ボンゴレファミリー9代目の弱点で後継者。 9代目の血筋ではないものの、初代ボンゴレ大空の血を引く、間違いないボンゴレの直系。 事前にもたらされた情報はたったそれだけ。数少ない情報に嘘偽りはない。 だがしかし。 目の前に現われた時期ボンゴレ、目下10代目最有力候補にリボーンは固まっていた。ボンゴレの誇る一流ヒットマンであるあの「リボーン」が、である。 滅多に見られるものではない。 が、それも致し方ないことであるかもしれない。 だらしなく目尻を下げまくった9代目に伴われて現われたのはおよそ、マフィアとはかけ離れた。 可愛いという言葉がぴたりと当てはまる、年端もいかない少女だった(それでもリボーンより二つ三つ年上であることはわかったけれど) 東洋人の持つ象牙色の肌はつやつやのぷくぷくで緊張のためか頬は仄かに赤く染まっている。日に透けると金色に変化するだろう蜂蜜ブロンドの髪はさらさらでふわふわ。髪の色とよく似た色合いに見えるハシバミ色の瞳はこぼれそうなほどに大きくて真っすぐにリボーンを見つめている。 「…何の冗談だ。ジジィ」 「冗談ではない、ツナヨシ・サワダ、この子が10代目だ。護衛と家庭教師は任せたぞ、リボーン」 純粋な悪意 ボンゴレ10代目のお披露目兼バースディパーティー。 イタリアどころか世界中からその筋の人間たちが集まる盛大なもので、それ故に会場となるボンゴレの別邸はいつにない厳戒態勢がとられている。 本日の主役の身辺など特に、だ。 別邸の中心部、側近たちが周囲を固めた私室でボンゴレ10代目となる少女は家庭教師である年下の少年の前に座らされてくどくどと説教を受けていた。 「抜け出すのが無理だなんてそんなこと言われなくたってわかってるだろーが。何考えてやがる」 呆れてものも言えねぇぜ、と目の前の生徒の額を軽く弾く。 綱吉が身に纏った淡い桜色の生地は軽く、たったそれだけの衝撃でもふわりと揺れた。腰元は膨らみ緩やかなラインを描いていて、細かなレースは一目で手の込んだものだとわかる。胸元で揺れるガーベラを模したコサージュはパールとレースリボンがあしらわれていて可憐な印象を与える、とても可愛らしいドレスだった。 華美なものより動きやすいシンプルなものを好む綱吉ではなく孫馬鹿丸出しのドンが選んだろうことは一目瞭然だったけれど、綱吉によく似合っていた。 「…」 「今更厭だなんて無茶は通らねぇぞ」 「…」 「ツナ」 「わかってるよ、でも…」 「でも?」 「雲雀さんに逢いたかったんだ」 くしゃりと顔を歪めて切なげに呟かれた台詞。 俯いたままの綱吉には目に入らなかったけれど、綱吉の呟きを聞いた瞬間リボーンの瞳はひどく冷たいものとなっていた。 「お披露目が済んだらきっと今まで以上に逢えなくなる」 だから一目だけでも。 そう切なげに訴える綱吉は出来の悪い生徒でもボンゴレ10代目でもない、ただの少女だった。 ただ恋する、少女だった。 雲の守護者として現れた雲雀恭弥への甘く、切なさを持ち合わせた淡い想いは幼い、けれど確かな恋だった。 綱吉をボンゴレとして扱わない雲雀の存在は新鮮で、どんなときでも己の信条を揺るがすことのない彼は眩しくて、尊敬が思慕へと変わるのはあっという間だった。 ひっそりと胸の内に息づいた想いは口にすることなく、静かに募っていった。 大空が守護者の一人に抱くこの想いを知られるわけにはいかない。その危険性を綱吉は正しく理解していたからこそ、うまく隠してきた自信があった。 …ただ目の前の家庭教師である少年には気付かれていたのだけれど。 「リボーン、お願いだから」 見逃してほしいのだと、泣きそうになりながら肩に縋って懇願する。 「俺がお前に惚れてるって知っててそれを言うのか」 ひどい女だ、と擦れた声で呟く。 ひどいことをしている。 そんなこと言われなくてもわかっていたけれど、それでも。 「俺が逆上してアイツを殺すかもしれないって考えなかったのか」 そうしようと思えば実行できるだけの力がリボーンにはあった。 「そんなこと考えたことなかった」 「アイツは俺に勝てるほど強いってか」 「だってリボーンは俺が本気で泣くようなことしないだろ?」 曇りなく、そうだろうと真っすぐに視線をぶつけてくる少女にリボーンは眩暈がした。 綱吉の言うことは紛れもない事実。 綱吉が本気で泣いてしまうことを、心底この少女に惚れ抜いている自分が出来るはずがないということを、誰より自分自身が嫌と言うほどわかっているのだ。 「お前は…ひどい女だ」 それは綱吉の願いに対する是という答えで、その答えを聞いた瞬間。 綱吉は笑った。 花が綻ぶような綺麗な、綺麗な笑顔で。 そしてその笑顔を向けられているのはたった一人。 「ありがとうリボーン。だいすき」 己の想いに正直な少女は、どこまでも残酷でどこまでも可愛らしいどこまでも純粋な。 そうして自分は誰より愛しい少女の願いを叶える為に、誰より憎くて堪らないあの男の元へ。 |