ミリオンプレジャー

普通の猫の年の取り方って、一年目で十三歳、二年目からは四歳ずつっていうのがホントらしい。だから猫はすぐ年長者になる。あんな小さかった仔猫が、下手したら三年でもう自分より年上になってたりするんだろうな。でも、仔猫の時のこととか知ってるから、どんなに年上でも、やっぱり飼い主からしたら「世界でいちばん可愛い俺の猫」で、やっぱり平気で頭をぐりぐり撫でたりしてしまうし、相手方も、何の衒いも無くぐるぐる甘えてきたりするものだ。

うちの猫の場合は、「普通の猫」ではないから、永遠に年下のままだけど、この間のユフィの件もあったし、一年間で少しずつ大人になっているというのはもう否めない事実。そのうち追い越されるかもしれない。逆にこの一年殆ど成長の跡が見られない自分はちょっとばかり問題ありかと思う。いや、誰かのために生きられるようになったというのは大いなる進歩か。もっともそれは俺が判断することじゃない、仔猫が「大好き」って態度を示してくれた回数だけ、それが事実になっていく。俺も今度の八月で三十だけど、精神年齢は二十にも満たないと思う。だけど、仔猫といっしょに過ごして、二十三くらいになってたら嬉しいと思う。っていうか、仮に追い越されてもやっぱり、仔猫は仔猫、世界でいちばん可愛い、俺の、仔猫。

一本の蝋燭がささっていたケーキ、とても三人じゃ食べきれないから、冷蔵庫にしまった。普通の家庭であれば、一本の蝋燭を、まともに消せる子供なんて居るはずが無い。赤ん坊には口を丸く窄めて息を吹くっていう行為は難しいから。その点、うちの仔猫はとても上手に吹き消した。ケーキを一人じゃ食べられないあたりは赤ん坊といっしょだけど。口の回りにクリーム付けた幸せそうな笑顔が、他の誰よりも何よりも強く、俺たちを幸せにする。不思議でも何でもない、どんな常識よりも当たり前なこと。俺たちが一緒に居るという事実。

これから何度も繰返されるであろうサイクル、そのサイクルのほんの小さなヒトコマ、ヒトコマも長い目で見れば一瞬。

蝋燭が百万本になる頃に、今年はチョコレートケーキに替えてみようか、そんなことを考える未来がある。それに飽きたら今度はチーズケーキ、気紛れでまたショートケーキに戻したり。そんな年があってもいい。とにかく、それは百万年後の俺たちが決めることだ。

百万年間で、単位が無くなるほど多い回数の「愛してる」「大好き」を言い合って、互いの耳にタコが出来たら、笑い合おう、お互いに。幸せな笑いが止まらなくて腹筋が痛くなったらその時は、その時だろう?

ただまぁ、百万年もあとのことを気にしても大変と言えば、もちろん大変。だから、もうちょっと短期的ビジョンで話しをしよう。つまり、そう、とりあえずは。

次の一年、また、よろしく。一つでも多く君を幸せにしてあげられるように、僕も頑張るから。


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