LIE ON THE GREEN-GRASS

 空戦が小屋に住むようになってから、最初の梅雨が来た。雨の日は、神なる身の少年たちにしてもわざわざ好んで表へ出たりはせず、大抵は大人しく小屋の中で過ごす。ただ一人増えた分だけその人口密度は高くなるし、

「……おい、お前暑苦しいぞもうちょっと離れろ」

「うるせえなテメェは……、テメェだって暑苦しい」

 巳槌と円駆は苛立ってぶつくさ言う。空戦は部屋の隅っこで時折逆立ちなどして、久之はこれまた部屋の角で本を読んで、ただ静かに雨が止むのを待っている。

 そういう日々の晴れ間は、大いに貴重である。

 晴れた日に久之は忙しい。焼き物をしたり、部屋の掃除をしたり、畳を干したり、洗濯をしたり。せっせと働いて、神なる身三人の生活環境を清らかなものとする。そして巳槌も円駆も空戦も、ほんの少しだけそれを手伝っては、「いいよ、遊んでおいで」と久之に促され、結局それぞれに山の好きな場所へ行くのである。とはいえ円駆はそれを「遊び」とは思っていない、寧ろ重要な「仕事」であると解釈しているし、巳槌はそういう円駆を「自己満足の馬鹿者」と哂う。そして空戦は空で水蒸気をかき回して飛び回るのである。

 久之が仕事を終えて、久しぶりに絵でも描こうかと筆を取り出す頃。

「……何だこれは」

 と巳槌が見下ろしているのは、陽射の燦々と降り注ぐ森の中の余白である。巳槌が少しく眠たく思えて、日向ぼっこでもしながら昼寝をしようかと思って来たところ、特等席とでも呼ぶべき空き地の真ん中にて空戦が裸同然の格好で口を開けて眠りこけているのである。

 全く、眠いなら小屋に戻ってから寝ればいいのに。大体浴衣はどうしたのだと見回せば、岩くれに着せるように浴衣が掛けられていた。土で汚して洗濯物を増やさないようにという、空戦なりの気遣いだろうか。

「……ああ?」

 邪険な声に振り向けば、山の「警備」の仕事を終えて満足したらしい円駆が麒麟の姿で顔を顰めている。

「先客がいるぞ」

 巳槌の答えに、チッと舌を打つ。

「何で小屋で寝ねえんだよこいつは」

 つい今しがた、同じことを巳槌も思ったくせに、

「久之の仕事の邪魔をしたくないと思ったのかもしれない。この子供なりに気を遣ったんだろう」

 時間を使って思案を巡らせた分だけ、巳槌は一段進んだ解釈をした。

 人の姿に戻った円駆は、麒麟の姿のとき尻尾に引っ掛けていた浴衣を肩にかけて空戦を見下ろす。帯も締めていなければ、もちろん六尺だって締めていない。そんなだらしない格好だが、

「……何つうだらしねえ格好してんだ」

 足元に眠って、

「……んふふ……」

 平和な夢に微笑を浮かべる空戦とどちらがだらしないかは、暫し議論の余地があろう。陽だまりに在って小さな身体が冷えることはなかろう。冬に小屋に来たばかりの頃は真っ白だった腹も顔も、少しは健康的な色になりつつある。もっともそれは巳槌も円駆も、そして久之も同じである。

「……あまり長く昼寝をさせるべきではないような気がするな」

 円駆と共に空戦を見下ろして巳槌は呟く。「夜に寝付きが悪くなる。ただでさえこのところ、夜は風が少なくて蒸し暑く寝苦しい」

 円駆は同意しなかった。

「ほっとけよ。……逆に夜あんま眠れてねえから今眠くなってんのかも知れねえし」

 それも一理ある。ただ一人夜型の生き物としての空戦の、昼夜逆転の生活を改めさせて春を越し夏を迎えつつある今日この頃、ようやく朝に酷い寝ぼけぶりをしなくはなってきたものの、それでも夜は時に眠れないときがあるようだし、朝は相変わらず久之の手を借りなければ起き上がることさえままならない。

 時間をかけて、少しずつ慣れて行けばいいと思う。

 優しい久之はそう言う。それについては巳槌も円駆も同意見であり、空戦が眠れなければ一緒に起きて、眠れるように努めてやるのが「家族」として当然のことだと思って、している。

「ふあぁ……、あ」

 空戦の平和な寝姿を見ている巳槌は大きな欠伸をした。円駆がぶっつりと「お前も寝りゃいいだろ」と言う。

「そうしようかな……。でも、お前はどうするんだ?」

「俺は別に……、ぶらついて適当に時間潰すでもいいし……」

「そうなのか? 久之に甘えてきたっていいだろうよ。このところいつも遠慮しているようだからな。たっぷり可愛がってもらいたいと思っているのではないか」

「……やかましい」

 空戦が寝ているから、円駆の声も遠慮がちなものだ。それでも彼の心の中に、そうすることを魅力的と解釈する部分があることを巳槌は知っているし、それに対しては肯定的だ。円駆を愛する久之を見るのだっていいものだと思うし、……そう言えば、空戦を愛する久之というものも悪くない。久之は巳槌と円駆よりも更に一回り小さい空戦の身体に、ずいぶんとおっかなびっくりに触れて扱う。まだ巳槌たちのように身体を結びつけたことはないはずだ。それも、「少しずつ慣れて行けばいいと思う」巳槌である。

「……フン」

 円駆は不機嫌そうな溜め息を残して、小屋とは反対方向へ歩いて行った。せいぜい遠回りをして小屋に行くがいいよと思いながら、巳槌も浴衣を脱いで空戦の隣に横たわった。

 

 

 

 

 巳槌は血圧が低い。冷血動物であるからそれは仕方のないことであるが、人間の身体で眠った朝でも寝起きが酷く悪く、ときに久之や円駆に迷惑を掛けることになるのは少々申し訳なく思っている。ましていまは、自分以上に寝起きの悪い空戦がいるのだから、自分のことは自分でどうにか出来るようになりたいものだと思わずにはいられない。

 思いのほか強い太陽に暑さを感じ、ちかちかする目を開いたが、自分の状況を把握するまでには少しく時間を要した巳槌だった。

「……ああ、起きちゃった、おはよう巳槌」

 空戦の声である。先に起きていたようだ。その声は巳槌の股間から届いた。そして巳槌は、六尺を外されて全裸でいるのだった。

「……何をしている?」

「うん、……起きたら、ちんちんが大きくなっていてね。君のもそうなっているみたいだったから……」

 要は僕は、寝込みを襲われているのだな。

 ぼんやりと、そんなことを考えた。

「どういうからくりかは判らないが」

 巳槌は欠伸を一つ挟んだ。「僕らの身体は、寝て起きるとしばしばこうして、ちんちんが硬くなっていることがあるようだ。僕は其れを大人の身体の反応だと思っているが、お前もそうなのだな」

「そうだよ。……だから朝おしっこをするのがちょっと大変。あんまり壁板を汚してはいけないように思うし……」

「構うことはないよ。どうせ僕が洗い流すのだから……。よいしょ」

 ようやく目が慣れてきたので、身を起こす。巳槌の陰茎は、空戦の指に摘まれていた。空戦も六尺は外していて、二人揃って幼い裸を空に晒しているのである。

「それで、……質問の答えはもらっていないな。何をしている?」

 空戦は、じいっと興味深そうに巳槌の陰茎に視線を当てる。その実、その紅い双眸は何も見てはいないのだろうが、

「君たちと過ごす時間を重ねてきて、僕だって学習というものをするよ。『家族』あるいは『恋神』のちんちんがこうなっていたら、気持ちよくしてあげることが礼儀だし、相手にとっても自分にとっても幸せなことだ。だから僕は、巳槌のちんちんを気持ちよくしてあげようと思ったんだけど」

「……だけど?」

「ええと、……舐めてみようかなって思ったら、君が目を醒ましたんだ」

「……そうか。ならばもう少し眠っていればよかったかな。でも、そもそもお前だって勃起しているんだろう」

 円駆よりも一回り小さい巳槌のそれよりも、もう一回り小さな空戦の陰茎が、はっきり上を向いているのが見える。

「ああ、それは……、うん」

「それを知ってしまった以上、僕にだってその義務が生じてしまうな。もっとも、義務などなくとも僕は大切な『家族』ないしは『恋神』の勃起しているちんちんを見れば気持ちよくしてやりたくなってしまうのだけれど」

 巳槌は、微笑んだ。空戦がじいっと見詰めている。何を見ることが出来なくともその目は、確かに巳槌の微笑を見抜いている。

「ねえ、巳槌はさ、僕と初めて一緒に寝たとき、僕にこういうことをしたかったの? あのとき君は笑っていたよね?」

「……さあ、どうだったかな」

「あのとき、何の前触れもなく君が笑ったから僕は驚いた。でも、君の笑顔を『見』ることが出来て良かったと思うし、いまはこうして、何度も君の笑顔を『見』ることが出来るようになって良かったと思っているよ」

 微笑むと、一層幼さが深まる。久之でなくとも――円駆だって――この男の幼い微笑みに、巳槌のそれとは全く異質な困惑を覚えていることを知っている。

「僕は、目が見えないことをこれまでほとんど何とも思ってこなかったけど、……君がどんな顔をしているのか、どんな顔して笑うのか。……円駆がどんな顔をしているのか、久之がどんな顔をしているのか、……君たちみんながどんな顔で僕を見ているのか、知りたいって思うようになったよ」

 巳槌の泉の水は、少々の傷ならば呆気なく塞げてしまうほどの癒しの力を持っている。幾度か泉でその目を洗わせたが、空戦の視力が戻ることは今に至るまでない。

「……しかし、お前はきちんと見ているのだと思うぞ」

 空戦の、羨ましいぐらいに癖のない黒髪を撫ぜて巳槌は言う。巳槌は波のある髪だし、円駆はざくざくと硬い、久之もやや硬い髪質だ。彼らとは全く違う、柔らかくて滑らかな髪を指に絡める。

「お前が思い描く僕らの顔と、僕ら自身の顔と、……少しも違うものか。愛しい者の顔はどんな形であれ、自分にとって愛しく思えるたぐいのものなのだからな」

 その手を導き、抱き寄せて、巳槌は空戦の頬に額に唇を当てる。

「僕もお前をとても可愛いと思っている。久之だってそうだし、円駆は口が悪いから絶対に認めやしないだろうけれど、あいつもそう思っている。お前のことをもう愛しているからだ。僕の生活する空間にお前がいることが、最大限に好ましい『当たり前』になっているからだ」

 髪に隠れた耳に唇を当ててやったら、くすぐったそうに小さく笑う。

「そう……、だといいな。僕は自分がどんな顔をしているかも知らないからね」

「神獣」として生じてすぐ、激しい恐慌に陥り、円駆に撃墜され、その際に視力を失ったのだから、人間の利器である「鏡」以前に泉に映る自分の顔だって空戦は知らないのだ。

 巳槌は自分の顔を「何だか無愛想で性格が悪そうに見えるな」と思っている。このことを円駆に言ったら「見える、んじゃねえよ、てめーはそのまんま無愛想で性格が悪いじゃねえか」と言われた。そう言う円駆の顔は、いかにも向こう気が強くて素直でなさそうな顔に見えるのだが、少なくとも巳槌はその顔を持って円駆を減点することは思いつかないので、……きっと円駆も、巳槌の顔を悪い物とは思っていないのだろうと解釈して大いに気をよくした。

「……巳槌は優しい顔をしていると僕は思うよ。だって君は、……どんな経緯があったにせよ、結論を見れば間違いなく僕を幸せにしてくれている。心地良い布団に招いてくれたし、久之たちとだけ過ごしていた幸せな時間に、僕も混ぜてくれた」

「確かに、経緯を無視すればそうかもしれない。そして僕自身の意図も無視すれば。……僕は久之が困らなければ何だって幸せだと思っているんだ。円駆と仲直りしたのだって、そうしないと久之が困るからだ」

「無視していいんだと思う。実際僕は毎日楽しく過ごしているし、元気だし、今ならこうして君と抱き締め合っているのは幸せだと思うし、……ねえ巳槌。僕、巳槌のちんちんもっと触っていいかい? 多分あまり上手には出来ないけど」

 腕を緩めたら、「ありがとう」と巳槌の頬に唇を当てて、そのまま首筋に、胸に、腹に、……久之が巳槌にしていたことを気取っていたのだろう、真似て唇を落としながら、再び下肢に降りる。指先でそっと摘まれた巳槌の陰茎は、たちまち空戦の口の中へと収められた。

 まだ、拙い。

 ずいぶん長い時間をかけても、久之を到達させるには至らないし、久之が困りきって、「ありがとう、ありがとう、あの、もう、大丈夫」と音を上げる。そういうとき、少し申し訳なさそうな空戦を見ている巳槌であり、……今日はそんな思いをさせることはないぞと、髪を撫ぜる。

 だって、僕もまた「子供」だから。

「子供」と誰かに称されることは、仮令久之相手であっても少々気分を害する巳槌である。他方、自分が子供の身体であることは揺るぎようのない事実であって、要はその精神性を幼く見られることに腹を立てているに過ぎない。自分がつるりとした子供の身体であり、きっとそれゆえに久之を愉しませていることにも繋がっていると解釈している。

「ん……、巳槌、……気持ちいい?」

 乱れた息を感知して、空戦が問う。

「……ああ、……あまり、喋らせるな、よ……。声が……、震えて、みっともなくなる……」

 久之や円駆相手では気にもしない、寧ろ煽るようにいくらでも淫らな言葉を吐き散らかす唇に、無意識のうち、手の甲を当てていた。自分よりも更に「子供」の顔をした空戦は二度瞬きをして巳槌の顔を「見」上げていたが、やがて愛撫へと集中し始める。

 「見」よう「見」真似の、覚えたての、遣り方。門前の小僧何とやらで、そこに本人の努力が加われば、例えば歯を立てぬことなど造作もなかろうし、「子供」の形をした巳槌を追い込むことだって容易いはずだ。

「くう……、せん……」

 掌だけでは封じきれなくなりそうな声を、抑える努力を諦めて、両手をその黒髪に乗せる。小屋に来たばかりの頃はもう少しぼさぼさだった気もするが、よくよく考えてみればそれは僕も円駆も同じこと。久之と一緒に暮らし、風呂に入り、身体の隅々までぴかぴかになったなら、僕だってこの子供だって、そんじょそこらの人間には負けないぐらいに美しい。

「っ……あ……、あぁ……う……ッン……」

 事実として、巳槌は空戦を可愛いと思った。

 最早利害もない。ただ「家族」というかりそめの名前を使って、一緒にいることそのものが楽しいと、……巳槌も円駆もそう思うようにこの子供も思う。共にある悦びをより大きく膨らませるために。

 仮にこの世界から布団や風呂というものがなくなったとしても、空戦は側にいるだろう。

 それが、

「っ……く……」

 今の巳槌には喜びだったし、久之にとっても円駆にとっても。

 動きを止めた巳槌に応じて空戦も動きを止めた。数秒、じっとそのまま過ごして、汗の浮いた肌を風が撫ぜる。唇に挟んだまま吸い上げつつ、顔を上げた空戦は、眉間に浅い皺の一つも刻むことなく放射された物を飲み込んで、少し誇らしげに、

「気持ちよかったんだね」

 笑う。

「よかった。僕の口でも巳槌のちんちんぐらいは気持ちよく出来るんだ」

「……僕の『ぐらいは』とはずいぶんな言い草だな」

 頬をむいと摘む。柔らかい。微笑みを浮かべるのが上手な頬だと思う。

「らって……」

「僕のだけで無しに、円駆のだって射精させられるだろうお前は。……久之のちんちんが『大人』で特別なだけだ」

「ほうあの」

「全く、やらかいほっぺたしやがって」

 指を離す。頬を擦った空戦は首を傾げて、「でも巳槌たちは久之のことだってちゃんと射精させることが出来るから、やっぱり僕はまだ下手なんだと思うな。僕も久之のことを気持ちよくしてあげられたらいいなと思う。僕は君たち二人みたいなやり方がまだ出来ないから」

 空戦の言う、巳槌と円駆の「やり方」とは、要するに巳槌と円駆のような久之の受け容れ方であり、それは行為にこの「子供」を招き入れることに積極的だった巳槌も、

「まあ……、出来ることを一つひとつやっていけばいいと僕は思うがな」

 と慎重にならざるを得ない。空戦の泣くところを見たいとも思わないので。とはいえ、空戦が久之を受容出来るようになるまで、いったいどれぐらいの時間を要するかは全く計り知れないのだが。

「……まあいい。さっさとちんちん出せ。お前だって気持ちよくなりたいんだろうよ」

「うん」

「勃起したときは早いところ褌を外してしまえと言わなかったか? 濡らして染みを作るからと。……ちんちん小さいくせに出てくる物は一人前だな」

「うー……、でも円駆が言ってたよ。僕のなんかはまだましで、巳槌の褌はいつも黄色いって」

「……ほう、あいつそんな余計なことを抜かしたか」

 後でおしおきが必要であるな、と思う。もっとも円駆の言うことの方が正しいのだが。

「僕らのちんちんは色々甘いんだ。そういう風に出来てるんだ。だから多少黄色くなったってしょうがないし、こんな風にぬるぬるが出て濡れることだってまた『しょうがない』という言葉で済むんだ。……どのみち洗えば落ちる」

「言ってることが矛盾している気がするし、洗うのは久之だけどね」

 寝起きでなければ頭の回転のすこぶるいい空戦である。巳槌だって頭はいい。そして、巳槌はついつい軽んずるような発言ばかりしてしまうが、円駆はこの山の棲民の中でも突出して頭がいい――巳槌は「僕と同じか少し劣るくらい」という表現を使う――。頭がいいから僕らはこうして幸せになるのである、と巳槌は勝手に決め付けるが、それが「頭のいい」考えの転がし方かどうかは判然としない。

 とにかく、黙らせる方法は誰に対しても一つだ。

「ひゃ」

 自分より半回り大きな円駆の陰茎を「ちんちくりん」と酷評する巳槌が本当に「小さい」と言い得るのは空戦のそれだけで、熱を持て余した状況であってもするんと口に入る。巳槌は陰茎の味が好きで、そこが硬く滾り、少しばかり塩ッ辛い蜜を滲ませていたりすればなおのこと嬉しいと思う。一番好きなのは久之であり、その大きさによる圧迫に苦しささえ覚えても口を離したくないと思っている。その一方で、小便臭い円駆や空戦の、苦もなく口に収められるものだって、相応に好きだし、久之の持っていない可愛げというものがあるように考える。こういう自分を淫らだと思われるのは望むところで、その「淫ら」な巳槌を目の当たりにするのは久之と円駆と空戦、大切な「家族」であり「恋神」である者たちだけでいいのだ。

「んぅ……、舌っ……、す、ン、ごい……」

 巳槌の癖毛をぎゅっと掴んで、円駆が声を潰す。容易くて、だから可愛い子供である。そうか僕の舌が気持ちいいか、何よりだ。ならばもっともっとよくしてやろう。お前を幸せにしてやろう。

「ふ、あっ、あ! あっ、それっ、巳槌……ぃっ」

 少し頭を動かしてやっただけだ、舌を動かしてやっただけだ。それなのに、空戦の幼茎は巳槌の口の中で苦しげに脈動を解き放った。呆気なささえ抱く。それでも舌に齎される寒天質で青く馨る精液は、それだけで巳槌を満たすものになる。

「ふぁ……、はぁあ……、はあ、もう……」

 目に涙を浮かべて、「いつまでも掴んでいるんじゃない、痛いぞ」指を解いて、

「もう……、すごいなあ、巳槌は……」

 何故だか正座して空戦は言った。

「別に僕が凄い訳じゃあるまいよ。お前のちんちんがまだ弱いというだけだ」

「……いつになったら強くなるのかな」

「……さあ……、いつだろうな」

 こうして早く幸せに出来ることは第一に手軽であり、第二に巳槌にとってちょっとした自信になる。巳槌自身も久之の掌や口にかかれば、全く我慢など効かなくなってしまうので。

 くしゅくしゅ、空戦の髪を撫ぜて、それから抱き寄せる。空戦程度の身体でもこうして抱き締めるときにはやや大きさを感じる。円駆も含めて三人で、ぎゅうぎゅうと久之に抱き締められるのが一番楽しいのだが、久之は照れ臭がってあまりしてくれない。

「空戦。僕が久之や円駆に対して抱く思いと、お前に対して抱く思いはきっと質が異なる。だがお前のことは好きだし、こうしてお前を抱っこするのもいいと思う」

 空戦はくすりと笑って頷く。

「僕もこうされるのは好きだよ。君や円駆や、久之に、ぎゅって抱き締められるのは、こういう蒸し暑い季節でもいいものだ。僕はまだ、君たち三人の間に流れる感情を正しく理解してはいないと思う。でも、いつかきっと、同じ気持ちの中にいられるようになりたい」

 ああ、そういう日はいつか来る。そしてそれは、他のどの「いつかそのうち」よりも近い日のことだということを巳槌は予測した。

 がさり、茂みが鳴っても二人は離れなかった。物音を立てたのが円駆であることが判っていたからだ。

 とはいえ、それは巳槌には少しばかり意外なことでもあった。

「……あにしてんだテメェら」

「お前こそ何をしてるんだ。久之と仲良くしてたのではなかったのか」

 円駆は憮然と、すっかり脱げ掛かった浴衣を直しながら、「あいつ寝てたから邪魔したくなかった」と答える。なるほど、結局小屋までは行ったのだな。

「お前もこの子供みたいに久之の寝込みを襲えばよかったのに」

「んなことしねえよ! ……んなことしたのかよ!」

 空戦は照れ臭そうにこくんと頷く。円駆はしばし巳槌と空戦を睨みつけていたが、やがて大いに不満そうに溜め息を吐き、それだけでは足りなかったか舌を一つ打った。

 巳槌が思い付きを口にするより先に、

「円駆も一緒に遊ぼうよ。久之が寝てるなら、僕ら三人で遊ぼう。でもって夜に、……彼があまり眠くならないようなら、そのときは四人で遊べばいい」

 空戦が言った。

 円駆が言葉を発するのを悠長に待つ巳槌ではない。

「うん、それがいいな。空戦は頭がいい。昼寝をすればどうせ久之だって夜更かしをするだろう。いやあいつだってそれを見越して昼寝をしているに決まっている」

 巳槌の膝の上から空戦がひょいと立ち上がり、「遊ぼう」と円駆の手を取った。

 


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