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 昨年の夏場以降、ちょっと変わったことをしていたせいで、日記が書けなかった。このあいだ、その間のことをぽつぽつ書いた日記を纏めるのにようやっと完成したが、こういう場に出すのもどうかとも思ったので、HTMLCDに焼いて、ごく一部の人にだけ差し上げることにした。その間あったこと、かいつまんで説明すると以下のようになる。

 俺たちはクラウドが生まれてから三年目にして初めて、クラウドの元を二人して離れるという苦境を味わうことになったのだった。理由は、まあ、詳しくは述べない、遠くの土地で俺たちの力が必要な状況になったと、カオスが俺たちに協力要請をして来て、クラウドはガッコがあるから連れて行けないという。本当に、俺たちは人間失格ながら「クラウドと一緒に生きてけるならどこで何が起こったっていい」と思うのだけれど、しかし僅かに残る人間的良心がそれを拒んで、結局俺たちはカオスの要請に応じた。

俺たちの代わりにカオスがニブルヘイムでクラウドの世話をし、出先の俺たちには、スカルミリョーネという、カオスの秘書兼稚児、実年齢は俺たちより百歳単位で上なのだろうが、見た目は十代半ば、クラウドの二こ上くらい、スーツが似合う茶髪の美少年がついて、一緒に仕事をした。出先で俺たちは、何人もの信頼できる仲間たちと一緒に戦い、そして見事、仕事を果たして、昨年の十月半ばにニブルヘイムに戻ってきたのだった。

仕事の内容が何だったのか? ……それはまあ、触れないでおこう。いや、触れてもいいんだけど……うん、まあ、野球だよ、野球、ベースボール、スポーツ。

 俺たちは野球をやって来た。冗談みたいだと今でも思う。実際、俺たちのやってきたことを知っている人間はクラウドやユフィ、シドらを始め、ごく限られている。スカルミリョーネやカオスはもちろん知っているが、彼らは厳密には人間ではない。俺たちは誰の記憶の片隅にも残らぬ野球選手として働いてきたのだ。在る弱小チームを救うために。

 まあ、それなりに楽しかったことは認める。自分が意外と頑張れる人間だということが判ったのは非常に嬉しいことで、頑張った記憶があればまたいつか必要なときに頑張れるはずだとも思う。ともあれ、しばらくは頑張りたくない。クラウドをうだうだしていたい。実際、うだうだしていた。うだうだしている時間が長かったから、この日記を再開するまでに異様なほどの時間を要してしまったのはいうまでもない。俺たちと長いこと離れていて、その分だけ「甘えたいオーラ」が蓄積されていたらしいクラウドは、ほんとに可愛かった。

 何人か紹介するべきひとがいるので、この場はそれに充てようと思う。

 まず、スカルミリョーネ。この可愛いカオスの稚児は今回、野球をする俺たちの秘書として東奔西走し、俺たちのやりやすいようにいろいろな配慮をしてくれた。見た目は十代半ばと、カオスが一番好きな年頃の男の子、実際の中身は、俺たちよりもずっとずっと年上であるのだが。魔界の住民であるからしてその正体は悪魔だが、そんなことを微塵も感じさせない、優しくて臆病で一生懸命な男の子だ。そのうちクラウドに会わせてやろうと思う。

 それから、南巽。この子はちゃんと人間。十八歳、十二月が誕生日だと言っていたから、もう十九歳になっているはずだ。野球をやってたときに、俺が一番仲良かった高卒ルーキー。俺と共に在る人には例外なく固い忍耐と高い人間性が要求されることを物語るような、ほんとにいい子。事情があって、巽と俺とは今は会えないのだが、是非もう一度会いたい。野球をしてた頃、自分の正体を隠してやる必要があったから、かなり深いところまでお互い立ち入ってはいたけど、俺は完全に裸になっていたわけではない。ほんとに裸になって、巽と向かい合って、もう一度話がしたいと心から思う。ほんとにほんとに、いい子。来季は野球を見るのが今までよりきっと楽しみになる。巽が一軍のポジションを獲って、いっぱいテレビに映ってくれたなら、俺はクラウドの隣りでメガホンを振り回そう。多分、ヴィンセントもそうするだろう。

「クラウド君」

 って俺を呼ぶ世界で唯一の可愛い男の子。

 その他、……ひとくくりにするのは申し訳ないが。エースピッチャーの吹田、その彼氏……ということは公にしてはいけないのだけど、とにかく吹田とはそう言った関係のキャプテン伊丹、投手登録で活躍したヴィンセントに大いに手を焼いていた正捕手の住吉、二軍で俺を助け、そして巽の溢れる才能にいち早く気づき開花させた二軍監督の蛸地蔵。こういった面々とも、いつかもう一度会って、話をしてみたい。

 そして、忘れられないのが、今季から打撃コーチとなった灘温大。この男がいなかったら俺は今回の「野球プロジェクト」、全く上手く行けないで終わっていただろうと思う。心から感謝せずにはいられない。

 

 

 

 

 さて俺たちが帰ってきたのは昨年の十月の半ばをもう過ぎていた頃で、それから今日まで、もう半年近くが経ってしまっているが、この間あった事を一つひとつ記すのは、何と言うか、ええ、多少の労力を要するので……平たく言えばめんどくさい。ただ、俺たちはクラウドと基本的にはらぶらぶな生活をして、幸せいっぱい、甘味もいっぱいの日々が流れていることには変わりない。クラウドは四月から小学校六年生に上がる。その次は中学一年生になるわけだが、受験戦争とは無縁なこのニブルヘイム、同じメンバーでそのまま上に繰り上がるだけ。さほどの問題も無いし、クラウドにはやりたいことをやってもらいたいと思うし、そのための時間は余りあるほどなので、焦りとか不安とかは全く無い。どうにでもなっていくものだろうと思う。今後ものんびりとした亀の歩みは変わらない。

 正月にはウータイに行った。仲間たちに、野球のことでからかわれたほかは、問題無し。ただ、いつものことだが、ユフィに、そしてティファに、顔を合わせるときには俺は少しだけ、ほろ苦い気持ちになってしまう。いつまでたっても変わらないだろう、例え二人が死んでも変わらないだろう。変えちゃいけないことなんだろう。温泉にみんなで浸かった。

 

 

 

 

 時間の経つのは早いもので、もうプロ野球はキャンプインしている。巽が温かいところで汗を流している。一生懸命走りこんでいる。今年は「二年目のジンクス」と戦わなきゃいけない巽だ。加えて、内野のレギュラーポジションを確実なものとしたいから、キャンプから気合が違う。もう春が来る。


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