氷結果汁

 聞いてくれ、クラウドは偉いんだ。いや、もう知ってるだろうけれど。

 いや、気付いていたけれど、本当に良い子なんだクラウドは。今年の夏は、また一つ、偉いなあって思った。嬉しいよな、こうやって、自分の大好きな人のイイトコロが、また一つ増える。俺も頑張って、クラウドに「ザックスって偉いんだなあ」って一つでも多く思ってもらえるように、頑張らなくちゃ。

 今日は日曜、日付は九月一日。さっき、ジャミルがウチの呼び鈴を押した。

「あ……、あのさ、クラウド、いる?」

「うん。プールのお誘いかい?」

「いや……、そうじゃなくって、その……」

 ジャミルは少しもじもじと、言葉を探してから、

「……あの……、クラウド、算数のドリル、もう全部終わってるかなあ」

 恐らく世間の子供たちの何割かが、ジャミルと同じピンチに陥るのであろうこの日。クラウドは快く、完成したドリルの答えが書かれたノートをジャミルに見せてやった。

「助かったぁ……。母ちゃんにどやされるとこだったよぅ」

「……ちゃんとやっとけばいいのに」

「んー、いや、やろうやろうと思っちゃいたんだけど、遊んじゃってさ」

 一時間ほどかけて、空白の解答欄を埋めて、ジャミルはやれやれと溜め息を吐いた。

「あとは国語だけ。何とか終わるかな」

「……まだあるの」

 クラウドはちょっと呆れたように笑う。

 そう、偉いんだ、クラウドはとてもとても、偉いんだ。

 彼は国語と算数のドリル、社会科の自由研究、理科の問題集、全部、全部、一つ残らず、八月の頭までに終わらせてしまったのである。俺やヴィンセントが催促したわけではない、自分からランドセルを持ってきて、

「勉強するから手伝って」

 と俺のシャツを引っ張ったのだ。

「……でもまだ……七月だぞ、クラウド」

「後で遊びたいから、今やっちゃう」

「……!」

 偉いだろう? すごい偉いだろう!?

 かくして七月中にほぼ全ての宿題を終わらせてしまったクラウドである。唯一社会科の自由研究だけは八月にズレこんだが、これも八月三日から三泊四日で行ったユフィのところの名産品をまとめて完成。中旬から下旬は、とにかく遊び三昧で暮らしても何ら罪悪感を覚える必要の無い日々。プールにも海にも山にも、さらにもう一度ウータイの温泉にも行ったし、ミッドガルに野球を見にも行った。世界有数に充実した夏休みを過ごした少年であると言っても過言ではないだろう。非常に健康的な日焼けの仕方が、その充実ぶりを物語っている。

そして、最終日の午後二時も、ソファでくつろいで麦茶なんて飲んでる余裕がある。ジャミルのような全国各地の典型的なのび太くんには怨みを買うだろう。

「夏休み楽しかったか?」

「んー? んー」

 ストローを咥えたまま返事をする。

 ちなみに、明日の支度だってもう全部済ませてある。六時からケーブルテレビでやる野球を見るまでは完全フリー、ご飯食べながら野球を見て、あとは寝るだけ。なんて優秀な九月一日。

 ほんとに偉いなあ。って、褒めて頭を撫でてやっても、何を褒められてるのか解っていない。

 夕飯の買い物から戻ってきたヴィンセントが、冷蔵庫から自分の分の麦茶を出して来て、クラウドの隣に座る。今日は夏休み最後ということで、奮発してハンバーグにすると言っていたっけ。

「……平和だな」

 氷を浮かべた麦茶で唇を湿して彼は呟いた。

「何か、やることはないのか?」

 隣のクラウドはストローを口にしたまま首を振る。

「友だちとの約束は?」

「んーん」

「……そうか……」

 ヴィンセントはもの足りなさそうな表情だ。クラウドが側にいる、からといってじゃあセックスをしようというのでは、あまりにも品が無い。俺たちがいつだって性行為してるって誤解を招いているかもしれないけれど、実際にはそうでもない。一週間に七回から十回、いや、多いけど、「いつだって」って訳でも、な? 多少は自重しているんだ。クラウドの身体のことも在るし、やっぱりちゃんとした人間らしく……。セックスが「御褒美」としてあったほうが、より気持ちいいし幸せになれるし。

 いや、いつだってしてたい、つながったまま生きてたいというのは、あるんだけど、ね。

「……出かけるか」

 不意に立ち上がると、サイドボードの車の鍵を取る。

「どこへ」

「……決めていないが……、どうせ夕方までやることもないのだろう? ドライブでも。クラウドも来るか?」

 ストローに口を付けたまま少し考えていたが、やがて口を離して肯く。

なら俺も行くに決まっている。冷蔵庫から水筒がわりに、500mlペットボトルの麦茶を取ってくる。

「温くなっちゃうか、このままだと……」

 引き出しから「冷気」のマテリアを取り出して、ブリザド……。弱めにかけたつもりだったけど……ちょっと冷えすぎて、かちんこちんになってしまった。

 まあ……、一時間もすれば融けるだろ。

「置いていくぞ」

「ああ、今行くよ」

 クラウドは既に助手席に座ってヴィンセントにシートベルトを閉めてもらってる。

「……海、行くか。往復で三十分と少しだし。それでいいか?」

「うんっ」

 クラウドは海好きだ。魚が取れるから。

 ニブルのすぐ側の海は、波が荒いから泳ぐには向いていないけれど、クラウドは別に構わないのだ、そこに海がありさえすれば。

 車はカラリと晴れた夏休み最後の一日、人通りの少ない村を抜けて、海への道を60km/hで軽快に走る。

 

 

 

 

 波音は、規則正しいものだと思いがちだけど、実際はそうではない。いくつかにひとつ、ちょっと高い波がくる。だからかなりリズムが崩れるということ、ゆっくり聞いていれば気付くはずだ。

 波が荒いから、クラウドは波打ち際には近づかない。車の横に座って、潮風に髪をなびかせている。ヴィンセントは風下に立って、普段クラウドの前では吸わない煙草に火を付ける。俺はようやく融けはじめたペットボトルを振り回す。キャップを開けてひっくり返すと、ほんの少しだけど物凄くよく冷えた麦茶が零れ、俺の口と口の回りを心地よく濡らした。液体を全部飲み終えたら、またキャップを閉めて振る、しゃかしゃか。

 車のステレオから聞こえるカセットはクラウドが好みの曲をセレクトしたものだ。俺たちにとっては馴染みのナンバーばかり。どれもがそらで歌えるから、クラウドはささやくような声で、「ふしぎなんだ、きみがわらうと」なんて歌う。潮風と波音にかき消されそうなその声を、俺たちはのどかな気分で聞いている。

「……カレンダー一枚変わるだけなのに」

 クラウドが歌うのを止めて切り出す。

「八月と九月の間って、十二月と一月よりももっと違うような気がするな」

 今年が生まれてから二度目の夏休みであるクラウドは、小学生四年生ぐらいでみんな気付くようなことに気付いた。いや、きっと大人もみんな感じるんだろう。仮にお盆休みが二十日前に終わっても、やはり八月三十一日から九月一日の間には、ハッキリとした境目がある。九月の終わりくらいまでは、イヤミったらしい残暑がずっと続くのに、どこかで夏の終わりを感じてしまうのだ。小学生時代の夏の終わりの感を、何十年経っても引きずってしまうものなのだろう。かくいう俺も。

 麦茶をまた数滴だが、飲んだ。

「終わっちゃうんだなあ、夏休み……」

 寂しそうな声音で、言う。

「だが、終わるからこそ始まる。また来年の夏休みが楽しみだろう?」

 ヴィンセントが煙草を携帯灰皿に入れながら言った。

「うん。……それに、学校始まるのは嬉しいな。また毎日みんなに会えるし……。ザックス、俺にも一口ちょうだい」

 まだまだ氷の割合がずっと多いペットボトル、キャップを外して手渡した。

「冷たい」

 やわらかな唇を付ける。間接キス。何を今更なんて言わないでくれ、そういう小さな事がいちいち嬉しいんだ、俺たちは。

「ぜんぜん出てこないよ」

「……もうしばらくしたら。日向に置いとけばすぐ融けるよ」

 目玉焼きが焼けそうな車の屋根の上にペットボトルを乗せた。ヴィンセントが何かを考えるような目で、それを見つめていた。

「暑いねえ……。けど、気持ちいいな」

「風があるからな。でもクラウド、お前、毛皮あるからな。俺たちよりもたぶんずっと暑いんだろうな」

「んー……。でもほら、いま夏毛でうすいから」

「そうか。……それに、お前は短毛種だからな。ヴィンセントだったら大変だろうなこの時期」

 話題を振ったが、ヴィンセントはじっとペットボトルを見つめている。

 たまにああいうわかんない事があるんだ。

 俺はクラウドの隣に並んで座った。かんかん照りで、暑い、腕にも汗をかい

ている、だけど不快じゃない。

「楽しかったか? 今年の夏休みは」

「うん……。いろんなところ連れてってもらえたし。楽しかったよ、すごく」

 そう言ってもらえると嬉しい。眩しい髪の毛を撫でた。

 クラウドは俺の手に頭を摺り寄せて、暫時遠い水平線を眺めていた。

「……あのさ」

「うん」

「その……ね」

 クラウドは言いにくそうに切り出した。俺は静かに言葉を待った。

「……水遊びしたいな」

 俺は少し笑った。出るときには、思いも寄らなかった欲求が生まれてしまったらしい。早く気付いていれば、水着も忘れずに出たのに。

「……いいよ」

 一緒に立ち上がって、シャツとズボン、脱がせてやる。眩しい白のパンツ一枚。

「誰も見てないから裸でもいいだろう?」

「ほんとにいいの? ……濡れちゃうし……」

 ものすごく遊びたそうな顔で、でも謙虚なフリして言う。頭をぽんぽんと撫でて、

「行っておいで。夏休み最後なんだし」

 クラウドは包み隠さず笑顔になる。

「ありがとう!」

 砂を蹴立てて、波打ち際へ掛けてゆく。

 揺れる尻尾が眩しい。

 波の中、倒れ込んで、クラウドは全身びしょ濡れにして、水と戯れる。楽しくて堪らないといった様子で、飛沫を上げて、頭から水に浸かり込む。膝の高さより深くは行かないけれど、それでも十分すぎるくらい、海を夏を堪能している。

 煙草を咥えて、ヴィンセントからマッチを借りて火を付ける。一口目は空吹かし、二口目はたっぷりゆっくり吸い込む。ふっ、と、少しだけ頭がぼやける。

 飛沫の中でクラウドが笑っている。煙を吐き出しながら、俺は彼の遊ぶ様子を、とても羨ましく感じていた。

 いいなあ……、子供って……。

 といって、繰り返すがしつこくも繰り返させて頂くが、俺はショタコンロリコン否定しないけれど、俺はそうじゃない。以前使った表現を引用するなら「ヴィンセント&クラウドコンプレックス」であり、他の子供では替えが効かない。でも今のは、クラウドだからって言うより、俺がもう戻れない、絶対に手に入れることの敵わない、「子供の特権」に対して、だ。

 あんな風に、パンツ一丁でばちゃばちゃやって、世間体なんて面倒なことお構いなし。一人できゃっきゃと遊べる、それは子供にしか出来ないこと。特に夏、海や川や、噴水のある公園には子供たちがいっぱい、甲高い声を上げて、服のままで、あるいはすっぽんぽんで遊んでいる。ああいうのを見て浮かんでくるのは、何だか悔しいって気持ち。

 俺は精神年齢三十一歳。その心が宿るのは十八歳の身体。十八歳で服着たままきゃあきゃあ叫んで噴水に飛び込んでいたら、それはちょっといけない。自重せざるをえない。

 あんな風に遊べる子供が、羨ましい。俺も子供の頃、もっと子供っぽく、無邪気であればよかった。そんなあてもない後悔の念が去来する。

「楽しいだろうな、あんなに笑って」

 煙草を携帯灰皿にもみ消す。そう、俺は煙草なんて吸ってる。実際、もういいおっさんなんだ。三十一って、なあ。自分ではありえないような歳だと思ってたけど、心はちゃんと。早く大人になりたかった、わりに時間はずいぶんかかったし、その割に栄養を吸収できていないし。

 ヴィンセントは二本目の煙草に火を付ける。そう言えば、もうペットボトルを見てはいない。

「……行ってくればいい」

「無理だよ。濡れるし」

「構わん」

 ヴィンセントは無愛想に言い放った。

「タオルも用意してきてないし……」

「どうにでもなる」

 言葉はぶっきらぼうだ。顎で、「行ってこい」と。

 俺は、立ち上がった。裸足になった。焼けた砂に足が、飛び上がるほどに熱い。

「ザックス?」

「遊ぼう、な、クラウド」

 びしょ濡れの身体を、構わず抱きしめて、波打ち際に一緒に倒れ込む。意外と水が冷たい。でも、気にしない。

「にゃっ、うにゃあっ」

 クラウドはばしゃんと俺に水を掛けた。俺は笑いながらクラウドを、また抱きしめて水に浸からせる。

「つめたいよぅ」

「もうすぐ秋だからな。動けばあったかくなる」

「にゃー!」

 俺の夏はとっくの昔に終わってしまっていたのかもしれない。少なくとも、夏を夏として受け止められなかった以上は。夏の前では、水着すら脱ぎ捨てて、裸になってしまうのが、太陽に海に身を委ねてしまうのが、正しい礼儀なのかもしれない。そんな事を考えた。鼻の頭がヒリヒリしだしたころ、俺に夏が戻ってきた。

 氷イチゴ、蚊取り線香、浮き袋、蝉に、夕立ちに。そういう、一つ一つのことが、夏を形作るのなら、クラウドや俺も、同じように夏の要素になれたら爽快だ。

「はー……」

 クラウドも俺も、全身あますところなくびしょ濡れ。クラウドはぶるぶるぶるっと首を振り、水を切る、まだ肌をたらりと流れてくる。俺はシャツが身体にぴったり張り付いてしまって乳首も透けている、見る人が見たらエロい。透けているといえば、クラウドのアソコだって。うっすら肌色だ。

「タオルないの?」

「ない。ビニールシートがあるから、とりあえず濡れた服を脱いで、甲羅干しして乾かせ」

「自然乾燥?」

「塩が取れるかもな」

 どうせ誰も見てないんだ……、って、裸になれる。セックスが関連しない状況で、外で裸になるなんていったいいつ以来のことだろう? ほんとに、誰かが見てたらちょっとどころじゃないくらい恥ずかしいけれど、海風が股下抜けていくのは、爽快だ。ヴィンセントが広げてくれたビニールシートの上に、クラウドと並んで横たわる。間もなく太陽がジリジリと俺たちの肌を焦がしはじめた。クラウドは健康的に焼けてゆくから良いけれど、俺は……あとで赤くなってしまう。

 まあいいや、そんなことを気にしないで、夏を楽しもう。

「……うな……あ……ふぅ」

 クラウドが大きな欠伸。

「昼寝、するかい?」

「……にゃん」

 すごくすごく暑い、日向では四十度近くありそうなのに、何故だか安らかな眠気が包んでくれる。熱帯夜でもこれくらいなら有難いのに。

 ヴィンセントは車の中に避難して、まだ氷の割合が高い麦茶を飲んでいる。俺は眠らないで、白い尻を剥き出しにして眠るクラウドを見下ろしていた。じっとりと背中に浮かんだ汗。

 冬場に汗は、そんなに掻かない。汗は夏特有のクラウドの魅力の一つでもある。きめ細やかな肌を、しずくになって流れる汗は、舐めてみるまで塩辛いことに気付かない。冬は冬で、ふかふかに生え揃った毛皮がとても愛らしいのだけれど、夏の魅力は汗だろう。

 背中に浮かんだ汗が、徐々に腰の方へ流れていく。尻の谷間も汗で濡れている。

 のどが渇いた。俺はクラウドの背中を舐めた。塩辛い。起こさないように、一度だけでやめておく。

 車の窓が開いた。

「イヤラシイ奴だな」

「やらしくない。別に、変な意味でしたんじゃない」

「どういう意味があろうと、人の身体を舐めるというのはイヤラシイ」

 俺は苦笑した。まあ、確かに。どんな意図がなくったって、クラウドがそこに裸で寝ている、というのは十分に危険なことだ。本人は全く気付いていないのだけど。そう、そこに裸で寝て乾かすように命じたヴィンセントにも、ヤラシイ意図なんてなかったんだろうし、クラウドの身体が濡れてしまうことになったのは、クラウド自身が泳ぎたいといったから。そこまで探していったならもう、誰の責任でもない。単体で純粋に猥褻要素を孕んだ裸体がそこに、ただ寝そべっているというだけ。

「美味いか?」

「ん?」

「クラウドの身体は、美味いか?」

「知ってるだろ、あんたも」

 俺は、さっきとは違う気持ちになって、クラウドの腰を舐めた。塩辛い。

 その塩辛さに、さっき舐めたときはなんともなかった下半身が、少し悦んだ。目ざといヴィンセントは、変態め、と呟く。

「……別にいいよ、変態で」

「せっかくクラウドが気持ち良く寝ているのに」

「起こしたりはしないよ」

 ヴィンセントは静かに車から降りて来た。手にはあのペットボトル。キャップを外して。

 キンキンに冷えた麦茶を、クラウドの背中に……。

「にゃーーー!!!!」

 飛び起きた。

「にゃ、にゃに、にゃ、にゃにゃ、にゃ」

 真ん丸の目、手から足から尻尾から、毛皮は一気に逆立って膨らんで。

「にゃにゃにゃ、にゃにするんだよぅっ」

 ほんとにびっくりした顔で、クラウドは怒る。ヴィンセントはちっとも悪く思っていなさそうな微笑みで「ごめんな」と。クラウドの前にしゃがんで、乾き始めた頭を撫でる。

「ゆっくり寝ていたから、つい、な。イタズラ心がくすぐられて。驚かせて済まない」

 むっとした顔のクラウドだったが、ヴィンセントの微笑みには解けてしまう。ずるい奴だと思う、っていうか、俺もこいつの微笑みには。

「のどが渇いただろう?」

「……うん」

 脈絡も無い質問、クラウドは反射的に肯いてしまう。

 上手いな。

「あとでたっぷり飲ませてやる」

 にっこり、優しい微笑み。

 ときたま、嫉妬してしまうこともある。クラウドに、だぜ? クラウドに微笑みかけているのを見ると、気持ちはすごくすごくすごくすごく解るんだけど。

 俺にも微笑んで欲しい、なんて。

「あらかた乾いたようだな。ただ、今度は汗で濡れているか」

 その通り、俺たちの肌、海水は早くも乾いたが、今度は汗が滴る。水も滴るいい男、汗が滴ってれば、それは性的に非常に、いい男、クラウド。ヴィンセントはちゃんとシャツを着たままなのに、汗をかいていない。車の中はクーラーが効いているとはいえ、外に居てもまるでさわやかだ。こういう、ヴィンセントのひとつひとつの「いい男要素」が、ほんとにずるい。神様はえこひいきをする。

 ヴィンセントはそうして、膝立ちクラウドの汗で湿っぽいクラウドの鎖骨を舐めた。

「う」

「……お前は汗っかきだな」

 それは俺に似てしまったのだ。俺も、動くと一気に汗が出てくる。出尽くした後は身体の切れが良くなるわけだけど、その前後は結構辛い。かいてるときは目に入ってうざったい、乾いた後は臭いが気になる。ヴィンセントは昔、シャワーを浴びる前の俺を好んで抱きたがった。いい匂いだと呟いて。俺は渋っていたけれどそれがすごくうれしかった。

「……いい匂いだ」

 同じ事をクラウドに言っている。やっぱりちょっと悔しい。

 というか、ヴィンセント、そんな事を言いながら、舌を、徐々に移動させていく。鎖骨から心臓へ、心臓から、胸板へと。ようやく危機に気付いたクラウドが身をひきかけたが、ヴィンセントはすでに抜かりなく、クラウドの背中に手を回していた。

「やだ、何」

「……塩辛い。だが……海水とは違う、どこか、甘い」

 そして舌は乳首へ到達する。

「う、や……」

 汗が滴って、いかにも美味しそうなクラウドの胸。ヴィンセントが、片方を口で、もう片方を指で刺激しているから、俺はしゃぶりたくてもしゃぶれない。

「はあ……」

 クラウド、抵抗の気力に乏しい。

「駄目だよ……、外……恥ずかしい」

「ならば、車の中でしようか? ……同じ事さ。それに外の方が開放感があっていい……」

「そうじゃ、なくて、ん」

クラウドは救いを求めるように俺を見た。だけど、俺の下半身が硬くなりはじめているのを見るや、「見るんじゃなかった」って顔になる。ごめんよ、不甲斐ない俺はお前を助けられない。

「やだ、やだ、やだ……」

 悪い兄だ。揺れる尻尾の背中に回って、背筋を舐め、腰を舐め、尻を舐める。どこも一様に塩の味。旨い。

 サンドイッチ状態。二人で一人の少年の前と後ろを舐めまくる。特に背中の方が不快らしくて、クラウドは何度も身を捩る。けれど、ちょっと手を回してみれば、もうクラウドだってピンと張り詰めて。恐らく俺のアソコを見たあたりから、極まりつつあったのだろうと推測する。

 左右の乳首を順に舐めていたヴィンセントが、立ち上がった。

「にゃう……」

「もっとして欲しそうな顔だな」

 ヴィンセントに笑われてクラウドは尻尾をぱたん。俺のほっぺたを叩く。

「口を開けろ」

「……え……?」

「喉が渇いたんだろう? たっぷりと飲ませてやる……」

 妙な言い回しが気がかりで、俺はちょっと顔を上げた。ヴィンセントは淡く微笑んだまま、合皮のベルト外し、ジッパーを降ろして、まだ熱くなっていない性器を取り出す。彼はクラウドの頭に手を掛けた。……え? っていうか、なに、まさか、……おい。

「うわ、ちょっと、ヴィンセント……待てよそれはやば」

「出すぞ……」

「っ!!」

 クラウドの顔、口に、ヴィンセントの小便が注がれる。クラウドは眉間に一筋皺を寄せながらも、口を頬を汚す液体を、さほどの嫌悪なく口にする。飲みきれないで溢れた分は、唇の端から、やらしく零れていく。

 俺はちょっと唖然と見てるしか出来なかった。っていうか、それはちょっと、ないだろ、って……。

 いや、俺も……、一部の人しか知らないヒミツだが、以前、クラウドのを飲んだことはある、ヴィンセントのだってある、飲んでもらった事だって。だけど、クラウドに飲ませるって言うのは、何だかすごくすごくものすっごく悪いことのようで、やりかねていたし、したいとも思わなかったんだ。きっとヴィンセントだってそうだろうと踏んでいたんだけど。

 どうやら俺の思い込みに過ぎなかったようだ……。

「良い子だ……。口で綺麗にしてくれるか?」

「ん……うん」

 抵抗しないクラウドもクラウドだ。続けてヴィンセントのにしゃぶりついて、けなげに頭を動かし音を立てて吸う。……そうか、自分のだったら汚い、だけどこの子は俺やヴィンセントのそういうのを、汚いとは想っていないのだ。

 クラウドの尻尾の動きは不機嫌なものではなくなってきている。俺の腕に甘えるようなカンジに絡み付いてくる。腕にかいた汗で、俺の肌に彼の抜け毛が張り付いた。

「……美味いか?」

 クラウドは肯く。口の中で鋭角的に屹立してくヴィンセントのを、クラウドはほんとうに、無の心で舐めていて、だけど無意識に、尻尾で甘えてる。尻に触れてみると、ぴくんと一つ震えて、だけど歓迎するように摺り寄せて来た。

 今度は、ヴィンセントに対してクラウドにまつわる嫉妬心を覚えた。確かに……飲ませるのはどうかと思う、ってか俺にはやる勇気ないけれど、そんな事気にして出遅れてたら夏が終わってしまう。俺だってクラウド好きだもの。一人占めなんてさせてなるものか。子供だって甘いおかしを二人で分ける方法を知

っている。クラウドの場合、食べる……食べてくれる場所が、好都合にもちゃんと二つあるのだから……。

 濡らした指をまず食べてもらおう。

「みゅ、う……ん……」

 閉ざされた暗闇を割り開き指を挿入してゆく左手に、クラウドの尻尾はヘビのように纏わりついてくる。ちんちんと一緒で、まるで別の生き物の意志で動いているみたいだ。

「ビショビショに濡れてる……、女の子みたいだ」

 背中から流れてきた汗が、クラウドの肛門を湿らせていたのだ。濡れているお陰で、指を押し込むのがさほど辛くない。ぷちゅ、と汗が音を立てた。

「……クラウド、……」

 頭の上の方でヴィンセントが低く甘い声を出した。ほどなくして、二人の身体が似たようなリズムの乱れを起こす、尻の中で俺の指も強く締められた。

「んー……っ、ん……」

 口での愛撫から意識が逸れると、今度は途端に下から込み上げる欲求が身を焦がす。

「……はう……」

 膝立ちからぱたんと、前足をついて、感じるのに専念する体勢に。

「にゃん……う、うみゃ……あ」

「外だからヤなんじゃなかったのか?」

 こっちも外なのに幼稚園児みたいに全裸だから、そんなことを偉そうに言わなくてもいいのだけど。

 尻が雄弁に答えている。ぴくぴくぴくぴく、さっきよりも活発に俺の指を飲むようになった。柔らかくなりはじめた入り口付近から、奥のかたくなな方へと進み、指先で擦ってやればもう、俺にしたって堪らないような声を上げてくれる。

「ザックス……、ザックス」

「ん?」

「……って、いい? いっていい?」

 振り返った顔は汗びっしょり、よだれなんか垂らして、お外なのにハシタナイ。PTAのお母さんがたが見たら村八分にされてしまうかも。ニブルヘイムは田舎なんだから……。

「……俺の、触って……」

「いいよ」

 実際、正しくなくたっていいんだ、別に、さっきヴィンセントが飲ませたのだって、間違いかもしれない、けど、それを判断するのは俺たちなんだから。宿題やるとき、先に答えを見ちゃったりしても、知られなければ、それは正解。俺は俺たちのものさしで正しく生きたい。世間的ものさしで正しくなくたって、俺たちにとって正しかったら、外でこうしてたって。

 と。俺も興奮するとなかなか思い切りが良くなるのだ。

 クラウドのそこは濡れていた。汗と我慢してるおつゆと、そして何割かはヴィンセントの……かもしれない。嫌悪は感じない。いっそ、しゃぶってやろうか。

 左で後ろ、右で前を、一度に刺激すると、たちまちクラウドの唇からは官能的なメロディが、シンフォニーが、溢れ出す、非常にゲイ術的な戦慄を誘う旋律である。ちなみにシンフォニーは大抵四楽章で成るものだから、……クラウドも四回?

「い、……ひゅぅっ」

 俺の手の中に、ビニールシートに、砂に、精が勢いよく飛び出して来た。クラウド、量が多い。若いから? 感じてるから、か。俺もたいがい過敏症で早漏だけれどクラウドには負ける。

 水分補給したクラウドの全身から噴き出している汗を拭うタオルも無い。俺は、猫のポーズのままひたってたクラウドを仰向けにして、隅々までとは言わないまでも、濡れた身体をいっぱい舐めた。何割かは……ヴィンセントの何だろうけれど、嫌じゃない。ヴィンセントのなら我慢できる、汚いとも思わない。

悪いけどな、そういう形なんだよ俺たちは。そう、俺はクラウドの、濡れた身体を美味しいと思う、とてもとても美味しいと思った。

「ザックス……、クラウドが困っているだろう」

「……え?」

 ヴィンセントは俺たちを見下して相変わらず汗をかかないでいる。「中途半端な状態で尻を放置してやるな。可哀相だろう」

 言われて、クラウドの顔を見ると、確かに俺の舌でしっかり感じてはいるのだけど、どこかでもどかしそう。気付けば、太股を摺り寄せている。いったばかりのアソコだってもう、さっきぐらい元気一杯。

「そうか、悪かったな……」

「にゃっ」

 両足をよいしょと持ち上げて、アルファベットの、ヴィンセントの「V」の字に。俺はすっかり臨戦態勢整った自分をそこに押し当てる。小さな入り口に触れただけで、俺のも、クラウドのも、ひくっと震える。同じ電気が流れる。

 そのまま腰を進めて一緒に悦びの電磁波を感じようと思ったのに、ヴィンセントがまたストップを掛けた。いつのまにやらTシャツを脱いでいて、白い背中から赤黒い裸。お馴染みカオスモードに入っていた。

「……何だよ、あんたはさっき口でしてもらったんだから、我慢しろよ」

「そうではない。……まあ私に任せろ」

 クラウドはまた待ったを掛けられて、恨めし気にヴィンセントを睨む。

「そんな目で見るな、……安心しろ、ちゃんと、よくしてあげるから」

「よく……っ、て、おれ、そんな、やらしくない……」

「知ってるさ。厭らしいのは私たちだ、お前はそれに躍らされているだけだよな」

 都合よくそんな事良いながら、ヴィンセントはクラウドの尻の穴に長い指を押し込む。

「にゅ……!」

 律義にいちいち過度な反応を示すクラウドを見て、俺はもう扱いてしまいたいのを我慢する。セックスに関する技術でヴィンセントに俺が敵おうはずも無い。きっと何か、また馬鹿なことをしてくれるのだろう。そしてそれはすごく気持ち良いに違いない。経験則で知ってる。

 ヴィンセントは指を抜くと、長い事日光に晒されていたお陰で中の氷がだいぶん小さくなってきたペットボトルを取るよう俺に指示した。

「まさかペットボトル……!?」

「馬鹿を言うな。そんなことをすると思ったか」

 あんたならやりかねない。

 ボトルの中を覗き見て、ヴィンセントは満足そうに肯く。そして指でボトルの輪郭をなぞる。見る見るうちにボトルに亀裂が入り、ぱっくりと割れた。

 中から取り出した氷は、……俺は初めて知ったのだが、凍結さしたペットボトルの氷って、ずっと解かしていくと、こんな形になるのか……、ペットボトルの「胴」の部分は円柱で、先の方は滑らかな円錐形。

 それはもう、そういう風に見てしまえばちんちん以外のなにものでもない。

「……それ、入れるのか……でも」

 あんな敏感なところに、氷なんて入れてしまった日には……。どこかの本で小さな、喫茶店のドリンクに使うような氷を入れて中で溶かすというのは見た事あるけれど、こんなおおきなの、少なくとも俺は読んだこと無い。

「解っている。準備はもうしてあるさ」

 ヴィンセントは笑う。

「クラウドに触れてみろ」

 手を伸ばして、その肩に触れる、と。

「つめた……! 何だよ……」

「マテリアに『属性』というのがあっただろう」

「うん……」

「あれの応用だ、クラウドの身体に冷気の属性を与えた。多少の冷たさには耐えられるようにな。それでもちょっと刺激はあるだろうが、少なくとも身体への負担は軽減されるはずだ、凍傷にもなるまい」

 クラウドの身体は、ほんとに氷みたいに冷たくなってしまっている、体温、十度もないみたいに。なのに、頬を上気させて、汗をかいて。何だか妙な感じだ。

「冷たいようっ」

「だがお前のここは飲み込んでいくじゃないか……。さっき飲んだばかりなのに、まだ喉が渇いているのか? それに」

「やう!」

「相変わらずここは、元気だ」

 尻の中に埋め込まれた氷は、クラウドの身体自体がとても冷たくなっているから、急激には融けない。徐々に穴から、濁った液体が流れ出していく。

「あれは麦茶だからな。コップにためておけば飲めるぞ」

「……それもどうかと」

 でも足の間に潜り込んで舐めてみる。舌先で徐々にとけていく氷、そして尻から溢れた液体は、うん、やっぱり麦茶の味。馥郁たる、夏の味が口から鼻に抜ける。それからクラウドの身体を抱き起こす。ちょっと、びっくりするくらいに冷たい。氷の塊とまでは言わないが、タオルを巻いたアイスノンくらい冷たくて、抱きごこちがいい。けど、俺がそれだけ冷たく感じるってことは、

「やあ、っ、ザックス、熱い、熱いよ、焼けちゃうッ」

「あったかいだろ? ……クラウド、冷たくて気持ち良い。ずっとこうしていたい」

「にゃあ、馬鹿ッ、離せっ、ぎゃうっ、にいい」

「離さない……」

「にゃあああああああ」

 俺の腹には、ぴんぴんに張り詰めたクラウドのが当って震えている。だから、悲鳴の意味は、抱きしめるだけじゃなくて……、だろう。

 それにしても冷たくて、まあ、こんな子と一緒に寝たらクーラーなんて要らないだろう。本気でずっと抱っこしていたい、すっと汗がひいていくカンジ。尻から漏れ続ける麦茶が、俺の下半身を濡らす、ああ冷たくて、気持ち良い、ちょっと冷たすぎて縮こまりそうだけどそれもまた良し。

「……クラウド、ほんとにビショビショだよ? おもらししてる」

「ち、違う……ッ、中で、とけて、とけて出てくるだけだもん……っ」

「知ってるよ。でも、何だかほんとにおもらししてるみたい……。可愛いな」

「うにゃうううう」

 そういう台詞にプライドがいたく傷付けられる年頃かもしれない。クラウドは俺の背中にぷちぷちと爪を立てる。耳を撫でてやる、耳も冷たい。

「悪かったよ。……な、せっかくだから……俺、入れたいな、お前の中、冷たくてキモチ良さそうだから」

「やだっ」

「愛してるから、だから、言っちゃうんださっきみたいなこと……。お前のこと好きじゃなかったら言わないし、傲慢だけど、お前が俺のこと好きだってことも知っているし……、もう言わなくても解っているだろう? 俺の気持ちは」

 クラウドはまたムッとした顔になる。だけど、下半身は冷たい熱。

 そして怒った顔のどこかに、俺をちゃんと解っている。いじめたくなってしまう……、これは、責められる気持ちだろうか? 解らない、だけど、クラウドがそれをほんとに厭だと思うなら、俺のことを蹴っ飛ばしても引っかいても殺しても無視しても構わない訳で。

「……あんたなんて嫌いだよ」

 冷たい腕が絡み付く。

「ずるい……、ザックス、ずるい」

 俺だけじゃないんだけどな。一応、黙っておこう。

「ごめん。大好きだよクラウド……」

「……俺だって……っ、……そう言わさないようなことして、好きなのに……」

 語尾がだんだん消えてゆく。俺は強く抱きしめた、クラウドもそれに応える。一度言ってくれたから、二度言おう。

「大好きだよ、クラウド、……大好きだよ、愛してる」

 じっと黙って見ていたヴィンセントが、咳払いを一つ。……いや、存在を忘れていた訳ではないのだけども。

「……ヴィンセント、抜いてあげて」

「ああ……」

 クラウドを寝かせる。小さな肛門は氷塊にぴったりの大きさで、指を入れる余地も無い。なかなか「抜く」というのは難しそうだ。どうするのかと見ていたら、ヴィンセントは人差し指で氷にぴたりと触れる、すると触れた先からシュウウと急激に氷が溶けはじめた。あっという間に氷は全て元の麦茶になって、クラウドのお尻から零れた。拓かれていた肛門も、連れて狭くなっていく。顔を寄せたヴィンセントは、唇で溢れた麦茶を吸い上げる。喉が渇いていたんだろう。そう言えば俺もかなり渇いた。

「うう……」

 手のひらをグーにして、ヴィンセントの舌を受ける。俺も飲みたい、代って欲しかったけど、もうあらかた飲み終えられてしまった。

「後は任せる」

 ヴィンセントは唇を手で拭って立ち上がった。代わって、足の間に俺が跪いた。

「にゃ……?」

「ん、あのさ、クラウド。お前さっきヴィンセントのおしっこ、飲んだろ?」

「……ん……」

「俺にも、飲ませて欲しいな」

「え……?」

「クラウドのおしっこ。ダメ?」

 クラウドは一瞬顔を曇らす、が、初めての経験ではない、それに、もうその程度を耐えられないで快感を得られないのは堪らない状態に達している。クラウドは小さくひとつ、頷いた。

 口を近づけると、冷たく熱い場所から檸檬色の液体が迸る。上手く出せないらしく、勢いが無いが、それでも確かに感じることは出来る。恥ずかしそうに砂を握り、かすかに震えながら。あたたかくない、生ぬるい。しかし、クラウドの。美味しくないはずがない。

 喉が潤えば、あと残るは性欲のみ。

クラウドは両手を俺に掲げた。

「ん?」

「抱っこ……」

「ああ、うん」

 抱き上げると、まだひんやり心地よい肌。冷たい汁を滴らせる尻の穴へ、熱の塊を飲ませていく。クラウドは「んっ」と声を上げたかと思うと、「はああ」と首を反らして色っぽい息を吐く。

「どう……?」

「熱い……」

「熱い?」

「ん……、すごい、あつい……」

「俺は冷たい、すごい冷たい……」

 冷たい肉のアツイ動きに震える。ちょっと、すごい、何ていうかこう、痺れていくようなカンジだ。しもやけになったりしないだろうな……。

「……融けそうだな」

「え……?」

「うん、お前が……。俺の熱で融けてしまいそうだから」

 クラウドは俺の顔をまじまじと見つめた。それから、ちょっと苦しそうに笑い、

「心配しないで」

 と。

「融けないよ。あんたのことをおいていったりなんか、しないし、それに俺」

 目線を切って、また抱き付く。触れ合った冷たさに、俺の乳首も立つ。

「ザックスがあっためてくれるなら嬉しいよ」

 うは……。

「クラウド……」

「な、に?」

「……動くよ」

 辛うじて、言えたのはそれだけ。冷炎に包まれて火傷寸前突き果てて、ほんとうに俺の精液が、クラウドの中で跳ねて熱く感じられる。そして、俺の腹に胸にクラウドから放たれたミルクは冷たい。

「う、んん……っ、ひゅ……」

「……熱い?」

「うん……、あつい……」

 寝かせて、抜く。腹に出されたクラウドのものを指で救って舐めてみる。アイスクリーム、だ。ふと、俺は自分のペニスを握ってみた。びっくりするくらい冷たくなっている。プールから上がったばかりの時みたいに、袋もかなり縮こまってしまっている。雪女とセックスしたらこんな風になるのだろうか?

「……冷気属性、外してやろうか」

 ヴィンセントはしゃがんで、クラウドにキスをした。唇が離れる瞬間、クラウドの唇からヴィンセントの唇へと、粉雪のようなものが流れていくのが見えた、ような気がした。

「ふ……う……」

 クラウドはくったりと砂の上に身体を弛緩させた。睫毛に汗が宿って、キラキラ輝いている。凍っていた身体が徐々に体温が戻ってくる様子が見える。張り詰めていたアソコも、柔らかく足の間に寝ていく。

「……五時、か。頃合いだな、そろそろ帰ろうか? 汗は仕方ないから、そのまま車に乗れ」

 車の椅子の生地が、まだ汗ばんだ背中に触れると嫌味な感触。後部座席で俺たちふたりして、背筋伸ばして座っている。

 冷房を停めて、窓を全開にして走る。汗ばんだ肌に、吹き入ってくる風がとても心地良い。

 

 

 

 

 家に五時半到着、三人でシャワーを浴びて(そして一回だけして)、テレビの前に六時丁度着席。ヴィンセントがビールを二本と麦茶を一杯。彼はビールを片手に夏休み最後のディナーを作るために台所へ。テレビの音を大き目にしてあるから、試合の内容は聞こえるはずだ。

 夏休みはあと、六時間。最後の六時間のうち三時間半は野球で消えるし、十二時丁度まで起きているつもりはないけれど、でもやっぱり、もう六時間で終わってしまうのだ。

 明日からは学校。

 初日は「4」がいっぱいの通信簿を提出して終わりだし、暫くは短縮時間割だから短いものだけど、やっぱり夏休みは終わってしまうのだ。

 たっぷり楽しんだ、だけど、なんでか、寂しいのはやっぱり、夏休みは俺たちにとってとても幸せなものだからだろう。クラウドは試合に勝っても、何だか切なそうに笑う。

「……じゃあ、寝るか?」

「ん」

また来年の夏へと。つながっていけばいい、つなげていけば良いんだ。

 


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