お兄さんは優しそうだったから

 

 ぼくの隣の小便器に立ったその少年の、ジーンズのボタンを開け、ジッパーから取り出された白い陰茎は斜め上方を向いていた。

 ぼくが鮒原昴星と、牧坂流斗と、……心の底から愛しくって仕方がない少年たちと出会ったのは、いずれもこの「城址公園」でのことだ。最寄り駅からぼくの家へ帰ろうとするならば、コンビニの角で曲がって川沿いを歩くのが平坦で疲れない。けれど、距離的にはやや遠回りになる。それというのも、この城址公園の小山が行く手を遮るからで、例えば見たいテレビがあったりすごくお腹が空いていたりしたときには、ショートカットの意味を篭めてこのルートを選ぶこともある。森の中の木組の階段を登って丘の上へ至り、そこからなだらかな石段を降りていくと川沿いの道にぶつかり、其処からぼくの家までは目と鼻の先。例えばぼくは今日、サッカーの中継が観たかった。そのスポーツじたいに取り立てて興味があるというわけではないのだけれど、やはり国際試合の中継をやるとなれば、見ておきたい。会社で同僚になり上司なりにいきなり話題を振られても困らないし。……この時間なら、後半の開始には間に合いそうだと携帯電話の時計を気にしながら、ショートカットを選んだのにはそういう理由があった。

 ぼくが辿る道の途中には、ジャングルジムやブランコ、シーソーを寄せ集めた一画があって、そこから更に進んだところに、トイレがある。ぼくが流斗と初めて出会い、少年に誘われるままに悪戯をしてしまったのはそのトイレだ。男女に分かれてはいるけれど、男子側にあるのは小便器が二つと、和式の個室が一つ。女子の方はどうなっているのか、もちろん入ったことなんてないから判らない。

 ぼくが朝顔の前に立ったのは、別に強い尿意を抱えていたからじゃない。ただ、トイレの数十メートル前から、「どうしようかな」ということを考えてはいた。大のほうなら、よっぽど切羽詰っていない限りは自分の家の洋式で行うけれど、小は気軽にひょいと入って済ませてしまえる。家に帰る前に寄らないと漏らす、というほどの焦りもなかったけれど、我慢は身体に良くないとも思う、ぼくがトイレに立ち寄ったのには、その程度の理由しかなかった。

 誰かがトイレに入ってきたな、という気配は背中を向けていても判る。午前中に降った雨で、城址公園の下土はまだ少し湿っぽく、コンクリート床のトイレに入ってくる足跡は砂を含んだようにじゃりっと鳴った。足音の主は、二つあるうちの左を占有するぼくの右隣に立つ。ぼくは自分の視界に入ってきた横顔が、背は高くとも少年のそれである、ということに、すぐ気付いた。

 昴星と流斗という、比類なき美少年二人と理想的な関係にありながら、……これはショタコンの性というもので、隣に立った少年の顔を、ぼくはそうっと伺った。現在時刻は午後七時五十分、塾帰りかもしれない、少年は肩から鞄をたすきに掛けて、グレーのセーターとジーンズという出で立ち。グリップに砂の噛んだ靴は紺色のスニーカーであり、ぼくは当然、その少年の足がとても細く長く、その横顔もはっとするぐらいに整っていることに気付かされる。漆黒の髪だが、鼻が高く、どこか西洋的な顔立ちである。瞳も、灰色っぽく見える。落ち着いた雰囲気は、昴星や流斗よりも才斗の方が持っているもので、多分、もう中学生ぐらいだろうと思われた。

 ぼくと彼との間に、物理的な「壁」は存在しない。二つ並んだ朝顔の間には薄水色の汚れたタイルの壁があるだけで、目隠しになるものは全くないのだ。……少年はぼくの視線を意識する様子もなく、ジーンズのボタンを外し、チャックを下ろし、下着から――当然トランクスだろうと思っていたら、意外にも彼が穿いているのはグレーのブリーフのようだった――ペニスを取り出す。

 そしてぼくは見たのだ。……その少年のおちんちんが、くっきりと、斜め上を向いているところを。

「え」とか「あ」とか、声が出なかったのは我ながらよく冷静さを保ったものだと思う。

 元来、男の子のその場所というものは。

 なんて、そんな大上段に構える必要もないのだけれど、前提として言っておきたいのは、男の子のおちんちんっていうものは、いま当たり前のように昴星と流斗の大きくなって貪欲に快感を求める少年フォルムを見られるようになっても相変わらず、小さくてぷるぷるしてるものだという印象が、固定化されている。だからそこがそんな風に大きくなって上を向いているさまを見ると、平常時のそれとの違いがすっごくビビッドで、見せられるこちら側としては心臓が転びそうになるのを堪えるのが大変なのだ。特にぼくのような、ショタコンにとっては。

 何でこの子、勃起してるの……?

 特大の疑問符に圧し掛かられながら、ぼくは放尿を終えた。自分のペニスにじっと視線を落とす少年の横顔は、彼自身のそういう部分の主張を全く感じさせない無表情で居る。

 ぼくが彼の勃起を、まだ毛の生えていないこと、先端まで綺麗に皮を被っていることなどまで含めて事細かに観察出来るのは、少年が便器から離れて立っているからだ。

 ……いや。

 ぼくは自分の放尿を終えつつ、冷静さを保とうと努めて考える。……少年の勃起の理由として、唯一合理的と考えられるのは、彼がそもそもこうして朝顔の前に立っていることから導き出されるではないか。そう、オシッコを我慢していたのだ。

 オシッコを我慢して、手でおちんちんを握っているうちに、そうなってしまっただけ……、そう判断することも出来る。いや、よく考えてみたらそれ以外に理由なんてないだろう。其処まで納得すると、何だかジロジロ見てしまったことが急に申し訳なく思え始めた。ぼくは確かにショタコンだけれど、少年に危害を与える存在では居たくない。ぼくの持つ欲を理解し、自ら望んでその身を貸してくれる昴星と流斗さえ居れば、ぼくはもったいないぐらい幸せで居られるのだから……。

 冷静さを取り戻し、ぼくは昂ぶる前に自分のペニスをズボンの中に仕舞う。そもそも少年の陰部を観察しようとしてしまったことがおかしいのだけれど、まあ、うん、いいものを見られたということは事実……。いつもは昴星や流斗が撮らせてくれる動画や、二人から贈られた下着で処理する性欲を、今夜は「隣の少年」の見せてくれた姿でどうにかするのも一興かもしれない。ぼくは何の未練もない訳ではないけれど、何も見なかった振りをして、背後から少年が大きくなったおちんちんから放尿する音をゆったり聴いて、その音が止んでからやたら勢いの強い蛇口で手を洗い、トイレを後にした。無害なお兄さんはサッカーの試合中継のために、さっさと帰るのである。

 

 

 

 

 一昨日のサッカーの試合は引き分けに終わった。結果だけ見るとちょっと残念な気もするが、ぼくがテレビの前に座った時点ではビハインドだったのを、後半のロスタイムで起死回生という内容だったから、見てよかったと思う。職場にサッカーオタクが居るもので、また其れがぼくの上司だったりするもので、円滑なコミュニケーションのためにもハイライトをスポーツニュースでチェックするだけという態度では居られないのだ。社会人って馬鹿みたいだと思う。

 もっとも、ぼくにとって一昨日の「ハイライト」はロスタイムの同点ゴールではなくてあの城址公園トイレで出会った少年の勃起だったことは言うまでもない。

 金曜日の夜ということもあって、帰りの電車は混んでいた。一週間仕事を頑張った後だから、当然疲れている。けれど気持ちが前向きなのは、明日、流斗が遊びに来てくれるからだ。いや、流斗が来るのはぼくに会うためじゃなくって、本当は昴星と才斗のところに遊びに来るのだけれど、そのついでであったとしても、大切な「友達」に会う予定の入った土曜日は、ぼくに生きる力を与えてくれる。昴星と才斗とも、少しだけなら会えるはずだし。

 これまで「恋人」なんて存在とは無縁で生きてきた。友達も、そんなに多くない。その状態は学生時代も社会人になってからも変わらず、休日はいつも一人で家事と買い物を済ませたらのんびりごろごろ、ただ体力を回復させるためだけに費やしてきたことを考えれば、金曜の午後から「明日はどうする?」みたいなメールを遣り取りするような自分の人生の急激な充実っぷりが凄いと思う。何もかもが、昴星と流斗、二人の美少年によって齎されたもの。もちろんぼくがしていることと言えば、人に知れれば陽の当たる所を歩けなくなってしまうようなものではあるのだけれど、全てを喪うことになったとしてもこの幸せを人生において一度でも味わえたことを、ぼくは心底から喜ばしく思っているし、ぼくの居ることで昴星と流斗の生活が少しでも潤うならば何だってしようとも思っている。

 駅を出てすぐのコンビニで、ビールとジンジャーエールとおつまみを買った。ぼくは普段、お酒をあまり飲まない。そう強い方でもないし、お酒の味も実際の所よくは判らないのだけれど、こんな風に上機嫌な夜には少しぐらい飲んだっていいとも思う。そういう理由で、一緒にジンジャーエールを買った。ぼくが唯一作り方を知っていて、美味しいと思うカクテルである。

 おつまみは、焼き鳥とポテトチップス。焼き鳥と言ってもレジ脇のケースに入った、「レトルトのを茹でました」然としたものではあるのだけれど、ビニール袋に入った紙包みからほんのりとタレの匂いが漂ってくると、それだけで嬉しくなってしまう。冷めないうちに食べたくて、近道を選ぶ。幾つかの灯り以外はなく、眠りに落ちた夜のような城址公園の中を早足でぼくは歩く。「チカンに注意!」の看板が出ている通りで、夜になると極端に暗くなる城址公園の中を通ろうという女性はいないだろう。ぼくだって小学生ぐらいの頃には近寄らなかったほど――いじめっ子に夜おいてけぼりにされてトラウマになったぐらいだもの――だが、いまではまるで平気。流斗と昴星がこの公園で露出ごっこをしたと聴いたときには、さすがの度胸だと感心したけれど、まあ、何にせよ人に出会うことは稀だ。

 だからこそ、この間、……今日より一時間以上早い時間だったとは言え、あの「勃起少年」に出会ったときには驚いた。階段を昇り、児童遊園を抜け、あのトイレが近付いて来るにつれ、ぼくはそんなことを考え始めていた。

 塾帰りらしい格好をしてはいたけれど、いま思い返して見ると、この辺に学習塾なんてあったっけ? 電車で一駅隣に行くと都心まで一気に出られる幹線路線の駅があって、その駅の周辺はこの地域でも最も栄えていて、恐らく学習塾もその辺りに集中してあるはずだ。ぼくが中学に上がってから通った塾も、駅前にあったし。

 考えても答えは出てこない。

 あの子、……多分、顔立ちからしてハーフだろう。この辺の子ではないのかもしれないよな、という気もする。別にこの付近に住んでいる子供を全て把握しているわけでもないし見分けることも出来ないだろうけれど、ハーフの子供を見た記憶は一度もない。

 考えたってしょうがないことだ、と思う一方で、「美少年の勃起ペニス」という鮮烈な印象を与えてくれたのだ、忘れようにも忘れられない。実際あの日の夜、あの子のあの部分を思い出しながら一人の夜を埋めた。あの少年がもしこの辺に家なり塾なりの拠点があって、あのトイレを常用しているのならば、また会えるかもしれない……。いや、会ってどうするってもんでもないんだ、繰り返しになるけどぼくはいまの日々に何の不足も感じない。楽しく遊べる美少年が二人もいるし、彼ら以外にも先森遍や先日の温泉の由利香のように、彼らが望んだかどうかは置いても裸を見せてもらったことがある。「これ以上」なんてことは、ないと考えるのが当然だろう。

 それでも、焼き鳥が冷めるのを気にして城址公園を通り抜けることを選んだぼくの足は、トイレが近付くに連れて誘われるようにそちらへと近付いていく。……食品を持ってトイレに入るのは気が引ける、けれど、別に用を足すわけじゃない。じゃあ何でトイレに向かうのかと問われても、取り立てて理由を見つけることは出来ないのだけれど。

 青白い蛍光灯が寒々しく男子トイレは、まあ、立ち寄るまでもなく当然のこととして、無人のようだった。

 そりゃ、そうだよね。

 はぁ、と自嘲気味の溜め息を吐くと、ふわっと息が上がった。もう明日には十一月、そんな季節だ。晩秋の夜、公園のトイレで何をやってるんだろう、馬鹿みたいだなあ。

 焼き鳥が冷めないうちに早く帰ろう、そう思って踵を返しかけたぼくの耳に、ぽちょん、と何かが水に落ちる音が聴こえた。

 ぽちょん、……何の音かな、と訝る。洗面台の蛇口が甘くなって居るのだろうかと目を向ける前に、いやそれにしては音が大きいぞということに気付いたし、同時にぼくは一つきりの個室が閉じていることに気付いた。

 ああ、……そうか、と思う。水溜りに落ちた音だ、その、あれが。

 おっさんの排便音なんて聴きたくないぞ、耳に大腸菌が這入ってきてしまうような気になる。ましてや臭いなんて。普段、美少年たちの、まあ「愛らしい」とは言えないにせよ十分鑑賞に耐え得る排便シーンを目にしているぼくは一般よりも「うんこ」という物体への耐性がある方だと自認しているけれど、それもあくまで「美しい男の子(つまり、昴星と流斗)若しくは相当に可愛い部類の女の子(要するに由利香)」に限った話で、引き出しの中でダンゴムシを苛めるのが趣味みたいな鼻垂らしたガキのうんこなんて見たくない、臭そうだし。

 いやまあ、昴星たちの――特に昴星の――も相当に臭いのだけれど。

 帰ろう、と足を動かしかけたぼくが再び其れを留めたのは、

「んんっ……」

 という、ぼくの鼓膜に親和性の高い声が、個室の扉の向こうから微かに聴こえて来たから。

 まさか声の高いおっさんが硬いのを出そうとしていきんでいる訳ではないだろう。

「んっ……はぁあ……」

 ちゃぽん、とまた物体の落下する音が、静かな公園のトイレの中に響いた。

 ぼくは立ち尽くして、呼吸の回数さえ減らして、耳を澄ましていた。

 いや、声だけで、どんな少年が排便しているのかどうかまでは判らない。昴星や流斗は顔に相応しい甘く透き通った声をしているけれど、声が可愛いだけで、それはもう筆舌に尽くし難い外見の、一応年齢性別だけは「少年」の要件を満たしているような子かも知れないじゃないか。

「ん……っ」

 けれど、それは耳に心地良い声である。変声期まで間遠いことが明らかな昴星の声とは違う。まだ喉仏が尖っているとは思えないが、もう少し落ち着いた波長の。

 此処のトイレは和式である。木製のドアを開けたところに、真っ直ぐ背を向ける格好で便器が設えられている。だから流斗と初めて会ったとき、ぼくは真後ろから、まだその日は「りょうた」と名乗っていた流斗が突き出した小さなお尻から大量の便を落とす所をよく観察することが出来たのだ。

 扉の向こうには、この声の主が、同じように……。

 からから、とロールペーパーが巻き取られる音が響いて、すぐに想像を止めた。足音を立てないように後退りして、そっとトイレから抜け出す。けれどぼくの頭からは、右手にぶら下げた焼き鳥のことなんてもう抜け落ちてしまっていた。トイレの建屋の裏に隠れて、息を潜めて待つ。待ってどうするって、……どうすることない、どうすることも出来ないのだけれど。

 手を洗う音が聴こえて、少し遅れて足音が動き出す。トイレから、スニーカーの靴音はやや足早にぼくに近付き、……目の前を通り過ぎる。

 あっ、と声を上げそうになった。

 逃げるように大股で歩き去って行ったのは、先日の、あの少年だったのだ。

 少年の背中が階段を降り、見えなくなるまで待って、ぼくは心臓が腫れたみたいに脈打つのを覚える。……こういう類の緊張を覚えるのは久しぶりだ。昴星と流斗はもう、当たり前のようにぼくにどんな姿だって見せてくれる。もちろん興奮して心臓は早鐘を打つのだけれど、いまのこれは、違う。

 罪深さの伴う、苦しいほどの緊張。ぼくは誰も来ないことをもう一度確認してから、あの少年が一分前までお尻を突き出して排便していた個室へと向かって。

「あ」

 と、今度は声が出てしまった。

 便臭の篭もった個室の中央、少年の忘れ物がそのままの形で残っていた。スレンダーという言葉が相応しいあの子の身体の中に詰まっていて、吐き出されたものは、ごく健康的に輪郭を保ったままだ。お尻を拭いた紙が水に半ばまで溶けて浸っているのが、妙にリアルだとぼくには思えた。

 でもそれ以上に、……前方の壁だ。

 床から数十センチに渡って、飛沫をぶちまけたように濡れている。それが何によるものかは、想像するまでもない。二日前、彼が見せてくれた勃起から噴き出した液体が勢いそのままに、その場所に絵を描いたのだ。

 それでもぼくはまだ、合理的な説明が出来るつもりでいた。……あの子は排便の欲を堪えていたばかりではなく、オシッコもしたくて仕方がなかった。この個室に飛び込んだときには、一昨日のようにおちんちんが大きくなってしまっていて、でも収まるのを待つほど括約筋は余裕のある状態ではなかった。

 しゃがみ込むなり、両方が同時に出てきてしまったのだろう……。

 けれどそういう想像は、金隠しのアーチの内側から、小さな音を立てて落ちた雫を見て自ら否定しなければならなくなった。

 オシッコをほとんど全て外に出してしまったのだから、水溜りの中が透明なのは、まあ判る。ただ、滴った一滴の雫は、いつまでも透明な水の中で、ふわふわ漂い、その形をはっきり残している。

 精液だ、という理解は、ごくスムーズにぼくの中で行われた。こうなるともう、合理的な説明なんてしようがない。

 いや、……落ち着け、違う、違う違う。こういうシーンを経験したことがあるぼくだからこそ、以下の通りに推理出来るのである。すなわち。

 あの少年は、きっと、昴星の差し金なのだ。

「りょうた」という偽名を名乗って流斗がぼくに悪戯をさせるよう仕向けたのと同様、あの少年もきっと。

 そう考えれば、少しばかり、納得も行く。……そう、それならばいいんだ、うん。

 ぼくはレバーを踏んづけて、少年の忘れ物を流しながら、ゆっくりと溜め息を吐く。

 ひょっとしたら明日、流斗と一緒に会いに行く昴星と才斗の他にもう一人、あの少年が立っているのかもしれない。それはなかなかに心躍る想像だ。

 すっかり焼き鳥は冷めてしまった。けれどぼくは足取り軽く家路を辿った。

 

 

 

 

 結論から言えば、ぼくの推理は外れた。

「は? うんこ流さねーやつ?」

 流斗とたっぷり遊んだ土曜日、の夕方。ぼくが流斗を昴星たちの待つマンションへ送って行き、ぼくへの複雑な視線を消しはしないものの気の効く才斗に「せっかくだからお茶ぐらい飲んでから帰ってください」と言われて上がらせてもらったときに、質問をぶつけて見たところ昴星の口から出てきたのは右のような言葉だった。

「うん、……えーと……」

「昴兄ちゃん、うんちしたらちゃんと流すよね?」

 流斗にそう訊かれて、昴星は自信に満ちた表情で頷く。「あたりまえだ、そんなマナーの悪い真似はしねーぞ。アンド尻もちゃんと拭く」

「じゃあどうしてパンツがあんな黄ばむんだろうな」

 ぼそり、才斗が呟く。

「そんなんおまえ、おれのパンツから黄ばみがなくなったらつまんねーだろ、世界の終わりだ」

「そんな簡単に終わる世界で溜まるか」

 とにかく、昴星も才斗も、流斗だって、「知らない」の一点張り。知らないとなれば、その少年がどうやらあの個室でオナニーをしていたらしいということも言えないし、身体的特徴についても余り詳らかにしてはいけないだろう、……どういう繋がりであるにせよ、あのハーフの少年のことを三人が知っていたなら、「よう、おまえうんこ流さねーらしいなー」と昴星はまず間違いなく、彼をそうやってからかうだろうから。

「んで? おにーさん、そいつにイタズラしたの?」

「しないよ!」

 ぼくは慌てて首を横に振った。才斗がじっとりと疑うような視線を送ってくる。

「誤解しないで欲しいんだけど……、ぼくは確かに、君たちみたいな男の子のことが好きだよ。でもね、可愛い子を見たら誰でも悪戯をするような、そんな男じゃないんだ」

「ふうん、その子、可愛かったんだ……」

 流斗の呟きに、「いや、流斗や昴星の方がもっと可愛いけど!」とまた大慌てで付け足す。

「……捕まりたくないから、でしょう」

 溜め息混じりに才斗が言ったことには、素直に頷くほかないのだけれど。

 とにかく、ぼくはあてが外れた。ぼくの飲んでいたお茶を、もちろん構わないのだけど勝手に啜る昴星、断りもなく膝の上に乗ってくる流斗、相変わらず二人とも、二人しか持ち得ない可愛らしさを纏っている。流斗は昼間五回も射精したのにまだ元気そのものであり、このあと当然、少年たちは三人で遊ぶのだろう。

 そう思ったのだけれど、才斗はあまり顔色が良くない。何となくぼんやりとしていて、頬杖を付いた端正な相貌は、薄曇といった感じか。

「……才斗、元気がないように見えるけど」

 ぼくの問いに、はっとしたように顔を上げて、「何でもありません」と首を振る。その表情に、一瞬だけど、確かに、昴星も同じように憂鬱そうな目をした。悩みなんて何一つないと言わんばかりの昴星がそういう目をするのは、非常に珍しい。何かを言い掛けた流斗が、才斗に視線を送られて黙りこくる。

 何があったのかは判らない、けれど、何かがあったのだ。

 ただ、少年たちがそれを秘密にしたいのならば、あえて穿り出して訊く必要も権利も、ぼくにはない。「そう、ならいいね。お茶ごちそうさまでした」と笑って済ませるだけだ。薄情に見えるかもしれないけれど、ぼくにだって秘密があるように、少年たちが同じくそれを持っていることは、それ自体、大事なことだろう。

 秘密、という点で言えば、あのハーフの少年のことも、ぼく一人の秘密として抱えていなければならないことのようだ。

 日曜日、月曜日と、先週の水曜日と金曜日に遭遇したぐらいの時間帯に公園をぶらついて見たけれど、彼に出会うことはなかった。昴星たちとは知り合いじゃないということが確定した彼が、どういう習慣であのトイレに立ち寄るのかは、ぼくには全く計り知れない。

 彼が昴星たちに非常に近い嗜好を持っているのかもしれない、ということは、何となく想像が出来る。少し前まで――つまり、昴星たちと知り合いになる以前まで――なら、まさか自分の排泄行為に興奮するような少年がこの世に存在するとは思いもしなかっただろう。

 けれど、いまのぼくはそういう少年を二人も知ってしまっている。

 もちろん、ぼくは彼に積極的なアプローチをする気でいるわけじゃない。ただ、やっぱり気になるでしょう、……あれだけ綺麗な顔をした男の子が、どうしてあんなことをするのかって。

 もし三度目の出会いがあったとしても、……ぼくは彼に話しかけたりは出来ないだろう。一度目のときに見た、勃起したおちんちん。二度目のときに見た、あの排便後の状況。いずれも彼にとっては「秘密」に違いないものだから、それはやっぱり、そっとしておいてあげるべきものなのだ……。

 そう思って居ながらも、今日、水曜日、ぼくはあのトイレの手前の児童遊園で晩ご飯を食べていた。もうスーツの上にコートを羽織らないと寒いような夜、コンビニで買ったおにぎりを、早くもぬるくなりはじめたお茶で流し込んでいる。時刻は八時を回った。あの子が来るとしたら、もうそろそろ、という時間だ。

 ぼくはゆっくりと腰を上げ、あのトイレに入る。まだ無人だ。彼が訪れた気配もない。個室の壁には、「トイレは綺麗に使いましょう」という真新しい注意書きをした貼り紙が掲示されている。

 単純な尿意に基づいて、朝顔の前でジッパーを下ろした時に、背後に足音がするのをぼくは聴いた。

 振り向かないまま、放尿を開始する。ゆっくりした足音は、ぼくのすぐ隣にやって来て、止まった。

 ジーンズのボタンを外し、ジッパーを下ろすところがはっきりと横目に観察できる。やはり「彼」だ。先週と同じように、もう一歩便器に近付かなければいけないポジションで、彼は着々と放尿の準備を進めていく。

 だが、ブリーフの窓からおちんちんを取り出しかけて、彼はやめた。

 その瞬間、ぼくは全く想定に入れていなかった可能性にぶち当たって慄然とした。……すなわち、この少年がぼくの思っているような、昴星たちのような少年ではない、という可能性。

 勃起をぼくに見せるつもりなんて全くなくて、排便後の始末をしなかったのも、単純にし忘れてしまったから……。

 精液と思った液体も、ひょっとしたら何か違うものだったとしたら? ……鼻水とか。

 身を硬直させたぼくの視界で、少年が一瞬、身を屈めたように見えた。

 その次の瞬間には、広い肌色が飛び込んできた。

 幼児がするように、彼はブリーフとズボンをいっしょに膝まで下ろし、セーターを捲り上げて、先週見たものと同じ、幼い形のまま勃起した自分のペニスで斜め上を差している。

 ぼくは、とっくに全て出し切った後の自分のペニスをしまうことさえ忘れて、もうはっきりと、少年の半裸のサイドビューを目にしていた。

 美しい顔をした少年は、不規則なリズムで自分の勃起を強張らせている。

 どれくらいか、判らない。多分数秒程度だったのだろうけど、ぼくにはとても長く長く感じられる時間、そうしていた彼は、

「こんばんは」

 と透き通った声で、ぼくに挨拶をした。

「……こ、ん、ばんわ……」

「三度目ですね」

 彼は確信を帯びたような眼で、言う。三度目? こうして顔を合わせるのはまだ二度のはずだ……。

 いや……、違う。彼は金曜日、ぼくが「二度目」と思う邂逅を、きちんと自覚しているのだ……。

「お兄さんは」

 少年は静かな声でいた。しかし、その唇は僅かに震えているように見えるし、雪のように白い頬には赤味が差している。やはりハーフだろうと思われたが、日本語はとても綺麗だ。「オシッコ、終わったのに、どうしてまだそこにいるんですか?」

「どう……して、って……」

「どうして」……その言葉から始まる疑問ならば、ぼくだってたくさん抱えている。そもそも君の方だって、オシッコをするためにそこに立っているのにどうしてしないのか。いや、どうしてそんな、幼い子供みたいにお尻まで丸出しにしてオシッコをしようというのか。それにどうしてそんな風におちんちんを大きくしているのか。

 そもそも、君はオシッコをしに来たのか。

「……ユラ、です」

「え……?」

「僕の、名前」

 ぼくは口を開けたままだった。「教諭の『諭』に、良い、という字で『諭良』です。……お兄さんの名前は、別に知らなくてもいいです」

 彼は下半身の表情からは信じられないぐらいの静かな声で言う。けれど、彼の声はやはり少し硬い。緊張している、そして同時に、興奮している。この状況に……?

 諭良は自分の肥大化したペニスを摘んで、そっと皮を剥き降ろした。

 すぐに行き詰まる。粘膜質の亀頭の中央、細い単眼を涙で潤わせている。それがいままさに出ようとしているオシッコではないのだということは、ぼくの目にも明らかだった。

「そっち」

 諭良が手を離すと、ゆるゆると皮は元の通り、少年の亀頭を覆い隠してしまった。「ここだと、誰かが来るかもしれませんから……、そっちに隠れませんか?」

 隠れて何をするのかということを、諭良は判り切っているように、そうぼくに促す。ぼくが動けないでいると、彼は自らジーンズを上げて、肩からの鞄を揺らして個室の中へと入ってしまった。

「早く。誰か来る前に」

 昴星たちの知り合いでは、ないのだ。

 ……ぼくは混乱している。どうするべきなのか、全く判らなくなっているのだ。こういうときに優先されるべきは、道徳観であったり倫理観であったり、つまり、真っ当な人間として取るべき態度はどのようなものかという知識だ。ぼくが人生を歩むに当たって色々な人から教わってきたことに素直に従うべきなのだということは、わかる。

 それなのに、ぼくは個室の中に入ってしまった。諭良は初めて微かに笑って、

「お兄さんは、ぼくみたいなのに、興味があるんですか?」

 まだ硬さの残る声で訊く。

「君、みたいなの、って……」

「……誰にも言えないですよね、こんなこと……」

 この少年は、やはり何もかも判ってこうするのだ……。

 諭良は、長い睫毛が触れるほどぼくに顔を近付ける。

「ぼくは、内緒にしてもらわないと困るんです、……お兄さんも、そうですよね?」

 ……当たり前だ、だって、こんなの……。

 緊張しきったぼくと、同じく緊張している少年と。お世辞にもいい匂いとは言えない個室の中でぼくの胸にぴったりと胸を重ねるように背伸びをした諭良のセーターからは、柔軟剤の優しい匂いが漂う。そして同時に、彼の肌からは何だか、塩素のような匂いがする。

「背が高いですね、……日本人なのに」

 ただ、ぼくがそういう観察を冷静にしていられた時間は短い。

 めいっぱいに背伸びをした諭良が、ぼくの唇に唇を重ねてきたのだ。

 腫れぼったいように熱い舌がぼくの唇を捲るように這入って、舌に舌を絡めてくる。昴星や流斗のように上手ではない、けれど、頭の芯まで蕩かすような情熱が篭もったキスだ。

 ぼくのペニスも、当然のようにトランクスの中できつく張り詰めている。

「……ちょっと、待って、……君は……」

 諭良は、唾液の伝った口元を指で撫ぜてぼくを見上げる。

「君は、どういうつもりで……。ぼくは、その、お金もそんなに持っていないし……」

 あらぬことを口走った。ぼくがこの状況でぎりぎり導き出せるそれらしい答えは、彼がお小遣い目的でぼくとそういうことをしようとしているのではないか、と。

 諭良は二重の目を、ほんの少し綻ばせて、「お金なんて、別に、いいです」と答える。

「それじゃあ……」

「ただ、ぼくは、遊んでくれる人が欲しいんです……。ぼくには、友達がいないから」

「……ともだち……」

「だって、……ぼくは、例えばお兄さんのおちんちんが見たいです。でも、そんなことをお願いできる人なんて、学校にはいません。おちんちんを見せてあげたり、見せてもらったりして、いっしょに気持ちよくなるようなことが、ぼくはしたい。でも、これはみんなには内緒の……。だから、ぼくと遊んでくれる、友達を探していました」

 諭良は、じっとぼくを見上げて言う。

「ぼくと、遊んでくれませんか……?」

 其処には、深い思いが篭もっていることだけは確かだ。彼は言葉を発しきったところで、僅かに後悔するように俯いてしまった。

 この子が孤独な同性愛者なのだということを、ぼくは理解した。「おちんちん」で「いっしょに気持ちよくなるようなこと」をしたいと希いながら、嫌われることを怖れて仮面を被っている。本当に心を許せる存在が、彼の周囲にはまだ居ないのだろう。

 昴星には才斗がいる。流斗には、二人がいる。彼らの性のベクトルを誰かが「間違っている」と言ったところで彼らが平気でいられるのは、自分のことを確かに理解してくれる存在が側にあるからだ……。

「……『遊び相手』を探してたの? そのために、この間から、ああやって……」

 諭良は、こくんと頷く。「お兄さんは、初めて会ったときからぼくのおちんちんを見て来ました。大抵の人は、あんな風に見たりはしません。きっとこの人は、ぼくみたいに、男の人のおちんちんが好きなんだって思いました」

 まあ、それは、ええ、確かに。

「でも、それだけだったら三回もお兄さんと会っていません」

「……どういうこと?」

 訝ったぼくに、諭良は、またほんの少しだけ微笑む。「美しい」という表現をしていいはずの顔だが、彼の笑顔はまだぎこちない。孤独な時間が長いから、笑顔になるのが得意ではないのかもしれないとぼくは思う。

「……あんな風にして……、ぼくのおちんちんに興味を持ってもらえたとしても、ぼくがその人と遊びたいって思わない人だったら、ぼくは嫌です。お兄さんは優しそうだったから……」

 諭良はそう言ってくれるけれど、ぼくの考えていたことまでは覗けないのだろう。ぼくは決して優しい人じゃない。先週に見た君のおちんちん、金曜日に嗅いだ君の排泄物臭、どちらもぼくのオカズになっている。

「……友達、に、なりたいってこと? 君は、ぼくと……」

 諭良は、こくんと頷く。考えていることの内容は極端なぐらいに大人びている、というか、かなり発展してしまった変態と言わざるを得ないけれど、その表情や仕草は、まだどことなく幼い不安定さを残しているように見える。

「その……、君の言う、『遊びたい』っていうのがどういうことか、君自身は」

 其処まで言い掛けたところで、ぼくは言葉を停めた。……外に、足音が聴こえる。

 踏みしめる音の重さで、それが大人だということをぼくはすぐに判断して、身を固めた。やや慌しく入ってきた足音は、個室の前を通り過ぎ、小便器の前で立ち止まった。……チャックを下ろす、……景気のいい放尿音が鼻歌と共に近付いてきた。

 すぐ側の気配に身を硬くするぼくに、諭良は背伸びをしてぴたりと抱き着く。少年の目は焦りを帯びて潤んでいる。ほとんど自然に、彼の唇はぼくに重なった。……諭良が緊張していることはぼくにも伝わっている。出来る限り音を立てないように、それでも諭良の舌はぼくの中に入り込んできた。

 水洗の音が鳴り、背後で手を洗い、……蛇口がきゅっと捻られる。上機嫌な鼻歌が足音と共に、徐々に遠ざかっていく……。

「……すごいこと、するんだね……」

 諭良は恥ずかしそうに俯いてしまう。していることと、本人の態度とが一致しない。

 けれど何処よりも雄弁な場所は、彼の、中途半端なところで開いた社会の窓からせり出すようなブリーフの膨らみをはっきりと訴えている。尖りの先にはぽつりと染みさえ浮かんでいた。

「あ……」

 ぼくの指が触れただけで、諭良はぴくんと震える。

 感じているのだ、と思ったけれど、指を少し動かして見て、違うのだと気付いた。その染みは、ぬるついてはいない。ただしっとりと濡れ、布の繊維の凹凸が指先にざらついて感じられる。

「……ちびっちゃったの?」

 諭良は恥ずかしさに震えながら、こくんと頷く。

「諭良は、……中学生?」

 意外なことに、諭良は首を振った。「六年生です……」

 ということは、……昴星と才斗と同い年ということだ。

「……何処の学校に通ってるの?」

 ぼくの問いに、諭良は言い澱んだ。個人を特定されることを、恐れているのだろう。もちろんぼくだって「諭良」という変わった名前を本名と確信しているわけではない。そもそもぼくは名乗ってさえ居ない、「お兄さん」なのだ。

 そういうことは、知らなくていい。諭良が昴星たちと同じ小学校に通っている可能性は否定できない――だって、此処から一番近いのがあの小学校だ――けれど、「友達がいない」と言う以上は、諭良と昴星・才斗の間に繋がりはないと見るのが妥当だ。そもそも、同じ学校の同学年だったとして、クラスまで一緒とは限らないわけで。

「諭良は、どんなことして遊びたいの……?」

 濡らしてしまった部分をぼくの指が辿る間、諭良は真っ白な頬を益々赤く染めて、甘い匂いの息を漏らしながら、「……えっちな、こと、したいです……」と答える。

「具体的には……? 諭良は、どんなこと知ってるの? おちんちんがこんなになっちゃうなら、もう精通はしてるんだよね? オナニーもしてるの?」

 こく、と諭良は頷く。そりゃそうだろう、金曜日、意図的に流し忘れたこの個室の便器に付着していた精液を、ぼくは思い出す。

「……どんなことでも、したいです。……気持ちよくなりたいです。でもって、ぼくがお兄さんのこと気持ちよく出来たら、お兄さん、ぼくの友達になってくれますよね……?」

 縋るような目で、諭良は言う。

「そうだね……」

 もう、後戻りは出来ない。

「例えばさ、……例えば、ぼくが諭良の裸を見たい、撮りたいって言ったら、諭良は、そうさせてくれるの?」

 諭良は、躊躇いなく頷く。膨大な量の寂しさがそのスレンダーな身体に詰まっているのだと思った。

 ぼくの手は、自然とポケットから携帯電話を取り出している。

「じゃあ……、ズボンを脱いで」

「……はい、脱ぎます……」

 羞恥心を感じていないはずがない。それでも諭良は――ぼくを「友達」と思うからなのか――どこか嬉しそうでさえある。ジーンズを、靴を片足ずつ履き替えながら脱ぎ、「便器跨いで、立ってみて」と言ったぼくに従って、そうする。細い足はすらりと長く、腰の位置が高い。自らグレーのセーターをおずおずと捲り上げて、染みの少しずつ乾き始めたブリーフを、ぼくに見せる。

 ぼくはもう、撮影を始めていた。合図となる音に、ぴくんと諭良が身を震わせる。

「こんばんは、諭良」

 ぼくの語りかけに、「こんばんは……」と素直に答える。

「……諭良が、最後にオネショとかオモラシとか、そんな風にさ、オシッコでパンツ汚しちゃったのって、いつ?」

「え……?」

「恥ずかしいことだよね。オシッコでパンツ汚しちゃうなんて……。諭良のパンツ、白いから、乾いたらすごく目立っちゃうんじゃないのかな」

 諭良は、一度、二度と唇を開け閉てする。カメラを前にして、緊張が高まっているに違いなかった。

 嫌なら、答えなくてもいいよ。そうぼくの声が出る前に、

「……今朝、です」

 と諭良は恥ずかしそうに答えた。「今朝?」思わず、ぼくは声を上げてしまった。

「……今朝ってことは、……つまり、オネショをしちゃったってこと?」

 こく、と少年は頷く。

 どこかの誰かさんみたいだ。いや、言うまでもなく、鮒原昴星がぼくの頭に浮かんだ。

 オネショ癖が治らない、というだけであれば、先森遍もそうだったけれど、あの子は昴星とは違って其処から発展して妙な欲を持ったりはしなかった。あくまで、昴星たちに巻き込まれて少年同士の性行為並びに射精まで至ってしまったに過ぎない。

 けれど、……これはあくまで仮説に過ぎないけれど、少年期に恥ずかしい秘密を作ることって、そのまんま少年自身の性のベクトルに悪影響を与えてしまったりするんじゃないだろうか。昴星の場合、二年生のときのオモラシと未だに治らないオネショが、才斗という恋人が自分のオシッコの匂いの染み付いたパンツに欲情するという事実が手伝ったとはいえ、今のように失禁嗜好の潜在的マゾヒストになるために多大な影響を及ぼしたことは疑えない。

「じゃあ……、諭良のパンツはいっつもそんな風にオシッコの染みが付いちゃってるんだ? ブリーフは染みが目立つから、恥ずかしい黄色いパンツにしちゃうんだね」

 ぼくはまた、諭良の染みに手を当てた。先程よりも布にしっかり吸い込まれて、じんわりと染みの輪郭が朧になっている。

「そんなパンツの中で、おちんちんこんな風にしちゃってるんだね……」

 諭良はぼくにペニスの先を布越しに弄らせながら、時折、そこでぼくの指を押し返してくる。昴星や流斗よりは大きいが、身長を考えれば、やはり未発達と言うべきものだ。

「お兄さん……、オシッコ、きたないです……」

 汚かったら触らないし、普段から匂いを嗅いだり口にしたり、するはずもないだろう。

「諭良、見てごらん」

 ぼくはスマートフォンのカメラを内側に向けて、ディスプレイを諭良に見せた。セーターにブリーフという姿で便器を跨ぎ、オシッコを染み込ませたブリーフの前部、はっきりわかるほどに膨らませた自分自身の姿に、諭良は相対することになる。

「わかる? すっごい恥ずかしい格好してる。……こんな秘密、誰かに知られちゃったら表歩けなくなっちゃうね?」

 諭良は泣きそうな顔で首を横に振る。ぼくは安心させるように、「大丈夫だよ、誰にも見せない。諭良とぼくだけの秘密だよ。……だから、もっと恥ずかしいところ、ぼくにだけは見せてくれるよね?」微笑んで、訊いた。

「もっと……、恥ずかしいところ……」

「うん、例えば……、そうだね。六年生なのに赤ちゃんみたいにパンツの中でオシッコしちゃって、びちょびちょにしちゃったら、すっごい恥ずかしいだろうね」

 諭良の漆黒の髪に指を潜らせて、

「起きたままオネショしちゃうところ、見せてごらん」

 ぼくの言葉が、ほとんど直接的に諭良のことを震わせるのを感じる。

 断られはしないだろう、という確信があった。あんな風に、……それこそ、自分の臭い排泄物を見せてまで、ぼくを誘ったのだ。

「そしたら、諭良のこと気持ちよくしてあげるよ。……『友達』だからね」

 その響きは、諭良にとってはたまらなく甘美なものらしい。

 もちろん、ぼくは何の責任も負わずにこう言うのではない。昴星や流斗ほど親しいわけではない、けれど、ぼくとこうして時間を過ごす以上は、この子のことももう、ぼくは「友達」として扱わなければいけない……。

 諭良は、ディスプレイに映る自分の姿とぼくの顔とを何度も往復して見た。その最中に、「あっ……」と小さく声を上げる。少年が理性を、自分の意思の抗いにも屈さず蕩かせてしまったことで起きる声だったと思う。

「あ、あっ……、だ、めっ……、オシッコ、出てきちゃっ……」

 間もなく、諭良のブリーフの尖りから、ホースに布を被せたみたいに水が溢れ始めた。諭良はディスプレイに映る自分の失禁する様子を泣きそうな顔で見ながら、セーターの裾を握り、膝をガクガクと震わせながらオモラシをしていく。見る見るうちに広がった染みはすぐに細い内腿を伝い、便器の中に黄色い雨を降らせる。湯気がその下半身周りから緩やかに漂い、色以上に濃く感じられる尿臭が個室の中を満たし始めた。

「あ……、あう……」

 ぶるり、諭良の身に震えが走り、勃起したおちんちんから窮屈なブリーフの中への放尿は終わった。

「可愛いね」

 ぼくは同意を求めるように、言う。

「そう思わなかった? 諭良、カメラの前でオモラシしちゃったんだよ。……我慢してたんでしょう、いっぱい出して、びしょびしょだ」

 自分のしてしまった行為を、どうにか受け容れようとしながらも、まだ僅かに残る理性がそれを許さないらしい。ぼくが優しく諭良の髪をまた撫ぜたとき、「ほんとに、……ほんとうに、誰にも、秘密にしてください……」と泣きそうな声で懇願する。

「もちろん……。でも、諭良は本当はぼく以外の誰かに恥ずかしい所見て欲しいんじゃないのかな」

「え……?」

「だって、オモラシしてる間も、いまも、おちんちん大きくなったまま収まらないよね? ……恥ずかしいのが好きなんじゃないの?」

 擽るように、熱い頬を撫ぜてみる。諭良の目は、落ち着きをなくしていた。相変わらず勃起は収まらない……。

「ぼくは、そういう変態な子、好きだけど。……まあ、せっかくぼくにだけ見せてくれた諭良のオモラシ、誰かに見せるのはもったいない気もするし、これはぼくが一人でこっそり見て愉しむことにするよ」

「え……」

 諭良は困惑している。心のどこかで、ぼくが提案したような辱めを、この少年は願っているらしい。

 うんちを見せてまで誘う思い切りの良さは、流斗に似ている。けれど自分の抱えるマゾヒズムに気付いていない純真さは、昴星のそれだ。

 いずれにせよ、ぼくに「可愛い」と思えることに変わりはない。

「約束したよね、オモラシしたら気持ちよくしてあげるって」

 諭良は赤い顔で頷く。おちんちんがピクンと強張ったのは、ブリーフの上からでもはっきり見て取れた。

「おちんちん出して。……そっちからじゃなくって、窓から。どうせだからさ、恥ずかしいオモラシパンツのままでいなよ。赤ちゃんみたいにパンツ穿いたままオシッコしちゃったおちんちんだって、それだけで判るからさ」

 流斗や、普段の昴星のように気が強くないと思うからか、ぼくは普段よりも意地悪が言えた。諭良は一瞬ブリーフを下ろしかけて躊躇ったが、こっくりと頷くと窓から自分のおちんちんを取り出す。

「出し……、ました……」

 肌が白い。だからその場所も真っ白だ。勃起しても細く、皮が余っているのがこの子のおちんちんの最大の特徴と言っていいだろう。

「剥けてないんだね。毛も生えてない。背は高いけど、ここはまだ子供なんだ?」

 こく、と素直に頷く。

「……ほんとにいっぱいオシッコしたね、ちょっと離れたとこに立ってたのにすごい臭かった。……もうパンツも黄色くなっちゃったね」

 カメラを寄せてみると、そのレンズの向こうに無数の視線を想像するのか、昴星よりも流斗よりも大きい、けれど輪郭的にはほとんど差のない諭良のおちんちんはビクンビクンと強張った。ゆっくりと時間を掛けて、いろいろな角度からの撮影を愉しんでから、ぼくは少年の未発達な陰茎に吸い付いた。

「あ!」

 昴星よりも、味が濃い。……しかし、匂いはやっぱり昴星の方が強いようだ。舌触りが少しぬるつくのは、尿だけでなく腺液がもう既に溢れていることの証拠だろう。塩気が強くて、シンプルに「オシッコ」の味がする、……なんて、少女である由利香も含めて、これで都合四人の尿を口にしてきたから、ぼくはある程度の舌が肥えているらしいことを自覚させられる。

 でも、どれが「美味しい」「美味しくない」ということではない。可愛らしい男の子(と女の子)の体から出てきたこんな綺麗な色の液体が、美味しくないはずがないので。

「あ、あっ……! ダメっ……、おにぃ、さっ……、だめぇ……!」

 指で皮の被りを押さえ、ぬめる亀頭を少し舐めただけなのに、……余程興奮していたのだろう、諭良は呆気ないほどあっさりと、ぼくの舌の上でおちんちんを弾ませた。……一度ごとの精液の放射量が、昴星たちよりもずっと多く、弾む回数も多い。昴星たちの、いかにも子供っぽく我慢しきれずに零してしまうような射精よりも迫力も勢いも強い。

 そう言えば、タマタマも昴星より大きいようだ。重たく、濃い味の精液を吸い上げて、味わっている余裕もなく喉が飲み込んでしまった。

「……フェラされるの、初めて?」

 バランスを崩しそうな身体を片手で支えてあげながら、ぼくは訊く。諭良は呆然の中で「はい……」と答えた。

「そう。……気持ちよかった?」

「はい……、気持ち、よかったです……」

「じゃあ、やっぱりオモラシで興奮してたんだ」

 諭良は、微かなためらいを見せた。けれど、「友達」に隠し事はしないのが普通だと思ったのかどうなのか判らないけれど、結局、小さく頷いた。

「じゃあ、……そうだね、すっぽんぽんになろうか。恥ずかしいならしなくてもいいけど……」

 自分の力で立った諭良は、ブリーフの窓から覗かせたおちんちんに余韻によるものではない震えを催させながら、セーターと内側に着た長袖のシャツを脱ぎ、それからよろめきながら、オモラシブリーフも脱いだ。上着とジーンズは汚れないようにぼくのコートに包んで壁のフックに掛け、ブリーフは広げて、「あ、お尻のところも汚れてるね」裏返して見せる。尿の黄色の中で一箇所、こすり付けたような茶色い糞の筋があった。

 諭良自身も想定していなかったのか、慌てた様子で、「それはっ……」と口篭る。

「諭良は、お尻拭くの得意じゃないの?」

 なにごとか、小声で諭良は答える。「ん?」と訊き返すと、顔を覆って、「……ぼくの、パンツ……、見て、……そういう、きたないの、見つけて……、ぼくの、友達が、どきどきするって、そう、思って……」途切れ途切れに告白した。すっぽんぽんの身体の中心で、上を向いたままのおちんちんは言葉と共に震える。

 やっぱりマゾヒストなんじゃないか。

「なるほどね……。確かに興奮するよ。諭良みたいに綺麗な顔した男の子なのに、パンツにこんな恥ずかしい汚れが付いてるのは……。じゃあ、ほんとはお尻、上手に拭けるんだ?」

「はい……、拭けます」

「じゃあ、拭くところ見せてもらおうかな。本当に上手に拭けるのかどうか、ぼくが見ててあげるから」

 諭良が覆う手から顔を上げる。「判るでしょ? ここで、一度、お尻の穴汚して、それから拭いて見せてくれればいいよ。……この間見せてくれた、汚くて臭いの出したら、ちゃんと拭かなきゃね?」

 カメラを見て、ぼくを見て。

 諭良は、結局のところ頷くほかないのだ。

 ぼくにお尻を突き出すようにしゃがみ込む。

「ねえ、……この間のとき、壁にオシッコいっぱい引っ掛けてたよね」

 恥ずかしそうに振り向いて、「おちんちんが……、大きくなって、収まらなかったんです……」と答える。壁にはまだ新しい注意書きが貼られていた。

「それは、どうして? 諭良はうんちするだけでおちんちん大きくしちゃうの?」

 ふす、というガス放出の音。隙間を閉じた諭良の肛門が蠢き、内側からの力感と共にピンク色の綺麗な蕾が膨らみ、……黄土色の紐状便が下品な音を立てて便器の中に飛び散った。

「……こういう、おトイレで、うんちを、するとき……」

 諭良は両膝に手を置いて、排便の勢いで一緒に溢れ出た尿を自分の勃起に伝わせながら震えた声で説明する。「……こんなふうに、お尻からうんちが出てくるところを……、誰かに見られちゃったら、どうしようって……」

「ああ……、そうか」

 諭良は、どう見てもハーフだ。日本語は全く問題なく喋っているけれど、ひょっとしたら海外での生活の方が長いのかもしれない。こういうスタイルの便器での排便には、元々不慣れなのだろう。

 加えて、最近の子供は和式での「大」が苦手とも聴く。流斗もそういう嘘を付いていた。

「じゃあ、うんちしてるうちに興奮して来ちゃって、オシッコが飛び出しちゃったんだ? でもって、そのまんまオナニーしちゃった、と」

 諭良は声もなく頷き、引き続きお尻の穴からうんちを落としていく。緊張してお腹がゆるくなっているのかと思っていたら、突如として太いものが肛門を膨らませる。それは一度顔を出したと思ったら、すぐに引っ込み、またじわじわと、肛門を腫らしながら生まれようとしている。

「なるほどね……、諭良はそんな変態だったんだ。でも、よかったね、夢が叶って。……諭良のお尻が臭いうんちたくさん出すところ、こうやって見てほしかったんだもんね? カメラで撮ってるから、何度だって見直せるし……」

 諭良は靴と靴下以外何も身に纏わない状況での排便に興奮しきっているようだった。身体の前の方を覗き込めば、

「あ……っ、や……!」

 やっぱり、おちんちんは勃起し切っている。

「扱いても、いいよ。この間みたいに壁に飛ばしちゃえばいいんだから。……まあ、ちゃんと後始末はしなきゃいけないけど」

 からかうように言ってやると、真っ赤になってふるふると首を横に振るう。流石にオナニーを撮られるのは恥ずかしいのだろうか。いや、失禁排便のどちらをも撮られて興奮するような子が、いまさらそんな奥床しさを見せる必要なんてない。

「それとも、もっとドキドキしたい? うんち撮られるだけじゃ満足出来ないのかな」

「え……?」

 言葉を停める。外には風の音だけ、個室の中には、目の前の諭良の、排便音だけが響いている。

 ぼくは個室の鍵を開けて、ドアを開放した。

「誰か来ちゃったりして……。諭良がすっぽんぽんでうんちしてるとこ、見られちゃったら大変だね」

 それはぼくにとっても大変な事態だ。もちろん人が来る気配が在ったらすぐにドアを閉めるつもりだが、いまの諭良にはぼくの三文芝居を見抜くことは出来ないだろう。

「いやぁ……」

 拒むような声を上げながらも、諭良の右手は身体の前へ回った。理性の糸はとっくの昔に切れている。マゾヒストの少年は最大級に恥ずかしいこの状況で、オナニーを始めた。突き出されたお尻から、汚いものをぶら下げたまま。諭良の手の動きに応じて、それが尻尾のように揺れて、今にも切れそうになる……、けれど切れない。

 美少年と呼ぶのに何らためらいのない綺麗な顔をして、そんなにたくさんのうんちをお腹に溜まっていたのだという事実そのものが、とてもえっちだ。昴星も流斗も可愛い顔してびっくりするぐらい太くて立派なうんちをするけれど、二人より大人びた風貌の諭良がそうしている様子は、またいいものだ。

「あ、あっ、はぁあン……!」

 湯気と共に悪臭を放っていたものが、遂に切れた。しかしそれは諭良のお尻の揺らめきや重力によって落下したんじゃない。うんちの太さ固さに広がりきっていた肛門にぎゅうっと収縮の力が加わったことによって、ぶっつりと切られたのだ。

「あ……、ああ……あ……!」

 その力が緩むに従って、また、ぽとり、ぽとり、いくつか、団子状のものが落ちた。

「うんち見られながらオナニーしちゃったね」

 カメラを構えるぼくに、諭良は振り返る。

「あ……あ……」

「感想聴かせて欲しいな。こっち向いて」

 諭良は、「友達」のぼくに対してとても素直だ。まだ拭いてもいないお尻を向こうに向けて、射精の余韻のいまだ収まらないおちんちんをひくひくさせながら、上目遣いに再び個室を閉じたぼくを見る。

「気持ちよかった?」

「……あの……、……はい」

「うんち、すごいいっぱい出たね。いつもこんなたくさんするの?」

 凄い臭いを放つうんちの山に一瞬目を落として、諭良は頬を赤らめて、ふるふると首を振って、「ガマン、してました……」と答える。

「もし、……今日、お兄さんに、会えなかったら……って。その、ときは……、このあいだ、みたいに、一人でうんちして、……寂しさを、紛らわせようと思って……」

「そうだったの。……じゃあ、ぼくに会えてよかったね」

 こくん、と諭良は頷く。笑顔を浮かべる余裕はない、けれど、その目は嬉しそうにぼくを見上げている。

「立ってごらん」

 諭良は汚れたままのお尻を気にしながら立ち上がる。こうして見ると、やはり六年生としては背が高いように思う。才斗と同じぐらいか、あるいはもう少し高いだろうか。普段いっしょにいる昴星がちっちゃいものだから、余計にそう感じる。

 もちろん、それでもぼくより二十センチ以上低い、……ただこれは、ぼくが縦に長い体型をしていることも影響していると思われる。

 これぐらいの身体つきだと、少年の裸身の中にももう、大人っぽさの欠片のようなものが見え隠れする。先日の温泉で出会った陽介という少年はもう少し痩せて背も才斗より低かったようだが、陰茎の根元にうっすらと性毛を蓄えていて、皮も指を使えば完全に剥けた。一方で諭良は無毛の包茎である。これぐらいの年頃の少年は本当に千差万別で、興味深いものだ。

「諭良は、学校だと背の順で後ろのほうだよね?」

 こく、と頷いて、「後ろから、三番目です」と答えた。

「運動は得意?」

「……水泳を、ずっと習っています。ぼく、転校が多くて……、でも、行く先々で、必ずプールに通っています。……その、今日も……」

 ドアにかけたカバンに視線を送るから、ぼくは其れを渡してやる。中には塾の教科書でも入っているものと思っていたけれど、出てきたのはビニールバッグで、湿っぽい塩素の匂いのバスタオルと一緒に、空色の水着が出てきた。

「プールの、帰りでした。毎週水曜日と金曜日が、プールの日なんです……」

 なるほど、ほっそりとしていながら精悍な印象のある身体つきは、水泳で培われたものなのか。

「じゃあ、このところいっつもプールの帰りにここ寄ってたんだね。……あれ? でも、晩ご飯は?」

 諭良はそこで、少しだけ微笑んだ。

「家に帰ってから、レトルトで済ませたり、配達を頼んだりします。……ぼくの家は、父と二人暮しで、父はいつも帰りが遅いので……、だから、これぐらいの時間に出歩いていても、大丈夫なんです」

 親が側に居ないと……、と思った。昴星と才斗は両親が不在がちなものだから二人きりの時間が増えて、愛情行為がおかしな方向へシフトして行ったのだ。……いや、でも待て、流斗はおかあさんとおとうさん、ちゃんといるのに、一人で自由すぎる発想に基づいて行動しているから一概には言えないのか。

「そうなの。……まだ友達になったばっかりだから、知らないことばっかりだ」

 友達、という言葉が嬉しいのか、諭良は微笑んでこくんと頷く。

 嘘にするつもりはない、もちろん。

「……転校が多いって言ったね? この街に来てからどれぐらい経つの?」

「まだ、半月ぐらいです。……学校でも友達出来ないし、プールでも……。だから、お兄さんと友達になれて、すごく嬉しいです」

「諭良は、……ええと、ハーフだよね?」

「はい。……でも、正確には違います。父の父と、母の母が日本人です。母は黒髪ですが、父は金髪です」

 長い睫毛に縁取られた瞳は日本人にしては色が薄い。洋の東西を超えて、美が成り立っている。

「来年の三月に、小学校を卒業したら、こんどは母の国の中学校に上がることになっています。……だから、お兄さんと一緒に居られる時間は短いですけど……、でも……」

 諭良の微笑みは寂しそうだ。儚く、それだけに美しい。「ぼく、お兄さんといっぱい仲良くしたいです」

 うん、とぼくは頷いた。「約束しよう。諭良のして欲しいこと、ぼくに出来ることなら、何だってしてあげるよ」

 澄ましているときには、神秘的な雰囲気さえ漂うな静かな顔立ちだが、微笑むと、途端に幼く見える。

「積極的に誘ってくれたわけだし、期待に応えないとね」

 つん、と上を向いたままのおちんちんを指で弾いてあげると、

「あん……」

 と可愛い声で諭良は啼いた。

「じゃあ、後ろ向いて。お尻はぼくが拭いてあげるから」

「はい……」

 奥の壁に手を付いて、諭良はお尻を突き出す。「可愛い穴だね、ちゃんとこっちも撮ってあげないとね」とからかうように声を掛けると、きゅんとお尻は窄まる。ロールペーパーで丁寧に拭いてあげる間、「あはぁ……、ぁン……、んっ……」と感じきった声を上げている。

「ぼく……、いま……、お兄さんにうんちした穴、見られちゃってるんですね……」

 ぞくぞくと震えながら諭良は確認するように訊く。

「嬉しい?」

 こく、と頷く。「……ぼくの、友達だから……、嬉しいです……」

「そっか。じゃあぼくも可愛い友達に見せてあげようかな」

 諭良のお尻を拭き終えて、ベルトを外す。音に振り返った諭良は、「ああ……」と声を漏らして、しゃがみ込む。トランクスの上からぼくの股間に手を伸ばして、両手で包み込んだ。

「すごい……、かたい……、かたくって、あつくって、おおきい……」

「自分以外のおちんちん触るの初めてだよね? でも、どうするかは知ってる?」

 諭良は、こくんと頷く。潤んだ眼元を赤く染めた少年が、ブレーキの利かない興奮に転がり落ちていくのが見えるようだ。

「……見ても、いいですか……?」

 隠し切れない興味に、声が震えている。

「もちろん」

 ぼくが答えると、……綺麗な顔なのに、口が開いている。恐る恐るといった感じにトランクスのゴムに手をかける指が初々しい。

「あ……、あっ……、すごい……」

 諭良の口からは、制御できない言葉がそのまま溢れ出て来た。カメラで撮られていることも全く意識の外にある様子で、トランクスから取り出したぼくのペニスを、間近に、呆然と、見詰めている。

「おちんちん……、おちんちん、こんなに近くで見るの、はじめてです……」

「諭良のとぜんぜん形違うよね。ぼくは諭良みたいにつるつるしてる方が可愛くって好きだけど」

 まあ、そりゃそうだ、ショタコンだもの。おっさんのこんな陰茎が「好き」って言うのだとすれば、ぼくはゲイだということになる。

 諭良は、ふるふると首を振った。「ぼく、お兄さんみたいなおちんちん、ずっと見てみたかったし、こうやって触れるなんて、夢みたいです……、ううん」

 そうなると、諭良は「ゲイ」ってことになるな、と思う。

「お兄さんに、オモラシやうんち見られたり、おちんちんしゃぶってもらったり……、ぜんぶ、幸せ過ぎて、ぜんぶ、夢みたい……」

 嬉しそうな諭良を見て、ぼくも同じように嬉しい。考えてみればぼくの今の状況だって、幸せすぎる夢みたいじゃないか。

「お兄さんがさっきしてくれたみたいに、ぼくもおちんちん……」

「いいよ。いまはぼくの、諭良のものだから好きにして」

「でも……、上手に出来るかわからないです……」

「そうかな? 諭良はずっとこういうことがしたかったんでしょう? 諭良の研究の成果、ぼくで試してみればいい」

 恥ずかしそうに頷いて、ぼくのペニスと改めて面と向かう。

 開いた口から唾液を纏って濡れ光る舌が伸びる。両手を添えたペニスの先端に、諭良はひたりと舌の先を当てた。

 ぼくの尿道口から溢れ出していた腺液と諭良の唾液とが交じり合い、糸を引いた。

「あ……」

 諭良は、小さく声を漏らした次の瞬間には深々とぼくのものを口に咥え込んでいた。「んっ、んぅ、んぃ、ひっ、んぃいっ」とあらぬ声を上げながら。……ぼくのカウパーの味が少年の性欲に着火し、激しく火の手を上げているのだと思った。

 何という巧みさか。ぼくは思わず息を呑む。少年はこっちが心配になるぐらい深い処まで咥えたぼくのペニスに、にゅるにゅるんと舌を巧みに絡み付けてくる。左手はいつの間にかぼくの陰嚢にあって、優しい手付きで大事そうに撫でさすってくれている。そういう細かな気遣いが快感を何重にも大きくしてくれるのだ。

 腹筋がぴくぴくするぐらいの鋭い快感がぼくの中で膨らんでくる。

「諭良、ぼくの精液、飲みたい?」

 質問に潤んだ瞳を上げて、カメラ目線、それから、ぼくのものを口に収めたまま、こく、と頷く。

「そう……、諭良が上手だから、もう出そうなんだ。……多分、いっぱい出ると思うから、好きなだけ飲むといい……」

 諭良がもう一度頷くことはなかった。頷く余裕が無かったというのが正解だろう。高級なフレンチ―高級な料理イコールフランス料理という想像力の貧困さは脇に置いて―をナイフとフォークで上手にお召し上がりになりそうな諭良の口はぼくのペニスを一杯に頬張って、マナー違反の音を個室の中に響かせながら何度も何度も頭を往復させる。それは言ってみれば汁したたる塊肉にかぶりつくような、品性をかなぐり捨ててでも美味しさを追い求める貪欲な姿勢である。

 ぼくのエキスを一滴たりとも逃すものかという勢いを感じさせる。

 舌は依然としてよく絡んでくる。亀頭を裏筋を、そして滲み出る腺液を味わうように。

「出るよ」

 諭良の頬が窄まった。ぼくのペニスは思い切り吸引され、尿道の中を焼くように熱い精液の塊が一気に諭良の口の中へ飛び込んでいく。諭良は緩やかに頭のスピードを落としながら、じゅぶ、じゅぶ、と音を立てて、……味わってくれているのがよく判る。

 こくん、と喉が鳴った。

「んぷ……、はぁ……ああ……」

 諭良は陶然とぼくを見上げて、笑う。目尻から一筋涙が零れた。諭良のおちんちんは上を向いて、びく、びく、震えている。

「……おいしかったです……、お兄さんの、おちんちんも、精液も、すごくおいしかったです……」

 その涙は、嬉しさによるもの。ぼくも、ああ、生きていて良かったなあ、役に立てて良かったなあ、そんな風に思う。だってさ、ぼくみたいな人間が、害悪視されてるような人間が、こんな風に少年の悦びを生み出すことが出来るのだ……。

 諭良はまだ滲み出てくる液体を丁寧にお掃除するように舌で拭う、まるで心底から愛してくれているかのようだ。

 ぼくも、この子のことを大事にしなければいけない。

「ありがとう、すっごい気持ちよかったよ。諭良はフェラがすごく上手」

 さらさらの髪を何度も撫ぜてやると、諭良は立ち上がって、ぎゅっと抱き着く。

「嬉しいです……、ぼく、こんな風に遊べる友達出来るなんて思ってなかった……」

 その腕に詰まった悦びの力を、ぼくはそのまま返す。それから、「お尻、拭いてあげようか?」と訊けば、恥ずかしそうにこくんと頷いた。

 奥の壁に手を付いてお尻を突き出して、もううんちの乾き始めた穴をぼくに向ける。痔になったりしてはいけないから、丁寧に拭いて、それだけじゃ何だかいけない気がしてカバンからミネラルウォーターのボトルを取り出して、濡らしたロールペーパーでもう一度拭きなおす。

「あのさ、ひょっとして諭良ってすごいマゾヒストなのかな」

 諭良の肛門が、きゅっと窄まる。それが恥ずかしさの表れだとしたら、何て愛らしいんだろう。

「だってさ、さっきも言ってたけど、パンツ汚したり、うんちするとこ見られたいとかっていうの、すごい恥ずかしいことだよ。撮られてすごく感じてたし」

 こっちを向き直った諭良は、またほんのりと頬を赤くしている。おちんちんは、もちろん勃起したままである。

 ぼくは顔を寄せて乾いたオシッコの匂いを嗅がせてもらってから、カメラを寄せる。

「あう……」

 おちんちんが、接写されて悦んでいる。

「最初の誘い方からして、すごくえっちだったしね。諭良はおとなしそうに見えるけど、こんな元気一杯なおちんちん見せてくれた……。ひょっとしてこれまでも、ああいう恥ずかしいこと、いっぱいしてきたのかな?」

 ためらいがちに、諭良は「……はい……」と答える。

「聴かせてくれる?」

 頷いて、諭良は恥ずかしそうに語り始めた。

「この街に、来てからは、お兄さんにおちんちん見せたのが、最初です。でも……、前の街では、……ここよりもっと田舎の、山梨の、方だったので、自然が多くて、人が少なくて、だから……」

「露出してたの?」

 こくん、と諭良は頷いた。「どんな風に?」

「……自転車でちょっと走ったところにある、山の道で。自転車降りて、ズボンからおちんちんを出して、歩いて……、でも、それだけだと足りなくって、服を脱いで、……自転車のカゴに服を全部入れて」

「……つまり、すっぽんぽんになったの?」

 さすがにそれには驚く。流斗並みの無茶な度胸がなければそんなこと出来ないものだろう。いや、流斗だって往来を全裸で闊歩するということまではしたことがないはずだ。

「すごく、ドキドキするんです……。誰かに見られたらどうしようって思って、車が来ると、慌ててガードレールの陰に隠れたりして、やりすごしました……」

「それは……、そうだよね、見付かったら大変だもの」

 ぼくの相槌に、しかし諭良は首を振った。

「もし見られても、どうせ、短い期間で転校することになりますから。山梨には二学期の頭から二ヶ月ぐらいしかいませんでしたし、……夏休みは父の国にいましたし、その前も、一学期だけしかいなかったんです」

「……そう……」

 例えば昴星が自分の恥ずかしい性癖を隠そうと心がけるのは、彼がずっと同じこの街に住んでいて、これまで通ってきた小学校にせよ今後通うことになる中学校にせよ、ほとんど代わり映えのないメンバーと共に過ごすことが確定しているからだ。つまり六年生のこの時期に「オネショ」や「オモラシ」が露顕してしまえばその途端、昴星には好ましくないレッテルが貼られることとなる。

 その点、転校を繰り返して此処に至る諭良は確かに失う物がない。

「外で、裸になるってどんな風? ドキドキして、やっぱり興奮するのかな」

 諭良は少し考えて、言葉を選んだ。

「……怖い、っていう気持ちも、やっぱり少し、あります。もちろんすごく興奮してるんですけど、……でも、あんまりおちんちんは大きくならないんです。緊張してるからかも知れないですけど……」

 その感想には頷けるものがある。事実として昴星も野外露出では確かに興奮するらしいけれど、そのまま射精まで至ってしまうことはない。むしろ、あの小さなおちんちんが一層縮こまってしまうのが常である。

「諭良は、じゃあ、この街でも露出するの?」

 ぼくの質問に、「それは……」と慎重そうな顔で答える。「まだ、わかりません。もともとぼくがああいうことをしていたのって、自分と同じ気持ちの『友達』がいなかったからなので……」

 そうか、とぼくは頷く。ぼくという「友達」が出来たからには、もう露出で寂しさを紛らわせる必要もこの子にはないわけだ。

「あの」

 諭良は、勃起の収まる気配すらないおちんちんを微かにまた強張らせるように震わせて、ぼくを見上げる。

「ん?」

「……お兄さん、は、この辺に住んでいるんですよね?」

 ぼくは首肯した。「この公園を抜けたらすぐだよ。諭良は?」

「ぼくは、……あっちの、高いマンションに住んでいます」

 その「高い」は物理的な意味である。この辺りには高層マンションなんて珍しいから。けれど「高い」は同時に経済的な意味もはらんでいる。この子の家はお金持ちなのだろう、着ている服からも、それは大体想像が付いていた。

「ぼく……、今日、もっとお兄さんと遊びたいです。もっと、……えっちなことが、したいです……」

 恥ずかしそうに紡がれる思い切った科白は、股間で震えるものも含んで数々の矛盾を抱えている。……美形の、賢い子、中学生と言っても通用するぐらいに背も高いのに、オネショをしてしまう、露出癖のある、寂しい男の子。

「狭いけど……、それでもよかったらうちに遊びに来るかい?」

 今日は、昴星と流斗が泊まりに来ることはない。

 諭良は嬉しそうに微笑んでこくんと頷いた。無表情のときにはひんやりとした質感の顔なのに、笑顔になると途端に歳相応な愛らしさを纏うのが魅力的だとぼくは思った。

 

 

 

 

 諭良のジーンズの内側はノーパン。そのままで、公園のトイレから五分もかからないぼくの部屋まで移動した。きっとこんな貧乏臭くて古いアパートは、お坊ちゃま育ちらしい諭良には狭く感じるだろうと思うけれど、諭良はきちんと正座をすると興味深そうにぼくの部屋を見回す。ぼくの出した温かいお茶をそっと啜って、

「……あの、お兄さんはぼく以外にも、……ぼくぐらいの男の子をこうやって、おうちに上げたりしているんですか?」

 遠慮がちに訊いた。

 どうしようかな、と思う。昴星と流斗がこの部屋にしょっちゅう上がりこんで、さっき諭良として、これからまたするようなことをしているのは事実ではあるけれど、……昴星と才斗は、この子と同じ学校に通っている。同じクラスかどうかは判らないけれど、知られるのは得策ではないように思う。

 けれどぼくは、「そうだよ」と頷いた。

「ぼくは、君みたいな可愛い男の子が大好きだから。……ちょっと待ってね」

 PCを起動し、昴星や流斗の動画のフォルダを開く。昴星のものは「k」からはじまり、流斗のものは「r」から、二人が揃っているものは「t」の頭文字で判別出来るようにしたファイルの中から二人の顔の映っていないものを精査して選び出し、音をミュートにする。

 昴星はふんわり柔らかな下半身とブリーフで判別されるおそれがあるから頭文字が「r」のファイルを選んで再生した。流斗が我が家の浴室で、黄緑色のブリーフ姿でオモラシをして見せてくれるところ。顔は映っていない、じわじわと広がって行く濡れ染みを観察したくて撮ったものだからだ。

 ぼくの隣まで来て、諭良は口を開けて食い入るように見詰めている。

 流斗のオモラシは終わった。ブリーフに広がった染みを自ら慈しむように撫ぜてから、彼はウエストゴムに指を掛け、自分の下着の中でびっしょりと濡れたおちんちんを披露してみせる。それは、ブリーフを穿いた状態でも既に明らかだったけれど、くっきりと上を向いて震えている。

 ぼくは押し入れからストックバッグに入れたこのときの流斗のブリーフを持ってきて、諭良に開いて見せた。

「これ、この子の穿いてたパンツだよ」

 諭良は、震える指でそれを摘む。まだ、はっきりと判るぐらいの匂いが残っている。

「嗅いでごらん」

 とぼくが許すと、諭良は恐る恐るそれを顔に近付ける。ある程度の距離まで接近した所で、糸が切れたように深々と吸い込んで、「ああ……」と声を震わせた。

「この子はね、オモラシするのが好きなんだ。あと、諭良と一緒で、人におちんちん見られるのが大好きなんだってさ。だから、ね」

 画面の中の流斗は腰掛けに座って、穿きなおしたオモラシブリーフの窓から覗かせたおちんちんをせっせと扱いている。

「撮られるの、大好きなんだ。こんな風にぼくに素敵なものをたくさん見せてくれる」

「ぼくも」

 諭良は潤んだ目で言う。「ぼくも、お兄さんに撮って欲しいです、もっと、この子よりももっと恥ずかしいところ、いっぱい撮って欲しいです」

 其処には、自分よりもぼくと親しい人間がいることへの嫉妬も含まれていたのかもしれない。

「ぼく、お兄さんともっと仲良くなれるなら、もっといろんなところ、お兄さんに見せます、だから……」

 狂ったベクトルの「頑張り」が、ぼくにはもちろん可愛らしく感じられる。髪を撫ぜて抱き寄せると、縋るように頬を寄せてくる。唇を当てれば自然と舌が出てきて、情熱的なキスへと変わる。

「諭良、あの子のオモラシ見て、オシッコの匂い嗅いで、興奮しちゃった?」

 ノーパンのズボンの前は、快い固さ。

「ぼくも……、もう一回オモラシ、します……。お兄さんが、撮って、喜んでくれるなら……」

 頬を染め、息を弾ませて、か細い声で言う。

 積極的だ。長い間溜まっていた寂しさが、「友達」との出会いを契機に一気に流れ出しているのだろう。

「……でも、諭良のパンツはもうビショビショだからね。まだ全然乾いてないし」

 カバンの中のコンビニ袋から出した、黄色く染まったブリーフは、まだじっとりと湿っている。生乾きのオシッコ特有の匂いがツンと漂う。諭良はそれを見て、寂しそうな顔になる。

 ぼくはくしゅくしゅと諭良の髪を撫ぜて、再び押入れに向かう。……身長、百五十ぐらいあるのかな。昴星と同じサイズで合うかどうか判らないけれど、まあ、ちょっと窮屈なぐらいでも大丈夫だろう。別に赤ちゃんのオムツを着けさせようというのではないのだし。

「これ、あげる」

 パッケージを破って、新品の白ブリーフを諭良に手渡す。

「え……?」

「さっきの子みたいに、穿いて来たパンツでこの部屋でオモラシしてくれる子、替え持って来るの忘れちゃったらノーパンで帰らなきゃいけなくなっちゃうでしょ? だから一応ストックしてあるんだ」

 新品のブリーフを手に、ごく、と諭良がつばを飲み込む。

「……して見せてよ。諭良の可愛いところ、撮らせて欲しいな」

 諭良は、操り人形のようにこっくりと頷く。洋服をあっという間に全部脱ぎ捨てると、ジーンズの中で、もう先っぽを濡らすほど興奮しているおちんちんが愛らしく弾んだ。ぼくのカメラに気付くと、恥ずかしそうに、でも手を後ろに回して、腰を突き出してみせる。

「諭良、肌がすごく綺麗だ。真っ白だね」

 それに、スタイルがすごくいい。褒められなれていないのか、純情に頬を紅くして、とても恥ずかしそうにするのが初々しくていい。

「おちんちんも、雪みたいに白いね。小さいの、薄っすら血管が見えて、すごくえっちだ」

 ぼくの言葉が掛かる度に、ヒクヒクと震えてしまう諭良のおちんちんを摘んで、ちょっと剥き下ろして見る。近付くと先ほどのオモラシの残滓の匂いが淡く漂う。それは嗅ぐだけで、ぱくんと食いつきたくなってしまうぐらいに魅力的な匂いではあったけれど、ぐっと堪える。

「パンツ、穿かせてあげるよ。足上げて」

 やはり、昴星のサイズだとちょっときつい。けれど、諭良自身も細身であるし、肌の白い裸をぴったりと支える白ブリーフはとてもよく似合っている。パンツ一丁の諭良を浴室に導き、

「さて……、前からはさっきも撮ったね。諭良はどんな格好でオモラシしてみたい?」

 と訊いてみる。

 もちろん彼の人生でそんな質問を投げ掛けられるのはこれが初めての事だろう。しかし、それほど時間のかかることもなく、乾いた鏡に手を付いて、ぼくにお尻を突き出した。

「お尻の……、濡れていくところを、撮って欲しいです……」

「そっか。……さっきお尻が濡れるの、気持ちよかった?」

 恥ずかしそうに、諭良はこっくりと頷く。「その……、オネショしちゃった朝と、同じような……、情けなくて、恥ずかしい感じが、しました。でも……、お兄さんに見てもらえるなら……」

「なるほどね」

 ぼくは諭良の、小振りで引き締まったお尻をブリーフの上から掌で撫ぜた。

「諭良の、綺麗な形のお尻がオシッコでびちょびちょになるとこ見せてくれるんだ?」

「あう……」

 それだけで諭良の吐息は鏡を曇らせる。左手で掴むように、引き締まっているとはいえやっぱりお尻相応の柔らかさを愉しんでから、人差し指をなぞらせて、尻肉の谷にブリーフを食い込ませる。仕上げに、ぐい、と指先で見つけたお尻の穴に押し込んだ。

「ひゃ……っ」

 小さく身体を強張らせた諭良のすべすべの肩にキスをして、

「いいよ、出してごらん」

 腰掛を足で引き摺り寄せて座り、ぼくは言った。

「は、はい……」

 さっき、相当な量のオシッコをして見せてくれたばかりであるから、そう膀胱に溜まっていないだろうと思ったのだけど、……オネショぐせのある身体はすぐに次の尿を準備できるらしい。この点は昴星と同じだ。

 噴き出したオシッコが突っ張ったブリーフに当たり、そこから勃起した陰茎のフォルムに沿って伝っていく音を、ぼくは聴いた。

「あ……あう……」

 微かに震えながら、諭良は縋っていた鏡に腕を突っ張り、湯気を濛々と立てる自分の下半身に視線を送る。

「あ……あ……っ、オモラシっ……、ぼく、オモラシしてる……っ」

 その声は、濡れた喜悦そのもの。

 ブリーフはお尻の半ばほどまでじわじわと濡れ染みを広げている。オシッコは長く細い足の内側を伝い、タイルに大きな水溜りを生じさせていた。諭良の、恍惚の失禁は長く続く。

「こっち向いて」

 とぼくが促し、彼が膝をガクガクさせながら振り向く途中で脱力し鏡の前の台にお尻を落としても、まだ湧き出すものがあった。

「座ったままオモラシするのも気持ちいいんじゃない? 学校で授業中に漏らしちゃったらきっとこんな風だよ」

 諭良は端正な顔を快楽に蕩かせて、ぼうっと口を開けていた。ようやく膀胱の中が空になったか、ぶるぶるっと震えて、ぼんやりとした視線を黄色く臭う股間に落とす。その部分をぼくはじっくりと撮りながら、

「もう、ハマっちゃった?」

 と訊いてみた。

 諭良は、浅い呼吸を繰り返しつつ、こくんと頷く。

「恥ずかしいオモラシパンツ、すごくよく似合ってるよ、諭良」

「あ、う……」

「諭良が気に入ったなら、これから何度もリクエストさせてもらうし、諭良がオモラシするたびに、可愛がってあげる。……だからこれから、ぼくの側で、いろんなところでオモラシして見せてね?」

 夢の中に居るみたいな顔で、諭良はにっこりと微笑んでぼくを見上げる。

「ぼく、いっぱいオモラシします……、お兄さんといっしょにいるとき、いっぱい……」

 可愛い子だ、本当に……。

 昴星は、才斗の手によって。流斗は昴星の手によって。それぞれ、既に非の打ち所のない芸術品のような美少年としてぼくの前に現れてくれた。其れはもう、神様からの贈り物としか思えない。

 こんどは神様が、「じゃあ、こういうのはどうだ」とでも言うように、素材をぼくに恵んでくれたのかも知れない。露出狂という「素質」とでも言うべき要素は確かに持っていたけれど、この子にオモラシの悦びを教えてあげたのは、他ならぬぼくだ。

 いや、ぼく自身が「オモラシの悦び」を知ってるわけじゃない、そもそも其れは昴星たちから教わったものなのだけど。

 まあ、細かいことは気にしない。

「じゃあ、パンツ脱ごうか。穿いたままだと乾かないからね」

 こく、と頷いた諭良を立ち上がらせる。座っていたところにも黄色い水溜り。

「見て。これビショビショなの全部、諭良のオシッコなんだよ」

 ブリーフを膝まで下ろしてやって、教えるまでもないことを、しみこませるようにぼくが口にすると、諭良は熱い溜め息を吐いて、「赤ちゃんに、なっちゃったみたいです……」と呟く。

「赤ちゃんか。じゃあ次に遊びに来たときにはオムツしてみる?」

「オムツ……?」

「あるから。窮屈かもしれないけどね。諭良は背が高いしスタイルもいい、顔も綺麗、大人っぽいのにオムツしてるなんて、きっとすごく恥ずかしいと思うよ」

 其れを、彼自身想像したのだろう。また、ぎゅん、と音がするぐらいおちんちんが一つ強張り、弾む。

「うん、そうだ」

「え……?」

 ぼくはもう一度、諭良に恥ずかしい下着を穿かせる。やっぱりよく似合っている。その股間の、本来小さくあるべきものが勃起している様子は、昴星や流斗同様、この子が淫らで歪んだ性癖を持つことの何よりの証明になっていた。

「おいで。諭良にもっと恥ずかしい格好させてあげるから」

 下半身が濡れたままの少年の手を引き、六畳間に導く。敷きっぱなしの布団に、昴星や流斗がしても平気なように購入したオネショシートを敷き、その上に横たえる。考えて見ると、ときどきこの子がしてしまうという「オネショ」の再現をしてもらうのもよかったかもしれない。けれど、それはまあ次でもいいだろう。「次」を考えられるほどぼくの近くに、この子は居てくれるから。

「足、自分で抱えて。たっぷり濡れたお尻まで見えるようにさ」

 諭良は恥ずかしそうに、けれど積極的にぼくに応じた。細い太腿を外側からそれぞれ抱えて、布の細まる股間の濡れ染みを大開脚でぼくに披露する。女の子だと何も場所、だけれど、タマタマの膨らみがこんもりと盛り上がっているのが、なんとも愛らしい。舌を当てると、甘くてしょっぱいオシッコが香りと共に飛び込んでくる。

「うん……、美味しいね、諭良のオシッコ。たくさん出してくれて、どうもありがとう」

 まだ乾いていない太腿や膝の裏にもキスを落として、改めて下着に目をやる。諭良の失禁前に押し込んだブリーフの肛門部分は窄まって、少年の菊蕾に吸われているように見える。

「じゃあ、改めて脱がせてあげる。……もうちょっと背中丸めて、腰高く出来る?」

 ウエストゴムに指を入れて、再び膝の裏まで下着をずり下ろす。膝の裏、ちょうど、諭良の顔のすぐ側だ。諭良は興奮しきった顔で、自分の尿の雫を顔に浴びている。

「諭良、自分のオシッコの匂い、こんな近くで嗅ぐのはじめてじゃない?」

 こっくり、頷いた。「どんな匂い?」

「……わ、かんないです……、オシッコの、におい……」

「匂い嗅ぐの初めてなら、舐めたこともないよね?」

「は、い……」

「ぼくは、すごく美味しいと思うよ、諭良のオシッコ」

 昴星が以前、「赤ちゃん」になったとき、自分のおちんちんをしゃぶるところを見せてくれたことがある。あれはとてもエロチックで、倒錯的で、すごくよかった。昴星自身も大いに興奮して、結局自分の口で射精まで至ってしまったのだ。

 ぼくが水を含んだ下着を諭良の口元へと引き伸ばすと、恐る恐る諭良が其れを吸う。

 こく、と控え目に喉が鳴った。

「どう?」

「……しょっぱい、です……」

「だよね。でも、思ってたよりも美味しいでしょ?」

 諭良は、こっくりと頷く。

「ところでさ、諭良は、身体柔らかいほう?」

「え……?」

 ぼくは微笑んで諭良のブリーフを脱がせつつ、

「ぼくの友達の男の子でね、身体が柔らかくて、自分のおちんちんを自分でしゃぶれちゃう子がいるんだ。セルフフェラって言えばいいのかな、すごく可愛くってさ」

 いまでも、太腿を抱えて背中を丸めて、身体の柔軟性を大いに発揮している諭良の目に、何とも言えない光が宿ったのをぼくは見る。

 それは、ある種の嫉妬かもしれない、焦燥と呼ぶべきものかもしれない。だってその「男の子」こと昴星は、諭良とは比べ物にならないほどの回数、ぼくとこうして遊んでいるのだ。

 諭良はものも言わずに深く身体を折り畳む。

「おお……、すごいね」

 諭良は躊躇いなく、自分のペニスを口に咥えていた。……昴星以上の柔軟性にぼくは舌を巻く。水泳をやっていると言っていたけれど、ひょっとしたらそれ以外にも色々、体操なんか得意なのかもしれない。均整の取れた身体つきなど、それを思わせる。

「自分のおちんちん咥えてる諭良の顔、すっごくえっちだ。興奮するよ」

 ペニスも、昴星のように先端だけをやっと口に含むのではない。ほとんど根元まで少年自身の口の中に収まっていた。

 この体勢はやはりすばらしくエロチックなものだと改めてぼくは認識する。少年の足の間、本来秘されて在るべき場所が全部同時に見て取れるのみならず、その愛らしい顔までも露わになる。しかも、フェラチオをしているのだ、自分のおちんちんを……。

「諭良、そのまま、さっきぼくにしてくれたみたいにおちんちん気持ちよくして見せてよ」

 カメラを寄せてのリクエスト、自分のを頬張ったまま、まだ多分、舐めていないのだろう諭良は、困ったようにレンズを見上げる。

「精液の味、比べてごらん。ぼくのと、君自身のと」

 諭良の目は、「比べなくてもわかる」と答える。諭良の舌にとって少年自身のおちんちんは決して美味しいものではないのだろう。そして、ありがたいことにこの子もまた、昴星や流斗と同様、ぼくのペニスを「美味しい」と思ってくれているらしいから。

 けれど、

「違う味かもしれなくても、似てる部分を見つけられたら、諭良、一人のときでも寂しくないよね? ……ぼくに見られてるって思いながらオモラシしたり、うんちしたり、……それでドキドキして、ぼくの精液が欲しくなったら自分のをこうやって舐めれば……、ね? 一人でも寂しい気持ちが少しは減るんじゃないのかな。それに」

 ふっくらとしたタマタマを、指先でひと撫でする。

「ぼくも、諭良のそういうえっちなところ見たら、すごく興奮する」

 諭良の肛門が、きゅっと窄まった。自分の晒している姿がどんなものか、この少年自身がはっきりと把握しきったのだろう。始めは控え目に、しかしすぐに、積極的な舌の動きが始まった。

「諭良、……自分のおちんちんしゃぶって気持ちよくなってる顔、丸見えだよ。お尻の穴も、全部。諭良のお尻の穴、綺麗だね、さっき太いうんち一杯出してくれたところが、恥ずかしそうにヒクヒクしてる」

 蕩けた視線を、カメラに向ける。

 ぼくの、無限の視線を浴びた身体が、

「んふぅうンっ……!」

 自分のペニスを咥えたまま、フィニッシュを迎えた。腕の力が緩んで解け、たちまち、ぽんと音を立てて彼の口から抜けたおちんちんから精液がまだ滴り、美しい顔に散った。諭良は力なく開けたままの口の中に注がれたたっぷりの精液を頬に垂らして、「飲んで」とぼくが求めると、眉間に浅い皺を寄せてこくんと飲み込んだ。

「味、比べてごらん」

 ぼくが自分のペニスを取り出すと、……射精直後だというのに、諭良はすぐに起き上がる。両腕でぼくの腰を抱くと、腺液さえ浮かべて滾る先端にぱくんと食いつくと、もう放さないという勢いで頭を前後させる。

 積極的なフェラチオを受けて、諭良の媚態を見て限界に近かったぼくの性器が少年の口の中で弾むまでにはほとんど時間は要らなかった。

 射精したぼくのペニスから、暫く顔を動かさず、吸い上げるようにして飲み込んだところで、ようやく諭良は口を外す。それから美しい顔をとろんと微笑ませて、

「やっぱり……、お兄さんのほうがおいしいです……、ずっと、ずっとおいしいです……」

 と、甘ったるい声で呟いた。

 

 

 

 

 こうしてぼくは、「三人目の少年」と友達になった。いや、もちろん「友達」なんていう表現が相応しくないことは重々承知している。許されざる関係を結んでしまったわけだ。

 ……いや、実は、「友達」ではない。

「誰にも言いません」

 別れ際に、ぼくのあげたブリーフを穿いて諭良は言った。

「ぼく、もっとお兄さんに遊んで欲しいです。だから……、絶対に誰にも言いません。でも……」

 ほんの少し寂しげに、ぼくを見上げて彼は言った。

「ぼくの、は、……その……」

「ん?」

 諭良は打ち消すように首を振った。

「……ぼくと一緒にいるときは、ぼくがいっぱい気持ちよくしてあげます。だから、……ぼくが外国に行くまで、春が来るまでのほんのちょっとの間だけでいいです。ぼくの」

 恋人になってください、と諭良は言った。

 既にぼくが、流斗と結んだ関係。

 それでも、ぼくは頷いてしまった。

「……いいよ、わかった」

 流斗と「恋人」で居るのは、流斗と二人きりの時間だけだ。あの優しく賢い子は、ぼくが昴星を同じように好きでいることを否定しない。だから「ふたりっきりのときだけ、ぼくのことおよめさんにして」と流斗は言ったのだ。

「二人きりのときだけで良ければ、ぼくは君のことを自分の『恋人』と思うことにする。そして、大事にしよう」

 ぼくの誓いは、きっと穢れたものだ。

 しかし、少年が頷いて、それからブリーフ一枚のままで抱き付いて来てくれた、……そのことが、ある種の答えになっているのではないかと考えるのは、勝手過ぎるだろうか。

 昴星が、流斗が、諭良が、そうであるように、人間は誰しも秘密を抱えて生きている。けれどぼくは、自分の抱え込むことになった、一体幾つ目なのか判然としない「秘密」ほど、黒く汚れたものはないように自覚する、……そうである以上、自分の身がやがて壊れようとも、愛しい少年たちを幸せにしてあげることだけ、考えて行かなければいけないのだということも、あわせてぼくは理解して、諭良を見送った。


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