昔から廉はアタシの宝物だった。










my only treasure












「三橋!」

久しぶりに部活に顔を出して、いつもの下校時間よりも遅目に校舎を出たら校門に見慣れた人影が立っていた。

誰かと訝しむ間もなく、それが叶だと判ったがルリはわざと気付かぬふりをしようとしたけれど向こうから呼び止められて仕方なしに向き合う。

「…なによ」

周りを歩く他の女生徒たちは女子部でも人気のある叶の思わぬ来訪に頬を紅潮させてひそひそと嬉しそうに囁き合っていたけれど、ルリにとって叶は今、一番会いたくない人物だった。

「廉が…、廉が埼玉に帰ったって本当なのか!?」

今にも掴み掛かってきそうな勢いでルリに問いただす。その顔には今まで見たこともないような焦りの表情が滲んでいたけれど、今のルリには逆にそんな叶の様子が何より腹立たしかった。

「っだからどうしたってゆうのよ!?廉が三星にいられなくなったのはアンタのせいじゃない!」

いくら男子部と女子部に別れているとはいえ、ルリは廉が置かれていた状況を知らないわけではなかった。

噂は女子部にまで聞こえてきたし、帰宅したあとに家の庭で一人泣きながらピッチング練習をしている廉を見たのは一度や二度ではなかった。

そのたびに廉に「アタシが一言ガツンと言ってあげる!」と言うのを廉は、傷付きながらそれでも優しく笑って。



「皆が悪いんじゃないから」

「修ちゃんがいるから一人じゃないよ」



そう言って、だから。だからルリは涙を流す廉に何も出来ず傍で見てるしか出来なかった。それはとても悔しかったけれど、それでも廉が笑うからルリは見てるしか出来なかった。

きっと叶が廉を助けてくれる。

そう信じながら。

それなのに。







「廉が何したっていうのよ!廉がどれだけ努力してたか、どれだけ傷付いてたか…っ!」

今まで言いたくて言えなかった言葉を叶に投げ付ける。もう、それを諫めて止める廉は―――いない。

「アンタのせいよ、叶!アンタは廉を守ってあげなきゃいけなかったのに!なのにっ、アンタは何にもしないでアイツらと一緒に廉のこと追い出したのよっ!」

泣きながら、口から次々に飛び出るのは心からの叫び。

これは、八つ当たりだ。判ってる。

本当は廉から聞いていた。叶だけは傍にいてくれるのだと。

これは、ただの八つ当たりだ。













廉が、自分のことを支えには思ってくれなかったこと。実際に支えになっていたのは今目の前で、自分勝手なルリの怒りを真正面から逃げることなく受け止めているこの男だったことに対する、八つ当たり。

「絶対、許さないから!アンタのこと!!」






八つ当たりだって判っていても。

抑えきれない。

大切な、大切な廉。アタシの大切な宝物。

優しくて、強くて、泣き虫で。

ずっと一緒にいた。

アタシと廉と叶と。






叶、アタシはアンタになりたかった。

アタシの大切な廉に一番信頼されて、一番近くにいられる…アタシなんかよりずっと近い場所に。

叶なら仕方ないって思ってた。廉の一番は叶なのは変わらないって知ってたから。

叶なら、仕方ないと思ってた。

―――けど、結局廉は。










こんなのは八つ当たりだ、判ってる。だけど。



「許さないからっ!」



頭で判っていても感情が、追いつかない。

許せない、許せない、許せない。










廉はアタシの宝物。

大切な、大切な。

傷付けるのは、泣かせるのは、絶対に許せない。

―――違う、本当に許せないのは。




廉の力になってあげられない自分。

廉の支えになれなかった自分自身。






「廉はあんなにアンタのこと信じてたのに…っ」

アタシは信じてもらえなかった。

「アンタがいるから平気だって言ってたのに…っ」

アタシがいるから平気だなんて廉は一度も言わなかった。

「それなのにアンタはどうして廉のこと見捨てられるのよ?!」

アタシがどんなに望んでも手に入れられないものを、アンタは最初から持ってるのに。








それなのに、それなのに。

こんなの、絶対に。




「許さないからっ」