お兄さんは優しい人

 

 彼女は突然現れた。ぼくに期待や不安を抱かせる瞬間を全て省き、あらゆる準備も出来ていない状態で。

 その日、東京には初雪が降ったのだ。

 元々ぼくの住む街は都心に比べて気温が低くなりがち。だからこの季節、都心が雨ならこっちは霙を覚悟しなければいけない。朝、灰色の雲が出ていたときから何となくそんな気はしていた。職場で見た昼の天気予報でも「非常に強い寒気が南下しているため、都心でも積もる所がありそうです」なんて言っていたし。

 だからぼくはいつもより厚着をして家を出た。それなのに鉄道網の隙の多いこと。ぼくが地元の駅に着いたのは普段よりも三十分ほど遅かった。いや、三十分で済めば「頑張った」と褒めてもいいかもしれない。とにかく会社を出たときにはもう降り出していた雪は、地元に辿り着く頃にはもうドサドサと音を立てて、どんどん積もっていくほどに強まっていた。

 改札を出て、きっちり手袋をしてさあ頑張って帰ろうと決意した所に、

「お兄さん」

 と少女の声がしたのだ。

 耳当て、手袋、マフラー、コート。……もこもこに着込んでいてもなお、鼻と頬がほんのり紅い。雪んこ、なんて言葉がぼくの頭には過ぎった。

 一瞬、誰だか判らなかった。目を瞠って数秒、……「あっ」とぼくは記憶と目の前の少女がピシャリと重なる快い瞬間を味わった。

「由利香……?」

 こくん、少女は頷く。

 今年の秋に、流斗と昴星、二人を連れて訪れた温泉街の外れにある公衆浴場で、その幼い身体ながら「湯女」として働く彼女とぼくらは知り合った。

 ぼくはこの少女の水着姿と裸しか見ていないも同然。だからこんな風に、きちんと上下服を厚着している姿を見ても、誰だか判らなかったとしても無理はなかった。

 でも、

「……どう、して?」

 彼女の住む街から此処まで、特急を使ったって二時間以上かかる。

「こちらへ来る、用事が出来て。でも、お兄さんに会いたいので」

 由利香はぼくを見上げて、言う。

「ひ、一人で来たの?」

 ぼくの問いに、少女はこくんと頷いた。まさかと思って、「ご両親は知ってるの?」と重ねて訊いたぼくに、

「東京に来ていることは知っています。でも、お兄さんのことは言っていません。ただ、『お客さんに呼ばれた』と言って出てきました」

「お客さん」……、彼女が自分の温泉「山ゆりの湯」でしている「仕事」の客のことだ。確かにまあ、ぼくも「お客さん」のひとりに数えられてもいいのだけれど、しかし……。

 それに疑問もなく、こんな小さな女の子を送り出してしまう親ってどうなんだ!

「初めてじゃないんです。……最初は、父が送り迎えをしてくれました。でも、その後は一人でこうして来るようになって」

 なんて親だ……、ぼくの考えたことは彼女の目に判るぐらいはっきり表情に出てしまっていただろう。しかし彼女は気に留めた様子もなく、

「もし、お兄さんが良ければ、……お兄さんのおうちにいっしょに行ってもいいですか?」

 由利香は少し申し訳なさそうに言う。

 ぼくは、正直、悩んだ。

 こんな少女を自分の家に泊まらせることについては、まず当然として。

 今夜は予定がある。……何故って、今日は水曜日。

 諭良と遊ぶ日である。

 このところ、毎週水曜日には諭良と遊び、土曜、場合によっては金曜の夜から流斗か昴星か、二人の両方と遊ぶ、というのがぼくの習慣になっていた。少年たちの学校が冬休みに入っても概ねそういうペースで、だから本日水曜日、水泳教室を終えた諭良と、このあと、会うのだ。

 しかし、この子をぼくが泊まらせられないとなったらどうなるだろう。……多分、「お客さん」のところへ行っちゃうんだ。それを知っていて、平気で見逃せるほどぼくは肝が据わった人間ではない。

「わかった。……その、君の『お客さん』がどういうところで君と過ごすのかは判らないけど、多分、君が行ったことのあるどんな場所より狭くてみすぼらしい場所だよ? それでもいいなら」

 おいで。ぼくの言葉に、由利香はずっと寒さに強張っていた顔を、ほんの少し綻ばせて、頷いた。

 女の子を泊めるなんて、これが初めてのことだ。昴星も流斗も諭良も、やっぱりどこかでぼくの中で「男の子だ」という意識があって、自分に近い扱いをしても許されるような気で居たことを、ぼくは自覚させられる。家に帰ってもご飯は何もないからと、コンビニで当たり前のように自分の弁当を買い入れるとき、由利香が本当にそれで足りるのと思うような小さなサンドイッチを選ぶのを見て、緊張が高まる。

 現在時刻は七時半、諭良の身体が空くのは、いつも九時半ごろだ。それまでの約二時間でどうするかを考えなければいけない。

「狭いけど、どうぞ」

 少女は礼儀正しく「お邪魔します」と言って、靴も揃えて上がった。ぼくはすぐに暖房を入れ、慌てて散らかった部屋を片付ける。諭良と会うときは諭良の家に行くことが定番になっていたから、完全に油断しきっていた。由利香が珍しげにぼくの部屋を見回しているのが、ぼくを居た堪れない気持ちにさせた。

「このお部屋に、昴星くんたち、遊びに来るんですか?」

 ぼくが淹れたお茶を、ふうふう吹きながら、彼女は問う。

「うん……、二人とも、来てくれる」

 言いにくいことなんだけど、と前置きした上で、

「実はね、今日はもう一人の子と会う予定だったんだ。……諭良って言う、昴星と同い年の男の子、だから、由利香より一つ年上だね」

「ゆら、くん」

「うん。だから……、そう、どうしようかなって」

 ぼくは我ながら情けないとはっきり判る笑顔を浮かべていた。これはある種のダブルブッキングということになろうか。少年同士の予定が重ならないように気を配って来て、これまでのところそういう事態にはならずに済んでいたけれど、いやはや。

「その、諭良くんという男の子とも、お兄さんは昴星くんたちとするみたいに遊ぶんですか?」

 申し訳なさを篭めて、ぼくは頷いた。

「あの子の家に、このあと、行くことになってるんだ」

 由利香は、あまり表情が多くない。じっと、ぼくに視線を当てて丁寧な言葉で訊かれると、何だかすごく悪い大人になったみたいで、いやいや、実際悪い大人なんだ、胸が痛む。

「……わたし、一人でも大丈夫です。家で留守番するの、慣れてますし」

 ごめんね、とぼくは深く頭を下げた。「明日はちゃんと帰ってくる。朝ご飯、大したものは出来ないけど、でも、作る。部屋にあるものは何でも好きに使っていいし、お風呂も沸かしておくから、好きなときに入って」

「はい、わかりました。……突然押しかけてしまって、ご迷惑をかけて、ごめんなさい」

 頭を下げる由利香に、ぼくの方こそ申し訳ない気持ちでいっぱい。

「ごはん、食べましょう」

 と促されて、コンビニのレンジで温めた弁当を押し込むけれど、ほとんど何の味もしなかった。

 

 

 

 

 由利香のために新品のシーツを敷き、ぶかぶかでパジャマになるか判らないけどと出来るだけ毛玉の少ないジャージを畳み、それからお風呂の火を点けた。

「お兄さん、そんなにいろいろしてくださらなくても……」

「いや、でも……、一応ね? 君くらいの女の子を泊めるわけだから……」

 昴星や流斗や諭良と違って、この子がおしとやかであるという点もぼくを緊張させるのかもしれない。男として、やっぱり女の子は丁重に扱わなくちゃって思うのだ。それは仮令ぼくが秋の温泉で、この子を乱雑に扱う「お客」とさして変わらないようなことをしていたとしても。

「いきなり来て、『泊めてください』って言ったわたしがいけないんです。……お兄さんの住んでいる街は知ってましたけど、連絡先を訊くのを忘れてしまっていたから。……流斗くんに訊くのも、何だか申し訳ない気がして……」

 だから、と由利香はまた真っ直ぐにぼくを見る。

「むしろ、謝らなくちゃいけないの、わたしのほうです」

「いやいや、でも、あの」

「……お兄さんたちに会いたいなって、思っちゃったんです」

 由利香はきゅっと、スパッツの上に穿いたスカートの裾を握っていた。

「お兄さんや昴星くんたちと会えたことは、いまでもわたしにとってすごく、幸せなことなんです。……わたしのことをあんな風に大事にしてくださったの、お兄さんが初めてでした」

 大事に、と言っていいんだろうか。

「……由利香、あの、……『仕事』は、まだ、続けてるの?」

 こく、と彼女は頷く。ぼくの言わんとするところを先回りして、

「それは平気です」

 毅然とした口調で由利香は言った。

 平気、なものか。こんな清らかな身体を、男の欲に好き放題蹂躙させて……。

「でも……、わたしは、お兄さんたちとするのが一番楽しくて、好きなんだと思います。……お客さんたちとするのより、……お兄さんとしたときのほうが、ずっと優しくって、大事にされてるのに、いつもよりずっとどきどきして、恥ずかしくって、……幸せだったんです」

 由利香は、ぼくの膝の前へと膝を進めた。ぼくは多分、真っ赤になってると思う。だって、ねえ、さあ。男の子に好かれることだって奇蹟レベルのぼくが、まだ小さいとは言え、異性にそんなこと言われる。

 この心、身体、準備していたはずもない。

 重なった唇、離れたとき、由利香の頬も紅い。

「……お兄さん、諭良くんのところへ行ってあげてください。……でももし、ほんの少し時間があるなら、……わたし、お兄さんのこと、してあげたいです。泊まらせていただくのだから、それぐらいしなくちゃいけないって思います」

 羞恥に染まった頬で、しかし由利香はにこりと微笑んだ。

 いけない、いけない、ダメだ、こんなの。

 そもそもぼくはショタコンじゃないか、由利香みたいな、女の子に。

 そう思う気持ちはあるのだけれど、ぼくは浴室の腰掛けに全裸で座らされていた。

「失礼します」

 そう言って浴室に入って来た由利香は、学校の紺色水着。服を脱いでいる気配があるな、でも、着ているような気配があるな、と思いつつ待っていたら、そんな姿で現れたわけだ。

 そのコスチュームは彼女があの「山ゆりの湯」で「仕事」をするときのものだ。

「……可愛い男の子に会いに行くんだから、きれいにしなきゃいけませんよね?」

「あ、う、うん……」

 ぼくの足の間に膝をついて、ボディソープを掌に泡立てる間、由利香はぼくの唇に啄ばむようなキスをいくつも与える。幸い、ぼくのものはまだ反応していない。しかし、……由利香の指や舌が、「仕事」によって育てられた技術を擁していることを、ぼくの身体は覚えている。一度其処に触れられれば呆気なくスイッチは入ってしまうだろう。

 そう懸念するぼくをからかうように、由利香の唇はぼくの耳へと当てられ、

「うれしいです……、また、お兄さんとこういうこと、出来るの」

 くすぐったくなるような囁きが差し込まれる。

 

 由利香は唇をぼくの肩に当て、いつもぼくが昴星たちにするように、胸にも当てて、吸う。

「お」

 なんて声が、思わず漏れた。

 くすりと小さく笑った由利香はたっぷりと泡立ったボディソープを纏った手を、ぼくのペニスに当てる。あっさりと、ぼくのそれは反応した。あっさりと、っていうか、もう、鋭く。

「……やっぱり、お兄さんの、大きいと思います」

 由利香の左手はぼくの陰嚢を優しく優しく包み込み、撫ぜてくれている。右手は茎を、そんなに大事なもんじゃないよと思ってしまうほど丁寧に滑っている。それはどうすれば男が悦ぶかを知っている少女にしか出来ない施しである。ぼくのペニスはもう泡だらけだ。

 でも、先端にだけは泡がついていない。亀頭が紅く張り詰めている様子を、彼女は間近に見ている。優しく陰毛を洗ってから、由利香は温度を確かめてから泡を全て流した。

「やっぱりお兄さんの、大きいと思います、……すごく」

 彼女は同じことをまた言って、ぼくにキスをしながら両手で其れを扱き始めた。舌が唇を縫って這入りこんでくる。……とても、手で扱かれているだけとは思えないような、腰がフッと麻痺するような快感に襲われて、

「ちょ、っと、待って、由利香、待って」

 慌てて、ぼくは止めた。……このままだと、呆気なくぼくは彼女の紺色の水着を精液で汚してしまう。

「気持ちよく、ありませんか……?」

 悲しそうに言った由利香に慌てて首を振る。気持ちよすぎて困ってるのだ。

 だって、……こんな小さい女の子。ぼくの幸せだけに使っていいはずがない。この子だって悦びを知っているし、それを求める本能が備わっているんだから……。

「そうじゃなくて、ええと……」

 何を言うにも、恥ずかしい。男の子相手にはほとんど思わないことを、ぼくは思って紅くなる。だから何も言えないまま、由利香を起き上がらせて、迷った末に、膝の上に跨らせた。由利香は目を丸くしている。

「……あの、ぼくにも、君を気持ちよくしてあげることって、出来るんじゃないかなって……、だから」

 ぼくは由利香の胸に、そっと指を当てた。ごく薄い化繊生地の向こうにある小さな粒状突起を捉えるのは容易いことだった。

「あ……」

「ね? その……、君にばっかりさせるの、申し訳ないから……」

 ぼくは左腕を由利香の背中に回し、身体を支えながら、右手でまだあまり柔らかくない胸を、出来る限り優しく撫ぜる。

「……由利香、前に会ったときよりも、……胸、大きくなった、よね?」

 由利香は紅くなって、小さく頷く。

「そう……、……可愛い、って、思うよ」

「そんな……」

「普段、男の子しか目に入らないぼくが思うんだから、多分、本当のことだと思う……」

 どうだか。自分がどういう審美眼をしているか、判ったもんじゃない。ぼくの目は昴星と流斗と諭良が「美少年」に見え、彼らのうち誰かと二人きりになったとき、目の前の少年こそ世界一可愛いと思ってしまうような曇った目をしている。……いやいや、三人がそれぞれ質の異なる「美少年」であることは、疑いようがないけれど。

 細い少女の身体にフィットする紺色水着は、まだ少女が肉感的な身体つきではない分、却ってエロティックにボディラインを際立たせている。乳首が透けてしまうのもそうだし、そっと視線を下ろせば、足の間の亀裂が生地の食い込みによってはっきり判ってしまう。彼女が「仕事」のときにこの格好になるのは、この姿を見た男が大いに反応することを学んでいるからだろう。

 ぼくは、ぼくのペニスと接しそうな位置にある少女のその場所に、小さな染みが生じていることに気付いた。

 まだ、おっぱい触っただけだ。それなのにこうなっている? ぼくがそんなに上手かった?

 ……そんなはずはない。そうじゃなくって、……由利香はぼくのペニスに振れて、キスをして、こうなったに違いなかった。

「あ……! お兄さんっ……」

 ぼくが指を当てると、じんわりとその染みは広がった。ねっとりとぬるつきを帯びて、その場所が濡れていくさまは、まるで少女の失禁を見るような背徳的な興奮をぼくに催させた。指先の体温は勃起していないときの少年のおちんちんのように適度な弾力を伴っている。

 由利香は自分の欲情に気付いたぼくを、恥ずかしそうにそっと覗き見る。

「……我慢しなくて、いいよ。いっつも『仕事』のときは我慢ばっかりしてるんだろうから」

 ちょっと、困ったような顔になってしまった。

「……お仕事のときと、おんなじにしても、お兄さんは気持ちよくならないですか……?」

 そう訊かれても、うーん、どうだろう。ぼくは由利香の「お客さん」と違って、生粋のロリコンという訳ではないので、あんまりこの子に頑張らせちゃうのを申し訳なく思うし、……それだったら、ぼくが少しでも喜ばせて上げられたらって思うのは、ごく自然であるように思うのだ。

「仕事は切り離してさ、……何ていうか、由利香が楽しければいいなって……。そりゃ、確かにこの時間は由利香を泊めてあげる分のお礼を由利香から受け取ってるって考えるべきなのかもしれないけど、ぼくは君を泊めること、少しだって負担には思ってないし、……ね、だから、楽しんだ方がいいと思うよ」

 ぼくはぎこちなく、それでも素直な心で言った。由利香は紅い顔で、

「お兄さんは、優しい人です」

 そりゃ、君の「お客さん」と比べればずいぶん優しいってことになるだろう。でも其れは本当にぼくが「優しい」ことを意味するわけではない、決して。

「お仕事じゃなかったら……、どうしたらいいか、わからなくなっちゃいます」

「うーん……、それはまあ、由利香の自由に任せるけど……。でもね、こんなことを君ぐらいの女の子に言っていいか判らない、っていうかダメなんだけど……」

 ぼくは目の前の、こうして見ると歳相応に幼く、何より愛らしい少女の髪を撫ぜる。そうはきはきとした印象もないけれど、長い髪をポニーテールで纏めている。女の子だから髪が長いって訳でもないけれど、本物の少女をこうして目の前に置いて見ると、昴星はやっぱりちゃんと「男の子」なのだなあって思う。由利香の顔には女の子しか持ち得ない柔らかさのようなものが備わっていた。

「由利香は、……その、『仕事』でこういうことをしてるわけだよね、その、正直、あんまり面白くなくても、しなきゃいけないから。でもさ、由利香はきちんと女の子の身体をしてるし、だから、それで気持ちよくなる方法も知ってる」

 こくん、と由利香は頷く。

「だからさ、『仕事』じゃないときは、自分のこと考えていいと思う。自分が気持ちよくなる方法をさ。きっと仕事のときは、由利香の『お客さん』は、あんまり由利香のこと考えてくれないだろうから、ね。それに、由利香が思った通りにすることっていうのは、これから先にも繋がっていくと思う。由利香の心も身体も、本当は由利香のためにあるんだ。いつかその『仕事』をしなくなってもよくなったとき、誰かとこういうことをするとき、由利香から『仕事』の気持ちが消えなかったら、その相手の誰かも寂しいと思うんだ」

 由利香は、もっと困った表情になってしまった。

「……わたしが、したいこと……」

「うん……、由利香のしたいこと。ぼくじゃなくって、君の」

 由利香は、おずおずとぼくの頬に両手を当てた。

「いまは、……わたしは、お兄さんのこと、気持ちよくしたいんです。お兄さんに喜んでほしいんです。そうしたら、わたしも、嬉しいって思うから」

 静かな口付けがあって、相変わらず恥ずかしいほど硬いぼくのペニスに手を当てて、……それを、彼女の水着の濡れた部分に押し当てた。

「……さっき、お兄さんを洗ってさしあげて、……お兄さんがこうなったのが嬉しくて、わたしも、……同じになりました」

 ぼくが恥ずかしいなら、由利香も同じように恥ずかしく感じる。ただ彼女は気丈にも微笑んで見せた。表情の乏しさやいましていることとは裏腹に、その笑顔に由利香の清楚な美しさが花開くようだ。

「……わたしは、いままでこういうことをたくさんしてきました。何人も、何十人も、……百人超えているかもしれません。でも、その中でお兄さんのことが一番好きです。こんな風に、優しくお膝に乗せてくださったの、お兄さんが初めてです」

 どくん、とぼくの心は彼女の言葉に脈打つ。

 相手が少年であれ少女であれ、それはどんな男にも嬉しい言葉に決まっていた。そしてぼくはやっぱり、彼女が生きる「日常」の過酷さに胸が痛む。

 せめてぼくの膝の上にいるあいだは、忘れさせてあげたい……、そんな風に、強く、ぼくは思う。

「嬉しいです。お兄さんは、昴星くんたちのことが大好きなのに、女のわたしでこんな風になってくれるの、すごく、嬉しい」

 世の中には、君にとってもっとずっと嬉しいこと、たくさんあるよ。

 反論はキスで塞がれた。それでも彼女が自分の欲に基づいて舌を伸ばし、ぼくの舌と絡めてくるのだと思って、ぼくは納得することにする。……由利香には、まだこれからいくらだって時間がある。その時間できっと、ぼくよりもっと優しい男に出会う。それまでどれぐらいの時間があるのか判らないけれど、今はひとまずこうして、喜ばせてあげるのがぼくのするべきことだ。

 ぼくのペニスと重なった水着の股布部分はもうしっとりと染みを広げている。ぼくの脈動に呼応するように、それがぬるりと滑る。

「……水着、脱ぐ?」

 ぼくが問うと、恥ずかしそうにこっくり、頷く。女子水着は昴星と流斗が着ているところを見せてくれたことがある。けれど彼らは自分で脱いだから、脱がせるのは初めてだ。白い肩のストラップを摘んで、片方ずつ腕を抜き、そろそろと下ろしていくと、ぴったりと包まれていた裸身が少しずつ露わになる。

 ほんのりと膨らんだおっぱい、……肌は抜けるように白い。その先に、ピンクと呼ぶにはもう少し色の濃さが足りない乳首が、左右に一つずつ。見慣れた少年たち、特に男の子なのにおっぱいが柔らかい昴星とも違うのは、その乳首が乳輪そのものからぷっくりと膨らんでいること。それを目にしたとき、ぼくはそれまでで一番強く、由利香を異性と意識した。

 男の前で裸になることが「仕事」の由利香が覚える恥じらいは、ぼくの肩に当てた指に篭もった微かな強張りでぼくにも伝わってきた。見るほうも恥ずかしいし、見られるほうも恥ずかしい。なんだろう、これは。

 でも、この状況にはきっと、価値がある。ぼくにも、由利香にも。

「……きれい、だね。その、……由利香ぐらいの子のおっぱいなんて見たことないから、あれだけど、でも、すごくきれいだと思う」

「でも」

 言い訳をするような声の出し方を、由利香はした。

「わたしより、もっと大きい女の子も、います。クラスの中では、すごく小さいほうです……」

 大きさじゃ、ないよな。これまで女性の胸部に大した値打ちも見出さないで来たくせに、偉そうにそう評することに躊躇いはなかった。

 そもそも、ぴっちりと覆われていなければいけない部分を、こんなに間近に見せてくれると言うだけでぼくはその場所に全面的に平伏さなければいけないわけだ。

「触ってもいい? その……」

「はい」

 ささやかな膨らみだ。年齢の上から下まで、ぼくは意識して女性のおっぱいに触ったことなんて一度もない。だからこそ――多くの男がそうだろうと思うけど――幻想を抱く。そこは、きっと柔らかいのだろうと。

 由利香の其処がほとんど柔らかくないことは、ぼくにはちっとも残念なことではなかった。いや、もちろん「柔らかくない」ということはないんだ、指を当てただけ、其処は微かに「へこむ」とも言えないほど、変化を示す。けれどやっぱり硬い。

 それでもぼくの指は、新鮮で幸福な体験として認識する、記憶する。指先に由利香の乳首をそっと摘んで、少女が微かに吐息を揺らす瞬間を。その乳首の先がぼくの指に反応して、ぼくのよく知る男の子のおちんちんのように、音もなく張り詰め、ぷつりと硬さを帯びるのを。

 少女の鼓動が、伝わってくるのを。

「お兄さん……」

 由利香が、泣きそうな瞳を微笑ませて言う。

「……わたしの、ここが、もっと大きくなったら、……そうしたら、きっとお兄さんのこと、もっと楽しませてさしあげられるって、いま、思いました」

「……いまだって、楽しいよ、十分すぎるくらい」

「楽しい」なんて言葉を使っていいのかは覚束ない。けれど、由利香に応じる形で同じ言葉をぼくは使った。もっとも、ぼくの愉楽は言葉で表現するまでもなく彼女の一番敏感な部分に熱という形で伝わっているはずだ。

「お兄さんの、苦しそう……」

 由利香がぼくを見下ろして言う。それから、そろそろとぼくの顔を伺った。

「あの……、お兄さんは、いつも昴星くんたちの、その……、あの二人の、オシッコ、で、遊んでいるんですよね?」

「う」

 何と言う恥ずかしい質問だろうか。

「ん、ま、まあ……、そう、だね、そうだけど……」

 オシッコで遊んでると言われると、何だか昴星と流斗のオシッコの詰まった水風船を投げ付けあって遊んでるみたいだ。さすがにそこまで変態じゃない、……いやでも似たようなものか。

「お兄さんは、オシッコが、好きですか?」

 ああもう、「好きだよ」って言うしかないじゃないか。

「でも、……その、わたしは、昴星くんたちみたいに、男の子じゃないから……」

 ぼくは、由利香の足の間に視線を落とす。彼女の快楽を示す染みは紺色の生地を黒く染め、うっすらと其処に走る亀裂を浮かび上がらせている……。

「……由利香、オシッコしたいの?」

 ぎゅっと、ぼくの首に抱き付いて、少女は小さく頷いた。

 外は寒い。この浴室も、一応お湯が溜まりつつあって湯気が溢れているとは言え、ちっとも温かくはない。

 少女が尿意を訴えたって、それは無理のないことだ。

 ぼくは腕を伸ばして、湯を止める。どのみちこのままだと溢れてしまう。

「……その、……ぼくに、オモラシするところを、見せてくれるの?」

 由利香の声は羞恥に揺れる。「お兄さんが……、見たいって、思ってくださるなら……」

 初めてでは、ない。この間の温泉ではこの子、可愛らしい女の子のパンツを自分の尿で濡らすところを見せてくれた。昴星と、流斗と、一緒に。

 ぼくはそのことを、今の今まで忘れていた。だってあの旅行では昴星と流斗と、一体何度幸せになった? 由利香が居たのはほんの数時間のこと。大きな記憶の中の、ほんの小さなひとかけらに過ぎない。

「……見たいな」

 細く柔らかな、馬の尻尾をくすぐってぼくは白状した。

 ぼくは、何処まで行ってもショタコンで、対象の年齢はどうあれ、同性愛者なのだろうと思っている。……他の女の子、例えば前に昴星にマゾヒスト的悦びを与えたときにちょびっとだけ話しをしたセイラとチヒロには何も感じない。彼女たちがぼくの目の前で失禁したとして、それがどうした、はしたない子だなあ、そんなことを思うに留まる。

 だけど、

「由利香のオモラシするとこ、見たい」

 ぼくは、思う。

 由利香はぼくの腿から降りようとした。でも、ぼくは其れを止める。

「いいよ、このままで」

「でもっ……」

「構わないよ、多少かかったって。それにさ、……ぼくは由利香のオシッコ、飲んだことだってあるんだよ?」

 それは、きちんと覚えている。彼女とシックスナインの体勢になって、……彼女はぼくの顔面に勢いよく放尿したのだ。

 彼女も思い出したように真っ赤になる。けれど、こくんと頷いて、

「……わかりました……、します……」

 腰掛けに座るぼくの腿の上に開いた足を落ち着けて、ぼくと手を繋いで、幾度か、震える息をどうにか整えようと深呼吸をする。白い肌がほんのり上気していた。彼女はあの日、昴星と流斗に言われたことを思い出しているに違いない。人生において、最も役に立たない部類に入るアドバイス、オモラシの仕方。

 普段、トイレでするみたいに。

「……あ……っ」

 彼女は目を開いた。既に滲んでいた水着の股下から、ぼくら二人の腿の下のタイルへと、濃い黄色の液体が滴り落ちていく。液体の出どころが、やっぱり男の子とは違う。彼女のせせらぎはすぐに勢いを持ち、お尻の方からちょろちょろと零れ出していくようだった。

「我慢してたんだね」

 ぎゅっと目をつぶり、こく、こく、由利香は頷く。それはつまり、彼女がぼくにこういうところを見せてくれることを予定に組み込んでいたことを意味する。

 可愛い、という気持ちが素直にぼくの心を満たした。

「あ……あっ、ダメです、そんな、ことっ……」

 ぼくは由利香の腰を引き寄せて、足の間をぼくのペニスに重ねさせた。体温よりもずっと熱く感じる液体の勢いは、がしゅううと音を立ててぼくの陰茎をくすぐりながら一層強まった。ぼくは少し笑って、彼女のことを抱き上げ、ぼくが座っていた腰掛に下ろす。もちろんその間も彼女の放尿は続いている。きれいなおっぱいを隠さずにぼくに見せながら、脱力した足の間から湯気を立ててオシッコを零し続ける由利香の頬にぼくは、心を篭めてキスをしてから、熱い液体を指で味わいつつピンク色のおっぱいの先に唇を当てた。

「ありがとう、……ほんとにきれいだし、可愛い。由利香のオシッコするところ見て、すっごい興奮してる」

「で、もっ……」

 太腿も、お尻も、びしょ濡れだ。腰掛けの窪みに開いた穴からも滴って、浴室の中を少女の尿の匂いが満たしていく。

「女の子でも、可愛い。……ぼくは由利香のオシッコの匂い、好きだよ」

 実際、昴星のように刺激的に臭いわけではない。流斗のように優しく薫るわけでも、諭良のように薄いわけでもない。少しだけ控えめで、でも、ちゃんと尿としての「臭い」の要素は持っている。

 女の子でも、放尿の後には身体が震えるのだ、と、そんなこともぼくにとっては新鮮だった。

「すっきりした?」

「は……い……」

 ぼくの右手は、ほとんど無意識のうちに自分の性器を握って動き始めていた。異性の放尿なんて、興味なかったはずなのに、由利香の姿を可憐とさえ思って。

「ダメですっ、お兄さん、ダメっ」

 由利香が鋭く声を上げて、ぼくを制した。

「……ダメ? どうして?」

 由利香は強情に首を振って、両手でぼくの右手を止める。それから縋りつくように、「……わたしに、させてください。わたしでお兄さんがそんな風になってくださったなら、わたしが最後まで、してあげたいです……」それは、懇願の響きを帯びていた。

 由利香は自分の出したもので濡れた腰掛とタイルを、手桶に汲んだお湯で流して、

「ちょっと、硬いですけど、横になってください」

 ぼくに求めた。

 自分が快楽を得るための行為だ、君の手を煩わせる必要なんてない。

 でも、ぼくは仰向けになった。由利香が、濡れた水着を浴槽の縁にかける。一糸纏わぬ姿になった由利香はぼくにぴったりと身を沿わせ、重なり、しばらくの時間を優しいキスに費やした。

「しつれいします……、あの、臭かったら、ごめんなさい……」

 そう断ってから、由利香はぼくの身体の上に、今度は逆様に重なる。

 オシッコって、臭いものだ。それは何も昴星のものに限らない。流斗のだって少しは臭いし、諭良だって。

 だから、由利香のだってそうだ。

 だけど、それがぼくにとって魅力的に思えてしまうのだから仕方がない。由利香の両手が久しぶりにぼくに添えられた。繊細な動きで撫ぜてくれる彼女の、顔が、口が、ぼくに近付くのを感じる。

 ぼくも、同じように目の前のものに顔を近付けた。ほんのり温かく思えるお尻の輪郭は、やっぱり少女のそれ。そして密やかに始まる亀裂から溢れたものは、彼女の細い太腿にまで伝い、臭い立っている。

 彼女の吐息さえ感じる距離に至って、ぼくは緊張する指でその亀裂をそっと左右に開いた。

「あ……」

 由利香は微かに声を漏らしたが、ぼくから逃げることはしなかった。そのままぼくのペニスは、温かく柔らかな由利香の口腔の中へ、吸い込まれるように収まる。彼女が洗ってくれたのだから、きっと清潔なはずだ。

 ぼくも、彼女の其処に舌を当てる。

「んん……!」

 ぼくのカリ首に当てられた由利香の舌は震えた。それでも健気に、器用に、ぼくのペニスを包み込んだ口の中で、彼女は舌を使ってぼくを愛撫する。

 お尻からそのまま繋がっているような、由利香のぷっくりとした肉の亀裂。やはり小さな身体の膀胱に溜まっていたオシッコの濃い味がする。そこに混じって、ほのかにとろみを帯びるのが少女の心地良さをぼくに教えてくれる。男の子のタマタマの裏の愛らしさについて、恐らくこの世界でも有数に知っているぼくをして、ぷにぷにとした弾力を帯び、指を離せば恥らうように震える場所に、頭がくらくらするぐらいの魅力を感じさせる。

「由利香のここ……、ほんとに可愛い、ほんとに、きれいだよ。オシッコも、いい匂いで、すごく美味しいし、えっちな味がする……」

 ぼくの囁きは、彼女を震わせることが出来ただろうか。再び舌を当て、その小さな小さな穴に差し込んだときにはもう、ほとんど何も考えられなくなっていた。オシッコの味と匂いは徐々に遠退き、代わりにぼくが覚えるのは由利香の身体の奥底にあって、ぼくに反応するがゆえに溢れ出す特別な蜜の味だ。

 舌の上に満ちた味をゆっくりと堪能する余裕もない。由利香のフェラチオは、やっぱり巧みだ。その舌下からたっぷり湧き出す唾液を使ってじゅぷじゅぷと音を立てながらの往復運動に、ぼくは呆気ないほど簡単に少女の口を自分の精液で満たしていた。

「ん……、ん、ふ……」

 口でぼくを覆ったまま、由利香が喉を鳴らす。口から抜いてからも、自分の唾液を拭うようにぼくのペニスに舌先を這わせて、

「ありがとうございます……」

 と濡れた声で言った。

「……ん?」

「お兄さんの……、たくさん、……ありがとうございます。わたし、うれしいです……」

 由利香は恥ずかしそうにぼくの身体から下りて、一度はタイルの上にぺたんと正座をした。けれど、堪えきれなくなったようにまたぼくの上に乗ってきた。ぎゅうと抱き付いて、

「あの……、やっぱり、臭くなかった、ですか? わたしの……、その……」

 不安そうに、訊く。

「臭いだけだったら、あんなに反応するだろうか」

 ぼくは裸の少女を抱き締めて、自分に出来る最大限に優しい掌の力でその背中を撫ぜた。

「言ったでしょ? いい匂いだし、美味しいって。出来るならもっともっと飲みたいくらいだよ」

 これは、本当の気持ちだ。由利香は恥ずかしそうにぼくの肩に額を当てて自分の表情を隠した。

「……お兄さんは、えっちです。そんなにオシッコ好きなひと、初めて会いました」

「そうかもしれないね。君の『お客さん』の中でも一番、オシッコが好きな男かもしれない」

 実際、その点についてはもう言い訳のしようがないので。

「……お客さんの中にも、オシッコ、するところ見せてって言う方は、います」

「そうなの?」

「はい。……わりと、たくさん……」

 普通の男にとっては、確かに魅力的なものだろう。ぼくにとって魅力的なぐらいだし。

「それで……、いろんなやり方で、見せます。……普段通りに、しゃがんでするときもあります。立ったままで、することもあります。……さっき、お兄さんにしたみたいに、……お客さんのおちんちんに、オシッコをかけたり、あと、……お顔にまたがって、したり……」

 変態ばっかりだ。

「でも、オモラシ見せてって言ったの、流斗くんを除けば、お兄さんだけです。それであんなに嬉しそうに、おちんちん、ぴくぴくさせて……」

 ここにいるのも変態だ。

「でも……、嬉しかったです」

 由利香はそう言って、ぼくの口を避けてキスをした。それから「ちょっとだけ、待っててください」と立ち上がり、浴室から出て、十秒もしないうちに戻ってきた。その間ぼくがしたことは、身を起こしただけ。由利香は裸身の後ろに、隠すように両手を回して。

「……この間、昴星くんたちと、パンツの取替えっこ、しました」

「ああ……、そうだったね。あれ、どうしたの?」

「大事に、取ってあります。昴星くんのパンツはすごく臭くて、一度、家族にばれちゃいそうになりましたけど」

「食品の保存に使うような、ジップ付きのビニール袋に入れると匂い漏れないよ」

「はい、そうしてます。……ときどき、お兄さんや昴星くんたちを思い出したくなったときには、二人にもらったパンツを出して……。でも、お兄さんは何も持って帰らなかったから」

 彼女が差し出したのは、下着だった。

 女の子の下着、……昴星が穿いてきたり、諭良に穿かせたり、日常的に(とんだ日常があったものだということは自分でも思う)活用しているけれど、本当に顔の見える距離にいる女の子の下着をこれほど近くで見るのは初めてのことだ。

「……いいの?」

 こくん、由利香は頷く。

「お兄さんに、喜んでもらえるかわからないけど、でも、……持って来たかったんです。……受け取って、いただけますか?」

 両手で、ぼくは其れを大事に受け取った。

 少女らしい、ピンク色のパンツだ。今日穿いて来たものではないらしい。丁寧に畳んである。けれどぼくが手のひらに彼女の体温を感じた理由、広げることで判明する。白い当て布がしてある内側を見なくても判る、薄い尿の黄ばみが、密やかに広がっているのだ。

「あっ、いま嗅いじゃダメですっ……」

 もう遅い。鼻の奥をくすぐる、優しい香り。……でも困らせてはいけない。

「ありがとう、……大事にするよ」

 由利香の、恥ずかしそうで、でも嬉しそうな笑顔につられて、ぼくも同じく微笑む。少しだけ、浴室の中が温かくなったような気がした。

「あの」

 由利香がスマートなお尻を浴槽の縁に乗せた。

「わたし、……もうちょっとだけなら、出せるかもしれません。……その、お兄さんが、……もしも」

「見たい、……あの、見せてくれるなら見たいよ」

 くすっと、由利香が笑った。腰掛けに座ったぼくの頭に手を置いて身体を支えて、彼女は縁の上に足の裏を乗せ、大きく開く。

 開脚に応じて仄かに開いた外陰部の隙間が、ぼくの目の前にある。

 解剖学的にどうこう言うつもりはない。そういう知識もなければ細部を観察する余裕だってない。ただ白い肌の中で淡い桃色に色付いている様子が、ぼくにはたまらなく魅力的に思えた。えっちだと思うし、きれいだと思うし、やっぱり可愛い。流斗とショッピングセンターで遊んだとき、協力してくれたロリコン盗撮者の気持ちがぼくには判った気がする。

「ん……」

 男の子のおちんちんとは違う。ぼくがまだ明るくないその場所の構造を、由利香が放尿という形で教えてくれる。和式のトイレでするときの姿勢と同じだから、水着を穿いていたときよりもずっとスムーズに彼女の其処は金色の雫を迸らせ始めた。

「や……っ、お兄さん、飲んで……、る、んですか……?」

 温かく、スムーズな液体は、もう「飲みやすい」と言ってしまっていいほどのものだ。ぼくの喉は味わう余裕もなくそれを飲み下していく。けれど、興奮に息が続かなくなる。零れたものが冷え始めていたぼくの身体を温める。

 由利香の短い放尿はまもなく終わった。お尻の方へ、雫が伝った跡がある。何滴かはお風呂の中に入っただろう。でも、それがどうした。

 濡れたお尻に掌を当てると、ふるると由利香が震える。

「……女子は、だから、オシッコ、したあとは、ちゃんと拭かないといけないんです……、そうしないと、パンツが汚れちゃうから……」

 恥ずかしそうにそう教えてくれながら、彼女の出したものでびしょ濡れのぼくの口元を見て、恥ずかしそうに、それでも由利香はぼくの顔に自分の股間を押し当てる。

「……こんな恥ずかしいの、誰ともしたことありません……」

 閉じたスリットにはまだ一本の発毛もない。生々しすぎるぐらいにつるりとしていながら、真ん中に一条の亀裂、それを境に左右ぷっくりと膨らみを帯びた場所。

「……お兄さん」

 いま二回目のオシッコをしたばかりの由利香は、ぼくの視線の先、恥ずかしそうにもじもじとそのスリットを揺らしてみせる。

「……ガマン、ずっとしてました。ほんとは、わたしのことなんてずっと後回しで、……それに、お兄さんはこの後、諭良くんとの約束もあるし、……でも……」

 少女の細い足の、微かな隙間に指を入れる。じんわりと温かく、其処は濡れている。

「……欲しい?」

 こんなこと、あるはずがなかった。この世にぼくを求めてくれる「女の子」がいるなんてこと。

 こくん、由利香が頷く。

 時間なら、まだあるはずだ。由利香をちゃんと幸せにして、それからお風呂に入って。

 ぼくはそう考えると同時に、ある考えを頭に転がし始めていた。けれどそれはまだ、言わないでおく。

「どっちがいいかな」

 由利香に後ろを向かせ、足を開かせる。少女の、「可憐」な秘密の場所がぼくの視界には開けている。

「由利香、どっちも好きだよね」

 人差し指の背を当てると、僅かに綻んだようにも見える筋目はぬるりと滑りぼくの指へ薄い糸を伸ばした。

「それはっ……」

「こっちも、濡れてて、……欲しがってるみたいに見えるけど」

 指先は、割合すんなりと入る。

「あう……」

 膝の裏の筋を伸ばすように背伸びをして、由利香が震える。指を少し奥まで入れて、肉壁がまるで歓迎してくれるように密やかに引き締まるのを愉しむ。ゆっくりと指を出し入れするだけで、舌と舌を絡めあうような音が案外に大きく響く。

「すごい、こんなに音立っちゃうんだね……。こっちの方が由利香は楽に入れるかな」

 由利香は浅い呼吸の隙間に声を混じらせた。

「おに、さんんっ、の、……好きな、方で、いいですっ……、わたし、は、どっちでもっ……」

「そう? ……ぼくもどっちでも。でも、せっかくだからこっちにしようか?」

 由利香が本当に好きなのがお尻の穴だということを、ぼくは知っている。あの温泉でこの少女がぼくの顔面に失禁してしまったのは、お尻を弄られて身体に走った快感の強さによるものだった。

 でもぼくは敢えて、指を惜しむように絡みつく場所へ、ひとまず自分の欲を収めることにした。十秒だけ其処を離れ、ゴムを持ってきて。

「おいで、由利香」

 ぼくが招くと、目尻に涙を潰して頷き、再びぼくの太腿の上へと来る。今度は先程とは角度が違う。ぼくは両手で由利香のお尻を支え、由利香はゴムを被せたぼくのペニスに片手を宛がい、入口に押し当てる。

 昴星と、流斗と、これまで何度も繋がってきて、……其処とは場所が違うわけだけれど、やっぱり「一つになる」ことの悦びは何物にも変えがたい。

「おにい、さんっ……」

 由利香の声は喜悦に満ちている。ちゃんとぼくはこの子を幸せに出来ている……、ぼくの中に控え目な、それでも確かな、自信が溢れてくる。

「大丈夫? 苦しくない?」

 こくこく、ぼくの頬に頬を摺り寄せるようにして頷いて、由利香がキスを求めた。唇が重なる前から口を開けて舌を覗かせる少女の顔は愛らしく、淫らだ。

「幸せ、ですっ……わたし、すごく、うれしい……!」

 うん、ぼくも幸せだ、君が幸せになってくれているなら。

 自分の快感は一先ず脇に置こう。ひんやりとしていて、それで居て奥に熱の篭もった由利香のお尻を支えて、ぼくはゆっくりと動かす。

「あ、あっンっ……、お、にぃさっ……、お兄さんっ……! すごい……、あついっ……」

 少年たちの肛門より、少しは広い。それでも肉壁はひくつきながらぼくのペニスを締め上げてくる……、射精を堪えるのはなかなか難しくもあったけれど。

「ぃっンっ、ンぃっ……!」

 由利香の身体に、電気が走る。男の子の射精ほどはっきりとしたものではなくても、由利香の快感が極まったことをぼくはその震えと繋がった場所の収縮で知る。鋭く刻むような声は、息と共に次第に間延びし、ぼくの首に掴まる腕からも力が抜けそうになる。しっかりと支え、ぼくは由利香を抱き締めた。

「あぁ……あ……おに、ぃさん……っ」

 由利香は、少し泣いていた。快感に連れて流れていたものが、今度は寂しさの意味に切り替わる。

「ごめんなさい……、ごめんなさい、わたし、わたしだけ……」

「それだけ気持ちよくなってくれたんだよね?」

「でも……」

「だったら、ぼくはすごく嬉しいよ」

 慰めるために一度、キスを挟んで、再び指をお尻へと近づける。繋がっていた場所から溢れた蜜が、ぼくのペニスとその周囲を濡らしている。甘ったるくさえ感じられる少女の性の匂いを放ちながら、其れが伝う場所は、当然、

「あ!」

 其処でも、あるわけで。

「こっちも気持ちよくなろうね。……今度は、ぼくも一緒に」

 愛液を纏った其処は昴星や、特に流斗に比べて、すんなりとぼくの指を飲み込んでいく。構造上の問題だけではないだろう。

「……柔らかいね」

 由利香は一番弱いところに指を捩じ込まれる羞恥に、ぎゅっとぼくに掴まって震えている。

「自分でも、弄ったりした? ……力の抜き方、すごく上手」

 ふるふる、首を振る。でも多分、それは由利香の嘘だろう。

「あう!」

 指を増やして、二本。滑りはいい。奥深い所まで指が達するたび、由利香はぼくのペニスを何度も締め付けて快感を訴えた。でも、

「お、お兄さんっ、ダメっ、ダメですっ」

 慌てたようにぼくを止めようとする。その理由は、ぼくの指が知っている。

「うん、……降りて来てるね」

「だ、だからっ……、きたないですっ……」

 ぼくは泣きそうな由利香の頬にまた口付けた。

「昴星や、流斗とするときにね、……あの子たちは由利香みたいにここが柔らかくないから、準備するんだ。……どうやってするか判る?」

 由利香は、すぐに察したようだ。

「そうだよ。……お腹の中を空っぽにしてね、ついでに、ここも広げるんだ。由利香のお尻に入れてあげたい、けど、由利香が少しでも楽な方が、ぼくとしても嬉しい」

 由利香の中から、指を抜いた。

「あ!」

 途端、少女としてはたまらなく恥ずかしく感じられる部類のガス放出音が浴室の中に響いた。ぼくを包み込んだままの場所がきゅっと絞るように硬くなる。もう出口付近まで降りてきた便の圧迫感は、少女には耐え難いはずだ。

 ぼくは足で洗面器を引き寄せて、由利香のお尻の下に置く。

「いいよ、ぜんぶ出して、すっきりしようね」

「い、やぁあ……」

 穴から、ゆっくりと顔を出す音がする。残念ながらぼくからは見えない。……見たいな、と思ってしまった。さっき、トイレでオシッコするポーズを見せてくれたのだから、こちらも許してもらえるだろう……、勝手なことを考えて、「しっかり掴まっててね」と耳元で囁き、その細い足を抱えて、ぼくは立ち上がる。

「あ、あ……!」

 ぼくが立ち上がったところで、少量ながら、由利香は三度目の放尿をした、ぼくの下腹部で、それはささやかな飛沫となる。同時に意を決したような勢いで、広がった肛門から少女のものとは思えないほど黒々とした棒状のものが、音を立てて足元の洗面器に落下していく。

「由利香、こんなに可愛いお尻からたくさんうんちしてるんだ」

 由利香は言葉に弾かれたように振り向く。ぼくに抱えられてはしたなく広げたお尻から便を垂れ下がらせる自分の姿を目の当たりにして、「いやぁあ……」泣き声をあげてぼくの首に顔を埋める。

「ごめんね、変態で……」

 でもぼくには妙な自信があって、ぼくが斯く在ることによって、ぼくが愛しく思う少年が少女が、確かに幸せに近づけると信じているのだ。

 由利香の排便は終わったようだ。甘くすら感じられる蠢きをする、鏡ごしの少女の肛門、「入れていい?」と、いまだって繋がっているのに、ぼくは由利香を腿に乗せて座り、訊いた。

「……こんなの、はじめてです、こんなに恥ずかしいこと、したの……」

「『お客さん』は由利香にうんちさせたりはしないんだ?」

「……だって、臭いし、汚いし、こんなの、普通はみんな、嫌いだと思います……」

 まあ、ぼくが人一倍変態だっていうのは、もう判っている。事実として、由利香がお尻の下の洗面器に落としたものは少年たちのもの同様、健康的なしろもので、特有の匂いを漂わせているけれど、ぼくはそれが不快ではない。むしろ、こんなに可愛らしい少女が出してしまったものと考えて、好ましくすら思ってしまう。

 由利香はぼくの頬を掌で包んで、唇を重ねた。

「……ちゃんと、責任を、とってください。わたし、こんな恥ずかしいことしたんですから……」

 それだけがぼくに出来ること、だから約束の気持ちを篭めて、ぼくの方からもう一度キスをした。

 お尻に挿れるのであれば後ろからの方が合理的だ。由利香も判っているらしく、ぼくの腿から立ち上がって、手を宛がい、緩まった肛門にそろそろと身を沈めていく。

「あぅんっ……」

 やはり、「前」よりも気持ちいいらしい。大きく足を開いたままぼくと繋がった瞬間、

「あ、あっ……!」

 由利香は背中を反らして全身で快感をアピールする。

「気持ちいいよ、由利香のお尻の穴の中……」

 ぼくが囁いても、もう答える余裕はない。太腿を抱えて上下に揺するだけで、由利香はこれまで以上に甘酸っぱい声を上げ始めた。ぼくはもっと由利香の身体を愉しみたくて、おっぱいとおまんこを、左右の手で同時に弄る。

「きゃンっ……!」

 やすやすと飲み込まれたぼくの指先のごく近い所で、肛門がきつく狭くなる。そちらが感じるのも当然で、その反応は鋭い。一方で乳首を指先で転がすようにしながらおっぱいを揉むと、ヒクヒクッと小刻みに締め付けてくる。

「すっごい、敏感になってるね……。うんちの穴、そんなに気持ちいいんだ?」

 ぶるぶると首を振って、

「お兄さんっ、もぉっ、はやくっ、はやくっ」

 ぼくの射精を求め始めた。少女自身の到達が間近なのだろう。その声は快感と焦り、両方を帯びて濡れている。

 ぼくの身体だって、態度ほどの余裕が在るわけじゃない。

「いいよ……、一緒にいこうね」

 ただ、そのためにはもう少しスパイスがあってもいい。

「ねえ、由利香、教えて。ぼくの左手が触ってるの、どこ?」

「え……?」

 きゅ、と粒の乳首を摘む。またヒクヒクッと肛門が震える。

「わ、たしのっ……、おっぱい、です……っ」

「そう。ちっちゃいけどピンク色の乳首がすっごい可愛い、由利香のおっぱい、正解。……じゃあ、ぼくの右手の人差し指が入ってるのは?」

「おにい、さっ……」

 中で指を動かす。由利香の愛の蜜が溢れ出てくる。少女でもこれだけの量を分泌できるのか、それとも、この子が特別なのか。

「おまんこっ……、わたしのっ、おまんこぉ……!」

「うん。由利香のおまんこ。オモラシしたみたいにぬるぬるどんどん出てくる。……『みたいに』って言うか、さっきオモラシしてくれたよね」

「ぃ、やぁ……っ」

「じゃあ、最後だよ、由利香。由利香の中に入ってるのは?」

 はっ、はっ、浅い呼吸が、濡れている。

「お、にぃ、さ、のっ……、おにぃ、さん、のっ、おちん、ちん……っ」

「じゃあ、其処は、何の穴?」

「んっ、あ……、わ、たしのっ、おしりの……っ」

 由利香が落し物をした洗面器を、ぼくは由利香の足の間に引き摺り寄せた。まだ湯気を立てている、同時に臭いも漂う。とても、こんな可愛らしい女の子の出した物とは思えない。

「お尻の穴、そうだね……。こんなたくさん出しちゃった場所だ。何を出しちゃったんだっけ? この茶色、何て呼ぶかわかるよね?」

 辱めを与える言葉に、由利香がぶるぶるっと震える。しかし彼女は判っている。

「……由利香の……、うんち……です……」

 濡れた囁きが溢れた。

「うん。だけどぼくのが入ってる。だからこっちもさ、ぼくにとっては由利香の『おまんこ』だよ。オシッコの出るおまんこと、うんちの出るおまんこ、……あとお口もそうか。由利香は三つの場所でぼくを幸せにしてくれる。……すっごい可愛い、ぼくの妹だ」

「お兄さん……ッ」

 ぎゅ、ぎゅうう、ぼくのペニスは鋭く締め付け上げられた。女の子の到達を、女の子としては不適切な場所でぼくは知り、もう言葉を繋ぐ余裕もなくなる。

 息を詰めての射精、……由利香のお腹の奥で轟き、少女を悦ばせることが出来たなら本望だ。

 後ろから優しく乳房を揉みしだきながら、小さな耳に、華奢な肩に、キスをする。

 ぼくはもう、ほとんど決めてしまっていた。

 この子に、もう少し此処に居て貰いたい……、居て欲しい。

 ぼくの頭の中では――快感の余韻にまだ浸りながらも――ある種の計算が成立しようとしていた。このあとに会う少年とこの少女を会わせてみよう、と。幸い由利香は昴星たちのことも知っていて、男の子の扱いには慣れている。

 由利香と諭良が醸すハーモニー、二人が共に居ることで起き得るケミストリーを思うと、ぼくは由利香の中に入ったまま、尽きることのない性欲がまた湧き出してくるのを感じざるを得なかった。


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