謝ってほしいわけじゃない、ただもっと自分の価値を知ってほしかった。 努力を。才能を。
その結果に身についたものの価値を、自分の存在意義を、もっともっと知ってほしかった。

「おれなんかっ、おれ…なん、かっ」

目も合わせずにひたすら謝罪を繰り返して、自分で自分を傷付ける。
ただひたすらに。
そうして廉にはもう、俺の言葉さえ届かない。







えがおときみと、なみだ








西浦の初戦以降、ちょこちょことメールをかわすようになった。
練習のこと、夏の大会のこと、学校でのこと。互いに毎日の練習でくたくたに疲れているからそう頻繁にするわけではないけれど、それでも少なくとも日に一通は送りあっている。
今までの距離感を考えれば、たったそれだけでも大した進歩だ。
昔みたいに名前で呼びあえるようになった。
それだけのことがなんだか、たまらなく嬉しかった。



道を分かつと知ったあの日。

いやもっと、それ以前から。
廉が俺の名前を呼ばなくなった日にはもう。
廉に、俺の言葉は届かなくなっていた。
俺が何を言っても、どんなに廉のことを認めても廉には届かなかった。
廉は、俺のことすら信じていなかったから。


けれど今は違う。


俺のいないところで俺ではない奴の言葉で、けれど確かに廉は自分自身の力を信じられるようになった。
自分の力を信じて、認めて、笑顔で野球をやれるようになっていて、廉が笑っているのだと思うとたまらなく嬉しかった。
…そして、廉の力になってやれなかった自分が悔しかった。
廉の力になってやれるのは自分だけだ、なんて。本気で思ってた。
…結局そんなのはただの思い上がりでしかなかったけど。

廉を救ったのは俺じゃない。俺は廉が求めていたものを与えてやれなかったのだ。
三星を去ると言われたあの日。
何を言っても引き止めることの出来なかった俺には与えてやれなかったものを、西浦で見つけたんだ。
そうして前を見ることができるようになって、俺の言葉も届くようになった。 俺ではない誰かが廉の隣に立って、俺ではない誰かが廉を励ましている。
俺には決して出来なかったことを俺ではない誰かが簡単に。

そう思うとどうしようもない飢餓にも似た焦燥感に襲われて、体の中を駆け巡るような錯覚を覚える。
ああ、けれど。
きっとこんな感情を持つことすら俺には許されないんだろう。
廉を救うことすら、言葉すら届かなかった俺にはきっと。





自信を持ってほしかった、自分自身の存在意義を、存在価値を知ってほしかった。
弛みない努力の果てに得た尊いものの価値をきちんと知ってほしかった。
他の誰でもない、俺のことだけは信じていてほしかった。

俺のことだけは、信じてほしかった。
俺の前でだけは泣いてほしくなかった、笑っていてほしかった。
今更、全てはただの後悔でしかないのだけれど。



俺の前でだけは。
俺のことだけは。