スウィートシングルス

 帰る、はずが。明日も学校あるのに、俺たちはどうして、こんなホテルの一室にいるのだろう。

 ホテルが建っているのは、魔王カオスの城のすぐ隣りで、三十七階建ての超近代高層ホテル。ミッドガルならいくら取られるか判らないような感じを、俺はまずロビーの絨毯が靴に与える柔かさで受けた。恭しいポーターは、俺たち手ぶらだから荷物は持たないけれど、展望エレベーターで最上階まで案内し、「どうぞごゆっくりとおくつろぎ下さい」、魔界を統べる王の最上客である俺たちに、深々と頭を下げ、「びっ」と音がしそうなほど背筋を伸ばした。どこかの胃痛四天王を思い出す。

「……すごいな……、これは」

 あの旅の最中も世界各地のホテルを回ったけれど、それは「安宿」の部類に入る。大体二人部屋、悪いときには四人部屋だった。前半、俺はナナキと一人部屋に寝(ナナキは「ペットはお外でお願いします」と言われ、泣く泣く宿の庭で寝たこともある)、中盤ヴィンセントと出会ってからは彼を同室にし、俺の記憶の無い空白の期間に、ティファと同室だったらしい。どういう神経をしていたんだ俺は一体。話が横統べるのは悪い癖だが、とにかく……ゴージャス、としか言い様のない内装。ゴージャスと言っても、決してケバケバしくない。それでも、見る目のない俺をして、部屋の調度品の細部に使われているものは、凄まじいまでの値が張るものだろう、と想像することは可能だ。

「……勝手極まりない話だ」

 ヴィンセントはソファに座って、煙草を取り出す。穏やかなるこの人の負担となれるのは、この世にユフィとカオスしかいないはずだ。

「まあ、確かにな。でも、やっぱりあいつらが力貸してくれなかったら帰れないわけだし……」

「だから勝手だと言っているのだ」

 ヴィンセントも、魔界と地球を結ぶ力は持っていない。俺たちが地球に帰るためには、例の「エレベーター」を使わなければならない訳だが、

「あー、エレベーターね。今日の三時からちょっとメンテナンス入るんだよね」

 カオスは飄々と言った。終わるのは明日の昼で、それまではのんびりしていって、と。何故それを最初に言わないのか。言われていればもちろん、択んで今日に来たりはしなかったろう。その辺りのいい加減さというか勝手さが、やはり魔王の魔王たるゆえんなのかもしれないが、もちろん納得の行った訳でもない。

 クラウドはあちこち珍しげに覗いて回るのに飽きたらしく、広い広いベッドの上でごろん。クラウドからすれば、イレギュラーな一泊旅行という程度のつもりだろう。学校をサボるのはよくないともちろん判っているだろうけれど、自分の知らないものへの探究心がしっかり根付いたひ若い心だ、子供ほど、どこかへ連れて行くと喜ぶのである。俺など、もうその根も枯れて、クラウドに求められない限りは家でごろごろする以上に幸せなことはないなどと思っている。いいよ、別にどこもいかなくたって。クラウドの身体で散歩するから……。

 煙草を二本吸い終わったヴィンセントが、溜め息を吐いて、立ち上がる。

「ヴィン、出かけるの?」

 クラウドが起き上がり、ベッドの上に座りなおす。ヴィンセントの機嫌があまりよくないことは判っているから、気持ち、耳が寝ている。

「夕飯はお前たち二人だけで食べろ。……私はもう一度カオスのところへ行ってくる」

「カオスのところ?……何しに」

「私とあいつは同じ身体だからな……、どうせ此方に足止めを食らうならば、数点、確認しておきたいこともある」

 そう言い残し、クラウドの次の問いも待たず、ヴィンセントは出て行ってしまった。

「うにゃー……」

 やや寂しげに、クラウドは一声。

機嫌が悪い自分の姿を見せたくないというのもあったろうと想像するが、ともあれ取り残されたクラウドと俺、顔を見合わせ、首を傾げるばかりだ。

 もう夕方である。外は澄んだ空に赤い夕焼け。

 考えてみると、魔界は「宇宙の外」にある世界らしいから、太陽があるのは妙な話ではあるが、これは後にカオスに聞いたところ、「あれは太陽じゃないよ、僕の作った電球みたいなもの」。太陽すら作ってしまえるのかと慄然としてしまうが、「明るい時には働いて、暗くなったら寝るっていう習慣があったほうがやっぱりメリハリ利いていいでしょ。昔は魔界、真っ暗だったんだよ。でもそうすると、電気使って二酸化炭素は出ちゃうし、みんな好きなときに寝て起きて、時間もパッとわかんないって感じだったからさ」、……もう、殆ど神様のようだ。

 夕焼けを見ると、反射的に、ちょっと腹が物足りない気がしてくるのは現金なものだが、俺はクラウドを連れて、ホテルのバイキングで少し早めの夕食を、ゆっくりと採った。どれだけのものが並んでいたか詳述はしないが、……まあ、キャビアとフォアグラはあった、と言っておこう、……俺、生まれて初めて食べたよ。

 

 

 

 

 広いベッドが二つある部屋。俺たちが三人連れであることは判っていたろう。だから要するに、「俺とクラウド」「ヴィンセント」、若しくは「俺」「クラウドとヴィンセント」というベッドの使い方をさせんと。シャワーから上がってもまだヴィンセントはまだ帰ってこないから、当然ベッドは一つ空けて、クラウドと一緒に寝る、いつもの状態であり、いつものパターンであり、しかし背景は違うから、気分も違う。

 初めて着る、ぶかぶかの「バスローブ」に、クラウドはちょっと落ち着かないながらも、入浴剤の甘い、いい匂いをさせて、湯気を漂わせながらベッドに座ってぼーっとしている。俺がベッドの上、寄り添うように座ると、俺の顔を見上げて、「にゃあ」と一声。ほの赤い頬っぺたに触って、キスをしても、拒まれなかった。「いいよ」のサインだと、当然都合よく判断出来るから、キスを繰り返しながら、バスローブの帯を解き、唇から頬へ、こめかみ、額、それから肩。甘くて、優しい、普段と違ういい匂いに、俺はいつもの通り興奮する。

「ん」

 左手、人差し指の背でクラウドのおっぱい、ちょっとだけ擦った。逃げるように肩がぴくり、だけど、……俺のバスローブに、爪が立つ。パイル地をちょっと引っ張る。クラウドはもう、下半身に布が絡んでいるだけの、ほぼ裸に近い姿だから、自分だけはずるいと言いたいのだろうか。わかったよと俺はしっとりした髪を撫ぜて、さっさと裸になる。クラウドの一番愛らしい部分を隠してた布もベッドの下に落とし、横たえた身体を覆った。

「好きだよ」

 死ぬまでに何度言うか数えてみようか。五十五億年先までさ、一日十回、一年三千六百五十回、かけるの五十五億、計算できるか。

 甘い優しいクラウドの身体に鼻を這わせるように嗅ぎまわりつつ、足の付け根までたどり着いた。さらさらした手触りの太股、その始まりの、かすかな窪みが指を誘う。

 俺はトランクス穿いてないし、クラウドも穿いてない。……クラウドの下着は、例えば今日は白いパンツだったけれど、おそろいのトランクスなど持ったりもしている、ラブラブの記号。えっちはじめるとき「おそろい」を意識すると、嫌が上にも雰囲気は高まるのだけれど……。

 袋をそっと、下から撫ぜて持ち上げる。かすかな重さ、中にちゃんと入って、だけど金輪際生殖行為には用を成さない玉が二つ。でもここから生まれてはクラウドの尿道を刺激し、放射の過程で幸せを与える粘性の高い白濁液には、そりゃもう凄いくらいの必要を感じている。

「……ふにゃ……」

 それが表現の上で擬音になるのかどうか覚束ないが、「たるん」としたところ、愛らしくって、何度も何度も撫ぜていたら、不満そうにそう鳴いた。

「だって可愛いんだもの、毛も生えてなくてさらさらでさ。こっちがこんなに硬いのに」

 と、俺は袋の中に「はじまり」の存在が確かに判る根に触れた。

「ここはこんなにさ、たるんとしてて、ふにふにでさ、むにーって」

「う、うにゃっ……」

 多分男の身体で一番柔かいところだろうと思う。それでも……。寒いと縮こまって、あんまり柔かくなくなったりもする。今は風呂上りで温かいから、たるん、ふにふに、むにー。

「そ、んなっ、ひっぱっ、たら、ダメ、にゃっ……」

「ここばっかりはつまんない?」

「ふ、ふにぃ……」

 困惑しきって耳が寝たから、しょうがない、手を離した。二度耳の後ろを掻いて撫ぜて、気持ち反らして、

「にゃあ!」

 欲しかったんだろ?一口で入る。

「ん、んっ、やっ……ふ、ぅ、んっ」

 肉球の柔かさ、爪の尖り具合、頭で感じる。鼻に抜けるのは、ちゃんと洗っても、どうしてか残るクラウド自身の匂い。なあ、……どういう匂いって、言えないんだけどもさ、説明できないんだけどもさ。クラウドとヴィンセントと、微妙に違うし、ザックス=カーライルとセフィロスとルーファウスもまた違う。けれど、好きな相手のだったらやっぱり嗅いで、心臓が転びそうになる。同じことをクラウドも思ってくれてるはずで、実際俺がクラウドの顔の前にちんちん突きつけて「咥えて」って言ったなら、そう、必死に表情の裏に隠そうと努力しながら、美味しそうにしゃぶってくれるんだ。

「う、や、した、動か、しちゃダメだってばぁ……!」

 気持ちよくても、嬉しくても、すぐにいくのはプライドが許さない、だから「ダメ」と言う。俺自身早漏で、また恋人たちはテクニシャンで、俺を抱いてくれる人が俺より先にいってくれたことなんて殆どないから、いっつも先に気持ちよくなって休んでしまうような自分が申し訳なく思えるのだ。けれど俺はクラウドを抱き、クラウドの気持ちよくなるに連れ、自分も幸せになれることをはっきり知っているから、そのプライドの在ることはまあ認め、その可愛さにまた酔い、頬っぺた染めて、涙目をぎゅっと閉じて、

「ん、んっ、……はう、んっ」

 そのうちクラウドも、自分の存在していることそれだけで、ヴィンセントや俺がどれだけ幸せになってるか、ちょっとでも判ってくれるといいな。

「う、にゅ……、にゃ……」

 いつもよりワンバウンド多かったような気がする。たっぷりと甘苦いような精液を貰って、口から抜いた幼根は、相変わらず中途半端なところまでしか皮の剥けない肌色のシルエット。口を拭わないまま、キスを一度して、しっかりと抱き締めた。

 可愛いんだ、本当に、可愛いんだ。愛しいんだ、この子が。何による力か、とりあえずまだ、理解は出来ない。愛情なんて何処から生まれんだ。クラウドから貰ったはずのものが、俺の内側から噴射して、下手すると涙が出そうになるんだ。

 俺たちの愛情行為はどうしてもちんちんとかお尻の穴とかが絡んでくる、もちろん精液も絡むし、クラウドが気持ちよくなりすぎちゃったりヴィンセントが恐ろしいまでのテクニックを発揮したりすればおしっこまで絡んでくる、そのせいで、美化され辛いのは事実だろう。だけど、建前美談世間の評価、誰かの言うところの「カッコいい」は必要ない俺たちで、クラウドが可愛い、ヴィンセント格好いい、ほかの誰でもなく俺が俺の尺度で評価し、そう思っていれば良いだけのこと。

 だから俺はベッドの上、膝で立って、恥ずかしげも無く粗末な、だけど勃起するとそれなりの容積にはなる自分のを、クラウドに見せびらかす。クラウドはちょっとだけ困ったような顔で俺を見上げて、……でも、ちゃんと包み込んでくれる。

「……ん……」

 やっぱり、ほんのかすかな匂いを感じたか、一瞬の隙間があって、舌を出す。猫の両手で挿んで支えながら、舌は下かられーっと上がって来る。クラウドにそうされると、案外粗末じゃないのかもなどと、大変的外れな妄想を抱いてしまう。

 クラウドは一厘ずつでも上手になっていると思う。手が人間のように器用に動かないのは、不利と言えば不利かもしれない。それでも、補うだけの舌の動き、最近、出来るようになってきた。単純にそれを「上達」と言うことに倫理的な問題が伴うのは今更誰に指摘されなくとも判るけれど、でも嬉しすぎて、やっぱり俺は、その髪をくしゅくしゅ撫ぜてあげたい。

「大好き……だよ、……クラウド……」

 俺の唇からヨダレのように零れる言葉に、クラウドの耳は密やかに動く。クラウドが上手くなったのと並行して、俺も早くなってる可能性が在る。繰り返し繰り返しこういう行為をして、飽くどころか、毎回一つ新しいクラウドの可愛いところを、俺は見つけて行くのだ。……クラウドはどんどん可愛くなっていく、どんどん俺を感じさせて、その結果で俺が早漏になっても何ら不思議はない。いや、クラウドからの、クラウドへの、愛がどんどん深まっている証と言ってもいいくらいだ。

 全く俺という人間は、クラウドの唇にしっくりと包まれてる自分のモノの薄汚い色と、クラウドの淡い桃色に染まった頬っぺたとを見比べて、いちいちそんな情にうっとり酔ってはしみじみ考えるんだから。それでも妙な自信があって、「俺がクラウドの髪に手を置いて、クラウドは俺のを咥えてて」っていうこの映像、第三者が俺の意識の介在無しにパッと見たら、ある程度「幸せ」を予測してくれるんだろうなとは思うし、俺の目を優しいと判断してくれないこともないだろうと思うのだ。そういう誤解の上に俺たちは立っていて、ただ一方で、先ほどのように俺がどんなにぐたぐた愛情を言葉で並べ立てても、生産される精液によって精算される勘定のぐるぐる巡る暴走じみた感情かもしれなくて、普遍的な美しさなどないということをポジティブに証明しているだけかもしれない。

 興奮して、自分で何言ってるんだか判っていないのもまあ、認めるよ。やっぱりちんちん咥えられて冷静で居られる男なんていないはずでさ。俺の頭はどんどん侵食される、可愛い、愛しい、大好き、クラウド、クラウド、好き、クラウド好きクラウド好きクラウド好きくらうdすk。

 クラウドが、大好き。

「んっ……!」

 そしてその瞬間俺は「愛してる」以外の全てを手放す。

 一方でまだクールなはずのクラウドは、俺の思いを舌と上顎に受け止め、嚥下する。ルールでもマナーでもなく、何に拘束されなくとも、ちゃんと、こくんと飲んでくれるそのことが、俺をどんなにか、安らがせるだろう、ちゃんと受け止めたよって、言ってくれてるみたいに。

 ぱたんと尻を落として、ちょっとぼーっとした額、妙にクリアな視界、胃の辺りはかすかに痛い。クラウドは猫手で一度口を拭いて、じっと俺を見る。もう一度手を伸ばして触れた髪の毛は嬉しい手触りを俺に与えてくれる。

 

 


back