介は……、濡れやすいんだね。わたしとおなじ……」

「おちんちんのおつゆ、ぼくも大好きだよ」

「はい、……わたしも、大好きです」

 由利香の舌が、陽介の亀頭を這う。

「っ……」

 途端、陽介の身体がヒクンと震えるのを見て、瑞希は羨むような妬むような表情を浮かべる。多分、彼はどっちに対して嫉妬しているかもわからなくなっているはずだ。

「……この間さ、瑞希。昴星にやり方教えてもらってたでしょう? でも、おちんちんを気持ちよくするやり方はきっと由利香の方がもっとよく知ってると思うよ。だから向こうに戻ったらたくさん教えてもらうといい」

 瑞希は頷かなかったけれど、きっとそうすることだろう。

「すっげ……、おまえっ、こんなの……!」

 陽介の顔を切なげに歪めることが出来るようになりたいと、瑞希は純粋に願うだろうから。

「おいしいよ……、二人とも、おちんちん、かたくて熱くて、すごく……」

 まだどちらをも射精には追い込まないで、由利香はにっこりと微笑む。上を向いて震えるカップルのペニスに触れて、「くっつけて」と求めた。

「ゆり、か……?」

「さっき、二人が幸せになるためのお手伝いをしたいって言ったでしょ……?」

 足の長さが違うから、陽介が少し、足を広げて立つ。恋人同士でおちんちんを重ねさせて、由利香はその二本の重なったところへ自分の舌を当てがった。

 双方の玉袋に指を這わせて。

「ふぁっ」

「んぅっ……!」

 向かい合った恋人たちは、下半身からこみ上げてくる強い快感に戸惑いながら、互いの顔におずおずと目をあげる。絡み合ったところでもう言葉はいらなかった。どちらからともなく腕が回り、キスが始まる、口元とおちんちん、三つの舌が絡み合う、いやらしくて幸せな音が立つ。

「お兄ちゃん」

 ぼくの足の間に座って、流斗が言う。その手は既に、ぼくのペニスに絡んでいる。

「ぼく、飲みたいな、お兄ちゃんのせーし」

 愛らしくそう言って、ぼくが頷くなりしゃぶりつく。……この子の貪欲な舌も、由利香に負けないくらい、上手だ。「ん、らいひゅき、おにいひゃん、らいひゅきらよぉ……」って、すぐそばの幸せな恋人たちの姿に触発されたように、甘ったるい声で囁きながら。

「出るっ……瑞希っ、……由利香っ、出るっ!」

 切羽詰まった声を陽介があげたとき、既に瑞希は恋人にすがりつきながら「妹」の口の中へと射精したところだった。由利香は瑞希の精液を口の中に収めたまま、陽介を口に含み、そのまま射精へと追い込む。

「……ん」

 こく、と喉を鳴らして、大好きな「兄」二人の液体を飲み込んだ由利香が二人を見上げる顔に浮かぶ表情がどんなか、ぼくにはよくわかった。

「……流斗、出るよ?」

 朝からこれが四度目の射精になる。だけど、ぼくには流斗がいる。

 同じ以上の愛情の分だけ、ぼくは出すことが出来る。

「ん……、んんっ……んっ……んふぁ……」

流斗が飲み込み、ふんわりとした笑顔で「おいしい、お兄ちゃんのせーし、やっぱりぼくお兄ちゃん大好き」と言ってくれる。天使のようなその髪を撫ぜて、立ち上がった流斗が見せてくれる、濡れたおちんちんの先に触れる。ぬるりと滑って糸を引く。

「ね、お兄ちゃんもごほうびちょうだい?」

「ん?」

「パンツでオシッコするのガマンしたごほうび。……ダメ?」

そんなことで二度もごほうびがもらえると思っている。いいのだ、少なくとも、ぼくの前では。

「しゃぶってほしいの?」

「うん、ぼくのおちんちん、かわいいでしょ?」

 それはまあ、大いに。

「でもって、お尻もかわいがってほしいな」

 勃起したおちんちんの皮を指でめくって、ガマン汁に指で糸を引かせながらのおねだりは可愛らしい。「はい、可愛がらせていただきます」とぼくは約束して、でもおちんちんを口にする前に、

「三人とも、お風呂入ったら? お湯も溜まったし、……由利香はすごく上手に洗ってくれるし、由利香、君も二人に洗ってもらえばいいよ」

 自分が塞ぐ浴室への入り口を、流斗を抱っこして譲った。流斗はぼくに甘えてほっぺたに何度もキスをする。

「由利香、ここに、あるからね」

 ぼくが棚を指差して言うと、「はい」と少しはにかんで頷く。そこに今朝ぼくらが使ったコンドームが入っていることを、由利香はちゃんと覚えているようだ。

「ぼくらは、あっちに行こうか」

 まだ初々しさの残る三人を残して、ぼくは流斗を六畳に運んだ。閉じられた襖の向こうからも、愛し合う恋人たちの息遣いが聴こえてくる。

「ね、お兄ちゃんはやくおちんちんぺろぺろして」

 流斗がぴょこぴょこおねだりする。ぼくはおでこに一度キスをしてから、可愛い可愛い今の恋人にひざまずいて、一口にその熱を収める。

「はう……」

 しょっぱい、しかしどこか甘い。

「んん……、おにいちゃんの舌、すっごくえっち……。……ぼくのおちんちん、おいしい?」

 ん、と頷く。美味しい、すごく美味しい。だからぼくの舌は、ますます貪欲に動く。

 昴星がそうであるように、流斗がおちんちんにまつわる「味」というものに深いこだわりがある。……そういう子たちと交わっていれば、このぼくにもそういう舌が備わるのは、当然のことである。

ぼくの舌はもう、流斗と昴星の味の違いをきちんと舐め分ける。どっちが美味しいという話ではない。ただ「違うものである」ということを、匂いに頼らずとも認識出来るのだ。

 人間の、っていうか、生き物の身体って、進化して行くものだ、望むように、好ましいように。そう考えたなら、例えば流斗のおちんちんを味わいながらまたぼくが勃起してそりゃもう大変なことになってしまうのも、自分の性欲というものがこの子たちの幸せに則して発達しているという証拠だろう。

「お兄ちゃんっ、お兄ちゃんぼくもう出るよぉっ」

 技術的な面でも、ぼくは上手くなった。今年の夏までフェラチオをしたこともなかったのに、いまではいとも容易く流斗のハニーミルクの味をこの舌に乗せるに至っている。これも、ある種の成長だ。

「んもぉ……、お兄ちゃんのお口、ほんとにえっちなんだからぁ……」

 流斗はぺたんと座り、ぼくの頬に感謝のキスをする。

「だってさ、……流斗のおちんちん、可愛いんだもの。ぼくの口の中でピクピクしてるの感じたら気持ち良くなってくれてるんだなってわかるし、それがわかったらもっと気持ちよくしてあげたくなるんだ」

 抱き締める肌も、ぼくの腕によく馴染む。重なることで、お互いの身体が思いのほか冷えていたことに気付かされる。ぼくはいいのだけど、流斗の細い身体を思うと。

「お兄ちゃんあったかい……」

 頬に頬を擦り寄せて甘える流斗を横抱きにして、お姫様抱っこのポジション。大人しくなったおちんちんはそれはもう文句のない愛らしさ。タマタマも茎も白くて、幼さがふんだんに薫ってくるような、ショタコンにはたまらないフォルム。肌も、本当にきれい、無駄な毛なんて一本もなくって。

「お兄ちゃん、ぼくのおちんちんじーって見てるー、さっきあんなにぺろぺろしたのに」

 指先で弾ませて、マシュマロみたいな触り心地を楽しむ、自然と微笑みが溢れてくる。

「おちんちんだけじゃなくってぇ……」

 ちゅ、とぼくの乳首に唇を当てる。指先でふるふるしていたおちんちんの感触が少し変わって来た。

「おっぱい、してほしいの?」

「んん、おっぱいもだけどぉ……」

 わかっている、ちゃんと、順番に可愛がってあげる約束だ。

「お兄ちゃんはぼくのお尻、するのいや?」

 嫌なわけがない。

 確かに夕べと今朝、由利香と諭良のお尻を可愛がらせてもらった。でも、ぼくのことを心底欲しがって甘えてくれる流斗の小さなお尻への欲求がそれで収まるはずもない。

「お布団敷こうか?」

 うん! とまばゆいほどの笑顔を浮かべて流斗が頷く。ぼくは「生きていて良かった」ってことを、この子と知り合って一体何度思っただろう。

「あ、でも……」

 ぼくは四畳半に目を向ける。そちらからは「バカ、どこ舐めてんだよっ……」才斗の声が聴こえてくる。「んひひ、……おいしーんだもん」昴星の声も。

……昴星には、まだ一応秘密なんだ、流斗と本番までしてることは。

「んっと……」

 布団に横たわって、流斗はお腹の上に組んだ指をムズムズ動かしている。

「ん?」

 ぼくが言葉を促すと、「えへへ」と笑った上で、

「言っちゃった……、昴兄ちゃんに」

 とほんのり申し訳なさそうに流斗は言う。

 人の口に戸は立てられないものだ。……うん。

「……昴星に言ったってことは、才斗にももう伝わってるんだよね?」

「ん……、あと、陽介兄ちゃんたちにも……。あの二人、まだお尻でしたことないって言ってたから……」

 溜め息で押しながそう。

「まあ……、うん、しょうがないよね……。じゃあ、ぼくが昴星としてるってことも?」

「ん。昴兄ちゃんのほうがさきだったんだよね? でも、いいの。ぼくはお兄ちゃんがしたくてしてること、悪く思ったりなんかしないもん。お兄ちゃんがうれしいのが、ぼくもうれしい。……だってぼくは、お兄ちゃんの『恋人』だもん、ね?」

 流斗は言って、ぼくの唇をおっぱいに受ける。両手できゅっとぼくの頭を抱き締めて、「大好きだよ、お兄ちゃん」って、純真に鳴る心臓で素直な言葉をぼくに聞かせた。

「ぼくも、流斗が気持ちよくなることを、……ぼくのいないところで気持ちよくなってることを、うらんだりしないよ。流斗が幸せになってくれるのは、ぼくにとっても本当に心から幸せだって思えることだから」

 流斗の、白状の過程で少し勢いの収まってしまったおちんちん、皮を剥いてくすぐるように舐める。まだ先ほどの精液の味がして、美味しい。

「やぁ……、先っぽばっかりっ……」

 あっさりと、流斗はまた勃起した。喜びは不安も気鬱も拭い去ってくれるものだ。

「ねえ、流斗。……オシッコ出る? さっきしたばっかりだから出ないかな」

 流斗は、少し考えて「たぶん、でる……」と起き上がって、さっきと同じくぼくの顔におちんちんを近付ける。

「のんでくれる、の?」

「うん、さっき由利香にオシッコさせてもらってるの見て、可愛かったし、美味しそうだったしさ。……どうせほら、このあとうんちもするんだし、ね?」

「うん、……うれしいな」

 流斗がぼくの唇にキスをするように、おちんちんの先っぽでふに、ふに、と突っつく。

「お兄ちゃんが、えっちなことたくさん思ってくれるの、うれしい。……あのね、ぼくね、みんなのこと好きで、……ぼくにこういうこと教えてくれた昴兄ちゃんや才兄ちゃん、はじめておっぱい触らせてくれたゆりねえちゃんも、これまで遊んでくれたみんなのこと大好きだけど、……およめさんにしてほしいなって思ったの、お兄ちゃんがはじめてだよ。ぼくは、おちんちんついてるから、およめさんにはなれないけど……」

「……なれるさ、大丈夫、流斗はぼくのお嫁さんだよ。女の子よりずっと可愛い、ぼくのお嫁さんだ」

 ぱくんと咥え込んでも、流斗はすぐには放尿に踏み切らなかった。ぼくの髪に両の手のひらを置いて、

「お兄ちゃん……、大好き……」

 静かに言ってから、じんわりとしょっぱくてかすかにとろみを帯びた濃いオシッコが口の中へ流れ出す。流斗はオシッコをしながらゆるゆると腰を前後に動かして、自分の「お婿さん」の口で放尿する恥ずかしいお嫁さんの気持ちを味わうようだ。ぼくのお嫁さんは、こんなに可愛くてえっちで、オシッコが美味しい。

「ん……、出た……」

 一滴も零さず、ごちそうさまでした。

「トイレ行く?」

「うん、……あのね」

 ちょっと恥ずかしそうにお尻に目をやる。「いま、オシッコでチカラ入れたら、お尻じんってなって、……先っぽ出てきちゃったかも……」

 覗いてみる。ほんの、ほんの少しだけ、ピンクの穴から顔を出しつつある。とはいえ零れ落ちてはいない。それは、流斗がお腹の中に隠している氷山の一角とでも呼ぶべきものに過ぎない。

「洗面器、お風呂場で使うのと別に幾つか買って来ておくよ。流斗がここでお嫁さんでいてくれるとき、どこでもすぐ出来るように」

 ぼくのお嫁さん、というかいっそお姫様をトイレまで運ぶ際、一瞬四畳半ではどうなってんだろ、と思った。あっちにはオネショシートしかないはず、ということは、昴星のお腹の中身はどうするのだろう。

 別にね、排便しなくてもつながることは可能なのだ。ただ、昴星が最初に思いついた「うんこすりゃお尻広がるじゃん!」ってアイディアの妥当性には、一定の支持をしたいぼくである。男の子の放尿姿もいいし、排便にもまた、えもいわれぬ魅力があることは確認するまでもない。

「どっち向きでしようかなぁ……、おちんちんおっきくなっちゃってるけど、オシッコはたぶんあんまり出ないから、前向いてしてもいい?」

「もちろん。多少汚したって拭けばいいんだし」

 流斗とはじめて会った夜(まだこの子が「りょうた」を名乗っていたときだ)をはじめ、後ろからを見せてくれることが多い。無防備に突き出されたお尻から排便を披露してくれる様子もとてもいい。けれど、可愛い顔を見ながらというのもまた、いい。出してるものとのギャップが、より強く感じられるから。

 もちろん、真正面からおちんちんの様子を伺うことが出来るというのも重要なポイントであると言えるだろう。流斗もぼくを見て、「お兄ちゃんのおちんちん、やっぱりすっごいおっきいね。ちゃんと入れてもらえるようにたくさん出すからね」と言う。先ほどの昼ごはんに食べたピザが、健康的なうんちとなって既に足の間に垂れ下がっていた。……そう、今更だけどこの子は洋式の便座の上、和式スタイルでの排便に臨んでいるのだ。

「流斗のうんちもやっぱりすごい立派だね。おちんちんより大きい」

「だって、お兄ちゃんのおちんちんぐらいおっきくないといけないんだもん。……えへへ、太いうんちするの、気持ちいい……」

 その年相応サイズのおちんちんに少量のオシッコを伝わせて、流斗は気持ちよさそうだ。

「あのね、ぼくね、最近うんちするときいっつもお兄ちゃんのこと考えちゃうんだ。うんちするのって、お兄ちゃんのおちんちんもらえるのと同じ意味だから……。この間学校でうんちしたときも、おトイレからオシッコはみ出させちゃってビチョビチョにしちゃった」

 学校にいるときでもぼくのことを考えてくれる流斗が、ぼくは心の底からいとおしかった。ぼくだって仕事をしているときに、この可愛いお嫁さんのことを何度も考えてしまう。こうして会える時間を、いつでもどんなときでも楽しみにしている。

「ん……、お兄ちゃん、おっきいの出る……」

 幾つか細かな塊を落下させた流斗が、ふるりとタマタマを揺らして宣告した。

「わかるの?」

「うん、なんとなく……。お尻のね、うんち出るとこ、じんってしてる……」

 丸まったタマタマの向こう、確かに硬めのものが肛門を内側から押し広げているのが伺える。

「ほんとだね、大きいのが出て来てる」

「えへへ……、切らないで最後まで出しちゃうから、見ててね……?」

 ゆっくりと、やがてしっかりとした勢いを付けて、流斗は一気に太いうんちを放出させる。表面はつやつやと光り、この子の腸が非常に健康であることを証明している。その事実を、ぼくとしても寿いであげたい。

 長々とぶら下がった尻尾が、ぽちゃんと水溜りに落下した。

「ふぅ……」

 スッキリしたような溜め息を流斗は吐いた。

「本当に綺麗に出したね。まだお尻広がったままだ」

「うん……、こんなにきれいに出るの、あんまりないからすごいすっきりしたし、気持ちよかったよ」

 流斗は自分の出したものを見下ろして、少しだけ誇らしげな顔をした。それから「よいしょ」って足を下ろし、便器に寝るように足を開いた。

 ほんの少しだけうんちのこびりついた肛門を、ぼくに見せびらかす。それでもピンク色が目立つから、汚いなんて思わない。

「お兄ちゃん、来て」

 ぼくは大急ぎでゴムを装着し、ローションを塗り付ける。それから思い立ってローションを流斗の反り返るおちんちんにも垂らした。

「ひゃ……」

 一瞬冷たそうに身を震わせたが、すぐに流斗は手のひらで粘液を塗り広げて「あはっ、おちんちんだけピカピカしてる、はずかしいとこすごく目立っちゃうね」と笑った。

 ああ、言い忘れていたけれど、これらセックスに必要なセットは洗面所のみならずこのトイレにも、六畳の押入れにも入れてある。だって、どこだってぼくらにとっては愛し合う場所になるわけだから。

 ローションを纏った矛先で、丹念に流斗のお尻を濡らす。入ってからでは味わうことができない、少年の肛門の感触が薄いゴムの向こうから伝わってくる。

「んん……、ん、お兄ちゃんの、おちんちんあったかいの、感じるよぉ……」

 流斗は嬉しそうに、切なそうに、微笑む。おちんちんがピクピクするたび、肛門も震えた。ぼくはローションをかけるのはこの後でも良かったか、と思う。流斗がガマン汁を滲み出させるところ、見たかったかもしれない。

 でも、そんなことは後でもいくらでも出来るに決まっている。

「入るよ?」

「うん……」

 ローションを継ぎ足して、ゆっくり、ぼくは流斗の中へと腰を進めて行く。

「んっ……はぁあ……!」

 始めは、ほんの少し拒まれる。でも、一定の力を加えたところで、飲み込まれるようにぼくのペニスは流斗の胎内に導かれた。途端、三次元的な圧縮がぼくを包み込み、一番深いところで、少しの沈黙をする。

「お兄ちゃんの……、入ってる……」

 背中を丸めてぼくがしたキスを、甘く受け止めて、……苦しくないはずがないのに、それでも、流斗は笑う。この世に存在する笑顔として最も愛らしく美しい笑顔を、ぼくに見せてくれる。

「ぼく……、もっと、もっとたくさんお兄ちゃんと、いっぱい、したいな。こうしてるとき……、ほんとにぼく、お兄ちゃんに大事にされてるって、わかって、うれしいよ……」

「大事にする」とは真逆のようなことをしているとは思う。

 しかし少年の身体の中にいま詰まって震えるのは、たとえどんなに暴力的な刃のようなものであったとしても、ぼくの心の底から湧き上がる正直な愛情なのだと思う。……それ以外の何物でもない。

流斗がしっかりとぼくの首に掴まった。

「ぼくの、中に、出してね? お兄ちゃんが、気持ちよくなるの、ぼくに教えてね……?」

 腰は、そのまま動き出していた。

「はぁ、ぅンっ、んっ、んっ……」

 流斗の声は、ぼくが腰を深く進めるたびに、……トコロテンじゃないけど押し出されるようにどんどんと湧き出してくる。恥じらいを越えてよろこびを手にしようとする純真無垢なる天使の姿をした少年とぼくが、深く深く繋がりあっていることがその事象からでも明らかだ。流斗の胎内はやっぱり、ぼくがこれまで入った身体の中で一番狭く、……心地よい。痩せていて、硬い、けれど幼い柔らかさを纏った身体は、ぼくの抱く身体が確かに少年の形をしていることをぼくに教える。

「あ、はっ、す、ン、ごいっ、お兄ちゃんっ、すっご、いッ、お尻のね、おしりのっ、なかっ、お兄ちゃん、のっ、おちんちんっ、おちんちんっ……つながっちゃうよぉっ」

 もう、つながってるよ、こんなに深くしっかり、つながっているよ。

少年を抱き締めながら、強い収縮を味わって、ぼくは流斗の中で射精した。流斗はぼくにしがみついたまま、しばらく動こうとはしない。はぁ、はぁ、息を震わせて、「つながっちゃった……」とまた、呟く。

 その言葉の意味が、そっと便座に座り直させたところでぼくはやっと理解出来た。ローションの表面に馴染んで滑るように、流斗の茎に、白濁が伝っている……。ぼくは流斗がくれた強い収縮を思い出していた。

「ひょっとして……、おちんちん、いじらないままいっちゃった……?」

 恥ずかしそうに、流斗は頷く。

「お兄ちゃんの……、おちんちん、ビクビクするのわかって……、お兄ちゃん、ぼくの中で出してくれるんだって思ったら、せーし、ガマンできなくなって、……そのままオモラシしちゃった……」

 こんなの、初めての体験のはずだ。ひょっとしたら昴星だってまだ未経験のはずの。

「そっか……」

 何度目だろう、また、いとおしさが溢れた。ぼくはそっと流斗の中から抜き、でもゴムを脱ぐより先に、少年にキスをした。

「ぼくのお嫁さんはおまんこにおちんちん入れられるのが嬉しくって、クリトリスから潮吹いちゃったんだね。……すごく可愛いよ」

 久しぶりにそういう、流斗を女の子扱いする言葉を口にした。流斗は昴星ほどだらしない膀胱括約筋をしてるわけじゃなくて、オモラシをするときはいつも意図的なものだから、意図せざるタイミングでおちんちんから漏らしてしまったのが、思いのほか恥ずかしく思えるのだろう。

「こんな、だらしないおちんちんのおよめさんでも、お兄ちゃん、いいの……?」

 まだ、不安そうだ。ぼくは流斗の漏らした精液がおへそに溜まっているのを見つけて、それを吸い上げる。

「大歓迎だよ。……そして、いますごく感動してる。流斗が可愛すぎて、どうしたらいいのか……」

 ほら、とぼくはゴムを外して見せる。本当にもう、呆れるくらいの量が出ている。

「わぁ……」

 ぼくの摘まんだゴムを見て、流斗も感動したように声を漏らす。

「すっごい、ビクビクしてたの、……お兄ちゃんのおちんちん。すっごい、うれしかったよ、ぼくでお兄ちゃん、きもちよくなってるって、わかって……」

 笑顔が戻ってきた。流斗は身を乗り出して、ぼくの精液塗れのペニスを丁寧に舐めて、掃除してくれた。「ありがとね、お兄ちゃん、いっぱいせーしくれて、ありがとね」と、労うように語りかけてくれながら。

「ほかのみんなも、幸せになってるのかな……?」

 トイレから戻って布団に座ったぼくの膝の上を定位置として、流斗は四畳半と浴室とを見比べて言う。浴室のほうからは、いまは、瑞希の声が聴こえてくる。四畳半はひと段落ついたところなのか、静かだ。と思ったら、「ぶぁっくし!」「きたねえ!」そんな微笑ましいやり取りが聴こえてきた。

「そりゃあ、大好きな相手と裸でくっついていれば幸せなものだよ」

 流斗の顔にはぼくの言葉をきちんと証明する表情が浮かんでいる。

「そっか……、でもみんなの中でぼくが一番幸せだと思うな」

 それを、みんな同じように思っているんだ。

 だから恋人って関係は、例外なく素晴らしいものなんだ。例え年齢が隔たっていても、同じ身体の形をしていたとしても。

「三人が出たら、お風呂入ろう。今日はぼくが流斗のことぴかぴかにしてあげるから」

「ゆうべは、ゆりねえちゃんにピカピカにしてもらったの?」

「んー……、まあ、……すみません」

えへへ、と意地悪を言ったおわびのキス。

それからぼくの天使は企み深い笑みを浮かべる。

「あのね、……お兄ちゃん、男の子のおちんちん、好きだよね?」

「ん? うん」

「お兄ちゃん、いままで何本ぐらいおちんちん見てきたの?」

数えたことないなぁ……、たくさん、見られる限り見てきたと答える他ない。

「じゃあ、じっさいにね、お風呂場とかじゃなくって見たのは何本?」

「それなら……」答えるのは簡単だ、指折り数えていけばいい。「流斗に、昴星、才斗のも見たことあるしあと」とそこまで数え上げたところでぼくは立ち止まった。そこに加えるとしたら、陽介と瑞希と。

 あと、……諭良。

 じーっと、流斗はぼくの目を覗き込む、まるでその奥に焼き付いた諭良の、滑稽な包茎ダンスを見通すように。

「ふふ」

 流斗はぼくと耳にキスをしてから、優しく噛む。「そういうお兄ちゃんが、ぼくは好き。お兄ちゃんは優しくってかっこよくって、だからみんなに好かれるんだよ」

 うーん、だといいな、とは思うけど……。単にラッキーなだけと謙虚に思っていたほうがよさそうだ。

「その子と、どんなとこでどんなふうに知りあったの? お兄ちゃん、自分から話しかけたりしないよね?」

「まあ……、うん、話しかけられた、かな」

 かなり熱烈なモーションがあったことは事実である。

「いくつぐらいの子?」

「いくつ……、えーと、六年生だから昴星たちと同じだね」というか、同じクラス。ぼくは「ふうん」と流斗が納得し、質問を重ねないでくれたことに内心ホッとする。

「ぼくもね、……新しいおともだち出来たよ。えっとね、同い年の男の子」

「へえぇ……、クラスメイト?」

「うん、リトくん。えっとね、ともさや、ありとくんっていう、勉強が得意な男の子だよ。先月にね、学校の帰りに、スーパー、駅前にあったでしょ? あそこのおトイレで遊んでたら、うんちガマンしてるリトくんがノックしたの。おとなり、空いてるのにね」

「ひょっとして……、洋式のトイレじゃないと大きい方ができない子?」

「うん、むかし、和式のおトイレで落っこちたことがあって、それから怖くて出来なくなっちゃったんだって」

 ああ……、それは気の毒に。便意を持て余して駆け込んだトイレが埋まっているときの絶望感って、そうはない。

「それでね、ぼく、リトくんのこと、お兄ちゃんが前にしてくれたみたいにおひざに乗っけてうんちさせてあげたんだよ。リトくん、すっごいはずかしがってた。学校ではね、勉強すごくよく出来て、カッコいいし、もちろんオモラシだってしないいい子で、いっつも先生にほめられてるのに、ぼくのおひざの上でうんちいっぱいしたの。あのね、パンツの中にもちょびっと出ちゃってたよ」

 新しい「友達」の話を、流斗は嬉しそうに語る。その内容は、まだ見ぬ「リトくん」という少年の恥ずかしい秘密をぼくに共有させるという意味で、非常に興味深いものだ。

「それでね、ぼくが和式のおトイレでうんちするときのお手本と、おちんちんで気持ちよくなるやり方教えてあげて、リトくん、ぼくとえっちなことするの好きになっちゃったみたい」

 流斗は一度ぼくの膝からおりて、ズボンの中から携帯を取り出す。写真のフォルダを開いて「こんな子だよ」と見せてくれたのは、しっとりと髪の長い、可愛いというよりは綺麗と言った方がいい顔立ちの、メガネがよく似合う少年だ。恥らうように目をそらしているのが、また感じがいい。

「これね、この間学校で撮ったの。動画もあるよー」

 言って、流斗はその秘密の動画をぼくに見せる。

 和式の便座に、白いお尻、ずいぶん高い位置にある。

「牧坂っ……、こんなの、恥ずかしいよ……」

 これが、「リトくん」の声だ。流斗より少し低い。細い足の先には白いソックスと上履きだけがあり、ズボンとパンツは、おそらくどちらも撮影者である流斗が持っているのだ。

「でも、撮らせてくれたらちゃんとやくそく守るよ?」

 流斗の嬉しそうな声がする。「自分の声、自分で聴くのって、ちょっぴり恥ずかしいね」と膝の上ではにかんだ。

「ちゃんと背中おさえててあげるから、早くうんち出してー」

「ん、そ、んなっ、すぐに出るもんか……!」

 それでも「約束」のために、「リトくん」は健気に力をこめて、ピンク色のまだ誰も入ったことのない肛門から、恥ずかしい音を立てた。

「おなら出たね、リトくんがおならするなんて、誰も知らないね」

「う、るさっ……」

「あ、出そう? ……オシッコ出てるね、リトくんのオシッコ、金色ですごくきれい」

「リトくん」はお尻で恥ずかしさを表現している。しかし、放尿で勢いづいたように、肛門から密やかな音が聴こえてくる……。

「あっ……」

「うんち、出るの?」

「んっ……、出る……っ」

 覗いたのは、流斗に比べてずっとしとやかな印象の細い紐状便で、それが解くようにするすると便器の中に落下して行く。流斗はカメラの位置を下げ、まるでぼくがどこを見たいか知っているように、肛門の隙間から溢れ出す「リトくん」の便とタマタマの裏側を一緒に画角に収めた。

「は、あっ……はぁ……」

「すっきりした?」

 紙を巻く音がして、「リトくん」は自分で汚れを拭き取り、ノブで便を押し流し、立ち上がって振り返る。

 おちんちんが顕わになる、真っ赤になった顔も。「リトくん」はすぐにシャツの裾を引っ張って隠してしまった。

「もうっ、もういいだろ、してるとこ、だけ撮れば……」

「えへへ、だってリトくんのおちんちんかわいいんだもん。ぼくより背ぇおっきいのに、ぼくのとおんなじかちょっとちいさいくらい。……隠しちゃったらぼく『約束』守れないよ?」

「リトくん」は渋々ながら、シャツを捲りあげる。改めて、流斗は舐めるように同級生のおちんちんにカメラを近づける。まだ、オシッコで濡れている皮の先はしわしわで、柔らかそうだ。そして流斗が言ったように、僅かだが流斗より小さく見える。ただ、皮の上から亀頭の膨らみがほんのりと浮かび上がっていた。

 流斗の細い指先が、「リトくん」のおちんちんを剥く。それには、流斗よりもたやすく対応出来るようだ。かように男の子のおちんには、十人十色の魅力がある。

「や、約束だぞ、ぼくがうんちするとこ見せたらって……」

「うん、約束だもんね、ちゃんとおちんちん気持ちよくしてあげる」

ここで、動画はおしまい。

「この後でね、リトくんのおちんちん、お口でしてあげたの。リトくんすごく気持ちよさそうだったよ」

「そりゃあ、四年生の子だもん、流斗のお口はすごい上手だから……」

 流斗はまたひょいと立ち上がり、カバンの中から下着を取り出した。片方はゴムや縫い目に黒を使って、記事は白いもの。もう片方はグレーでゴムだけ黒。サイズは、どちらも同じ130だ。

「これね、この動画撮ったときの、ぼくとリトくんのパンツだよ。リトくんにお願いして、もらったの。だからね、これの、どっちかがぼくので、どっちかがリトくんの」

 白い方は裏返すと薄黄色いシミが小さく付いている。グレーの方は生地の色に埋れて見えないが、恐らく同じシミが隠れている。

「当てられたら、お兄ちゃんに両方ともあげる」

 おおむね、洗濯物って洗剤や柔軟剤で匂いが判別されるものだ。事実として、昴星と流斗の下着は、たとえ二人が少しも汚さないままぼくに渡したとしても、その匂いで判断出来るだろう。

「んん……?」

 しかし、ぼくの鼻には同じ、ぼくが家で使うのと同じ匂いが届いた。流斗はにやにや笑いながらぼくの戸惑いを観察している。なかなか意地悪な問題だ。こうなると、シミの匂いを嗅ぎ分けるしかない。

 白い方が、僅かだが匂いが濃い。グレーの方は薄い。ただよく見ると、グレーの方はシミが目立たないはずなのに、白く何かをこすったような跡が見える。

「……わかった」

 ぼくは顔を上げて、そう申し出た。

「こっちのグレーのが流斗、白い方が、『リトくん』のパンツだね?」

ぽかん、口を開けて、「すっごぉい……、なんでわかったの……?」目をキラキラさせて、流斗は訊く。

 そんなすごいことでもないけど、「やっぱり、流斗のオシッコは嗅ぎ慣れてるっていうのはある。白い方がオシッコの匂いが濃く感じたんだ。あと、……『リトくん』はうんちするときパンツ脱いだよね?」

「うん、リトくんオシッコひっかけちゃいそうだったから」

「つまり、あの動画を撮ってる間、流斗はこれを穿いてた。……ここにね、流斗がえっちな気持ちになって漏らしちゃったおつゆの跡が付いてる」

 そう、白いシミの正体は、流斗のガマン汁だ。撮影しながら興奮して、おちんちんからよだれを垂らしてしまっていたのだろう。

「すごいや……、お兄ちゃん、頭いいねぇ」

「大人だからね」

誇るようなことではないけれど。

「正解したから、二つともお兄ちゃんにあげる。……でも、その前に」

白い方のブリーフに付いた黄ばみに鼻を当てて、たっぷり吸い込んでから、「はい」とぼくに差し出す。

「……いいの? 大切な友達がくれたパンツまで……」

「うん、お兄ちゃんにもリトくんのこと好きになって欲しいもん。リトくんのオシッコもいい匂いでしょ?」

うん、それはまあ。一定水準以上の顔立ちの男の子のパンツは、例外なくいい匂いに決まっている。昴星ぐらい臭くっても、それはそれで「いい匂い」と評するほかないのだ。

そんな失礼なことを考えていたら、

「おにーさん、タオルある?」

すっぽんぽんの昴星がガラッと襖を開けた。

「タオル?」

「ん、オシッコ零しちゃった、畳に、アンド才斗に」

「早く! こぼれる!」

才斗の焦った声がする。ぼくが慌ててタオルを手に四畳半を覗けば、……一体どういうことなのか、全裸の才斗がお腹を凹ませて、そこに注がれた昴星のものに違いないオシッコを零さないよう、ぷるぷるしている。もちろん、畳にもそれは広がっているわけだ。

「何を……、したの」

 才斗の裸をこんな間近に見るのは初めてだ。おちんちん自体は一度、スーパー銭湯で見せてもらったけれど。

「ひひ、おれのオシッコ、才斗嬉しいかなーって思ってさ。ガマンしてたのひっかけたの」

「馬鹿か、おまえは……!」

 ぼくが拭いた身体で立ち上がり、今更のように隠すけれど、少年たちの中で一番大きくて男らしい印象のおちんちんはしっかりと目に焼き付けてしまった。

「ね、お兄ちゃんもぼくにオシッコかけられたらうれしい?」

 畳を拭くぼくを、流斗が無邪気に覗き込む。「そりゃあ、……もちろん」

「じゃあ、次にオシッコしたくなったらかけてあげるね」

「おにーさん、おれのは? おれのオシッコはいらない?」

「それは……」

「昴兄ちゃんのオシッコも、くさくておいしいよね!」

 遠慮しかけたぼくに、流斗が言う。ぼくは感謝しながら頷いた。

「んでも、アレだよな、オシッコ一番おいしいのって、やっぱ才斗のなんだよなー。おれ流のオシッコもおにーさんのオシッコもおいしいし飲むの好きだけど、やっぱ才斗のがおいしい」

「うん、才兄ちゃんのオシッコって特別な味がするんだよー、しょっぱいだけじゃなくって、すごくおいしいの」

「人のオシッコの話で盛り上がるな!」

 おちんちんを隠して才斗が怒る。昴星の大好きな「恋人」であり、ぼくの天使であるところの流斗の従兄のお兄ちゃんにあたる少年だ、積極的に手出しをしようとは思わないけれど、二人に比べるとはるかに大人っぽく凛然とした少年の裸にも、ぼくは当然のこととして、魅力を感じる。

「ね、みんなでお風呂行こうよ。でもって、みんなでお兄ちゃんにオシッコかけてあげよ?」

 流斗のした、とんでもない提案に、「おー、面白そうだな!」と同じくとんでもない感覚を持つ昴星が同意して、

「勝手にしろ! おれはしないぞ、絶対っ」

 才斗が首を振る。

 けれど、可愛い恋人と従弟に両腕を取られて、

「ダメだよう、才兄ちゃんが風邪ひいて寝込んでるときに昴兄ちゃんのこと幸せにしてるの、お兄ちゃんだよ?」

「そうだそうだ、おにーさんにはおまえだって感謝しなきゃなんないんだぞ」

 口々に言われて、ぐいぐいと浴室へと引っ張られて行くのにあらがいを突き通すことは出来ない。

 


back