ヲトコノヤボウ ヴィンターズィーガー:Wintersieger

冬の風物詩は大掃除。押し入れの奥を片付けていた俺は腹に傷を負った松田優作(だったよな?)のような声を上げた。
……何じゃこりゃあ!!」
 その袋を見るのは久しぶりで、九月以来。某有名スポーツブランドのロゴが入っていて、結構おしゃれだ。俺たちはたまたまこういう使い方をしているけど、何か別のものを入れて街を歩いてもサマになると思う。
 俺は恐る恐る、その袋の口を緩めて中を覗いた。途端、むわっと浮かんでくる形容しがたい匂いに、顔の筋肉が膠着した。凄まじい臭気に、とにかく口を閉めて、一階の床を掃除しているはずのヴィンセントの所に持って行く。
「か……ッ……」
 煙草を吸って小休止中のヴィンセントに、何も言わずにその袋の口を開けて渡してやると、彼はスゴイ顔をして、一頻り噎せて、それから俺の頭を思いっきり叩いた。
「痛い」
「やかましい黙れ。……殺す気か」
「押し入れから出てきたんだ。これ……。どう……思う? 洗って使える?」
……使わせたくない、というのが個人的意見だな」
「同感だ」
 中には夏の名残の、クラウドのスクール水着が入っていたのである。持って帰って来たのを、押し入れに入れたまま忘れて放置して、ちょっと凄い事に。洗って使う事は不可能ではないだろうが、やっぱりクラウドのチンチンに直接触れるものであるからして、結論はすぐに出たのだ。
 クラウドも、一応男の子だから、男の子らしいところが結構ある。ベッドで女の子の扱いを受けるのは本人の自尊心からすると大いに納得できない事かもしれないが、普段は甘えん坊だけど潔いし、割と片付けるのが下手で、強いものに憧れる。男っぽい要素が結構ある。アルテマ神竜砲を放った時は、あの後一週間はずっと誇らしげだった彼である。カワイイといえばやっぱり可愛い。
 しかし可愛くても、ずぼらなところはやっぱり良くないな。って俺に似てしまったのだからあまり大きな口は叩けないのだけど。……そうだよ、クラウド、靴揃えて置くのもしないし、洗濯物は洗濯カゴに入れようって言ってるのに入れないし。
「クラウド、ちょっとおいで」
 クラウドに注意するのは気が進まない。とは言え、やっぱりだらしないのは良くない。ベッドの上だけで十分だ。
「なに?」
 クラウドはソファでくつろいでいた。手伝いもせずに。まあ、ヴィンセントが手伝わせなかったのだろうが。
「こっちに」
 ちょっと面倒くさそうに立ち上がると、スリッパをぽてぽて言わしながら付いてくる。あの袋を拾い上げて、クラウドの顔の前で開いて見せた。
「ぎ……っっ、にゃ、にゃ、にゃにこれっ」
「お前がずっと置き忘れてたから、こんなに臭くなっちゃったんだ。いつも言ってるだろ、洗濯物はすぐ出してって。この水着はもう使えない。一着買っとけばいいものを、また新しいの買わなきゃいけないんだぞ。……来年の水泳の授業はすっぽんぽんで受けてもらおうか?」
 クラウドの顔から血の気がさっと引いた。
「にゃ……、にゃ、やだ、……やだよぅ」
……」
「ごめんなさい、もう、もうしないからぁ」
 ほんとに泣きそうになってる。さすがにやっぱり、良心が痛むものだ。俺はたぶん、人の親にはなれない。仕方ないなと「もうするなよ」と言いかけた所に、煙草をもう吸い終えたヴィンセントがやってきて、遮った。
……一度や二度ではないだろう、お前が洗濯物を出さないのは。パンツやシャツの染みは放っておくと取れなくなるといつも言っているのに」
「ううう……」
「ミスを犯すたびに『もうしない』と言うが、私たちはお前のその言葉をどこまで信じればいいのか解からぬ。何度も裏切られているのだからな」
 うん、やっぱり、親ってのはある程度、厳しさも必要なんだろうなと思う。ヴィンセントはそれをちゃんと分かっているのだ。父親という自覚があるなと思う。半面、俺も兄だからあれくらいで良いのかもしれないと思った。
……ごめんなさい。許して……」
 目に涙いっぱい溜めてる姿は、胸が痛む。ヴィンセントは暫く黙って、ようやく頭に手を置いて「気を付けろ」、と。ああ、いいお父さんっぽいなあ。ちゃんと優しく頭を撫でて、
「私だってこんなことは言いたくない。愛しいお前の事を叱りたくなどない。だが、時には仕方の無い事もある。いつもお前が、正しく生きていってくれる事だけを祈っているのだ、そのためには……」
 正しく生きてく為に叱る、割には捻じ曲げるように褒める事もあるように思う。親って、でも多分、そういうものなのだろうと、俺もヴィンセントも親になどなった事無いくせに思う。現役の父親であるシドに今度聞いてみよう。
「ザックス、うずら谷文具に行って来い」
 ヴィンセントは学校近くの文房具店の名を出した。新品の体育着や水着は、うずら谷文具店で買う事が出来るのである。
「ついでに算数のノートがじき切れる。それからシャープペンシルとBの芯だ」
「了解した。行ってくる」
「クラウド、ザックスに礼を言え」
……ごめんなさい。ありがとう」
 俺はにっこり、優しい兄の、爽やかな微笑み。我ながら決まったと、心中馬鹿なことを考えながらくるりと背を向け、俺は大股でうずら谷さんのお店に行くのであった。十二月二十四・二十五両日に控えた赤衣服を着た老人のイヴェントによって彩られた街は、いつもよりうきうき明るく、寒い風が吹き過ぎても何となく機嫌がいいように見える。頼まれたものを抜かりなく購入して、通り道だったのでジャミルの家すなわち八百屋でリンゴを買う。うさぎに切ってあげるとクラウドが喜ぶのだ。

三十分ゆっくり買い物をして帰ってくると、ヴィンセントがあったかい紅茶を入れてくれていた。俺の書き方が悪いからかも知れないが、うちのヴィンセントって、俺に対して氷のように冷徹で、クラウドに対しては水飴のように甘い男、って思われているかも。でも実際はそんなでもない、誤解だ。俺にだって、毒舌だけどちゃんと優しいし、さっきみたいにクラウドを厳しく叱る事もある。
「あらかた片付いた。あとは玄関と庭だけだが、来週でも構わないな。今日はご苦労だった」
 時計を見ると午後三時で、これから寒くなる時間帯に庭掃除というのは辛い。紅茶とともに有難かった。
「クラウドも床掃除を手伝ってくれて、ありがとう。お陰で予定よりずいぶん早く終える事が出来た」
 俺の出したリンゴを器用にうさぎにして、クラウドに差し出す。飴と鞭、というやつだ。あんたはきっと、いい父親になる。これからも俺たちを正しい方へ導いていってくれる。俺はこういうときに、そう確信せずにはいられないのだ。クラウドは嬉しそうに笑う。もう叱られた事など忘れてしまっているだろう。
「あ、そうだクラウド、後でで良いんだけど」
 リンゴを嬉しそうにはむっと咥えながら、クラウドはこちらを見る。そういう顔があんまり間抜けには見えず、カワイイというのはもう贔屓目だから死んでも直らない。死なないから直らない。幸福な事だ万歳だ。
「水着、買ってきたのはいいんだけど、ちょっと、サイズがな。……ぶかぶかかもしれないし、キツイかもしれない。あとで穿いてみてどうか調べてくれないか? どうしてもきつかったりゆるゆるだったりしたら、返品頼んでみるから」
「……調べてから買ってくればよかったのだ」
「アレの中から引っ張り出して来いってことか?」
「いや……、まあいい」
「だから、うずら谷さんが『たしかクラウドちゃんのはこれでがしょう』って出してくれたの鵜呑みして買ってきちゃったんだ。だから、返品も平気だろ? それに別に汚すわけじゃないんだし。……何なら、洗いざらしの奇麗なパンツの上から穿かせましたッ、てうずら谷さんに言えば。解かってくれるだろ?」
「……だといいけどな。まあ、とりあえず計ってみればいいか。……まあ、水着なのだから多少きつくても平気だろうと思うが。緩かったら脱げてしまう危険性があるから、変えなくてはならないが」
「そうそう。……いたよな、飛び込みのとき脱げて半ケツになったりする奴が。……そういうわけでクラウド、じゃあ、そのリンゴ食べたら早速計ってみようよ」
「んー」
 室内は暖房を点けているから温かく、今も二十度近くある。軟弱な子供が増えていると言うが、大人がまず軟弱なのだ。冷暖房の無い生活というのはもはや想像しがたい。百年後がちょっと怖い気がする。だけど、暖房のお陰で、着替えるのも苦にはならない。リンゴを食べ終えたクラウドの下を脱がせて、水着に足を通させる。その時点で、少なくともぶかぶかでないことは分かった。
「……って」
 ぐぐぐっ、と上げて、穿かせたまではよかったが。
「……にゃう……」
「これは……、小さいな」
「……うーん……」
 一応、身長ではなくウェストのサイズを想像して買ってきたのだが、外れだったことは明らかだ。これでは返品しかない。水着はピッチリとクラウドの股間を覆い、何というか妙に体のラインが出てしまって、その小さいペニスでもやたらに目立って、この格好で外を歩かすのは好ましくない。一応、来年は五年生で周囲の子たちも「性」というものに目覚める頃でもある。女の子も男の子も、クラウドのこの水着姿を見たらやっぱり、いろんな意味で良い気分はするまい、クラウドに惚れてしまう男の子が出ても不思議はない。前はそれこそ腰から中央方面へ切れ込んでいくラインが見えてしまうし、後ろに目をやると尻は尾てい骨のちょっと下、尻尾を隠すにも至っていない。無理矢理尻尾を入れて通す穴を開けたら、後ろでやぶけてしまうであろう事は明白だ。しかしこれでもいっぱいまで上に上げての結果であり、当然の事ながら、尻の肉は艶めかしいくらいに二つ別れている。小振りの尻の美しい線が露になりすぎている。
 何というか、する必要はないがこういう見方をすると、スクール水着なのにこんなやらしい、というアンバランスさを意識してしまう。先日の体育着もそうだったが、本来「いやらしくない」はずのものが、「いやらしく」見えてしまうというのは、ただの卑猥さよりも心を盛らせる気がする。それこそ、大分溯るがメイド服にしたって、メイドさんはエロティシズムとは直接何の関わりもない。寧ろ、もっと地味、非性的なものであると思う。しかし、それを「性的」と考えたときは普通の女性の服装よりもずっといやらしく感じられてしまうのだ。
 何だか話が大袈裟になってきたが、AVの「女教師」とか「義理の母」とか「尼僧」とか、そういうジャンルが確かに存在するのは、「いやらしくないはずの物を、そういう対象として扱う事によって生じる、本来ないはずの興奮」がリスナーの心に響くから、というのも一員としてあるのではないか。それこそ、縛りとか野外とかスカトロとかそれを発展させたものではないか。
 ……このあたりでやめておこうと思った。こんなレポート作った所で誰にも評価されない。
 でも、何だか、我ながら的を得た意見であるような気もする。そのへんの評価はぜひして頂きたいものだ。感想を心からお待ちしている。こういう、普段は阿呆らしくて考えもしない、考えた所で褒められるどころか貶されるようなことでも、真剣に考えてみれば何かの足しにはなるものと思う。それこそ、人生に付いて考えたって人生が見えてくるわけではないし、傷ついた誰かを救う術にもならない。しかし、だからといってそれはゼロかと問われれば決してそうではないと思うのである。って何を偉そうにしているんだろうな……。
「……あの、ザックス、ヴィン……、そろそろ脱いでもいい?」
「駄目だ」
 何はともあれ俺たち、声を揃えてそう言ったのである。
「へ?」
「……ザックス、返品はする必要ない」
「言われるまでもない。これはこれで十分使える」
「にゃ……、にゃ?」
 父と兄とを交互に見て、クラウドは目をぱちくりさせた。
 と、ヴィンセントはふっと笑うと、目線をクラウドと同じにして語り掛けた。
「クラウド、クリスマスには百科事典のセットが欲しいそうだな」
 勉強熱心な事と思う。何でも、二十冊セットで宇宙とか人体とか歴史とか生物とか、そういう知恵の固まりがとにかく揃うセットを、クラウドは「子供が親に物を寝だっても良い唯一の日」とされるクリスマスプレゼントに望んでいるということをこの間、ヴィンセントに話したのだ。加えてクラウドが、「でも無理だよね……、高いもん」と言ったことも。
「……うん。でも……」
 ヴィンセントは、クラウドの遠慮を遮蔽して言った。
「買ってやろうか?」
 先日、俺が伝えたときにヴィンセントは、しばらく考えていたようだった。確かに百科事典のセットとは安いものではない。しかし、かといってあれば一生使えるものだ、クラウドだけではない、俺たちも、俺たちの知らない事を知る術になる。だがヴィンセントの心の中には高いものを買い与えることへの抵抗もあったようだ。
 だが、最終的に彼は決めていたようだった。もちろん、その時には今、彼が胸に秘めているようなことは考えていなかっただろうが。
「……いいの?」
 そっと、クラウドはヴィンセントを見上げた。
「ああ。……お前が欲しいと言っているのなら、多少高いものでも買ってやる。その代わり、大切にするんだぞ、来年もいい子にしているのだぞ」
「……、うん、うん俺、いい子にする、大事にする、ヴィン、ありがとう……ありがとうっ」
「私だけではない、……ザックスも、だ」
「ん……、ザックス、ヴィン、ありがとう、大好き」
 俺たちは、二人一緒に、そんな長くない腕に抱きしめられた。逆になってるような気もするのだけど、クラウドが喜ぶ姿は俺たちの心をとても甘く優しくする。細かい事は気にする必要はない。ヴィンセントと俺の、クラウドの頭を撫でる指がぶつかった。
 ヴィンセントが切り出した。
「……それで、……。その代り、というわけでは決してないのだが、一つ、私たちから頼みがあるのだが」
 クラウドが腕を解いて、またきょとんと俺たちを見た。俺が言葉を継ぐ。
「……うん。あのさ、クラウド……、その水着、すごく可愛いよ」
「にゃ……。でも、キツイよ?」
「うん……。その、そのキツイのが、可愛い。ほら、体のラインとかがすごい、くっきり出てさ、お尻も食い込んでて、何だか裸よりもエッチみたいな感じに見える」
「え……」
 クラウドが警戒心を過ぎらせた。
「……お前のその水着姿、とても魅力的だ。……もし良かったら、その姿で……私たちに抱かれてくれないか」
「うにゃ……」
 クラウドが困った顔をする。
 いつもならば「やだよぅっ、ヴィンとザックスのばかっ」と怒られる所だが(そうして無理矢理にでも中略の所だが)、今日はそうでもない。
「……にゃう……、なんで……」
「お前とセックスするのは俺たちの幸せ。そして、お前にとっても幸せ。……違ったらすごく悲しいけど、ひょっとして違うのかな」
「……そんなの……、……にゃー……、ちが、わ……ないよ」
 クラウドはもじもじと肉球を擦りあわせながら答える。その仕種一つ一つで俺は俺たちは。
「な、その水着姿で、俺たちと……」
 まだしばらく、肉球を弄っていたクラウドだが、やがて眉を八の字にして、本当に仕方なさそうに、
「……いいよ」
 って。
 こんなことでこんなに嬉しくてこんな俺は。……人間としてどうなのかとちょっと不安になるけれど。こんなことでこんなに幸せなこんな俺は、こんな生活の中にいられてよかったとこんなに思うのだ、ごらんクラウド、こんなになってるんだ。
「……なんで、二人とも……」

「お前が意識していないところにも、お前の美はたくさんに転がっているのだ。無意識のうちに穿いているだろう、お前はただ、窮屈としか感じないその水着……」
「実際にはお前の可愛いチンチンの形丸分かりで、すごいやらしい。そのうえかわいい」
 クラウドの、腹に張り付くように上を向いたペニス。水着とかブリーフを穿くとき、自分の一物を上に向けるか下に向けるかは、いつか話した手淫の作法と同じように人によるみたいだった。右に寄せる左に寄せるというのもあるし。で、俺は何となく上に向けている。その方があんまり擦れないような気がするからだ。ヴィンセントは下に向けたまま。大きいのぶらぶらさせて邪魔じゃないんだろうかと他人事ながら心配になることがある。俺と同じ物を提げたクラウドは、俺と同じように上向きだ。時々、下とか横を向いちゃったりしたときは、授業中でもキモチ悪そうに、もぞもぞやって戻してる。男子中学生かお前はッ、と突っ込みたくなる事も時々ある。
 とにかくその、小学生レベルから脱せないティーンエイジャーのペニスは上を向いてる。それが、俺たちの勃起してるのを、ズボンの上から認識したまさにその瞬間から、徐々に成長を始めるのだ。窮屈な布の中で、上へ向かって、徐々に伸び上がり、太さも増していく。と言っても俺に似てしまった宿命、お世辞にも立派ではない、ありていに言えばお粗末なそこは、勃起しても大した大きさにはならないけれど。
 本人も、立ってきてしまった事を自覚しているから、何気ない振りをして手で隠す。
「……上も脱いでしまおうか? 室内は暖かいから……」
 ヴィンセントがクラウドにバンザイをさせて、そのまま手を退かさせる。完全に勃起している。クラウドのそれですらも、隠し切れるか危うい水着の中、無意識のうちヒクヒクと脈動している。実際にピンク色に染まったそれを観たい触わりたいしゃぶりつきたいけれど、布ごしに見る事しか叶わないそのもどかしさ、敢えて脱がさないというのが俺たちを、特に俺を、燃え上がらせる。
「クラウド、この水着のサイズ、たぶん二年生とか三年生の子が穿くやつなんだ」
「……にゃあ……」
「そんな純粋な子達の穿くような水着なのに、そんなチンチン大きくしちゃうんだ?」
「だ……っ、だって、ザックスたちがしようって言い出したんだろっ」
「うん。そうだよ。……だけど、俺たちまだ何もしてないのに、そんな大きくなっちゃったんだもの。俺たちのせいじゃない」
 クラウドはほっぺたを真っ赤にして、だけど言い返せない。
 スクール水着の布は薄い、前こそ、中に布が一枚入ってはいるが、それでも中学生くらいになって体のラインの細かい所がくっきり出てくるようになると、それが透けて浮かび上がってしまったりする。だからこの下にサポーターを穿く。白いメッシュのパンツみたいなやつだ。なぜか水着とのサイズのバランスが微妙に合わなくって、太股の所にサポーターがはみ出してしまったりしてたっけな。
 それ無しで、ほんとに薄い布二枚しか隔ててないから、よく解かるのだ、クラウドのそれの様子。いやらしい科白一つ言われるたび、不意に震わせてしまうのは、薄い布を隔てた所で、心が暴かれたい、晒されたいと願っているからだろうか。
 ヴィンセントがクラウドを背後から抱きしめて、そのままソファに腰を下ろす。両腕の自由をさりげなく奪いながら、乳首を指先で転がす。ああなんでそう奇麗な色をしているのだろう。何で俺のはそうじゃなくなっちゃったんだろう。羨ましいくらいのそこを、指が卑猥に鳴らす。丸く凝り固まった尖端は、ヴィンセントの細い指が手遊びするのに似合っているように思える。
 生の肌の質感とはかけ離れてはいるけれど、体温も移ってどこか「生」を感じさせる水着の前に、顔を寄せた。ヴィンセントの指が絡むその都度、布の向こうで震えるのを想像しながら、触れてみる。そこは温かい。
「にゃあ……」
 考えてみれば今は冬なのに、水着の新しいのをおろしてこんなことしてるのは、馬鹿みたいかもしれない。どうせやるなら夏の砂浜で。と言ってもそれも以前やってしまったし。要は飽きずに馬鹿を楽しむ事である。
「クラウド、濡れてきたよ? 気持ち良すぎてちびっちゃった?」
 水着の前にぽつりと出来た染みの正体を、もちろん分かっていながら馬鹿で悪趣味な冗句を言う。
 クラウドが「いい」と言うからだ。
 ヴィンセントの弄った乳首を粒のように目立たせたクラウドは瞳を濡らして、首を振る。
「ちがうぅ……」
「……じゃあ何で濡れてる?」
 実際、別にちびっちゃってもカワイイからいいのだけれど。なあヴィンセント? 目が笑っている。
「……おつゆ……」
 すかさずヴィンセントが問う。
「何の?」
 『冷静』、という言葉があるが、理性とは氷のようなものだ。それが融けると人間、何かしらの液体を分泌する、それは汗だったり、涙だったり。
「……気持ちいいから、……っ、出てくる、の……」
「気持ちいいのか?」
「ん……、いい……」
 なら俺たちも気持ちいい。
「もっと、気持ちよくしてやろうな?」
 舐める。舌触りが良いとは言えない生地の素材の向こうの熱そのものを味わうのだ。新しい衣類に共通した、特有の匂いの向こうの匂いそのものを味わうのだ。クラウドが付けた染みが解らなくなるくらい、唾液で濡らしていく。ああもうこれで、返品なんか絶対出来ない。こうなればいっそベタベタにしてしまうのもいいかもしれない。両足を持ち上げて、袋も、それから尻の穴があると思しき辺りも、舐めて濡らして行く。濡れるといっそう、布は張り詰めてクラウドの下半身を生々しく演出するように思える。
「やだぁあ……」
「気持ち良いんだろ? 俺、もっとお前に気持ち良くなって欲しいし」
「……やだよぅ、……直接の方が、気持ち良いもん」
 融け出した理性は唇を濡らし、もう見えないけれど更に前をも濡らす。俺も、冬なのに興奮して、脇の下とか汗かいて、多分クラウドと同じ液体も出てきているだろう。
 それにしても、たかが水着一枚されど、で薄っぺらいものでもずいぶんな厚さを感じるものは可能なのだなと思う。精神的に、クラウドからしたらかなり分厚く感じられていることだろう。俺としても、とっとと脱がせて入れてしまいたいのを堪えているから、そう感じられるのだ。
 だからクラウドの請求を棄却。足の間、向こう側の肛門の場所を指で探知して、そこに押し入れる。
「にあ……」
 さっきも言ったとおり、前側は、布の内側に一枚、前当てとでも言えばいいのか、あまり鮮明にラインが出ないようにか、薄い布が内側に入っている。クラウドの我慢汁はそれすら通して漏れ出し、俺の唾液も突き抜けてクラウドを濡らしているはずだが、肛門のあたりには水着の布以外に遮るものがないから、指を押し込むと、クラウドの内側へと案外すんなりと入ってゆく。クラウド自身の力と、水着の布の反発力が指に心地よく感じられる。
「やだ、やだ、ザックスっ、……っ、駄目だよっ、水着汚れちゃうっ」
 駄目と言われて止めるものか。
 クラウドの中の体温が布を隔ててじわじわ感じられる。
 更に強く中へ押し込むと、しまいには布がぴりっと裂けて、俺の指は三十七度弱の体温にはっきりと包まれた。布の無愛想な触感のあとに感じるクラウドの内部は、人間しか持たない温もりに満ちている。
 遠慮無く、その内部に指を動かす。中は粘っこく湿っぽくて、俺の指に慣れた感じだ。しかしいつでも新鮮で、俺をまた楽しませる。
「や……あぁ……」
 ちら、と顔を見ると、ヴィンセントに首筋を吸われ乳首を弄られ脇腹を摩られ、加えて俺の与える快感に、とてもいい顔をしていて、この破り開けた小さな穴に早く自分を押し入れたくて堪らなくなる。いっそ、入れてしまおうか、そう思いながら、指を出し入れしていると、堪らなくなったのはクラウドの方が先だった。ヴィンセントの枷が外されていた右手を水着の前に回し、摩りはじめたのだ。
「ん、にゃっ……、にゃあ……っ」
 終わりは呆気なくやってきた。肛門が俺の指を絡めとり、クラウドの腰に電流が走ったかのように痙攣、そして今まで濡れていなかった水着の前のウエストゴムのあたりに、新たな染みが生じた。
「……いけない子だ」
 乳首をぎゅっと抓りながら、ヴィンセントが低い声で言う。
「みあぁっ」
「こんなに濡らして……」
 そう言いながら、きっと濡れて気持ち悪いはずの前を、手のひらで布の上から掴み、摩ったり動かしたり。中からくちゅくちゅと音がしてくる。

「やん、駄目、んっ、んん、ふああ……」
「まるで本当に漏らしたように見えるな、びしょ濡れで」
「ちがっ……違うもんっ、ザックスが、濡らしっ……うにゃあ……っ」
「……本当にそうなのか? お前は締まりのない身体をしているからな……、失禁してしまったのではないのか?」
「違う……、違う……、俺じゃないもん……」
 ヴィンセントはフッと笑う。もう彼の表情から「父親」の要素は一片も拾う事は出来ない。それは男の、良く言えば恋人の顔だ。 彼はその指を、前から少し滑り込ませた。ぬるりと掬い取って、クラウドの鼻先まで持ってくる。
「だがこれは、他の誰でもない、お前のだろう。お前が出したものだろう。……よりによって自分の手で、私たちが見ている前で、……いや、見られているから余計に興奮したのだろうな。はしたない子だ」
 そう言って、その唇に塗り付ける。クラウドはひくひくと泣きながら、しかしそう言われる事でまた、前を膨らます。厄介な身体だな。俺がそうだったように。悪い所を似せてしまった。
「それくらいにしておいてやれよ。……な、俺たちで気持ち良くなってくれるなんて、嬉しいじゃない」
 父が厳しいときには兄が優しくする。
 いやもう、最早父でも兄でもなく、俺たちは只の男だ。それでいい、それがいいと、クラウドの身体が俺に言う。
 ヴィンセントの言うように、お漏らししたみたいに黒く濡れた水着の前を、捲り降ろした。濃厚な精液がたっぷりと真性の皮と下腹部にこびりつき、むっとするほど生暖かい匂いがする。
「いっぱい出たんだな、クラウド、気持ち良かったんだな」
 縋るような目をして、クラウドはこくんと肯く。
「俺たちも気持ち良くなりたい」
 また、……今度は少し間があったけど、こくんと肯く。
 俺は水着を再び穿かせた。
「やっ……」
 濡れた不快感に声を上げた。
「せっかく似合ってるんだし、脱がせるの勿体無いから。後ろにはもう穴、開けてしまったし」
「にゃう……」
 ヴィンセントがクククと笑った。「悪趣味だな」、あんたには言われたくないです、おとうさん。
「ヴィンセント、俺入れていいか?」
「……」
「駄目?」
「……別に」
「……入れたいんだな。……まあ……」
 ここまで彼はずっとクラウドの乳首ばっかり弄っていたのだから、まあいいか。
「どうぞ」
 親孝行しようとしている、今は彼は親でなかった。
 クラウドを床に下ろして、開いた穴を探り当て、その秘められた入り口にヴィンセントの一物が押し当たる。熱さに、クラウドは床のカーペットをぷちりとひっぱった。そうして、ゆっくり突き立てられていく刃、
「あ……、あ……っ」
 喉を引き攣らせる、クラウドの声。
「どう? クラウド、ヴィンセントの……」
 俺も自分の経験で知っている、クラウドも何度もされてるはず、だけどやっぱり立派なヴィンセントの。不必要な感想など求めてしまう悪趣味。それを聞いて、俺もヴィンセントも、それを言ってクラウドも、興奮するのだから、不要でも意義はある。
「……大きぃ……、熱くておっきぃ……」
 ヴィンセントの唇の端が少し上がった。
「そうか。……じゃあこっちのお口で、俺のも咥えて。ヴィンセントのみたく大きくないけどさ……」
 つまらない科白にはやや嫉妬も含まれているのだ。クラウドは答えず、顔の前に差し出した俺の先端に浮んだ滴をちゅっと吸い、それからその唇の中へと包み込む。時を同じくしてヴィンセントがゆっくりと腰を動作させはじめ、クラウドの鼻息が俺の陰毛を揺らすのだ。二種類の水による、粘っこい音がする。クラウドの唾液が俺のを咥え、顔を動かす事によるくぐもった音、ヴィンセントが動かすことによる、破裂と摩擦の音。
 そこにもう一つ加わった。クラウドが左手で、自分の水着の前を擦りはじめた。かすかな音だが、しゅ、しゅ、と確かにする。
 はしたない子。そう思いながらも、余計興奮する俺は何だろう。変態か。もうそのレッテルには飽きた。もっと格好良いのを希望する。
 夏に穿くべきスクール水着を、冬に、海でもプールサイドでもないところで穿かせて、外側からではなく寧ろ内側から濡らさせるという行為の不可思議さ。しかし付きまとう幸福。クラウドの体を見下ろしてると、布に包まれた尻にヴィンセントのアレが出入りしている様子が、何かのトリックであるかのように見えてくる。
 とてもヤらしいのだ。
「んん、ふ……んっ、んん……んーっ」
 クラウドの手の動きがエスカレートする、ヴィンセントも俺も置いて、達してしまう。だけど、俺のから口を離さない、鼻でふうふう息をして、しかもヴィンセントのピストン運動を甘受する。
 そんな姿を見ていれば、ヴィンセントでさえも、そう長続きはしないというもの。況や、俺をいておや。
 僅かに遅れて、俺たちも達したのだった。




 ようやくちゃんと脱がせた水着を手に、俺の抱いた最初の感想は、
「……美味しそうだな」
 だ。どうかしている。でも、だけど、クラウドの精液が二回分もこびりついているし、股下も緩んだ後ろのお口から零れたヴィンセントの精液やら何やらで濡れている。もちろん食べやしないけど、何というか、後々「副菜」にするに事欠かないことは確かなようだ。
 すっぽんぽんになったクラウドは、まだおさまらない興奮に天井を見上げ、ぼうっとした顔をしている。もちろん、もう勃起はしていないが、それはそれで身悶えする程可愛い下半身、こびりついた精液が乾きつつあるそこも、もはや隠そうという考もないらしい。じっと見ていても怒られない。
「新しいの買って来ないといけないな」
 服を来て、ちょっと乱れた髪を直し終えたヴィンセントから、性行為の余韻というものは見て取れない。その代り、再び「父親」の顔をしている。男の野望に満ちた色は消えた。こっちの方が格好はいい、が、あっちも悪くはなかったと思う。
「あんまりまたすぐ買いに行ったら妙かもしれないな……」
「何で? 小さかったから買いに来ましたって言えばいいだろ」
「うずら谷さんに返品を勧められるかもしれないだろう。まさかアレを持っていくわけには行くまい。……まあ、ほとぼりが冷めた頃、来年のプール開き前にでも買いに行けばいいか」
 その時にはちゃんとサイズを確かめて置くことを忘れないようにしよう。いや、連れていって店の奥で試着させてもらうのがいいか。
 ぐー、と音が響いた。
「にゃ……」
 クラウドの腹の虫が鳴いたのだ。そう言えば、やりはじめたときには赤く差し込んでいた陽光が、いつの間にやら消えて部屋の中はもう青く薄暗い。と思ったら外から「夕焼け小焼け」が聞こえてくる。五時だ。
「では少し早いが、夕飯を作ろうか。……クラウド、風邪を引いてしまうからそろそろ服を着なさい。……いや、サービス精神が旺盛だと言うのならそのままでも構わないが……」
「にゃう」
 すかさず起き上がる。ウェットティッシュで力感ゼロのちんちんを丁寧に拭く。こういう小さい状態でも、ある種のエロスの存在を否定できない。「エロくないはずのものが、エロい」このココロの琴線だ。立ってなきゃ性行為は出来ないのに、この状態でもクラウドなら、エロい。
 愚にも付かない事を考えているうちに、クラウドが風邪をひいては大変だ。水着ではなく、パンツとズボンを重ねて穿かせて、上もしっかり、セーターまで。一瞬で夏から冬へと衣更えだ。
 夕飯作りを手伝うために、俺も立ち上がった。そのときに、
「あの……、ほんとに、いいの?」
 クラウドが上目遣いで聞いてくる。
「ん?」
「……百科事典、買ってくれるの?」
「ああ……」
 俺は、兄の微笑み。
「もちろん。……今のセックスとは関係無しに、買ってあげるよ」
 クラウドは顔をちょっと赤らめた、だけど、俺の腰にぎゅっと抱き付いてきた。俺のセーターに「ありがとう」が吸い込まれる。抱き上げて、ほっぺたにキスをする。
「お前の水着姿の可愛さに負けちゃったから。な、ヴィンセント?」
 ヴィンセントは苦笑いして手を伸ばし、クラウドの前髪をさらりと撫でた。


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