ボクと魔王の一般的幸福

 丸くなってきてはいるのだろうとスタンは自覚している。自分でそう自覚できるくらいだから、ルカなど余っ程感じているに違いない。魔王ながら現在の平和を愛するという時点で役職失格の烙印を押されてしまいそうだが、分類の消えた今日この頃、そんなニュータイプの魔王がいたって構わなかろうがと決め付けている。

 最近の大魔王スタンの生活と言えば魔王にあるまじき平凡さで、週に一回、ロザリーがケンカを売りに来る日以外は朝八時起床、ゆったりと朝食を摂った後に、十時前に玉座に座る。子分魔王ルカを膝に乗せたまま、本を読んだり、ぼんやりしたり。飽きる頃に散歩に出かける、帰ってきて昼食を摂る。昼食を摂ったら少し眠り、三時ごろ起き出して、また玉座に座る。日が翳ってきたら、魔王営業終了、準備中の札を掛け、ルカと一緒に風呂に入る。洗い洗われを楽しんで、夕食。それから、十時半に寝るまで完全なる自由時間で、こういうのは無粋だろうかと多少は思いながらもスタンはルカを裸にして、心の底より愛でて撫でまわす。十代後半であり、その心身には相応の性欲が備わっているが、本来と違う立場での愛され方であるため、ルカの負担は大きい。しかし、愛されるのはくすぐったいような嬉しさがあるのは全分類共通、その方法にまで贅沢を言うべきではないと考え、甚だ素直な心でスタンを受け入れる。

 スタンは嬉しくて堪らないのを表情に出さないようにしながらルカを抱く。あらぶる魔王の魂を押し留めつつ、その肌を重ねることのみにもはちきれそうになる。すっぽりと自分の膝の上に納まってしまう愛らしいルカの身体を、そして、一生懸命に自分のことを愛そうとしてくれる心を、本気に愛しく思う。

「ルカ、愛しているぞ、ルカ」

 考えてみれば「子分」という二人称は余り使わなくなった。ちゃんと名前を呼ぶことのほうが多くなったなと気付く。

 親分子分という繋がりあいは好きで、濃い絆のように思えていたのだが……、何の事は無い、それよりもずっと濃い恋人同士という関係になっていくうちに、尊重したく思った結果に過ぎない。単純な答えに、単純な自分が、気恥ずかしく嬉しいのだ。「気恥ずかしい」などという感情もまた、妙に新鮮味を帯びているように思う。

 変わっていくのだ。変わっていくことはいいことだ。良い方に変わっていくなら、どんどん変わっていこう。まるで人間のようなことを考えている。

 

 

 

 

 ともあれ、魔王スタンの日々の生活においてもっとも重要なウェイトを占めているのがルカであり、ルカと共に在ることであり、ピンポイントで責めるとすればルカの裸体と自分の裸体を重ねあう時間にあると言って差し支えは無い。誇り高き魔王は怒るだろうが、実際そうなのであって、一日二度三度と抱き合ってまた翌夜が楽しみで堪らないという、まるで恋人出来たてティーンエイジャーの如き性欲がそれを物語っていると言えるだろう。

 冷静に考えてみれば、果たしてルカの何処にここまでハマッてしまう要素があるのだろうとスタンも訝る。可愛いことは可愛いが、これは自分が完全にルカに落ちていて、どんな些細なことでも褒める用意があるからだろう。第三者から見て、果たしてルカはどう映るのだろうか。エプロスに聞いてみたら、

「整った優しい顔立ちをしていると思うぞ。眼もぱっちりとして大きいし、……そうだな、さほど目立つタイプではないのだろうが……、分類がかかっていなかった頃のことがあるから、どこか、他の者とは違うように見えることは事実だろう」

 との答え。

 純粋にそれだけでルカを好きになれたわけでもない、実際にはその内面も可愛らしく思えるから、ルカに惚れているスタンなのだ。しかし、好きな理由はいくら挙げても、そのどれもが本当とは思えない気がする。単に、言葉にした空しさから来るものだと判っても、どことなく、寂しいような気にさせられる。

 ルカの陰毛は生えてこない。生え始めては剃ろうとするスタンに対して「もう、めんどうくさいから構わないよ」ルカがと言ってくれたから、申し訳ない気分で魔法をかけた、まだ剥けない、十四歳程度の其処は、可愛い。しかし、仮にルカのちんちんに毛が生えていたって皮が剥けていたって、あるいは万が一にも在り得ない事だが、自分のものよりも立派だったりしたって、自分はルカを抱きたいと思うはずだ。益々判らない。判らない理由が判らない。

「スタン、……好きだよ、僕、スタンが好きだ」

 そういうルカの表情の何処に何を見ているのか自分でも全く判らない、検討するにも見当がつかないのだが、言われただけで恐らくは百以上の理由と事情が絡んで、胸がきゅうんとなってしまう、まだまだ若い魔王スタンなのである。

 「幸せな痛みを伴う酸っぱいような思い味わいたいから」、とりあえずそんな理由で片付けて、スタンは今宵もルカを抱きたいと思う。これを単純な性欲と言えば、スタンは激怒する。しかし、性欲の生まれる拠り所はルカを愛しいと思う気持ちであることは火を見るより明らかで、つまり有体に言えばスタンの勃起することがルカの色いろを証明しているようなものである。

 どうせ「する」のに、広すぎるベッドの中に、一応二人で入る。ルカはどうせこの後一時間近くは眠れないのだということは判っている。九時を過ぎたばかりなのに眠るぞと言い出すのはここのところもうお決まりのパターンだったから。

 それでいて、ほんの少しだけの恥ずかしさを胸に秘めつつ、うんと頷くルカを、スタンは一応判っているつもりだから、嬉しくて仕方がない。

 ベッドの中で腕に心地よい重みをもらう、それだけでは足りなくて、その体ごと、胸の上に載せる。スタンの態度同様大きな身体に載って十分余りあるルカの身体は、成長期を終えて百六十と少しに五十のラインを行きつ戻りつする体重、スタンからしたらか弱すぎる肉体で、抱きしめるのにも気を使う。だが、痩せてはいるがどことなく柔らかいようなルカの身体を抱くと、誇らしいような気持ちになる。これは安っぽい誇りだということをもちろん気付いている、自分より弱いものを守るのだと言う安っぽい男特有のもの。

「ルカ……、あー……、するぞ」

 偉そうなことが魔王の証明とスタンは勘違いしているのかもしれない。偉そうにしなくともルカが言うことを聞くことくらい、付き合ってもうすぐ一年なのだから学んでも良さそうなものを。だがルカはどんなスタンでも構わない気でいる、即ち、ちんちんがどうであろうがルカを好きと思うスタン同様の心持ちでいるので、気にしない。威張っているのがスタンらしいとも思うが、時折どうしようもなく不安そうに自分を見たり、怖いくらいに優しく接してくれたりするときのスタンでも嬉しい。要は、ルカもスタンが心から本当に好きなのである。

「……どうぞ……」

 一応、季節が冬であることを忘れずに、十分温まった布団の中で、ルカのパジャマを脱がせていく。脱がせるのならば着せなければいい、どうせ夜はロザリーも来ない、判っているのだが、スタンとしてはルカを脱がせる過程も楽しめるし、ルカとしては裸の時間は恥ずかしいので短い方がやはりありがたい。利害が一致して、二人の性交は一般と同じく脱衣から始まる。

 ルカの肌はシルクのような触り心地だ、これはスタンしか知らない、と言うより、スタンにしか判らないことだろう。エプロスが触っても、普通の人間と同じと言うかもしれない、今のところは、まだスタンにしか判らない触感なのである。自分の手で触れることが怖い。簡単に傷つけてしまいそうで怖い。そしてルカはそれを気にしないだろうからなおさら怖い。しかし、純性を汚す喜びは魔王でなくとも持っていよう。尚更燃え上がるものが其処には在った。

 パジャマの上を脱がせ、パジャマはそのまま布団の中に置き去りにして、スタンは身体を起こす。ルカは膝の上、足を広げて座る。甘い色の灯りの寝室、広すぎるベッドは逆に二人を密着させる理由を作った。そして、いつも翌朝パジャマが布団の中で溺れていて、探すのに一苦労する。しかし、ルカの裸がそこにあるということを自覚するや、理性の覚束なくなる若い魔王であるから、その点を改善しろと言うのはやや酷なことであるし、この時点ではルカだって気に留めていないのだ。ただ、スタンの眼がじっと、自分の上半身を見つめるのを見て、どきどきしているばかり。

 触っても構わぬか、触っていいよ、タイミングがかぶって、気まずくなって、一拍おいてスタンは手を伸ばす、ルカは擦り寄る。している行為のプロセスに多少の差異はあれど、基本的にスタンがしたがることもルカの喜ぶことも毎回同じなので、言う必要すらない、しかし、センシティブなコミニュケーションすら互いが本当の恋人であることの証明になるように感ぜられて、せずにはいられないのだ。

「……ふ……、う。ん、ん……」

 首を屈め、ルカの、金運とは縁遠そうな耳朶を舐めつつ、背中を指の腹でそおっと撫でながら、ルカがくすぐったがるように首を竦め身を捩る様子を逐一観察し、昨日も感じたはずの新鮮さを、今日もまた感じているスタンの下腹部は、早くもむず痒い。しかし、とうの昔からむず痒いルカはスタンの首に手を回す。その様子がまたたまらなく可愛く思えて、スタンは自分の顔を緩めぬための努力をする。どきどきしながら、唾をそっと飲み込み、唇を小さな耳に当てたまま、「ルカ」と呼ぶ。

「何か、申してみよ。余を――満たせ」

 ルカは一年弱、いろいろなスタンを見知った。学んだ。寂しがりやだということを、心配性だということを、僕ら人間と同じだと言うことを。だから、こんな風にわがままを言うのだ。

「……幸せだ」

 ルカは言う。

「僕は幸せ。君といて」

 もうちょっと言葉が上手だったらいいのにな。

 しかし、拙い言葉でもスタンは満たされる。それに甘えられないと思って、ルカは近頃、よく本を読むようになった。

「僕は僕の生きる時間の早いうちに、君に会えてよかった。これからずっと君と生きていけると思うと、申し訳ないくらい幸せだよ」

 使いこなすには時間がかかりそうだ、しかし、必死に編み出した言葉はスタンを激しく揺さぶった。

「おお……、そうか……、うん、そうか……」

 ルカを抱きしめてスタンは、どんな風に言ったなら、今自分の感じた苦しいくらいの喜びをルカに教えてあげられるだろうと考える。しかし、出てきた言葉と言えば、

「余も幸せだ」

 そんなもので。

 しかし、ルカは喜んだ。

「……脱げ」

 照れ隠しの命令口調は、判っているからもう怖くない。ルカは多少の羞恥心は布団の中に隠してあるから、

「一人で脱ぐのは恥ずかしい」

 と口答えする。

「……余に脱がせよと言うのか?」

「……そう解釈してもらっても、構わないし……、っていうか、スタンは脱がないの?」

「……」

 スタンはまず、自分の上を脱いでから、ルカの下をするりと脱がせた。見たくて見たくて仕方がないし、手――というよりは指――で、あるいは口で、愛したいと強く思うのだが、ここは一旦堪えて、掛け布団の上にルカを横たえ、そっと覆い被さってキスをする、今宵最初のキスである。

 最初は重ねるだけ、そこから、徐々に唇を開き、やがては舌を深く絡め合わせる。真っ当すぎるやり方、手順を追って。二人が「此処」に至るまでのプロセスが相当に真っ当ではなかったから、反動かも知れない。

「ん、んん……」

「……苦しいか?」

「……んん……」

「そうか……、……苦しかったり辛かったりしたときはいつでも言うのだぞ」

「んっ!」

「……ルカ」

「ん……、へ、平気……、大丈夫だよ……、スタン、気持ちいいよ」

「……、うん」

 ああチクショウ、ルカが可愛い……! スタンは奥歯で生っぽい言葉を噛み殺して飲み込み、苺色の乳首に唇を寄せた。スタンのような屈強な男が小さな苺の一粒に唇を寄せている絵図というのは、なかなか滑稽さを孕んだものではあるが、今はそれを指摘されたって何の痛痒も感じない、ただの男に成り下がっている。いろいろなものを畳んだのだ、プライドの傘とか、傷つけるための爪とか。

「……どこをして欲しい」

 出来るだけ真剣な顔に真剣な声音を選んで、慎重にスタンは言う。ルカはもう精神の安定を欠いて、強い欲求が表出する段階に在るから、多少スタンが下品な部分を露呈しても今更どうということはないし、そもそもスタン自身あまり上品な男ではないから、構わないのだが、多少の尊厳はしつこくもまだ残っているのだ。

「スタンがしたいところ、してくれれば僕はそれで」

「駄目だ、お前が言え。何処をして欲しいのだ?」

 これは完全なる趣味。言って欲しいだけだ。

「……」

「偉大なる魔王である余がお前の頼みを聞こうというのだ、有り難く受け取るべきとは思わんか」

 恩着せがましい言い方だし、頼みの実態は別のところにある。しかし、言葉にしたなら、何分かの本当はそこにあるはずだとも思う。多少なりとも、自分の思うままにルカを振り回したくは無いと思う部分はあるのだし。

「……言わなきゃ駄目なの?」

「……」

 言って欲しいのだ、そこのところを察してもらいたいのだ。そんな高校生みたいなワガママを、三百余年生きた魔王が思うのだ。ルカはスタンが黙って自分を見つめているのを見て、諦めた。スタンとしては祈るような気持ちだったのだが……。

「……身体……、キスして欲しい、身体ぜんぶ、スタンにキスしてもらいたいって、思った」

「……」

 スタンはぴくりとも動かないで数秒待って、

「……そうか」

 落ち着いた声を心の混沌から拾い上げる。

「判った」

 迸りそうな魔性を抑制するのが並大抵の苦労でないことをルカは知らないのだ。だからこの子供はこんな風に、言葉一つで余を苦しめるのだ。ケシカラヌことこの上なし……、だがスタン、心から嬉しく思っているのである。

 言われたとおりにすることは容易い。耳と胸と唇は舐めた、もう一度耳を舐め、首筋へと舌を下ろしていく、唾液を伝わせて、震える体が濡れていく様を見るのは、辛いくらいに嬉しい。

「や……う」

「嫌とは何だ、お前がしろと言うから……」

 たった一文字に激しく動揺して身を起こす、ルカは涙目になっている。そうして、焦ったように、

「ごめん、ごめんね、大丈夫、大丈夫だよ、気持ちよくって……、思ってなかった声が出ちゃったんだ……」

「……」

「ほんとだよ、スタン……」

「……」

 納得したのに、憮然とした顔で、では脇腹を舐めたならどんな声を聞かせてくれるのだ? 内心で問う。試してみればよいだけのこと、舐めて、ついでに吸った。

「っあ……」

 ひくひくと、かすかに震えた脇腹の様子がそれだけでこの愛情の頼もしさを教えてくれるように思えた。そこから腰骨を経て、太股へと降りていく、右から左へ、内から外へ、ずっと口付けをもらえないで寂しがるペニスに激しくしゃぶりつきたい衝動を抑えつつ、膝を経て足の指先へ辿り付く。ルカは潤いを含んだ目でスタンを見上げたまま、唇から濡れた息と声を溢れさせるばかりだ。苦しいような嬉しいような気持ちで一杯になってしまうのだ。

 そんなルカのことをちらりとでも見てしまえばスタンもたまらない。

「乗れ」

 ルカにしてやりたい気持ちも、自分がして欲しい気持ちも、どちらも一緒にこみ上げてきた。従順なルカをさかさまに載せて、舌を伸ばす、ルカは何も言わないうちから唇を寄せる。小さなことだが、約束事のようにまずそこにキスをしてから舌を出すルカがいとおしかった。

 膨大な知識を誇る魔王でありながら、こう言うときにどうするべきなのかを判れない。それを不器用という言葉で片付けるには都合が良すぎるように思える。

 スタンはまだ、ルカを愛する際には不必要なものをいくつかその身に宿している。シェイプアップしきれていないのである。しかしルカがスタンに対しては全肯定の精神の持ち主であるから、スタンがこれ以上の進歩を見せることは難しいだろう。

「ルカ……、ルカよ。……お前、上手くなったな」

「……ん……、ふあ!」

 ぺろりと尻の穴を舐めて、鳴かせてみる、その拍子に小さな口からスタンの熱い肉塊を外してしまう。

「淫魔がお前の中に巣食っておるのかも知れん……。何度も中に余の濃厚であるがゆえに偉大な精液を放出しておるからな、お前に魔性が少しずつ伝染しておるのだろう。……だが安心するがよい、身体に悪影響のあるものではないし……」

「うん……、……平気だよ」

「ならば、構う事は無い、どんどん上手くなるがよい。余としては満足度が高くなるだけのことよ。それに……まあ、どんなに上手くなろうと、お前は手抜きをするということを知らんからな」

「手抜き……? 扱くやつ?」

「……違う、そうではなくて、ちゃんと普通の意味に取れ。……全く、淫乱が……」

 と言いつつ、スタンは非常に嬉しそうだ。嬉しいときに限って不機嫌に振舞う。判っているつもりのルカ、しかし、半分は不安になる、ごめんねと思いながら、口に含み、硬く熱く大きなスタンの男根を口で扱く。いつも思うのは、確かにこれくらい此処が大きければ「偉大」なのかもしれないなということ。スタンがこれほど自信満々(であるようにルカにはまだ見えるのだ)な態度で生きていることの理由が、苦しいくらいに太い此処に凝縮されているのだと勝手に解釈する。

「ん……、んっ、んっ……んぅ……」

 スタンの砲身に施しながら、尻に施される。ルカは尻尾の付け根を触られた猫のように、無意識に腰を逃そうとするが、スタンはもちろんしっかりと抱いて逃がさない。そうしているうちに快感に慣れ、貪欲になり、もっと強いものを求めて、縋るようになる。そこにスタンの指が入るから、ルカは尚嬉しくなり、喜びの声をあげる。一本より二本がいい、そして指よりも、

「スタンの……っ、頂戴……、僕の中……」

「……っ」

 胸が破裂しそうになったのを堪えて、

「何をだ、何処にだ、ちゃんと言わなければ判らないだろうが」

 と尖った声で言う。

「スタンの……、これ、欲しいよお……」

「『これ』とは何だ『これ』とは! ちゃんと言わんか!」

「……スタンの、おちんちんが欲しい、お尻の中に……入れて欲しいよ……」

 十秒近く、その言葉の持つパワーに翻弄されて、

「……何故初めから素直にそう言えぬ、言えるのに言わぬなど……ナンセンスであろうが」

 などと言わなくてもいいことを言って微妙なところで体面を保つ。然る後、ルカの太股を解放する。

「……任せる」

「うん……」

 ルカを抱くときは、自分の身体の大きさを強く意識する。自分の腰の上に跨るルカの身体は、小鳥のように小さく見える。しかし、これは実際の身体よりも更に小さく見えているに違いない。あの三角錐女勇者は無駄に大きく見える、あの人形王女も。ルカはまるで小さい、必要以上に小さい。だからこそ自分は愛し守るのだと、青きスタンは思う。

「あ……う……」

 身体を拓かれる痛みにルカが眉間に皺を寄せ、苦しげな声を出す。スタンは亀頭の先からルカに包まれていく感触を味わって、とてつもなく生々しい言葉を吐きそうになってしまうのを飲み込む、こういう無理は魔王の義務だと思っている、零れそうになった言葉とは即ち――「うわすっげえ可愛い」、ルカは、魔王の目に本当に可愛く映る。

 腹の底を持ち上げられる感覚に慣れて、そっと息を吐いて、ルカはスタンを見る。大人と子供ほどの体格差があって、しかも彼らの関係は同性愛であるゆえに、超えねばならぬ問題があって、しかしルカが進んでする無理によって、その障害は超えられる。

「……ぜんぶ……、はっ……う、ん……、全部、入った……よね?」

「……うむ……。……狭いぞお前の中は、もう少しこう、何とかならんのか、余を絞め殺す気か子分の分際で」

 ルカは、無理に笑ってみせる。

「……ごめん、ね。僕……、ん、もうちょっと、頑張らなきゃいけないね」

「……、う……、うむ、そうだ、もうちょっと頑張れ、頑張れるならな!」

 上体を起こせば、包み込めてしまうほどに小さな身体、細い太股を支えて、前後に揺すり動かす、ルカはスタンの首に手を回し、しっかりとしがみつく。相手が小さすぎて、なんだか罪悪感が在る。魔王なのだから罪悪感も美味ではあるが、ルカに対しては酸っぱさの方が強いように思う。

「……気持ち良いか?」

 見れば判ることも聞かずにいられない。

「気持ち……良いっ、いいよ、スタン……、好きだよ」

「……うむ、……余も……好きだ」

 これではまるで何処にでもいるごくごく普通の恋人同士。同性同士魔王同士そんな括りを超えて、パッと見ならば普通の恋人同士と同じ。

「……愛してるよ、スタン、愛してるよ」

「うむ……。余も……愛しているぞ、ちゃんと……」

 囁きあって、裸で抱き合っている間は、きっと世界のどんなところにいる恋人とも一緒で、しかし世界にたった一種類の恋人同士になっているのだろうとスタンは推測する。結局のところ特別には変わりない。心底ルカが愛しい、思う気持ちの種類は誰が抱くのとも一緒でも、相手は一人しかいない。貰う思いも一緒で特別。それがいいのだ、それでいいのだ。

 ルカの身体を冷やさぬように、大きな胸の中に包み込んで、愛らしい寝息が耳に届くまで、スタンはずっと起きて待っている。

 

 

 

 

 やはり丸くなっているのだろうとスタンは判断する。翌日はロザリーの来る日。分類は無いとは言え魔王と勇者であるからして、それ相応の形で会わなくてはならない二人である。とは言え、これすら無かったなら自分は何処までもルカに溺れるだけの駄目男になってしまうであろうという懸念がスタン自信にもある。だから、多少なりともロザリーを歓迎する気持ちが最近では芽生えていて、

「よく来たな100グラム80円勇者め!」

 こんな風に人に健全な悪口を言う、言うなれば「魔王的振る舞い」をするチャンスを与えられるだけで十分にありがたい。それに、無論ある程度以上の手加減はしているが、存分に身体を動かせる。ルカにカッコいいところも見せられる、終わった後の風呂が気持ちいい、などなど、メリットは多い。ルカははらはらしながら見ていることが多いが、終了後のスタンがせいせいしたような顔をしているのを見て、あれはあれで良いのかなとも思う。

 スタンもロザリーも、既にルカをどうこうするという理由で戦うわけではない、いい運動程度以上の認識はしていないに違いない。そのことは、ルカに「許された」という安堵を与える、スタンとの幸せを遮るものはこの世界に何一つないのだと言うことを確信し、本当に本当に、嬉しくなる。恋人と共に在る事で感じる一般的な幸福が、自分にも与えられたのだと思う。

 膝の上がホームポジション、シートベルトのようにスタンの手が腹に回る。部屋を余り温めなくとも、スタンの身体が背中から少しずつ熱を送ってくれる。そして、スタンもまた、ルカが温かいと思えるのだ。

「昼ご飯は何にしようか?」

 所帯じみた問題を二人で一緒に解こうとする姿勢は当たり前でも、改めてそうすることの意義を考えれば、魔王の胸ですら、若々しく青くときめく。


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