キスしていい?








「なぁ、キスしていい?」




野球雑誌を夢中で眺めている廉にふいに問いかけると、廉はこれ以上はないというくらいに真っ赤な顔をして、読みかけだったはずの雑誌をバサリと落としてしまった。


「う、え、えええ?」


言われた当人は顔どころか、首まで真っ赤にそめてうろたえて言葉にならない。


「キス、してい?」


「え、しゅ、修ちゃん…?」


どうして?


と聞きたげな目。


「したいって思ったから、廉はオレとすんのいや?」


首を傾げて、わざと廉が断れないような聞き方をする。

こんな自分をずるいなぁと思わないでもないけれど。

でもしたいと思うのだから仕方ない。


返答に困って、真っ赤な顔で黙り込んでしまった廉のすぐ横に腰を下ろしてじっと見詰めると廉は困ったようにふらふらと視線を泳がせて目を合わせようとしない。


きっと本当にどうしていいか判らなくて困ってるんだ。


でも、したいと思ったんだから仕方ない。


「廉?な、目ぇ瞑って。」

「しゅ、ちゃ…」

「れーん?」


涙目の廉が可愛くて、やっぱりどうしてもキスしたいなぁと思って。

小さな子供をあやすように名前を呼んで、目の前の廉に手を伸ばした。


後頭部に手を回して、ゆっくりと引き寄せる。


反対側の手でぎゅっと硬く握り締めている廉の手を握って。




キスをした。





触れた唇は思ったよりも温かくて、柔らかかった。

額にかかる髪の毛からは風呂上りのせいか石鹸の匂いがして、妙にドキドキする。

赤くなった首筋は色が元々色白な分、余計に赤く染まっているように見えて妙に艶かしい。


このまま深く唇を貪ってしまいたい衝動に駆られたけれど、そんなことをしたらきっと廉は本当に泣き出してしまうだろうなぁとぼんやりと考えて我慢をする。

充分に柔らかな唇の感触を味わってから、ゆっくり離れて最後にぺろりと廉の唇を舐め上げた。

唇を離して廉を見ると、真っ赤になったまま硬直している。

多分、キスするのは初めてだったせいもあるんだろうけれど。まぁ、それはオレも同じだけど。


初々しい反応を見せる廉が可愛いなぁと思う。
愛しい、っていう感情はこんな気持ちなのかもしれないとも思う。

そこまで考えて思わず笑いが零れる。






キスしてから気付くなんて、バカみたいだ。






オレは廉が好きなんだ。


多分廉には嫌われてなんていないと思う。キスをしても恥ずかしがってはいるものの、嫌悪されたりはしていないとも思う。


それはオレの自惚れなんかじゃなく。



…でも、ここまでしといてまだ気付かない廉が腹立たしいと思わなくもない。





だから。





「なぁ、廉。もっかいキスしていい?」







伝えるよりも先に。






もう一度キスしよう。