わるいこ

猫ヴィンセント、見ていると色々興味深い。よくよく考えてみると、今でこそあんな彼でも、子供の頃は間違いなく可愛い男の子だったのだ。それも、そんじょそこらでもてるようなのレベルじゃない、にっこり笑ったときなど、テレビの子役なんかよりもずっと愛らしい――そう見えるのはむろん、贔屓目もあるだろうが。 そして、その声。鳴かせた時だけではなく、彼の声はクラウドよりも更に澄んでいる、ボーイソプラノ。クラウドほど高くはないが、よく通り、響く。クラウドのも、アイスクリームみたいな甘いとろとろした声で、とても可愛いんだけど、それとはまた違ったいい声なのだ。

猫の声は二人とも、似たような質。にゃん・にゃんって弾むようにも、あぉうんって転がるようにも、鳴ける。クラウドは、猫の言葉は分からないと言う、だけど猫には伝わってるらしく、クラウドが「うにゃあん?」って話し掛けると、いろんな反応を示す。「うにゃあん?」が「こんにちは、元気?」なのか、「君、いくつ?」なのか、「やらせて?」なのかは分からなかったが、猫たちは概ね上機嫌で寄ってくる。ヴィンセントも同様だろうが、外で猫にはならないから解からなかった 二人は良く似ている。片方の中身が六十何歳の爺様であることを頭から除けば、二人は体格も、仕種も、そっくりだ。休日の午前中、家事に精を出す俺を横目に、二匹でソファに丸くなって、お互いの身体をくっつけあってる姿とか見せられると、俺は何だか、掃除機なんてどっかにやって、俺も猫になりたくなる。

「にゃ、あん……」

「んん、る……にゃ」

リビングの平和な光景、半猫二匹、日向でうたた寝。暖かくなった毛皮を、お互いに欲しがって、いつしか肉球を重ねあって、夢と現を行ったり来たり。時々うっすら目を開けて、すぐ目の前に自分と似たような奴がいると確認して、尻尾まで相手に巻き付けて、また目を閉じる。俺はクラウドとくっつきたくても、さすがに尻尾はないし、重ねられる肉球もない、非常に残念。

ともあれ、猫二匹レスト・イン・ピース。あとはこの部屋だけだけど、どんな夢を見ているのかゆっくり考えるのも悪くない。俺は掃除機を置いて、一休み、クッションも使わないで折り重なる二人の側に、腰掛けた。側にいると、くるくる、くるくる、喉の奥で鳴る幸せの鈴の音が聞こえてくる。こうして座っていると、俺はこの二匹の背景になってしまったかのような錯覚を覚える。一枚の、完璧な写真もしくは絵画、まどろむ二匹の、安らかな、ちょっぴり眩しそうな表情は、静かな幸福と満足を見事に表現し、また窓から差し込む冬の日差しに照らされた二匹の長い睫と薄く開かれた瑞々しい唇、黒と虎のふっくらとした毛皮、そろいのセーター、それらは「愛情」に流れる時間を一瞬に集めたかのようである……なんて評をいただける絵になるかもしれない。

生憎写真機は地下に行かないと無い、俺は電話のわきのメモを取り、気の向くままスケッチしてみた。十五秒後、俺はそれをくしゃくしゃに丸めてポケットに詰め込んだ。絵になんかしなくてもいい、このままを再現することなんて、無理、写真機であっても。ここに聞こえてくるお前たちの愛しい音色すら記憶できる、俺自身に頼ろう……。どうせ絵は下手ですよ。 ずっと見ていると涙が浮かんでくる光景を俺はもうしばらく見つめた。こんなに嬉しくて可愛くて幸せなのに、胸がとても痛くて泣きそうになってしまう。俺は生まれてから何度もこれを感じてきた。きっと幸せなことなんだと思う。他の誰かが俺にくれる無償の歓びに、俺は打ちひしがれる。何の打算も、理由も、そこには見付からない。俺の嬉しいものがそこにあって、それらは無意識に俺の、正しく発達する時期を奪われた感受性を、甘酸っぱい麻酔に浸していく。 顔に触ったら起きそうだった、俺は二人の膝に一つずつキスをしてから立ち上がり、そっと部屋から出た。ゆっくりおやすみ、ただし風邪を引かないように。掃除なんてその後でも十分だから。

 

 

自分の部屋で、写真機にフィルムが入ったままになっているのを見つけて、顔を顰めた。あとまだ十二枚も残ってる。いつのだろう、思い出してみる。写真機自体、あまり使うチャンスが無い、裏を返せばそうイベント的なことがない俺たち、だから使うのなんて限られてる。最後のイベント、となると、何と去年の夏の海水浴ということになる。 はぁ、とため息を一つ。何だかなあ、俺ってこういうこと多いよなあ……、でもヴィンセントだって気付いてくれればよかったのに。今もう一月、さりげなく年を開けてお餅を食べて、さあ今年も頑張って行こうぜと、昨日は七草粥なんて作った、明日から学校も始まるというのに、何で去年のフィルムを忘れるような体たらく? 普通の家なら大掃除の時に気付くんだろうけど、うちは大掃除は、普段使わない部屋しかしてない。生活環境は一日交代の毎日掃除で、いつもきちんと片付いているから、例えば二階の東側の三室続きの一番奥とか、入ってすぐ両手の小部屋(昔、宝条のメモが置いてあった部屋だ)とか、普段は使わない部屋しか掃除するところが無い。そこも軽く掃除機をかけて終わり、だった。広い家でも普段からコツコツやってれば楽なんだなと、ヴィンセントとお互いの殊勝さにニヤリと笑いあった。でも、こういう盲点もあるってことだ。カメラの周りは普段から掃除しているから、なおさらカメラの中身まで目が行かなかった。

フィルム、伸び切っちゃってないかな。せっかく撮った、こんがり焦げたクラウドの水着姿、何枚も入ってるだろうに。さっき写真機よりも正確な、と評した俺の記憶は、灼熱の太陽の下、汗のしずくを浮かべながらも、ビーチボールを脇に抱え、にっこり笑うクラウドの姿を浮かべていた。健全も健全、紺色の水着からは小麦色の太股。上半身もあますところ無くしっかり焼き色がついていて、白さが残っているのはそのパンツの中だけ。本当は、すごく過激な水着の写真も、真っ白なチンチンの写真もあるのだけど、それは写真屋で現像してもらえないから、デジカメで撮った。詳しくは割愛するけど、ヴィンセントが通販で買ってきたえっちな水着、きわどすぎてクラウドが一回、ぷつんと切ってしまったけど、翌朝ヴィンセントがつなげて、撮影するに至った。殆ど裸と変わらない真っ白なお尻をこちらに向けて、恥ずかしそうな表情のクラウド、今はヴィンセントのパソコンのデスクトップを飾っている。 ともあれ、クラウドの水着姿、記憶の中だけでなく、久しぶりに見たくなった。あと十二枚、散歩でもして、街の風景でも撮りに行こうか……いや、それよりも、あの二匹の姿を撮った方が。

俺は足音を忍ばせてリビングへ戻った。さっき以上に平和な寝息をする二匹。ほっぺたと肉球と尻尾を重ねあって、殆どシンメトリー。呼吸のリズムが一緒なのがちょっと妬ましい。俺はそっと近づいて、シャッターを切った。機械の音に、ハーフとはいえ野生の血、ぴくん、耳が動いた。さきにもそもそ動き出したのはオリジナルじゃないくせに鋭い、ヴィンセントの方だった。ううん、目をこする姿を一枚、それに触発されて目を手で覆ったクラウドも一枚、そして二人の欠伸も一枚ずつ。

「……にゅあぅ……」

「にゃぁ、にぃ……?」

クラウドは足りてない舌とまだ覚醒前の瞳で言った。俺はその写真に「眠」ってタイトルを付けることに決めた。

「写真、撮ってるんだよ、お前たちの可愛い姿を永遠に」

ヒト型なら「上手く撮れもしないくせに」と言うところだろうが、ヴィンセントはふうんとレンズを覗く。ヴィンセントの鼻がどアップになった。もう一度大きな欠伸をして、ふるっと首を振って、ちゃんと目を覚ましたクラウドの髪は、ちゃんと撮るにはちょっと乱れている。いや、そのままでも十分に可愛いけれど、写真機の前ではきれいにしたいという気持ちは人類共通? ぺたぺたと肉球手で押さえて整える。ヴィンセントも、逆立ってしまった毛皮(彼は長毛種だから)を手で寝かせながら、

「なんだ。ザックスのことだから、変なことに使うのかと思ったよ」

憎まれ口を。変なこと、そうだな、そういう使い方もあったかと思ったけど、それはどっちかって言うとお前の発想じゃないのか?

「二人、そこ並んで座って」

そもそも俺はこの平穏を壊すほど無粋じゃない。居住まいただして、肩寄せ合う二人は、兄弟のようだ。ペアルックがまた、憎たらしいくらいに似合う。白のふわふわセーターに太股までのジーンズ、そこから先は色違いの靴下。二枚撮ってその後は二人、元々くっついてるのにもっとくっつきあって、もう一枚。更にはキスしてるところまで撮らされた。フィルムが全部無くなる。何だかんだ言ってノリノリだ二匹とも。というか、ヴィンセントのノリにクラウドが乗らされてしまっているようにも見える。普段は自分からキスなんかしないのに、撮影が終わった後、何の理由も無くもう一度、ヴィンセントのほっぺたにちゅっとやってた。俺にも、と言おうとしたときにはヴィンセントからの熱烈なお返しを受けていて、何だか本当、仲良し二匹におじさんは置いてけぼりだ。

「クラウド、ねぇ、僕のこと、好き?」

「うん……、ヴィンのこと好きだよ。……ヴィンは俺のこと、好き?」

「もちろん、世界で、宇宙で、一番好きだよ……愛してる、クラウド」

「んん」

ちゅ、ちゅ、音を立てて、キスを繰り返す。二人ともうっとりと目を細め、互いの身体をしっかり抱き寄せ合い。美しい光景だから写真に取りたいけど、もうフィルムは残ってない。カメラと一緒に一応持ってきてたデジカメで一枚、でも出来上がりに俺のこの想いは込められてないんだろうな。悔しいから、いいやもう、傍らに転がってるクッションでも撮ってやれ。

「なあ、二人ともさ、ここ掃除するから、いちゃいちゃするなら、どっか別の部屋でだな」

「あ、ぅんん、くらうどぉ」

「ふぅにゃぁ……んん」

「……」

いきなり「がああ」と音の立つ旧式の掃除機をかけてやると、彼らは一瞬で凍り付いて、真ん丸の目、俺がもう一度「掃除するから、どこか別の部屋でやってくれよ」と言うと、意地の悪い微笑みを浮かべてヴィンセントが、

「クラウド、ザックスが妬いてるから、キスしてあげておいで」

と。猫ヴィンセントの言うことなら素直に聞くクラウドは頷いて、背伸びをして俺の唇にキス。既にしっとり濡れてる唇は、とても美味しくて、ちょっと悔しかった。

「じゃあ、クラウド、僕の部屋に行こう」

「うん」

やりに、行くのか。

まあいいや……、普段は俺がこれに近いことをやってるんだろうし、ヴィンセントに奪われるのは慣れっこだ、あいつは確かに魅力的だし、猫の姿はいとおしいし。 猫手を繋いで、二人は部屋を出ていった。残された俺は、があがあうるさく喚き散らす掃除機のスイッチを入れて、響き渡るその音に、寂寥感が募るのを感じていた。

 

 

さて、以下に記すのは俺が掃除機と格闘し、椅子の下に百ギル硬貨を見つけて微笑み、花瓶の水を替え、手を洗いエプロンを外し、緑茶を一杯飲んで今朝の朝刊に目を通した後、さてあいつらはどんな塩梅であるかと上の部屋を覗くまでの間、つまり約一時間の間に起こったことで、後からなされたヴィンセントの告白と、俺の想像の産物である。だから事実とは多少異なり、結果、クラウドの名誉を毀損する可能性を孕んでいる。これを読んでクラウドを嫌いになったり、「イメージ変わっちゃった」と言ったりしないでいてくれるという寛大な読者諸氏のみ、ページを捲っていただきたい。

 

 

俺が下で掃除機をかけていた頃。

クラウドとヴィンセントは何度も何度も、子供っぽいキスをしていた。ついばむように、触れては離れ触れては離れ、その行為を純粋に楽しんでいた。ヴィンセント自身、童心に返ると言う言い方は変かもしれないが、その子供としての楽しみを満喫していた。クラウドはもとから深いキスより浅い方が、普段は好きだ。明日から始まる学校、俺が家事の日は出かける前、クラウドの上顎まで舌を伸ばす、クラウドは眉間に皺を寄せて、時々学校所じゃなくなる。二学期の「遅刻六、欠席三」は全て俺のせいだ。

二人は、唇を重ねる時間を、徐々に延ばしはじめた。目を閉じ、相手の温度にうっとりとした眠気を感じ、そっとベッドに横たわった。ヴィンセントが舌をぺろりと伸ばして、クラウドの頬を舐めた。クラウドも答えるように、おずおずと舌を出して、唇の端を舐めた。二人は相手の舌先を突つくように舐め合い、そして、徐々に、拓かれた口唇の中へと、舌を差し込んだ。唾液の味は、透明感があって、しかし粘っこく舌に絡み付いた。クラウドはいつしか、自分の腰から下に走る芯が、むずむずするのを自覚しはじめていた。

この時クラウドの心の中にあったのは、多少の恥じらいと、物足りなさだったんだと俺は想像する。唾液が零れ落ちて、羽毛の布団に染みが出来た頃、離されて改めて見たヴィンセントの貌を、とても美しく感じていた。

これは俺の主観だからクラウドがどう思ったかは知らない、でも、ヴィンセントは猫姿でも、妖艶と言っていいほどの色香を纏わせている。思うに、人型の時のそれが、例えば俺がこんなにも惑うように、燐の香りのような、ちりちりと危険なものであるのに対し、猫型の時は、全裸の美少年、儚く、弱々しい一面を覗かせる。だから俺なんかは、人型の彼には抱かれたいと願うし、猫型のときには抱くことを望む。多分、それはクラウドにも共通のことなんじゃないかと、思う。クラウドで、さえも。

「……もっと、キス、する?」

「……うん……」

そうして二人はまた、口を開いてキスをする。胸を重ねて、角度を変えて、吸ったり吸われたりしながら、口の中で二種類の唾液を這わせた。そして、クラウドは無意識のうちに、身体を、ヴィンセントの上に移動させていた。帯びた熱は男としてのもので、ジーンズがとてもキツく、苦しく感じはじめていた。ヴィンセントの口内に、彼としては有り得ないほど積極的に舌を刺し込んで、その口の周りも濡らし、そんなひとつひとつにひどく興奮しはじめる。相手のことを、汚したい、自分色に染めたいという欲求は、男性特有のものだとされている。クラウドはその時間違いなく、男の性を発動させていたのだ。 それに、ヴィンセントは気付きはじめていた。

「……クラウド?」

口が止まると、クラウドはヴィンセントの首に顔を埋めた。匂いをくんくんと嗅ぎながら、唇を丁寧にそこに当て、そのまま頬から、右目の横、額へ、キスをしながら、匂いを嗅いで移動する。ヴィンセントは戸惑ったように口を結んでいたが、クラウドなりのアプローチを止めることはしなかった。その頃にはもう、下腹部に当たるジーンズがぬくもりを帯びていることに気付いていたのだ。 ヴィンセントは両手で、その膨らみに触れた。

「や……」

「……嫌?」

「……いや……じゃ、ない」

クラウドは切なそうに、ヴィンセントを見下ろして言った。けれどその眉間には、不足を感じさせる皺が一筋寄っていた。 小さく笑うと、ヴィンセントは手だけ人型に戻し、クラウドのジーンズのボタンとジッパーを開き、続けて自分のも。一旦半身を起こし、二匹は半裸になった。クラウドのそこの先端には、既に蜜に濡れた亀頭が覗いていた。ヴィンセントのそれもまた、固く成長を遂げようとしている最中で、斜め上を目指した。

「クラウドの、まだ、剥けないね」

「……ん……」

そう、クラウドは包茎。まあ年齢的に、仕方の無いこと(むしろ身体年齢十歳なのにむけてしまうヴィンセントが異常だ)だが、「あなたの男を上げる」とか、「もう恥ずかしくない」とか、包茎であることをカッコ悪いかのように書いてある包茎手術の広告、あれは、本質を述べていない。重要なのはそこに垢が溜まったりして、相手を泌尿器の病気にしてしまったりすること。何でこんな詳しいかって、一応……、クラウドのあそこが子供らしい真性のそれだったから。先っぽに皮が余るほどだからどのみち剥こうというのが無理だったのだが、それでもフェラチオのときとかは。それに、年取ってくると包れたところが癌になるって聞いたことがあったから、いつかは――例えば手術という形でもいいし――剥いてやらなきゃいけないことは解かっていた。でも……。

可愛いんだよな、フェティッシュ? うるさいだまれ、クラウドのちんこは可愛い。断っておくが俺は仮性でも真性でも嵌頓でもない。十四のときにどっかの誰かさんに、「いいじゃん、剥いた方がいいって、その方がでかくなるんだぞ」「な、何言って……!」「それに剥いとかないと不潔だぞ、ションベンの病気かかんぞ、チンチン痒くなんぞ、それでもいいのかー」とそそのかされ、痛い思いをして剥かれたのだ。

「でも、可愛いよ」

「……ありがと」

気分は複雑。 ヴィンセントは「可愛い」ところをかぷんと加える。口の中でもごもご動かしてやると、すぐに、いつものパターン。別に人型でこれをやったっていいわけだが、多分彼がいつまでも猫のままだったのは、こっちのほうがクラウドの羞恥心を抑制しやすいからだろう、「君のを見せて、僕の、していいから」みたいな。

「ん……、ヴィン、ヴィンセントぅ」

「……どうしたの?」

クラウドの眼は、ちょっと潤んで、彼が気付いていない「可愛いオーラ」をふんだんに振りまいていた。

「……お尻、してほしくなっちゃったの?」

クラウドは首を横に振った。おや、と思ってヴィンセントは首を傾げた。珍しいね? と。じゃあ何だろう、そう思っていると、不意に視界がぐらりと揺れた。クラウドにすがり付かれて、自分は押し倒されていたのだ。その時はさすがに冷静なヴィンセントもどきりとしたのではないだろうかと推測する。

「……ヴィン、俺、ヴィンのこと、したいよ、抱きたいよ」

クラウドは一気にそう喋ると、反論を塞ぐようにまたキス。俺とやりかたが一緒かもしれない。

最初はもちろん、びっくりしていたヴィンセントだが、彼の内心はすぐに、その幼い激しさを可愛らしく感じるようになっていた。少しだけお兄さんの気分で、かわいいな、そんな風に思っていた。 息が苦しくなって離された顔、クラウドは切ない表情でヴィンセントを見下ろしていた。

「そんな可愛い顔しちゃだめだよ。僕が抱きたくなっちゃうよ」

ヴィンセントはにっこりと笑い、背中を向けて尻を突き出して見せた。中身があれだとはいえ、やはり少しは恥じらいを感じ、彼の内部の嗜虐性が、微細な棘となって彼の官能を刺激した。

「……僕の、したいんでしょ?」

瞬時の判断力を失っていたクラウドに、ヴィンセントは言った。

「クラウド、……僕のお尻に入れたい……、違う? 抱くって、そういうこと、だよ?」

普段はされるがままのこの子が、自分の上に乗ってキスをしてきた、それは、クラウドが自分をこういう風にしたいという気持ちの現れであると、ヴィンセントは理解した。この子になら、何処でも見せても構わないと思っていたから、恥ずかしくても、こんな風に恥部を露出することは苦痛ではなかった。

「いいんだよ、クラウド、君の自由にして……。今、僕のからだは、全部君のものだから」

「…………」

クラウドは頬を染めて、俯いてしまった。きまりの悪いことに、ヴィンセントの股下を見て、クラウドは更に自分の勢いを増させてしまった。とくん、とくん、とくん、心臓の鼓動がそのまま、剥かれたばかりのアソコに伝わってしまう。お尻の奥もむずむずするけれど、その身体が、今は欲しい。

クラウドは、震える唇を叱咤して、言った。

「……ヴィン、の、……お尻に、入れたいよぉ……」

ああ、かわいいな、ヴィンセントは思い、胸が痛くなった。

「……ん。……クラウド、僕もクラウドに入れて欲しい」

高鳴る鼓動を隠す努力もしない。クラウドはヴィンセントの無垢な肉の扉に顔を近づけ、いつも俺にされてるみたいに、舐めはじめた。この子は、自分が一番汚くて、それ以外はみんな清潔と思い込んでるから、舐められるのは嫌でも舐めるのは平気みたいだ。それどころか、ひょっとしたら楽しいと思っているのかもしれない、ヴィンセントが細い声で鳴き、尻の穴をひくつかせるのを見て、クラウドは更に興奮した。

「……どうしよう、……俺、ゆび、ないから、慣らせないよ……」

「え……?」

「……お尻入れる前に、……しないと痛いよね……」

ヴィンセントはすぐに答えを出した。この子を愛するのになりふり構ってなんかいられない。それに多少の痛みを我慢してでも、気持ち良くなってもらいたかった。

「僕が一旦指変えてしてもいいけど……、でも、……直接入れて、大丈夫だよ。僕もう、平気。欲しくて、うずうずしてるんだ。……クラウドの、早く、欲しいよ」

勢いを止めないように、クラウドの支配欲を刺激する言い方。

「……痛かったら、痛いって言ってね……」

一人前にそんな事を言って、クラウドはしずくを浮かべた自身を、自分の唾液で濡らした場所に押し付けた。

「……じゃあ……入れる、からね?」

「……うん」

ヴィンセントの腰に手を回し、恐る恐る、身体を繋げはじめる。クラウドは激しい快感にぶるぶるっと震えた。

「ふ……ぅん、くらうどぉ、もっと……入り口だけじゃなくて、奥も入れてよ……」

「……ん、ん……、っ、ふぅ……ぅう」

ヴィンセントの行う無意識の収縮が、クラウドに強い快感を与えていた。中途半端な大にのぞくあそこの先が、燃えるように熱く、性感の蛇がクラウドの中で暴れまわっていた。ちょっとでもお尻に力を入れれば出てしまいそうで、はやる気持ちを押さえて、クラウドは慎重に腰を進めた。

「ひゅ、うっ、あぅ、や、だ、だめ、ヴィン、お尻、きつく……でちゃうよぉ、ちんこそんなしめちゃだめ……、でちゃうからぁ」

慣らしていない分、余計に締まる尻の穴の中は、快感の坩堝だった。奥に進めれば進めるほど、クラウドの亀頭は容赦ない快感を味あわされていた。

「ん、そ、んな、こといったってぇ……気持ちぃんだもん、クラウドのおちんちん、ぁあ、お尻ぃ……お尻気持ち良い、動いて、クラウド、お尻の中いっぱいうごいてぇ」

この頃になるとヴィンセントも堕落している。人型の時には感じても言わないようなことを口走る。それがまた、クラウドを感じさせるのだ。

「あ、あぅ、いっ、いく、いく、いっちゃう、ヴィン、いっちゃうよ、いく、……いくっ」

「ひいぃん」

胎内でクラウドが激しく跳ねて、多量の白濁が放たれるのをその身で感じる。人型の時より数倍、快感に対してガードの甘い身体になってる彼は、クラウドの「ぴくぴく」という動きで、到達を迎えてしまった。震えながら羽毛布団に精液を撒き散らした。

二匹は繋がったまま、ベッドに崩れた。ヴィンセントは胸にべちゃりと冷たい感触を受けて、背中に一瞬、走った。けれどそれは、すぐ終わったのだ。――僕の精液、クラウドが出させてくれた大切な、僕の精液。下衆な歓びはふんだんに含まれた砂糖の味で、だから自分とシーツの境目よりも、肌と肌の、とくとくとくとく続く心臓による微かな振動の方に気を取られていた。人型のときには隠されている、うなじ、クラウドの吐息が当たり、そして大人みたいにキスを一つ二つ落とされた。

「クラウド、……気持ち良かったよ」

首の後ろで、鈴がころりと鳴った。嬉しさ恥ずかしさ入り交じった音を一つ響かせた。 俺がいないと、……何度もいうけどその場の雰囲気が、すごく「平和」になるんだな、と思う、つくづく。可愛い猫耳の男の子が二人、他の誰にも秘密な、なんだかちょっといけないこと、共有する秘密の幸せ、何だか生まれるくすくす笑い、俺もそこにいたいけど、やっぱり邪魔かな、なんて思ってしまう。

羨ましいな……。やっぱり無い物は欲しい。彼らが俺の、戦いでごつごつしてても物を掴むことが出来る手を羨ましいと思うのと同じように、優しい毛皮が俺を不思議な気持ちにさせるのだ。そしてその、少なくとも純粋な心も。

だがな、ヴィンセントは俺に話すとき、ここでふーっと息を吐いた。俺はまんじゅうを頬張り、ずっと音を立てて緑茶を。あんこと渋めのお茶って相性、いいよな。ここでやめておくべきだったよ、彼は苦しい表情で言った。

ヴィンセントは緩やかな充足感を感じつつ、ところでアソコの充足感はこのあとどうなるんだろうという密かな疑問があった。互い、ただ繋がってるだけ、「だけ」で、だが本人の理想かそれとも本当にわからないがとにかく硬くよく締るあそこの穴は、細く柔らかくなりつつあるクラウドで、今も詰まっていた。さらに、わずかな隙間から精液が少しずつ流れ出て行き、ツルツルながら皺の寄った袋まで流れるような状況で、他は弛緩しきっている身体で、そこだけずっと、力が抜けたり入ったり。そして、年相応に弱い二人のからだはそこから、また新しいものを見つける好奇心も旺盛だったりする。

「……ヴィン……」

そしてその時まだヴィンセントは甘い考えしか持っていなかった。クラウドのあれがまた、だんだん大きくなって、伴って自分の奥を広げていく。重なって穏やかだったはずの呼吸が鼓動が早くなる、それでも、

「もう一回? ……ふふ、クラウド、元気だね」

なんて言う余裕があった、余裕しかなかった。

中味には、自分がクラウドより五十センチ近くでかくて、体重も三十キロ以上重くて、持ってる知識も積んだ経験も桁違いで、ピアノも弾けて煙草も吸えて強い酒でも酔わなくて、誰より優しく強いという自信があった。その自信の裏付けは俺も頷くところだが、しかし俺たちは、嫌というほどよく知っている。自信の背中に生まれる、危うい空白の事を。長いこと戦いから離れていたから、ひょっとしたら、その基本中の基本、どこかに置き忘れてしまっていたのかもしれない。 実際その時はまだ、クラウドの乱れはじめたばかりの呼吸からは、結末を予感させるような物はなかったという。俺も多分、仮に彼にお尻を貸してあげたとして、そのまま重なってて、

「……んん、もっとぉ、……気持ちぃく、なりたいよぅ」

って言われたら、しょうがないかなあと一回くらい大好きなクラウドのためだ一皮剥いもとい一肌脱いでやるかという気持ちになるんではないかと思う。仮に尻の穴だとしても、クラウドが気に入ってくれたんなら尊重したい。俺も、汚いケツで良ければ、お好きなだけどうぞ? でも後で、ちゃんと、しっかり洗わせてね?

「いいよ、クラウド、また、動いても」

だけど、クラウドは「いや」と言う。

「……顔、見ながらがいい、ザックスがするのが、いいの」

「ザックスがするの?」

「……お腹の、上、乗せて……っ、ん、まだ、そんな締めちゃだめだよぉ」

無意識のうちに動いてしまう括約筋は恥ずかしいが、クラウドの方がよっぽど立場は弱い。ヴィンセントはだから、そんな屈辱も喜んで、受けた。もしこれがオリジナルで、相手がクラウドではなく俺だったりしたら。「私がそんなに欲しいのか……、わかった、お前の好きなようにさせてやろう」「あ……ヴィンセント…………ひぎゃあ!」「ふ……、カオスの括約筋を舐めてもらっては困る」……あんた、そうするだろ、たぶん。

一旦、中から抜いて見たクラウドを見て、ヴィンセントは、自分に刺さっていたものだという事も気にせずしゃぶりつきたくなってしまったという。細っこいあれにクリィムを纏わせて。美味しそうにみえるのも無理はない。俺なら、ヴィンセントに入れた後のだったら、舐めてる、状況にもよるけど……十中八九。噂によると、クラウドの甘い味に加え苦みがするんだそうだ、ヴィンセント談、舐めたわけでもないのに……。

「ザックスはこの格好、好きなんだ?」

はぁ、と息を吐きつつ腰を落とし、それほど苦痛無く身体をつなげた。斜め下からのクラウドの視線が、つん、つんと両方で立った乳首を、そして心臓の周りの精液で出来た模様を、臍を、羞恥心をそそられる勃起した部分を、そして臍、心臓、乳首、もう一度見て、切ない顔へ、往復する。

……ああ、好きだよ、そりゃ、この体勢。大好きなお前の全部が見えるんだもん、繋がってるところまで。

「……うん……たぶん。俺の、チンチンとかおっぱいとか見て、笑うの。かわいいね、って……恥ずかしくていやなのに、俺に、自分で動かさせるんだ」

いやなのに、僕にやらせるんだね……。内心苦笑いしながらも、ヴィンセントの気持ちは一つだった。

「いいよ……、クラウド、ザックスみたいに、えっちで変態でも、いいよ、僕、クラウドのこと嫌いになったりしないから……好きにして」

「ん……。ヴィン、ありがとう、大好きだよ」

「……僕も」

クラウドは起き上がると、二回、キスを交わした。そして再び仰向けになり、ヴィンセントの裸に見とれた。その、恥ずかしい物を見るような、独特の愛しみと疎みを混ぜたような中間色の視線に、少年ヴィンセントの裸体は恥辱に焦がされはじめた。純粋な子供の前で、こんな、尻に物を入れて、僕は何をやってるんだろう……? ヴィンセントのそんな気持ちとは裏腹に、クラウドの心は原色のまま、なんて綺麗な裸なんだろうと思っていた。クラウドは手を伸ばして、肉球ではなく手の甲の毛皮で、ヴィンセントの裏側に触れた。

「あ……」

ぴっ、と震えるそこを、うっとりと眺め、クラウドは遅れて来た収縮の快感に、眉間に皺を寄せて「あっ」と吐息を漏らした。

……どっちが攻めているんだか、これじゃあ……。ヴィンセントの視点からのクラウドも、十分色っぽかった。少し意地悪をして、きゅ、きゅ、きゅ、締めてやると、クラウドは「ふぅん」と鼻にかかった声を漏らし、首をゆるゆる振った。

「ん……ん、ヴィン、動いて……」

このままされ続けたらすぐにいってしまいそうだと判断して、クラウドは涙目で求めた。そんな瞳に抗えるはずも無くて、ヴィンセントは頷いた。腰を浮かせ、また下ろす。上下動しながら、ふと気付いてみると、クラウドの視線はまた、自分の身体の上を泳いでいる。泣きながらも、恍惚とした表情で例えば腫れた乳首を見られると、いたたまれなくなって隠してしまいたくなってくる。それでも両手を我慢して下ろしたまま、なお続けると、かなり強い快感がヴィンセントを襲った。

羞恥心プラス愛情マイナス理性イコール悪魔をも殺す快感。

「……いや、……いやぁ……」

「ん……ヴィン……お尻、きもちぃ……、もっと、締めて、そぉ、いいよぅ……」

「いっ……クラウド、……くらうどぉ、へんになっちゃう……ぼく、こわれるよぉ」

「ヴィンも、きもちい、でしょ? ……おつゆたくさん、出てるよ、おしっこみたい、透明なのたくさん……」

いけない、彼は目をぎゅっと閉じて、惑いの視線を撥ね退けようとした。ちりちりと、針で刺されているようなのだ。危険な蜂の毒針のような。性器を見られれば、尿道経由で奥まで侵食され、失禁してしまいそうだ。乳首や精液の跡を射るそれは、心臓を影に縫い付けて止めしまいそうな危険さがあった。どうしてこんなに、攻撃的に感じてしまうのか、ヴィンセントには分からなかった。ただ、目をつぶっていても、クラウドのブルーの瞳は常に彼のどこかを刺激して、ヴィンセントは自分でも信じられないほど早く、到達してしまった、本当に崩壊しそうなほどの、快感を津波のように引き連れて。 俺に言わせればそれは……、俺もヴィンセントや他の奴相手に経験あるけれど、肥大化した羞恥心と、それを曝け出したい欲、そして過度の自意識によるものだ。ヴィンセントは初めての経験だったらしい。自分の恥ずかしいところ、見て欲しくないところ、もっと見て欲しいという気持ちを自分が知り、ああ自分は、こんなみっともない……そう思うと、ひどく胸がドキドキする。その時に、性的なことをしていれば、到達が早まるのは当然の結末。「ご覧……、お前の性器は大して大きくも無いくせに、今は自慢気なほどに立ち上がって。その滴は飾りのつもりか? 愚かだな、男性器の機能を知らん訳ではあるまい? 本来の使い方を歪めて、こんな風に男にしゃぶらせる。目を逸らすなよ……、淫乱が」……俺は、この言葉と裏側への優しいキス一発で出してしまったことがある。

ともあれ、クラウドを置いて、ヴィンセントは到達して、クラウドの上に覆い被さった。自分でも怖いくらいの快感は、今だ胸の奥でびくびくとのたうっている。今到着した地点から、動けない。本当なら一度下山して装備を整えて、もう一度登り直すはずの山なのに、降りられない、降りたくない。……俺はここまですごい快感を味わったことはないけれど。

「ヴィン、俺……、まだいってないよぅ」

言葉の通り、置き去りのクラウドは、ヴィンセントの尻の中で震え続ける。

「……ヴィン……」

互いの腹を濡らして滑らせるクリィムの匂い、二匹は、ことヴィンセントは、その液体が全部自分の物で、クラウドはまだいっていないという事実を思い、また感じる。

「ヴィンってばぁ……、おしりぃ……」

「……ん、ん、……くらぅ……ぅうん、ぼく、なんか、もぉ……へんだよぅ、こわれちゃったよぉ……」

ヴィンセントに、もう、余裕はなかった。じんと痛いあそこ、しかしその痛みが、また気持ち良い。クラウドの腹にぬちゃぬちゃ擦れるのだけでも、気持ちいいのだ。もう、自分でどうこう出来るレベルはとうに超していた。

「んん、まだ寝ちゃだめぇ、俺いってないもん、もっと気持ち良くしてぇ……ヴィンのおしりぃ」

クラウドは体勢的にあまり自由に動かせない腰をもぞもぞと振って、微かな快感を乞う。媚薬を使われたかのように、ヴィンセントは引きつった声を上げた。

「くらぁ……、ほんと、もぉ、おかしいのぉ、おちんちん……ん、いやぁ……あ、ん……! あ、あ」

ヴィンセントの身体に電気が走った。下半身の力が一瞬抜けて、じわあと何かが漏れ出す感触。

クラウドが両手で、ヴィンセントのふさふさの尻尾を掴み引っ張ったのだ。超級の快感は、ヴィンセントを麻痺させ、張り詰めていたペニスの先から、黄金色の飛沫を吹き出させた。ヴィンセントは……多分、十歳の少年の括約筋が想像していたよりはるかに脆弱な物だったのだろう、彼は震えた。クラウドはやや呆然として、ヴィンセントの痴態を眺めていた。 だが、クラウドはくすっと笑った。

「気持ちぃくすれば治るかなって思ったんだけど……。ヴィン、さっき濡らしてたの、やっぱりほんとはおしっこだったのかなぁ?」

「……くらうどぉ……」

ヴィンセントは屈辱に顔を真っ赤にする。クラウドはにっこり笑って、ヴィンセントの頬に口付ける。

「……ヴィンのなら、汚くないもん……。ヴィン、前に教えてくれたよね、俺のおしっこは汚くないって。……俺もヴィンのおしっこ汚いなんて思わないよ?」

ヴィンセントは真っ赤な顔で、涙を零しつつクラウドを見た。クラウドは慰めるようにその頬を撫ぜた。

「……クラウド……」

そしてクラウドは眉間に皺を寄せた。

「俺も、おしっこじゃないけど、漏れちゃいそう、ヴィンの中……もう、……、お尻の穴で、俺の、きゅってしてぇ……」

ヴィンセントを抱きながら体を起こし、抱き締める。

「……動いて……ヴィン……」

「クラウド……」

「大好き……大好きだよ、ヴィンセント」

「……僕も……、好き、クラウド」

ヴィンセントは……、正直、クラウドの精力を嘗めていた。そのあとどうなったかと言うと、クラウドはとりあえず、ヴィンセントに「きゅっ」とされて一回中に出してぐったりとなり、ああやれやれこれで終わりかと、ヴィンセントがほっとしたところ、またむくりと起きて、キス。「ここ、まだだよね?」とおっぱいをペロリ、それからちゅうちゅう吸って、またヴィンセントを鳴き出させる。尻尾を弄くっては「漏らしそうになったら言ってね?」なんてお兄ちゃんみたいな事を言って辱める。そして再びびんびんに

立てて、何を言い出すかと思えば。

「ヴィンのチンチンも、欲しいな……」

かくして自ら騎乗位。ヴィンセントをして、強姦されているようだったとコメントさせるセックス、いくいくと声を嗄らし、羽毛布団はいろんな液体で、ぐっしょり。ヴィンセントですら、途中から記憶が寸断されるほど。だけど、百回は好きと言い合った、ヴィンセントは言った。抱き合っている間も、終わってからも、湿っぽい身体と身体を結んで、唇が乾かないように、大好き、大好き、愛してる。確かな物など何も無い、いつ喋れないようになるか解からない、だから言えるときに言っておきたいの、クラウドはそう言って、青臭いヴィンセントの胸に埋まった。

「ね……、だから、大好き……」

「うん……、大好き、クラウド大好き……」

強く強く抱きしめた。手に力は入らなかったけど。

 

 

「と、言うことだ」

……ヴィンセントは被害者面してため息を吐いた。

「……あんたが、お漏らしねぇ」

「お前だってきっと、するぞ、……なんなら尻尾を付けてやってもいい、思い切り握ってやろうか」

「……遠慮しておくよ」

ヴィンセントは首を廻し、骨を鳴らした。それから、腰に手を当てて少し捻る、くきりと、軽い音がした。

「とにかく……、子供の身体ではさすがにきついものがあったな。元々あの猫のボディは性的には脆弱だ、スイッチが入ると自分でもどうにも出来なくなるし。そして意外なほど、クラウドは強かった。……早漏ではあったが」

「……何回?」

「……八回くらいは」

「……でもそれは連発ってわけじゃなかったんだろ」

「まあ……そうだな、間に少しずつ休憩というか、体勢を整える時間はあった。もっとも私の上で喚く彼のあそこからは、もう何も出てこなかった。ただピクピク痙攣するだけ。彼は痛みを感じながらも善がっていたよ」

「俺、八回も出来ないよ、試したこと無いけど多分。年かな」

「……ノーコメント。私も……生身でやれと言われたら無理だ。カオスが居るから出来るようなものの」

今クラウドは、びちゃびちゃの羽毛布団の上、寝心地良さそうにすやすや寝ている。彼としては、結構な武勇伝を作成した後だから、それなりにいい夢を見ていることだろう。

「セックスに関して言えばな」

俺は手を伸ばし、疲労を隠せないヴィンセントのほっぺたを撫でた。

「あの子、俺たちより上手いし、強いんだな。感じやすいし、すぐいっちゃうし、途中からもうやだなんて言い出すから錯覚してたけど……、考えてみれば大人二人のペースに、あんなちっこいのでついてくるんだから」

「もしあれが私たちと同じような年齢だったとしたら」

「……こわ」

俺たちはきっとあの子に、一滴も残らず吸われ尽くして死んでしまう……。

ヴィンセントは欠伸をかみ殺した。何か、顔がいつもよりもっと青白い。机の上に身を乗り出して、キスをした。乱暴なクラウドより、俺の方が今はいいのかも、しれない。頬を撫でて、

「俺も言っておきたいよ? クラウドに嫉妬したりはしないけど、大好き」

「取ってつけたように言う」

「本気だよ」

「……大好きだ、ザックス……クラウド、クラウド=ストライフ」

大人はね、こんな風に、優しくキスをする方法を知ってるんだよ? クラウド。

「そろそろ起きるかもな、布団も片付けなきゃいけないし、上行こうか」

「ああ……、先に行っていてくれ」

「ん?」

「トイレに行ってくる」

「……一人で行ける?」

「殺されたいか」

何だか弱みを一つ握ってしまった、そうかあいつの尻尾はやっぱりそんな弱いのか。クラウドに対してはいつもやってるから、今度、「あの子」にやってみようかな。後のお仕置きが怖……そうか、俺は、俺も……悪い子か。

「ヴィンセント」

「……何だ」

「いい子」

頭を、驚いたことにすんなりなでさせてくれた。少し気分を害して、フンと言うと、足早にトイレに向かっていった。

さて。

「クラウド……、起きてるか?」

まだ寝てる。

大人のキス、ちょっとは落ち着いて?

とてもそんな悪い子には見えない、それは子供特有の天使の皮のせいか、それともホントはやっぱりいい子だからなのか、俺には分からなかった。


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