まっすぐに純粋に。 いつだって、一生懸命に。 いつだって、まっすぐに。 ただ、ひたすらに。 そんなお前が好きだった。 そんなお前が眩しくて、…嫉ましかった。 たいせつなもの 「ホントむかつくぜ、三橋のヤツ」 「今日の試合だって、アイツのせいで負けたし」 「俺等、アイツが贔屓に胡坐かいてる限り勝てねぇぜ」 「ホントだよ、結局俺等三年間負け越しじゃねぇか」 練習試合を終えた更衣室で交わされる三橋に対する中傷はいつものことで、叶が何度三橋を庇ってもそれは何度も繰り返されて、いつしか三橋は皆と一緒に着替えることをしなくなった。 叶はそんな三橋を無理に更衣室へ連れて行く真似はしなかった。 連れて行ったところで、一番傷付くのは三橋だと判っていたから。 「叶もよく我慢してるよな、オレだったらとっくに辞めてるぜ」 チームメイトの一人がそう言って叶に話題を振ったけれど、叶はそれを無視して三橋のバッグを持ち出口へと向かった。 「お疲れ」 無表情にそれだけ言って、後ろから尚も声を掛けようとしてきたチームメイトたちを無言で拒否し、ドアを閉めた。 更衣室を出て、まっすぐ校舎裏へ向かった。 いつから三橋は、部活や負けた試合の後校舎裏の植え込みの影でひっそりと部室から人気がなくなるのを待ってから着替えるようになった。 無理もない、部室では何も判っていない連中が悪し様に三橋を罵る。三橋はそれに言い返したりすることなどないけれど、それでも投げつけられる悪意ある言葉の数々に傷付かないわけではない。誰よりも傷付きやすくて、誰よりも優しい三橋。 着替えを終えた後に、そんな三橋を迎えに行く。それがいつの間にか当たり前になっていた。 校舎裏の目立たない、見つけにくい植え込みの影で三橋は膝を抱え込んで座り込んでいた。 「廉、バッグ持ってきた」 叶がそう声を掛けると三橋はびくりと大きく身体を揺らしてそっと顔を上げた。 泣いていたのか目が赤くなっていた。 「しゅ、ちゃ…」 「もうここで着替えちゃえ、早く帰ろう」 「ご、ごめ…っお、オレ…」 「なんで廉が謝るんだよ、謝るな。早く着替えちゃえよ」 三橋は試合に負けた後にこうして、叶に迎えに来られるたびに泣きながら謝った。 いくら叶が謝るなと言っても力なくかぶりを振って消え入りそうな小さな声で謝った。 何で謝るのか、負けたことをなのか、それとも一番を独占していることをなのか。 その真意を叶には図りかねて、それは叶の心に小さく影を落とす。 嫉まなかった、悔しくないと言えばそれは嘘だ。 三橋が先輩を差し置いてエースになり、三年間その座は誰にも譲られることなく一番は三橋のものだった。 悔しくなかったわけじゃない。 三橋が投げることを誰にも譲れないくらいに好きだというのを同じくらいに叶も投げることが好きだった。 三橋のコントロールには絶対敵わない、そう思ってもコントロール以外で努力をすれば。そう思って努力を重ねてきた。 けれど、エースの座は三年間三橋のもので。 悔しくなかったわけじゃない。 叶は三年間、スタンドで応援するために必死で練習してきたわけじゃない。 今日の練習試合は三年生にとって最後の試合だった。 そして、叶にとって最後のチャンスだった。…結局マウンドに立つことは敵わなかったけれど。 眩しかった。 ずっと焦がれてた、三橋の立つその場所を。 「ごめ、なさい…っごめんなさい修ちゃん…」 「謝るな」 「だって…っ」 「謝るなよっ!これ以上オレを惨めにするなっ!!」 無意識だった。 初めて、三橋を怒鳴りつけた。 「っぁ…お、れ…」 言ってしまった後に、一番驚いたのは誰より叶自身で呆然とした。三橋は叶の声に肩を揺らし、一瞬泣きそうに顔を歪めて俯き小さな声でもう一度謝った。 「ごめんなさい叶君」 それだけ言うと、バッグだけを持ちその場から駆け出した。 傷付けた。 傷付けてしまった。 きっと、きっともう廉はオレのことを許してくれない。 ぐらぐらとした思考の中で、それだけがはっきりと判った。 『叶君』 三橋は叶のことをそう呼んだ。 『修ちゃん』 そう呼んで笑いかけてくれることはもうないのだろう。はっきりとそう思った。 まっすぐに純粋に。 いつだって、一生懸命に。 いつだって、まっすぐに。 ただ、ひたすらに。 そんなお前が好きだった。 そんなお前が眩しくて、…嫉ましかった。 中学最後の試合の日。 その日、オレがなくしたのは何よりも大切だったもの。 何よりも好きだったもの。 |