ベクトル













思いがけない阿倍の告白から数日。


あの日以来、阿部は三橋になにかをしようなどという素振りは見せなかった。今まで通りに変わらない態度で。






けれど、たった一つ。


変わったことがあった。

部活を終えて、二人きりになる帰り道。

何気ない仕草で阿部は三橋の手を握る。ふんわりと、何気ない仕草で優しく。そしてそのまま、別れるまで繋がれたままの掌。

つないだ手を話していいのか判らなくて、恥ずかしくて。

そんなときの阿部が切なくて、苦しくて。

手を、離すことが出来ない。

阿倍が、とても優しい顔でいるから。阿倍の気持ちが痛いほどに切なく手からじんわりと伝わってきて、どうしていいのか判らない。

阿部の、三橋に向ける優しさが苦しい。








最初に繋がれた手は、冷たい指先だった。

突然ひんやりとした感触に包まれてとにかく驚いた。繋いだ手から微かに伝わる阿部の鼓動がくすぐったくて手を離そうとしたけれど、阿部は手を繋ぐだけでそれ以上のことは決してしてこなくて、タイミングを逃してしまった。

タイミングを逃してそのままに、その日から阿部は二人になると必ず手を繋いできた。

初めは冷たかった指先が徐々に暖かく、熱くなっていってそれはそのまま阿部の気持ちのようで。

三橋は伝わってくる体温がただただ痛かった。

こんな風に強く、激しく、そして優しく想いを寄せてくれる人はきっと自分にはもう何人もいないだろう。だから、阿部の想いが。

阿部の想いに応えられないことがどうしようもなく哀しくて痛かった。

それなのに、阿部はそれでもいいと言うような優しさで三橋を包み込んでくれる。

繋いだ手を簡単に離すことが出来たらこんなに苦しくはないのに。

バッテリーとして、友達として阿部がかけがえのない存在でなかったらこんなに苦しくはないのに。

阿部の想いに応えることが出来ない事実と、阿部の想いが重くて苦しくて、息苦しさは日々募る。




暖かい、阿部の掌。


こんなに優しく暖かい人の切ない想いを、応えることが出来ない自分に苛立つ。


けれど、三橋のベクトルは唯一人の人へと向かって。


そのベクトルは決して反れることなく。

一点へ向かって。







けれど。

自分から離すことが出来ない、暖かい手。

このままでいたらきっと、流される。

楽な方へ、楽な方へと。

想うよりも、想われる方が楽だから。

想いを寄せてくれる人を決して嫌うことが出来ないから。






もう、どうしたらいいのか判らない。


息苦しい。


楽になりたい。






だけど。












想いの方向はただ、一点。