ナイトルーラー

 互いに、……これがいいことかどうかは微妙だ、多分世間的には悪いことなんだろうが、とにかく一度火がついたら弾丸ライナーフェンスオーバー、大体からして、口だけじゃダメなんだよ俺たちは、心伴う繋がり愛が重要なのさ。不思議だよ、射精って行為に差なんてない、けど、どうしてかね、別に判んなくてもいい、教わんなくてもいいんだけどさ。やっぱり俺はクラウドのお尻でぎゅうってされたいし、クラウドもぐぅって突かれたいって思ってるの、判るわけ。

 口だとどうしても一方通行じゃない。もちろん俺はクラウドのちんちんしゃぶるの大好きだよ、クラウドだってきっとそうなんだと思う。いってくれたら嬉しい。けどさ、ねえ、舌が気持ちいいだけでいけちゃうっていう境地にはまだ俺らも到達していないんであって、ね、やっぱり、

「繋がりたい。クラウド、……クラウドも、欲しいって思ってくれる、よな?」

 ほっぺたに手を当てて言う、こっくり、頷いてくれる。目は俺だけを見ていて、……この種類の目を、俺は今まで何度も見てきた。俺を愛してくれる人のする目だ。嬉しくて崩れそうな顔を、それでも惚れきって観てくれる、ますます嬉しくなって、俺は抱き締めることでやり過ごす。そして、ちらりと指を舐めた。

「ふ……ぅん……にゃ……」

 抱き締めて、ひとつ口を、改めて拭いてやってから、キスをする。舌を絡め合い、耳から忍び込む愛情音声。右手はクラウドの臍を過ぎひくんと震えるあそこを過ぎ、……辿り付く。

「力抜いて」

 な。マンネリ化を避けることすらマンネリ化する危険を孕む中で、時折、やっぱりティーンエイジャーのように聞いてしまう、言ってしまう、「痛かったら……な?」。でも本当に、クラウドのお尻の中はいつまでもきゅっと締まって。……それはまあ、一定水準で俺もだ。年をとらないとはどういうことか、もちろん怪我をしたり、経時とともに細胞は老化し衰退し死滅していく。しかしジェノバの奇蹟、死滅と同時に生まれ、衰退と同時に繁栄し、老化とともに若返るのだ。よって、肉体の随所に、保持される若き要素。クラウドは永遠に瑞々しい猫耳少年のままで、お尻もきゅっとなるのだ。

「にゃ……ぁあ……」

 俺の指を白くさせる括約筋の力。俺に胸をピッタリつけて、甘い声を隠さず伝える。普段は凛々しいとまではいかなくとも、ちゃんと男の子な声をしているけれど、こういう時にはまるで。

「力抜いてって……、そんなキツくしちゃったら慣らせない」

「だっ……てぇ……っ」

 まだ、指一本だけなのに、

「ぎちぎちいってる……、いい子だから、もう少し楽にして……?」

「うにぃ……」

 少しばかり無茶な注文と判っている。だけど、宿泊してこっちでえっちなんて予定になかったこと、ローションなんて持って来てるわけもなく、だから、指の滑りが悪いのは仕方のないこと。だから、クラウドは「う」の混じる鳴き声になっても、爪を立てたりしないで、力を抜く努力をしてくれる。

 可愛いんだ、もう。

 ちょっとずつ、中が解れてくる。湿っぽい胎内は締め付けるだけでなく、絡むような動きに変わってきた。

俺にしろ経験のあることだが、お尻の穴に限らず、人間の身体は開発されていくものだ。進化していくと言ってもいい。冷静に考えれば、やっぱり肛門は排泄するための場所、出口であって入口ではないのだ。しかし口は入口のはずで、グロな言い方をしてしまえば時として出口にもなってしまうのだから、出口が入口として成立したっていいだろう、尻で服む薬だってあるんだし、必要に応じて一定範囲内、柔軟な対応が出来ない心と身体では愛されにくい。入るのが苦痛と思うだけなら、そういう行為をしようとも思わなかっただろうし。時間と経験、優しさと根気、譲歩と妥協、などなどが絡み合って成り立つアナル・セックス、成長の証としての穴。

 クラウドの声が甘ったるく伸びるようになり、指二本が動くようになった。そろそろいい。いよいよ、となると、はしたなくも俺のもぎんと硬くなる。クラウドから指を抜く。クラウドが潤んだ目で見上げる、それだけで、……ああ、まあ、早漏だからだろうけれど、俺のはピクンと一つ震えた。くだらないこと、欲望のままに、聞きたいッ、そう願い、だから問う、俺は動機が完全に愛情だと大声張り上げて世界に言う、そして、クラウドには、そっと囁く、

「欲しい?」

 頷く。だけれど俺は、というか多分男が、それだけでは満足できないのだ。

「何が?どこに?どうして欲しい?」

「うにゃ……」

 馬鹿と知って傍にいる、愚かと知って、変態と知って。美しさの記号は何一つ持ち合わせていない、証になるようなものもなく、知力もなく、体力だけは人一倍……あるものだから伴って性欲も人一倍、けれど、それでも俺を、傍に置く、クラウドの、ヴィンセントの、覚悟ってきっと尋常じゃない。なんて客観的に言ってる場合じゃない、本気で感謝しなくてはならない。

「教えてよ、クラウドの言葉で、声でさ。俺の、何が、どこに、欲しいの?」

 耳がへたりと寝る。

 けど、ちょっとだけ俺を焦らしたら、その優しい唇、すんなり言葉を紡ぎだす。

「……ザックスのちんちん欲しい……、お尻」

 判らないだろうな、でもいい、俺はその言葉でいくらだってごはん食べられる。

「どこに?」

 その味は何度何度何度味わったって飽きることも覚えることもない、ただ認識するばかりで、そのたび俺は生まれ変わるかのような悦びに触れる。

「……お、……しり、に。……お尻に、欲しい」

 心は叫ぶ、いい、いい、この子が俺は、ホントに、いい。

何千人も要らないよ、もちろん何万人も、何十万人も。そういう、「たくさん欲しい」って人の気持ちも判るつもりだけどさ、本当に、ホントに、さ、俺は、この両手で抱き締められる範囲でいい、いてくれれば、さあ。

「……うん……、解った。好きだよクラウド」

「にゃ……」

 俺が、入れるよりも何よりも、まず抱き締めたいという欲求を満たすのに、一瞬だけ戸惑って、だけど、ぎゅっと、同じだけの力で抱きついた。絶対に一つ美しい愛の形だと、信じた俺の耳には、クラウドの息遣いが届く、裸の胸と胸の重なった体温、クラウドの薄っぺらな胸板の奥で心臓がとくとく言ってるのが、俺に伝わる。しばらくそうやって集中していた。それが、鍵の回る音で破られる。

 ヴィンセントだ、クラウドと俺、反射的に身を離して、ドアを見た。帰ってきたのだ。どうしよう、いや、二人揃って反射的に振り向いてしまった時点で、どうしようもない。俺の苦笑いに、クラウドはちょっとばつの悪そうな顔をした。俺たちはいつでも三人一緒。二人きりでも幸せ、だけど、ヴィンセントがいればもっと幸せ。

 あの人の方が上手だし、嫉妬する悦びに浸ることも出来る。

 扉が開き、疲れたような顔をしたヴィンセントが入って来た。クラウドを見て、俺を見て、溜め息を吐いた。

「……予想はしていたが」

 上着をハンガーにかけ、シャツのボタンを二つ外して、ベッドに座った。

「予想通り……か。まあ、悪いことではない」

 俺はクラウドの耳をくるくると撫ぜた。俺を見た顔に、微笑む。

「一緒がいい、よな?クラウドも」

 俺がこう考えられるのは、既に、形はどうあれ、袋の中に余裕を作ることが出来たからだ。クラウドは頷き、ヴィンセントの顔を見上げて、

「……三人一緒がいい」

 クラウドだって、もうえっちなモード全開であるからして。

 ヴィンセントはふっと微笑む。そして、クラウドの髪を撫ぜ、ついでに俺の髪も、撫ぜ、俺たちを二人一度に抱き締めた。

 そして言う。

「お誘いどうもありがとうね」

 クラウド、俺、全く同じタイミングでビクンと身を強張らせた。

「な……っ……!」

「やっぱり判んなかった?……言葉遣いって重要だねえ」

「カオス……っ、どうしてっ」

 ぎゅううっと俺たちを一緒くたに抱き締めて、ヴィンセントではない、魔王カオス、くすくすと、子供のように笑う。クラウドの尻尾が、俺の腰にしがみつく。

「……僕も寂しいんだ、大切な部下が裏切ってたって判ったからね、すごく切ないんだ。だから、慰めてもらいたいって……。僕だって、大魔王だけど見た目は人間、心だって人間、辛いときは辛いよ」

 手前勝手に、カオスはそう言い、ヴィンセントの口調を真似て、「……愛しているよ、クラウド」、その声に、俺たちの心臓は同じように跳ねる。

「す、スカル、スカルミリョーネに、慰めてもらえばいいだろっ」

 溺れそうになって俺はやっと言った。カオスは答えず、腕を解き、ぱちん、指を弾く。彼の背中の後ろ、暗い霧のようなものが、ふわりと浮かぶ。

「君らが良いんだ」

 世界はそれを我侭と呼ぶんだぜ、しかし、世界という領域には到底納まりきらない彼は大魔王。

 霧の中から、……「うにゃあああ」、うわああ、なんだ、なんだあれ。

「今夜は、君らが良いんだ。大丈夫、ちゃんと責任持って、君らのことも満足さしてあげる。……自己中で魔王やってるわけじゃないからね」

 ミミズだ、いや、蛇だ、違う、……触手だ!

「ひにゃ!」

 クラウドの、足に絡みつく、腕に絡みつく、その四肢の自由を、あっさりと奪い取る。呆気に取られた俺の身体を絡め取る、粘液に覆われた淡い紫の触手の感触に、情けない声を上げる。

「初めてでしょ、こんなの」

 すごい玩具を自慢するような笑顔を、ヴィンセントと同じ顔をしたカオスは浮かべる。霧の中から生じた触手たちは、クラウドと俺の身体を縛り、宙に浮かべる。痛い、ということはない、しっかりと身体は支えられているし、締め付けられるということもない、けれど、けれど、けれどっ、何という不愉快さか。ほんのさっきまで、クラウドに入れるって、ぎんぎんになってた俺のは、呆気なく萎えた。クラウドのだって、縮こまってる。

 世界はこれをセックスとは呼ばないんだぜ、しかし、彼は。

「すごいでしょ、……ねえ」

 カオスはまだシャツもズボンも身に付けたまま、触手に縛り上げられた俺たちを見て、心底寛いだ表情を浮かべている。クラウドは触手に身体を這いずり回られる気味悪さに声もないようだ。それは俺だって同じで、背筋がゾクゾクしてる。……魔族はこれがいいのかもしれないけど、俺たちは……。

 そう思ったところ、

「っ、……う、わ……」

 見れば、新たなる触手が何本も霧の中から生じ、俺の足の間へと、不気味な頭を粘っこく光らせて、伸び上がっていく。抗おうにも、両手両足、完全に拘束されて、俺は丁度「M字開脚」状態、太股を少し湿らせながら、触手は……、俺のセンシティヴゾーンへ殺到する。

「あ、ア……!」

 怖い。

 顔が心が声が引きつる。しかし、一切の甘さを排して、俺の股間に、触手は絡みついた。切ないくらいに、ああそうだ、本当に切ないくらいに、縮み上がった俺のそれに、ローションまみれになった手みたいな触手が絡みつく。

「いいこと教えてあげようか、この触手には性別があってね。……雌なんだ、全部ね。精液飲み込んで、もっと子供、っていうか、本数だね、殖やしてく。君らの精液は彼女たちの栄養になるんだ」

 最悪な情報をありがとう、ローションでぬるぬるの、女の手なんだってさ。

 い、や、だ、なのに、螺旋状に俺の物に絡んだ一本、握って、揉むように蠢動しながら、その先端、徐々に形を変える、小さな穴が空いた、と思ったら、筒状、湿っぽいトンネルの中、内部は襞状、……なんかの腸?うわあグロテスク、そこでぎゅっと目を閉じちゃったから判らない、けれど、それが……剥き出しの俺の亀頭を覆った。

「嫌だ……!」

 微細な襞が幾千の舌となって俺のを舐る、相手が何であれ、そこまでされたら、「気持ちいいでしょ?」、その言葉を、否定なんて出来ない。

「いいんだよ、存分に気持ちよくなって。彼女たちの喜びは僕にも繋がっているからね」

 筒、もう、いい、なんでもいい、形はとりあえず「筒」だから、その中に咥え込まれる、筒の内部が、狭まったり広まったり。

 そして、

「うあ」

 ツン、と、何か、しみた、しみたって、いうか、

「い、やだっ、やめろっ、やめろ……っ」

 筒の中、針のような器官、伸びて、俺のちんちんの先っぽ、尿道口を、ツンと突いた。

「あ、アっ……あ、あ!」

 そのまま、入ってくる、入ってくる、俺は耳の下、扁桃腺が膨張して弾けるような、異様な感覚に、声を張り上げたくて、でも、声は、途切れ途切れに零れただけだ。

「こういうの初めて?ヴィンセントにとっくにされたことあるんだと思ってた」

 にやにや、にまにま、笑いながらカオスは言う。

「ああ、でもそっか、ヴィンセントは優しいし、臆病だからね。ちょっとでも自分が怖いと思ったら君にはやらないか……」

 俺の身体は異様な努力を始めていた。ギンギンに勃起したものの形に沿うて、尿道はあるわけだ。ちょっとでも萎えたなら、その針が刺さってしまうんだと思って、……尿道だよ、刺さって血が出たりしたら大変じゃないか、おしっこしみるよ、しみるだけじゃない、化膿したりしたら、ウワアアア、っていうか、ちんちんの先っぽから血とか膿とかが出たりなんかしたら俺は俺は。だから、怖くても、気持ち悪くても、絶対に萎えさせてはいけない。

 冷静になって考えればカテーテル、医療器具でもあるし、人間の身体なんだからある程度の柔軟性も効くはず、万が一傷むようなことがあっても、ヴィンセント及びカオスであれば、問題なく治してくれるはず……、そう思っても、俺はそんな余裕もなかった。尿管を責められたことなんて、カオスも言った通り、過去に一度だってない。何より「雌」の触手に愛撫されているというのが、俺から論理的思考を奪っていたのだろう。

「あぐ……ぅ、っ……」

 俺のとんでもなく深いところを触手針の先が突き、……有体に言えば、俺はおしっこ漏らすかと思った。快感も不快感も超え、全ては俺を射精という結論へ誘うための暴論、だ。

 クラウドを見る、クラウドは触手に集られて、すっごく嫌がりながら、それでも俺よりは素直に感じている。本当だったら俺と繋がって、優しい快感に酔うはずなのに。でも実際そうだよなクラウドは、ユフィとえっちしたかったり、バルバリシアの巨乳見てちんちん硬くするような子なんだもんな、過去に女性と繋がったことはあるとは言え、決して能動的に、積極的に、したわけじゃない……、そんな俺にとってこの快感はただただ、苦しいばかりだ。

 けれど、「優しい」も「苦しい」も切ないことに快感ではあるので。

 俺の最奥から、針が微かに擦れて抜ける。栓が解き放たれるように、括約筋の引き金、切られて、俺は触手の栄養分を注ぎ込んだ。

「……ご苦労さま」

 みっともなく広げられた俺の両足の間、カオスが顔を覗かせ、不必要な労いの言葉なんてかけてくる。食いついていた触手は俺を「口」から出す。穿孔は塞がり、元の粘膜に覆われた丸い突起に戻る。

「いっぱい出たみたいだね……、これでこの子たち、もっと元気になる。君の大好きなクラウドも、もっとずっと気持ちよくなれる、……もちろん、君もこれで終わりじゃないよ?」

「え……、うぁ」

 触手の一本が、首に絡みついた。肩口から胸へ進み、先端を細く尖らせると、蛇の舌のように二つに頭部を割り、ちろちろと俺の乳首をいたぶる。射精直後で敏感になりすぎている全身、その場所をほんの微かに刺激されるだけで、全身、毛穴が染みる。

「にゃ、あっ、ぅん、にゃぅ、っ」

 クラウドも声を上げる。幼茎に巻きついた細い触手が、締め付けたり緩めたり、その身自体を収縮させて刺激を与えているのだ。

 俺を襲うのは何と言う種類の感情か。触手の餌食になっているクラウドを可哀想と思うのか、俺でなくとも感じてしまうことを恨めしく思うのか、……或いは、触手で感じてるクラウドに、腹の底、欲望を滾らすのか。俺にしたって触手の舌で、乳首舐られ感じているのだ。……非合理的な考えが去来する、理性がぼろぼろと崩れ始めている……。

 クラウドが射精した。俺が心の底から愛しきってあげたときよりも、もっと感じてるように見えた。

 そして、俺は自分の肛門が粘液でぬるぬるにされるのを感じながら、クラウドはこんなことしてくんないな、ヴィンセントもしてくんないな、そんなことを思っている。

「ぐ……っ、……う、ぅ、……っ」

 生温かく濡れた「女の指」が入ってくる。俺の心は藻掻く、身体が少しも動かない分だけ、それは空しい抵抗で、乳首を弄られればもちろんこの身体は反応するし、クラウドには言わないけれど本当は大好きな尻の穴に入って来られるのだから、もう。

 ――到底辛抱できるレベルではない――

 触手は到達直後のクラウドにも容赦せず襲い掛かる。尻の穴を開き、舌状に変形した一本で茎を舐り、もう一本は指のように皮をぎりぎりまで降ろす。俺に集っているのはもういっそ暴力的と言ってもいい太さ硬さ、棒状っていうか肉棒状に変形して、俺の中と外を往復する。ご丁寧にカリ首までしっかりとこさえられていて、世界で一番大好きなヴィンセントのより太いものだから、本当に引き千切られて真っ二つになってしまうんじゃないか。それでもギリギリのところで、俺は感じて、善がって。

「君たちは可愛いな……、うん、本当にすごく」

 カオスはにこにこと、子供のように微笑みながら、昔懐かしい恋人の声でそう言う。「なぜこんなことをする」、問いを言葉にするよりは、もっと単純な「あ、っ、……んっ、んっ」の方が楽と、俺の舌はサボタージュする。


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