膝枕













年度末のためか、お互いに仕事に忙殺されて
いて久しぶりに時間が取れたからと昨晩から
御剣の部屋に泊まりこんでいた。

これまでの疲れが溜まっていたのか、久しぶり
の逢瀬だというのに昼食を済ませてから日当た
りのいいリビングの窓際でクッションを干すつい
でにとごろごろとまどろんでいたらついそのまま
眠り込んでしまったいたらしい。

再び目を覚ましたとき部屋はすでに春の日差し
ではなく、夕焼けの暖かな橙色に包まれていた。


「…ふえ?」

「起きたのか、成歩堂」

目を覚ますと眼前には普段は掛けないフレーム
なしの眼鏡を掛けた御剣の整った顔。視界の端
には短編小説なのだろうか?薄い文庫本を片手
に持っているのが映る。

もしかして、もしかしなくてもこの体勢ということは…。

…どうやら眠りこけていた間、僕は御剣に膝枕を
されていたらしい…。慌てて飛び起きると、恐る恐
る御剣に訊ねる。

「え?あれ、もしかして僕寝てた…?」

「あぁ、それはもうすっかりぐっすりと」

「ご、ごめん!起こしてくれてもよかったのに…。
映画、見に行く約束してた…よね?」

「無論、起こそうとしたがな、まったく起きる素振
りすら見せなかったのは君だが?」

「…うぅっ」

チロリと冷たい眼差しですげなく言われては反論
のしようもない。無理もない、見に行く予定の映画
は来週中には上映終了でそれまで見に行けるの
は今日だけだったのだから。

「ごめん!この埋め合わせはきっと!!」

「ほほう…ならば今!すぐにでも!埋め合わせをし
てもらおうか。さぁ今すぐにそこに座りたまえ!」

まさか今すぐに、だなんて言われるとは思っておら
ず慌てて指定された場所に正座をした。

それを見て、満足したかのように微笑むとゴロッと。

「お、おい御剣??」

「しばらく君の膝を貸したまへ」

「へ?膝?」

「君のおかげですっかり足が痺れてしまったんだ、だ
から君に責任を取ってもらおうじゃあないか。…足の
痺れが取れるまでは、な」

「うっ…」

そう言われてしまっては返す言葉はない。

とっても、死ぬほど嫌だが仕方ない。…断れば何を
するか判らないのだから。

そう考えて大人しく膝を差し出すと、にっこりとイヤな
顔で微笑むと嬉しそうにすりすりと膝…いや、太もも
に顔を撫で付けている。

…仕方がない、これくらいは許容範囲だ。

そう言い聞かせてなんとか振り上げかけた拳を堪え
た。

「…変なことはするなよ」

「うム、判っている」


…そのニヤけた締りのないツラが信用できないんだ!
とは言えない。判ってる、悪いのは僕だ。






















………。

……………………。

……………………………………………。



ゴスッ

大きな音を立てて、落下したのはニヤケ面の御剣の
頭だった。

「な、何をする!成歩堂!!」

「判ってるってほざいたのはどこのどいつだ、どの口
だ!…この手はなんだ!??」

「変なことはしていない、ただの恋人同士のスキンシ
ップだろう?なにもやましいことはない!」

「お前のスキンシップってのは尻を撫で回してチャック
を開けることを言うのか?あぁ?!近づくな、変態!」

「足の痺れが取れるまではこのままでいる約束だぞ!」

「知るかーーーーー!!帰る!!!」











…御剣という男の辞書に学習能力という言葉は存在し
ないらしい。







FIN