トモダチ?

「……あのさぁ」

「何だ」

「サンドイッチの中身、気になるのはいいんだけどさ……」

コーヒーの匂い一杯の金曜のオフィス。

ルーファウスは机の上に広げたナプキンの上、下のパン、レタス、パストラミ、ピクルス、スライスしたオニオン、そして上のパンをバラバラにして、腕を組んで見下ろしている。

「……それ、そのあとどうやって食べるんだ?」

クラウドが訊ねると、ルーファウスはどこか自慢げに解説をしてくれる。

「……まず」

スライスしたオニオンを指で抓み上げて口に放り込む。

「私はタマネギが苦手だ」

「……」

次にレタスを。マスタードが少しついていて酸っぱ辛いはずだが、平然とレタス単品で食べる。

「レタスは、まあまあ」

その次は上下のパンを齧る。

「……要するに」

クラウドは少しだけ頭痛を憶え、言った。

「嫌いなもの順?」

「その通り。お前はなかなか頭が良いな」

「…………」

変な奴……。

ザックスもセフィロスも変な奴だが、こいつ――副社長サマはどうやら、彼ら以上に変な奴らしい。

「サンドイッチの意味ないじゃないか」

「……それもそうだな。次回からはパンとタマネギとレタスとピクルスと、それからパストラミを別々にして持ってこい」

「……?」

「美味かった」

唇の端にマスタードが付いている。クラウドは苦笑して、それを唇で拭い取った。

酸っぱ辛かった。

この奇妙な副社長とクラウドの接点は、ザックスにある。以前――数回、ザックスが自分の体と引き換えに金を要求した事があっただけで、しかしそれがクラウドとルーファウスを結び付けていることなど、クラウドは知らない。

ザックスがルーファウスの元へ届けなければならなかった書類をクラウドに運ばさせ、ルーファウスの目に留まったクラウドはそのよく解らない口説き文句に困惑している間にキスをされ、服を剥かれ、ザックスの元に帰って来る頃にはへとへとに疲れ果てていたのだった。

事前に、ザックスの恋人がクラウド=ストライフという一般兵であることをルーファウスは知っていた。クラウドがどういう人間かも。いっそ狡猾と言ってもいい計画、

あるいはそれは単なる卑屈な諦めか、とにかく、気付けば恋人の恋人(……というのは認めていない、ルーファウスにとって既にザックスは恋人で、クラウドはその恋人の、せいぜい大事なもの、程度。……現段階では)にも惹かれていたのだ。

「……何か……あったのか?」

恐る恐る訊ねるザックスは、自分が行かなかった事にルーファウスが立腹してクラウドに何か乱暴をしたのではないかと後悔をしながら訊ねる。

「……わかん、ない」

よろよろとベッドに大の字になり、クラウドは応えたのだった。

つまり、とにかくつかみ所がない、という印象。

最初の口説き文句が「恋人の宝物だからお前は私の物だ」というのもよく解からなかった。要は、実際には恋人でも何でもないザックスの命より大切なクラウドを欲しただけ、そしてその異常な背後事情を知らないクラウドは現在ルーファウスの「友達」である。

「……俺、でも、恋人居るから……」

「知っている、私にも恋人はいる。だからお前は私の友達だ」

……自身に『恋人』などいないことに気付いていない可哀相なルーファウス。

けれど、間違いなくクラウドは、ルーファウスの友達になっていた。友達、と言っても、会うたびに色々とイヤラシイ事をされるから、「フレンド」の前に何か余計な単語がくっつきそうだ。もしくはもうすでに次の段階へ移行した後かもしれぬ。それこそ、ルーファうすが望んだ通りに、『恋人』に。

「……今のは誘惑か?」

中途半端な、マスタードを拭うためのキスにルーファウスは真面目に訊ねた。

「違うよ」

クラウドは簡単に答える。ザックスがルーファウスの手の中に落ちてしまったのは、彼がいちいちルーファウスに同情したり言葉を一個一個真に受けたりして、そのペースの中に巻き込まれていたからで、クラウドはルーファウスを「友達」という曖昧な基準のところに置いているから深追いもせず、深入りもさせず、だからペースに巻き込まれたり巻き込んだりという事も有り得ず、不都合な点は生じない。

……ザックスやセフィロスに対してもそうなら、クラウドの腰痛は今よりもっと和らいでいるに違いないのだが。

「そろそろ昼休み終わるな……俺、もう行くから。……じゃあ、また来週な、ルーファウス」

クラウドはにっこり笑うと、身を翻し扉へと向かう。

が、その背中に、ルーファウスの声がかかった。

「待て」

「ん?」

「……月曜まで会えないのだろう?」

「……そりゃ……明日明後日って、社員は休みだから」

「もし私が、寂しいと言ったら?」

切なげな言葉と裏腹に、少し意地悪な微笑み。

「……友達だろう?」

「……ルーファウス……友達って言うのは……」

「……お説教など聞きたくない。……クラウド、私はお前を求める、友達として」

ルーファウスは椅子から立つと、クラウドの耳元にふぅっと息を吹きかけた。

「タイムカードを誤魔化すことくらい、私にとってはコーヒー一杯入れる手間もかからん。……クラウド、いいだろ?」

「る……、駄目だよ……、俺、行かなきゃ……ルゥも仕事あるんだろ?」

「知らん。……クラウド、アイシテル」

普通、友達にアイシテルとは言わない。友情と愛情は似て非なるもの。

けれどルーファウスの奥底には、ザックスと同時に、最近ではそれ以上に、クラウドも自分だけの物にしたいという独占慾があったから、その言葉は嘘では無かった。

……友達というのが、甘美な存在だと分かったから……(といっても、それは友達ではなくてそれこそ「恋人」なのだが)

アイシテルの言葉に、一瞬クラウドの力が抜けた。

「……や」

首筋にキスをされて、甘い声が漏れる。人間としてはまだまだのくせに、そんな事ばっかり上手な困った副社長だ。クラウドの制服のボタンを外し、ひんやりと冷たい手を侵入させ、シャツの中の肌を味わうかの如く時間をかけた愛撫を施す。クラウドはいいところを突かれるたび、ぴく、ぴく、と可愛らしい反応を示した。

さっきまで、まるで兄のようにルーファウスの世話を焼いていたのとはまるで別人の如くに。

まあ、ルーファウスと殆ど年が変わらないのに、ルーファウスの一・五倍は子供っぽい風貌であるし、その上感じやすいと来たら、こういう状況は仕方が無い。

「やだぁ……ッ、る……ぅ……っ、遅刻、しちゃうからぁ……」

「だから、そのことは気にしなくていいと言っているだろうが。心配症だな、クラウドは」

「んんっ」

楽しそうに口付ける。サンドイッチの具がまぜこぜになった味の舌でディープキス。

「ぷはっ、ああぁ、もう、やめ、よぉ……ッ」

「やめない。……言っただろう? 寂しいと」

ルーファウスはクラウドのズボンを下ろした。幼い茎は副社長の手の中でだんだんと硬度を増してゆく。ルーファウスはクラウドにキスをしてしつこく唇を舐めながら、下半身の存在を意識させるように手のひらで摩った。

「クラウドもしたいんだろう? 遠慮しなくていい」

「ルゥ……っ、ぁあ……」

壁とルーファウスを支えに何とか持ちこたえていたが、既に逃亡の気力は萎えた。その様子を悟り、ルーファウスは妖しく笑うと、クラウドのシャツを捲り上げ、本格的に攻めはじめる、イキナリ、クラウドの一番のウィークポイントである乳首から。無遠慮に吸い上げる。

「ぁあああ……」

ザックスやセフィロスよりも遥かに自分本意で、純粋で不純な好奇心に任せて「攻撃」してくるから性質が悪い。クラウドがどう感じるかというより、どう感じさせて、自分に都合よく出来るか、そっちの方がルーファウスにとっては重要だったからだ。

「……なかなか腹立たしいな、お前の身体の、跡……」

少し機嫌を損ねたように低い声で言い、ルーファウスはクラウドの脇腹のあたりに跡をつけた。そのままキスをしながら顔を移動させて、もう停められないそこに到達した。

しかし、ルーファウスは短く考えた後、そこから顔を離し、自分のズボンから当然の如く立ち上がっている自らのものを取り出した。

「……舐めて」

浅い呼吸に潤んだ瞳のクラウドの頬を撫でて、優しく命じた。

クラウドはルーファウスの予想、そして当初の予定通り、膝立ちでルーファウスのペニスに手を添えて言われた通りに。苦しげな瞳が、ルーファウスの脳に響く。

……あいつより上手だ。

無意識の比較に苦笑する。恐らくアイツ――ザックスにさんざん仕組まれているのだろう、「トモダチ」だから。

「んっ……」

クラウドの顔にかけて、ルーファウスはとりあえず、いった。知らない間に上がっていた呼吸を数回の深呼吸で収めると、ポケットからティッシュを取り出し、己のをクラウドに拭かせる。

「顔についたのは拭くなよ」

その命令に、クラウドはルーファウスの液体を手で拭い、白いものを纏わせた指を舐めた。

いくら普段から慣れているとは言え(しかもザックスやセフィロスに飲まれているとは言え、しかも自分で出したのも偶に飲まされているとは言え)やはり同性のものから吐き出されたものを飲み込むのには未だ抵抗があった。無意識のうちに噎せる。

「……、クラウド、良い子だな」

唇にまだ、自分の精液が付いている。

その媚態が、いったばかりのルーファウスの眉間のあたりにまたイイものを走らせた。しかし ルーファウスはズボンを上げると、きっちりとベルトを止め、クラウドの金髪をそっと撫でた。お揃いの、髪の色だ。

「ご苦労だった。……遅刻したくないのだろ、まだ走れば間に合うはずだ」

走れるような状況でないことを承知の上で。

「じゃあ、また来週な」

そう言って、ルーファウスはいっそ爽やかと言っていいほどの笑顔。クラウドは腰が砕けたまま、露出した下半身の先端、蜜を光らせてそのまま放置される。

「ルゥ……、……ルーファウス……」

「どうした? 早く行かないと遅刻してしまうぞ」

蕾の奥がクラウドの意志とは全く関係無く、ざわざわと蠢いてルーファウスの(あるいは誰でもいいのかも)肉体を望んでいる。

もっと、気持ちよくなりたいと。……要するに、遅刻なんてもうどうでもいい。 けれど哀しいかな意地っ張り、妙なプライドがクラウドの口から欲望を有りの侭に言わせることを許さない。

こんなイヤラシイ身体にも、微かな誇りが。 ルーファウスは自分用のカップにコーヒーを注ぎ、一口飲んでデスクの上の書類を取り上げる。軽く目を通し、片手で握り潰して屑篭へ。

碌な意見が上がってこない。その間も放置されたクラウドははぁはぁと切ない呼吸、どうしようも出来ない熱さを体の中に持って、

しかも更に大きな物を望んでいる。――どうしようも出来ない熱さが。

「る……ルーファウスっ」

意を決して、クラウドは名を呼んだ。

「なんだ?」

次の書類から目を離すことも無かった。ただ内心ではほくそ笑んで、思い通りに行くであろう駆け引き、次の相手の出方を見る。

「俺……っ、遅刻しても、いいから……」

「……いいのか? ……さっきはあんなことを言ったが、コーヒー一杯よりは多少、面倒くさいことになる。

お前にも何枚か書類を書いてもらうかもしれないぞ」

「……で、も、いいからっ……して……よ……」

ようやく素直になった。けれどルーファウスはまだ、一口コーヒーを飲む余裕で。

「……何を? ……何をして欲しいんだ?」

クラウドの理性が弱いことは、以前から解かっていたことだ。性的欲求に理性が負けるほど弱い。しかし、逆に言えば恥に勝てるほど、その性的欲求は強く、その欲求を抱えたままだとどうなるか理性は知っている。だから案外、強いのかもしれない。

「……セックスっ、……俺の、中、欲しいっ、何でもするからっ」

その言葉に、ルーファウスはやっとコーヒーと書類から目を離し、クラウドの裸体に視線を戻した。口付けを乞うような唇を震わせて自分を求めているトモダチの姿に、ルーファウスは理性を切ることに決めた。

「……何でも、か」

ふぅ、と溜め息を吐き、とりあえずはもう一回抱いてやろう。あくまで自分本意に。

「……クラウド、私が入れるように、広げろ」

従順に自分の指を舐めて、秘穴に埋め込み、快感に震えながらルーファウスが入れるように内部を慣らしてゆく。その姿を見ながら、満足げに微笑むと、ルーファウスはクラウドのそばに歩み寄り、カタチばかり優しい口付けをして、再び硬化した自らを示してクラウド自らにそれを入れさせた。

「ああぁん……」

蠱惑的な声を上げて、ルーファウスが自分の中に入ってきたのを全身で感じる。自分には恋人が居るのに――その背徳感もまた、クラウドを悦ばせる、というか楽しませる大きな要素になっていた。ルーファウスにしがみ付いて、耳元を舐られてまた甘い声を。

ルーファウスは敏感なクラウドの身体を左腕で抱きしめて、右手でクラウドの熱さを感じながら、不思議と幸福感が湧き上がって来るのを感じていた。性的興奮の高まりと同時に、それ以上の何か。クラウドが――例えいきたいだけのエゴだとしても――自分のために、全てをかなぐり捨てて、自分の前に露に。

トモダチ……。

私の為に……。

「クラウド……」

ルーファウスは、痛みすら感じながらクラウドを更に抱きしめた。

「んぁあっ、あああ……ッ、あぅ、ルゥ……っ」

「……大好きだよ、クラウド……」

「ふぁあ……んっ、ああんっ」

 

 

遅刻の尻拭いは結局、全てルーファウスがこなした。とは言っても、面倒くさい書類云々は部下たちに任せ、彼自身はサインを一つしただけだったが。

「……月曜日は、まだかな」

土曜の昼下がり、ツマラナイ一人のソファ。

……来週はトモダチと一緒に過ごそうか。

恋してることに気付かない。またヒトリ、愚かな犠牲者が。


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