三重殺

「んっ、ふあ、あ、っ……く、くすぐったいよぉ……」

「動くなよ、危ないぞ」

「んんっ、ぁ……」

考えてみると、膝枕なんてしたこともされたこともないような気がする。ベタベタするのは好きだけど、あまりにもわかりやすすぎて、照れる。けど、今俺がクラウドの頭を膝の上に乗せているのは、別にクラウドといちゃいちゃするためにじゃない、その大きな耳を綺麗にしてやるためにだ。

怪我をさせないように、耳掻きを動かしていくのだが、これがなかなか難しい。

さらに、クラウドがくすぐったがってもぞもぞ動くものだから。

「ぴぎゃっ」

「あ……ごめん」

こういう結果になる。慣れが必要だ。

「不器用だな」

コーヒーを飲みながら夕刊を読んでいるヴィンセントが苦笑しながら感想を述べる。そう言う彼は、こういう事は物凄く得意そうで、悔しい。料理その他家事全般、何をやらせても彼のほうが上手い、むっとして、俺は言った。

「じゃああんたやれよ」

「そうか、耳掻きを寄越せ」

俺は先っぽに小さなこけしのついた耳掻きをヴィンセントに手渡し、飲み掛けのコーヒーを飲む。自分本意な信じられない苦さに、思わず顔を顰める。

「ん……ふっ」

相変わらず少しくすぐったそうに声を上げながらも、痛いところは突かれていないのか、落ち着いている。大体猫の耳、人間と形が違うから、もともと人間だって掃除したことのない俺にとってはイキナリ難しすぎる。ちゃんとできる方がどうかしている、ヴィンセントを眺めながら、内心ぶつぶつと文句を言う。

「こっちは終わった、クラウド、反対だ」

くるり寝返りを打たせて、今度は左耳を綺麗にしはじめる。

「うにゃぁ……」

気持ち良さそうに欠伸をする、ヴィンセントの膝の上がよほど居心地がいいのか、もうくすぐったさの声も上げなくなった。

「眠ってしまったな」

膝の上、うんともすんとも言わず、ただすやすやと可愛らしい寝息を立てているクラウドが悔しい。

「これからは、耳掻きは私がやろうか」

心底の歓喜を隠し切れないといった表情でヴィンセントが俺に言う。悔しい。

「ご自由に」

ぶつりと応えた。その、俺の明らかにヘソを曲げた答えが更に楽しかったのか、ヴィンセントはまた随分と思い切った行動に出た。

それはクラウドの、というより、俺の反応を楽しむためのものだったのだろう。

ニヤリと笑い、クラウドの大きな耳に、ふっと息を吹き入れる。

「にゃ……」

浅い夢の中、クラウドがぴくんと身じろぎする。

「……おい」

低く怒気を含んだ声で。

「可愛いな……見て見ろ、耳の構造は完全に猫だ。……手……前足もだな。よく出来ている、本当に、忠実に猫の形を作っているのか……」

「……クラウドで遊ぶな」

「遊んでなどいない。ただ、馬鹿らしい偶然で生まれてきた身体なのに、バランスが崩れていないことに感心しているのだ。……これもジェノバの強さなのか」

そう言って、クラウドの胸元に手を滑り込ませる。

「おい」

「猫じゃない部分はお前と一緒らしいからな。……どこまで忠実にお前のコピーなのか」

そして乳首を、軽く抓む。

「にゃぁあ…………」

「私に確認させてくれても良かろうが」

まだ目覚めないクラウドが不平の声を上げる。……猫だ、確かに。

「いい加減に……」

「面白いぞ、お前もやってみるといい」

その「面白い」という発想が解らない。とは言え、俺も結構、クラウドの反応に対して「面白い」という感想を持ってしまうことも多々あるから――。

ついつい、その「面白い」という言葉に乗せられて、ヴィンセントを認め、クラウドのそばにひざまずく。

「Aという細胞の性質に、Bという全く違う細胞が組み込まれているのに、依然A細胞はその特性を持ち続け、Bの方もその自身の特異性を維持し続けている。……難しいことは、私にもよく解らないが……宝条の「作品」にはロクなモノがない……が」

ヴィンセントはクラウドの下半身へ手を移しながら、言う。

「……この猫はあながち、失敗作とも言いきれん」

「あまりイタズラを」

「イタズラ? お前がいつもしていることではないか」

……要は変な嫉妬。クラウドも、ヴィンセントも、俺の大事な恋人な筈で、その二人がいちゃいちゃしているところを見せられるというのは、何だか仲間はずれにされているような寂しさを憶えても無理のないこと。しかも哀しい哉、ヴィンセントは当然として、クラウドも相当、見た目はいいから、その片方が片方に性的な悪戯をしている現場に立ち合っていろというのは、なかなかに苦痛。

……そうか、ヴィンセント、いつも見てばっかりだから……。

「起きないな」

きっと、俺と寝ている夢を見ているのだ。硬くなり始めたそれを優しく揉み、更に硬度を呼び起こす。

……以前、俺にやってた事と同じで、なるほど確かに精神衛生上良くない。

「もうそのまま寝かせてやれよ」

「……私は別に構わないが」

ふ、と声を立てずに笑う。

「お前はいいのか? あとでクラウドのズボンを洗うのはお前だぞ?」

「……」

「絶対夢精すると思うぞ? もう、こんなに硬くなっている」

誰のせいでだ。

ヴィンセントはズボンを脱がし、その手の中で立ち上がったものを見せる。

……俺のものなのに……などという馬鹿げた所有権主張。

「手伝え」

「……」

何の因果で。

 

 

 

 

「っ、はぁあ……あぁん、やめ……」

「起きたか?」

「……」

はだけたパジャマの前、両の乳首を同時に舐められて、ついに目を覚ましたクラウドに、俺たちはどんな風に映っただろうか。

「ヴィ……ン……ッ、やぁ……」

いつもは傍観者のヴィンセントに愛撫を施されているのが、恥ずかしくて堪らないらしい。ヴィンセントはそれを見て、嬉しそうに先端にそっと歯を立てる。

「んはっ、はっ、ああ……な、なんでっ、ふたり、ともっ」

「たまにはいいだろ? こういうのも」

もうどうでもよくなっているらしい俺。結果的に、クラウドのは硬くて震えているし、気持ち良くなってくれるなら、何でも構わない。だって、クラウドは三度の飯と同じくらいセックスが好きなんだから。完全に淫乱、けどそれは俺が憶え込ませたこと、という哀しい事実も、もう認めなければならない。たくさんの、愛に似た精液をお前に。

「お前と弱い所が一緒だ」

俺に低く呟き、ヴィンセントはさらにしつこく胸を責める。オリジナルと、コピーとさして進歩も変化もないあたりは仕方ない。そしてお互い同じ神経構造なら、胸を舐められ続けると……。

「ぁっ、ああ、もぉ、やぁあ、……そこじゃなくてっ、……っ」

恥ずかしさが快感に負けてしまうのだ。自分から下半身への愛撫を求めてしまう……根性無しな俺。……いや、これに関しては、実は俺には責任無いかも。

ヴィンセントの舌が信じられないほどいいのだ、これは、間違いなく。胸だけじゃなく、耳を軽く舐められただけで、的確なポイントを突いてくるから、こちらはどうしても震えを抑えられないのだ。

「……素直に言えたな……飼い主譲りだ」

ようやく胸から顔を上げて、ヴィンセントはクラウドを四つん這いにさせる。慣れない相手に操られて、目を潤ませて恥ずかしさに震えるその表情は、やはり可愛い。

ヴィンセントは、俺にクラウドを咥えるよう促し、彼自身はクラウドの後ろを指と舌で弄る。俺はクラウドの身体の下に身体を入れ、斜め前方に突き出た性器の先端を舐める。クラウドの腰が逃げないように、手でその細い腰を支え、少し落とさせながら。

「っ、んん、ふああ」

「クラウド……気持ちいいか?」

身体の下から、訊ねる。気持ち良くないはずがない、あくまで、趣味的な質問。

美味しいそれから一旦口を離す、薄暗い中、震えている。

「ああぁ……いい……、いい……ッ」

「……そっくりだな」

見えないけれど、多分ヴィンセントは苦笑しているんだろう。確かに、俺が同じ事をされても同じ反応を示すだろうし。後ろと前を同時に舐められるなんて、そんな贅沢な施しを受けて、しかも感じやすいのだから。俺が再び先端を舐める、びくびくと震えて、俺の口と顔に精液が放たれた。

「……随分いっぱい出たな……目に入るところだったぞ」

薄暗いところから身体を出し、顔に付いた精液に苦笑。それはいい、というかまあ嬉しいのだが、何であんたが舐めるヴィンセント。

「……濃いな……確か昨夜もしていたのではなかったか?」

「何であんたがそれ知ってるんだよ」

「お前たちの事なら何でも知っている」

クラウドは恐らく今までで最大級の快感に力無く横たわって、ひくひくと震えている。

「ヴィンと、ザックスの、ばかぁ……ッ」

半分だけ理性に戻って、詰って来る。随分じゃないか、気持ちは解るが。

「けれど、よかったのだろう?」

尻尾を軽く撫でて、耳元でヴィンセントのあの低くて色っぽい声(俺が昔、一回誉めたのが嬉しくて堪らなかったらしい、以後、その声は一種の兵器だ)で囁かれて、流されそうになる、が、必死に首を横に振る。

「んやっ、よくなかったっ、ヴィンのえっちっ」

さっきは「いい」と言っていたくせに。

「そうか、よくなかったか……」

……傍から見てて、……馬鹿だなあ……と。

簡単にヴィンセントの術中に嵌まって……。

ああいう時は、正直に「よかった」と言っておいた方が、あとあと楽なのに。

「んにゃっ」

「ならば、もっとよくしてやらないと申し訳ないな」

後ろに、一気に二本突き入れられて、全身稲妻が走ったように強ばるクラウド。 ヴィンセントのやり方、ポイントは「緩急」らしい。
イキナリ強いのをやって火を付けて、そのあとは焦らすように甘く。波をつけて。……研究でもしているのか、確かにヴィンセントは上手い。

「やだっ、痛……ッ、だめぇ……」

「何が、駄目なのだ?」

相手の弱点を狙って、しつこく突いてくる。かなり、性質が悪い。例えば、俺が言葉で嬲られたり、卑猥な言葉を言うのが嫌いだ知ると、トコトン、嫌らしい言葉で責め立てて来る。……そのあたりはザックスに似てて、イヤだ。

「……こんなに硬くなって……何が、嫌なのだ?」

ぐちゅぐちゅと湿った粘液質の音を立てながら、指を前後させ、クラウドの答えを執拗に求める。

「お尻……っ、痛い……ぃ……っ、ん、ぁああ……」

「痛いだけか?……痛いだけでは、立ったりしないはずだが……」

いつもより攻撃的……どうも、ヴィンセントも溜まっているらしいのだ。考えてみれば、俺と俺とのセックスをずっと傍観していたのに、どちらも物にならないから、独りでするしかない。

可哀相だったかもしれない。……けれど、ああやってクラウドを苛めさせるのはちょっと悔しいし、未だ嫉妬の感情が消えたわけではない。って恋人に嫉妬するなよ、俺。

「んっ、ああん……」

指を一本に減らして、内壁を器用に刺激する。俺に目配せをし、クラウドのそれに触れるよう指示する。

「……見てみろよ、クラウド……さっきたくさん出たばかりなのに、またいきたがってる。……ここは正直だな……えっちはヴィンセントじゃなくて、クラウドの方じゃない?」

少し扱くと、余韻か先走りか解らないがまた蜜を溢れさせる、顔を真っ赤にして、抗えばいいのに、それ以上のことはしない。
気持ち良くなりたいのだ。俺もヴィンセントにならって、きつく握って扱いたり、茎の部分を撫でるだけにしたり、「緩急」を交えて、
その可愛らしいペニスで遊ぶ。

「……気持ち良くなりたくないなら、もう終わりにするが」

ヴィンセントが何とも嫌らしい選択肢を提示する。

「ひぅ……い、やぁ……、やだ……ぁあ」

「……我侭だな」

俺はクラウドから手を離し、苛められ過ぎて神経が振り切れてしまった可哀相な顔に、そっとキスをする。

「ほら、ちゃんと言ってごらん?」

優しい声色、言ってる事は最悪。

泣きそうな顔がもう(以下省略)。

「っ、欲しいっ、お、ねがい、、、ちんちんっ、頂戴っ、おしり……」

 プライド捨てて、求める。

「よく言えたな」

ご褒美のキス。

「入れてやれ」

「……あんた入れたかったんじゃないのか?」

「私は構わん」

ヴィンセントがそう言うから、俺はヴィンセントの指で広げられた後ろを、後ろから一気に穿つ――「緩急」だ。

「いっ……ああ、ああ……」
そろそろしつこくなってきたからこの表現は止めようかと思うのだが、やはりこれ以外思い付かないのだ。

クラウドは可愛い。

 と。

「ッ、ヴィンセント!?」

尻に違和感を感じて、俺は思わず振り返る。

「……続けてて構わないぞ」「って、馬鹿……ッ、何やってんだよ!」

ヴィンセントは俺の双丘を割り開き、濡らした指で入口から少しずつ犯していく。

慌てて止めさせようとするが、前はクラウドに深々とさし込んで居るから、抗いようもない。

「あっ……ぅあ……ッ、止、せ……ッ」

「あぁん」

思わずヴィンセントの指を締め付けて、それに連動して前が震えクラウドの内壁を刺激する。

「私に独りでいけと言うつもりではないだろうな……いくら自分勝手でも」

「っ、く、ああ……」

膝に力が入らなくなる、ヴィンセントが、ゆっくりと俺の胎内を広げながら入って来る。

……気持ちいい。

前と後ろ、同時に、だから……。

「ぁ、あんっ、ざ、ックス……な、んか、いつもより、おっきい……」

「いつも以上に感じているからだな……クラウド、気持ち良いか?」

「んっ、いい……きもち、いいよぅ……」

クラウドの舌足らずな声で、間接的に俺を責め立てようとしている。

……何とまあ、頭のいいことを……。そんな余裕なんてないくせに、俺は思った。

「……奥まで入ったぞ、気持ち良いか? ……ザックス」

「っ、よく、ないッ、早く、抜いてよ……馬鹿……」

さっきクラウドに対して「馬鹿だなぁ」と思った癖に、同じコト言ってる俺って。

「そうか、……だが悪いが、止める訳には行かない、ずっとしていない、私も我慢の限界だ」

「ぁあああッ」

 抜けそうな位まで引かれ、また一気に腹の底まで。前は、多分世界で一番気持ちいいクラウドの中で締め付けられている訳で、これで耐えろというのは、拷問だ。
「……う、にゃあ、っ、ああ……」

独りだけ先にいくのだけは、恥ずかしいから何とか避けたい。

変なプライドが、何とかクラウドのを握らせ、扱かせる。

が、クラウドのを動かすたびに当然、感じて中は狭くなって、俺も感じて、更に俺自身の胎内も狭くして、ヴィンセントに快感を与えられる……。

快感が積み重なっていくのが解る。しかも、いつもの二倍のスピードで。必死で吐精の欲求を抑え、なるべく中を狭くしないように……するのだが。

「もぅ……だめぇ……おつゆ出ちゃうっ」

その声に、油断した。

「っああ……ッ」

甘い声に触発され、堪えていた衝動が溢れた。クラウドが精を吐き出す僅かに前、俺は到達してしまった。キツくキツく、ヴィンセントを締め上げるが、ヴィンセントはまだ俺の中に叩き付けて来ない。

「……ぁああ、ああッ」

いったばかり、全身どこを触られても感じる状態。

が、クラウドから俺を抜くことも許されず、内壁は思う侭に擦り上げられ、苦痛にも似た快感を無理矢理呑み込まされる。しかも、具合の悪いことにクラウドの内部でまた俺は、死んだばかりなのに息を吹き返し、自分の放った精液でもうグチャグチャな中で快感を追いはじめる。

「あぁあん……っ、ザックスぅ……、ああぅ、にゃぁ……」

前では、天使のようなクラウドが。
「……まさか一発でダウンなんてことは、ないよな? ……ザックス」
 後ろでは、悪魔のようなヴィンセントが。

「……あッ、はぁあ、あぁ……」

場の雰囲気は常に、ヴィンセントの下にある。

……恐ろしい。ヤル気になったら誰も敵うまい……。

 

 

 


 ヴィンセントが俺の中に精液を叩き付けた頃、クラウドはとっくの昔に失神し、俺ももう枯れつつあった。

「やはり、『クラウド=ストライフ』という身体は弱いのだな」

「…………」

あんたが強すぎるんだい……言いたかったが、そう言えばザックスやセフィロスも強かった気がするし、そんなコトを言い返せるほどの気力すら、俺には残っていなかった。

完全に、ひからびた。からっぽ、からっぽだよ。


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