すこし前までできたこと 唇を重ねるのは大抵は叶からだった。 初めてのキスはいつだったか定かではない。 けれど幼い頃から、好きだという気持ちを最大限に表現するために唇を重ねるのは二人にとって、極自然なことだった。 一番好き、一番大切。 それはどちらにとっても同じことで。 その気持ちを伝えるのに言葉だけでは、とても足りなくて。 触れる唇は温かくて、柔らかく。そしてどこか甘い気がしていた。 それは己のものとはまったく違っていて、吸い付くような感触は気持ちよくて叶を夢中にさせるに十分だった。 廉のことが好きだ、それはずっと昔から変わらないまっすぐな気持ち。 近所に住む同級生の従姉妹で、長期休みになるとやってくる女の子。 初めて見たときは驚いた、世の中こんな女の子もいるのかと。 廉はそれまで叶の周りにいたどんな女の子とも違っていた。 同級生の女の子はガキ大将の叶のことを毛嫌いしていて、叶もそんな彼女たちのことを細かいことばかりに文句をつけてきてうるさい、そう思っていた。 女の子なんてすぐ泣くし、そのくせうるさい。 そんな風に。 けれど、廉はそんな叶の固定観念をあっさりと打ち砕いた。 潤んだ大きな目、白い肌に、ふわふわの栗色の髪の毛、透き通るような高い声で優しく修ちゃんと呼ぶ。 初恋だった。 そして廉も叶のことを大好きだと言ってくれて、嬉しくて。 両想いだね、なんて照れくさそうに笑って手を繋いで。 大好きで、大好きで、好きだと言葉にするだけではとても足りなくてキスをする。 そのキスを廉が拒むようになったのは中学に入ってから。 誰かに何かを言われたのだと思った、そうでなければ廉がそんなことを言うはずがないそう思って。 気にするな。 そう言って、昔と同じように唇を重ねた。 廉が好きだと思ったからこそ、昔と変わらずに。否、昔よりも尚深く。 廉が本当に拒むなんて思ってなかった。 気持ちは変わらない、ずっと変わらないとそう信じていたから。 けれど、涙を零して嫌だと言った。 付き合っているわけでもないのにキスをするのはおかしい。 もう嫌だ。 『かのうくん』 そう言いながら、大好きな廉が、大好きな声で。 『かのうくん』 どうしてそんなことを言うのか理解出来なかった。 廉のことが好きだった、昔からずっと。 だからもう付き合っているのも同然だと思っていた。 確かな言葉にしたことはなかったけれど、きっと廉も同じ気持ちでいてくれていると信じていた。 けれど。 少し前まではその唇に触れるのは叶にとって、当然のことで。 極自然なことだったのに。 もう触れることは叶わない。 そうして廉が叶の傍からいなくなったのはそれからすぐ後のこと。 中学卒業後の春休みだった。 |