いつもの、十二時半。あと三十分どうするか考えて、結局一番疲れる方法で費やす事は、クラウドの密かな自慢だった。相手は違えど、愛される悦びは同じなら、何倍にでもしてほしい。この身体で叶う限りの願いを叶えたい、貪欲だと思われても、愛が欲しい。
「ルゥって、優しい」
ソファに横たえたクラウドが、にっこりと笑って、言った。
「……優しい?」
「ああ。……ルゥは、……何だろう、上手だからかな。俺のこと、優しく、してくれる……。安心出来るって言うのかな。……セフィロスもすごく、優しいんだけど」
「……そうか?」
ルーファウスはクラウドの制服を落ち着いて脱がしながら、苦笑いした。
(いつもながらこの制服はよくないな。脱がしにくい……)
新しい制服は、今のもの以上にクラウドに似合うものにしよう、そう決めた。
「他の二人では不安か?」
「……不安っていうか、そんなことはないんだけど……」
ルーファウスは、クラウドの唇に指を滑らせ、その指先に自分もくちづけた。
「まあいいさ。……あいつらよりもイイトコロが、私にも在るんだな。嬉しいよ」
制服の、最後のボタンを外し終えた。続いて、ベルトに取り掛かる。服の上からもう既に、魅力的に括れた腰のラインが明らかになっている。ベルトが無いと、ストンと落ちてしまうズボンはそれでもSサイズなのだが。
「……何だか、嬉しくって、でも恥ずかしいよ、……俺、どこにでもいるタダの下っ端なのに……」
「だが私の眼には、その下っ端が他の誰より光り輝いて見えるのだ」
クラウドは、純情に頬を赤らめた。
「……やっぱり、ルゥは優しいよ」
ルーファウスは柔らかに笑うと、クラウドの黒のアンダーシャツを捲り上げて、少し湿り気を帯びた臍から鳩尾にかけてに、指を滑らせた。
「……本当に、洗わないでいいの?」
以前、ニオイが気になってシャワールームに寄ってから来たら、苦笑いをされたことがあったのだ。ルーファウスだけではない、セフィロスも、石鹸の香りに少しガッカリしたような表情を浮かべていた。ザックスはというと、汗の匂いは彼の体臭と全く同じだから、匂いはさほど気にならないらしい。着替える前でも後でも、喜んで身体を欲しがって来る。
「甘い、いい匂いがするよ、お前の汗は」
「……そんな、自分じゃ解からないから……恥ずかしいよ」
「匂いを気にするのは一つのエチケットではあるが、まあ、必要以上に神経を尖らせる必要も無いよ。私のまわりにもいるよ、胸が悪くなるような香水の匂いをプンプンさせてる奴が」
そういうルーファウスの首筋からは、注意しなければ気付かないほど微かな、シトラスの香りが漂うのだった。
「さっきの話題に戻っても構わないか?」
さらにシャツを捲り上げて、薄紅色の乳首を指先で捏ね、クラウドの腰を密かに躍らせながら、ルーファウスはふと訊ねた。
「……なに?」
「私を、優しいと言ってくれたな。……だが、私も男だ。一応、お前に対して愛という感情を抱くようになった以上は、それに伴って、今している事や、この延長線上にあるようなことを求める心も併せ持っているのだ」
そもそも彼が、クラウドに「優しい」と言わせるほど、クラウドに対して振る舞うようになったのは、ここ数ヶ月のことだ。元々はザックスよりもずっと強く、クラウドを求めていたのだ。 しかし、セフィロスと同じように、クラウドに対して「誰かの隣にいるお前でも、好きだ」という気持ちを抱くようになってから、過激ではなく、穏健なやりかたで、クラウドを愛するようになったのだった。理由は、セフィロスと同じ、もっと、クラウドに幸せになって欲しいから。ついでに、自分を好きになって欲しいからだ。
「……どういうこと?」
クラウドは、歯磨き粉の匂いのする吐息を漏らしつつ、聞いた。
「……以前、お前が、私の買ったウェイトレスの服を着てくれたことがあっただろう。あの時、とても嬉しかった。そして同時に、ザックスに一番を譲った事を、とても勿体無く思ったよ。……私もな、お前に意地悪な要求だとか、してみたいと思ったりするのだ……。昔のように、エゴのままお前を抱いてみたいと思ったり、するんだよ」
ルーファウスの苦笑いに、暫しぽかんと見上げたクラウドだったが、やがて、困ったように笑う。
「……俺は、いいのに。……俺の方こそ、自分勝手にやりたい放題してるのに、ルゥたちに、無理させてるんだから。……ルゥも、好きにして、俺のこと、どんな風に扱っても、いいんだよ?俺は、……すごく弱くて、頭も悪くて、自分じゃ自分の中の気持ちに整理も付けられない。俺が悪いんだから、ルゥは、俺のこと……、どんな風にしても、いいよ」
ルーファウスに、その困ったような笑いが伝染した。
「だがそれでも、お前の身体を心配してしまう」
「……いいんだ、俺、こう見えても、丈夫だよ? ……毎日ちゃんと訓練出て、沢山動いてるから、ちょっとやそっとじゃくたばらないし。それに……、俺、痛くされても感じるかも、知れないし……」
「痛くされたことがあるのか?」
「無いよ。……でも、俺たちのセックスって、基本的に、痛いだろ? ……でも俺はいつも、……だから、平気だと思うし」
ルーファウスは深々と溜め息を吐いて、クラウドの身を抱き起こした。純白のロングスーツに汗の匂いが移るのも気にせず、抱き締めた。
「本当に、私は何でお前が、こんなに愛しいんだろう」
困る、本当に困る。普段は誰よりも冷たい理性で動ける自分が、何故、こんなになってしまうんだろう。人の上に立つものにとって、弱さを作ることは最大の命取りになることだというのに。それでも、死の恐怖と天秤にかけたって、この感情を押し止めることは出来そうもない。
「……お前のことを、私で壊してしまいたいとさえ、思うよ、クラウド」
「うん、……いいよ、壊して。ルゥ、……俺、ルゥのこと好きだから、平気だよ。……でも」
「……でも?」
クラウドはちらりと、壁に掛かった円形の時計を見た。
「……ズル休みするけど、怒らないで?」
身体が、自分でもはっきりと解かるほど熱を持っている。腰の回りの細胞がざわめいているようだ。ズボンの中の身体の中心で固く反り立った淫らな肉の先端、細い亀裂からは、いつもよりもずっと多量の淫蜜が溢れて、下着にべっとりと染みを作っているのが、中途半端な裸体を晒すクラウドに、不快感と快感をない交ぜにした、性質の悪い感覚を味あわせていた。
「……る、ぅ……」
かき混ぜて欲しくて熱くなった後ろの密やかな入口を虚しくひく付かせる。その度に連動する前からは、また卑猥な液体が流出する。切ない吐息を吐いても、熱をどうすることも出来ない。両袖の椅子に括り付けられたまま、ただ腰を揺り動かし、どうにかして達しようとしても、思うように行かない。
「ルゥ……、お願い…………いきたいよ、俺……、我慢出来ない」
ルーファウスは本棚に整然と並んだ書物から二冊ほど取り出して、机の上に置くと、開きながら応じる。
「駄目だよ。…………まだ、仕事が残ってる。もう少しそのままで待っていてくれ」
悪趣味だと指摘はしない。ルーファウス自身はもちろんよく解かっているし、クラウド自身もそれを容認したのだ。クラウドと共に過ごす時間は、自分には限られている。だけど、長い時間が与えられたとしたら、それをどんな風に、無駄に過ごすだろう。
「それに、一度イッたくらいでは治らないよ。……飲ませたのは、少し強めの薬だからな、効果は長持ちする。……一度いくと、またいきたくなるし、もっと強い快感が欲しくなって堪らなくなるぞ?……それでもいいのか?」
クラウドは、涙の煌く瞳で、濡れて揺れる声で、請うた。
「いかせて……、お願い、もう、我慢出来ないよ……ルゥ……」
「……後で後悔するなよ?」
ニヤリと笑い、ルーファウスはズボンの上から、クラウドの砲身を握りしめた。
「あっ……あああ」
首を仰け反らし、甘さに痛みを加えた悲鳴を上げて、クラウドは一度目の到達をした。ルーファウスが手を放しても、腰がピクピクッと、震えを繰り返す。そして、その快感により新たなスイッチが入った。普段なら、達したあとに残る淡い余韻は、理性に侵食されて消えていくはずだ。しかし、ルーファウスに与えられた媚薬――実際には、ごく僅かに有毒性を含んだ麻薬に近い粉末――によって蕩けた身体には、その余韻がまた新たな快感となり、性欲を生み出す発端となる。
「あ、……あ、あ、……っん、ひん……」
「……クラウド、あまり大きな声を出すなよ? ……下手をすると、廊下に聞こえてしまう」
「んっ、だ……て、変、変……だよ、ぁあ……あっ、ふ……あああ……」
ルーファウスは開いた本と手許の書類を照合して、納得の行かないような顔をすると、立ち上がり、クラウドの前を通り過ぎ、受話器をあげた。内線の八番を。
クラウドは一般兵、一人欠落したところで大勢に影響は無い。だが、ルーファウスは若くして副社長の座にある。彼はどんなにクラウドが愛しくても、係りきりになるわけには行かないのだ。
「……ツォンか、私だ。…………例の発掘調査の件だが、あの書類、確かなものか? …………何? 雑音?女の声? ……知らん。…………とりあえず、今からそっちに行く。……ああ、私がそっちに行く。お前は来なくていい」
受話器を置くと、ルーファウスはクラウドに微笑んだ。
「少し席を外すが、すぐ戻って来るよ。……それまで我慢出来るか?」
クラウドはフルフルと首を横に振った。
「出来ない……っ、なんか、もう、……ん、訳、解かんないくらい……、いきそう……、出ちゃいそう……」
「だから言ったんだ。一度いくと後が大変だと。……仕方ないな」
ルーファウスは机の引き出しを開け何かを取り出すと、放置されたままのクラウドの手を肘掛けから解き、身体の後ろで縛った。両足も、しっかりと縛り、ソファまで抱いて運ぶ。寝かせて、ズボンを下ろし、濡れたトランクスの尻の裾から、小型の玩具を差し入れた。
「や……やだ、あっ、いっ、……ひぃ……ん」
スイッチが入り、尻の中で震えだした物体に、クラウドが悲痛な声を上げる。ルーファウスはクラウドのズボンを上げてやった。
「ね、ぇ、ルゥ……っん、あっ……」
「何だ? ……気持ち良いだろう」
「お願い、……あ、ん、ぁ、……俺ぇ……ッ、パンツ、ぬ、ぎたい……、びしょびしょで、あっ、あ、前、……キモチワルイ、から……ぁっ」
腰をエロティックに揺らしながら、クラウドは不快感からの解放を求めた。しかし、ルーファウスは申し訳無さそうに笑って、
「ごめんな。掃除係が来た時に、お前の精液が散っていても、私は上手く言い訳出来そうに無い。もう少しの辛抱だから。……帰りに、新しい下着を買ってきてあげよう。ズボンも必要かな」
クラウドのペニスの先端からひっきりなしに漏れ続ける淫蜜と、先程放った多量の精液のせいで、濡れた染みはズボンにまで浸透していた。ソファに染みを作られても困る、ルーファウスはクラウドの腰の当りにタオルを敷いた。
「そんな風に汚れた姿もそそるのだから、不思議だな、お前は」
「ルゥ……、いじわ……、あっ、……あ、あ、ひっ、ひあっ、また、出ちゃ……っ」
尻の中の物体の振動により、全身を痙攣させて、クラウドは二度目の到達をした。この分では、戻る頃にはズボンにも大きな染みを作っていることだろう、いいじゃないかと、ルーファウスは思った。
「それじゃあ、行って来るよ。本当にすぐ戻るから、いい子で待っているんだよ」
一層高くなるクラウドの鳴き声を背に、ルーファウスは副社長室を出た。本当は自分だって、思いきりクラウドの胎内に射精したい欲求があるけれど、その痛切な感情を、こんな風に逆手に使うのも、悪くはない。
ルーファウスが戻ってきた時には既に、クラウドは七度の射精を済ませた後だった。自分の下半身から、精液の匂いが立ち込める。びしょ濡れのズボンとトランクスは肌に纏わりついて気持ちが悪いが、しかし到達して一分も立つと、また尻から来る刺激のせいで、その不快感もクラウドを昂ぶらせるのに役立っていた。無我夢中になって、うつ伏せの態勢で陰茎をソファに摺り寄せる。また、何かが零れた。何の液体だか、見当もつかない。ただ開放感だけが、クラウドを焦がし、濡れた股間をまた、擦り付ける。
「そうやって貪欲に欲しがる姿も美しいよ、クラウド。欲求という感情をそのまま身体で示したら、そういうダンスになるんだろうね」
顔を赤らめつつも、ルーファウスが戻ってきてくれた安堵感の方が上回る。クラウドは、蕩けた声で哀願した。
「ルゥ……っ、んっ、お願い……、も、っ、入れて……、ルゥの、入れて……、じゃなきゃ、治んないよ、ルゥので、治して……」
股下や太股のあたりまでぐっしょりと濡れ、タオルにまで染みを作ってしまったクラウドのズボンとトランクスを下ろす。
「精液だけでこんなに濡れるものか。……クラウド、もう十四になるのに、漏らしたね?」
更に濃い液体の匂いが溢れる。クラウドのペニスは紅く紅く腫れ上がり、白い液体に塗れて濡れて光っていた。
「あぅ」
尻から器具が抜かれ、快感が遠退く。しかし、未だじわじわとした快感に身体を支配され、クラウドはぶるぶるっと震えると、そそり立った性器から、薄い精が噴出した。
「でも、気持ちよすぎて失禁するお前の姿も悪くない……、生で見たかったな」
腰を揺らめかせて、ビクビクと痙攣するペニスを、傍らのクッションに擦り付けて、さらに快感を欲しがる。底無しだ。
「ルゥ、……ルゥの、ちょうだい……、お尻掻き回して」
「……そろそろ、限界みたいだな。……ちょっと薬が強すぎたか。ここまでは予定していなかった」
後遺症が残らなければいいが。 ルーファウスはスーツとシャツを脱ぎ、上半身裸になると、クラウドの枷を外してやった。枷が外されると、クラウドはもう耐えられないといった感じに、右手で自分のペニスを扱き上げ、左手指を肛門に突き入れて、また射精した。射精といってももう、ほんの少し濁った精液が、数滴零れ落ちるばかりだったが。
「全く……、悪い子だな。私のペニスが欲しいのではなかったのか?」
「ん、うん、ん、ルゥの、ルゥのペニスが欲しいの……お尻に」
「では、……おいで。自分で入れて、動くんだ」
クラウドは夢遊病患者のようにふらふらと起き上がると、ぐらつく足取りでルーファウスを跨ぎ、遠慮無く、身体に勃起したルーファウスの性器を取り込んだ。物体の質感に、「ああぁ」と声を上げる。そして、膝で身体を支え、尻を上下させ始めた。ほとんど力が入らないながらも、性欲だけは研ぎ澄まされて、その摩擦によって、また一度、二度と、ペニスの先端を震わせ、射精を繰り返す。
「ああっ、ああ、あ、あああ、あっ、あっ」
「クラウド……っ、……ん、……いいよ、……気持ち良い」
括約筋はほとんど働いていない。だが元々狭い中の、肉壁を味わう。充分過ぎる快感が、ルーファウスを包んだ。
「愛してるよ、クラウド……。私の為に、ここまで壊れてくれるなんて……!」
「あい、してる、っんっ、ルゥ……る、あっ、あっ、いっ、ひぃぃ」
また、痙攣させて、達する。達しても、最早出て来るものは無い。ぐ、ぐっ、と、ペニスに力が篭り、ピクンピクンと震えただけだ。
「いっ、いっ……ルゥの、いいのぉっ、……ま、た……ぁっ」
「……大丈夫だ、クラウド……、私も、もう、いく……から」
「あ、あ、……あああ、あ!あっ、熱い、熱いよぉっ……」
気を失ったクラウドの額に手を当て、マスタークラスの「ちりょう」マテリアから、エスナを抽出する。クラウドの身体がぼうっとした穏やかな光に包まれ、全身を支配していた薬を抜いていく。気を失ってもなお、勃起状態で射精を望んでいたペニスが、ようやく、とろけるように小さく、先端まで包皮に包まれた幼い姿へと戻った。
「……ふん、こういうのもいいな」
ルーファウスは元通りになったクラウドのペニスに口付けてから、クラウドに巻かせたバスタオルの裾を直し、隠した。
「……しかし……、この薬は」
ルーファウスはポケットから取り出した灰色の粉薬を取り出した。まだニ回分残っている。エスナの魔法さえあれば人体に実害は無いし、成分的にはごく僅かとは言え、それでもれっきとした「麻薬」なのだ。取引先の馬鹿な社長がルーファウスに握らせたものだったが、もともとは使う気などなかった。……たまたま、クラウドが可愛い事を言ってくれたから、というだけで。そもそも、こんなに劇的な効力があるとは、思わなかったのだ。確か、「合法だ」と言っていた。……信じられるものか。
言い訳がましい。楽しんでしまった自分も同罪か。
……他の二人にも、渡すべきなんだろうか……。
「うぅ……ん……、……あぁ……」
悪い夢を見ているのか、クラウドが魘されて、クッションの端を握り締めている。
ルーファウスは屑篭に小袋を二つとも、投げ入れた。酷い目に会わせてしまった。一度で十分だ。それに、毒素は抜けるかもしれないが、常習性まで無くなるかどうかは疑問だ。クラウドを薬漬けになど、出来るわけがない。
ビル中に、カノンが流れ出した。
「……終業時刻か」
ルーファウスは立ち上がり、スピーカーのOFFにすると、クラウドの隣に跪き、その手を握った。クラウドの眉間の皺が、一本減ったように見えたが、気のせいか。 クラウドが「優しさ」を褒めてくれたのに、何でわざわざ優しくない真似をしたんだろうか。したいなんて、思うんだろうか。それは厄介な性欲というもののせいにしていいものなのか?性欲が宿るのはこの身体だし、行動を起こしたのも自分自身だ。 もう止そう。 クラウドが欲しがっている物をあげればいい。余計な事は、自分の右手で処理をして、大切な大好きなクラウドは、優しく愛してあげよう。
「……んん」
「おはよう。……まだ寝ていていいぞ」
「……ん……、いい、起きるよ。って……いっ……」
「どうした?」
「腰、痛い……、な、なんか、立てな……」
あれだけ動かせばこの少年でなくとも痛めるだろう。
「……無理をさせて済まなかった」
ルーファウスが謝罪すると、クラウドはきょとんとした表情。
「え?」
「……いや……、性のブレーキがおかしくなるような目に合わせてしまって……。辛かっただろう」
「ブレーキ? ……いや……ゴメン、ルゥ、……俺、憶えてないよ……。良くなってから、もう……」
記憶が吹っ飛んでしまうほどなのか。 例の社長は一体どういうルートであの薬を入手したのか。
使ったのは自分ではあったが、あの男は私の愛人を殺すつもりだったのかと、憤りすら感じた。
「あ……、俺、服は?」
クラウドは漸く、自分が身に付けているものが大き目のバスタオル一枚だけだと気付いた。「汚れてしまったからな、あそこに掛けてある」
「汚れて……って?」
「その…………まぁ、精液やら何やらで。……下着を脱がせなかったからな。ベタベタになってしまったから」
一応、手洗いしてから洗濯機に入れた。洗濯など、彼にとっては初めての経験だった。適当なボタンを押しただけだったから、少しよれよれになってしまったが。
「おれ、……そんな……、はしたなくて、恥ずかしいカッコで?」
「気にすることはない。私が無理矢理させたようなものなのだから。それに、お漏らししたお前は可愛かったぞ」
「う、……ザックスも、この間似たようなこと、言ってた……。何で、俺のお漏らししたとこなんて、可愛いって思うんだ……?」
「小さな子供みたいで、可愛いからさ。そんな風に恥ずかしがってる顔も、私は好きだな」
ルーファウスは、どうにも遣り場の無い恥ずかしさを感じ俯いてしまったクラウドの頬に触れた。その唇に上品な接吻をすると、自分の肩に頭を預けさせた。
「しばらく休んでいくといい」
「……ありがとう。……でも、ルゥの、仕事とかは」
「気にするな。仕事とお前、選択肢として成り立たん」
「…………」
身体の向きを変え、猫が甘えるようにその首に擦り寄った。向かい合わせで膝の上に座り、何度も、口付けを交わした。
「こういった時間をとてつもなく幸せに思う。楽な精神構造をしてると、自分でも思う。……最も、社長としては不適格なんだろうが」
「そんな。ルゥが社長だったら、きっともっと、この会社よくなるよ」
「そう考えてくれる人間が、もっと多かったらいいのだが。……いつか私の代になったら、お前を秘書にしてやろうか」
その冗談に、一瞬浮かんだクラウドの表情を、ルーファウスは見逃さなかった。
「冗談だよ。ただ、お前とザックスが暮すリゾートマンションくらいは、私に手配させてくれ」
「……ルゥ」
「もちろん、部屋は無駄なほど多く作る。私やセフィロスが泊れるようにな。ただその頃にはお前も大人になって、どんなに気持ちよくても失禁しないようにはなっていてくれよ?」
クラウドはルーファウスの頭に手を回し、耳元で「ありがとう」と囁いた。傲慢な人間の優しさだから、余計に嬉しい。自分だけを甘やかしてくれる甘美な気持ちに甘えて、そのまま流されていたくなる。
「……ルゥは、やっぱり、優しい」
「そう言ってくれるお前の方が優しいよ」
いくらだって抱き合っていたい。この瞬間は恋人同士だから。だが、それだけではないたくさんの要素を併せ持っていることを、認められる自分は、優しいのではなく、少し卑怯なのだろうとルーファウスは思った。しかし、今、愛している、心から。一方通行ならばやりきれないが、こんな風に、ちゃんと想いを帰してくれる相手だから、報われる。正常な恋愛関係でなくても、幸せを感じられる。
友達以上であるだけで良いのだ。同時に恋愛までしてしまって、何て贅沢なんだろう。
同様の想いを、クラウドも抱く。自分は贅沢。ザックスというちゃんとした――自分がもし女だったら結婚まで考えなければならないような、相手がいながら、ルゥに、セフィに、心からの想いを授けられている。それにマトモに答えられているかどうかは甚だ疑問だが、それでも、この中途半端な想い人たちは、笑ってくれる、「愛している」と言ってくれる。それが、堪らなく、心地良い。
中途半端に、長続きしそうな関係は、苦くて、同時に甘い。気障な科白を嫌味に感じないほどに、青臭い言葉が一番、しっくり来そうな感じがする。幼い気持ちには、その関係に浸り、沈むことが、麻薬のように癖になる。