頭がガンガンする、全身がダルイ、胃は食物を受け付けないし、ちょっと動こうとするだけで世界は大回転。二人を犯してもまだ衰えないウィルスが、俺を襲っていた。一応、薬は飲んだが、流汗淋漓怒涛の如く、体中気持ち悪い。そばで、クラウドが心配そうに俺を見つめてくれている、肉球の手で俺の手を握っていてくれる。

「ザックス……」

俺の名を呼ぶ。そのたびに、俺は心配をかけないために、大丈夫という意味を込めて、頷く。

「……死んじゃやだよ……」

大袈裟にそんなコトを言って、目にいっぱい涙をためて。……だから、これくらいじゃ死なないって、昨日の一件もあったし、もう解かっていいはずなのに。

そう思うけど、本当に心配してくれているのが分かるし、そう思うとその心遣いが嬉しくて、衰弱した俺は、目が潤んで来るのを留められない。というか、実際、死にそうなほどに具合は悪いのだが。

「……ザックス……大丈夫? さむくない? へいき?」

また、頷いて答える。クラウドはぎゅっと両手で俺の手を握って、祈るように目を閉じる。

それだけで、……何の効果もないけど、ケアルをかけてもらっているような気がする。

温かい。

「……大丈夫か?」

 薬と水と、林檎を持って部屋に入ってきたヴィンセントが、珍しく優しい声をかけてくれる。同じように頷いて、答える。

「……早く治れ。でないと、クラウドが可哀相で仕方がない。お前がいないとこの子は、きっと寂しくて一日中泣き止まないだろうからな」

……私では無理なことだ、ヴィンセントは苦笑する。

「とりあえず林檎を食え。食ったら薬を飲め、飲んだらまた眠れ。……いいな」

いたわりの言葉は、クラウドに理由を見つけて、そして、命令口調。だけど、ヴィンセントの気持ちは、俺にちゃんと伝わっている。

解かってる、早くよくなるよ。

クラウドは林檎を、一昨日ヴィンセントにあげたみたいに口に咥えて、俺に。

「お前たちの方が、よく似合うな、そういうことは」

ヴィンセントが笑った。まるで仲のいい兄弟。手を出すのが寒いから、口移しでそのまま噛る。一つをやっと食べ終わり、少し乾いている唇をクラウドに舐めて潤してもらう。

「大丈夫……自分で、食べられるよ」

俺は半身を起こして、クラウドの頭を撫でる。まだ頭がぼーっとしているけれど、二人の言葉が俺に力を与えた。まるでクサイ話だけど、実際に、そうだ。

ひとりでずっと唸ってるのに比べたら、よほど元気が出る。

また一つ、林檎を手で取って、今度は自分の力で食べる。

「……食欲はあるのか?」

ヴィンセントが訊ねる。あるわけない。遠回しにこう応えた。

「この林檎くらいなら食べられるよ」

それ以上のものは多分、食べられない。

物を食べることは出来るが、昨日のクラウドと今の俺と、どっちが具合悪いか比べたら、多分俺の方が悪いだろう。

昨日のクラウドの調子は、精神的な部分も大いにあったに違いないから。

俺は精神的に、頑張らなきゃって気持ちになってるから、大分違う。

「では、何かあったら呼べ」

そう言い残して、ヴィンセントは部屋を出ていった。

クラウドを連れて行かず、俺のそばにいることを許して。

「おくすり、飲まなきゃ」

そう言って、クラウドは両足で瓶を抑え、両手で蓋を開けて、カプセルの瓶を俺に渡す。

俺はその中から二錠取って、またクラウドに返した。クラウドはまた両手両足動員して、瓶の蓋を閉じる。そして、コップの水を口に含み、カプセルを口にした俺にキスをする。こんな、馬鹿げたカップルみたいなこと、だけど、間違いない、幸せなこと。

「ザックス、ほんとに、早く、よくなってね?」

「ああ……解かってる。ありがとう」

と、俺が答えると、あろうことか、クラウドは自分のズボンを脱ぎ始めた。

「……何、してるんだ?」

俺が戸惑うと、クラウドは少し恥ずかしそうに言った。

「今朝、ヴィンが、言ってたの。……ヒトハダで、あっためあうのがいいんだって。俺が昨日、すぐ風邪治ったのも、ザックスがヒトハダでしてくれたからだ、って」

……いや、昨日は俺はもちろんそんなつもりはなくて、ただ純粋にしたかったからしただけ。

……そのバチが今当たってるんだけど。

「……だめだ。今でさえ、ウィルスの部屋の中にいてヤバイんだから、そのうえくっついたりしたら……またお前に風邪が伝染っちゃうだろ?」

俺が諭すと、クラウドはふるふると首を振って。

「へいき。俺、風邪ひいても、ザックスが側にいてくれれば、大丈夫。もう、昨日みたいに泣いたりとかしないよ」

そう言って、クラウドは俺の布団に潜り込んだ。布団の中で、不器用な手で時間をかけて、俺のズボンも脱がせる。ひんやりつめたい下半身を押し付けて来る。

「ザックス、俺の、上も脱がせて」

……性欲とかそういう問題じゃなくて。

ヴィンセントがどういうつもりでこんなコトを吹き込んだのか、まず俺はそれが知りたい。ただ、純粋にクラウドが俺のことを暖めたがっている気持ちは、何よりも尊重したいから、

俺はクラウドのパジャマのボタンを全て外し、下に着ていたシャツも脱がせた。

「ザックスも」

「……わかったよ」

仕方なく、俺も、汗びっしょりかいて、そろそろ変えなきゃと思ってたパジャマとシャツを脱いだ。

急に身体がスッキリする。

クラウドは俺の首に手を回して、俺に体を密着させる。

冷たい。

「ザックス、すごい、あついね」

……というか、そんな冷たいからだで暖めあえるのかどうか。けれど、俺も、その愛しさに堪えてやりたくて、クラウドを抱き寄せた。クラウドの、ドキドキしてる鼓動が聞こえて来る。

「……ザックス……」

「……ん?」

「……俺……ザックスのこと、気持ちよくしてあげる。ザックスの風邪を治してあげる」

「……ありがとう」

クラウドのトランクスを持ち上げてる彼自身が、さっきから俺のに当たってる。俺はクラウドを解放すると、クラウドは布団をタオルケット一枚以外全部剥がして、下半身に潜り込み、俺のトランクスを脱がせると、まったく緊張感のない部分にキス。

そして、……まぁ、彼にとってそれは「気持ちよくしてあげる」ことの一環なんだろう、俺の後ろにも。

そして、少しだけど血の巡りがよくなってきた俺のをちゅっちゅっとまた何度もキスをして、完全に立たせると、両手の肉球で俺のを持って、上下に動かす。

「……お前、そういう風に動かせるようになったんだ、手で」

タオルケットの中で、こくん、と頭が動いた。

「だけど、……あんまり気持ちよくないでしょ? ……俺の、しても、いけないんだ」

確かに、そんなにイイ気持ちはしない。ただ、クラウドがしてくれてるということの方が重要だ。

「……クラウド、舐めて」

体を起こし、ベッドヘッドに背中を支えて、要求。今日は素直に堪えてくれる。俺の股間に顔を埋める。……っていうか……さっきのあの、肉球で動かすやつ、あんまり上手になられても困るよな。

 何でって、一人ですること憶えられたら、俺に「して」って言って来る回数が減るだろうし……いや、でもクラウドに独りでさせるのも楽しいかもしれない。

――馬鹿なコトを考える余裕が生まれている。……少しよくなってきた、かも。

「クラウド、出すよ」

「んっ……!」

一生懸命、俺のに奉仕している健気な顔に、白いのを。飲んで貰うのもいいし、こうやって顔にかけるのも。……どっちにしても、あんまりいい趣味をしてるとは言えないけれど、自分だけの大切な宝物をそういう風に扱うことが、また少し異質な、幸せ。トロトロと流れる俺の精液を、肉球で掬い取って、膝立ち、クラウドはその手を自分の後ろに塗る。

「ザックス、動かなくて、いいから」

肉球手だから、指を中に入れて自分で慣らすなんてことは出来ないけれど、そのかわりぬるぬるにして、俺が入りやすいように配慮してくれる。

「ん……」

それで、それがまた気持ち良いらしい。前がぴくんと震える。そんな健気なのを見せられると、いったばかりだろうが風邪ひきだろうが関係ない。

俺の股間はまた疼く……。

「すこし、キツイかもしれないけど……」

「構わないさ。……クラウドも、痛かったらイタイって言えよ」

クラウドは俺のに手を添えて、俺の上に乗る。中心部で、ゆっくり一つになって、完全に連結したことを確認すると、俺の首に手を回す。

「ザックス……っ、ん……きもち、いい? ……ぁん……」

震える唇が、切なげに訊ねる。ぴくん、ぴくんと、弱いところが心配そうだ。自分だけ、気持ち良いのではないかと。

「ああ……すごい気持ち良いよ。……クラウドの中、俺の締め付けて、すごい良い……」

俺が微笑んで言ってやると、安心したように笑う。が、またすぐ、気持ちよさで乱れる。

「んっ……んっ……んっ」

そのまま、クラウドは動かずに、括約筋を締めて俺に快感を与える。クラウドは――確かにこれだけでも少しは感じるだろうが――自分の快感を無視してもなお、俺に尽くしてくれているのだ。

……その気持ちが嬉しい。きゅっと、根元とか縛り上げられるたびに、俺は愛しさがこみ上げてくる。気が弱ってるから、涙まで出そうになる。その髪に指を通して、前髪をあげて、額にキスをする。

……そうだ。風邪をひく、ということは。

「……クラウド……ツラくないか?」

「んっ……だ、いじょうぶ……あんっ……」

この、いとおしい魂を、孤独に晒す、ということ。

「……クラウド、愛してる」

俺は首に回されていたクラウドの手を解いて仰向けにすると、中途半端な刺激で燻っていたクラウドの中の火に、油を注ぐ。

「っああんっ……っんんっ、いあっ、っん……っあん」

いとおしい魂を、そうだ、俺は昨日決めたんだ。永遠に守り続けて行くんだって。

そして、側にいてくれる時は、俺に出来る限りの力で、愛してやるんだ。俺はクラウドのに手をかけ、動かしながら、腰を振った。

クラウドのからはすぐに精液が解き放たれる。

クラウドの頬にまで飛んで、流れる。

俺は一旦腰を停めて、それを拭い、クラウドの唇に。

そして、また抱きあげて、キス。

「んっ……」

「……クラウド、先にいっちゃったな……。……少し休むか?」

俺が言うと、首を振る。

「いいの……もっと、して。ザックスが、気持ちよければいいから……ね、もっと、動いて」

クラウドは、小さく震えながらも、強がってそう言う。俺はそれに応えた。クラウドの体を抱いて、また揺する。

「あぁんっ、あんっ、ぃっ……いい……っ、気持ちいいっ」

そう言ってくれるから、俺はどうして、いつまでもウィルスなんかを体に抱えていられるだろう。

「ざっくすぅ、すきっ……すきぃ……大好きっ、ザックスっ、愛してるっ、あい、してるっ」

壊れたように俺の名と、愛の言葉を羅列し始める。

精液が流れる湿っぽい体で抱き付く。揺すられながら、また快感を欲して、俺の指が絡み付き歓喜する。もう多分、俺のことを愛しつつ、同時にそれ以上、自分がいきたい気持ちも高まっているんだろうと思うけど、でも構わない。

「やぁっ、もぅ、だめぇ……ッ、いっちゃうっ、いっちゃうよおぉ」

クラウドの熱が暴走する。

それは、きっと俺の不要な熱を彼がその体に取り込んで、捨ててくれているのだ。

 

 

 

 

「……クラウド……大丈夫か?」

ドロドロになって気を失ってしまった彼の体を清め、パジャマを着せて布団を被せてやっている間は、自分の風邪のことなど忘れてしまう。クラウドの風邪がまたぶり返してしまうんではないかと、そっちの方ばかりが心配。

俺が風邪ひくことによって、クラウドの魂が孤独になるなら……やっぱり逆もそうだ。

俺も昨日、何だかんだ言って、結構寂しかった気がする。だから、ほんの数時間ですら、性欲を押し殺すことが出来なかったんだろう。

クラウドも同じ事だ。

ヴィンセントが薦めたのかどうかは解らないが、きっと彼本人も、俺としたかったんだろうと思う。俺とセックスして、俺の熱を味わいたかったんだと、生きている証拠を何よりもダイレクトに確かめたかったんだと思う。

俺たちはどう足掻いても男同士だから、あんな風に、不器用にしか繋がり会えないけど、それでも一番、誰より上手に、愛し合っていたかったんだろう。

それは俺も、同じ。自分が生きてることを――例え、今は風邪ひきでも――実感したかったんだ。

「……なおったかな……」

薄っすら目を開けて、クラウドは呟くように言った。

「ああ。クラウドのお蔭で、もうどこも悪くない。もう平気だよ。……クラウドこそ、大丈夫か?」

こくん、と頷いて、照れくさそうに付け加える。

「ちょっと……おしり痛い、かな」

激しくしすぎたかも知れないと少し後悔するとクラウドは首を振る。起きて、俺の膝の上に乗って、ぴったりと抱き付く。

「……ありがとうな、クラウド」

――で、考えてみると、俺たちいまこうやって幸せに抱き合っているけど、要は寒空の下で青姦なんてしてしまったのが間違いだったと思い出す。クラウドは、もう忘れてるみたいだけど……思い出したら怒られるかな、やっぱり。

「クラウド、愛してる」

……本当に、それは本当の気持ちだけど。

……けど、なんかある意味、とんでもない無駄な風邪が原因で愛が深まった、というか……。

この三日間、合計十一発、それが原因で抜かれた被害者は、幸せを噛み締めながら、俺の胸の中に。


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