逢瀬







「あきまる、さん」





少し舌足らずな口調で三橋くんは控えめに僕の名を呼ぶ。

その声を聞くが好きだ。

もちろん、好きなのは声だけじゃないけれど。

呼び声は特別。















毎日、練習が終わってから時間を見計らって電話をかける。
毎日同じ時間帯、九時半を少し過ぎたころ。

携帯の発信履歴の一番上を確認し、リダイヤルボタンを押す。

いつも大体4コール目が鳴り終わるか終わらないかのタイミングで。

「もしも、しっ!」

弾んだ、勢いよい三橋くんの声が聞こえる。

「練習は終わった?」

「は、はいっ!今帰り道、です。」

いつも交わす言葉は大体同じ。

練習のこと、学校でのこと、今日はアレをしたコレをしたとか。まぁ、そんなこと。

毎日毎日、繰り返し電話をして話をする。

電話越しの三橋くんは毎日色んなことを僕に伝えようとして精一杯、一生懸命に言葉を紡ぐ。

三橋くんの話を理解するにはちょっと時間がかかるけれど、誰でもない僕に一生懸命に伝えようとしてくれるその様子が可愛くて、嬉しくて、僕は話を聞く。

「あき、まるさんっ」

「うん」

でも何よりも、三橋くんが舌足らずに僕の名前を呼ぶ声を聞くのが好きだ。

学校はそう遠くないから、逢おうと思えばいつでも逢える距離だけど。部活で疲れた身体はそう言う事を聞いてくれなくて。それは三橋くんも同じで。

だから、めったに逢うことなんて出来なくて。

だから、電話越しの短い会話が僕たちの大切な逢瀬の時間になる。

とっても短い、逢瀬。

毎日繰り返される、部活が終わってからの僅かな時間。



電話越しの三橋くんの声は直接聞く声とは少し違って聞こえて、少し興奮気味のその声は触れ合うときの声に少し似てて。

最後に逢ったときの三橋くんを思い出して自然と頬が緩んできて締まりのない顔になってしまうのは三橋くんには絶対に内緒。



















電話越しの君の声に想いを寄せて。

月明かりの下。

今日も僕らは逢瀬を重ねる。