人間の野望は止まるところを知らない。否、何かを「美しい」と感じる正常な心がある限り、欲求は果てしなく生まれ続ける自然なものだ。だからそれを何等かの形によって束縛しようなどと考えるのは大いなる誤り。子供からエロ本を奪ったから子供が健全に成長する訳ではないのだ、それを理解していない奴が多くて困る。
のっけから話が逸れてしまった。 そんなわけで、それを「美しい」と思うから、俺は俺たちは、いや、むしろヴィンセント主導で、これまでクラウドにメイドさんのカッコをさせたり、触手まみれにしたり、あるいは外でやったこともあったし。俺自身も、いつかどこかで誰かに、ウェイトレスのカッコをさせられたりなんか、したり。生まれ来る健全な欲求に従い、あるいは従わせて、一緒に幸せになる形を何より追い求めて。世間的にはきたないって言うかもしれないけどさ、そりゃ世間でそんなことしてたら、いけないと思う、だけどプライベートな時間なら誰もが平等に持つものであって、そこで何をしていようが他人の口を挟むところじゃないと、俺は思う。
そんな悪い事してるわけじゃ、ないだろう? クラウドに迷惑がかかってる? ってそんなの外部の人間に何が分かるんだ? 別に自己中心的に言うわけでもなく、クラウドは素直な欲求として「して」って言うし。命令してるわけじゃないぞ、クラウドは、俺と共にある心と身体を持って生きている。もちろんそうなっているのは俺と共に生きてきたからに違いないけれど、俺はクラウドに教育を受けさせ、クラウドを守り、立派でなくても一個人としてやってける人間になってくれるよう努めている。夜は、互いの欲求をさらけ出し合う時間であるというだけで。
またちょっと話が逸れぎみだけど、そう、とにかくメイド服に触手。どっちもクラウドにはとてもよく似合うのだ。それ以来、触手はちょっと後片付けが大変だからやらないけど、メイド服はたまに二三ヶ月に一遍くらいの割合でやっている。紺色の清楚なメイド服は、今日もクロゼットの中で出番を待っているのだ。
クラウドは可愛いから、どんな服でも似合う。似合う、というか明らかにマッチしていない格好でも、どことなく可愛さが漂ってしまうのだ。具体的に言うとちっとも決まっていない浴衣も、何だか可愛らしいし、一年に一度だけ着るスーツも、ヴィンセントが何を考えてるのか知らないけどあの赤マントと黒服のクラウド用を作って着せたときも、結局のところ似合ってなくてもそれは全て「可愛い」という印象になってしまう。そしてその可愛さは大概俺たちをドキリとさせるものであって、そうなるとその後の事は説明不要なのであって。
そんなわけで年がら年中欲情してるんだ俺たちは。
いやいや、そうでなくて。最近、そう、ごくごく最近になって気付いたんだけど、すごく身近なところに、クラウドがメチャメチャ可愛く見える格好があったじゃないか。 毎週末、「これ、洗っといて」 と、渡されるもの。ヴィンセントがミシンで器用に作った、大きな巾着袋に収まった、それ。
体育着。
口を開くと、甘くて塩っぱいような、汗の臭いがする。出して広げてみると、あちこちに汗の染みが出来ていて、紺色のズボンの尻のところは、サッカーでスライディングでもしたか、土埃が付いている。
クラウドの体操着姿って、そう、考えてみると、すっごい、カワイイのだ。
半ズボンから、パンツをちらりと見せながらにゅっと伸びる健康的な太股。二の腕も、夏場は少し焼けて、何だか精悍な印象になるし。しっぽをふりふりさせながら野性の勘でボールを追いかけれる姿は、今まで、普通の、健全な「可愛い」だったと思ったんだけど。
それだけじゃないんだな、よく考えてみるとさ。
汗。
そう、汗、重要なんだ、汗はクラウドの、第四のフェロモンだ。サウナで中年オヤジがかいてる汗なんて死んでも舐めたくないけれど、クラウドの汗なら。
俺たちにとって、クラウドの体液はクラウドの一要素だから、汚くなんてちっとも、ないのだ。
美の数だけ欲求は生まれる。言ってみればクラウドの体操服姿は、「健康美」。外で一生懸命運動して、野を駆け回る、クラウドはまるでカモシカ(いや、猫だろ?)のように。
そしてそれを汚す。
いや別に、無理に汚さなくてもいいんだけど。 でも、分かってもらえるだろう、クラウドが清らかであればあるほど、俺色に染めてやりたくなる。真っ白な画用紙に、一番俺らしい色のクレヨンで一本線を引くような。あるいは、その色で名前を書くような。わかりやすいだろう?
さて、クラウドは「観るのは野球、やるのはサッカー」である。それはまあ、肉体構造上の問題でもあって、その手でボールを投げる事は出来ないけれど、蹴っ飛ばす事なら出来るからだ。それに、サッカーは単純に駆けずり回っていればいいというクラウド自身の思い込みがあるから、あまり深く考えずに済み、彼としては好ましいのだろう。
二昔程前の父親は、路地裏で息子とキャッチボールをしてスキンシップをしたと言う。俺たちの場合、別にこれ以上スキンシップをとる必要など無いかも知れないが、それでもクラウドと一緒に何かをするのは心踊る事だから、たまにサッカーボールなどを持ち出して、庭や、歩いて五分の広場でボールの蹴っ飛ばし合いをやったりする。体力ではもちろん俺たちにかなうはずの無いクラウドが、それでもぜえはあ息を切らしながら、必死にボールを追いかけて蹴っ飛ばす、その純粋な「子供の遊びたいパワー」には感心してしまう。いつもご飯が美味しいと言ってくれる原因でもあるはずだ。
大体の場合、Tシャツにハーフパンツという、わかりやすいスポーツルックでボール蹴りをする。その格好も十分カワイイし、脇の下とか背中とか、汗でしっとり濡れた服は、いっそ洗うのがもったいなって、ヘンタイ扱いしないで欲しいな。とにかく、それもアリなのだけど、でも。
体操服でそういうの、やらせてそれでその後、汗の乾かないうちに。 なんていうのも、アリなんじゃないか?
「お前の考える事は」
ヴィンセントはその朝、コーヒーを立てながら、唇の端を歪めて言った。
「いつも、そういう事ばかりなのだな。発展性のない脳味噌をしている。全くもって」
「最高だろう?」
ヴィンセントはくらい微笑みを浮かべた。肯定の印だった。最低の兄と父、だけど、最高だと、思う。
いや、でもな? 実際問題、百人に聞いて九十人は、クラウドの事を「可愛い」と言ってくれるだろうから、そういう事を考える事を、誰がきたないなんて言えるんだ? 誰よりクラウドが肯定しているんだし。
「サッカーボール、どこにやったかな」
「裏庭の物置の中だ。だが、大分空気が抜けてきているはずだ」
「そうか。空気入れなんてあったっけ」
「無い」
うーん、と腕組み。ベコベコのサッカーボールでは、クラウドが存分に楽しめない。
「どこかから借りてこようか、空気入れ」
「どこか、とは?」
「ジャミルの家とか」
「そんなことをしなくても」
ヴィンセントはコーヒーにミルクを入れる。その渦を眺めるその目は、深い深い赤い闇で、カッコイイ、のに。
「今日は校庭開放がある日だろう?」
「そうだっけ?」
「学校の体育倉庫から借りればいい。校庭の方が庭より広いし、クラウドとしてもそっちの方がいいだろう」
「うん。けど、どこで?」
ヴィンセントは馬鹿にしたような目で俺を見た。慣れてるから俺はノーリアクションで流す。反応した方が不愉快になる事、目にみえているし。
「いいか。学校、だぞ?」
「うん?」
「学校、何がある? 家でやるよりももっとずっと楽しい環境だとは思わないか?」
「……」
この人は。
ああ、最高の父親だよあんたは。少なくとも長男である俺にとっては。こんなに頭がキレてる奴って他にいるだろうか?
「愛してる」
「わざわざ言わずともいい」
そして俺の髪の毛をわしづかみにして無理矢理顔を引き寄せて、濃厚な濃厚な苦いキス。
「作戦決行は」
わざと、そんな幼稚な言葉を使う。
「十一時だ。弁当と水筒、それからビニールシートと体操服を用意しろ。ちゃんと乾いているのだろうな」
「もちろんだ。昨日の昼から乾かしてるさ」
「気が利くな。いいか、汗拭きタオルなどというつまらん物は用意しなくていいからな」
「わかってるさ。何のために行くんだよ」
俺たちって。
……最高だろ?
ニブルへイム村立小学校の校庭は素朴な土のグラウンドだ。雨に弱く、梅雨時の体育はだいたい体育館で行われる。もちろんカリキュラム自体もそれに配慮して作られているから、室内で、例えばドッヂボール、例えば飛び箱、例えばマット運動、どれもそこそこ無難にこなすクラウド。マット運動でごろんと前転したときに、短パンから覗く白いブリーフが、眩しい。ヘンタイじゃない、繰り返し言う、俺はヘンタイではない。とにかく、土のグラウンドの校庭は小学校のそれの割には広く、百五十メートルのトラックが一周、斜めに五十メートルの直線、端っこには普通の鉄棒に懸垂用の鉄棒、それと幅跳び用の砂場。そして校庭に隣接して、夏場に使われる6コース分のニ十五メートルプールがある。村立とは名ばかりで資金は神羅から出ているから、設備は上々だ。
「だぁれもいない」
クラウドは俺が用意した体操服を、「休みなのに何で?」と疑問を投げかけながらも素直に着て、小学生が一人もいない校庭を新鮮なものとして、その目に映していた。中休みや昼休みや放課後には、そう多くない生徒数であるとは言え、少年少女たちがきゃあきゃあと遊んでいる姿を見ているから、無理も無い。休日の学校はその主たる子供たちの姿がないから、急に元気を失って見えるのが常だ。
「この方が広くていいだろ」
「うんまあそうだけどさ、ジャミルとかアルベルトとかダウドとか居たら面白かったのになーって」
ヴィンセントがくしゃりと頭を撫でる。
「我慢しろ。私たちがたっぷり遊んでやるから」
彼も身軽なTシャツにトレーニングパンツ、俺は体育の先生みたいに臙脂色ジャージ上下。俺が体育倉庫から拝借してきたサッカーボールを、クラウドにパスする。足元に転がって来たボールを、器用にぽんと跳ね挙げ、膝で二回、リフティング、そして、足を引き、ワンバウンドさせてから、渾身の力で校庭の反対側に向かって、ロングシュート。 ヴィンセントが口笛を吹く。
「すごいじゃないか」
運動神経は俺譲りなのだ。ボールは遠方、体育館の壁に当って跳ね返った。
「ザックス、何をしている。早く取ってこい」
「わかったよ」
猫と遊ぶ、犬だ、俺は。まあ、構わないけど。慣れたよ、もう。
校庭の端から端まで走って、そこから俺はクラウドにロングパス、クラウドは軽快に駆け出しながら、それを胸でトラップ、そのままヴィンセントにバックパス。
なんか、なあ、カッコいいクラウド、すごいテクニシャン。手を使わないでいいスポーツはお手の物、なんだなあ。何だか、嬉しい。中田英みたいだぞ。クラウドは跳ねるようにボールと戯れながら、あっちに蹴りこっちに蹴り、足に吸い付くようなドリブルを見せたかと思うと、急にトリッキーなパスを俺に出して来たり。小さな身体ながらちょこちょこと走り回り、ボールと遊んでいる。
汗を額に浮かべながら。
俺はまじめな人間だから風俗店になんて行ったことがない。嘘だ早速訂正、そう、蜜蜂の館に入った事がある。でもあそこは、ある程度まで本番はナシっていうか、まああんまり詳しく書けるほど知識も無いけれど、俺が入って来た限りでは、エッチなオアソビの場と言った感じで。実際、ミッドガルの裏町の電柱に貼ってある「素人」「女子高生」、そういった店や、あるいはスポーツ新聞の風俗面に掲載されているような店は、きっとかなりきわどい事もやっているんではないか。いや、いっそきわどいどころか、本番までいやいや、おじさんは最近の若いことなんてわかんない。
で、ソープだかヘルスだか知らない、イメクラとでも言うのか? ブルマとかナースとか、そういうの、あるだろ。
俺がこうしてクラウドに、してるのって言ってみればそういうのなのかもしれないな。
それらとちょっと違うのは、俺たちが本当に恋人同士で、しかも臨場感においては遥かに勝っているという点。
チョークが、粉っぽい。けれどその匂いよりも濃厚で新鮮なものを、俺はこの鼻で味わっていた。こういう時は、ほんとの犬になりたいって思う。犬の嗅覚は人間の、百倍だっけか? きっと、クラクラになってしまうに違いない、幸せな酩酊状態。
「塩辛い、だがそれだけではない」
ヴィンセントはその舌で楽しむ。
「汗だけではない。特有の甘い香りも。クラウド、お前自身がまるで、最高の菓子のようだな」
言われて、俺もその腹をぺろりと舐めてみる。確かに塩辛い、だけど、その中にどこと無く甘みを感じる。よく分からないけど、高級な食塩を舐めると、しょっぱい後に少し甘みを感じる、あれと似ている。海水から塩を採取するみたいに、クラウドから塩をなんて。美味しいスープが出来るぞ。片栗粉の代りに、以下略。
「やぁあだっ、うち、帰るぅっ」
クラウドは舐められたお腹をぴくぴくさせて、首を振る。サッカーボールを片付けに入った体育倉庫、油断だらけの背中を、いきなり抱きしめられて堅いマットに寝かされてわけの解らぬまま行為突入。いい迷惑に違いない。体操服は汗でぐしょぐしょなのだ。
「帰るとも。いつまでもこんなこと、していられないだろう?」
「だけど、まだ校庭開放の時間はあるしな」
クラウドの美味しい身体を、かわるがわる味わう。クラウドはその度に、みだらな震えを晒し、声を溢れさせる。体操服から伸びた細い手足は、こと、その太股は、本来は清純で爽やかな筈の紺色の短パンから伸びて汗にしっとりと濡れた様は、先に書いたイメクラとやらに入り浸る連中のキモチが解るほどのもので。 俺がそこにしゃぶりつくと、クラウドはマットの上にぱたんと上半身を倒して、理性を捨てるかどうかの葛藤を始めた。目を閉じ眉間に皺を寄せ、感じる体勢に入りながらも、声を殺して、否定しようとする。俺は甘く塩辛い太股を、ひたすら味わいながら待つ。鼻にはクラウドの下半身からの汗の臭いが届き、ああ、何だか、震えてしまいそうなほど、興奮する。
人間は「触覚」「視覚」「聴覚」「嗅覚」で欲情する。だが、「味覚」でも十分に感じる事が出来るのだ。まあ、今俺がこんな興奮しているのは、嗅覚の与える力も大きいけれど。
俺は左、ヴィンセントは右。たっぷりと汗で濡れた太股を、同じように味わう。時折吸い上げて、隠しようのないところに赤い染みを刻み込む。クラウドはそれに対して関心を抱かなくなっていた。もう、完全に。体育の着替えの時に「虫にさされたの」って言い訳するの?
「んっんん! あう、あう!」
声を殺す努力を止めた。転落。
「さあ、クラウド、どうする?」
悪趣味な質問を飛ばす時は、いつも心が唇を歪める。そうでないと言えないから。
「どうしてほしい?」
下半身から響く声に、クラウドはいやいやと首を振る。だけど、間もなくその唇を開き、不明瞭な声で、呟くように言葉を。
「脱がせて」
「私たちに見せたいのか?」
「ちがぁうぅ、して、ほしいのぉ」
「それはつまり、見せたいと言う事ではないのか?」
「んんんっ、ちがうぅう」
「正直に言ってしまえ。お前は露出狂なのだ」
そんな酷い事を言って、でも優しく微笑んで。ヴィンセントはクラウドを立たせ、短パンを、パンツごと脱がせてしまう。つるりとした下半身は、しっとりと濡れて、ホコリっぽい光の中で艶めかしくマットに煌いている。ヴィンセントはクラウドから身を放し、パンツだけを、空の弁当箱や水筒が入ったリュックに入れる。
匂いでも嗅ぐのか。いや、嗅ぐんだろうな。あとで俺も嗅がせてもらおう。
「見るな、よう」
無論クラウドは手で隠そうとする、俺たちはいつものとおりそれを抑える。
「見てほしかったんだろう?」
濃厚な香り漂う下半身、特に湿っぽいのは、汗が流れて溜まる袋の裏あたり。
「お尻を見せてごらん。その飛び箱に手をついて」
ヴィンセントの言葉に、あれほど嫌がってた割には素直に従う。クラウドに後ろを向かせ、尻を突き出させると、ヴィンセントはニヤリと笑って、指をさす。お尻の割れ目の所なんて、すごい美味しそうじゃないか。なるほど、やっぱりこの人は最低なのだ。
「い! やっ」
予想してはいただろうけれど、同時に舐められるとは思っていなかったんだろう。俺は穴のあたりを、ヴィンセントは仰向けにのけぞって、クラウドの股下に顔を入れて袋をしゃぶる。クラウドのお尻はひくひくひくひく、いっぱい動いて、欲しそう。 頭も廻らない事だろう、片方だけで十分の欲求、もう片方も、なんて。
「いい匂いだ」
俺は言ってやる。
「クラウド、いい匂いだよ、お前のお尻。それに汗の染み込んだ体操服もだな。本当にどれをとっても最高だな、お前は」
言葉は、またたびのように陰湿に彼の身体を焦がす。更に舌を差し込み、同時にヴィンセントがかぷりと陰茎を咥えたような気配がある。
「きゃ!」
クラウドはそんな声を上げて、がくんと身を崩した。ヴィンセントが前側から、俺は後ろ側から、その身体を支えた。クラウドは弛緩して、はうはうと声と息の入り交じったものを溢れさせながら、空ろな目で天井を見ていた。
「同時に口で責められる事など初めてなのだから。早くても気にすることはないぞ」
ヴィンセントは口の端を舐める。
「でもほんとに、呆気なかったな。汗って、フェロモンみたいなものだからな。自分で吸って、感じた?」
クラウドは答えられない。ただ、熱い震えを俺たちの身体に伝えてくれるばかりで。肯定の意味を持つ沈黙を伝えてくれたお礼に、マットに落ち着かせて、ご褒美? いや、俺たちがしたいから、のキス。
「場所を変えようか」
ヴィンセントは髪の毛をばさりと掻き上げた。
「ここは空気が悪い。それに、臨場感はあるが折角の匂いを楽しもうにも、白墨の粉が舞って、空気が悪い」
それも、そうだ。クラウドの匂いは濃いから解るけど、それにしたってこのカビと粉の匂いには閉口する。もっと、そんな芳香剤なんかは要らないけど、落ち着いたところでやりたいとは思う。
「じゃあウチ帰るか?」
「何故」
「何故って。あんたが言い出したから」
「頭の回転の悪い奴だな」
「お蔭様で」
「ここはどこだ?」
「体育倉庫だけど」
「馬鹿。ココ、はどこだ? 言ってみろ」
「学校」
「そう。学校だ」
ヴィンセントはクラウドを横抱きにする。ようやく理性を取り戻しつつあったクラウドは、ぽやんとした顔でヴィンセントを見上げる。汗が乾きはじめた体操服の上だけ着て、下はまだ裸である。それはそれで、うん。腰から尻へのラインが、うんうん。
「にゃあ?」
「学校、誰もいない教室というのも、乙なものだと思わないか?」
俺は肩を竦めて、苦笑い、そしてクラウドの顔に浮かんだ「げ」って表情を払拭すべくその大きな耳を、くしゅくしゅと撫でてやる。クラウドはじたじたと少し暴れたけれど、額を撫でてやるとおとなしくなる。
「やぁだぁよぉ、もう、やだぁあ」
「と言ってもだ。もう言うまでもない事だろう? お前だけ達して私たちは生殺し、それは公平ではない。そうだろう?」
「うにゅ」
クラウドの頭の中には、それが正論だとインプットされている。だから不服そうな表情をする事は出来ても、それ以上のことは、自制してしまうのだ。何だか、俺たちの責任なのに、クラウドが無理を感じてしまっているようで、ちょっと辛い。だけどそれでも、クラウドの本心には「自分だけじゃ、やだ。ザックスとヴィンのチンチンも欲しいよう」っていう、素直な想いがあるから。
「にゃうぅぅう」
ヴィンセントの胸にぎゅううと顔を埋める。
「では、行こうか?」
ヴィンセントは俺に鞄を持たせて倉庫の扉を開けさせて、下半身裸の「姫」を優しく、目的地へとエスコートする。下男である俺は、いっそ爽快な苦笑いをニヤニヤ浮かべながら、その右後ろを、歩く。
ニブル村立小は各学年一クラスずつしかない。それぞれ、十五人から二十人程度のごく小さな学校である。自分の生まれた街ではあるけれど、やっぱり田舎なんだなあ、なんて思ってしまう。いや、栄えてはいるんだけど、やっぱりもともとの村民たちではないわけで、当初の予定が狂って今のような状態になってしまっているわけで、今も昔も子供の数が少ないのは致し方ないかもしれない。ロケット村の学校にはまだ、これほど惨澹たる少子化現象の波はやってきたにようだけど、どこの教育機関もこんなもんなのかもしれない。ケットもといリーブたち、この国を司る人たちの努力に期待をしたいところだ。
で、とにかくクラウドのいる四年一組の教室には十八個しか机が並んでいない。改めて誰もいないときに眺め渡してみると、殺風景で、机の数が少ないからずいぶん広い空間に思えてしまう。生徒机は木製のデスクに鉄製の引き出しスペースがある、ごく普通のものではあるが、ずいぶん使い込まれている。恐らく、この村を再建する際に、どこかからかっぱらってきた寄せ集めなのだろう。
その机を、七つ並べる。背中が痛くないように、タオルを敷いて、その上にクラウドを寝かせる。
「ジャミルや、アルベルトたちの机の上に、お前はそんなはしたない格好で寝そべっている。感想があったら聞かせてくれ」
「っ、にゅうう」
「ふ。ならばいっそのこと、上も脱いでしまえ」
俺はクラウドの汗をたっぷり吸ったシャツを脱がせる。上半身の肌もじっとりと汗が絡んでいて美味しそうだ。実際、舐めてみると脇の下はえも言われぬ味で。
「教室で全裸になることなど、ありえない。水泳の授業の時ですら、腰にタオルを巻くのが普通だからな。お前が如何に淫乱な子なのか、この状況を見れば一目瞭然だな」
クラウドは、下半身に再び熱をたぎらせていたのだ。この「状況」に、痺れきっているのだろう。いつもとは違う場所違う状況、その違和感がまた、彼を焦がす。根っからの淫乱、そのことを、不本意ながら彼は身体で証明している。
いいじゃないか、淫乱、と思うのだけど。
「お、ねが」
俺は首をかしげて見せた、何だい? 言ってごらん? もう解ってる。体育倉庫からここまで、五分。五分間、ずっと何もせず、ただ裸のまま、感じっぱなし。
「入れて」
言葉よりも雄弁なのは、ヴィンセントの唾液が乾いても依然、溢れたままの透明な、しずくだ。官能小説的な言い方になる、というかそんな言い方以外してない気がするんだが、ともかく、蜜は溢れて、六ミリ程覗ける彼の淡い色の亀頭と、柔らかい包皮の淵を濡らし、滑らかに艶やかに、鈍く光る。クラウドの身体で俺がくすぐられるところはたくさんある、別に下半身に限ったことじゃないし、性的なものばかりじゃない。もういつも言ってることだし、聞いてる方もさすがに、辟易してくるだろうからここでは省略するけど、ぜんぶだ。
クラウドは、全身快感で、麻痺。ヴィンセントの舌が、まだ汗の残る乳首を味わう。びりびり痺れてる。見てる俺の方も、痺れそう。
「どうする? 後で辛くなるが、一度出しておくか?」後で。つまり、何度いかせる気なんだあんたは。
クラウドは首を横に振った。ヴィンセントが目顔で俺に、するよう指図した。
やっとお許しが出た。俺はジャージとトランクスを一緒に降ろす。大人の方が分泌量が多いのが普通なのか、それとも俺が我慢強くないだけか、クラウドよりも更に、濡れていた。
「どっち?」
「好きな方で」
「じゃあ。クラウド、お尻こっち向けて」
ヴィンセントの舌がもっと欲しいらしいクラウドは、うつ伏せになるのを面倒くさがって、ただ俺に向けて足を大きく広げただけだった。なかなかに豪気なことだと思うが、俺にも多分似たような所があるんだろう。お望み通り、俺はそのまま、してやることにした。顔を寄せて、穴の周りをくるりと舐めて、それから、窪んだ所へ舌を差し込んで。優しく指を入れて、一本、二本、親指二本、そしてそこに舌。
「乾杯、だ。お前は、すごい美味しい」
机をもうひとつ引っ張ってきて、その上に乗って、クラウドの腰を抱いて持ち上げて。 今、思い出した。汗は「sweat」、一字違えただけで「sweet」。
「お前に完敗」
俺は唇の端を笑わせて、乳首を齧られて喘ぐクラウドに、挿入。ふわり、かぐわしい花の香り。
これから暑くなっていく。俺は秋まで飽きることなくこの匂いを抱いて寝ることが出来る。変な例えだけど、暑い季節の風物詩、これは、じゃあ、初物。実際、抱けば抱くほど、寿命が延びていくようで、あながち変でも無いのかも。
クラウドの身体を、見下ろす、ヴィンセントが頭を退けて、肉茎をクラウドの顔の目の前に晒す。クラウドは片腕で半身を起こし(それだってたいそうな苦労だろうに)、そんな大きくない口をいっぱいに開けて、わたがしを頬張るかのように口に収める。そうしてそのまま、いつのまにか俺たちなんかよりもずっと上手になってしまった舌遣い。たちまち、恐らく遅漏の部類に入るであろうヴィンセントの顔が美しく歪む。 俺は腰を余り激しく振るのはやめた。出来れば三人一緒にフィニッシュできるように。まず、俺がやばいし、クラウドもやばいし。
でもそんな、無理はしなくても、よさそう。ヴィンセントもじき、出すだろうし。
そんな事を考える俺の、背中は、じっとり汗ばんでいる。でもこの匂いをかいで、いったい誰が感じる? ヴィンセントが、妖しい息を、はっ、と短く吐く。
俺はクラウドの塗れた肌を、ことその腰のラインと密かな筋肉を秘めた腹と愛らしい臍を愛らしい性器を、見ながら、腰にスイッチを入れた。きっと、往復した回数をカウンターかなんかで記録したら、笑えるんじゃないかと思う、とにかく俺は三人同時でも、やっぱり一番早かった。
「しまった」
俺は洗濯機のスイッチを入れてから気付いた。どうも、俺にはこういう所がある。順番を考えるのが下手なのだ。月曜の四時間目は体育なのだ。なのに、今洗っちゃったら。乾くかどうか、微妙な所だ。我が家には乾燥機なんていう無駄な物はない。だが、こういう時には買っときゃよかったと思う。要するに俺がポカをしなければ要らない機械なのだが。
でも、仮にだ。洗わないで居たら汗でドロドロの体育着を着て体育の授業を受けさせなければならない。俺たちはそうでないとしても、学校にはクラウドの汗の臭いですら疎んじる子達がいるだろうし。クラウドが自分で臭がったりしても可哀相だし。洗濯だけに正しい選択をしたのだと自分を納得させる、俺も三十過ぎたからこういうことを思ってニヤリとするのは構わないだろう。
風呂場から全裸で出てきたクラウドは、頭にバスタオルをかぶっている。さっきまであれだけ騒いだのに、すっきりさっぱりして機嫌がいいのか、俺を見るや、にへらと笑った。俺もつられてそんな笑いをしてしまう。手を広げると、バスタオルをかぶったまま、俺の腰に抱きつく。鼻に届くは桃の花の香りである。俺は少しく勿体無く思ってしまう。屈み込んで、キスをして、首筋から匂いをかいでいく。画一的なソープの香りばかりで、無論それはそれで素敵に思えるのだけど、汗の匂いだっていいじゃないか、と思う。下半身だって。「本来」の匂いじゃない。
「ザックス」
クラウドが呟いた。
「あたま、汗臭いよ。お風呂空いたから、入っといでよ」