土のスカルミリョーネ

 魔王カオスはいちばんの稚児スカルミリョーネを評して、

「僕の為に痛むのも傷つくのも恐れていない。僕の側にいるために生き、死んでいる命」

 という言葉を使った。まあ、そうなのだろう。カオスとスカルミリョーネの間には、俺たちなんかには到底入り込めない深い深い繋がりがあるように思う。傍観して言うだけだから、信頼度は低い意見であるが。

 そのスカルミリョーネを、今日はウチに呼んでいる。クラウドに紹介しようと思ったのだ。楽な格好でおいでよって言ったのに、今日もまたトレードマークのスーツ。黒に、よく見るとごく細い灰色のピンストライプが入っていて、中のワイシャツはグレイで、ネクタイは紺とゴールドのストライプ。彼のスーツを誰がコーディネートしているか、俺たちはよく知っている。他でもないカオスだ。

「楽なカッコでいいって言ったのに」

「はあ……、ですが、その……」

 恐縮しきりで、出してあげたお茶にもなかなか手をつけられないでいる。とてもとても奥床しい子なのである。

「私……、スーツ以外の服は、持っていないものですから」

「え……、そう、なのか?」

「はい……、大変申し訳ございません」

「あ、いや、だったらいいんだ、逆にごめん」

 一つひとつ、逆にこっちが気にしてしまうような慇懃さは相変わらずだ。もちろん、スカルミリョーネ自身には一切の悪気もなく、気弱そうな目を潤ませて見てくるのだが、かえって胸が痛む。茶色い髪はふわと揺れて、やっと温くなったお茶に手を伸ばした。

 俺たちが仕事から帰ってきて以来、ずいぶんと甘えん坊になってしまったクラウドは、ヴィンセントの膝の上にいる。最初のうちは何も理由なく、膝の上やら背中の上やらお腹の上やら頭の上やらにいても「寂しかったんだもんしょうがないじゃん」って顔をしていたけど、最近はなにやら理由をつけて甘えることを覚えた。さすがにもう四ヶ月近く経とうとしているわけだし、いつまでも甘えん坊さんというのは小学校もうすぐ六年生という立場からしても恥ずかしいのだろう。ちなみに最近は「寒いから」というのを頻繁に利用するようになった。春になったらなんて言うだろう? 勿論、甘えてくれるのはとっても嬉しい俺たちなのだけど。

 クラウドはスカルミリョーネの顔を、なんと言うか、独特の、不審そうな目でじいっと見ている。スカルミリョーネの纏っている空気、雰囲気に、特有の邪悪を感じ取ったのかもしれない。クラウドはスカルミリョーネに対して、決して気を許してはいないようだ。勿論、密かなる背後には、俺たちとクラウドが離れ離れになっている間、クラウドがカオスに性欲処理をしてもらっていたように、俺たちもスカルミリョーネにそれを頼んでいた、その微妙なる違和感も併存しようが。

「……こんちは」

 クラウドはそう言っただけ、まだスカルミリョーネとちゃんとしたコミニュケイションをとっていない。なんだかちょっと、警戒心。なんだかほのかに、敵愾心。いや、お前がジェラシー感じるような相手と違うよスカルミリョーネは。と言って、ヴィンセントも俺も、カオスには少しく嫉妬しているわけではあるのだけど。じいっと、お腹に回されたヴィンセントの手に手を重ねて、上目遣いでスカルミリョーネを見つめている。

 スカルミリョーネもそんなクラウドに勿論気付いているから、かわいそうに、気弱な彼はクラウド及びヴィンセントの方を見られない。ヴィンセントはクラウドの機嫌をとろうと、さっきから一定のペースでその耳や髪を撫でてあげているのだけれど、クラウドの尻尾はなんともいえないリズムでふわりふわりと揺れて停まらない。だから俺たちの間には、どうにもほぐれない空気が蔓延している。クラウドが何を見て、何を思うのかは、俺たちには判らない。だけれど、確かな不快感はその尻尾でよく判る。俺たちとしては、俺たちのお世話になった大切な友だちであるからして、クラウドとも打ち解けてもらいたいし、基本的に実害を受けた事がなければどんな人ともすぐに仲良くなるのがクラウドのいいところだと思っていたから、今のこういう自体はちょっとばかし、悩ましい。思いのほか、時間の経つのが苦痛に感じられる。

「スカルミリョーネ、お茶、もうないな」

 俺はぎこちない声で立ち上がる。何でもいいから空気を動かしたかったというのが本音だ。この部屋を出るときに扉を開ければ、ひんやりした空気が掻き混ぜてくれるかもしれない。ヴィンセントが「卑怯者」という目線をくれるが、あんたのためでもあるんだよと目配せをして、スカルミリョーネの返事を待たずに歩き出した。

 その後に柔らかい足音がぽんっと落ちた。振り返ると、クラウドだ。

「手伝う」

「いいよ、お前はここにいて……」

「手伝う」

 強い目線で怒った声音で、意地になって言われる。こういうときに強く出られないのが弱い兄と父。俺はばれないように小さな溜め息を吐いて、クラウドを連れて部屋を出た。スカルミリョーネがどんな目をしているかは見ないでも判る。残したヴィンセントが、「すまないな……、普段はあんな子ではないのだが」と謝る声と表情はリアルに浮かんだ。

 ポットのお湯を急須に入れて、お茶を出している間、クラウドは冷蔵庫に寄りかかって、不貞腐れたように、ぽんぽんと床を踏みつけている。

「……クラウド」

 溜め息混じりに言うほかなかった。

「何か問題でもあるのか? スカルミリョーネが何かお前に嫌なことをしたか?」

 クラウドは何も言わない。

「……だったら、あんな態度はとっちゃダメだ。初めて会った人に、失礼だろ」

 くしゃっと髪を撫でる、いつもならそうすれば、不承不承、しかし甘えるように、少し押し返すような力があるのに、うるさそうに身を屈める。さすがに俺だって、その態度に不服を唱える権利はある。俺が言おうとしたその前に、クラウドは肩越しに意地っ張りの目で振り返る。

「なんであんな人と一緒にいるの」

 可愛い言葉遣いで結構酷いことを言った。

「……あんな人、とはなんだ」

 クラウドはくっと睨み返す。

「だって、そうじゃないか、……だってそうじゃないか……」

 クラウドはそう言って、ぷいと横を向いた。言葉を見失って、見付けられないでいるのが判った。だけど、決していい加減なぎこちなさで言ったわけではないことも。俺はお茶を入れる間だけ、お互い冷静になるための時間を置いて、急須を置いてクラウドを抱き上げた。

「は、離せよっ」

「……どうした、クラウド。気に入らないことがあるなら言えよ。言わないでそんな風にうじうじしてるの、カッコ悪いぜ、却って男らしくない」

 クラウドは、じいっと俺のことを見下ろす。それから、ぷいと横を向いた。

「言いたくない」

「……どうして?」

「言ったらザックス怒る」

「……」

 降ろすと、クラウドは扉の向こうを見据えた。それは、どう控えめに見ても「あの人のこと、大ッ嫌い」って目だった。

 俺もこの日記を読んでいる人も、三年間クラウドと付き合っているわけだからわかることだが、クラウドがこんな風に誰かを理由なく嫌いになったりすることなんて一度もない。クラウドはまず「毒」というものに乏しい人間なのだ。クラウドが生まれてこのかた、俺はクラウドのことを怒らせたことは何度だってあるけれど、クラウドに怒らされたことは一度もない。俺の知っているクラウドとは優しく素直で穏やかな仔猫のことだ。誰かをそう簡単に嫌いになったりなんてするはずも。

「……言いたくないなら、無理にとは言わない」

 俺は途方に暮れてしまう。お茶が冷めては悪いから、とりあえず湯飲みを持って。

「スカルミリョーネと一緒にいたくないなら、もういい。部屋で待ってていいから」

「……」

 クラウドは傷ついたような顔になった。俺が、クラウドよりもスカルミリョーネを「とった」とでも思ったのだろう。焦ったように、言葉を吐き出した。

「だって、だって、あの人は……、人じゃないっ」

 切れ味鋭いクラウドの言葉は、ドアを引き裂いて向こう側にいる少年の頭にさくっと刺さった。空気がしいんと張り詰めた。

「……クラウド」

 クラウドは、悪いことを言ったという自覚の、十分現れた顔で、しかし、反射的に目を覆った涙にもめげる気配はなく、俺を睨んだ。

 こういうことを言われると、俺も困る。単に、ちょっとヘソを曲げてるだけ、それが、何かの拍子で過熱して、やかんからお湯が噴出すように、痛い言葉を撒き散らす。撒き散らしたやかんは、お湯の量が減るわけだから、少し落ち着くし、放出感が心地よい。実際、俺もそれはよくやる。でもこんな風に、クラウドにやけどをさせられるとは思っても見なかったので、俺はショックを受けないわけには行かなかった。

 でも、冷静にならなきゃいけない。

「お茶を出してくる。ここにいなさい」

 言い残して、なんでもない顔をして、二人の待つ居間へ戻った。ヴィンセントは無表情だが、怒っている。スカルミリョーネは蒼白な顔をしている。

「気にするなよな」

 俺はスカルミリョーネの頭をぐりぐり撫でた。

「やきもち焼いてるだけだよ。すぐおさまる」

 スカルミリョーネは気弱そうな、今すぐにでも泣きそうな目で俺を見上げた。

「気にするなよ、大丈夫だから」

 もう一度俺は言って、スカルミリョーネが力なく頷くのを確認してから、台所に戻った。少しだけ冷めたやかんは、だけどまだ中の方でぐつぐつしながら、俺が目を合わせようとするとそっぽを向いた。

「そんな態度とってるとヴィンセントに怒られるぞ、クラウド」

「……」

「ヴィンセントが怒ると怖いの知ってるだろ。それにな、ついでに言っておくと、俺も怒ってるぞ、クラウド。ヴィンセントと俺の怒ってる理由が、そんな変なもんじゃないっていうのは、わかるだろうな?」

「……」

「わかんないんだったら、お前、それは馬鹿だぞ」

「……」

 俯いて、小さく、ばかでいい、そう言った。

「そうやって俺たちに残念な思いさせて楽しいのかお前は」

 俺は人の親になったことが無い。それは、ヴィンセントもまたそうなのだが、ヴィンセントは俺よりずっと大人で、「解かっている」、「知っている」、俺は解からないし、知らない。

「知らないぞ、クラウド。俺は大人じゃないからな、怒ったら、お前に嫌われるようなことまで平気でするかもしれない。お前のこと引っ叩いたりするかもしれないぞ。何しろ加減を知らないからな」

 クラウドは顔色を、変えない努力をして、かえって青ざめた。

 やがて、鼻を啜りながら、だって、だって、クラウドは呟いた。

「だって、何だよ」

「……だって、……あのひと、怖いよ、すごく怖いよ」

 言われた意味を飲み込みかねて俺は少し考える時間を要した。

「……スカルミリョーネがお前を怖がらせるようなことをしたか?」

 クラウドは猫目で目を擦りながらふるふる首を横に振った。

「じゃあ、何で怖いんだ。悪いことしてない人をそんな風に怖がっちゃ駄目だろう」

「だって……、わかんないけど、わかるんだもん、俺……、わかるもん……、あのひと、怖いよ」

 俺だって判んないよ……。

 と、嘆きかけて、俺は何となく、クラウドの恐れていることを解った。それは、なるほど、嫉妬などではない、恐怖も、俺とヴィンセントをスカルミリョーネに獲られてしまうなどという類のものではない。もっと、質的な恐怖とでも言おうか。スカルミリョーネの肉体的本質を恐れているのだ。

 カオスが普段、ヴィンセントと同様の外見をしながら、戦闘体勢に入るとあのとおりの見た目になるのはご存知のとおり。魔界に住む人々(?)はみなあのように、普段は人間と同じ姿で生活し、必要機会に遭うとそれぞれ独自の姿に変身するのである。それは、カオスに仕える「四天王」の一人であるスカルミリョーネも同様で、彼も悪魔の姿へと変身する。

 正直、その正体をはじめて見たときは、俺もヴィンセントも言葉を失った。俺など、飛び上がって、敵の胸に突っ込んでしまったくらいだ。あの可愛らしい顔や仕草や性格言動とは全くかけ離れた、確かに本当に恐ろしい、邪悪な姿をしていた。しかし、俺もヴィンセントもちゃんと解っているのは「それ」を理由にしてスカルミリョーネを忌まわしく疎ましく思うことのナンセンスさだ。スカルミリョーネはあの、多分「醜悪」と言う人が多いであろう姿をしていながらも、俺たちの知っているスカルミリョーネと少しも変わるところが無かった。俺たちと、そして愛するカオスの為に戦った。姿は変わっても、人間型をしている時と同じ気持ちでいたのだ。そう考えたのなら、あの見た目は却っていとおしくも感じられよう。あの子は俺たちを、そして愛するカオスを護る為、あそこまで醜くなっても平気なんだ。そしてその姿はちっとも醜くなかった。

 カオスは悪魔型スカルミリョーネに、本当に愛しげに触れていたものだ。

 見た目ではなく本質。それは、正体ではなく、中身ということ。心ということ。スカルミリョーネの優しく素直な心だ。

 クラウドがしかし、スカルミリョーネの正体を、見たことも無いのに訳もわからず恐れているのは、恐らく彼が子供で、そして半分猫だから。猫は霊感が強い生き物、そして子供は人の内面を見破る能力に長けている。

「……スカルミリョーネは怖くなんかない」

 俺はそう言った。言って、クラウドのことを抱きしめた。

「あの子は、全然怖くなんかない。クラウドの気のせいだ。だから、安心しな。それに、大体な、仮に万が一、スカルミリョーネがすごい怖い子だったとしてもだよ、お前にいやな思いさせたらどうすると思う? ヴィンセントも俺も怒るの判るだろ?」

 ひっくひっくとしゃくりあげながら、クラウドはうんと頷いた。

「だから、な、クラウド。スカルミリョーネのこと悪く言っちゃ駄目だ。あの子はヴィンセントと俺のことをすごく助けてくれた。それに、お前もカオスに色いろ助けてもらって、感謝してるだろう? 俺たちはカオスがお前を世話してくれたことに感謝してる。それは当たり前の礼儀だ。だからお前も、スカルミリョーネに感謝しなくちゃいけない」

 クラウドは、少し時間を置いたが、頷いた。

「いい子だ、クラウド。大好きだよ」

 ほっぺたにキスをして、抱きしめた。目が赤くなくなるのを待ってから、居間に行こう。

 

 

 

 

 スカルミリョーネとヴィンセントの待つ居間へ戻った。クラウドは……、良い子のクラウドは、ちゃんと「ごめんなさい」をした。蒼白な顔色だったスカルミリョーネはその言葉に目を潤ませて、

「こちらこそ、申し訳ございません。あの、本当に……、ご迷惑をおかけいたしまして、ええ、ほんとうに、もう……」

 と、理由も計りかねておろおろと謝った。

 スカルミリョーネの正体は、確かに怖い。俺はまあ、慣れた……という自覚こそあれ、実際にはやっぱりまだ、夜とか一人のときに、あの姿で隣りにいられるのはちょっと困ると思う。

 しかし、カオスが愛するスカルミリョーネの本質というのは、あの姿と別のところにあるものではない。カオスはスカルミリョーネを丸ごと愛しているのだ。

 俺はクラウドのことを丸ごと愛している、全部全てまるっと、愛している。確かに、「猫」というのは、愛する上で都合のいい形状かもしれないが、例えばあれが「犬」とか「猿」とか「マレーバク」とか、あるいは哺乳類ですらなかったり、こんな言い方はいけないと承知しているが、指が六本あったり四本しかなかったりしても、愛していることに代わりはないと絶対に代わりはナイト、誓って言える。それと同じだ。

「クラウド、スカルミリョーネは、すごく優しい、良い子なんだよ。頭も良いし、何にでも一生懸命取り組む。俺の知ってる、お前とヴィンセント以外のひとのなかでは、一等優しい子だと思う」

 そう言った俺に、スカルミリョーネは真赤になって否定しにかかる、それも、奥床しい、謙虚な姿勢。

「ザックスの言う通りだ。……あの戦いで実際私たちは多くの人間と接触する機会を持ったが、スカルミリョーネの『人間』性は特別なものだ。穢れない高貴な魂とでも言おうか」

 ヴィンセントもそう称える。スカルミリョーネはもうトマトのように真赤で、泣きそうで、いっぱいになっている。

「……だから、な、クラウド。俺たちはスカルミリョーネのことを、ほんとに、心から……もちろん、お前とは違う意味で、愛してるし、尊敬してる。こんな素敵な人がこの世の中には、って、まあ、世界は違うけど、とにかく、いるんだよってことを、お前に教えてあげたいと思って、今日はスカルミリョーネに来てもらったんだ。いい勉強にもなると思ったし。

 なあ、クラウド。俺たちは一生、ずっと、これから、長いこと生きていく。どうせ人より長い時間が与えられてるんなら、いっぱい勉強するのが大事じゃないかな。お前ももうすぐ六年生だし、その後は中学校だ。中学卒業した後、お前がどうしたいかはわからない、お前の将来の手助けはもちろん、するつもりだけど。でも、絶対、勉強することは続けていこうよ。人間として、綺麗になっていこうよ。俺が知ってる人の中には、『人間』的に尊敬できる人がいっぱいいる。お前の大好きなユフィおねえちゃんもその一人だ。そして、スカルミリョーネも。素敵な人を見て、どうしてこの人は素敵なんだろうって考えてみよう、そうすれば俺たちも、素敵な人に一歩でも近づくことが出来るかもしれないだろ?」

 こんな提案を俺たちにしたのは、既にとっくに素敵で最強な人間のはずの、ヴィンセントだった。彼ですら、「自分はまだまだ未熟」と思う、況や俺をいておや。

 クラウドはこっくりと頷く。

 内面も外面も永遠に子供。しかし、素敵な子供でいてくれたらそれはなんて素晴らしいこと。

 俺も、内面も外面も永遠に子供。しかし、……いや、解ってるよ、子供じゃないよ、内面はもう三十二だよ、だけど、これから純粋に成長していきたいものだよ、やっぱり俺だってさ。これまでいろんな人にたくさん、数え切れないくらいの迷惑をかけてきたことを、すごく反省しているから。だから、スカルミリョーネや、ユフィや、もちろんヴィンセントを、見習ってちょっとでも迷惑をかけないでいい人間になりたいなと思うのだよ。

 クラウドは、スカルミリョーネに猫手を差し伸べた。

 目をうるうるさせているスカルミリョーネは、おずおずとその手に触れた。悪魔と猫手の握手。悪魔はその手のひらに与えられるふわふわな肉球に感じ、猫は肉球をそっと包むような、すべすべの手のひらを温かく感じる。

「……クラウド様……、クラウド様……。私は、あなたにずっと、お会いしたく思っておりました。ヴィンセント様と、ザックス様という、心から尊敬致すお二人が、心から求められていた美しい命に、一度でもお目にかかりたいと、願っておりました。……私の、存在があなたの心を不快にしてしまったことが、悔しいです……」

「うにゃ……」

 堅苦しいスカルミリョーネの言い回しに、やや気圧されながらも、クラウドは手を引っ込めないで。

「俺、も、あの、あなたの、ことザックスとヴィンから聞いて……、ありがとうって言うつもり、だったのに、あんなふうな態度とって、ごめんなさい。ザックスとヴィンがスカルミリョーネのこと好きなら、俺も、あなたのこと好きです。ザックスとヴィンのこと、ありがとうございました」

 ようやっと揃った。ヴィンセントも俺も、ほっと安堵して、座った。すっかり冷めてしまったお茶を、でも美味しく頂いた。

 


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