闇のスカルミリョーネ

 ところでせっかくスカルミリョーネが来てくれたので、俺たち三人、「魔界」についての見識を深めたいと思ったのである。どうせ俺たちは長いこと生きていかなくてはならないのだし、家族の中の一人が魔界の王様と繋がっているのであれば、これから互いに迷惑を掛け合うことがあるだろうし、既にカオスには何度だって助けられている。正しい知識を持っておくことは間違いじゃない。スカルミリョーネは、俺たちの他愛もない質問の一つひとつに、姿勢を正して丁寧に根気よく答えてくれるので助かる。

「魔界って言うのは、そもそも、何処にあるんだ?」

「魔界は……、一言で申しますならば、『この宇宙の外側』ということになりましょうか」

「外側?」

「左様です。皆さんが生活されているこの地球という星は宇宙銀河系、太陽を中心として回る惑星の一つであるということはご存知ですね?」

「ああ……。クラウド、言えるか? まだ理科で習ってないかな……」

「言えるよ、すいきんちかもくどってんかいめい」

「おお……」

「いい子だ」

 話が滑りかけて、

「話の続きは?」

 クラウドが止めてくれる。……駄目な兄と父である。

「宇宙とは、膨張を続ける生命体の一つです。今なお、果てしないスピードで成長しつづけ、遥か彼方へとその領域を広げつづけています。しかしながら、これはそこに生きる生命体――みなさん人間を始めとする生き物には、影響無く行なわれていることです。ともあれ、宇宙というのは風船のようなもので、この地球という星が、風船の内側に属しているという例えはご理解いただけますね?

 私たち魔族の済む「魔界」というのは、その『風船』の外側に存在するとお考え下さい。

魔界、地獄、浄土といった、人間とは異なった者たち、即ち、魔族や亡霊、獣人族などが暮らす世界があるのです。

 元々は、地球と外側の世界とは、繋がっていました。今よりももっと、『風船』が小さかった頃の話です。その頃、外側と内側を行き来しているうちに、膨張によって外側に戻れなくなったもの、内側に行けなくなったものが現れます。内側に残り、文明を持ち、発展していったのがみなさん人間、外側で宇宙と人間の発展する様子を見つづけていたのが我ら魔族なのです。

 生物の進化というのは超自然的に、単細胞生物に始まり、植物、無脊椎動物、魚類などの脊椎動物を経て、哺乳類、そして人間が生まれたと考えられています。これはある面では正しく、またある面では間違った説です。そういった経路を辿って人類が生まれたのは事実ではありますが、実際にはこの星に、まだ魚類が誕生する前に、魔族は降り立って、生活をしていました。もちろん、魔族とはいえ文明の無い地上は暮らしづらい世界でしたから、多くのものは地下に潜り、地底文明を築き、滅亡していきました。しかし、地底世界の滅亡と、地球上から進化した純性の人間が生まれた時期は、やや重なる部分があり、今の皆さんの身体の中にも、我々魔族の血がごく僅かながら流れているのです。その血の、特に濃い、稀な種族が、皆さんもご存知でしょう、『有翼族』であったり、『ギガント族』であったり、或いは物を言う獣や、モンスターにあたるのです。

 ヴィンセント様がカオスと、精神的に共有する部分を持つことが可能なのも、その『血』の繋がりがあるからです。ヴィンセント様とカオスは、性格には遥かな時間の中では、かなり密接に関わる先祖と子孫の関係になるのです。

 我々、外に残った魔族は、風船の内側……地球が発展する様子を、ずっと見守っていました。絶望的なほど広大で、かつ今も凄まじい速さで膨張を続けているこの宇宙の中で、生命の存在する星はこの地球だけなのです。ですから、我々、外の世界に生きるものは、人間を心から大切に思っています。特にその感情が強いのが、私たち魔族です。魔族は人間と直接的に繋がっていますから、親愛の情は他の、元より外界でのみ生きる種族とは格別のものがあるのです。

 ここまではよろしいでしょうか?」

 よろしいもよろしくないも、ヴィンセントがメモ帳に、風船の中に地球を描いて、外側に人型、内側の地球の上にも人型。一本の線に結ばれたその二つの人型が、なんだか途方も無い。よろしいでしょうかと言われたって、そんな何億年も前のことまで俺たち責任取れないからな。

 ともあれ、ヴィンセントとカオスがつながっているというのも判った、そして、この星にある数々の奇跡の理由も明らかになって、なんだか得をした気分ではある。

「……地獄や、亡霊についての話をしてもらえるか」

 ヴィンセントは言った。

「以前……コルネオが」

 その名を言う瞬間、ヴィンセントは明らかに顔を顰めた。

「我々に多大なる迷惑をかけてくれたことがあった。あれは地獄から甦ったと言っていたが、地獄や亡霊は、どうやってこちらの世界へ来ているんだ? そもそも、魔族はもう地球には立てないのではないのか? 外側の人間……例えば……あー、同列に扱ってしまって悪いが、お前やカオスや、亡霊やコルネオがこちらへ来られるのは何故だ?」

 スカルミリョーネは質問をじっくり聞いて、事も無げに答える。

「技術が発展したからです。……まだ地球に人間が登場する前の頃、魔族は遠回りでも『風船の入口』、つまりはこの……」

 スカルミリョーネはヴィンセントの描いた風船の結び目を指差した。

「ここの部分を通過して地球と外界を往来しなければなりませんでした。しかし、このやり方には非常な時間がかかり、そのために戻れなくなった地球残留組魔族が発生することになってしまったのです。ですが現在は異なる時空に存在する世界間を結ぶ技術が作られ、外界側の者が記憶している人間や物体、あるいは場所などが実存すれば、そこへ肉体と精神を転送することが容易に可能になったのです。

 私が最初にお二人の前へ参上する際には、カオスからお二人に関する記憶の一部を移植される形を取りました。それによってお二人のいる場所へ、この地球へ、やってくることが出来たのです。

 コルネオや、他の亡霊にしても同じことです。地獄からこの世界へ。コルネオからすれば、お二人を忘れることは出来ないでしょう。本来ならば時空間を結ぶエレベーターは容易には動かせないはずなのですが、外界の各世界に一機ずつあるエレベーターのうち、亡霊の住む地獄にあるものだけは、……これは地獄という世界が無法地帯であるからなのですが、ほぼノーガードで動いてしまうのです。

 技術の発展の背景で、亡霊が人間界へ流入し、人間に対して不当な悪さを働くようになったのは大問題です。既にコルネオや、あるいは昨年の夏の件など、お二人やクラウド様や、お友だちの方にもご迷惑をおかけするような事態になっています。カオスはですから、愛すべき人間をどうしたら亡霊の魔手から守ることができるかを、考えています。

 魔界に存在するエレベーターは、魔王カオス、そして私を含む四天王の五人のみが使用を許されています。地獄のエレベーターはさきに申したような状況、その他の世界のエレベーターはすべて、条約によって封鎖されています。これは、他の各界が人間界との接触を好まなかったからで、当然の結果と言えますが……。本来ならば地獄にはエレベーターを設置するべきではなかったのですが、各界の平等を保つことで平和を維持していこうというカオスの考えから、地獄にも管理の甘いのが一機あります。現在のような状況になってから、カオスは幾度か地獄の首領である閻魔と交渉する機会をもってはいるのですが、無法地帯と化した地獄はすでに閻魔の監督は行き届かず、エレベーターも地獄の最深部で結界に守られ、私たちでも容易に手出しすることは出来ません。実力行使をしたならば、外界始まって以来の大戦となることは判っています。我々が戦えば、外側だけでは済みません、私たちの守り育ててきた風船の内側、地球という星も、塵と消えてしまうでしょう……。ですから、手出しは出来ません、しかし、このまま放っておけば、更に悪意に満ちた亡霊が地球に降り立ってしまう……」

 スカルミリョーネは深刻な顔をして言う。

 俺たちも、それなりに深刻では在るのだが、やはり話がフィクショナルで、想像上の世界。半分くらいは本気じゃない、しかし、一生懸命説明してくれる美少年に申し訳ないので、格好はちゃんと、崩さない。

「……実際、どの程度の亡霊が地球に悪さをしているのだ?」

 ヴィンセントは訊ねた。

 少し考えた後に、スカルミリョーネは答えた。

「具体的な数は判りませんが、私直属の警備隊からの報告では、月に凡そ十五件から二十件ほど、亡霊が原因と思われる事故や災害が出ています。死傷者の数で言えば、毎月に平均五十人前後、亡霊によって傷ついている計算になります」

「少ないな」

「少ない」

 思わず、と言った形で零れてしまったらしいヴィンセントの一言に、俺も頷いてしまった。そう言う問題ではない。スカルミリョーネははっと目を見張ったが、「いや……すまない、そうではないな」とヴィンセントがすぐ謝って、その場は取り繕われた。

「……ここ百年ほどで、凡そ三倍に増えているのです。エレベーターが開発されたのが、ちょうど百年前ですから……」

 エレベーターの設置はカオスが熟考に熟考を重ねた末に決めたことだろう、地球の者の平和を守るためにと。それが、こう言った結果を招いている、苦しいのはよくわかる、スカルミリョーネも表情を濁らせた。

「……そうか。まあ……、私たちも、魔界のことを知ってしまったのだし、半分は人間ではないようなものだからな、人間を愛してくれる魔族の為にも、出来る限りの協力をするべきとは思う」

 重たい声でヴィンセントはそう言う、スカルミリョーネは慰められたように微笑んだ。

 もちろん、俺も同じ気持ちだ。この星を襲う悪からクラウドを守る。それに、カオスの為に一生懸命なスカルミリョーネを見ていると、何と言うか、カオスもこの子も幸せにしてあげたいなんて、途方も無い願望を抱くのである。

「……してみると、ヴィンセントとカオスが偶然にも一致して、しかもヴィンセントの側に俺みたいな、ジェノバ入った男が居て……、丁度俺たちの生きてる時代に、その『エレベーター』が完成して問題になるなんて……運命みたいだな。運命って言葉、俺は嫌いだけど」

「……全くの偶然でした。……カオスが、ルクレツィア様からヴィンセント様へ委譲された太古の魔族が残した魔王の媒介を手がかりにエレベーターでヴィンセント様のお体へ初めて宿り、戻ってきた日、……どんなことがあっても揺るがないカオスが、……本当に驚いていましたから。私はあのように驚くカオスをはじめて見ました、とても興奮していました、……『ねえスカルミリョーネ、僕は今日生まれて初めて、あんな思いをしたよ! 僕がさあ、僕がねえ、いるんだよ、僕の外側に、僕の内側に、ほんとにびっくりしちゃったんだ』、無邪気に笑って、本当に嬉しそうでした」

「……嬉しいものかな……」

 ヴィンセントが複雑そうに呟いた。

「そりゃあ、嬉しかったのでしょう」

 スカルミリョーネは遠くを見るような目をして微笑む。

「違う世界に、自分と同じ存在が居たのですから。我々、人間も魔族も代わらず、母体から『切り離される』形で生まれてきます。自分と共通の存在を――それは、嗜好であったり、価値観であったりするわけですが――常に求めて生きているわけです。自分とどこまでも共通した命の存在があると判ったなら、どんなにか救われるでしょう」

 聞いてて、カオスが喜ぶ事を、スカルミリョーネも同じくらいに喜ぶんだろうと思う。

「スカルミリョーネ、カオスのこと好きなんだね」

 俺がそう言うと、硬直して、ほっぺたを真っ赤にする。

 ああ、可愛いな、好きなんだなあ、そんな風に思って、幸せなくすぐったさが俺たち三人の間に蔓延した。

 同じだなって思う。魔界という途方も無い世界が本当にあったとしても、そこは同じなんだと。スカルミリョーネはカオスを愛していて、カオスもスカルミリョーネのことを愛している。形こそ違えど、それは俺たちが普段、頭の上からバケツをひっくり返すようなやり方で応酬している愛情合戦と何ら変わりのない事。

「今更なんだけどさ……」

「はい」

「魔界にも同性愛ってあるんだね」

「……はい」

 スカルミリョーネは気まずそうに俯く。

 ゲイバーでもないのにこの家、同性愛者が四人固まっているよ。気兼ねしなくて良いけど。

「魔界でも、何て言うの、オスとメスっていうか、そういう、いわゆる一般的な形の恋愛とか、生殖行為とかも、あるんだろ?」

 スカルミリョーネは頷いた。

「はい……、ですが、その、ええと、カオス自身、あの、ええ、両性愛者と申しますか」

 途端に歯切れが悪くなって、真っ赤で、可愛い。クラウドもぽかあんとして見てる。

「百八人の稚児が、カオスには居るわけですから、それはあの、一辺倒なものではなくてですね、私のような者のほかにも、年齢も性別も多岐にわたるわけです。少女も、少年も、成人男性も、壮年、熟女もいるわけで、とりあえずカオスが何かを、ええ、何かをしたいと思ったときに、確実にそのニーズにこたえられるようにしているわけで……。それでもってカオスは、そのひとり一人に愛情を注いでいるわけです。私以外の百七人にも同じように」

 そう言うスカルミリョーネの声音の底には、誇りのようなものが漂っていた。自分は百八分の一であり、しかし、特別な一番であるという自負だろう。

 これは俺自身の経験から言うのだが、スカルミリョーネは確かに類稀な魅力を有した肉体をしていると言っていいだろう。その魅力は、俺にとって一番可愛いクラウドも、一番カッコいいヴィンセントも、残念ながら太刀打ちできない種のものだ。

 見た目では確かに、クラウドの方が愛くるしいかもしれない。しかし、クラウドに無いものを、スカルミリョーネは持っている。それは単純に、クラウドが人間で、スカルミリョーネが魔族だという点に尽きることではあろうが。魔族ゆえに、危険なほどに色っぽい。「妖艶」なんて言葉があるが、あれをもうちょっと幼稚に、稚拙に、したのがきっとスカルミリョーネだろう。この子の身体は、本当に、随所に、いやらしさが滲み出ていて、俺たち男のみならず、間違いなく女性をも虜にするだろう……、一夜でもベッドを共にしたなら。

「ええと……」

 スカルミリョーネは気まずそうに口篭もった。そういう仕草だけ見ていると、とても悪魔の大王の寵愛を一番に受け、俺たちをも狂わせる稚児とは思えない。更に言えば、その表皮を一枚剥げば、恐ろしい悪魔の顔が秘められていることも、判らない。

「あ、そう、そうでした、あの、実はカオスにお渡しするように言われていたのです」

 顔の赤みを引かせる努力をしながら、スカルミリョーネは繕ってそう言う。

 ぴしっとしたスーツの懐から、大事そうに、封筒を一つ、取り出す。表宛名に「クラウドへ」と書いてある。一瞬俺のことかクラウドのことか、判断に躊躇ったが、仮にクラウドへの手紙であったとしても俺たちは見てしまう。スカルミリョーネはヴィンセントに渡した。魔界にも茶封筒があるのだと思うと、やや滑稽だ。悪魔の文房具屋さんなんて在るのかもしれない。

「……手紙か?」

「はい。クラウド様にも」――この「クラウド様」という単語に、これがクラウド宛として渡されたものであることを俺は判断する。もう俺は「ザックス様」と呼ばれてるから――「お読みいただけるよう、平易な言葉で書いたということでした」

 婉曲に、だからつまり、クラウド様お一人にお読みいただきたいのですよ、少なくとも私はそう言われてきましたので……、とスカルミリョーネは言った。ヴィンセントは頷いて、まあ、あのカオスのことだし、珍妙な事はするまいと、レターナイフで封を切ると、中から便箋を取り出して、折りたたんだままのそれをクラウドに渡した。

 クラスメートからの年賀状や、ユフィおねえちゃんの世話手紙以外で、彼がじかに手紙を貰うということはない。だから、目を丸くしている。

「……俺に?」

「左様です。クラウド様へ、カオスからお渡ししたいものがあると、その便箋に、書かれている、と……」

 クラウドは、ぱらりと便箋を両手で机に広げた。前かがみになって目を通す。俺はちらりと目の端で捕らえる。やたらな達筆であり、その字がやはりどこか、ヴィンセントに似ていることを確認してから、目を逸らした。ヴィンセントも同じように。

「……にゃー……」

 読みながらクラウドが猫の声を上げる。何か、唖然とするような事が書いてあるんだろうか? 知りたいけど、スカルミリョーネの手前、覗き見するわけにもいかない。しかし、カオスが、他でもない大魔王であるカオスがどんな手紙をクラウドに委ねたかというのは、非常に興味深い。葛藤しているうちに、クラウドは読み終えてしまった。

「……にゃあ……、ん、にゃ……」

 便箋を畳んで、両手で挟んで持って、どうやって封筒にしまおうか思案しているのを、スカルミリョーネが代わって封筒に入れ、クラウドに返した。

「……あの、ほんとに、もらっちゃっていいの?」

 クラウドは戸惑ったように言う。

 スカルミリョーネは「はい」と頷く。

「お渡ししてくるようにという指示でしたから。その便箋が、クラウド様への感謝の気持ちだと、カオスは申しておりました」

「にゃー……」

 クラウドはぼうっとして、それから、

「ありがとうございます」

 とぺこりと頭を下げて、便箋を胸に押し抱いた。

「ほんとに、ありがとうございます。……でも、このお手紙は、もういい。読んだから……」

「しかし……」

「ううん、お手紙の中に書いてあったことを、俺がわかればいいんだって、書いてあったから。だから、これ、お返しします。スカルミリョーネが持って帰って。俺ちゃんと読んだからって、カオスに言って」

「……はあ……」

 クラウドはそれから自分の肉球をじーっと見て、何か困ったような顔になる、不安そうな顔になる、だけど、その不安の奥底に期待の煌くような表情になって、それから、左右からクラウドの顔をじっと見つめる俺とヴィンセントに、微笑んで見せた。

「……何を、もらったんだ?」

 ヴィンセントが訊ねる。

 クラウドは少し微笑んで、

「いいものだよ」

 と答えた。

 

 

 

 

「泊まっていきなよ」

 ヴィンセントも俺も、既にスカルミリョーネのお尻の穴の中のことまでよく知っている。そういう関係にあって「泊まっていきなよ」だから、その先に在るものが何なのかは相互に諒解済みのことだ。また俄かに顔を赤らめて、

「……よろしいのですか?」

 と一応の節操を保ちつつ、スカルミリョーネは可愛い上目遣いで俺たちの誘いに乗ってくれた。クラウドだけは意図がわからず、客人の逗留延長を無邪気に喜んでいる。基本的に毒はなく、誰とも仲良くなれるクラウドだから、もうスカルミリョーネのことも怖がってなど居ないし、相対して数時間会話をしたのだから、その性格に毒の無いことなど承知しているのだろう。

 ヴィンセントと俺は、スカルミリョーネの身体を知っている。しかし、クラウドは知らない。これは今までの俺たちのやり方、ポリシーというか、そういうものからすると反していると言える。クラウドにもスカルミリョーネを知ってもらいたいと思うし、スカルミリョーネにもクラウドを自慢したい気持ちもある。……ただ、この論で行くと、いつか俺もカオスに抱かれなければならなくなってしまう。ヴィンセントも恐らくはカオスに抱かれたことがあるんだろうし、クラウドは俺とヴィンセントの不在中、面倒を見ていたカオスに性欲処理をされていたわけで。でもまあ、俺の場合は「ヴィンセントを介してカオスに抱かれた」とも言えるので、逃げ場はある。

 ともあれ、ヴィンセントが腕を奮った夕食を終えて、食後にミルクコーヒーを飲んで、予約されていた風呂が沸く。

「いいよ、スカルミリョーネ、お風呂入りなよ」

「はあ……」

「ついでにクラウドを入れてやってくれるか。構わないな、クラウド」

「ん」

「……はあ……」

 呆れられても構わないと腹を括っている。

 俺たちの淫らであることは、ある意味で誇りになっている。俺たちは全てに開き直ってクラウドを、ヴィンセントを、互いに愛しているのだ。恥ずかしいとか、あるいは「理性」といった感情は、こと本気で相手を愛するということをする際には、邪魔っけになる場合が多いのだ。何もかも忘れて、例えば、服を着忘れて、それでも抱き合うには、服の存在なんて無い方がいい。頭を一旦真っ白にして、ただ「ああこの人が愛しい」というだけの色に染めて……。無論、理性的に愛し合うこともできるし、昼間はそうであるわけだが、夜、プライベートな時間においては、どんなに熱くなっても構わない状況なら、間違いなく熱くなって構わないのだ。

 スカルミリョーネはいい子だ。クラウドはいい子だ。いい子が二人でお風呂に入っている。スカルミリョーネは遠慮しながらクラウドの身体を洗った。クラウドの身体が冷えたりしないように、細心の注意を払っている。クラウドはそれに応えるべく、てきぱきと行動する。二人とも、ほんとにほんとにいい子だ。

 着替えを持って行ったついでに覗き見てきた。顔が綻ぶ。

「可愛いなあ……」

 ヴィンセントも十分に想像できる範囲内だろう。愛しい愛しい猫耳少年と、絶世の美少年が、一つお風呂で温まっている図。スカルミリョーネの方がクラウドより、十センチほど背が高いので、いつも俺やヴィンセントにするように、クラウドはスカルミリョーネの胸に背中を委ねて気持ちよさげだった。スカルミリョーネは「困ったなあ……」って顔で、今にも寝てしまいそうなクラウドを、抱きしめることも出来ず、しかし、起こすことも不憫に思って、身体をこわばらせて、ちっともリラックスできていない。可哀想だが、とっても可愛い。

「……少し考えていたのだが」

 ヴィンセントは窓から身を乗り出して煙草を吸っている。外に出て吸うのがルールであり、そのルールを定めたのは当のヴィンセントなのだが、億劫らしい。

「……あの子の身体には、やはり毒がある。離れてみて、そう思う。非常な欲求が募るのだな、何故だか判らぬが。それはクラウドやお前に対して抱く欲求とは全く質の異なるものだと私は思う。しかし、そこに愛情が無いかといえば嘘になる。スカルミリョーネはトータルで、私は好きだが、その中であの卓抜した肉体、そして性交の際の技術、そう言ったものは、何と言うか、得難いし、得難くて当然なのだし、更に言えば、クラウドにあれを求めるのは酷だろう。しかし、……カオスがあの子を一番寵愛する理由の一つがこれだろうが、……男として生まれてきたことを幸福に思えるほどの淫らさがあの子にはある。クラウドを抱くときには純粋な愛情で。一方で、スカルミリョーネとするときには、何と言うか、自分がただ、男であることを認識しながらしてしまっていいように思う、少なくとも、あの子の蠱惑的な身体の前では、そういう感情を抱いても構わないような気がする。

 ……実は、さっきカオスにこの意見をぶつけてみたのだ。……『その通りだよ』と言っていたが」

 俺は全部全部納得した。確かに、スカルミリョーネのことを、俺はクラウドと同等に愛することは出来ない。そもそもスカルミリョーネの所有権はカオスにある、……存在の所有権なんて傲慢だけど、スカルミリョーネは嬉々として「私はカオスの稚児であることを誇りに思っております」なんて言うから、乱暴でもこう言う言い方をするのが、あの子のためだ。

「あの……、お風呂、頂きました、ありがとうございました」

 カオスは、ぶかぶかの俺の服を着て、うす赤い頬でぺこりと頭を下げた。スカルミリョーネがスーツでも裸でもない服を着ているのは、新鮮だ。

「そうか。ご苦労……ではザックス、お前入れ」

「いいよ、あんた先入りなよ」

 いつもはどちらがクラウドと入るかで軟らかに衝突するのだが、今日はそれがないから、風呂に入ること自体、あまり意義が無い。結局、一緒に入ることになった。

 とはいえ、ホントの意味で一緒に風呂に入るだけで、すぐに出た。二十分も入ってなかっただろう。

 スカルミリョーネはクラウドと、地下の寝室でクラウドの話を聞いていた。

「それでね、俺、とっさにね、その、ダートの手の先についてた神竜砲の……」

 俺たちが地脈の森で戦ったときのことを話しているのだとすぐに判った。クラウドにとっては「怖かった」思い出よりも、自分自身が「強かった」記憶として瑞々しいのだろう。あのとき、頑張ったのはヴィンセント、俺も一人でやたらに無理をした。だけど、最後に決めてくれたのがクラウドだったので、クラウドがヒーローなのだ。それまでは守られるだけだったクラウドが。四打席ノーヒットだったのに、五打席目にサヨナラヒット打ったからヒーロー、みたいな。まあ、クラウドだから妬ましくも無いんだけど。

「スカルミリョーネに話聞いてもらってるのか、クラウド。いいなあ」

 スカルミリョーネって、ほんとに偉いなあ。クラウドは嬉しくてたまらないんだろう、自分の話を真面目な顔でずうっと、時間も気にせず聞いてくれるお兄ちゃんがいて。スカルミリョーネからしたら、クラウドなんてほんとにまだ小さな子供に過ぎないのに、しかしスカルミリョーネは何の義務感も、演技も建前も無く、クラウドの話に、真摯に耳を傾けている。でも、その態度に「大人ゆえ」のものはない、責任感の微塵も無く、本当にクラウドのことを大切に思っているのが滲み出ている。まだ会って半日のクラウドを。最初自分のことを怖がって嫌ったクラウドを。ヴィンセントが「トータルで」好きだと言ったスカルミリョーネの魅力って、多分そんなあたりにあるんだろう。毒というものがどこにもない。彼の正体は毒ガスを吐き出すけれど。

 新鮮味のあるスカルミリョーネと、ない俺たちであるから、クラウドがスカルミリョーネと話してて面白いのは判る。ただ、コミニュケーションの手段って、会話だけじゃない。握手だって。ボディランゲージ。

「そろそろ寝よう、クラウド。今夜は四人一緒に。ここだと狭いから、ヴィンセントの部屋行って寝よう」

 ヴィンセントの部屋には、ダブルベッドの豪華版がある。これは彼が俺と二人暮しをして、俺のことを溺愛していた頃、「君が落ちて怪我をしては困るから」と買ってきたもので、ダブルベッドと言っても実質はトリプルベッドである。ヴィンセントがそのベッドに一人で眠っているのを見るにつけ、どこか寒々しいような、うら寂しいような気になる。とはいえ、このベッドは便利であって、クラウドを真ん中に挟んで寝ても、十分に寝返りをうてる。その上にスカルミリョーネがひとり加わったところで、特に問題はなかろう。

スカルミリョーネは、もう何が始まるか判っている。クラウドだけが判っていない。

「クラウド様、続きは明日の朝にまたお伺いいたします」

 そう言って、微笑んで立ち上がる。話を切り上げる意志をしっかりと持ち、且つクラウドに少しも不快な思いをさせない言い方だ。俺たちも見習うべき点は多い。四人でぞろぞろ、ヴィンセントの部屋へと上がった。途中、クラウドにおしっこをさせて。

「俺とヴィンセントが外側、スカルミリョーネとクラウドは内側だよ」

……俺もヴィンセントも実は賭けをしていたんだ、スカルミリョーネが果たして、ある科白を言うかどうか。二人して、「言う、絶対言う」と主張して折れないから、結局賭けにはならなかったのだが。

「……お邪魔致します」

 ホントにこの子は言ってくれた。俺たちは嬉しくなってしまった。それも、俺もヴィンセントも「お邪魔します、と言うか」どうかを焦点にしていて「致します」まで気が回っていなかった。

 スカルミリョーネって、ほんとに可愛い。寸毫の隙も無い一面と、油断と隙で身を固めているような一面と。今から俺たちは後者を舐めようとしているのである。

「灯り、消すぞ」

「はい、おやすみなさい」

 建前上の挨拶をして。

 大体、四人で眠ることなんてまず無い。クラウドは、いつもよりもなんだか興奮した夢入り心地。夢に入るのはまだ先、夢だとしたらずいぶん淫ら。

 サイドボードのライトだけに落として、赤暗くした部屋で、一応四人とも目を閉じる。が、この中でホントに眠る気でいるのはクラウド一人だけだ。

 すう、すう、すう、すう。四人の息、リズムをどこから乱そうかと、両側で考えている。

 と、俺のお腹に背中を重ねて眠るクラウドが、ぴくんと動いた。ヴィンセントが腕を伸ばして、スカルミリョーネごしにその腹を撫でたのだ。

「ん」

 クラウドが喉の奥で声を出す。

 俺もヴィンセントに倣って、スカルミリョーネの可愛いほっぺたを指の背で撫でた。

「……んっ……」

 眉間に、小さく皺が寄る。

「……にゃ……」

「ふ……う……」

 二人の少年の質の異なる声が、虚空に響く。

「もう……、ザックス、やだあ」

 クラウドは、ヴィンセントのしてる手を俺だと思い込んで口走る。可愛くって胸が絞られて、俺はクラウドのことを、後ろからきゅって抱きしめた。

「ひゃん」

「……んー?」

 クラウドのうなじはいい匂いがする、石鹸だけじゃない、石鹸では消しきれないクラウドの匂いだ。俺はクラウドの髪の毛がくすぐったいのすら喜びながら、匂いを嗅ぎまくった。おなかがふくれる。その下のほうも。押し付けてあげる。

「やあ……」

 クラウドの肩越し、見ると、ヴィンセントもスカルミリョーネに面妖なことをしている。スカルミリョーネが内側で、毛布をぎゅっと掴んでいるのが判る。

「あう……」

「んん……っ」

 美少年二人囲って……、スカルミリョーネだけじゃない、クラウドだけじゃない、だから、カオスよりもきっと贅沢な俺たち。惜しむらくは、カオスのように途轍も無い性能力の持ち主でないこと。ヴィンセントもカオスを宿してはいるがカオスには劣る。だから、スカルミリョーネを十分に満喫することは出来ない。

 成長が必要な俺たち。だけど、現状のままでいい。人間以上になろうとは思わない。

「……は……あ……ん……ん……」

 スカルミリョーネの、透明な艶のある声が溢れる。その声はなんと言うか、濡れた唇のようだ。それも、何て言うんだ俺、女性のことには疎いから……あのほら、小指で唇に塗ってラメとかで艶出したりする奴ええと……グロス? クロスじゃないよな、グロス、だよな確か……、何の話をしていたんだっけ、そう、スカルミリョーネの声は、「グロスで艶を出したりしなくても十分につやつやして瑞々しい誘惑の唇」のような響きだ。考えた割にたいした事の無い答えが出たな。

 俺はその唇でもって耳朶を啄ばまれているような気になる。

「うにゃ……ぁん」

 一方で、クラウドの声って言うのは、俺の大好きな、大好きってだけの理由でも十分に勃起するに足る、肉球ぷにぷにな声なんだ。うん「肉球ぷにぷにな声」っていうのは、判りやすいだろう? クラウドのほうが側に居る時間、圧倒的に、圧倒的に、長い訳だから、上手い文句が浮かぶ。

 俺はクラウドのシャツを捲り上げて、そのおへそを指で滑って、お腹を撫でた。うんん、そんな声を上げて、俺の手の甲、ぷすりと爪を立てる、やっぱいいなあ可愛いなあ、俺は嬉しくて、手をクラウドの胸へと移す。クラウドは、嫌がっているフリをするために力を入れるけど、その力加減は一つ間違えれば、乳首へと俺の指を誘うものとなる。

「にゃふ……」

 たまらない声を上げてくれる。スカルミリョーネはと見ると、クラウドが感じる声にも、また感じている、ヴィンセントはもう既に、スカルミリョーネのシャツの中でその乳首を指で弄っている様子だから、肉体的な官能も反応しているのだが、いやらしい子だから自分より年下の男の子が鳴いてるのに感じてる。って……判ってるさ、俺たちがそもそもそうだよ。

「……ヴィン……セント、さまぁ……」

 スカルミリョーネ、目が、声が、泳ぐ。うすくらがりではっきりとその目から涙が落ちるのが判る。悲しそうな、でも嬉しそうな顔をしている。ヴィンセントの身体はカオスと同じ、しかしカオスとは違う、その差異を楽しんでいるに違いなかった。

「……お前を喜ばせる方法、私たちにもカオスのように、たくさんあったらいいのだがな」

 ヴィンセントはスカルミリョーネの耳朶を舐りながら言う。

「お前の愛するカオスのように、色いろなやり方で……。私たちはお前に感謝しお前を好きだと思っても、こうすることでしか果たせない。物や心で、カオスに敵おうはずも無いのだからな」

 スカルミリョーネは首を振る。

「そんなっ……、わたし、は、……私は、ヴィンセント様と、……ザックス様と、クラウド様が、……カオスの愛する皆様が、……あっ……、し……幸せで、いて、くださるなら、それで……っ、それ以上のことは……何も……」

「望まぬと言うのか……? ……ならば無理な話かもしれないが、望め。カオスが愛するようには出来ないが、私たちもお前のことを可愛がりたい。お前の身体が、お前の誇るようにカオスだけのものであることは承知しているさ。しかし、私たちはこうする方法でしか、お前に感謝の気持ちを伝えられない」

「ん……あっ……あ!」

 スカルミリョーネの身が、強張る。かすかに震える、ぴくんぴくん。ああ、……まあ、いいや、しょうがない、スカルミリョーネのなら。

 俺も、クラウドの砲身を手で擦り始める。

「なあ、クラウド……、スカルミリョーネ、綺麗だろ。……俺たちを助けてくれた、俺たちの為に一生懸命やってくれた、優しいスカルミリョーネだよ」

 クラウドはもう、スカルミリョーネの優しさの正体など気付いているだろう。だから、がくがく頷いて、俺の手で酔った。俺は手のひらにクラウドの精液を受け止めた。クラウドのパンツ、しょっちゅうよごしているから、洗濯が追いつかないから今日は。そのままズボンを下ろして、俺は手のひらに付着した濁り蜜を舐めて、それからクラウドの上を乗り越えて、ヴィンセントにキス、スカルミリョーネにキス。そして、自分で舐めて、クラウドに最後、ディープキス。

「うにゃうう……」

「な、スカルミリョーネ、可愛いだろ、俺たちのクラウド」

 スカルミリョーネは陶然と当然と頷く。俺は心底たっぷり幸せな気持ちになって、クラウドの、涙の流れた跡のあるほっぺたにキスをする。

「裸になろうか。……裸のほうが温かいだろう」

 ヴィンセントの言葉に従って、俺はクラウドを脱がし、俺も脱いだ。スカルミリョーネは濡れた下半身を恥ずかしそうに晒す。

「あの……、ザックス様……」

「ん?」

「申し訳ございません、……その……、汚してしまいました」

 その言い方が、恥ずかしそうで可愛すぎて、俺はにっこり微笑んでその茶色いサラサラの髪を撫でさせてもらった。

「最悪かもしれないな、私たちは。こういったやり方でしか愛し合うことを知らない」

 ヴィンセントは草臥れたようにそう呟いたが、すぐに希望がその瞳に差すのを俺は見た。

「そうではないか。……数多いやり方の中から取捨選択してこれを選んだのだ。このやり方が一番崇高だと信じたのだ……、我ながら、何を今更という感じもするが」

 同感だ。考えなくても、俺たちにはこれが一番。俺たちの愛は社会一般ほど美しくはない、しかし、中にいれば他のどんな愛よりもこれは美しい。他の愛はもちろん、完全制覇しているつもりで、全てと見比べて、これが一番いいと言っているんだ。

 俺はヴィンセントにキスをする、ヴィンセントが俺の唇を舐めた。

「にゃ、あ……、スカルミリョーネ」

 小さな恋人たちの声がする。

「……クラウド様……、あの……、どうか、こんな淫らな私を、軽蔑なさらないで下さい。……私は、私も……、こういうやり方でしか、大切だという、好きだという思いを、伝えることが出来ないのです」

 スカルミリョーネは、クラウドの股間に顔を寄せる、クラウドは焦ったように、

「そ、そんなの、俺、だって、俺だってそうだもん、俺、ザックスとヴィンに、そうとしか教わってない……」

 その言葉は息となり消えた。スカルミリョーネの頭が動く。

「ん、んや……っ」

「クラウドには刺激が強すぎるかも知れんぞ」

 ヴィンセントの言葉のとおり、ろくに声も出せないでクラウドは、スカルミリョーネの口に激しすぎる快感を覚え、耳をぷるぷる震わせる。俺はクラウドの小さな、直接的には愛情も無いような相手のそれを、それでも精一杯の愛情を篭めて施すスカルミリョーネを見て、なんだかしみじみと、素晴らしいことだなあって思った。スカルミリョーネはつまり、カオスが好きだという俺やクラウドに対して、カオスが抱くのと同じ思いを抱こうと思っているわけだ。つまり、スカルミリョーネがヴィンセントや俺で感じ、また、クラウドを感じさせていかせるという行為は全て、スカルミリョーネの中にあるカオスへの愛情へと帰結するモノなのだ。スカルミリョーネの全ての理由は、カオスにたどり着くと言える。それほどまでに愛されているのに、あと百七人も稚児が居るなんて、カオスって、やっぱり魔王だ。

「ふぅ……!」

 クラウドは、スカルミリョーネの頭を手でぎゅうと押さえつけた、そして、俄かに脱力する。スカルミリョーネはこくんと口の中に出されたものを嚥下すると、クラウドのペニスを丁寧に舌で拭い、起き上がった、白い、これはまあ、グロス、違う、ある意味グルー、いやもういい、クラウドの精液で唇がぬめっこく光って、大変いやらしい。

「……ふにゃあん……」

 クラウドの手から、爪が出たり入ったりしてる、非常に強い興奮状態に陥っていたようだ。

「気持ちよかったろ」

「……にぃ……」

 ヴィンセントと俺は一部始終を観戦していた。見てただけなのに、俺はかなり下半身、硬い、痛い、熱い。それをスカルミリョーネはちゃんと見つけてくれる。

「……ザックス様」

 と言って、自分から尻を向ける。

 正直、「様」づけは結構申し訳ない気になる。俺は「ザックス様」なんて大したもんじゃない、呼び捨てでいいし、タメ口でいい。しかし、そう言ったら「とんでもございませんっ、お二人(俺だけでなく、ヴィンセントもだから)は私にとって主も同じ、敬称略でお呼びすることなど、できるはずがございませんっ」と訴えられてしまったし、細やか過ぎる性格だ、きっと俺たちが「タメ口にしろ」なんて強制したら、胃をおかしくしてしまうに違いない。だから、これは俺たちがガマンしている部分もあるのであって、俺たちの優しさと言えない事も無い。

「……ん、わかったよ」

 後から見てもスカルミリョーネのそれが勃ち上がっているのが判る。細い腰に引き締まった臀部はぎりぎり少年。スカルミリョーネにはまだ下半身の発毛が見られないが、これが多分、あとほんのわずかにでも時を経たなら、うっすらと存在が明らかになるのだろう。そういった点では、一番いい年齢の姿をしているとも言える――この「いい年齢」というのは、別に俺たちだけでなく、世間一般の大人からの視線だと思っていただきたい。魔族は異様なほど長い時を生きる、カオスは自身、「僕って死ぬのかなあ? だとしたらいつ死ぬのかなあ?」と言っていた、確かカオスはあの姿のままでもう二億年以上生きているはずだし、スカルミリョーネもきっと、それに準ずる長い時間をこの美少年の姿で生きるのだ。可愛い。

 もちろんクラウドもヴィンセントも俺も、この姿のままこの後、地球の寿命といわれている五十五億年後まで生きなきゃいけないわけで。……うーん、この姿、この顔、この足の長さのままでか。……スカルミリョーネだったら自分の顔を鏡で見るのも飽きないだろうが、俺は三十二歳で既に……。

「あ……!」

 きゅっとしたお尻、尻尾が生えてないのが個人的に残念だが、撫でて、舐めて、濡らして、指を入れる。スカルミリョーネは素直な性格だけど、ここだけはちょっと頑固だと思う。これはクラウドも同じ。いや、ちっとも悪くなんか無いんだけど。きゅっ、きゅっ、と俺の指を締め付ける菊の蕾、俺はあやすように股の下に手を入れて、垂れ下がる袋を撫で、中に入っている永遠に無駄撃ちされる精液をいとおしんだ。

「……スカルミリョーネ、なあ、俺のしながら、できる?」

「……は、……はい」

 ヴィンセントがクラウドを愛でる、クラウドがまた甘い声を上げ始めるのを心地よく聞きながら、体の上にスカルミリョーネを乗せた、大きく開かれた太股、俺に尻の穴を寄せて、広げさせながら口では俺のをしゃぶる。

「扱いて」

 まだスカルミリョーネを抱くのは、五回目くらいだっていうのに、この子は俺のイイところ好きなところ、全部知り尽くしているかのように、非常に上手だ。なんと言うか、痒いところに手が届く、俺が今一番して欲しいと思うところをしてくれる。手も口も指も舌も唇も、愛が溢れている、何かじわじわと、皮膚を通して快感が寄せてくるように思えてくる。計り知れない技術ゆえのものと言うことができる。しかしそんないやらしさとは裏腹に、菊花は清楚な蕾を臆病に震わせる。舌で突くと、きゅうと窄まって俺を面白がらせる。その動きを見ながら、先っぽが腫れそうなくらいに舐める舌を感じていると、スカルミリョーネって子が判ってくるような気がする。

 俺はスカルミリョーネの穴に指を居れて、ピストン運動。俺はこのターン、この穴の中で解放するのは無理だと判断した。実際、気持ちよすぎる。だけど、スカルミリョーネを可愛がりたくも思う。

 じゅっ、とスカルミリョーネが俺を吸う。唾液が淫らな音を立てる。

「……いきそうだ、スカルミリョーネ、……ごめんな、早くて」

 スカルミリョーネはんん、と喉の奥で声を出して首を振る。俺の言葉に勢いづいたように激しく俺のを扱き、舐めまわし、あっという間に俺に到達を与えた。頭が一旦リセットされるような、ホントに押し流すような快感。これをクラウドがもろに食らったら一発KOに違いないから、さっきクラウドにしてたフェラは六分くらいのものだったのだろう、優しい子だ。間もなく俺の心臓に、スカルミリョーネの精液が零される、やらしい子だ。

 俺のも、クラウドにしてたのと同じように、舌で精液一滴残らず舐め尽くして清める。いったばっかりで辛くないはずがない、のに、俺を慈しんでくれる、甘い息を吐きかけながら、ゆるゆると俺のちんちんを扱いて。俺はなんだか嬉しすぎて、またスカルミリョーネのお尻を舐めた。それがスイッチだった。また同じように、スカルミリョーネは俺のものを口に含む。もう一度これでいこう、ね?

「やぁ……、にゃあ……、ふにゃあ……」

 ヴィンセントに任せきりにしてしまっているけれど、クラウドは俺がスカルミリョーネにしてもらっている間、それでもちっとも、寂しくなんかない。ヴィンセントに体中味わわれながら、手で扱かれたりなんかして、にゃあにゃあ。可愛い。

 俺はしょっちゅうこの「可愛い」という言葉に頼っているけれど、そして大概伝わったような気になっているんだけれど、どうだろう。言葉はどんな風にでも解釈できるし、同じ言葉でも褒め言葉になったり貶し言葉になったりするのだし、非常に曖昧なものであるという拭いようもない側面があるので、俺は「正しく」、例えばクラウドが後からヴィンセントに細い肩を吸われながら左手で乳首弄られて右手であそこをしゅくしゅく扱いてヴィンセントの手にツメ立ててだけどそのツメが「イヤ」じゃないっていうのは顔を見れば一目瞭然でそのトータルバランストータルスコアが「可愛い」、「かーわいぃい」になっているということまで伝わることは希望していない。

「……クラウド様……、私、もう……ダメです」

 腹の上でスカルミリョーネが言う。そう言えば、ほんの少し前から、口がたどたどしくはなっていた。だから俺も冷静にちょっと考える余裕があったわけで。

 要約すると、言葉に書かれたものは決して「本当」ではないということ。どんな風に読んでもらっても構わなくて、例えば俺はクラウドを可愛いと思ってて、伝えたいと思っても、文章という形で伝えるのはどうしても不可能な余地があるってこと。クラウド可愛いと思ってもらいたいけど無理かもしれないし……。

「ダメ? 何がダメなんだ?」

 スカルミリョーネのことを、カオスがどういう風に寵愛するかどうかなんてもちろん知らない、スカルミリョーネは以前そう聞いたとき、「(ヴィンセントと俺が)して下さるような、やり方で」と言っていたから、案外に奇抜なことはしていないのかもしれない。とすれば、そこにあるのは人間同士も魔族同士も同じ、生臭い精液臭いそしてそれだけに喉が焼けるほど甘いラブラブな時間であるということが出来るだろう。そう考えて、スカルミリョーネやカオス、そしていろいろな魔族と、仲良くできそうな気になった。

「……もう、ガマン、出来ない、です……」

 俺の太股の毛を震わす息を声をかけてスカルミリョーネは請う、何がガマンできないのを知りながら、

「何が?」

 と聞く。カオスが人間のように愛してスカルミリョーネを満足させるのならば、俺もクラウドを愛するようにスカルミリョーネを可愛がってやろうと思った。言うまでもなく眼前にひそやかな菊の蕾、別の生き物のように蠢動している。

「……お尻……、私のお尻に、クラウド様のおちんちん、入れてください……」

 誰彼構わず俺が教え散らしたいのは、「この子は秘書なんだ、スーツ姿で普段は背筋ぴっと伸ばして可愛い顔して一生懸命で、愛するもののために戦う宇宙一仕事の出来る(これは大いに嘘だ、この子は正直、仕事がものすごおくできる、とは言いがたい。一定水準以上のものはあると思うが……)秘書なんだ!」ということ。ようするにさ、ギャップだ。男にしろ女にしろ、「ギャップ」には非常に弱いというのは確かなようで、例えば男だけに絞っても、「美人OL」やら「看護婦」やら「尼」やら、別にいやらしさとは全く無縁の存在のアダルトビデオが、一定以上の人気を博している。……俺は見てないぞAVなんて、ほんとだぞ。ともあれ、だから、ギャップがあるスカルミリョーネというのは非常に美味なのだ、俺はそれを喧伝したい。「すっごい可愛い少年なのに秘書」という第一のギャップ、そして「魔王直属の四天王の一人なのに腰が低い」という第二のギャップ、「超美少年なのに正体は迫力満点」という第三のギャップ、そして、「清純に見えていやらしすぎる」という第四のギャップ。特に第四のギャップはポイントが高いだろう、「清純派」という分類は即ち「普段は清楚に見えてだけど実はベッドでは」というタイプをさすんだろうが、スカルミリョーネはまさにそれだ。

 当然、クラウドも「十三歳の見た目なのにまだ小学生」とか「人間だけど猫」とか「猫なのに風呂好き」とか「あどけない顔してえっち」とか、とにかくいろいろ、俺はギャップに弱い、そして多分ヴィンセントも。クラウドにしろスカルミリョーネにしろ、可愛らしい顔からそんないやらしい言葉が出てくるから、俺たち(俺とヴィンセントには限らんぞ、成人男性と言い換えても構わない)は激しく動揺し惑う、結果としては変わらずちんちんを硬くする。なあ、判るだろ? 俺が「ちんちん」って言っても誰も感じない、だけどクラウドが「ちんちん」って言うと、何となく、何となぁくだけど、ちょっと感じてしまう。そこに「ギャップ」以外の理由はなかなかなかろうと思う。

「可愛い顔してそんなこと言って……。悪い子だな」

 こう言うケースの言葉、「悪い子」というのは褒め言葉になる。俺は実際、スカルミリョーネのお尻を「いい子」って撫でながら言っているわけだし。

「……ふ、あ……っ」

 そして指を差し入れる。スカルミリョーネは俺のを左手で握ったまま、声を上げて背中を逸らす。もう俺を舐めることも出来ない。

「あのさ、俺たちさ、スカルミリョーネのこと、まだ全然知らないんだよ。例えば……、そう、『スカルミリョーネ』っていうのは、本名?」

「……本名……、苗字です。SCARMIGLIONE、です」

「……へえ……発音しないGが入るんだ、でも綺麗だな、お前に合ってる。何となくだけど、頭良さそうな……」

「神話の……下品な悪魔の名前です」

「そう……、でも、お前が変えていけばいい。じゃあ、名前は?」

「……リチャード、……リチャード=スカルミリョーネ、です……、でも、苗字は、カオスが付けたもので、……私のしるしだから……」

「そうなんだ。じゃあ、俺たちもお前のことは苗字で呼ぶことにしよう」

 リチャードっていうのも、勝手な解釈だけど知的でスカルミリョーネにはあってるよな。

 で、きっと、スペルは「L」から始まるんだ、即ち「Richard」ではなくて、「Lichard」、愛称はだから、「Dick」じゃない、「Lich」に違いない。「Lich SCARMIGLIONE」……いい名前だよ、綺麗な名前だよ。なんて素敵な、屍の王。

「……スカルミリョーネ、じゃあ、お尻に入れてあげよう。お前のお尻のことなら、少しだけ詳しくなりつつあるからな」

 俺は喉の奥で笑って、身を起こした。と。

「いつまでクラウドを放って置くつもりだ」

 クラウドをびんびんに立たせたヴィンセントがじいっと睨む。

「交代だ」

 と宣する。

 俺としてははぐらかされた感あり。もちろん、もちろん! クラウドのことも忘れちゃいなかったし、するつもりはあった、だけど、別に、なあ? スカルミリョーネともう一回くらい、したって誰からも文句は。クラウドからだって。

 判ってるよ。偉そうに指図するヴィンセント自身がスカルミリョーネを抱きたいんだ。そうは思ったけど、

「にゃう……」

 ヴィンセントに放置されて焦れたクラウドがそんな声で鳴くから、仕方がない。俺は納得して、スカルミリョーネとクラウドを交換トレードした。クラウドの肌は、ヴィンセントによって十分すぎるほどに温められていて、まだ春にもなっていないのにうっすら汗に塗れている。舐めてみるとちょっとしょっぱくって、だけど反応は甘ったるい。

「んにゃああ……、もう、がまん、やだぁ」

 こっちの裸も甘いぞ。

 ヴィンセントの太いのを受け止めてリッチ=スカルミリョーネが喘ぐのを横で聞きながらでも、クラウドに集中できる。となると、一応この子には、カオスの稚児、それも恐らくは宇宙で一番魅力的な稚児と互角に渡り合える色気を持っているということが出来よう。俺のところの子も、すごいことだ。

 酒池肉林、今日俺たちは、スカルミリョーネが全然いけないから酒は飲んでないけど、肉林、そんな感じだ。肉棒が四本も並べばそりゃあ林と見紛うのも判る。

 だけど愛がなかったらホントに枯木林。葉の繁っていない木が二本あっても、実際には愛がもさもさしているわけで。ごめん、今の自分でもちょっと嫌な想像だと思った。

「我慢なんてしなくていいんだよ別に。クラウドは普段、我慢ばっかしてるよな、俺みたいに楽になればいいのにさ」

 まあ、俺は楽にしすぎだっていう話もあるけれど。

「すぐにいかせてほしい?」

 肩から首にかけてを舐めながら訊ねると、ふるえながら頷く。

「ヴィンセントにいかせてもらえなかったんだな、可哀想に」

 でも、もう既に二度言ってるんだぞお前は。……やっぱりえっちな子、可愛い子。

「お尻は? いじってもらった?」

「……ん、ゆび、……して、もらった……」

「そう。じゃあ、俺の入れられる?」

「ん……、ほしい」

 おいで、招くと、うん、頷いて、そっと俺を跨ぐ。俺はいつものとおりのしかし毎回新しい、先っぽからにゅっと身体へ包まれる感触を味わう。本当に、この瞬間、俺は毎回生まれ変わってるような気がする。

 足の付け根にクラウドの体重を受けて、クラウドを本当に穿つ。感触とか重量とか全部に感じてしまうから、いつも俺は早い。

「んっ……や! あっ……。んく……っ」

「あ……、ぁう、んっ、は……、ヴィンセントさま……ぁ」

 二つの美声、媚声と書いても良いが、俺たちのような人間にはたまらない音声を響かせる二人の少年。カオスを満足させるためにはこの五十四倍の数が要るのだ、そう考えたら、これだけでもうお腹一杯になってしまう俺たちって、非常に質素と言えるだろう?

 大魔王と比較して五十四分の一の性欲というのも、大概旺盛と言われるだろうが。

 まあ、カオスと比較するのが間違いなのは最初からわかっていたこと。そんな風なことでも考えないと、すぐにいってしまいそう。クラウドの卑猥な腰の動きが、俺をどんどん急かす。ヴィンセントに跨ったスカルミリョーネも視界に入る。

「……クラウド……」

「にゃんっ、ん、あぅ……みゃあ! あっ……うう」

「クラウド、いくよ、もう俺、いく……」

「ん、にゃ……にゃああ!」

 その声にかぶさるように、スカルミリョーネも嬌声を上げた。この贅沢な夜は、まだ幕さえも開いていないのですよと、俺を脅かすような、本当にとろかせるような、そんな声。

 

 

 

 

 スカルミリョーネがすごいのは、前夜あれほどしまくったというのに、翌朝ちゃんと七時に目を覚まして起き上がること。クラウドが「ふみいぃ」とベッドに這いつくばってよく動けないのとは対照的だ。驚きなのは、俺たち四人の中で一番前夜、たくさん弄くられていかされたのがスカルミリョーネだったにも関わらずという点。俺はもちろん、ヴィンセントだって、腰に鈍い痛みを抱えて、ベッドから下りるとき、眉間に皺が一本寄っていたというのに。

「幸せでした」

 スカルミリョーネは微笑んでそんなことを言う。

「……私は、私ほど幸せな者はいないと勝手に思っています。カオスに愛され、カオスの愛するみなさんにも愛していただいて……」

 そんなことを、本当に幸せと感じてしみじみと言いながら食後のコーヒーを飲む姿は、本当に前夜、ちょっとここでは言えないような、思い返しただけでも鈍痛抱えたあそこが硬化しそうな言葉を口走った子と同一人物かと訝る。ギャップが大きすぎる。満たされたその顔は、本当に十代半ばの少年のものなのだ。俺たちは惑うばかり。

 スカルミリョーネはこの後、こちら時間で昼の十二時から四天王の会議があるんだそうで、十時前には支度を整えた。外側とこちらを結ぶ「エレベーター」がどこにあるのかは、スカルミリョーネ、教えてくれなかったが、人間の姿をした魔族が四人も、レクサスに乗って村の入口に迎えに来ていた。スカルミリョーネよりも年上、二十代の後半くらいの、みんな身長190超級の屈強なSP風の男だちだが、スカルミリョーネの姿を見ると、ビシッと音が立つほど背筋を伸ばし、最敬礼。この辺、スカルミリョーネによく似ている、教育が行き届いている。そして、スカルミリョーネは、こんな感じの子だけど、一応は魔界で二番目に偉い「四天王」の一角であって、その魔力は計り知れないものがあり、他の魔族からは尊敬される存在なのだということが判って、ちょっと余計に不思議な気がする。このSPの一人の片腕で、スカルミリョーネなんてどうにかなりそうなのに。

「皆さん、ご苦労様です」

 スカルミリョーネは最敬礼する四人のSPに、同じように御礼をする。

「ご紹介します、この四人が、私の護衛、スカルナントです。皆さん、……こちらが私のお世話になったヴィンセント様にザックス様、そしてクラウド様です」

 そろいも揃って黒のサングラスをかけているものだから表情は伺えないが、顔がヴィンセントのほうに釘付けになっている。カオスと同じ姿かたちをしていることに、あきらかに動揺している。スカルナントの一人、角刈りの、一番がっしりした者が、気を取り直したように低く地を這うような声で、

「スカルミリョーネ様、そろそろ参りませんと……」

 と言う。

「はい、解っています。……それでは、ヴィンセント様、ザックス様、クラウド様」

 スカルミリョーネは俺たちに向いて、深々と頭を下げた。

「楽しい一夜でございました。……今度は是非、私の家にもいらして下さい。狭く何も無い家ではありますが……」

「ああ、うん、是非遊びに行くよ」

「心よりお待ちしております。……では、……クラウド様」

「にゃ?」

「これからもたくさん、ヴィンセント様とザックス様に甘えて下さいね。昨夏の野球遠征中、お二人がクラウド様を恋しく思う気持ちを感じて、私は感動致しました」

「うにゃう……」

「では」

 スカルミリョーネは気をつけをして、礼。

「失礼致します」

 部下の開いたレクサスの……、主人は運転席に乗って、自らキーを回した。レクサスの後部座席は屈強な男たちが肩を竦めながらぎゅうぎゅう。スカルミリョーネはもう一度、俺たちに会釈して、車を走らせた。

「……かわったひと」

 クラウドの漏らしたその印象が、スカルミリョーネを一番的確に表していると思う。素朴に、「変わった人」だと思う。純粋に透明で、どこまでもわかってしまうようなところがあるかと思えば、人間と魔族という関係ゆえに、あるいはもっと他の理由ゆえか、全く判らないところも兼ね備えている。それは、俺たちにとって魔界と人間界の関係を理解するのが非常に難儀だということに似ている。

 しかし、分かり合えないとは思っていない。

「こしいた……」

 クラウドは家に帰るや、ソファにぐでんとなる。ヴィンセントと俺に抱かれたのみならず、スカルミリョーネを抱いたのだ、しかも、一度ではない。無理も無い。

 こんな風にベッドを共にしてお互い裸でぶつかり合って、一番恥ずかしい場所を撫であったり舐めあったりしたんだから、分かり合えないはずは無い。三十一年間、俺は自分と肌を重ねた人間のことは、出来る限り判ってきたつもりでいるし、向こうにも判ってもらえた気でいる。そういう行為としてのセックスをしたことには大きな価値がある。

 スカルミリョーネとも判り合えるつもりだ、もうある程度判りあってる部分もあるけど、もっともっと。

 俺たちはこれから何百年だか何千年だか、あるいは何万年かもしれないけど、生きていかなきゃならない。そして、生きていく上で、魔界と関わりあう役割を、与えられてしまった。互いに理解しあうことが、まず何よりも第一歩であることは、当然の解として導き出される。

 


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