しゅうちゃんしゅうちゃんしゅうちゃん




繰り返し名前を呼んで後ろをついてまわる。
手を差し伸べてやれば、嬉しそうに、ほわほわした顔で笑う。
そんな廉を見るのが好きだった。
斜め向かいに住んでる同級生のイトコ。
たまにしか会えないけれど、ほわほわした笑顔だとか、俺と同じように投げるのが好きなところとか、修ちゃんと俺を呼ぶ高い声だとか、意外と意地っ張りで頑固なところとか。

大好きな友達。

それが変わったのいつだったんだろう。

俺が、廉へ向ける感情が「そういうもの」なんだと気付いたとき、なんだか妙に納得してしまったのを覚えてる。


廉は俺にとって何よりも特別で大切、きっと、ずっとこの気持ちは変わらないもので。同性の友達に向けるには重すぎる感情がそうなのだと認めてしまえばすごくすっきりした。



特別で、大切で、一番で。
だから、俺のことも同じように。
廉にとって特別で、大切で、一番に思ってほしかった。

俺の大好きな笑顔で、ずっとずっと側にいてほしかった。
笑って、側にいてやりたかった。

廉は、笑わなくなった。

廉の笑顔が大好きなのに、廉が本当に好きなのに。
なのに、廉は笑わなくなった。

いつだって泣きだしそうな、悲しそうな顔で下を向いて、視線が合わなくなった。
そして、俺の名を呼ばなくなった。

しゅうちゃん、と。
廉にそう呼ばれるのが好きだった。
舌足らずに呼ばれるのはこそばゆくて、だけどぽかぽかした気分になって。俺が廉、と呼んでやればへらっと笑って「しゅうちゃん」と返してくれたのに。

なのに。

視線を合わせずに、俯いたまま。

「叶くん」

と、言う。
俺が何を言っても、廉が俺の名を呼ぶことはなくなった。
俺は、俺だけは廉の味方なんだと、頼りにされていると思っていた。けれど、それはただの独りよがりだったんだと気付いたときに、俺も廉の名を呼ばなくなった。

そうして気付けば俺達の間にはどうしようもない溝ができていた。
埋めたくても埋められない溝が、できていた。

溝を、埋めたかった。
埋めたくて、必死だった。

けれど、どうすればいいのかわからなかった。
必死で足掻いて、けれど苦しくなるだけで。
結局俺は、溝を埋めることができなかった。

溝を埋めて、昔のような関係になりたかった。
廉と、名前で呼んで。
修ちゃんと、名前で呼ばれたかった。
笑って、隣に立ちたかった。

廉が泣いたら慰めて、そうして泣きやんだその先にあるはずの廉の笑顔を見たかった。

廉の笑顔を取り戻したかった。
廉を、取り戻したかったんだ。



俺が、取り戻したかった。


今はもう、叶わない望みだけれど。




廉が好きだった。
子供の頃からずっと変わらない、大切な、大好きな。
廉の笑顔が好きだった。
ずっと一緒にいてほしかった。




けれど、それはもう叶わない。
廉は、もういない。




思い出すのは最後に二人で会った雪の日に見た廉の涙。


廉が立ち去った後に堪え切れなかった、俺の涙。