今宵、月明かりの下で

















「た、ただいまー…」

そろそろと玄関の扉を開けて家の中に入るなり。

「レンレンっお帰り!」

同い年の従姉妹に抱きつかれた。衝撃で後ろに倒れそうになったのをなんとか堪えて、けれどぷるぷると震えていたら叶が助け舟を出してくれた。

「三橋、廉が困ってんだろ」

「なによ!叶には関係ないでしょっ」

叶の声言葉に文句を言いつつも、やっと抱きついたままでいた廉から離れる。口論に発展しそうな二人におろおろとしつつも、解放されたことにほっと一息つき荷物を部屋に置きに自分の部屋へと向かう。

修ちゃんとルリが逢いに来てくれた。

のろのろと動きながら、その事実がとても。とても嬉しかった。





もそもそと着替えて階下に下りると既に夕飯の支度が出来ていた。いつもよりも豪華な料理の数々。どうやら母親も叶とルリがわざわざ廉に逢いに来てくれたということが嬉しいらしい。

「レンレン、ほらここ!」

嬉しそうなルリに促されるままにルリの横に座る。向かい側にはにっこりと優しく笑う叶。

こんな風に、三人揃って食卓を囲むのは子供のとき以来で、このほんわかとした雰囲気がとても嬉しい。

いつもは母と二人きりの食卓がこんなに賑やかなのも久しぶりで、とても楽しい食事だった。

会話の端々に叶への敵愾心を剥き出しにしているルリも、そんなルリを軽くあしらうように廉へと構う叶も。

何もかもが昔通りで、楽しくて懐かしい。











賑やかな食事を終え、順番に風呂に入り、三人近況を話したり、昔話をしたり。

気が付けば夜もすっかり更けて、廉の母親がいい加減に寝なさいと声を掛けた。

―――そこで問題が勃発した。





「レンレン、一緒に寝よう!」

「オレ、布団廉の部屋でいいから」




ほぼ同時に二人に話しかけられた廉は困って「あ」とか「う」とか声にならない音を発するのみ。

二人はそんな廉の様子など完璧に無視で喧々囂々と口論を始める。

「お客様は大人しく客間で寝たら?」

「お前こそ、女は別部屋に決まってるだろ」

「アタシが別だってゆうんならアンタも同じよ!」

「オレは廉の部屋に寝るんだ」

どんどん激しさを増すばかりの二人の口論を止めることなど廉には出来なくてただおろおろとするばかり。すっかり困り果てていると母親がひょっこりと顔を出した。




「布団、客間に三つ敷いたからね〜」




今までの口論はなんだったのかとばかりに、その一言で問題は解決した。…年頃の男女三人が並んで寝るというのは多少、いやかなり問題があるとは思うけれど。








そんなこんなで本当に子供の頃のように、三人川の字で枕を並べた。

真ん中には廉、右側にはルリ、左側には叶。

眠る前に並び順決めでまた、二人が揉めたけれど。



部屋の電気を落として、窓から入る月明かりだけの暗い室内。廉は中々眠りつくことが出来ずにいた。

疲れてはいるけれど、寝付けない。

寝なければと思えば思うほど目は冴えてしまって、どうすることも出来ずにいた。

二人を起こすわけにはいかないと布団の中で身動き一つせずにいると、

「廉」

小さな声で名を呼ばれた。ふいに呼ばれて、必要以上にどきりとし横を向くとにっこりと笑った叶がちょいちょいと手招きした。

「う、え、っえ?」

「寝れないんだろ?ちょっと外、出ようぜ」

そう言って、廉の手を引いて隣ですやすやと眠るルリを起こさないようにゆっくりと静かに外へと出た。


夜の散歩。

こんな時間に外に出ていることはあまりなく、どきどきと変な緊張感が走る。





「廉、昔みたいだな」

「う、うん」

「三橋にくっついてきちゃってごめんな、びっくりしたろ?」

「う、ううん!うれし、かったよっ!」

「どうしても、廉に逢いたかったんだ…」

「お、オレもあ、逢いたかったっ!」

「ホントに?」

「う、うん!」




にっこりと笑って、互いに見つめ合う。

叶はじっと廉を見つめて、廉はそれが気恥ずかしくて顔が赤くなっていく。

目を逸らしてしまいたいけれど、ふと逸らすのは変な気がして困りながらも、見つめ合ったまま。


どうしよう、どうしようとそればかりが廉の頭の中をぐるぐる回る。

ふと、ゆらりと眼前が暗くなった。

「しゅうちゃ…」

「廉」





ちゅっと、軽く音を立てて口付けられた。

啄ばむような、優しい口付けを何度も何度も繰り返し。




突然の出来事に頭が真っ白になる。

驚いて、きゅっと目を瞑って躰を硬くさせる。

叶は優しく、繰り返し廉の唇に口付けを落として最後に額に口付けて、そっと唇を離した。





廉の顔は暗がりでもはっきりと判るほどに赤く蒸気して、今にも泣きそうな表情だ。

「しゅ、ちゃ…?」

「好きだよ、廉が」

「ふぇ…?」

「逢いたかった、好きだよ廉」














突然の告白と、キスと、叶の笑顔と、全てがぐるぐると廉の頭の中を回りこれ以上何も考えられない。

判ってるのは、叶と逢えて嬉しいということ。

キスが嫌ではなかったこと。







けれどそれ以上のことは、ぐるぐるぐるぐるとして何も。

何も考えられない。