太陽

誰だって、他の誰かが持っている物には憧れるでしょう?

絵本、玩具、とか。昔からそうだった。例えば俺は、ザックスのような、あるいはセフィロスのような、強い力が欲しかった(本当に欲しかったのは強いこころだ)。

それより前にだって、欲しいものはたくさん。

クラスの仲間がみんな持っていた銃のおもちゃ、トレーディングカード、みんなが学校帰りに買っていた駄菓子も、俺は買ったことがなかった。

母さんにあれが欲しいと言ったこともなかった。

俺は他のヤツラなんかとは違うんだよと、自分で臆病な開き直りをして逃れることをおぼえてしまっていたから。

刹那の満足感なんて要らないと、そう考えて。

それは今考えるととてもたくましくて強くておとなびたことだったのかもしれないけれど、

だけどその時は、欲しがってよかったんだなと思う。

俺は今、全部手に入れている。今手許に無い物だって、その気になれば一週間くらい待てば、手に入れることができる。最も、今猛烈に欲しいものなんてない、強いて言うなら、この季節は手が冷たいし、うちの湯沸器は旧式のやつだから、食器洗い機が欲しい。この間ヴィンセントに言ったら、そんな若奥様のようなことを言うなと苦笑いをされた。買いたきゃ自分で買え、と。

 

 

 

 

雪が降った。揃いの手袋、手を繋いで、歩く後ろ姿はきっと他の誰から見ても、幸せに見えるだろう。それでいいんだ、俺たちは例えば人と猫、男と男、兄と弟、同じ形、問題はいろいろあるけれど、誰にも手に入れられないようなものを手に入れた全てだと考えれば自然と微笑みは浮かんでくる。

靴だけは、俺はスパイク、クラウドは長靴。眩しい日差しを照り返す、表面が凍った雪をしゃくしゃくと、一番遠い季節の雪を思い起こさせるような音をさせて踏む、二人で、子供みたいに。あちこちの家の玄関先に、大小様々な雪だるまが。うちも昨日、三人がかりでつくった。目と鼻を付け、マフラーも駆けた。

きっとあと百回でも千回でも一万回でも、雪を見ることは出来るだろう。

俺は恋人二人に囲まれて、笑って雪が降る様子を見るだろう。でも今日の雪がまた嬉しい。

この星が終わるまで、永遠に生き続けなければいけないさだめが、こんなふうに幸せにつながっていたなんて、神様だって想像出来やしなかっただろう。当の本人たちが、まったくの予想外の出来事なのだから。

偶然の要素が幾つも重なったのと、あと、良い意味での因果応報。

全ての、たくさんのたくさんの、俺の心を形作っている要素は今俺がこうしているために、すべて揃っていなくちゃいけない。だから、俺はその幸せを守るためなら何でもする、これは自己中心的だけど、同時にクラウドとヴィンセントの幸せにもつながっている。

命を懸けて、俺はふたりを守ろう。同じように、二人に守られているのだから。

 

 

 

 

でも、空を見上げてみて、ふと思う。

 

 

 

 

例えば、一億年先、この星が滅びるときに、俺はやっぱり泣くんだろうな。

クラウドを抱きしめて、ヴィンセントに抱き締められて、信じられないくらいたくさんの涙を流すんだろうな、と。

一億年間、そんな長い時間なんて想像も付かないし、数えたこともないし、大体俺はまだ三十にもなってない。でも、想像に難くない。宇宙の塵になる瞬間の、張り裂けそうな虚無感と絶望感と、そして上げてしまうであろう悲鳴。

そして全て消えたあとには、何も残らない。ただ、何も無い無の中で、

俺もまた無の一要素としての役割を為すだけのものになる。それこそ永遠だけれど、俺のとなりにはクラウドもヴィンセントもいない。誰もいない、そうなったら。

寂しいだろうな。

 

 

 

 

だから、一日でも君たちと長くいたい、僕はそう願う。僕は、贅沢だけど、一日でも長い永遠を望む。変わることのない幸せが欲しい。僕の前を通り過ぎていったひとたちの事を思うと、今でも胸が張り裂けそうに痛むから、永遠が欲しい。

永遠に近いものを手に入れているから、もっと大きな、すごい、ものを。逆に、何一つ失うのも怖い。

 俺は、今でも、震えている。

「ほら、うがいしなきゃ」

うがい薬を容れたコップの中の水をクラウドに含ませて、上を向かせて風邪の予防。

永遠を証明出来るものは永遠に現われるはずも無いから、俺は目の前の永遠に近い存在で永遠を知る。そして、その存在の宝物は永遠だと知らしめるために、俺もうがいをする。他には何も要らない、幸せを失いたくない、このまま永遠に。

 太陽がいつまでも俺たちを照らしつづけてくれますように。


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