Fool













「なるほどぉおおおおおおお!!!!!」





うららかな春の昼下がり。

大きな依頼もなく、うつらうつらと昼寝にはちょうどいい陽気で
静かな午後は一人の男の馬鹿でかい声によって破られた。

もしかして、もしかしなくても聞き覚えのある声。




とりあえず、無視してみる。…と言いたいところだが、以前実
行したところ更に大音量で人の名を叫びながら事務所の扉を
遠慮なしにどんどんと扉を破壊するんじゃないかという勢いで
こちらが折れるまで叩いたという前科がある男なだけに、それ
は出来ない。

近所迷惑も甚だしい。

…あの後は事務所の隣近所にお詫びに回るのが大変だった。
菓子折りを持ってひたすら謝り続けた。…出来ることなら二度
としたくはない。

仕方がないので一応出迎えてはやる。

…それ以上の対応をする気はさらさらないけれど。







「…今日は一体何の用ですか、御剣検事。」

「成歩堂、何も言わずこれを受け取ってくれないか。」

そう言って、検察局一のセンス破綻男・御剣が一通の封筒と小
さな正方形の小箱を差し出した。

…一体何を企んでいるのだろう。そう疑心暗鬼に思いながらも
それを受け取り、まず封筒の中のものを確認した途端、凍りつ
いてしまった。






「………おい、御剣。これは一体なんなんだ。」

「見て判らないのか?婚姻届に決まっているだろう!」

「それは判ってる!僕が聞きたいのは夫の記入欄をお前が全て
記入済みのこれをなんで僕に渡すかってことだ!!」

「フッ。鈍いな、成歩堂。プロポーズに決まっているではないか。」

「待った!現行の法律では同姓同士の婚姻は認められていない!
よって、この婚姻届は無効だ!!」

「異議あり、その情報は古いぞ!今期の国会にて現行の婚姻制度
が見直されるということを知らないのか?弁護士ともあろう者が!」

「……。おい、御剣、それは誰に聞いた。」

「冥からだ。アイツもたまにはいいことを教えてくれるものだ。」




どこかうっとりとした表情で嬉しそうに語る御剣を見ながら、脳裏
にふと、あることが過ぎった。




「…御剣、今日が一体何の日だか知ってるか。」

「4月1日だがそれがどうかしたか?」



………。

………………。

………………………この男は本気だろうか、本気で気付いてい
ないのだろうか。(中身はどうあれ)検事局始まって以来の天才と
謳われている男がまさか!いや、むしろこの男だからこそありえ
るのだろうか。














成歩堂龍一・26歳、弁護士。

この日、生まれて初めて「四月馬鹿」の名にもっとも相応しい男を
知った。









その後、婚姻届が役所で受理されたかどうかは定かではない。

ちなみにエンゲージ・リングは成歩堂法律事務所の近くの質屋の
ショーケースを飾っていたとかいないとか。

…つまりはそういうことだ。









END