悪戯
「電車で帰るのか?成歩堂」
地方裁判所からの法廷帰り、馴染みのある声に呼び止められて
振り返ると、トレードマークのひらひらした3段フリルを首から下げ
た御剣が立っていた。
「御剣も法廷帰り?今さ〜自転車壊れてて修理に出してるんだ」
いつもならば法廷の後は自転車だから、と御剣の誘いに断りを入
れてさっさと帰ってしまうのに、裁判所から歩いていたのが珍しか
ったのだろう、とても驚いた表情をしていた。
「そうか、ならばたまには私と一緒に帰らないか」
いつもならば即座に断りを入れる成歩堂だったが、めったにない機
会だからと了承し、談笑しながら並んで駅へと向かった。
「…あれ?なんでこんなに混んでるんだろ」
改札の前もホームも人が溢れかえっていた。いつものこの時間、
この駅ならば多少人が多くともここまで混んでいたりはしない。何
事かあったのだろうかと不思議に思いながらも電車が来るのを待
ったが時刻表の定刻を過ぎても電車がホームへと入ってくる気配
はない。
どうやら車両事故があったらしく、大幅に遅れているらし。復旧の
目処はついているらしいけれど、この分では大分混んでいるだろ
う。
「仕方ないな…、もう少しで動くみたいだしこのまま待つか〜」
「ム、君がそれでいいのなら」
取り留めのないことを話しているうちにホームへ電車が滑り
込んできた。人の流れに沿い車両へと乗り込み、流れに身
を任せていると混雑のために御剣とはぐれてしまった。とは
言っても、乗り換えの駅は同じなのだし20分もすれば乗り
換え駅に着くのだし問題はないだろうと気にも留めず、出来
るだけ出入り口に近い場所をと、必死でつり革へと手を伸ば
した。
あまりの人の多さに息苦しく思っていると、何かが太ももの
内側を触れた。
こんなに混んでいるのだし、多少は人とぶつかってしまうだろうと
思っていると今度は明らかに偶然などとはとても思えない動きで
太ももを撫で上げる手があるのをはっきりと感じた。
痴漢か?!いやいやいや、僕は男だぞ?
突然の思いもしていなかった出来事にただ驚いて呆然としてい
ると誰のものともしれない手は遠慮なしに成歩堂の下半身を撫
で回している。
初めのうちは太ももや尻を撫でているだけだったが、その手は
次第に前へと移動し、ほんの少しの強張りを見せ始めた成歩堂
自身へと触れてきた。
「…っ」
止めさせようにも、こう混んでいては後ろに振り向くこともままな
らない。
それでも、せめてもの抵抗にと電車が揺れるのに合わせ、身体
の位置をずらそうと試みるがそんな成歩堂の動きを嘲笑うかの
ようにピタリと動きを合わせ、離れようとはしない。
湧き上がる嫌悪感。そしてそれだけではない快感と。
無遠慮な手の動きは益々激しさを増し、沸き起こる快感も徐々に
強さを増していく。それでも、相手が恋人ではなく誰とも知れない
他人であることと、ここが公共の場であるということが、慣れた快
感に身を任せてしまいそうになるのをなんとか思いとどまらせる。
けれど、そんな成歩堂のことなど構わずに見知らぬ手はスーツの
チャックを下ろし、そのまま薄い布と茂みに覆われた場所へと潜り
込んできた。
「…っぁ」
戸惑うことなく、その存在感を大きく主張し始めた成歩堂のソレを
握りこみ、揺れる電車の速度に合わせて、小刻みに扱き始めた。
「――っぁ、ぁっ」
思わず漏れてしまった己の声に驚き、周囲に聞こえていないかと
確かめるのと同時に口元に手をあてて声を漏らさないようにと必
死で今にも漏れてしまいそうな声を堪える。
しかし、手の動きは激しさを増すばかりで、その動きに煽られて既
に先端からは先走りの透明な液体が少しずつだが、溢れ始めて
いた。このまま扱かれ続ければ達してしまいそうで、けれどこんな
場所でそんなことになってしまうわけにはいかないと、その気持ち
だけで今にも達して、楽になってしまいたいという衝動をなんとか堪
える。
あと少し、あと少しだけ我慢すれば乗換駅に到着する。それまで我
慢出来れば―――――。
そう必死に快楽に流されてしまいそうになるのを堪え、思考に頭を
働かせているとクスクスと聞き慣れた、そしてとても耳障りな含み
笑いが耳元で聞こえた。
「どうした成歩堂、我慢しなくてもいいのだぞ?」
「みっ…!」
その声は間違いなく、先ほどはぐれたはずの恋人の声だった。
「もうこんなになって…いつもより感じてるんじゃないか?」
耳元でボソボソと語りかけられて、御剣が声を発するたびに首筋
に息がかかる。敏感になってしまっている身体はそれだけでもゾク
ゾクとした快感が背筋を走り抜けていく。
そんな成歩堂の、普段は散々焦らせてでないとお目にかかれない
反応に気を浴したのか、御剣の手は忙しなく動き成歩堂の情欲を
煽り立てる。
「んっ…ぅぁ…っ」
先端の亀頭に軽く爪を立てら、更にもう一方の手はぬめった感触を
成歩堂に知らせようとするかの如く、竿を扱き一気に射精間が高ま
り立っているのもやっとで。
眩暈のしそうな快感に意識を持っていかれそうだ。
「ホラ、イキたまへ」
その囁きに導かれるように、射精した。
「…あぁ、ハンカチが一枚駄目になってしまったな。」
射精後の虚脱感に襲われながらも仰ぎ見た御剣の顔は今まで
見てきた中で一番の凶悪な微笑みを浮かべていた。
END