すぷらっしゅ!

 「奥さん」と「子供」、その両方に向かう愛情が同質であることが一般的な家庭の父親において正常か否かは、ライには判らない。だってウチば一般的な家庭じゃねーし。正常な父親が妻と子の双方を性的に愛するとは思えないし、そのどちらもが自分とほとんど変わらないとも思えないし、そもそも三人揃ってみんな「若い男」ということもなかろう。

 ウチにはウチのルールがある、それでいいのだと思っている。誰かに指弾されるときには身を呈して護るだけの覚悟をライは持っているから。

 自分が変態で在るための覚悟、その変態性欲で家族であり恋人である二人を幸福にするのだという覚悟が、ライの根底には流れている。

 

 

 

 

 ところでライは自分が変態で在ることを否定しようとも思わないが、自分の奥さんと一人息子も大概なものだと思っている。自分がこういう人間だから影響を受けてしまったという点については酌量の余地もあるが、そもそも素質がなければ花だって開かない。

 ライは、自分の変態性欲の芽生えの背景に、自分が一人ぼっちだったという点を無視するわけにはいかないと思っている。友達はルシアンを初めとして多かったし、周りにはミントやグラッドやセクターといった良識ある大人たちが居たから著しく曲がって育ってはいなかったはずだし、寂しさとも無縁で居られたが、夜、一人で居るときに彼を包んだのは、やはり孤独感で、其れを癒すために数々の試みをしていたのだと今考察しある程度の妥当性を見出している。

 だって自分の身体が一番面白い「おもちゃ」だった。

 ライは自分の体の事細かな変化について、同世代の子供たちよりずっと明るかった。ちんちん触ると大きくなる、でもって、触ると気持ちいい、とか。そういうことについて新たな発見をするたびに、陰気な喜びを得ていた。もちろん誰とも共有してはいけないことではあるけれど、其れが却って同世代の子供たちに対しての優位性を保持する根拠にも鳴り得るから、益々熱中する。十歳になる頃には何処に出したって恥ずかしくない変態少年の出来上がりだが、幸いにして、そして十歳にしては賢明なこととして彼は其れを表出させることは絶対にしなかったから、誰から見てもライは「偉い子」で済んでいた。

 然るに、リューム、そしてルシアンという二人の恋人と一緒に暮らすようになって。

 二人が知るのは、ライは「えらい子」だった、ということだ。とんでもない、という意味で。

 秘密を共有させることで共犯者にするというのは、よくある手口だ。器用な指先で薄皮を一枚ずつ剥がすように、ライは二人を裸にしていき、思考あるいは嗜好のエッセンスを滴下して染めていく。リュームもルシアンも、今では立派な変態である。二人して「ライのせいでこんなんなった」と非難めいたことを口にされるのは、まあ負け惜しみとして受け取っておこうか。

 例えばだ。

 ルシアンに買ってやったディープスカイブルーのサマーセーターがある。値段の割りにはいい品で、風通しも肌触りも良好、夏のおしゃれに丁度いい、というもの。但しサイズはルシアンが着るには少々大きい。

 ルシアンは其れを見ると、諸々の思い出が瞬時に甦るのか、とても複雑な顔になる。彼はライに強いられ、そのセーターを着た下半身はタイツだけという格好で買い物に出されたことが在るのだ。幸いオーバーサイズの裾はルシアンの太腿の辺りまで隠してくれるが、白いタイツの内側には何も穿いていない、即ち、陰茎の形や尻の割れ目がくっきりと覗けてしまうような格好だから、ちょっとでも裾が捲れればルシアンは言語道断に変態のレッテルを貼られてしまうわけだ。

 ルシアンは結局、その羞恥に耐えて無事に帰ってきたものの、動顚しきって失禁した。そのサマーセーターにはそんな記憶がくっきりと残っているのだ。

 或いは、リューム。彼は宿から少し歩いたところにある川原へ二人の保護者と一緒に遊びに行った際「水遊びしたい」と我が侭を言った結果、全裸で川遊びをする羽目となった。まあ、そのくらいはまだ許される。大体リュームぐらいの子供ならばパンツ一丁で遊ぶくらい問題のないことだし、誰も来ないところでなら屋外でも全裸で構わないだろう。

 然るに、すっぽんぽんになって川遊びをし、立ち小便をしているところを、彼は近所の少女たちに見られたのである。「おれのちんこ見られたら猥褻物陳列になっちまうけど、おまえのだったら問題ねー」とライは言って平気な顔をしていたけれど、ライが少女たちに裸を見られて真っ赤になったリュームを見て、毒々しい喜びを得ていたことは事実である。

 本来ならば、そういった体験をした者は、それを忌避するために防御策をとるのが当然だろう。しかし都合の悪いことにルシアンもリュームもライのことを、「変態」と認めた上でもやはり、愛しいのであって。

 リュームは一人川原に行って服を脱ぎ、岩の陰でオナニーをしたりするし、ルシアンは今でもときどきあのサマーセーターにタイツという組み合わせで外を歩くのである。リュームがそんなことをしていることは誰も知らないし、ルシアンのその格好は少年の相貌の愛らしさによって、誰からも問題視されない。恐らくは幸せな家族なのである。

 ライは、庭の裏口から出たところ、裏通りの煉瓦の上で立ち止まり、

「脱げよ」

 と命じる。

 リュームはいつもの格好――というか少年は今のところその服しか持っていない――であり、ルシアンはシャツと膝丈のパンツというラフな格好、ライもそんな具合、要するに後は寝るだけの時間に相応しい姿で居るのだが、もちろん「ただ寝るだけ」で済ませられる三人ではない。今夜は客の数も少ないし、繁忙期でもないからこのタイミングで新規の客が来ることも考えにくい。

「……こ、ここで……?」

 変態、とぶつり、リュームが呟く。夜の裏通りではあるが、表通りの街灯の光は届くし、高いところに掛かった月が見下ろしているため、案外に明るい。

「そう。ここで。ここから川原まで裸で歩けよ。興奮するだろ?」

 にぃ、と歯を見せてライは笑う。ルシアンもリュームも、そんな笑顔一つで困惑する。全く、その顔だけ見ていれば悪戯っぽく幼く、決してこんな性質の悪い毒を秘めた男とは誰も思わないのだ。

 しかしその笑顔が毒々しく性質が悪いとしか思えない二人でもない。妙な自信に満ち溢れたその笑顔は、正直なところリュームにとってもルシアンにとっても頼もしい類のものなのだ。

 酒場を出た酔っ払いの歌声が響いてくるが、それも遠い。辺りに人の気配は皆無だった。

 意を決したように、ルシアンがシャツを脱ぐ。

「にーちゃん……」

 心細いような声で、リュームが言った。ルシアンは緊張した頬をほんの少し綻ばせて、大丈夫だよと、言葉にはしなかった。正直なところ「大丈夫」かどうかは判らない。夜回りに来たグラッドに見られたりしたらどう言い訳すればいいのか。パンツに手を掛けるとき、手が一度止まった。

 しかし、そんなルシアンを勇気付けるように、リュームがぐいとスパッツを下ろし、足を抜いた。小さな性器を手で隠して「これで……、文句ねーだろ」とライに挑むような目付きで言う。ルシアンもそれに応じて、下を脱いだ。

 街路で裸になった恋人二人を舐めるように見詰めて、

「うん」

 とライはいとおしげに言う。

「おまえらの裸は、やっぱりいいな。なんつーか、……うん、ルシアンはすげー体付きがエロいし、リュームはちんちくりんだけど可愛いな」

「ちんちくりんって言うな!」

 思わず大きな声を上げて、慌てて掌を口に当てる。その拍子に隠していたペニスが露わになる。まだ、緊張で竦みあがっている。

「ちんちくりんじゃねえかよ、そんなちっこいのぶら下げて」

 クスクスと笑い、囁きながらライは二人の脱いだ服を庭にひょいと放り、裏口の戸を閉める。そして、リュームの前に膝を付く。

「ちんちくりんじゃねーって言うなら、でかくしてみろよ」

 人差し指で下からひょいと持ち上げる。

 実際リュームのペニスは小さい。と言っても、年相応のサイズではあるのだが、絶対的に小さい。ライの、薄いながらも根元に性毛を備えた性器は確かに猥褻物だが、これならば誰に見られたって大丈夫だろうとルシアンは何となく思う。

「や、やめろよっ、いじんなよっ」

「んー……、つってもなー、弄りやすいんだよな、おまえのは」

 ぶら下がっているだけのときには、陰嚢と陰茎が同じくらいのサイズで、本当に楚々とした様子で足の間に在る。身体に比して立派な尻尾と小さな尻のギャップも愛らしいが、やはりリュームの場合は、この場所だとしみじみとライは思う。

「あんま見んなってっ……っひゃっ」

 一口大サイズだったから。

 そういう理由でライはリュームのペニスを袋ごと口の中に収めた。柔らかくて、独特の匂いがあって、舌の上にペニス、下に陰嚢と、贅沢に一つ口の中に入れてほんの少し舐ってやれば、リュームはもう声を漏らさぬようにすることに必死になる。

「っ……ンっ……、もぉ、っ、やめろ、よぅ……っ」

 昼間なら、人通りがある道だ。足元の煉瓦敷きは古びているが、未だ生活道路としての役割を失ってはいない。こんな時間にだって、何かの間違いで誰が通るか判ったものではない。そう考えれば、性器を咥え込まれているリュームが興奮する精神構造が真っ当なものではないということは明らかだ。

「おー……、こんなに背伸びして、ちっこいくせに」

 変態の火花に肌を焦がされて、簡単に染まってしまう。リュームの根底にそういう要素が無かったと誰が言える? 口から抜いたライは、ルシアンに「ほら」とリュームのペニスを見せる。勃起しても皮は剥けないが、精一杯に硬くなったそれを見て、此処が街路でなければルシアンも一緒になって弄ってやるべきところ、いまはとてもそんなことは出来ない。

「……う、うう……、見んなよう……」

 涙目で言うリュームが愛らしいということは、ルシアンだって熟知している。この三白眼の少年はとても気が強くて、実際威張っていいくらいの強さを持っているが、ことセックスについては決して強いとは言えない。敏感な身体をしているし、幼いからもちろん我慢強くもない。時折おねしょをしてルシアンのパジャマまでも濡らしてしまうような彼の性器は、何かを堪えて保っているための力が欠如しているのだ。

 強く在りたい自分の弱さを、こういう行為で思い知らされて真っ赤になる顔を、その裸を、見ていればルシアンだって興奮する。股間を隠す両手を押し返すように、さっきからルシアンのペニスは勃ち上がっている。許されるなら今此処で性器を扱いて、リュームの顔に向けて射精してしまいたいぐらいだ。

 ライはふっとリュームの性器に息を吹きかける。ぴくん、と卑猥な震えを見せる少年の性器から、ルシアンは目が逸らせない。ライはルシアンに見せるように細い性器を摘み、皮を下ろしたり先端まで被せて先を引っ張ったりする。もはや抗う術もなく、リュームは膝を震わせているばかりだ。

「相変わらず剥けねーなー、おまえの此処は。でもまあ、それが可愛いっちゃ可愛いとこなんだけどな」

「もう……、もう、ひとのちんちんでそんな遊ぶなっ……」

「おう、判ってるよ。もう遊ばれてるような余裕もねーんだよな?」

 ライは、再び口の中にリュームの陰茎を収めた。今度はただ口に容れるだけではなく、明確に追い立てる意味を込めての舌の動きだ。

「ひ、っンっ、んっ、……っはっ、あっ、や、だっ、ライっ、……も、出るっ、……出るっ」

 切羽詰った声を拳を当てた口から細かく漏らす。リュームはもう此処が何処かということも忘れているに違いない。ただ、快感を稚拙に貪るように、かく、かくと腰が動いている。

「ひ、あっ……ンッあ……あ……っ」

 その腰が、一つ強い鼓動を刻み、緩やかに力が抜けたように声が流れるのを見て、ルシアンはリュームの射精を知る。

 ライが唇をぺろりと舐めて「どうだ、気持ちよかったか?」と訊く。その顔は本当に父親のそれのようで。

 呆然と潤んだ目をしたリュームが、薄く口を開けたままこっくりと頷いた。「そうか、よかったな」と、立ち上がったライはごしゅごしゅと蒼い髪を撫ぜて、

「したら、いつまでもこんなとこいねーで、行こうぜ」

 と言う。「夜はまだまだ長いんだしな」

 ルシアンは、勃起した性器を隠したまま、言葉を喉元で押し殺している。リュームは心持恥ずかしげに、しかし颯爽と夜の林の中へ入っていくライのことを追い駆ける。ルシアンの足が進まないのを振り返り「にーちゃん」と呼ぶから、ルシアンも仕方なくこっくりと頷いて前を隠したまま二人を追うが、足取りはどうにも、雲の上を歩くようにふわついていた。

 宿の裏口すぐの森は下り坂になっていて、下りきった先にはルシアンがシーツなどの大物を洗う川がある。広々とした川原があり、たまに弁当を持って其処で昼食を食べることもある。リュームが少女たちに裸を見られたのはまさにその川原である。

 ライは今宵、その川原に行って「しようぜ」と言ったのだ。「今夜は涼しいしさ、解放感あっていいだろ」と。きっぱりと「嫌」とは、リュームもルシアンも言えなかった。そこまで見越してライが言ったのだと、ルシアンは判っている。

 リュームは森に入ったことで、少し安心したのか前を隠さなくなった。その天真爛漫さが羨ましい。ルシアンは誰かに見られるかもしれないという懸念以上に、こんな行為で持て余してしまう自分の欲が恨めしかった。

 ぼくは露出狂じゃない。

 そう、思っている。思うだけなら勝手だと、ライは言うかも知れない。タイツの中にパンツを穿かない格好、つまりペニスや臀部を誰に見られるとも判らない格好で表に出るのは、どう解釈したっておまえに露出趣味があるからだよ、と。

 そう……、なのだろうか。

 片手では、勃起してしまったペニスを隠しきることが出来ない。どうしても両手を使わざるを得ない。しかし両手で前を隠せば必然的に後ろががら空きになり、ライが「エロい」と言う尻を丸出しにして歩くことになってしまう。

 自分の尻の形など、もちろんはっきり把握している訳ではない。普通のお尻、だと思っているのだが、ライだけでなくリュームまで「うん、にーちゃんのお尻、すごくエロい」と言う。

「ま、待ってよ、ライさん、リューム、早いよ……」

 よろめきながら付いていく。足元は丸太を組んで作った簡素な階段状の道であるが、両手が塞がった状態では歩き辛いことこの上ない。ルシアンは道の半ばでとうとう音を上げた。優しい夫と息子はすぐに立ち止まる、ばかりか、ルシアンの元まで引き返すのもいとわない。

「そんな風にちんちん隠してるから歩きづらいんだ」

 とリュームが至極当然という風に言う。ついさっきまであれだけ恥ずかしがっていたのに、今はその「ちんちくりん」を平気で晒しているのは、ここが森の中だからという以上に、一度の射精を経て少年のリミッターが外れたからに違いなかった。

「だ、だって……」

 ルシアンはまだ、外れていない。

 外してしまうと、自分でも何をするか判らないから、外すのが怖いのだ。実際、暴走したルシアンを制御するのはライにだって容易な仕事ではない。普段の清楚な表情が嘘のように積極的になる。過去に幾度か、ライはその陥没乳首をルシアンに嫌というほど弄られて泣かされた記憶がある。白昼の川原でリュームの胎内に放尿したことさえあるルシアンだ。しかしながら理性が働いているうちは、そんな自分であることを否定したいのだ。

 そんな顔を見せられたら、その仮面を剥ぎ取ってしまいたくもなるだろうさ。

「そうそう、このガキの言うとおりだ。誰も来やしねーってのに、何でそんな厳重に隠すかねえ」

 ライは当然、ルシアンが勃起していることに気付いている。というよりは、勃起させるように仕向けたのだ。

「んー? それともルシアンおまえ、しょんべんしたいんじゃねーの? おまえは最初んときから、こうやって表で裸んなると緩くなってたもんなー」

 違う、と否定したくても出来ない。初めてあのサマーセーターにタイツという取り合わせで表を歩かされたとき、ルシアンは確かに失禁した。その理由が何だったかはルシアンにも判らない。極度の緊張状態に在ってトイレが近くなっただけだと解釈するのは物足りない。寧ろ、あれもライの変態性に拠るところが大きかったのではないか。ライはリュームやルシアンにおしっこをさせるのが好きだ。「だって、ちんこから出るものって意味じゃしょんべんも精液も変わんねーだろ」と彼は言う。精液はさほど汚い印象はないが、おしっこはおしっこだ、体の老廃物だ、汚れている、……ルシアンはそう思うのだが、ライが其れを好きと思うことをルシアンに左右出来る訳も無く、しばしば彼らの遊んだ後は水浸しになる。

 だから、ルシアンの中の潜在的なところで変態的な行為をしているという自覚がライとの交合に繋がり、其処における重要なファクターの一つである尿を本人も無意識の内に引き出す結果になったのではないか。

「ち、違うよ、そんなんじゃ……」

 ルシアンは否定する。だが、ライに言われて初めて、自分の内側に排泄欲求があることにルシアンは気付く。

「んー……、おれもしょんべんしたい」

 リュームが思い出したようにペニスに触れて言う。

「丁度いい、三人でしちまおうぜ、連れションだ。幸せ家族の証だ」

 ズボンからまだ勃起していないペニスを取り出したライと、すっぽんぽんのリュームが並んで木の前に立つ。ルシアンは尿意を感じながらも、両手で隠したまま其処に並べない。

「おい、あんま散らすなよ」

「へへー、みぎひだりー」

「おれにかけたらかけ返すからな」

 そんなことを言い合いながら、立ち小便をする二人を見ながら、ルシアンは困るほかない。

 おしっこはしたい。

 けれど。

 けれど……。

「にーちゃんは? しないのか?」

「……う、ん、……でも」

「遠慮すんなよ、どうせおれらしか見てねーんだし、しちまえよ」

「う、う、……でも……」

 おちんちん、勃ってるし……。

 こんなところで、勃起しちゃってるし……。

 困惑しきったルシアンが相変わらずもじもじしているのに焦れたリュームが、その手をぐいと引っ張った。「あ、あっ、りゅっ、むっ、ダメっ……」と、声を上げたときにはライにもう片方の手を取られていた。

「……うわ……」

 リュームがルシアンの手を取ったまま、思わず、といった感じの声を出す。

「やだ、やだ、見ないでよぉ……」

 ぴんと張った性器を二人に見られて泣き声を上げたルシアンの耳元で「やっぱりな」とライが密やかに囁く。「外で裸になるってだけで興奮するんだよな、ルシアンは。……こんな勃起ちんこでしょんべんしたら、あっちこっちに撒き散らしちまうよなあ?」と、今度はリュームにも聴こえるように。

 泣きそうな顔のルシアンの、下腹部を掌で探る。

「此処。もうしょんべんしたくてしたくてしょうがねーんだろ? 変態だよなー」

 其処にはルシアンの膀胱が在る。尿意の存在に一度気付いたら其れはただ逼迫するばかり、なぜ出てくるときにしてこなかったのだろうと、自分を呪いたいような気になる。しかし仮に出てくるときに用を足したとして、こうして裸で居たなら同じ局面に遭っていた可能性は、ルシアンにも否定できなかった。

 ライが、ルシアンの手を離した。リュームも同じように。しかしルシアンはもう其処を隠せない。きつく勃起したペニスの内側で、ツンと滲みるように尿意が極まっている。

「しょんべんしてーのか? ルシアン」

 問いに、こっくりとルシアンが頷く。

「そっか。いいぜ、しても。構わねーよな?」

 リュームも頷いた。

「ルシアン、おまえはこんな風に誰が来るかも判んねーような森の中で、勃起ちんこからしょんべん撒き散らすような変態だよ」

 にこり、優しく微笑んだライが、強張った頬に口付けた。リュームはライに抗うように、

「でも、おれはにーちゃんが変態でも構わねーし……、にーちゃんのこと、好きだし」

 と、その手をぎゅっと握る。

「……あ……あ……っ」

 真っ白になった頭の中に、二人が垂らした蜜が染みを作る。

「う、あっ、あっ……あああ……ッ」

 斜め上を向いたペニスの先から溢れ出した其れは放物線を描く。夜風は止んで、自分の噴き出した尿が下土に落ちる音が森の中に響いている。

「すげー……、噴水みてー……」

 と、口を開けたままのリュームが呟く。

「どうだよ、気持ちいいだろ? 我慢は身体に良くねーの知ってんだろ」

 堪えていた。

 ――リミッターを、

「んっ……、んっ、気持ちぃ……っ」

 外す――

 繋いだ手を、ぎゅっと握る。

「にーちゃんの……、にーちゃんのちんこ、すげー……」

 手を繋いだまましゃがんで顔を寄せるリュームが感心したように言う。間近で放尿を見られて、羞恥心は其処から燃え上がり、理性を焼き焦がし灰に変える。

 長く続いた放尿が終わった。息を弾ませながら、ルシアンは自分が間違いなく裸で、二人の恋人の眼前で排尿したことを確かめるように自らの身体を見下ろす。性器を伝って陰嚢を濡らす体温を感じても、罪悪感は喚起されなかった。

「変態ルシアン……、おまえはどうしてそんなにエロくて可愛いんだろうね」

 ライが低い声で笑って言う。同意して頷いたリュームは、まだ口が開いている。

 リュームはルシアンの尻を「エロい」と思うのと同様に、あるいはそれ以上に、ルシアンのペニスが綺麗だと思っている。

 ライより一回り小さくて、包皮は勃起してようやく少し剥ける程度。まだ毛は生えていなくて、輪郭だけならばリュームのものとさほど変わらない。しかし、自分のよりもずっと綺麗に思えるのは、どうしてか。

 にーちゃんはずるいや、と思う。どうして男なのにそんなに綺麗なんだ、と。しかし嫉妬は生まれない。寧ろ、自分の「母親」と称すべき人が美しいことを祝したいような気になる。その人の裸をこんなに間近に見ることが出来るおれでよかった、と。

「りゅっ……、リュームっ……!」

 衝動に委ねて、リュームはルシアンのペニスに口を付けた。……しょっぱい……、そんなことを考えた瞬間が在ったかどうか。却ってその味に興奮を覚える。

「や、っ、やだっ、ダメっ、おしっこっ……汚いよおっ」

 にーちゃんのおしっこなら汚くねーし、にーちゃんのちんちん、好きだし……。頭の中はそういう類の考えで一杯だ、リュームよりは少しは強い亀頭はつるりとしていて、其処からは徐々にぬるついた腺液が溢れてくる。小便とは異なる塩味に激しい興奮を覚えながら、リュームはもっと他のも、もっと美味しいのも、と強請るように激しく舌を絡め、執拗に吸い上げる。

 リュームのやり方は稚拙で乱暴だったが、野外での放尿で興奮しきったルシアンを追い詰めるのは容易だった。どくん、と、心臓が一度ひっくり返ったような鼓動と共に、尿道を押し広げて精液がリュームの口へと溢れる。

「は……っ、あ……、あ……!」

 どろりと濁った精液を嚥下して顔を上げたリュームは、見下ろすルシアンの顔に思わずどきりとする。……ああ、やべー……、すげー、きれー……。紅い目元で自分を見下ろすのは、リュームにも間違いなく「美少年」の顔であると判断できる。

「……にーちゃん……、気持ち、よかった……?」

 ずっと繋いだままだった手を、繋ぎ直してルシアンが頷く。ほんの少し、痛いような笑みを浮かべて。

 そう例えばこういうときなのだ、とライは思う。こういうときに、ほつれかけた糸は完全に音を立てて切れる。やっていることは何処からどう見たって変態であるし、大問題が伴うのだけれど、それでも愛しさを感じあったとたんに、それらが瑣末に感じられてしまう。

 一人ではないからだ。共犯者がこうして居るからだ。手を繋ぎ、しっかりと温もりを感じあえる。何が起こっても自分たちが一緒に居られれば乗り越えられると信じてしまえるから。

 だから、見てろよ、絶対ルシアンは歩き出すとき、……ほら、ちんこを隠さない。

 

 

 

 

 夜の川原はもちろん人気など無く、このところ雨が降っていないから、普段より水量が少なく静かだ。夜の底で、川も眠りについている。しかし月明かりが煌々と照らしていて、リュームとルシアンの裸身は白く妖しく光って見える。

 だだっ広い場所に裸で居ることには少しの不安がやはり拭いきれないようだが、それでも互いへの愛情が二人に妙な自信のようなものを植え付けているようだ。家から持ってきたシートを岩の上に敷いて、ライは肩から提げていたバッグを下した。中から水筒を取り出して、ハーブティーを二人に振る舞う。

 裸でさえなければ自然な光景だ。

 リュームはもう、自分が裸で在ることに慣れてしまったかのように、平気で足を伸ばして座る。「なー、泳いでいいか」などと言うが、これはルシアンにたしなめられることまで計算した上の子供らしい言葉である。そのルシアンは膝を抱えるようにして座っている。裸には慣れても、かといって警戒心を全て解けたわけではない様子だ。

 三人して口を開けて月を見上げる。同じものを見ている。そういうことを感じたときに、ライは家族というものの良さに触れる。同じ気持ちで居ることだ。同じ考えで居ることだ。もちろん細かな差違は在る、しかし「同じものを持っている」と信じ合えるのが家族だ。

 でも、まあ、そういう湿っぽいことはいいや。

 もっと、びしょ濡れにしよう。

「さて」

 ライは二人からマグカップを受け取って、ひょいと指を閃かせる。

「おまえら、ちょっと其処に立ってみ」

「へ?」

「いいから。立ってさ、しょんべんするときみてーに、ちんこ摘んでさ」

 何を言い出すのか判らないところはいつもの通り。「おれにしょんべんかけろ」と言われた訳ではなかったことを喜ぶべきかもしれない、いや、それぐらい言ったってライの場合驚くに値しないのだが。

 ルシアンもリュームも、顔を見合わせライの真意を測りかねるが、やがて素直に立ち上がると、シートの上で小便をする格好を取った。

「うん、やっぱそうだよな。そうやって右手でちんこ摘んでするよな」

「だって、つままねーとどこ飛ぶかわかんねーじゃん」

「そうだよな。おまえらみたいな皮かむりちんこは、ときどきとんでもねー方向にしょんべん飛ばしたりするからなー、うん、よし、ご苦労、もういいぞ」

 意味も理由も判らないが、ライは満足したようにうんうんと頷いた。もういいと言われたから再び腰を下ろすが、正直なんだか変な気分がするリュームであり、奇妙な、そして少し嫌な予感が頭を過ぎったルシアンである。其れが何であるかは、全く判らないのだけれど。

「もう、裸で居るの平気みたいだな?」

 ライはルシアンに向けて言う。ルシアンは困ったように首を横に振った。その肌は、再び緊張を帯びているように見える。しかし性器以外の場所が露出していることに関しては無頓着だから、やはり徐々に剥がれて来ているのだ。

「おれはもう平気だぞ」

 ひょいとリュームは立ち上がる。

「どーせ誰も来ねーし、にーちゃんとライしか見てねーなら関係ねーし」

 それは本当のことだろう。もし誰が来るとも思えない場所でなら、やはり神経質に周囲に気を配るはずだ。自分よりも小さな幼女たちに股間を見られて「小さい」などと言われたことは少年の中で相当なトラウマになっている。

 ルシアンは硬い笑みを浮かべ、リュームを見上げる。「リュームは、すごいね」と曖昧な声で言った。今更服を着たいと思ったところで、家の庭にライが投げ捨てて着てしまったし、あそこまで一人で戻れるはずもない。一人だけ上下きちんと服で固めているライが羨ましく思える。

 しかし、いつまでも自分だけ服を着たままで居るライではない。居られない、と言った方が正しいか。さてと、と思い出したように立ち上がり、シャツを脱ぎ捨てハーフパンツとよれよれトランクスを一緒くたに下ろす。あっという間に裸になると両手を広げて「おお、解放感あるなあ……」と気持ち良さそうに大きく伸びをした。

「おまえたちと違って、俺はそうそう外で裸にはなれねーからなあ」

「……ぼくらだってお外で裸になってばっかりいるわけじゃないよ……」

「でもさ、おまえらの場合は許されるから。ちんこちっこいし可愛いし。おれみてーに毛ぇ生えたり皮剥けかかったりしてるとなー、やっぱ世間の目が気になるって言うか」

「んなん、おれたちだって気になるに決まってんだろ」

 しかし、不思議なもので、少なくともリュームが裸で水遊びをしているのを見たって誰も何とも思わないのである。子供が子供らしく遊んでいるだけのこと、男児の裸は女児のそれに比べ、存在価値が軽視されがちなのだ。ルシアンだってリュームがただ裸で居るだけならば「風邪をひいちゃうよ」くらいのことは言うけれど、強いて服を着せなければいけないとも思わないし、股間に目が釘付けになるということもない。

 ライはリュームの、ルシアンの、無毛包茎に目をやり「おまえらは今ンとこまだ、可愛いだけのガキんちょだからな」と総括した。

「で、だ」

「ん?」

「おれも裸になった、おまえらは元から裸だ」

「それがどうした」

「んー、だからさ、することは一つしかねーし、もともとおまえらだってそのつもりでついて来てんだろ? だったら皆まで言わすな」

 ほら、とまだだらしなく下がったままのペニスをくいと揺らして見せる。

「おまえらは来る途中で一回ずつやってんだからな、今度はおれのこと気持ちよくすんのが筋ってもんだろ?」

「……そんなん、アンタが勝手に……」

「ああ、そうだよ、おれが勝手にやった。そんでもって、ルシアンが勝手にしょんべんしておまえが勝手にちんこ咥えた。だったら今度はおれがしてもらう番だろ」

 ライの屁理屈に混乱したらしいリュームに変わって、ルシアンが小さく溜め息を吐き、

「ほんとに、お外でしなきゃいけないものなのかなあ……」

 と上目遣いでライを見た。

「その……、部屋のベッドの上でも、同じだって思うんだ。三人で一緒に、愉しく、気持ちよくなれるのは……」

「まあ、確かにな」

 言って、ライは頷く。

「おまえも裸には慣れちまったみたいだし、もっとすげーことしねーとベッドと外の差は曖昧だ。でもやっぱり、外は違うだろ? 外でしかできねーことが一杯ある」

 確かに、部屋に居るときにあそこまでトイレが我慢出来なくなるルシアンではない。

 それに、外だからこそ、感じてしまう……、興奮。ライさんの言うとおり、やっぱりぼくは露出狂なのかもしれない……。ライの言葉にそれ以上反駁を重ねられない時点で、

「おまえだって、外であんな勃起してしょんべんすんの、悪かねーだろ?」

 そして、その言葉に頷かないまでも、即座に首を振れない時点で。

 ライの勝ちだった。議論としての勝ちが著しく低いものだから、勝っても価値はないものではあったが、少なくとも論破して願いを叶えるくらいのことは出来る。ライの前に跪いたルシアンは、両手を恋人のペニスに添えて、キスをした。

「ん……、そうそう、おれら三人なら、何処でも変わんねー、一緒に一杯幸せになろうぜ」

 ライが言う。その言葉はいつでも真理の的を射ているように、ルシアンには思えた。もっとも、言うライにそこまで深い考えが在るわけでもない。ただ今は、三人で、此処で、してーから。それだけだ。ピュアで素直で、穢れている。

「ライさん……」

 勃起したライの性器を手に、ルシアンが見上げる。

「判ってんだろ? 咥えろよ」

 こく、と「奥さん」は素直に頷いた。

 ルシアンの口は、そう大きくない。その口にすっぽりと収まるのだから、自分のペニスがそう大きいとも思えない。今は、適度なサイズでよかったと思うことにする。ルシアンはその「適度なサイズ」のペニスをぱっくりと咥えて、口の中で丁寧な動きで舐める。忘れているのかもしれないが、ついさっきしょんべんしたぞおれ、……却って其れがいいのかもしれない。ルシアンの右の指はライの茎に絡みつき、空いた左の掌ではライの性毛と下腹部をいとおしげに撫ぜる。

 リュームは口を開けて、フェラチオをするルシアンの横顔を見ていた。当然のことながら自分の性器を咥える恋人の横顔というのは見ることが出来ない。が、リュームの顔を見ていれば、どういう顔をしているかは判るというものだ。

 跳ねッ返りに、

「……あにボーっとしてんだ、おまえも手伝うんだよ」

 雑な言葉を投げつけても、ぽんと勢い良く帰ってくることはなかった。リュームが吸い寄せられるように隣にひざまずくと、ルシアンは咥え込んでいた先端を譲り、自らは陰嚢へと降り、舌先でちろちろと愛撫しながら、リュームのペニスに指を伸ばす。

「んひゃっ……、にーちゃ……っ」

「……いっぱい、気持ちよくしてあげようね。ぼくも……、リュームの可愛いおちんちん、いっぱい気持ちよくしてあげるから……」

 意志に溢れた目で頷いたリュームが、再びライの性器を咥え込む。リュームの口元からいやらしい音が立ち始めたのを見て、ルシアンは身を屈め、リュームのペニスに口を付けた。

 ライが「可愛い」と言っていた。言葉の意味を知っている。勃起してもあまり剥けなくて、勃起しなければ先っぽに柔らかく余るような皮の存在がその根拠である。先端は――ルシアンも非常に弱いがそれ以上に――とても敏感で、あまり執拗に舐めるとおしっこをちびってしまうような場所だ。皮が剥けなくて先端が弱いのはルシアンも同じだが、リュームよりは強いという自負が在る。

 さっき、おしっこをしたばかりだ。だからそういう匂いと味がある。リュームはときどき、白い下着の前を汚す。「ちゃんと振らなきゃダメだよ」と言ってしまうのは簡単だが、本人だってそのことを恥ずかしく思っているはずで、主に洗濯を担当する自分が丁寧に洗えば良いだけのことだと思っている。ただ「汚い」という思いがどうしても浮上しないのは、ルシアンがやはりライの「嫁」として一緒に居ることを選んだ時点で確定していた。

 舌先に、精一杯勃起した性器がたまらない震えを伝える。

「にぃひゃっ……ンっ、んっもぉっ……せぇしっ、出るっ……!」

 その声が嘆くような響きを帯びるのは、もうライの性器を口にするだけの余裕が無くなってしまうからだ。そんな責任感の強さは、ライがリュームの髪を撫ぜることで報われる。

「ひ、っ、っひゃっあぁっ、もぉっ、ッンっ、んぁっ、あ……!」

 上顎を叩き、広がる味と匂いを喉が欲しがる。飲み込まないで居るためには母として妻としての意識を動員しなくてはならなかった。息を堪え、零さぬように震える幼茎を口から抜く。

 二人の視線を集めた掌の上に、口の中に零された精液を垂らして見せた。

「……すごいね……、リューム、まだいっぱい出せるね。こんなに濃くって、ぬるぬるで、ねばねば」

 ライさん、と糸を引く左手でその性器を掴み、右手を自らの足の間へと入れ、蕾へと塗りつける。恥ずかしさを超えて呆れるくらい、さっきからむずむずしているルシアンのその場所はスムーズに彼自身の指を飲み込んで行く。

「ほら……っ、ライさん……、リュームの、せーし、きもちぃ? ライさんのおちんちんの匂いと混ざって、すっごく美味しそう……」

 糸が切れる音を聴いたわけではないが、ライははっきりとルシアンが理性から切り離されたのを感じる。明日の朝少ししんどいかもしれない。

 けど、まあ、いいよな。幸せにするんだ、幸せになれんだ、お互いに。

 ルシアンは自分の指で纏わせたリュームの精液を、丁寧に舐め取ってゆく。舌先の動きはどうしてそんなことが上手いんだ教えた訳でもねーのに……、ライの呼吸を易々と震わせる。

 熟練の腕を持つ召喚士の息子、剣の腕だって――当人はコンプレックスと感じているが実際は――背中を任せるに不足は無い、優しくて賢くて礼儀正しい、美しい顔をした少年というのがルシアンの無意識の裏で周囲が彼に定めた評価だ。

 誰も、知らない。

「はぁ……、ライさんの……おちんちん……、大好き……おちんちんのおつゆ、おいしい・・・…」

 男性器に頬を寄せ、うっとりと息を漏らしながら自分より幼い少年の垂らした精液とライの腺液を舌先で混ぜて味わいながら、肛門を指で開いていくような「奥さん」であるということなど。

 此処は、外だぞ。風のそよぐ、川原だぞ。

 もうそんなことどうでもいいただただただ気持ちよくなりたいだけの浅ましくていとおしい生き物。

「変態」

 言ってやっても、もとより紅らんだ頬のルシアンはまるで堪えないと言うように、足を開き、リュームに言うためだけにペニスから口を離した。

「……リューム、ぼくのお尻、入れて」

「うぇ……?」

「リュームのおちんちん、ぼくのお尻でぎゅって、してあげる」

 言い終えると、またルシアンはライの性器の虜となる。栗色の柔らかい髪は月明かりに蒼くさえ見え、光の加減でこの清純な少年は如何様にも姿を変えるのかもしれないとライは思う。

 もっとも、昼日中だってスイッチが入ればこうなってしまうルシアンではあるけれど。

「……ちんこ、美味いかよ、そんなに」

 我慢しきれないと言うように、先端から咥え込んで強く吸うルシアンに訊いた。答えは飛び切りに淫らな視線だ。リュームは操られているようにルシアンの肛門にひ弱な性器を押し当てる。

 考えてみれば先端の弱いこの子供が胎内に入るのは初めてのはずだ。「上手に入れられるか……?」ライは優しく言う。「皮被せたままでさ、……ルシアンの中、柔らけーから、そのまんま入ってみ」励まされたようにリュームは指が抜かれぱっくりと口を開けたルシアンの孔の中へ、恐る恐るの趣で身を沈めて行く。穿たれる経験はリュームよりも少ないくせに、いつも上手にライのことを受け容れるルシアンにとって、細く小さなリュームの性器を飲み込むことなど容易いのだろう。

「う……あ……っ」

 尻に当てられたリュームの指の震えで、少年が悦んでいるのを知る。

 同じようにルシアンも悦ぶ。幸せの洞の中へ招じ入れたルシアンは、未だ少しの遊びのある胎内をきゅっと締め付けて「ひうっ……」とリュームから余裕の全てを奪い取る。

「どうだよ、リューム……、中、気持ちいいだろ」

 リュームは身動きすら取れないで、泣きそうな顔をライに向ける。

「ちんちん……」

 喘ぐ声は震えて濡れて、泣いているようにも聴こえた。「溶ける……っ」

「ぼくの……ッン……お尻、で、いっぱい、気持ちよくなって……、リュームの、ぼくの中にいっぱい、出して、ね?」

 肩越しに振り返る横顔は信じられないくらいの艶を帯びている。至竜を宿していると言っても未だ幼いリュームの心を砕くのは簡単なことだ。

「に、ぃちゃ……っ、にーちゃんっ……!」

 リュームが無我夢中になって腰を振り始めた。ライがくっと喉の奥で笑みを潰して、言う。「んっとにエロい尻してるからなー、ルシアンは」

「んん……っ、わかんないよぉ……、そんなの……」

「リュームのちんこ気持ちいいか?」

「ん……っ、ちっちゃくって、お尻の入口んとこ、くにゅくにゅするの……っ、っはぁあ……」

 しかし感じ切っているばかりでは居ない。ルシアンは自分の尻をリュームに捧げながら、ライへのフェラチオも再開する。張り詰めた性器の熱を前と後ろに感じて、ルシアンももう、射精までの距離を近く感じている。それでもまだ思考することは可能だ。括約筋の力を上手に緩めて、リュームに配慮すると共に、頬を窄ませ吸い上げてライを追い立てる。舌にはもうほとんどリュームの精液の味は残っていなくて、その代わりにライの腺液の濃厚な潮の味が溢れていた。

「にぃちゃっ……もぉ出るっ、せーし出るっ」

「おれも……、もうやばい……!」

 優しくとどめを刺すように、リュームの性器を締め上げるとともに、ライが一番悦ぶ裏筋を舌で舐め上げた。体温が弾ける。リュームの鼓動、ライの鼓動、ひとつ身体に重なって、……二人とも、すごい、あったかい。

 自分に向けられる思いを感じるたびに、セックスが愉しいとルシアンは思うのだ。

「……うあ……っ、あ……う、ッン……はぁ……っ」

 リュームが、するりと肛門から消えた。顔中に浴びたライの精液の粘度の高さに、素直過ぎる「ごめんね」という思いが過ぎった。もっと早く、してあげなきゃいけなかった、と。

「……リューム、ぼくで『初めて』、しちゃったね……」

 ぺろりと唇を舐めて、ルシアンは言う。「ちっちゃくて、まだ皮も剥けないけど、でももう、大人のおちんちんだよ」

「ルシアンで筆降ろし出来んだったら最高だろ」

 精液塗れの顔に嬉しさと優しさに溢れた微笑を浮かべたルシアンの髪を撫ぜる。髪そのものがじんわりと温かかった。

「いっぱい、……出たね。リュームも、ライさんも」

 ルシアンは尻をきゅっと締める。ただ、すぐにリュームに背を向けてしゃがむと、改めて其処を緩めた。

「……ッん……、ほら……、リュームの、ぼくに出した、せーし」

 微かに笑みを震わせながら、肛門から濁った精液を排出する。それは泡となり、弾ける音を立てて零れ出し、糸を引く。

「見える……? ……あっ」

 大きく広げた足の間で上を向いたペニスの先、後部での排泄の勢いに乗じて雫が零れ出した。

「んっとに……、おまえは外でしょんべんすんの好きだよなあ?」

「あ……う……、だって……っ」

 包皮の隙間から溢れた液体は茎を伝って頼りなく流れるばかりだが、やがて低い放物線となって射ち上がる。

「すっげ……、にーちゃん、いっぱい出てら……」

 立ち上がったリュームが覗き込む。「にーちゃん、おしっこすんの気持ちいい?」

 屈んだまま放尿することなど経験のないルシアンは、はしたない自分の姿を恋人二人に見られている倒錯の恍惚に溺れる。

「ッン……んんっ、きもちぃ……っ、おしっこ、おしっこしてる……っ恥ずかしい、けどっ……!」

「顔中精液塗れンなって尻から精液垂らしながらしょんべんして善がってんだもんな、……淫乱」

 辛辣だが優しく響く言葉をかけて、やや緩んだ性器をルシアンの顔に突きつける。放尿はまだ続いていたが反射的に口を開けたルシアンの髪をくしゅっと撫ぜて「目ぇつぶってろよ」と告げた声を訊いて、リュームがぽかんと口を開ける。「おまえも、出んなら手伝え」と、言い終えないうちにライはルシアンの顔目掛けて放尿を始めた。

「へへ……、どうだよルシアン……、綺麗にしてやるからなー……?」

 何をされているか、すぐに把握したルシアンは目を開く。ライが意地の悪い笑顔で自分の顔面に向けて放つ液体を浴びながら、自分の性器に手を掛けて夢中になって扱き始めた。勢いは衰えたとは言え、未だ液体は其処から滴っていたが。

「ん、ぷ、ぅッ、ンッんっ……んっ、いっ、っひゃっ、ひっひゃぅっおひんひんいっひゃうよぉおっ」

 握り締めた性器の先から精液が低く飛び出る。自分の作った水溜りの上に、跳ねて散る。顔を身体を濡らすライの液体を、汚いなどとは思えない。だってライさんのおしっこだもの、汚いはずがない……。射精を経ても考えはまるで変わらなかった。頭の中は依然、茹だった鍋の中に在るようだ。

「……綺麗になったな。おれのしょんべんで」

 ライが、哂う。屈んだままルシアンはうっとりと頷いて、身体を伝う液体は多分ぼくにはもったいないくらい素敵なものだと、定義する。

「にーちゃん……、すげー……、ほんとにすげーや……」

 結局一滴も零さなかったリュームは力のない笑いを浮かべて言う。しかし現時点では一番理性的なこの少年だって、ライとルシアンの尿を自分に浴びた経験が在る。それがちっとも「悪い」と思っていないのだから、今だってルシアンを汚いなどとは思わないのだ。

「立てるか?」

 さすがに膝が少し痺れ、立ち上がってバランスを崩しかけた。その身を、リュームが支える。そもそもライとルシアンの尋常とは言えない愛し合い方を見て、既にこの夜二回射精していながら勃起しているリュームは二人をどうやっても悪くは言えないのだ。

「したら、身体洗って来い。リュームも付いてけ」

「ん」

 夜の川の水は、警戒していたほど冷たくはなかった。水面に月は散らばって溶けて、川原よりも更に明るい。ようやく理性らしきものが頭を擡げてきたルシアンは、身体を洗いながら、……誰にも……見られてないよね? 大丈夫だよね? ちらりと一度、村と繋がる獣道を見遣った。調子に乗ってしまうのはぼくの悪い癖だ、……いや、そんな「癖」なんてなかったはずだけど。

「にーちゃん、見て」

 付いて来ているだけなのに、父に水遊びを解禁されたつもりのリュームは必要もないのに腰の辺りまで水に浸かっている。まだ勃起したままの性器の先端が、揺れる水面から僅かに顔を覗かせていた。

「ん?」

 リュームの下腹部に力が入った気配がする。

「へへ……、クジラのしおふき」

「あにやってんだてめーは」

 ぺし、と川に入ってきたライがその頭を優しく叩く。叩きはするが、している行為自体を咎めるのではなくて「用が済んだらとっとと出ろ」とその身体に風邪をひかせないために。

「っつーか、アレだ」

 確かに「潮」の味して噴き出すもの。「もったいねーだろ、出んならさっきおまえもルシアンの顔にかけとけ」

「だって、さっきは出なかったんだからしょうがねーだろ。川入って冷たくなったから出た」

「あー……、まあ寒くなるとどうしてもしょんべんは近くなるよな。……おまえが露出すると近くなんのは寒いからかもしれないなあ?」

 ルシアンは言われて、曖昧に頷くがすとんと納得の行くような事象でもない。寒さだけではなくて緊張その他の要素が複合的に絡んだ結果だろう。

「まあいいや。ルシアン、尻。こっち」

「お尻?」

「おれも入るから。こいつの」

 ぐい、と肘で頭を押す。「ちんちくりんが入ったくらいじゃ慣れてねーだろ」

「ちんちくりんって言うな!」

「ちんちくりんだろ、比べなくても判る。ってかおまえも中に来られなきゃどうせ満足なんてしねーだろ」

 む、と唇を尖らせて何か抗弁しかけたが、リュームは結局頷く。「てめーも尻貸せ」と。

「んひゃ」

「あう」

 二人の孔の中に、指を突っ込む。

「きゅ、急に……っ、入れんなよぉ……」

 経験値、身体の大きさ、その場所に這入った指に答える感触に生じる差の理由はいろいろあろうけれど、つい先程リュームが這入ったからという点を差し引いてもルシアンの方が柔らかい。リュームの内部は括約筋だけでなく直腸道そのものが筒状の蠢く壁となって圧迫してくるかのようだ。どっちに入れたい? 簡単な答え、どっちにも入れたい。夜が永遠の長さを持つなら、交互に入れて、多分ずっと飽きない。

 残念ながら、夜の全体量から睡眠時間を差し引くことを考えれば、もうあまり時間はない。この「家族」という形でいつまでだって愛し合う時間こそ、ライが求めるものかも知れない。明日も朝から働くのだ、甘く瑞々しい体温を愛でるまで、またずいぶん長い時間を待たなくてはならない。しかし、ぎりぎり「勤勉」と呼ばれるくらいには働いている。身体を酷使して働いた末に手に入る時間だと思えば、僅かであっても文句は言えない。

「にーちゃん」

 川べりに上がったところで、リュームが背伸びして、ルシアンの頬にキスをした。

「さっきの、お礼。にーちゃんにおれ、入れさせてもらったから。だから、にーちゃん、入れて」

 反射的にライを見る。ライは当然そうだろうと言う代わりに頷いた。

「言ったろ、おれはだって、おまえに入れんだし」

「おれのこと、気持ちよくしてくれたから、おれもにーちゃんに気持ちよくなって欲しいし」

 本当に、セックスなんてものは、愉しくなければしない。其処に幸せがなければ。可愛い息子、優しい旦那様、囲まれて一番あやふやな立場の「奥さん」で居させてもらえる、素敵な時間。

「ん。わかった……、ありがとう、リューム」

 そしてそういう言葉を口にするときに――どこの世界に男同士の「母子」が居るかそしてその「母子」でセックスをするかという思いを抜きに――ルシアンの目には母親そのものの、温かなタオルケットのような微笑が浮かぶのだ。

「愛されてんなー、『おかあさん』」

「……ん……、すごく、幸せ、だよ。だから、ぼくも……、頑張るんだ、リュームのこと、ライさんのこと、もっともっと、愛して、ぼくで、幸せになってもらわなきゃいけないから」

 身の丈ほどある岩に手を付いて、リュームが足を開く。水の滴る身体に月光が弾けていた。二回りほど小さな身体に、後ろからそっと身を重ねたら、身体に比して頑丈な尻尾が腕に回った。

「ぜってー、中に、出してくれよな……、にーちゃんの……」

「うん……、でも、あんまり我慢できないかも……。すぐいっちゃったら、ごめんね?」

「いい。にーちゃんの中にもらえんなら、それでいい」

 こういうとき、年下の、小さな身体の「息子」はどきりとするくらい男らしく思える。

 もう何も言えなくなって、リュームの中に身を沈めるのと、ライの手が自分の尻に掛かるのと、ほぼ同じだった。リュームの肛路からの強い圧迫に震えたところへ、ライの焼けた鉄のような性器が押し込まれる。「力、抜けって……、判ってんだろ」掠れた声が官能に障るから、力はますます抜けなくなる。

 でも。

「……繋がった……よ、ライさん、リューム……」

 ルシアンは真ん中に居た。リュームの奥まで這入り、ライを奥まで受け容れて。リュームの強い圧迫から受ける快感と、同じぐらいをライに譲れればいい。しかしライからは既に弾けそうな火ッ杭、喉の奥まで快感を詰め込まれ、それよりは少し劣るかもしれないけれど、リュームの中へと。

 リュームが、後ろに手を廻す。その手をルシアンが取り、ライが前へと廻す。

「……ひとつに、なってる……、ひとつだよ」

「ああ……、こんな、外でな。裸ンなって、何やってんだかな」

「変わん、ねーよ……んなんっ、だって、おれたち、一緒……」

 リュームの言葉に二人は頷くが、それならベッドの上でだって同じかもしれない。ただ、そういうことはもう考えない。上空から月が見下ろしていて、新鮮な風が吹いて、誰がいつ来るかも判らないような場所でも、愛し合うのに不都合はない。もういっそ、往来でこういうことすればいい、そしたらほら、世界中がぼくらを知る、愛し合ってる家族だって知る。

「……ルシアン、ほどくなよ。おまえに懸かってんだからな」

「ん……っ、ぜったい、最後まで、ほどかない」

 二つの甘酸っぱい声が撒かれる。聴きながら、ライはリュームの腰にまで手を廻す。ああ、三人ですんならやっぱりベッドの上の方が都合良かったかなあ、今更のようにそんなことを考えながら、ルシアンを中心とした連結が崩れぬように気を遣いながら腰を動かす。不器用なやり方でも、こんなに心地良い。

「にぃっちゃっ……ッンっ、んふぁああっ……にーちゃんのっ、にーちゃんのっ、ちんちんっ……すっげぇっ、熱いっ……うふぁっ、っン……、すげ、めっちゃ、びくびくひて、ンっあっあ……あ……!」

 先鋭的な環状筋の動きと声で感じ取る。ライも息を堪えることはもう止めて、ルシアンの中に欲をそのまま叩き込んだ。

 家族なのだから、三人揃って同じことを考えて、結果仲良しで居るのは仕方がない。家に内外の在ることは当然のことだ、ルシアンは上品な奥さんで振る舞っていればいいし、リュームは見た目の年相応にやんちゃでいればいい。そしておれは、小さな宿の主人としての責務を果たしていればそれで十分。ただ三人だけで居るときには、何も隠さず何も偽らず、三人一揃いの変態で居ればいいさ。

 少しの眠気の中でそんなことを考える。もう一度身体と孔の中を洗って身体を拭いてやったら舟を漕ぎ始めたリュームを背負って坂を登るのは、父親として当然の仕事だった。


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